物語はビル君と弥生さんが洞窟に向けて出発した直後、モンタナ君の戦いです。
「相変わらず真面目なヤツだな。」
小生はビルと弥生の出発を部屋から見送った。小生には当面の予定は無いし、ドンドルマで気ままな生活でも始めようか。ユクモ村に戻り、まだ慣れないツクヨミのリーチの鍛錬も良い。ともかく、今は胴防具の修理が先決だ。小生もフリューゲルの部屋を後にして武具屋に向かった。
「残念だが、コイツの修理は難しいなァ。」
あっさりと残念なお知らせを受けた。多少の時間が掛かるとは思っていたが、そう簡単にはいかないらしい。
「防具の胸の部分が大きく引き裂かれているだろう?コレは修理よりも1から作り直さないと。」
「じゃあどうするかな…。買い取ってはくれるか?」
「ああ。全防具でも、この破損防具だけでもな。」
結局、小生は夜叉シリーズを全て売った。手持ちの金も不足がちだし丁度良かった、と思いたい。未熟な小生が招いた結果だ。次回に活かして傷の仇の飛竜が倒せれば、それで良い。次の防具はユクモノ・天シリーズを選んだ。防御力は低い方かもしれないが、モンスターの攻撃など当たらなければ意味が無いので気にする必要は無い。なによりも着心地と見た目が大事だ、大事。
「ああ、いた!モンタナ!」
息を切らしてフリューゲルが走って来た。こんな時のコイツの用件は大抵の場合、ろくな物じゃない。
「依頼されたクエストを頼まれてくれ!」
ほら見ろ。やっぱりクエストの依頼だ。以前、火山の火薬岩を10個納品なんてバカみたいなクエストを頼まれた最悪な思い出がある。そんな思い出のため「なんだよ?」と露骨に嫌な顔をして尋ねた。
「いやいやいや!そんな顔しないでくれって!
実は、お忍びのさる御方が旧密林で行方不明になったんだ。」
「そうか大変だな。まぁ生きとし生けるもの、いつかは死ぬ。気にすんな!」
「ええぇぇえ?そう言わずにさ。ビルなら駆けつけるよ?」
「アイツは自称・正義の味方だからな。良いヤツだよな?」
「確かに。ホント助かっているよ。――――じゃなくて!頼むよ!ギルドナイトが護衛していたのに、いつのまにか消えちゃっていて…。」
「分かった、分かった。いざと言う時に頼りにならないギルドナイト様よりも、ギルドに睨まれている小生の方が頼りになるってことだな。」
「え?ああ、うん…。」
「なら仕方ない。行ってやるよ。頼りないギルドォ!ナイト様!の代わりにな!!!」
「そ、…その御方の無事が最優先だからね?」
「では大型モンスターに襲われていたとしたら救出行為として狩猟するぞ?」
「ああ、今は緊急事態だからね。
頼むよ?ホント頼むからね?」
「おう、ご期待には応えるさ。 しからば!」
旧密林は密林よりも木々が密集し、視界が悪くて嫌いだ。だがだからこそツクヨミの修行には丁度良い。以前はジンオウガの前脚の爪を容易く斬ったが偶然の会心撃に近い。完全に使いこなせなければ、あの飛竜は殺せないだろう。
「ハッ!」
ズパン!
ツクヨミの一撃で大木を斬り倒せた。だが動く相手となれば話は別。確実な一撃を放つために何か一手を加えたい…。
「はぁ…。小生もまだまだだな。」
出来立ての切株に座りながら考え始めた。
今更ながら気づいたが、さる御方の容姿や特徴について何も知らされていないではないか。…我ながら情けなくなる。本来こんなボケはフリューゲルの担当だが、急いでいたので仕方ない。「誰かいないかー?」とでも叫びながら捜すとしよう。
「ん?」
しばらく旧密林の中、キノコやハチミツを拾いながら進むと何かを焼いている匂いに気づいた。匂いの方向に近づくと、密林の中に不釣合いな白いローブを身に纏った少女が、肉焼きセットで調理中の異様な光景があった。俺の気配に気づいた少女は「誰!?」と声を荒げた。
「ハンターだ。名前はモンタナ。旧密林での行方不明の人間を捜している。ギルドカードも見るかい?」
十中八九、小生が捜している御方なのだろう。見た限り10代中盤の少女だが、初対面の人間には礼儀正しくがモットー。出来る限り丁寧に自己紹介をした。それに応えてくれるように少女はお辞儀をし、自己紹介を始めた。
「すみません。私の名前はアベナンカ。もう捜索の方が来るなんて驚きました。」
小生はアベナンカの後ろの肉焼きセットに目を向けた。その視線に気づき、彼女は説明を始めてくれた。
「あれは護衛のハンターから失敬したんです。年に数回の外出の貴重な休み、ハンターの体験をしたいって頼んだのです。自然豊かな森も珍しいから連れてきてもらったのに、ベースキャンプの中を歩くだけしか許してくれないので…。」
「それはスゴイ。」
この少女は素人ながら旧密林のド真ん中で採取したキノコを焼いていたとは、ハンターになるならば将来有望だ。よく見たら高そうな白いローブが、土で汚れているのだが気にしていない様子にも好感を覚える。
「よかったら一緒に食べますか?生肉は難しかったのですがキノコなら上手く焼けそうです。」
小生はお言葉に甘えて薪に腰を下ろし、武器を置いた。彼女も微笑みながら薪の上に座り「もう少しですかね。」と肉焼きセットの棒を回し始めた。本来なら小生がやるべきなのだろうが、ここはハンター体験を得るためだ、無粋なことは止めておこう。
「しかしハンターの体験をしたいとは珍しいですね。」
「ハンターさん自体を見る機会が少ないので。」
「大抵の街にはギルドの支部や専属ハンターがいる筈では?」
「私の街にはハンターさんはいないんです。たまに買い物やトレジャーの方が寄る程度です。」
確かに未だにギルドの支援を断っている村はある。理由はモンスターの襲撃が滅多に無い、人口が少ない等がある。しかしギルドナイトがわざわざ護衛する程の身分がいる街ならば、ギルドの支援があるのが普通。
「何か理由でもあるんですか?」
「…私の街は新大陸の火山の近くにあります。危険なモンスターが多いのですが、私の街は高く強固な壁に囲まれているので、未だに破られたことは無いそうです。」
「ほう。それはスゴイ話ですね。それでもギルドの連携は必要では?」
「街の権力者は古くから壁を神格化しているんです。「壁は全ての災いを防ぐ」からギルド自体を拒否していて…。」
ビルなら新大陸については詳しいのだろうが、小生はあまり詳しくは無い。むしろそんな街があった事すら初耳だった。壁に祈ったところで目の前の古龍がグギャァ!と倒れるわけではあるまいし。
「そんな街だからこそ、ハンターという職業について知っておこうと思ったのです。最近は様々なモンスターが発見され、凶暴な種も多く確認され始めましたから、何かの役に立てられると。」
「…立派ですね。」
小生が彼女の頃の年齢では、ここまで考えて行動していたかと思うと悲しくなる。少々度が過ぎる行為だとは思うが、彼女は彼女なりに自分の街を思った行為。怒るよりも褒める気持ちが強くなっていた。
ガサガサ……
背後の茂みから物音が聞こえると何かが突進してきた。とっさにツクヨミを持ち、アベナンカを抱きながら左へ跳んで回避した。
「な、何事ですか!?」
「ババコンガだ。焼いていたキノコの匂いに釣られて来たようだな。」
ババコンガは小生達に警戒しつつも、焼きたてのキノコにかぶりついた。相変わらずの図々しい性格だ。一口食べるたびに放屁して辺りには嫌な臭いが広がってゆく。
「それは私達の大事な食べ物です!」
腕の中でアベナンカは怒りの声をあげた。まぁ初ハンターの食事が邪魔された気持ちは分からないこともない。
「くらいなさい!」
ベチャッ!
「ンゴォォオオ!?」
アベナンカが何かをババコンガの口へ投げ込むと、苦しげな雄叫びを上げた。ペイントボールなら、あすこまで苦しまないのに何を投げたのか不思議に思った。
「失礼、何を投げたんだ?」
「護身用にハンターが持っていた、こやし玉です。」
恐らく、こやし玉の元については知らされていないのだろう。ここは彼女のためにも黙っておこう。「手を洗いたい!」と言われても正直困るし、小生達ハンターは普通に使っているんだ。
問題はババコンガだ。先程の見事な攻撃で完全に小生達を狙っている。小生は走り寄るババコンガに背を向けて走り始めた。
「に、逃げるんですか?」
「生憎ですが、護衛が主なので貴女を危険な事には遭わせられません。」
「構いません。ハンターさんの仕事を間近で見る機会です。どうぞ闘ってください。」
「承知した。しっかりつかまっていて下さいね。」
小生はアベナンカを背負い、納刀状態のツクヨミを左手に持った。幸い彼女は重くないので動くには支障無い。思った以上に逞しい彼女の根性に感謝しつつ、小生は振り返ってババコンガを睨んだ。
「アベナンカ、まだ生肉は持っていますか?」
「は、はい。どうぞ。」
小生は生肉を受け取ると、それを手持ちの毒テングダケと調合し、「ババコンガには肉のトラップが効きます。」と、一応ハンターらしく説明しながら毒生肉を置いて、その場を離れた。
「ブモオオオオオオォオン!」
離れた小生達を見るや、早速肉に食いついたババコンガは毒状態になった。この食い意地は相変わらず呆れる。
「ブァアアウ!」
肉から標的をコチラに移し、ババコンガは毒で苦しみながらも近づいて攻撃を始めた。連続ラリアットを冷静に後ずさりしつつ避ける。相変わらずな力任せの攻撃を見切ることは出来る。しかし背中にはアベナンカがいるので、派手な回避はせずに避けなければ。
ズリッ!
「おっと!?」
足を滑らせて体勢が大きく崩れてしまった。地面が滑りやすいのを忘れていた。その隙を見逃さずに、ババコンガは右手を振り下ろした。
「んなろ!」
とっさに左手に持つ、納刀のままのツクヨミを突き出した。
バギィン!
右手と柄がぶつかり合った音が響いた。相手の威力に弾かれたが、ツクヨミの柄が右手の柔らかい部分に当たったのか、ババコンガはひどく痛がりながら仰け反った。
「―――コレだ!」
「な、何がですか!?」
先程の状況を見て思いついた。再び小生は納刀状態のツクヨミを左手に持ち、ババコンガの攻撃を待つ。
「ゴォォオオォオ!」
ババコンガは真っ直ぐに突進してきた。小生は相手との距離が間近に迫ったとき、ツクヨミの柄頭を眉間へ突き当てた。ゴスッ!と頭蓋骨にめり込むような音が伝わると、ババコンガは急所の一撃で痛みながら顔をおさえた。
最初に柄などで殴り、距離を確認しながら斬る。手始めの狙いどおりの結果に、小生はツクヨミを鞘から抜刀しながら斬かかった。
「オオオオォォォォォォッ!(角度、勢い、距離、全て満点だ!)」
スパァンッ!!!
会心のツクヨミの一撃はババコンガの自慢のトサカ型の毛を斬り裂いた。とっさに身を屈めたので避けられた。だがババコンガの頭部の毛はボスの証であり、自分のこだわりの象徴らしい。斬り落とされた毛の塊を見たババコンガは、立ち上がって激しく怒り始めた。
「そう怒るなよ。カウンター斬りのデータを取りつつ、神の世界への引導を渡してやろう!」
小生はババコンガに駆け寄り、鞘で顎下を殴り上げた。一瞬よろけただけで十分だ。右手でツクヨミを抜き、右足→左足と切った。ババコンガは踏ん張ろうとしたが、膝がガクンと落ちた。その隙に小生は更に斬りかかった。
「ブモオオオォォオオン!」
ガキン!
「む!?」
硬い腹のガードに斬撃が弾かれた。偉そうに腰に手をやる姿と、斬撃が止められた事に腹が立つ。すぐさまババコンガの左脇へ跳び、足元へツクヨミを突き刺した。ババコンガは痛みでバランスを失い倒れこんだ。ジタバタと暴れるヤツの力強く一歩踏み出しての一閃。
「ボオオォォォ………」
ババコンガ亜種の背中に走ったツクヨミの一太刀を受け、倒れたまま動かなくなった。
「ふむ…、もう半歩踏み込めたな…。未熟。」
次回はビル君たち、かもしれませんw
アベナンカさん。変な名前と言わないでやって下さい。彼女の名前にも、ちゃんとした意味があるので。
ご意見、ご感想お待ちしてます。 ありがとうございましたー!