では本編をどうぞ!
「あー、だるい!
こんな熱帯雨林に何日も滞在なんて、ビルの根性には頭が下がるわ。」
「ハハ、そうだな。」
小生は弥生と共に水没林から更に奥地へ進んだ地点、“ジャングル"と呼ばれる未知のエリアの調査を行っている。水没林と似ているが足元はただのぬかるみで、どちらかと言えば旧密林に似ている。だが火山活動で気温が高いせいかクーラードリンクが欲しくなる暑さ。しかも時々降る雨が余計に不快指数を上げる。本来はトレジャーハンターであるビルの仕事なのだが、ギルドナイトのイオリの阿呆に弥生が反論してこの調査を押し付けられたそうだ。だが、別に弥生を責めはしない──むしろ褒め称えたい──し、ビルの為に代役を勤める事に何の問題も無い。だが前回のジンオウガの一件で、未知のエリアを進む不安が無い訳ではない。
思い返せば、ここに至るまで色々とあった…。
今から2週間前。
ビルをポッケ村に送り、オトモのクオン、アイルー村から帰ってきたリリー、そしてルーナに後を任せた。しかし思い出せば家宅捜査をした時は驚いた。ベッドの下とかに予備だ何だと称して50個近くもストックが有った。普段帰らない家にまで置いとくのは、どうかと思う…。
今から1週間前。
出発する前、以前作成を頼んだ防具が完成したのでドンドルマの武具屋へと向かった。
耐炎に優れたリオレウスの素材である翼膜と、炎に弱いが耐刃・耐打に優れたドスゴドラノスの素材を合わせれば上手く弱点が無いのでは?と思い、作成を頼んでみた。武具屋のオヤジは「なかなか面白い試みだった。」と、渡した素材で作れる限りの防具を楽しく作ってくれたそうだ。
まずデザインまで頼んだ胴装備は、膝下まである黒色のゴドラノスコート。背中にはボスの象徴だった紅い斑点の模様が集まって縦に伸びている。腰には余った素材で作ったベルトで狩龍、ツクヨミを携えられるようにしてもらった。
「ふむ。」
コートに腕を通し、腕を振り回し、ツクヨミを抜刀・納刀したりと、動きに支障はないか充分に確認をする。いつも堂々としている武具屋のオヤジだが、初めて扱った素材の防具には不安なのか、何度も「どうだ?」と聞いてきた。
「少し身体が締め付けられる感覚だが、小生の予想通りの性能だ。」
「コレもやろう。」
「ん?」
「余りで作った頭防具の鉢金だ。」
「おおぉ、ありがたい。」
黒い鉢金を頭に巻いて鏡を見る。ユクモノカサも良いが、これはこれで良い。「どうだ?」と、早速弥生に見せびらかしてみたが、「良いんじゃないか。」と、あっさりとした返答に胸が痛んだ。…まぁ弥生に大きいリアクションを求めたのが間違いだったと、気を取り直そう。頭と胴、腰の防具は新調したが、他の防具はリオレウスの防具を修復する金もないので、腕、脚はユクモノドウギシリーズを装備しよう。
意外な事にビルが片腕でもポポの荷車の御者は出来ると、わざわざ見送りに来てくれた。何でも大事な用があると言い、弥生の元へ走って行った。隣にいたルーナが疲れ顔しているのは、ビルの特訓が厳しいのだろうか?
「大丈夫か?」
「あ、はい…。」
やはり元気がない。以前に会った時には元気が取り柄と自負していたくらいだ。
「実は昨日まで雪山で狩猟をしていたので…。」
「昨日まで?て事は」
「はい。2日と半日は雪山にいました。渡されたモンスターを倒すまで!って。」
「また初っぱなからキツいな。ビルに釘でも刺そうか?」
「あ、大丈夫です!それにビルさんはベースキャンプでずっと待っていてくれて…、それに食料や弾薬・アイテムもリリーが密かに置いておくように指示していたそうで。」
「ほう。」
幾らなんでも、そこはちゃんとしていたか。
「まぁ小生もビルも現場でヒドイ目に遭って、今の実力が有るところもあるからな。経験に勝るものは無いから。」
「あ、大丈夫です。私も充分それは理解しています。それに…」
「それに?」
「狩猟が終わったら、まるで自分の事の様に喜んで褒めてくれたんです!。」
満面の笑みで喜ぶルーナに「よ、良かったな。」と笑顔で返すしかなかった。この1週間足らずでビル達の方は、何だか面白い事になっているようだ。そのビルはと言うと、先程から弥生へ「火薬!火薬を返してェー!返してェー!」と必死にすがっていたが「煩い!」と殴り倒されたところだった。
そんな思い出も1週間しか経っていないのに遠い昔に感じる。
今はジャングルにてビルに渡された『トレジャーに役立つ手帳』を参考に草や木の実、鉱物などを探している。
「えーっと?
『南西のベースキャンプを目指せ。なお採取アイテムも調べること。』
面倒だ…、無視。」
「するな!」
「え?」
「コレはビルの仕事を代理でやってんだぞ?下手したらビルにまで要らん悪評を与える事になっても良いのか?」
「フン、しょうがないわね。」
一応頼まれたからにはきちんとこなすのが、小生のポリシーだ。
しかし
「特に面白味も無いわー。」
全くと言って良い程に楽しくない。いや薬草とか鉄鉱石等の採取アイテムはあるが、ここでしか採れない様な特徴的なアイテムが無くて魅力がない。これがトレジャーハンターとの差さかと思ってしまうが、「特に何も見つからなかった。」ではビルに何かしらの迷惑になるのではと考えてしまう。
「フフーン、んーんーー♪」
小生の戸惑いを他所に、弥生は鼻唄と軽い演奏で、すっかりトレジャーを忘れている。
「お前さんはいつも楽しそうだな。」
「フフ、まぁな。
それよりモンタナ。お前…大事な事に気づいてないな。」
「あ?大事な事?」
砥石は忘れていない。回復薬もグレート共々フルで持って来た。アイテムに心配は無い。ならば防具の変な所でも穴が空いているのか?
「何をキョロキョロしている。何を勘違いしている。」
「え?」
「モンスターに1匹も遭遇してないのよ、草食種ですらな。」
「………そう言えば…、そうだな。」
「それにさっきから何か風切り音が聞こえる。」
「風切り音?近いのか?」
「それなりに近いわ。音のする方に歩いていたんだから。」
「あ、そうなのか。」
「…ん?」
急に弥生は歩くのを止め、目をつぶって音にだけ集中し、辺りを注意深く探り始めた。
「来る。」
ザザザザザッ!
突如森を割って、空から白銀の巨体が降りた。少なくとも飛龍かそれ以上の大きさで大地を揺らす。
「フシュルフル…」
「何だ!?」
全身は輝く白銀の鱗。飛竜とは比べ物にならない程に細く長い体長。背中と尻尾には一対の白銀でコウモリの様な翼。そして胸元から先を上げて威嚇し、尖った頭からは細長い舌が飛び出しては戻し、コチラを品定めでもしているかのように眺めてきた。
「翼を持った蛇、か。」
「こんなのは見た事がないな。」
「どうする?モンタナ。」
「聞かずともだ!」
「良いだろう。」
♪ジャァァアァアン!
「モンタナ!ビルへの手土産だ!仕損じるなよ?」
「応ともよ!」
>悪霊の加護 発動
小生の動きを察知して背中と尾の翼を折り畳み、蛇行をしながら素早く近づく。動きに合わせて狩龍を突き出すも、身体を後ろへ傾けて斬撃を避ける。「まだだ!」と叫び、狩龍を斬り上げるも、その斬撃まで身体を動かして避けられた。
「ちょこまかと…ッ!」
「シャアァア!」
振り払う尻尾を受け、吹っ飛ばされた。攻撃を受ける瞬間、間近で見たモンスターの身体は小さく鋭い鱗がまるでノコギリの様になっていて、まるでナルガクルガの刃翼の様な相手を切り裂く打撃。そうそう何回も受けられるダメージではない。
♪ジャララ♪ギャァアン
「おもしろー!」
「言ってろ!」
>見切り 発動
回復薬Gを飲み、吹っ飛ばされた先の茂みの奥から両足に力を込めて大地を蹴る。一気に間合いを詰めて狩龍を振り下ろす。だが相変わらず当たらない。それでも構わずに、大振りで左右から狩龍でモンスターに攻撃を加え続けた。
ドン!
「シャッ!?」
「よし…!」
回避し続けるモンスターは背後の大木へ追い詰められた。そして小生は逃げ場を失ったヤツの首を斬り落とそうと、跳びかかり薙ぎ払う。
「フシュゥウ!」
だがズルリと気持ち悪い音で大木に巻きつき、上へと逃げられた。下から見上げて姿を追おうとしても、生い茂る葉に隠れて何も見えない。
♪ギュギュギュララ!ギュララ ♪ギュララァアン!
…耳を澄まして探ろうにも、コレではどうしようもない。別に心地良いから止めさせはしないが。
「上から来るぞー。」
「シャァアァア!」
「ッ!!?!」
突然上から口を開けたヤツが小生目掛けて襲う。間一髪、小生が早く前へ転がって回避する。弥生の一言が無かったら、今頃小生は足を残して喰われていたかもしれない。そんな姿が脳内で鮮明に映し出されて身体を嫌な感覚が走った。
「スィイィィイ…!」
反撃に移ろうと立ち上がるも、ヤツはすぐさま身体を引っ込めて姿を潜めた。
「弥生!ヤツは今どこにいるんだよ!?」
♪ギュギュギュララ!ギュララ ♪ギュララァアン!
「期待した小生が馬鹿だった!」
「シャアァアアァ!!」
再び襲いかかるモンスターの攻撃を転がって避ける。そして反撃に振り返りざまに狩龍で斬り払う。
「でぇぇえぇい!」
ザシュッ!!!
「シャァァア!!!」
斬撃によってモンスターは木から落ちた。深々と狩龍で斬り裂いた胴体がダメージを物語る。怯んでいる内に、と砥石で狩龍を研ぎ始めると我が目を疑った。それはモンスターが不気味に身体を震い始めると、傷がみるみる内に塞がったからだ。
「ヒュー♪」
驚きか感動か弥生は演奏を止めて口笛を吹くが、コチラとしては堪ったものじゃない。こんな出鱈目な能力と戦うかと思うと、弱気になってしまいそうだ。
小生は一度大きく後ろへ跳び、弥生の前にまで戻った。
「ったく、どうして未確認だ、新発見モンスターと縁が深いかな。」
「お前とビルしか戦わないんだから仕方ないだろ?作者の都合も考えてやれ。」
「誰だよ、作者って!」
「お前は知る必要は無い。
来るぞ。」
「チィッ!」
身体をくねらせ、猛スピードで来た噛みつきを弥生は左、小生は右に跳んで回避。着地と同時に弥生は演奏を再開した。演奏のお陰か、力が湧いた小生はツクヨミに持ち変えてヤツの脇腹へ深々と突き刺す。
「シャァァア!?」
「死ィねやぁああ!」
痛みで暴れるヤツの腹を、無理矢理にでも致命傷を与えようと強引に斬り裂く。吹き出す血しぶきと、激痛での絶叫がダメージの大きさを物語る。直感で、「コイツを生かしておくと面倒な事になる。」と頭の中の小生が小生に語りかけていた。
「シャァァア!シャァァア!」
バサッ!
「!
逃げる気か!?」
翼を広げて羽ばたくと、空高くへあっという間に飛び上がる。飛び掛かった小生は風圧に圧倒されて近づく事が出来なかった。
「逃げたか…。無念。」
「ちぇっ。まだ演奏序の口だったのに…。」
先程のモンスターが気になりつつも、小生達は集合ポイントを目指す事にした。
うーむ、ギリギリ年内に間に合った。良いお年を!
弥生「どーでも良いが、来年の干支っぽいモンスターを狩るってどーなのよ。」
あ…!