The Problem Hunter   作:男と女座

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今回は(“も”でしょうかw)会話メインが続きますが、とても大事な話でもあるのでよろしくお願いします。


タイトルの元ネタは「翼よ! あれが巴里の灯だ」、古い映画です。タイトルだけで決めたようなものですが、個人的には是非とも見てみたい映画。


では本編をお楽しみください!



第22話 友よ!あれが火山の街だ

ダンジアの港 ―――朝―――

 

 

 

「はぁ…。無事に着いたな。流石に疲れた。う~…む。」

 

「珍しくぼやくな?ビル。」

 

 

そりゃぼやきたくもなる。結局ラギアクルスのせいで航路から大分ズレてしまっていたし、舵の修復しながらで3日も掛けてやっと到着した。やはり飛行船の修理を必ずしなければ、と深く誓った。ちなみに今日は朝からグラビモス装備を身に着けているからか滅入ってしまう。

 

 

アベナンカの「港を見て回りたい。」との要望にモンタナを同行させ、俺は一旦別行動を取った。飛行船の修理を頼みたかったし、ここは1つ彼女に気を使ったつもりだ。多分残り少ない時間、モンタナと一緒にいたいのだろう。

飛行船の修理には、ドンドルマで紹介された大工の所へ向かっている。

 

 

(ふむ。ここだな。)

 

 

とても大きくて立派な看板が掲げられてある。

入り口からは海が見える吹き抜けの造りで、早朝にも関わらず海の上では船の修理。建物の中では木を切り、船の組み立て等をアイルーと厳つい男達が海風で寒い中、汗を流して作業をしている。

 

 

「失礼するよ。」

 

「!

 おう、いらっしゃい。」

 

 

作業中の男達よりも更に厳つい顎にヒゲを蓄えた40代くらいのオヤジさんがカウンターに立ち、俺を軽く上から下まで見て「見ない顔だな。今日は何の用件で?」と答えた。ここでこのオヤジさんを弁護するわけではないのだが、こういった大きな店では初見や地元で見ない顔には警戒をすることが多い。様々な街を行くが、案外と大きな街でも他所の人間には閉塞的な村人も少なくは無い。だからまぁ、コレは仕方ない事だと割り切るほうが懸命なのだ。

 

 

「飛行船の修理を頼みたい。」

 

「飛行船か。」

 

「大陸間を移動出来る、数名が乗る小型タイプだ。元の骨組みや使えそうなパーツは港に預けてある。コレが書類。」

 

「受けたいのは山々なんだがな?今材料が無いんだ。」

 

「その割りには、後ろで絶賛作業中じゃないか。」

 

「アレは船だ。飛行船ともなると条件が違うんだよ。嵐、モンスターの攻撃にも耐える程の強度となると、ユクモの堅木が最適なんだが今は無くてな。」

 

「どれくらい必要だ?」

 

「ユクモの堅木を30。」

 

「30、か…。10は有るんだが。」

 

「普段なら村から行商人が来て売買するんだがな。どういう訳か最近めっきり来ない。」

 

 

確かにユクモ村で留守を任しているオトモアイルーのクオンにも手紙を出した、と再びアイルー村へ行くリリーが話していたが来る様子がない。

 

 

「なぁアンタ、ハンターだろ?ユクモ村まで様子を見に行ってくれないか?このままだと港の船大工達がお飯食い上げになっちまう。」

 

「うーー…む。」

 

 

 

 

 

「結局頼みを受けたんか。」

 

 

モンタナ達と朝食を食べにレストランにて合流して先程までの事を簡潔に説明した。依頼を正式なものとする為に集会場にて依頼書を作成してもらい、その依頼書もモンタナへ見せた。

 

 

「ああ。他にもハンターが行ったっきり帰って来なかったらしい。…何だかヤ・バ・ゲ?や予感が。」

 

「お前の“正義の味方スイッチ"が入ったわけか。」

 

「スイッチですか?」

 

「ああ。コイツは人助けが好きな、お人好しなんだよ。」

 

「フフ、言ってくれる。」

 

「でも人助けをする人に悪い人はいませんよ。」

 

「そうだろう、そうだろう。

 因みに俺の素晴らしき友人、モンタナ君は文句を良いながらも頼めばクエストを手伝ってくれるんだよな?」

 

「へっ、うるへーうるへー。」

 

「それでは私の護衛は?」

 

「大丈夫です。アベナンカの故郷は火山にある国だ。俺は行った事がある。なので送届け次第、っと」

俺は火山周辺の大まかな地図をテーブルに広げて指で示した。俺はトレジャーに備え、こういった簡単な地図を常備している。

「この独自のルートでユクモ村を目指すので良いな?」

 

「ああ。お前の“独自のルート”という名の荒っぽい道を一緒に行くのも慣れたよ。

 今の護衛の後でも良いかと、船大工には了承を得たのか?」

 

「勿論だ。解決してくれるんならって。」

 

「じゃあ出発しましょう!」

 

「あ、待ってくれ。少し武具屋に寄らせてくれい。」

 

「お前が?珍しいな。」

 

「小生にも準備があるんだよ。」

 

 

武具屋に到着するやモンタナは店の奥に消えた。すると奥からはユクモノシリーズからリオレウス装備へと着替えたモンタナが現れた。

 

 

「ふむ。久々の装備だが、まぁまぁの着心地だな。」

 

「モンタナさんも、そんな防具をもっていらしたのですね?」

 

「一応な。流石にヘマはしたくない。準備しておいても悪いことはなかろう。」

 

「流石はモンタナ。俺とは違って素晴らしいハンターだ。」

 

「なに言ってんだか。」

 

 

 

夕方、新大陸の火山に到着した。相変わらずの熱気と独特の鼻を突く臭いに、俺のトレジャー魂が揺さぶられてニヤニヤしてしまう。あの火口のどこかにまだ人知れずに眠っているロマンがあると思うと……

 

「今日は控えろよ。」

 

「な!だ、大丈夫だよ。」

 

「どーだか。」とモンタナは俺を見ながらニヤリと笑いつけた。完全に読まれて図星だっただけに非常に恥ずかしい。俺は気にしていない素振りをしながら「さ、さぁあ行こウぜぇ!」と先頭をきって歩き始めた。我ながら自分の冷静さには恐れ入る。

 

 

 

 

「あちらです。」

 

 

アベナンカが指を指す方向に、そびえ立つ壁によって丸く囲まれた都市があった。中心には更に壁があり、いわゆるドーナッツ状の構造になっている。二重の壁に囲まれた街の中心部には石を積み上げた王宮である城が建っている。風化して灰色を帯びた城壁には古代の風格が現れていて素晴らしい。

 

 

「おぉー、スゴいな。始めて来た街は、やはり感動するな。」

 

「火山都市チュプ・カムイ。壁の高さは約30m、内側の壁は35mで所々には対空の大砲が用意されてはいる。中の壁には古代文字や絵が記されていて研究の的だ。

 街の古くからの伝えでハンターの入場は禁止されてはいたが現在の国王が緩和した結果、武器を預け、観光客としてなら入国を許可している。」

 

 

一応街の情報をモンタナに話した。時々思ったが、どうも俺は説明癖があるようだ。「詳しいな。」と、モンタナは感心する様に答えてくれた。

 

 

「ハハ。以前に火山のトレジャーをしていた時、街の調査隊を助けた事があってな。感謝に特例として招待されたんだ。」

 

「ホント、よくやるよ。」

 

「あの!待ってください!」

 

 

歩き始めた俺達をアベナンカが呼び止めた。俺達はそんな彼女を見ると、彼女は真剣な眼差しで俺からモンタナへ移した。「何か大事な話か?」と、モンタナが問うと彼女は口を開いた。

 

 

「今まで本当にお世話になりました。私のワガママに付き合ってくれて、ありがとうございました。」

 

「何だ?まだ小生達の仕事は終わってないぞ?」

 

「はい!ですから最後に聞きたい事があります。」

 

「聞きたいこと?」

 

「お二人は何の為にハンターをしていますか?」

 

「またずいぶんと難しい質問だな。」

 

 

モンタナと同意見だ。答える小恥ずかしい質問には冗談混じりで茶を濁すのが定石だが、彼女の真剣さに応えなければと思った。

 

 

「俺は人の為、かな。」

 

 

マジ顔で答える自分が妙に恥ずかしい。

 

 

「人の為ですか?」

 

 

…更に聞かないで欲しい。これ以上は耐えきれない。が、無下にする事も出来なかった。

 

 

「困った人を見捨てられない。そして俺にはハンターとしての…力がある。力がある者の義務とか、そんな感じに思っている。力を、命を懸けて皆の暮らしを守れるって、素晴らしいことだと俺は思っている。」

 

 

顔から火が出そうだ。後半はしどろもどろな口調になってしまう程だった。

 

 

「次は小生が答えよう。」

 

 

俺の心境を察してくれたのか、モンタナは一歩前へ出て話し始めた。

 

 

「小生は自分の為だ。」

 

「自分の為ですか?」

 

「ああ。そう思うようになったのは、この傷が始まりだ。こう言っては難だが…、小生はこの一件まで己こそが最強だと自負していた。 だが見事に打ち砕かれたな。いや、切り裂かれたか?」

 

 

額の傷を指でなぞりながら、モンタナは自嘲的に笑った。だがアベナンカは俺の時と同じ様に、真剣な眼差しで話を聞いている。

 

 

「痛みの中で復讐を誓った。だがその頃の小生では勝てない事は身を持って理解した。だから身に合った武器を持ち、技術を学んだ。そしてヤツを狩るまで、小生は何にも絶対に敗けんとも誓った。」

 

「…わかりました。」

 

 

彼女はどう思ったのだろうか。この質問には明確な答えは恐らく無いだろう。だからと言って嘘偽りを答える様な無粋な真似は出来なかった。

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

深々とお辞儀をしてから笑顔を見せた。その笑顔に何だか救われた気持ちになれたのは、軽蔑とか欲しかった回答を得られなかったとか、そういった感想ではなかったのだろう。

彼女がこんな質問をしたのは、恐らく当分の別れを前にハンターについて十二分に知りたかったのかもしれない。

 

 

「満足したか?」

 

「ハイ!」

 

 

モンタナの問いに嬉しそうに答えた。…前言撤回、モンタナの事を知れて良かっただけかもしれないな。

 

 

「では参りましょう。街の兵士へ知らせる発煙筒を使いますね?」

 

「ああ、お願いします。」

 

ポシュゥゥゥゥウン!

 

 

鞄から取り出した発煙筒に取り付けられた紐をアベナンカが力いっぱい抜くと、青い煙が高い音と共に放たれた。

 

 

 

 

 

大きな鉄の扉の前に到着した。俺とモンタナはギルドカードを用意しつつ扉に背を向けて辺りを警戒した。ドンドン ドンコン!とアベナンカが中にいる兵士へ到着を知らせる様に軽快なリズムで叩いた。

 

 

「アベナンカ。そして護衛のハンター、ビルさんとモンタナさんです。」

 

「分かりました。ハンターさんはギルドカードを提出してください。」

 

 

俺達はカードをアベナンカに渡すと、扉の小さな穴に入れた。数秒後、中の鍵が外された音がすると扉がゆっくりと開かれた。アベナンカを入らせると、俺、モンタナとゆっくりと街へ入った。

 

 

「お帰りなさいませ、姫様。この日を大変長くお待ちしておりました。」

 

「ええ、ご苦労様です。」

 

 

顎と鼻の下に白ヒゲを蓄えたリーダー格の初老の男性、そして大勢の兵士がアベナンカと俺達を迎えた。リーダー格の片目は名誉の負傷なのか、何かのモンスターの甲殻で出来た眼帯を当てている。恐らく相当な実力者だ。他の兵士達も黒に近い灰色の鋼鉄の鎧を装備し、熟練された強さを感じる。

そう言えば…、と思い視線をモンタナへ移した。案の定、目の前での会話にモンタナは混乱している様子だ。

 

 

「えっと、彼女についてモンタナは何て聞いていたんだっけ?」

 

「え?さる高貴な身分と…」

 

「ではモンタナに説明しよう。彼女はアベナンカ。ここチュプ・カムイの次期国王令嬢だ。」

 

「なにィ!?」

 

 

さすがに驚いたか。モンタナの大声に兵士達と会話していたアベナンカも「どうされました?」近寄って来た。

 

 

「えっ…いや、これは…」

 

「アナタの事をモンタナに話させていただきました。」

 

「そうですか。

 モンタナさん?」

 

「すみません、今まで数多くの無礼を…」

 

 

モンタナは深くアベナンカに頭を下げた。彼女は焦るように手をバタつかせて言葉をかけた。

 

 

「お願いします、モンタナさん。そんな風になさらないで下さい。」

 

「ですが…」

 

「むしろ無礼を働いたのは私です。ずっとモンタナさんを騙していたのですから。」

 

「それに以前(14話)言ったではありませんか。普通に喋ってもらって結構です、と。」

 

「…………」

 

「ごめんなさい、モンタナさん。でもとても有意義な時間でした。本当にありがとうございました。」

 

「では姫様。今はお祈りの時間で民は外出しておりません。王宮へご案内いたします。」

 

「あ、はい。わかりました。」

 

 

頭を下げたままのモンタナに少し戸惑いながら、アベナンカは俺に報酬が入った布袋を手渡した。

 

 

「――――アベナンカ!」

モンタナが大声で彼女を呼び止めた。彼女も「ハ、ハイ!」と驚いて勢いよく振り返った。そして一瞬ためらいながらも、モンタナは彼女に向けて叫んだ。

「また、お会いしましょう。  依頼を……待ってる、ぜ。」

 

「はい!!」

 

 

嬉しそうにアベナンカは笑って俺達に手を振った。彼女の目には薄っすらと涙を浮かべていたようにも見えたが、気づかれまいと振り返り兵士と共に王宮への道を進み始めた。

 

 

「…知っていたのか?」

 

「ああ。前からな。」

 

「何?」

 

「話したろ?トレジャー中に、この街の調査隊を助けた事。

実はその後、王様に王宮に招待されてな。その時にアベナンカも紹介されたから、お互いに面識はあったんだ。」

 

「ならいつ打ち合わせしたんだよ。」

 

「この依頼を受ける日だよ。(21話。)」

 

 

その日はフリューゲルの所へ向かう途中にアベナンカと再開した。閉鎖的な街の姫が居て、最初は驚いたがモンタナの名前を聞き、護衛した少女と知り合った話を聞いて彼女のことだと理解した。王宮で紹介された時もハンターについて色々と聞かれていたし、実際に自分で見聞きに来たのだとも理解した。

 

 

「そこで彼女に是非ともハンターの仕事を出来る限り間近で見たり体験したい、と頼まれたからだ。」

 

「だが何故。」

 

「まぁ、せめて一般人、少なくとも遠慮されたくなかったんだろ。お硬いギルドナイト様じゃあハンターを知るって言っても上辺しか見せやしないさ。」

 

「…そう言えばアベナンカが護衛のハンターから離れたのも、自由にさせてくれなかったからだと言っていたな。」

 

「だからだ。まぁ騙すことになって申し訳ないとは言っていたがな。許してやってくれ。」

 

「ハハ、小生が怒っていると思ったか?違うな。 ただ納得したかっただけだ。」

 

「そうかい。じゃ少し街を探索しようか。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

俺が歩き始めるとドン!と衝撃と痛みが尻を襲った。振り返るとモンタナの蹴りが炸裂していた。そしてまたニヤリと笑い、「やっぱ少しムカついた。これでチャラな?」と言った。

 

 

 

 

――――――――アベナンカ――――――――

兵士と兵士長と共に第二の壁の扉を通ると、木々が生えた庭園に入った。いつもながら手入れが行き届いている。この庭園は夜間以外、解放されているが、今は壁への御祈りの時間で人影は無かった。

 

 

「どうぞ。」

 

 

王宮の重々しい扉が開かれ、懐かしい匂いが私を包んだ。そして私の長い休日が終わったことを告げていた。

 

 

 

 

「お帰り、アベナンカ。」

 

「ただいま帰りました、お父様。ご機嫌はいかがでしょうか?」

 

「良くはない。数刻前にまでハンターが来てな。」

 

「ハンターさんが?」

 

 

ビルさんとモンタナさん以外で今日来るなんて珍しい。しかも王であるお父様に謁見する程なんて。

 

 

「用件はまた同じだった。ギルドをここに置き、連携を取れと。高圧的な頼みだったな。何とも…アレがハンターズギルドからの代表とは、なんとも信用できん幼稚な連中だったな。若造が偉そうに。あの似合わん緑色。当分は緑色の衣服は着ないようにしよう。」

 

「本当ですか?」

 

「うむ。だが今回も断った。」

 

「それでそのハンターさんは何と?」

 

「ハハハ。怒り狂い、喚いて帰ったな。」

 

「大丈夫でしたか?」

 

「うむ。…ただ、な」

 

「はい?」

 

「去り際、「何が起きても知らないからな!」と叫んでいった。壁が破られる事は無いだろうが、うーむ。やはりハンターを信用するにはまだ…」

 

「大丈夫です。」

私は考え込む父の手を取って微笑みかけた。

「その来訪者を弁護するわけでは全くありませんが、どうか私の話を聞いてください。私が会った素晴らしいハンターさん達の話を。」

 

 

またお会いしましょう、モンタナさん、ビルさん。あなた達が人や自分の為に行う様に、私も民の為に出来る事します。そして今度、正式に貴方達を招待出来る日を楽しみにしていますね…。

 

 

 

 




あぁ、貴重な“まとも”な女性キャラが…。
さて、彼女の名前、アベナンカ。馴染みない表現ですが、名前の解説を。
アイヌ語でアペは火、ナンカは顔でアベナンカ。火の女神のように美しくなるように命名されるらしいです。

街の名前であるチュプ・カムイは月と太陽(神)です。同じくアイヌ語です。間違っては…いないと思いますw

結構街や登場がそれっきりのキャラの名前は適当なですよねー。狩猟物語前に登場のゼトはエジプト神話の「セト神」。出港した港ナイアスはギリシャ神話に出てくる泉の精霊「ナーイアス」など。

以前北海道に旅行に行った際、アイヌ料理が楽しめる旅館に泊まり、料理や文化に感動してから意識しています。また行きたいですねー
皆さんも機会がありましたら、是非!

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