The Problem Hunter   作:男と女座

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主人公メンバー、最後のキャラクターの登場です。

本編中にもあるように、それだと短いのでクエストにも行きます。

では、本編をどうぞ!

タイトルの元ネタがホラーでも、別にホラー要素はゼロです




第9話 仄暗い水の底へ

いざユクモ村から出発したのは良いものの、結局の所は飛行船の故障でドンドルマに到着するのに5日もかかった。オトモのリリーに言われた通り、本格的な修理か新品でも買うべき時が来たのかもしれない。

とにかく無事にたどり着けたのは良かった。あとは露骨にめんどくさがる弥生を連れて、ギルド所有の大きな木造りの建物に入った。

 

 

いくつもの扉が並ぶ長い廊下を歩き、ある扉の前に俺達は止まった。俺は扉をノックすると数秒後、「どうぞ。」と中から聞こえたので中へ入った。

部屋は個室の事務所、と言うには十二分に大きい。ギルド勤務の優遇さが分かる。その仕事に就いているのが俺達の猟団長フリューゲル。猟団長と言っても俺達と同じハンターではなく、言うなれば雇い主と言ったところだろう。

 

 

「歓迎するよ。でーも日数掛かり過ぎじゃないか?」

 

「飛行船に文句言ってくれ。それに俺達はギルドじゃ歓迎されないだろうが。」

 

フリューゲルは「そう言うなよ。」と笑いながら偉そうな椅子に座り、俺達も椅子に座るように促した。

 

 

「ギルドの仕事としての召集か?」

 

「いいや。定期的な集合を早めたと思ってくれていい。

猟団長でギルド勤めにとって、問題あるハンターの管理は大切だから。」

 

 

ハンターは常に人手不足。優秀なギルドナイトは狩猟技術に加え、人格も考慮される。だが俺達の様な、──自分で言うのも難だが──実力はあるが問題アリのハンターを無下にする程、余裕が無いのが実状。そこでフリューゲルが管理すると言う提案で、今の上司と部下な関係が築かれた。ギルドでも特に困難とされるクエストを行う専門のハンターとして。

 

 

「フリューゲルだって問題アリと言えばアリでしょう?」

 

「えぇえ?その話まだ言う?」

 

 

弥生はニヤケ顔で嫌がるフリューゲルの昔話を話し始めた。俺もモンタナも別に嫌ではないので、止めもしないが。

 

 

「極秘のアカムトルム討伐で、地元民に嘘の避難説明会。その時にさらっと「アカムが出たんです。」って言ったのは誰かしら?」

 

「ぼ、僕です。憧れのギルド職がクビになりかけました。」

 

「まぁ良いじゃないか。俺達がこうなる形でライセンス剥奪されなかったのは、フリューゲルのミスのおかげなんだからな。」

 

「小生も感謝してるぞ?そのミスには!」

 

「もういいって!

 とりあえず、この猟団名簿にサインしてくれ。」

 

 

俺は頷きながらペンを取り、書類にサインを書き始めた。書類には俺、弥生、モンタナのギルドからの制約が書かれている。制約は次の通り。

 

 

『ビル

 ・ギルドのエリア調査に協力すること。

 ・無闇な火薬による発掘行為を禁ずる。

 

弥生

 ・クエスト時以外での狩猟笛の演奏を禁ずる。

 

モンタナ

 ・村、街への移動の際には必ず書類を提出すること。

 ・狩猟クエスト以外での大型モンスターの狩猟を禁ずる。

 

 ・なお違反した場合、上記ハンター全てのライセンスを剥奪する。』

 

 

相変わらず堅苦しい内容だ。全員の好きな行いを制限しつつ、連帯責任によってお互いを見張るシステムになっている。“見張る”には語弊があるかもしれないが、まぁ大体そんな感じになっている。何回かの集合時に、この書類と顔を合わせなければならないのは確かに嫌と言えば嫌にはなる。

 

 

「ああ、そうだビル。ギルドが指定したエリアの調査結果を待っているよ。」

 

「ああ。ジェネシスの水中用加工が終わったから近々と伝えておいてくれ。」

 

 

モンタナは「指定エリア?」と興味深気に聞いてきたので、手伝いついでに同行を頼もうと考えた。

 

 

「密林から山へ向かうと、草木に隠されたような洞窟がある。そこの洞窟の採取物の調査をしているんだが、途中から水没していて一時中断していたんだ。一緒に行くか?」

 

「魅力的だが、胴防具の修理をしないとだから遠慮させてもらう。」

 

「そうかぁ。」防具破損への事態の原因でもある立場としては、流石に無理強いも出来ない。また何か見つけた時は土産にしてやろうと考え「また今度、頼むよ。」と次回を楽しみにしよう。

 

「そうかそうか。心細いのだろう?私が一緒に行ってあげるわよ。」

 

「お、良いのか?利益があるかはわかんないぞ?」

 

「良い予感がするのよ。」

 

 

“良い予感”が気がかりだが、手伝ってくれるなら心強い。俺と弥生はモンタナ、フリューゲルに挨拶をして部屋を後にした。

 

 

 

「あ、そうそう。フリューゲルに会うだけの話だと内容が薄いから、このまま話は続けるそうだ。」

 

「誰に言ってんだ?誰から聞いたんだ?」

 

「フフフ。そんな伝言音が聞こえたのさ。」

 

 

 

密林に入り、エリアをさらに奥へ奥へと進むとその洞窟はある。苔がこびりついた洞窟の入口から中を覗くと独特の湿気と暗闇に包まれている。

俺は松明に火を灯し、ポーチの中に入れてある手帳に書き込まれた地図を頼りに中へ入った。入口はガンランスを背負って入れるほどには大きいが、大きな飛竜が入れるほどではないので危険は少ないだろう。

 

 

「この内部は複雑なのか?」

 

「いいや、基本的には一本道。ただこの先からは泳ぎだ。」

 

 

早速水没地帯に到着した。俺は弥生へ酸素玉を分け与えて、暗い水中を進む事を考えてチャナガブルの提灯球を素材に作ってもらっていた水中ランプを取り出した。水温は意外にも冷たくはないが、もしもの事を考えると冗談ではない。弥生を説得して、念入りな準備運動をして水の中へと進んだ。

水中の中には新大陸に存在するようなモンスターはなく、こんなエリアの話を書いていいのか不安になる。だがチャナガブルの水中ランプから発する淡い青い光は、不安を与える仄暗い水中を美しく照らしてくれる。このランプ、意外と売れるかもしれないな。

 

「水から上がるぞ。」と、俺は上に向けて指を指して弥生に示した。彼女が頷いたのを確認し、一応用心して盾を構えながら水面へゆっくりと進んだ。

 

 

バシャン

 

「ほぅ。スゴイな…。」

 

 

水から上がると弥生は感動の声を上げた。彼女にしては珍しいが、この眼前に広がる鍾乳洞を見れば誰でも感動するだろう。狩場と言うよりは観光地だが…。

 

 

「とりあえず、この鍾乳石の欠片を持って行こう。」

 

「教授連中が好きそうね。」

 

「ああ。少し待ってくれ。地図を簡単にだが書く。」

 

 

俺は覚えている限りで簡単な水中のマップを手帳に書き始めた。モンスターも採取物も無いので非常に寂しい記述になっている。

 

 

「少し協力してやるわ。」

 

 

弥生は背中のカオスティックロックを取り、洞窟内に響き渡るような音を鳴らした。そして音が鳴り止むまで弥生は瞳を閉じて聞いていた。

 

 

「ふむ…。左へカーブしつつの下り坂。その先は…多分大きな空間になっている、はず。」

 

「お、一本道か。ありがてぇな!」

 

 

弥生の耳は頼りになる。俺は疑う事無く言われた通りに地図を書き込んだ。事実、この先の道はその通りだったのだ。

 

大きなドーム状の地底湖にたどり着いた。旧砂漠の地底湖に似たマップだが、松明で辺りを照らすと天井には刺々しく盛り上がった鍾乳石が浮かび上がった。岩肌はあまり丈夫そうとは言えない。モンスターの戦闘には不向き、やはり狩場より観光向けだな。

 

 

「ビル。最後に地底湖の中を調べれば、この調査は終わりだろ?」

 

「ああ、そうだな。モンスターもいないだろうし、ここで待っててくれ。」

 

「ああ。1曲弾かせていてもらおう。」

 

ドボーン!

 

 

俺は勢い良く水の中へ飛び込んだ。この地底湖は意外に深く、岸の松明の明かりが届かずに水底が闇に染まっていた。水中ランプを取り出して泳ぐと、ゆっくりとだが水の流れがあった。俺は水が流れてくる方向へ泳ぐと、大きな穴を見つけた。

 

 

(なんだ。まだマップが続いているのか…。)

 

 

俺は中を調べようと照らすと、銀色に光る何かを見つけた直後、岸までぶっ飛ばされた。

 

 

ドシャッ!!

 

「おお、ビル。私の演奏へのパフォーマンスとしては上出来だ。」

 

「お、俺最近こんな貧乏クジばっか…。じゃなくて!水中に何かいるぞ!」

 

 

ドパァァァァァアアン!!!!

 

 

水中から勢い良く現れたのはガノトトスだった。水中の洞窟から中へ出入りしていたのだろう。しかも俺達が縄張りを荒した、と怒っている様子だ。

 

 

「ふむ。まぁ私は演奏を続けさせてもらうぞ、ビル。」

 

「言うと思ったよ!」

 

 

俺はジェネシスを持ち、ガノトトスへ突撃した。そんな俺を迎撃するように水ブレスを吐いたが、簡単にブレスを喰らう程のマヌケではない。

 

 

「ヘイヘーイッ♪」

 

 

弥生はすっかりこの状況を楽しみ始めた。カオスティックロックの弾き方が激しくなってきたのが、その証拠。

 

 

「ビル、戦いなさい!さぁて、聴いてごらん?Hunting!!」

 

 

ジャジャジャン!ジャジャジャン!

 

「イィィィェェェェェエエヤヤャャァアアアアアアア!!!!!!!」

 

ジャァァァァアアアアアアアン!!!!!

 

 

その激しい音色を聞くと、俺の身体からは恐ろしい様に力が湧いた。効果は相変わらず不明だが、異様に首を振らして演奏する弥生に、ドン引きのガノトトスに攻撃するチャンスは今だ。俺はガノトトスの腹下へ潜り込み、攻撃が来る前にジェネシスを腹へ突き刺しながら竜撃砲を撃った。

 

 

ドッガァァアアァン!

 

 

ガノトトスは竜撃砲の勢いに押されてバランスを崩しながらも、発射後の隙だらけの俺に尻尾をぶつけてきた。何故か水中で受けた体当たりよりダメージがでかいのは、弥生の演奏効果なのだろう。数秒間、意識が遠のいた。そして意識がはっきりしないまま、ガノトトスの体当たりを受けて倒れこんだ。次にガノトトスは標的を変え、今度は弥生へと滑りながら突進した。演奏の音で聞こえないかもしれないが、俺は声を絞り出して叫んだ。

 

 

「や、弥生…!突っ込んでくる 避けろ!」

 

 

俺の声が届いたのか、それとも演奏中でも気づいたのか、弥生は演奏を止めガノトトスを正面に向き、カオスティックロックのボディでガノトトスの頭を

 

 

ゴンッ!

 

 

まるで野球の球を打つかの様な豪快なバッティング。突撃中だったせいもあり、頭には凄まじい衝撃が襲ったのかガノトトスは簡単にスタンした。壊れないカオスティックロックには驚いたが、突撃を打ち消すほどの力で打った弥生にも驚かされる…。

 

 

「…私の演奏の邪魔をするとは…、お前、何のつもりだ!?」

 

 

…本気で怒っている。いつもの涼しげな顔が、鬼の形相に変貌している。そして弥生は怒りのまま、ジタバタと動くガノトトスの頭へ一撃、二撃と叩き始めた。こうなってくるとガノトトスの方が哀れに思えるのが不思議。

 

 

「ガァアアウゥ!」

 

 

ガノトトスはスタンから回復すると、一目散に水中へと飛び込んだ。俺は回復薬グレートを飲みながら立ち上がると、弥生は再びギターを構えてから叫んだ。

 

 

「ビル!耳を塞げ!」

 

ピキィィィィィィン!

 

 

俺が耳を塞ぐのを待たずに、弥生は高周波を発した。耳を塞ぐのに間に合ったが、音爆弾の数倍の音が洞窟内を響きわたる。ガノトトスは不幸にも水上へ飛び出した時だったので、凄まじい音の直撃を受けた。

 

 

ギュアァアァァアァ!

 

 

地底湖を泳ぎながらも怒りの声が聞こえる。俺は急ぎ、泳ぎだした方向へ先回り。そして水中から飛び出したガノトトスに合わせて、腹下へ砲撃を連射。ドン!ドン!ドン!と軽快な砲撃音が鳴り響いた。

 

 

「良いリズムね、ビル。さぁ終曲よ?」

 

 

同じく先回りしていた弥生が着地したガノトトスの頭へ、カオスティックロックの重い一撃が振り下ろされた。ゴシャァツ!と骨肉を砕く生々しい音が聞こえ、ガノトトスはそのまま動かなくなった。

 

 

「うえー…。さすがに嫌な音だな。」

 

「そうかもね。やっぱり、君やモンタナが狩っている中での音の方が良いわ。」

 

「俺にはよく分からん。」

 

 

弥生は「だろうね。」と笑いながら答えた。まぁ火薬の匂いの良さが2人にはわからない様に、コレは個人個人の好みではあるので気にはならない。今は問題のガノトトスも倒せたことだし、水中の洞窟を調べて終わらせよう。

 

 

「ガァアアウゥ!ガァアアウゥ!」

 

「!?

 コイツ、まだ生きているぞ!」

 

「ビル、いったん離れるわよ!」

 

 

死んだと思っていたガノトトスが突如起き上がって、辺りに水ブレスを辺り構わずに吐き散らしながら暴れだした。眼は焦点が合っておらず、最期の悪あがきなのだろうが、水ブレスの威力に近づけずにいた。

 

 

ズズズズズズズ…………ン

 

 

地響きが聞こえ始めた。この音はマズイ。ここのエリア、いやもしかしたら洞窟全体が崩れるかもしれない。俺は弥生を促し、暴れるガノトトスのいる地底湖を急いであとにした。

洞窟内を走り始めると、パラパラと細かな石が落ち始め、やがて石の大きさは次第に大きくなっていった。急いで逃げないと、弥生と仲良くトレジャーアイテムの仲間入りになってしまう。

 

 

「おい、ビル。」

 

「何だよ!」

 

「あれを見ろ。」

 

 

弥生が指をさした先、脱出への唯一の水中経路は落石によって塞がれていた。

 

 

 




貧乏クジなキャラのフリューゲル君。天然ゆえにメンバーの上司と言うより、友達・仲間な立ち位置。


しかし本当に皆さん、色々な表現がありますね。自分が未熟に思えてしょうがない!w

では、ご意見・ご感想お待ちしております。
ありがとうございました!

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