The Problem Hunter   作:男と女座

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お久しぶりです、男と女座です。書き途中のデータを消去したりで時間がかかってしまいました。本当にすみません。

弥生「本編は冬だってのに、現在は桜が咲いてるな」

ペースを上げるように頑張ります

弥生「なら結果を示せ。」

…創造人物に罵倒される作者って…!




第29話 ロックよ、激しく流れよ

「ふむ。弦の調子は大丈夫のようね。」

 

 

日課であるカオスティックロックの調子を確かめながら、朝食である赤い木の実を何個か口へ放り込んだ。硬いが甘くて、不思議と活力が満ちてくる。

 

ビルの手帳に書かれてある『食べられる野草と木の実』を参考に早朝からモンタナと採取をした。新大陸にもあるか不安だったが、食べられる草や木の実の判別方法などが事細かく記載されていたお陰で十分な食事を摂ることが出来た。あの雲の向こうの青空で笑うビルに感謝しなければ。

 

 

「フフ…。」

 

 

「勝手に殺すな!」と、ビルからの怒号が聞こえそうだ。モンタナも体力、スタミナ、水分と体調に関しては問題無いらしい。今は元気そうに道具や刀の確認をしている。気が向いたら感謝の礼くらいは言っておこう。

 

 

 

朝食を終えると、ボサボサの長い青髪へ桶一杯の冷水を頭から一気にかけて土埃を洗い流す。キンキンの冷気が私の意識を覚醒させてくれる。そして濡れた髪を適当に後ろへ縛り上げながら、──いい加減に切ろうかしら──あのハンター共がいた場所へ向けて歩き始めた。それに気付いたモンタナは確認作業で広げていたアイテムを急いでポーチに入れると駆け足で付いて来た。

 

 

「オイ、まさかアイツらに協力でも頼む気か?だったら小生一人でもやるぞ。」

 

「帰りたいんだろ?黙って付いて来い。」

 

 

モンタナは渋々「わかったよ。」と私の後に付いてきた。

 

 

「安心しろ。お前もきっと満足する方法にするさ。」

 

「うー…ん。

 しかし意外だな。お前さんは曲を弾けるなら、街へは帰りたくないタイプだと思ったが?」

 

「ここは創作意欲が湧かなくて退屈だ。ビルの代役で来たに過ぎないし、な。

それに私のオトモのマーチとドンドルマで待ち合わせをしている。待たすのは可哀想だろ。」

 

「オトモには甘いんだなー。

 そう言えばマーチを見掛けないと思っていたんだ。どこかへお使いか?」

 

「アイルー村へ。ビル特製の火薬を村にいる花火師にプレゼントした。」

 

「あの大タルの量を全部?」

 

「全部だ。」

 

 

モンタナは「そりゃひでぇ。」とビルを哀れんだが気にはしなかった。むしろあの異常なまでの火薬への執着心をバネに回復が早くなってもらいたい。文句は無いが、やはり私達は3人揃ってこそ最高の狩りが出来ると思う。まぁビル達には絶対に言わないが。

 

 

「早く戻りたいな。あのミルクプリンが食べたい。」

 

「またアレかよ。」

 

「良いだろ、別に。」

 

「悪いとは言ってねぇ。それなら小生は…これが終わったらアベナンカのいるチュプ・カムイに再び行こうと思っている。」

 

「ほう。」

 

「そして出来るならば、アベナンカにも会いたいな。」

 

「ほう、珍しい話だ。」

 

「会った時は度胸があるな、としか思っていなかったんだが…。以前、ビルの腕を折ったジンオウガと戦っている時、「もうダメだ」って覚悟した時に彼女の顔が浮かんで、な。それから…彼女の顔を思い出すと頭から離れない。」

 

「フフフフフフフ。」

 

「…な、何だよ。」

 

 

恋愛対象は刀だけかと思っていたが…、モンタナの表情は明るい――ウブとも言える――笑顔で彼女の事を話した。こんな風に昔に分かれた“アイツ”と笑い合っていたのかと思うと、心に棘でも刺さった様な痛みと自嘲的な笑いが込み上げてきた。

 

 

「おい、何笑ってんだ?」

 

「フフフ。初々しいと思っただけさ、モンタナ。」

 

「へっ、うるへー。

とにかく、これが終わったらアベナンカに会いに行くんだよ。」

 

「死亡フラグよねぇ、それ。」

 

「不吉な事を言うなよ!」

 

「それはそうと…あのモンスターが新発見だとしたら私達が命名出来るのかしら?」

 

「小生は名前を考えるのが苦手だ。任せる。」

 

「なら“不死龍”で。」

 

 

私の命名にモンタナは「冗談じゃねぇ名前だなー。」と肩をガクリと落とした。けれど反論しないということは賛成と取って良いのだろう。そしてモンタナは木々の間から見える青空へツクヨミを向け、「不死だろうと斬り捨てるがな!」と私へ笑いかけた。

 

 

 

 

奴らの所へ到着すると、昨日と同じ様に焚き火を囲っていた。私達に気づいた奴らは「お、姉ちゃん!気が変わったか?」と相変わらず下卑た響きの笑い声を立てる。

 

 

「ま、そんなとこさ。」

 

「お、マジか?」

 

 

私の一言に奴らは期待の眼差しを向けながら近寄ってくる。私はビル達にはあまり見せたくない面妖な笑い、絡める様な指の動き、声で奴らの興味を誘う。そして背中の愛器を持って高らかに叫んだ。

 

 

「さぁさぁ…! 急ぐ者は足を止め、急がぬ者はお立ち寄り。暗黒の色に染まりしは、我が愛しき楽器カオスティックロック。聴く者には至上の夢心地を、聴かず者にはの永久の後悔を。

 ───コレより弾くは…世にも珍しき凶宴楽曲に御座います。」

 

 

「いいぞー!」と朝っぱら酒を煽っている奴らは更に上機嫌になり、やんややんやと私をはやし立てた。早いとは思うが、…もう限界だ。心の奥底から噴き出すドス黒い感情を奏でる楽譜が頭に浮き上がった。

 

 

「…黙ってな…!。アンタらの声は凄まじく耳障りだ!!!」

 

「な───」

 

 

♪ギャァァアアン!ギュララギュララ!ギャァァアアン!

 

 

怒りとストレスを指に乗せて弾く。まるで私の気持ちに応えるかの様に、ギターの素材達が唄い始めた。嗚呼ビル、フリューゲル。是非ともお前達にも聞かせてやりたかった。それだけが残念で堪らない。

 

 

 

 

 

♪ベンベケベンベ ♪ギュラリィィィィィイイ

 

「さ、行くぞ?モンタナ。」

 

 

私達はモンスターが居ると言われる、プリンを皿に盛り付けた様な形の岩山の前へ訪れた。いつもは演奏に集中しているので会話はしないが、今は軽く弦を弾いている簡単な演奏──モンタナには滅茶苦茶な指の動きだと言われたが──をしている。

 

 

「しかし良いんか?コイツらに関しては何とも思わんがさ。」

 

「ん?」

 

 

後ろには私の最高の演奏に誘われて歩いて来るあの3人。アゼルは頭を左右に激しく振り乱し、ボーン装備のマッチョは人間とは思えないギラついた眼、ディアブロス装備の男も「コホー…コホー…。」と気色悪い呼吸をしているが、ノリ具合としては及第点か。

 

 

「別に問題はないだろ。目撃者はお前しか居ない。私を裏切らなければ大丈夫だ。」

 

「誰が裏切るか。」

 

「フフフ。そういうことさ。」

 

 

モンタナは「悪い笑顔だ。」と言う。そう言うわりにモンタナも楽しそうな顔じゃないか。もし、この行為を目の当たりにしたらフリューゲルは慌てふためき、ビルは「やるねー。」と、楽しみながら傍観するだろうな。

 

 

「ギャヒャヒャヒィハィヤァアヤ!」

 

「だーッ!?」

 

「お?」

 

 

突如、人とは思えない奇声の直後にモンタナの叫び声がした。振り返るとアゼルが双剣で切りかかろうとモンタナを押し倒している。モンタナは両手で必死になって止めているが、腕の震え具合を見ると凄まじい力らしい。演奏しながらも一応助けてやろうと思ったが、気合いの入った声と共にアゼルを蹴り飛ばした。

 

 

「大丈夫か~?」

 

「な、なんとかな。」

 

 

いきなりで驚いたのか、珍しくモンタナは肩で呼吸をしている。蹴り飛ばされたアゼルは何事も無かったかの様に起き上がり、「ゲヒャヒャヒャ!」と気持ち悪い声で笑い始めた。

 

 

「くっそ、武器持たすと何するか、わかんねーな…。」

 

 

モンタナはリーダー格が落とした双剣を拾い、「預かるだけだからな。」と私に言いながら背中に装着した。別に盗っても売っ払っても私は気にしないんだがな。その時、私の耳に遠くから聞きなれた声がした。視線を岩場へ移すと洞穴から現れた不死龍が翼を広げ、咆哮と共に空へ舞い上がった。

 

 

「ふむ、気づかれたわね。」

 

「む、そうか。」

 

 

モンタナは鋭い眼になり、納刀されたツクヨミを左手に持ち狩龍をコートの中の左腰に装備した。いつもながらモンタナはモンスターと対峙すると良い緊張感を出す。まさに抜かれた刃の様な…。今日も素敵なライブになりそうだ。

 

 

「さぁ行けモンタナ。

古龍と言えど、殺せば死ぬ。」

 

 

私の助言にモンタナはニヤリとしながらツクヨミを抜き、走りながら叫んだ。

 

 

「それもそうだな!」

 

「シャァアア!」

 

 

森の開けた場所から不死龍が飛び込んで来た。昨日と違い、モンスターは黒みがかかった銀色に変わり、斬られた尻尾の先端は見事に新しく生えている。成程、まさに“不死龍"と言う名はピッタリだったようだ。だが私には関係ない。ただ私は私の為に、モンタナの為に曲を奏でるのみ。

 

 

「さぁ!ライブの始まりだ!!行きな、野郎ども!」

 

 

♪ギャァアァアアアン!

 

>悪霊の加護 攻撃力UP【小】発動

 

 

私が本格的な演奏を始めると、アゼル達は一直線に不死龍へ向かって走った。狩猟時、モンタナは自分の間合いが短いために、自分から慎重かつ大胆に近づくが無鉄砲なわけではない。だがアゼル達は戦法とか小難しい事を考えず、ただ不死龍に向かって突撃していた。

 

 

 

 

――――――――モンタナ――――――――

不死龍を間近にした時、昨日では感じなかった威圧感がある。そして渾身の一振りで斬り裂いた尻尾は、何事も無かったかの様に生え、身体も黒みがある銀色の鱗へと変わっている。しかもただ色が変わっているだけではなく、硬くなっている。

 

 

「成程、脱皮でもして強化したのか? …面白い!」

 

 

新しいモンスターとの狩りは恐怖と興奮が入り交じる。未経験の攻撃、行動から、自分の技術が如何に発揮出来るかが楽しくてたまらない。古龍への対策から抜刀した狩龍も小生の興奮に応えてくれるだろう。

 

 

「行くぜ!」

 

「シャァァア!」

 

 

不死龍は空中から地響きを立てて舞い降りると、背中と尻尾の翼をたたみ、上半身を上げた昨日と同じ地上戦の構えを取った。コチラとしては地上戦ならば本望と、ダラリと下げた頭へ向けて果敢に攻め込んだ。だが小生が繰り出す一振り一振りの太刀筋を、まるで知っているかの様に不死龍は上半身を傾かせたり、頭を振って避ける。もし一人で遭遇しようものなら太刀打ち出来なかったかもしれない。

 

 

「けれど今回は人手があるんでな!」

 

 

後ろへ跳ぶと、小生の左右をアイツらが走り過ぎた。そして力任せにハンマーや大剣を振り落とす。だがそんな攻撃を受ける筈もなく、不死龍は這いずって攻撃を避けた。

 

 

「ヒ、ヒィェヤハハハハハハ!」

 

 

大剣使いの男は攻撃を避けられてもお構いなしに左手一本で振り回し、どんどん不死龍を追い回す。しかも大剣の重さで身体が振り回されているが、それでもお構い無しに攻撃を続けた。その姿は、まさに狂人。アゼルに至っては武器が無いのでパンチやドロップキック、果てには足元の石を投げつけた。包囲するように3人は不死龍へ攻撃をし続ける。大剣だろうとハンマーだろうと石だろうとも上手く体勢をずらし、頭や翼など有効な部位への攻撃は回避し、頭突き、体当たり、尻尾の薙ぎ払いで3人を離す。それでも何事もなかったかの様にムクリと不気味に立ち上がり、不死龍へと突撃し続けた。

 

 

「人数が居るのは良いな。小生への注意が弱まっているなァ?」

 

 

視界に入り難いよう姿勢を低く保ち、一気にツクヨミの間合いへと近づいた。そして太い胴体へ抜刀斬り。そのまま毒状態にでもなってくれと2回、3回と斬撃を与える。最悪毒状態にならなくとも、全員で攻撃を与え続ければ回復は出来ないはず。更に攻撃を重ねようと刀を振る小生の脇腹に、何かが衝突し遠くへ突き飛ばされた。

 

 

「な、何だッ!」

 

 

吹っ飛ばされた方向を見るとアゼルが爆笑して立っていた。どうやら先程のはヤツのドロップキックを食らったらしい。折角の攻撃のチャンスに余計な事を…!

 

 

「フイイイィィィ!!!!」

 

「ちょっ…待ッ!」

 

 

なんとアゼル同様、ボーン装備のマッチョが小生にハンマーを振り落した。辛うじてツクヨミでハンマーを受けるも、演奏効果なのか凄まじい力で押し潰されそうだ。

 

 

「シャァァアア!」

 

「ッ!!」

 

 

動けない小生達へ不死龍の太い尻尾からの薙ぎ払い。ハンマーに潰されなかったとはいえ、まともに喰らった。肋骨が軋む、想定以上の大ダメージ。弥生の曲の効果は良いが、いざダメージを受けるとコレが恐い。それでも何とかマッチョは小生から不死龍に向かっていったから、今の内は安心だと、回復薬Gを一気に2つ飲み干すと弥生へ向けて叫んだ。

 

 

「弥生!」

 

「なんだ、リクエストか!?」

 

「死ぬ程に熱くさせろ。足りねぇんだよ!」

 

「フフフ…!では新曲、『THE MADNESS』!」

 

♪ジャジャジャジャ!ギュララララァアン!

 

>防御-30 はらへり倍加 攻撃力UP【大】 発動

 

 

全身に何か黒い煙のような物がまとった錯覚がした。頭を振るとソレは錯覚だと理解したが、それでも何か恐ろしいモノが背後からジッと小生を睨みつけている気がした。普通なら発狂するのかもしねないが、小生の胸は恐怖よりも興奮で震えた。

 

 

(やっぱ小生達の方が異常なのかもしれんな…。)

 

「ゲ、ゲヒャヒャ!ヒィェヤハハハハハハ!」

 

「リャァオアガリュィイィイィイィン!」

 

 

突然の狂気の笑いに驚いて振り向くと、口からヨダレを撒き散らしながら、最早人の笑い方とは思えない笑い声を立てている。…あんな風になるのなら、正気でいられる方が良い気がした。

 

 

「リィィィィィィィイイイイン!!」

 

 

ボーン装備のマッチョが叫びながらハンマーを投げつけた。他の連中も武器が有ろうと無かろうとお構いなしに突っ込む。アゼルに至っては殴る蹴るではなく、ついには噛みつきに行っている。

 

更に狂ったハンター達の猛攻に恐怖したのか、それとも曲に恐怖したのかは分からないが、不死龍は小生達を素早い蛇行で通り過ぎ、突撃しながら口を大きく広げて弥生目掛けて噛みつく。しかし弥生は演奏しながら左へのサイドステップでソレを難なくと避けた。そしてさらなる不死龍の噛みつき、体当たり、尻尾打撃を弥生はスレスレで避けた。どうすればあんな風に出来るのか不思議で仕様がない。しかし何度も回避した弥生だが、遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。ギターの先端を手にし、不死龍へ怒りの怒号と共にギターで何度も殴りつけた。

 

 

「テメエ! 私の!演奏を!邪魔するなんて!良い度胸じゃないの、あぁ!?」

 

 

隙を突かねば上手く攻撃を当てられない不死龍に、避けようと動かす頭へ何度もギターの胴体で糸も容易く当てた。殴る度にメキ…ッ!と嫌な音が響く。そして殴り続ける弥生の顔は、先程の危険な笑顔とは違い、まるで怒り狂うラージャンの様な形相で戦慄が走っていた。

 

 

「キシャァァアア!」

 

 

ついには不死龍の額から鮮血が吹き出し、悲鳴にも似た咆哮と共にめまいを起こして倒れ込んだ。邪魔された怒りを晴らし、満足したのか弥生はギターを手に演奏を再開した。

 

 

「今だ!」

 

 

弥生の演奏効果で高揚する攻撃衝動に任せるがままに突撃。そしてツクヨミを喉元へ突き刺し、右手で押さえつつ左手で狩龍を抜くと顔やその周囲を何度も切りつける。中には表面を撫で切る程度の物もあったが、それでも返り血で視界を紅く染め上げても、なお振り続けた。

 

 

「シャァアァアッ!」

 

 

咆哮と共に翼を大きく広げた不死龍。そして辺りに強烈な龍風圧を発生させると、空を覆っていた木々を突き抜けて飛び上がった。空中で羽ばたきながら身体を震わすと、先程まで小生が与えた刀傷がどんどん塞がっていく。

 

 

「てめぇ!降りて来て小生に首を斬られやがれ!首をォー!!」

 

 

自分でも無茶苦茶を言っていると理解している。だが今まで与えたダメージが無駄になるのは、精神的にキツかった。

 

 

「キシャァアァアッ!」

 

バサバサバサッ

 

 

空中で小生に向けて咆哮を上げると、巣と思われる岩山へ移動した。小生は舌打ちをすると、狩龍とツクヨミの両方を砥石で研ぎ始めた。

 

 

「オイ、とっとと行くぞ。」

 

「ああ。…倒せる、よな?」

 

 

思わず不安な気持ちを出してしまった。そんな小生に弥生は演奏しながら、淡々と話し始めた。

 

 

「飛んで行く時、微かにふらついていたのを見なかったのか?」

 

「本当か!?」

 

 

弥生の顔を見ると「私が嘘を?」とでも言いそうな、強い眼差しを向けてた。弥生が冗談や励ましの嘘を言う様な性格ではないことは、長い付き合いから理解している。

 

 

「だが巣で寝れば完全に回復するかもしない。急ぐぞ。」

 

「そうか…、よし!」

 

 

狩龍とツクヨミを納刀し、回復薬Gを飲むと、小生は頬を叩いて気合いを入れ直した。痛みが小生に渇を入れ、弥生の言葉を思い出させた。「殺せば死ぬ」、と。

 

 

「その意気だ。奴には私の演奏を邪魔した落とし前はつけてもらうわ。…モンタナで。」

 

「やっぱヤるのは小生かよ。」

 

「フフっ、当然だろう。」

 

「ならよ」

小生は弥生の後ろへ視線を移すと、激しく頭を揺さぶっているアゼル達3人のハンターを見ながら弥生に言った。

「一旦演奏止めようぜ。ここからは隠密で行かないとだ。」

 

「…仕様がないな。」

 

 

とても残念そうに演奏をピタリと止めると、3人は「くケっ!」、「ぽぅッ!」、「べあしっ!」と気味の悪い断末魔と共に、糸の切れた操り人形の様にバタリと倒れた。

 

 

「…生きてる、よな?」

 

「勿論。」

 

 

ある意味、一番凄惨なシーンを見た気がした。

 

 

 

意外なことに岩山へはすんなりと到着した。眼前には歩いて登るには辛い傾斜の岩壁、見上げればポッカリと空いた洞穴が見える。ここまで近づいても襲って来ないことを考えると、本格的に傷を癒し始めているのかもしれない。

「小生が先に行く。」と手で合図すると、岩肌の突起に手足を掛けてゆっくりと音を立てないように登り始めた。登ってみると所々に草食種や鳥竜種の骨が、岩壁に引っ掛かっていた。ビル達と一緒に狩ったドスゴドラノス同様に食欲は旺盛らしい。

 

洞窟が近づくと、「ズー…ズー…」と、寝息が洞窟内で反響して不気味な音となっていた。細心の注意を払って崖を上ると、洞窟の中で不死龍はとぐろを巻いて眠っている。周囲を見回すと、洞窟はリオレウス等が寝る森丘の洞窟程度の広さ。多少狭いが、チャチャブーがいないだけマシだ。不死龍が寝ている傍らには、尻尾の無い白銀の脱皮した皮がある。

 

 

(コレも戦術の1つなんでな、悪いが終らせる!)

 

 

狩龍を抜刀と同時に、一気に距離を縮めようと大地を蹴った。そして首を斬り落とそうと、とぐろの上にある頭へ向かって跳びかかった。

 

 

♪ギュラァアァアン!

 

「!

 シャァアァア!」

 

「ちょッ!?」

 

 

あと寸前の所で弥生の演奏で眼を覚ました不死龍が素早く離れ、斬撃は背中を浅く切った程度のものになってしまった。

 

 

「て、手前ェ!隠密でって言ったろうが!どっちの味方だよ!」

 

「私は音楽の味方だ!」

 

>悪霊の加護 気絶倍加 早食い 発動

 

「お前本当に斬り倒すぞ!?」

 

「それよりも!うーし~ろッ!」

 

 

弥生に気を取られて背後に迫る不死龍に気づかなかった。既に口を大きく開け、間近に跳び掛かっていた。(間に合え!)と、とっさに後ろへ跳びながら、背中に装着していた双剣の片方を口目掛けて投げつけた。

 

 

シュッ!

 

「シャァァ!?」

 

 

投げた双剣は口の横をかすめて行った。それに驚いた不死龍は口を閉じてくれたが、それでも勢いをつけた突撃は弱まることはなく、凄まじい衝撃が腹部を中心に突き抜けた。そこで小生の記憶は途切れた。

 

 

 

 

弥生の演奏と声が聞こえる。

 

 

♪ギィィイン!ジュラァララララ!

 

「――イ、――ぬ気か―?」

 

 

何て言っているのか分からない。身体中が痛いのは…先程のダメージのせいか?

 

 

「モンタナ!目を覚ませ!」

 

 

意識が回復した。気づくと小生に巻き付いた不死龍がギリギリとキツく締め付け、骨や内臓が悲鳴を上げている。頭の上で不死龍が勝ち誇ったかの様に、小生を睨みながら見下ろしている。体力が残りわずか、脳内で危険警報が轟き鳴り響く。

 

 

「だぁああぁあああああ!畜生!放しやがれェェェエエエエエエエ!」

 

 

拘束されている両腕を動かそうとジタバタと暴れた。暴れている内にわずかだが左腕が狩龍に届き、それを引き抜いて刃を押し付けてノコギリのように動かすので精一杯だった。

 

 

「シィィイイィイ!」

 

 

巻き付きが緩んだ隙に胴体を足掛かりに登り、睨みつけていた頭を斬り刻む。滅多斬りにされ、負ったダメージを回復でもするつもりなのか翼を広げて小生を振り落す。そして外に飛び出そうとする不死龍の翼へ、残っていた片方の双剣を投げナイフの要領で投げつけた。左の翼へ炎を上げて突き刺さったゲキリュウノツガイ。まさに飛び立とうとした所への一撃で、狙い通りに飛び立てずにホバリングをしている。

 

 

「でェェやぁあぁあああ!」

 

 

今が本当に最後の攻め時だと、雄々しく吼えながら走る。そして不死龍の背中目掛けて跳ぶと、ツクヨミを深々と背中へ突き刺し、勢いのままに洞窟の外へ突き落した。

 

 

「シャァァアオォォゥ!!」

 

 

小生を振り落そうと、岩山を滑り落ちながらジタバタと暴れる不死龍。だが深々と突き刺さったツクヨミは抜けず、小生も必死になって刀を押さえ続ける。暴れるせいで視界が定まらないが、一瞬映ったのは岩肌が不死龍の身体を削り、背後には血の跡だった。

 

 

ズズー…ン!

 

 

地響きとともに地上へ落ちた。そして小生は背中から降り立つと、突き刺さっているツクヨミを持ち、不死龍の頭へ向かって走りながら強引に切り裂く。

 

 

「キシェェェエエェエェッ!!!!!」

 

「コレで…終わりだァァァアアア!」

 

 

そして狩龍を抜いて上段から一気に振り落し、首を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「だーー…、しんどーい。」

 

 

今更ながら随分と無茶をやったと思う。お陰で身体が緊張と披露、ダメージで悲鳴を上げ、小生は不死龍の遺体の横で大の字に寝転んだ。

 

 

「フン。最初は冷っとしたが、なかなか最後は良かったぞ。いいビートだったわ。」

 

 

いつの間にか弥生が不死龍の脇にいた。極希に誉めるんだが、いまだに基準が不明だ。まぁ…狩れたし、弥生も満足したなら何も思うまい。

 

 

「おい、いつまで休んでる。まだ日が高いんだ、帰るぞ。」

 

「せめて剥ぎ取るまで待ってくれ…。」

 

 

 

その後、皮や鱗を始め、牙や尻尾を入手した。再生能力のお陰か、傷や欠損の少ない上質な素材が手に入った。中でも身体の中からは白銀に輝く、いわゆる火竜や古龍種から獲られる紅玉──色合いから白玉か?──見つかった。弥生は「無欲の勝利だな。」と小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――アゼル―――――

俺が目を覚ますと夕暮れ。あの2人のハンターの姿も見当たらないし、辺りには草食種の姿があった。

 

 

(か、身体中が痛ぇ…。)

 

 

あの女の演奏を聴いてから記憶が曖昧だったが、それでも何となくあのモンスターと戦わされたのは覚えている。

 

 

「ちくしょう!何で俺がこんな目に!!」

 

「元はと言えば、貴方が考えも無しに行動するからですよ?」

 

 

突然、声がして驚いて振り返ると、俺の雇い主でもあるハンターが立っていた。隣には俺の同僚の大剣使いもいる。

 

 

「ど、どうしてここに!?」

 

「ここにいたハンターが帰還したので、ね。一応迎えに来ました。」

 

「え?そ、それじゃあ!?」

 

「ええ、復帰させます。」

 

 

そう言って雇い主は俺に緑色の腕章を投げてよこした。俺は「コレ、ですか?」と聞くと、露骨にため息をして話し始めた。

 

 

「ええ。謹慎させた、どこぞの考えなしが村や町に“いかにも”な証拠を残してくれたのでね。我々の仕事着を変更せざるを得なかったので、ね?」

 

 

相変わらず嫌味な野郎だ。そんな俺をこんな辺境の地へ追いやっておいて、死ぬかと思った…。もしかしたらここへ来た奴ら全て、この野郎に裏で小細工でもして来させられたのかもしれない。陰湿な奴だ。だが、どこかの街で在住のハンターをやるより、この男の元で仕事をした方が金になる。当分は我慢だ、我慢。

 

 

「ヘヘヘ、そいつぁ、すみません。」

 

「よろしい。では行きますよ。 他の2名のハンターは起こさなくて良いんですか?」

 

「ああ、どうせここだけの付き合いなんで。」

 

「そうですか。では行きますよ。」

 

「どこへ?」

 

「大事な仕事です。我らギルドの為に…。」

 

 

 

 




休養は湿気ってしまった火薬。
儚くも棄てて再びの狩場。
懐かしやこの匂い、この痛み。我はまた生きてここにあり。
牙に穿かれ、煙にむせて、銃槍の軋みに身を揺らせ、ここで生きるが生き甲斐ならば、せめて望みは我が欲望。
The Problem Hunter 第30話「SILENT KILL」
押し込められた欲望の蓋が開く…。


弥生「次回予告を毎回やるネタないだろ。しかも『装甲騎兵ボト〇ズ 赫奕たる異端』のまるパクリじゃないか。」

だーーーッ!!!!次回もお楽しみに!!


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