The Problem Hunter   作:男と女座

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お待たせしました。時間が空いてしまって、すみません。

今回から2章です。とは言っても何か変わる訳ではなく、1つの区切りですので。

では本編をどうぞ!



帰ってきたThe Problem Hunter
第26話 誰が為に港の鐘は鳴る


「………ん……?」

 

 

薄暗い…。木造の天井…ゆっくりと左右に身体が傾く………、船か?

 

 

(………………。)

 

 

何回が目覚めた記憶が断片的だがある。

あれはどこかの温泉村…?額に傷のある男…泣いてる。船を見た。…………。

 

 

「ニャ…。ご主人。まだ寝てるニャ。」

 

「クオン…?」

 

(なぜクオンが船に…?俺は…)

 

ズキン!

 

 

右腕を動かそうとすると釘を打ち付けられる様な痛みが身体中を駆け巡る。その痛みで、ぼんやりとした記憶がハッキリした。

 

 

「…ココは?ユクモ村、モンタナは!?」

 

「大丈夫です。」

 

 

俺が起き上がろうとすると、目を柔らかな手でふさぎ、優しそうな声の女性がささやいた。

 

 

「夜も遅いので今は休んで下さい。ちゃんと説明しますから…。ね?」

 

「……あ、ああ。」

 

 

再び睡魔が襲ってきた。薬でも飲まされたのか…?しかし、俺は不思議と安心して眠りにつく。彼女の手からは微かに硝煙の匂いがしていた…。

 

 

 

 

───フリューゲル───

港に夜到着し、ビルとモンタナが乗る船が到着するのが明日の朝一と聞き、僕と弥生は宿に泊まって待つ事にした。もちろん部屋は別だし、支払いは僕(割勘にして欲しかった…。)。

 

 

早朝に改めてトレジャークエストの依頼状を見て驚愕した。

現在、帰って来たハンターは無し。モンスターの凶暴性、危険性から凄腕のハンターしか派遣出来ない。ここに経験が浅い弥生を送らなければならない事に胸を痛めた。

 

 

(…例えビルだとしても…。)

 

 

心配と怒りが湧いた。あのイオリは危険で無謀、成功率が低いクエストと知っていたのだ。本来なら然るべき調査団とハンターチームを派遣すべき仕事を、わざわざビルを陥れる為に。

 

 

「………ッ!」

 

 

あのバカの嫌味な笑い声が聞こえて来る様だ。

…指示を出す者として、僕がこのクエストにビル達を送るのは仕事だし、役目だ。彼らは行って当然でもある。しかし友達としては嫌だ。行くな、無茶だと止めたくなってしまう。

 

 

(僕には…向いてないのかもしれないね…。)

 

カラーー……ン カラーー……ン カラーー…ン

 

 

遠くから鐘の音が聞こえる。灯台から船の到着を報せる合図。心境のせいか、いつもより儚くて寂しい音色だと思った。

 

 

 

───弥生───

カラー…ン カラー…ン カラー…ン

 

 

波の音を聞きながら朝になった。やはりフルフル亜種(男性用)の防具の防寒性能は良い。加えてデザイン的にも、見た目的にも。

遠方から来る船へ鐘の音が迎える。たまに聞くには良い音色だ。

 

 

「弥生さん。来たニャ!」

 

「ああ。さーて、ビルは…どうかしら?」

 

 

眼を凝らして船を見ると、甲板で刀を素振りするハンターがいた。多分モンタナだろう。こんな時も相変わらずだな。

柄じゃないが手を振ってみると、気づいたのかモンタナは両手で力強く振る。あの様子から察するに、どうやらビルは大丈夫なのかもしれない。

 

 

 

───モンタナ───

「世話になったな。」

 

 

小生をここまで運んでくれた筋骨隆々で色黒の漁師に深々と頭を下げて感謝の気持ちを告げた。すると漁師はガハガハと笑った。

 

 

「いやいや、護衛の依頼料を無料にしてくれたんだ。俺達も感謝してる。」

 

「連れや飛行船のパーツも運ぶとなると正規は、な。 だからギルドには黙っていてくれ。」

 

「大丈夫だ。安心してくれ。」

 

「すまない。」

 

 

実はここに来るまでちょっとした問題があった。分解されているとは言え、飛行船のパーツは量があった。それに重傷のビルにはしかるべき付添が居ないと船に乗せないと、移動拒否を受けてしまった…。そこで現地で出会った女性ハンターに色々と手伝ってもらい、小生は一人で旧大陸へ深夜に出発した手筈にしておいた。後で打ち合わせし、沖でビルと彼女の乗る小舟を回収して今に至る。

 

 

「俺の妻の生まれはユクモ村でな。…今回は感謝している。連れは大丈夫か?」

 

「何度か目覚めているがな。今は付き添いがいるから安心している。」

 

「そうか…。早く復帰出来ると良いな。」

 

「モンタナさーーん!は、運ぶのを手伝ってください。クオンとだけだと…お、重くて…!」

 

「ああ、今行く!」

 

 

小生は飛行船をドンドルマの船工房まで届ける手続きを漁師に任せ、多大な感謝の気持ちを述べてから、その場を後にした。今は深く眠るビルを2人で担ぎながら宿へと向かっている。クオンは重い荷物を持ち、ふらつきながらもついて来ているな。幸い早朝のため港の者はいても、他の街の者や五月蠅いギルドの連中はいない様だ。

 

 

「ありがとうよ。流石に船の護衛とビルの面倒、両方は難しかったから。」

 

「良いんです。ビルさんには以前お世話になりましたから。」

 

 

彼女ルーナは以前にルイーナの砦で、ビルと一緒に共闘したハンター、らしい。悪いとは思うが小生は会っておらず、面識は無かった。だがビルから小生達の話を聞いていたらしく、帰省した帰りの港で会った時に協力してもらった。

…こんな危ない橋を渡る船旅に、ビルの為にと快く協力してくれた彼女。ビルも隅に置けないな。

 

 

「よし、じゃあ宿に運ぼう。」

 

 

 

 

―――ビル―――

 

カリカリ…

 

(何の音だ…?)

 

カリカリカリカリ…

 

 

木を引っ掻くような気になる音。目覚めた俺の目に映ったのは木の天井。見知らぬ天井だ。

 

 

「(知らない天井だ…。)

誰か…居るのか?」

 

「起きたか、ビル。相変わらずだな。」

 

「弥生…?ここは…ユクモ村、ではないよな。」

 

「ああ。」

 

作曲をしていたのか、弥生はペンを置いて近づく。そして俺の背中を押して起き上がらせてくれた。

外を眺めると窓からは青い海。そして潮の香りが肺を満たす。久しぶりに空気を吸った気持ちになる。弥生は作曲中のペンを置くと、俺の寝るベッドの脇に椅子を置き、顔を覗かせながら質問をする。

 

 

「数日ぶりの目覚めはどうだ?」

 

「数日、か。」

 

 

俺は目線を下ろし自分の右腕を見る。石膏によって固定された腕。なんと言うか…

 

 

「治っているわけないだろう?」

 

「…だよな。」

 

 

心境を見透かした様な弥生の一言。思い出すと痛みが蘇りそうにもなるが、どことなく夢だったのでは?骨折まではイってないのでは?と変な淡い期待を持ってしまうのは人の性なのだろう。

 

 

「モンタナに聞いた…。随分と楽しそうな狩猟そうだったじゃないか。お陰で作曲に熱が入る。」

 

「激痛の絶叫あげたのは久し振りだった。」

 

「私の記憶では…私らが新人の頃、お前がフルフルの電撃のしかかりで踏まれた時、かな。」

 

「そんな事もあったなー。」

 

 

嫌な事を覚えていたな…。弥生はニヤついた顔で「ぎょへひャー!は無いだろ。」と思い出したくも無い黒歴史を掘り起こした。

 

 

「あー…、で、モンタナとクオンは?」

 

「トイレじゃない?」

 

「ここまで…お前さんも一緒に?」

 

「あ?」

 

「何度か浮き沈んだ意識の中、誰かの手がいつもあった気が…。」

 

「私ではないさ。昨日ここに来たからな。

まぁ良い。私が血相を変えて、ここまで来てやったんだ。土産話を満足するまで聞かせてもらおう?」

 

「お、血相を変えたのか?嬉しいねぇ。」

 

「…………ふん。まぁな。」

 

 

珍しいリアクションに驚いた。いつもなら鼻で笑ったりするのだが…。

 

 

「けど、ま、間抜けな寝顔見たら心配する必要無いって思ったわわ。」

 

「オイオイ…。そんだけかよ。」

 

「長い付き合いだったから、ね。」

 

「ハハっ、そうだな。」

 

 

随分と信頼されているんだと思うと、何だか嬉しくなる。顔に出たのか「なにニヤケてんだ。」と弥生に言われた。普段しれっとしている分、余計に嬉しかったのだ。

 

 

コンコン

 

 

モンタナ、にしては丁寧なノックに医者か何かかと思い、「どうぞ。」と声を掛けると意外な人物が入って来た。

 

 

「こ、こんにちは、ビルさん。」

 

「ルーナ!?」

 

「お、お久しぶりです。」

 

「彼女がお前を運ぶのに手伝った奴だ。」

 

「ルーナが?」

 

 

彼女は照れくさそうに頬を指で掻きながら歩み寄ると、弥生の隣に立ち、そしてダンジアの港からここまでへの経緯を丁寧に話してくれた。

 

 

 

 

「そうかー。随分と危ない橋を渡ったな?」

 

「いえいえ!そんな事を気にしている場合じゃなかったですし。」

 

「ハハハ、ありがとう。本当に助かったよ。」

 

 

俺が頭を下げると、「い、いいんです。以前私が助けられた時の事を考えたら…!」と彼女は顔を赤く染め上げながら両手をブンブン振った。

 

 

「それにしてもルイーナの砦の仕事は?」

 

「あ、実は以前の一件からハンターの数を増やす事になり自分の時間も貰えるようになったんです。

 それで久し振りの帰省の帰りに、ビルさんが言っていたモンタナさんを見掛けて…。」

 

 

ああ、そう言えばモンタナ達の事を簡単に紹介していたな。面識は無いと思うが、まぁ確かにモンタナは特徴があるから見つけやすかったのかもしれない。

 

 

「そう言えばモンタナは?」

 

「あ、そろそろ来るかもしれません。」

 

 

ルーナがドアに目を向けるとほぼ同時に、ドンドン!と荒っぽいノック。そして返事を聞かずにドアを開けてモンタナは入った。

 

 

「…起きたか。」

 

「ああ。ご覧の有り様だ。」

 

「骨折はまだしも、あの劇薬はどうなんだ?小生が無理に復活してでも、壁役が必要だと思ったか?」

 

「あの猛火を越えるにはな。事実そうだったろう?」

 

「…………ハッ、余計な世話だ。」

 

「そーかい。が次も余計な世話をする。次も、また次も、お前らが危うければ何度でも。

 要らないと言うなら、もっと上手く立ち回る事だな。」

 

「…小生はまだまだ修行中だ。当分ベッドの上で言ってろ。」

 

 

そのままモンタナはドアを力任せに閉めて出ていった。そして静まりかえった部屋が妙に可笑しく、声を上げて笑った。

 

 

「わ、笑っている場合じゃないですよ。怒って行っちゃいましたよ!?」

 

 

慌てふためくルーナに弥生が「別に良いのよ。」となだめる。不思議そうに顔を向けるルーナに説明を続けた。

 

 

「アレはまぁ、何て顔すれば良いか分からないのよ。心配はした、自分のミス、自分は軽傷で済んだ、ケガの責任、色々な事が頭を過った。泣く?謝る?怒る?それで相手は満足する?それも分からない。

 なーら思っている事を全部吐き出しちまえ、な感じ?」

 

「ハハハハハハ。ま、そうだろうな。」

 

「えぇえぇ?そんな感じなんですか?」

 

「男って単純なのよ。(微妙に声震えていたし。)」

 

ガチャ

 

「ビル~。フリューゲル呼んできたぞ。」

 

「はいよ。」

 

 

何事もなかったかの様な俺とモンタナにルーナはまた「えぇえぇ?」と驚いた。

 

 

 

「えーっと、お疲れ様だったね。ビル、モンタナ。」

 

「おう。」「ああ。」

 

「医者の診断から、しばらくビルは療養だ。ポッケ村に里帰りするんだろ?」

 

「そのつもりだ。出来れば護衛を頼みたいんだが?」

 

「ああ、うん。それよりも聞いてほしい話があるんだ…。」

 

 

フリューゲルが申し訳なさそうな顔して「話がある」って言う時は、だいたい切羽詰まった時の依頼などを言う。何を言ってくるのか覚悟し、俺は「どんな話だ?」と聞くことにした。

 

 

 

 

「トレジャークエストを弥生が?未経験だろ。」

 

「だがイオリは関係無いと言った顔で弥生の名前で契約書を記入させたんだ。」

 

「ハハハっ!そうか!弥生の名前か!!」

 

 

イオリの間抜けな行動に笑いが込み上げた。全員が「笑う場所が有った?」とでも言いたそうな顔して見るので、笑いたいのを必死に抑えて説明を始めた。

 

 

「いやなに、流石の優秀有能な奴でも専門分野には疎かったと思ったらな。」

 

「だから何なんだ?」

 

「準備期間が有るんだよ。」

 

「準備期間?数日か?」

 

「未知のエリアとなると充分な経験者でも最低1週間。が未経験者が行くとなると2週間は得られる。」

 

「ほう。」

 

「まぁイオリの馬鹿が直々に提出したんだ。たっぷり時間を掛けて、フリューゲルの代わりに文句言われてもらおうじゃないか?」

 

「それは良いな。」

 

「それに――」

 

「それだけ時間があれば復帰出来る、とか考えているのか?」

 

 

俺の考えを見通した様に弥生が先にセリフを言った。そしてそれを聞いた周りの目が痛かった。…特にモンタナは殺気を感じる。

 

 

「ビル。上司と友達、両方の立場から言わせてもらうけど許可しないよ。ゆっくり療養してもらうから。」

 

「えぇえぇ……ダメかい?」

 

「「「ダメ!!!」」」

 

 

ルーナ含み、全員で言う事も無いだろうに…。せっかく楽しみにしていた未知のエリア探索だったが…ここは弥生に譲るしかない。折れた右腕が本当に惜しい。

 

 

「はぁ……、ほら。」

俺は渋々、火薬など大切なアイテムを入れるポーチに入れてある、赤黒い石を取り出した。石から発する熱が指先を温める。

「コレを渡しておく。」

 

「コレは?」

 

「火山都市チュプ・カムイ発明の新型燃料の試作品。」

 

「へぇ!コレが!」

 

 

驚き喜ぶフリューゲルの横で、モンタナは「小生はてっきり爆弾にしてジンオウガに使うかと思っていたがな。」と肩をすくめた。まぁ個人的には是非とも爆弾・火薬に調合して渓流もろとも爆破させるのも悪くはないと思った。

 

 

「アベナンカが自分の街を知ってもらう為に、と渡されたから。コレから徐々に外交を強めるんだろう。」

 

「そうか…。立派だな。」

 

 

彼女を想うモンタナの目は、どこか寂しげでもあり誇らしげにも見えた。長い付き合いだが、こんな目を見るのは初めてだ。不思議に思い「何かあったのか?」と尋ねると

 

「ジンオウガに殺られそうになった時、彼女の声が聞こえて、な。

不思議と力が湧いたんだ。初めての事で…何て言ったらいいか。」

 

聴いている方が恥ずかしくなりそうな体験談を言った。ああ、成程。刀しか興味無いと思っていたが、そうでもなかったようだ。どうなるかは分からないが、ここは温かく見守ってやろう。

 

 

「あ、あのビルさん!もしお暇で、良かったら私にもっと狩りを教えてくれませんか?」

 

「え?俺?」

 

「はい。あの一件で実力不足を痛感して…。腕の立つハンターに教わるとするとビルさんが思い浮かんだので。」

 

「えぇっと…」

戸惑う俺はフリューゲルに視線を移すと、それに気づいて「それくらいなら良いと思うよ。」と笑顔で答えた。なら折角遠い所からわざわざ来てくれた彼女の為にも尽力しようと思う。

「じゃあ、ヨロシク。」

 

「言っておくけど、武器と火薬は預かるからね。」

 

「え!?」

 

 

フリューゲルの発言に驚く俺に、モンタナが更に畳み掛ける。

 

 

「当たり前だろう!どうせ大人しく療養する気なんて無いんだろうが!」

 

「モ、モンタナ…。お前の立場で考えろ。数週間は大好きな刀の無い生活なんだぞ?耐えられるか?」

 

「…いや、無理だな。」

 

「だろ!?」

 

「けど、ま、耐えてくれ。」

 

「おのれ、この野郎…!」

 

「ま、ゆっくり休むことね。」

 

「や、弥生…考えてみろ?狩りを教える立場が前線に立たないと…」

 

「私はボウガン使いなので大丈夫ですよ!」

 

 

知ってか知らずかルーナは満面の笑みでモンタナ達に「大丈夫です!」、「ビルさんに危ない目にはあわせません!」と気合いの入った意気込みを言う。

…この状況、も、もうどうしようも無い流れになっている気がしてならない。早くどうにかして流れを変えないと、何かとんでもない事に

 

 

「よーし、次の任務はビルをポッケ村にまで送ってもらう。でもって家の中の火薬は全部回収!」

 

「おーう。」「へーい。」

 

「待って!俺は命からがら頑張って生還したんだよ!?その仕打ちって…!」

 

「だから休暇あげるって。」

 

「いぃぃいらねぇぇええぇえ!!!!!」

 

 

 




どーも人数が多くなると、セリフの割合が多くなってしまいますね…。色々と本読んでみないと



さて、ビル君は休養です。代わりにモンタナ君、弥生さんに頑張ってもらいましょう!

あー、映画のタイトルのネタが尽きる…。もともとマイナーな映画を見るのが多いものでw


しかし…今思えばビル君達、全員でのチーム名「エクスペンタブルズ(消耗品)」ってのがピッタリだなー。と映画「エクスペンタブルズ2」を見ていて思いましたねw

アクション映画好きなら是非!と思える映画でした。皆さんもどうぞー。

次回もお楽しみに!

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