久しぶりの更新です!
それでは、どうぞ!
訓練機の暴走から一時間…8機会った機体を何とか半分まで減らし、中にいた女の子達を救出する事に成功した…が、あとまだ、半分いる。しかも最悪な事に、残っているのは、射撃部門や格闘部門で優秀な成績を修めてきたヴァルキリーの機体。前の機体でも手こずり、エネルギーが残り少ない状態で暴走を止めなければならない…
「エリス。 エネルギーはあとどれくらいだ?」
「ざっと見積もっても400だ…」
「ラウラ。お前は?」
「…300だ。あの4機とやり合うのは、少々、分が悪いな」
俺の機体も約350…といった所なので、それぞれ無駄な攻撃をせず、なるべく攻撃を避け、一撃で決めなければならない。っと思ったその時だった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「?!」
俺たちが戦闘をしていた別の場所にもう1機の機体が、クラスメイトの鷹月さんを襲っていた。
「い、いやあぁぁぁ!!! 来ないでえぇぇ!!!」
「鷹月!? クッソォ!!」
暴走機は今にも装備した近接ブレードを鷹月さんにめがけて振り下ろそうとしていた。一夏は体を反転させ、イグニッション・ブーストで近づく。
(クッ…! ギリギリか?! いや、間に合わせる!!!)
残りのエネルギーを推力にまわし、何とか鷹月さんと暴走機の間に入り込んだ…そして、目をつむり、頭をかかえて泣いている鷹月さんを庇う様に抱きしめた。
ガキイィィィィ!!!
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
「え……?!」
聞こえる筈のない金属音と苦悶に満ちた声。鷹月はその声を聞き、前を見た…そこには、自分を庇い、暴走機の攻撃を背中で受け、背中から血を出す一夏の姿があった。
「い、一夏くん!!!」
「大…丈夫か? 鷹月…」
「一夏くん! 血が!!!」
「これぐらい。たいした…事はねぇよ…それより、待ってろ。今こいつを叩き潰す!」
そう言って一夏は振り向きざまにエストで暴走機を斬りすて中から捕らわれていた女の子…同じクラスメイトの夜竹さやかを救出する。が、今の一撃でエネルギーを使ったのか、白桜の武装や装甲が全て量子化して消えてしまった。
「くそ…ッ。エネルギーが…ッ!」
後、残り4機。だが、ラウラもエリスももう、エネルギーが著しく低下し、このままの戦闘ではいずれやられる。
激痛をこらえ、暴走機を見る。
「エスト…武器だけでも展開出来ないか…?」
(出来なくはありません。しかし、今の一夏では……)
「頼む。まだ、終わるわけにはいかないんだ…もう一度だけ頼む‼」
(わかりました。でも、保っても数分です)
「悪いな。エスト」
俺はエストに礼を言うと再び右手をに意識を集中して、デモン・スレイヤーを呼び出す。
しかし、先ほどから酷い出血で、意識が朦朧としている。
(クソ…ッ。意識が…)
朦朧とする意識を何とか保ち、エストを構え、敵と対峙する。
「一夏! しっかりしろ! 一夏!」
エリスが泣き叫ぶように俺の名前を連呼し、近づいて来る。その目は少し涙目になって赤くなっている。
「大丈夫だ…まだやれる!」
「こんな大怪我で…ッ! 無茶はダメだ!」
「だが、これを何とかしないと、いずれ学園全体を襲いかねない! 止められるのは俺たちしかいねぇだろ」
そう言った時だった。突然無数の閃光が煌き、アリーナを覆った。そして、立ちのぼる火柱と舞い上がる土埃。耳を突かんばかりの轟音が鳴り響く。
「ッ!……なんだ?!」
轟音が鳴り止み、一夏は視線を上に向けた。そこには無数の砲台をさらし、こちらを睥睨する様な凍てつくアイスブルーの瞳でみるヴェルサリアの姿があった。そして、彼女の専用機、難攻不落の要塞…
「サイレント・フォートレス………ッ!」
「義姉上!?」
エリスも上を見上げ、自分の義姉の姿を捉える。そして、その要塞がゆっくりと地上に降り立つ。
「力はより強い力によって蹂躙される。中途半端な力など無に等しいな」
「ヴェルサリア……」
先ほどの砲撃で破壊されたアリーナ。
砕け散ったアリーナの外壁や観客席の破片、そして、暴走機の中に取り込まれた人にも容赦なく降りそそいだ。
「どうして撃ったんだ! そんな攻撃を使えば、こうなるのはわかってーーー」
「私は暴走した機体を殲滅しただけだ。巻き添えになった連中は……まぁ、運がなかったなーーいや、この程度の被害ですんだのはむしろ幸運だな」
「義姉上! 本気でそんな事をーーー」
激昂するエリスをヴェルサリアは冷たい目で見下ろした。
「エリス、貴様に騎士団長を任せたのは間違いだったようだな。この程度の事態すらまともに収拾出来ないようではな…騎士の理想とやらを吐くのは貴様の勝手だが、力のともなわない理想などただの妄言…貴様に騎士を名乗る資格はない!」
「……ッ!」
エリスを突き放し、ヴェルサリアは立ち去ろうとするが……
「取り…消せよ…ッ!」
「なんだと?」
「取り消せって言ってんだ! 今の言葉を! そして、エリスに謝れ!」
朦朧とする意識を保ち、よろよろの足をひきずってヴェルサリアに迫る。ただ、どうしても許せなかった。エリスの思いを知らず、その言葉を吐いたのがエリスの憧れだった騎士だと言う事が。
「あんたにどんな信条があるのか知らねぇが、何も知らないあんたが、エリスの理想を踏みにじる様な事だけは絶対許さねぇ!」
「私は真実を告げたまでだ。ファーレンガルトの騎士は決して言葉を曲げない!」
「ふざけんな! あんたにこそ騎士を名乗る資格はない!」
「……」
ヴェルサリアの瞳に感情のさざ波が立った。
それは、苛立ちでも怒りでもなく…何か別の感情だ。
「消えろ! 織斑 一夏。お前の存在は目障りだ」
「待て! ……クッ!」
その場を離れようとするヴェルサリアの背中を追いかけようとしたが、一夏の視界が揺らぎ、口から血があふれ、目の前の景色が霞がかったように薄らいでいく。
「く、そ……」
「一夏くん!」
地面に倒れこむ一夏の体を、その場にいた鷹月さんが抱きとめた。
「ん……」
目を開けると、そこは見慣れない天井。微かに臭う薬品の臭い。一度入った保険室とはまた違った室内。そう、ここは医療室だ。
(あ…れ? なんで俺はここで寝てるんだ?)
記憶が混乱していた。
いつの間にか寝巻きに着替えていて、包帯を巻かれている。ベットの横には、血がついた包帯があった。
とりあえず、起き上がろうとしたが…
「ぐっ……あっ……!」
背中に焼けるような激痛が走る。
見ると、背中に巻かれた包帯の血が、乾いて固まっていた。
(そうだ…俺は…)
その痛みで、一夏はようやく思い出した…暴走した機体から鷹月さんを守り、負傷した。そして、その暴走機を一掃したのがヴェルサリアだ。圧倒的な破壊力で…それこそ、跡形もなく。
あそこまで破壊されては、中に捕らわれていた女子生徒達も無事ではない筈だ。
「学園最強のIS使い……ヴェルサリア…」
規格外の破壊力を持った専用機。そして、二年前よりも確実に強くなっている。
「俺は…あいつに勝てるのか?」
そう言うと、俺はベットから起き上がる。それと同時に医療室のドアが開いた。
そこに立っていたのは、簪と鷹月さんだった。
「簪…それに、鷹月…」
「い、一夏?!」
「一夏くん! まだ起きちゃダメよ‼」
二人は俺を見た瞬間に俺のところに駆け寄る。
「いや…起きちゃダメって……」
「ダメ…! 傷が開くから…」
「いや、もう大丈夫だって、ほら……って、痛えっ!」
「ほ、ほら! もう、おとなしくしてて! ほら、新しい包帯巻くから」
そう言って包帯を巻きなおす鷹月さん。見ると先ほどので傷が開いたのか右肩辺りが血で染まっていた。
「あ、あぁ、悪いな鷹月…」
「静寐…」
「え?」
「静寐でいいよ…。そ、その…助けてくれて、ありがとう」
頬を赤く染め、俯きながら俺にお礼を述べる鷹月…いや、静寐。そして、それを見て、ジト目で俺を見る簪さん…なんでだろ?
「あ、あぁ、じゃあ…静寐…」
「う、うん…」
「…………」
「…………」
なんだか、気まずい空気がながれる。
「ん、んんッ! とりあえず…今の状況を説明する…」
「あ、あぁ! 頼むよ簪…」
少し怒気混じりの咳払いをする簪に驚きながらも、簪は今の状況を説明してくれた。あの砲撃で捕らわれていた女子生徒達五人はやはり、重軽傷を負っていたらしい、そして、学年別タッグマッチトーナメントもヴェルサリアの進言でルールが改変されたみたいだ。
「えっ?! 学年別じゃなくなった? それじゃあ全学年合同でやるのか!?」
「うん…ヴェルサリアさんが『どうせなら、全学年でやれば一年生や二年生にもいい薬になる』って……」
「たぶん、どうせ自分が勝つとわかっているから…下級生に見せつけようとしているのかもしれない…『力こそが全てだ』って……」
ヴェルサリアの言う事は確かに理にかなっているのかもしれない。だか、それを他人に押し付ければ、それでいいってものでもない。彼女が変わったのはおそらく二年前のレン・アッシュベルとの試合だ。俺が彼女を変えてしまったのだ。
「あれから、エリスはどうしてる?」
「エリスさんは、自室に篭ってる…お姉さんに言われた事が相当堪えてるみたい…」
無理もない。自分の憧れだった騎士から騎士を名乗る資格はないと言われたのだから。出来れば、俺が力になってやりたいが…
「一夏は…ダメ…」
「えっ?!」
「今、『エリスの力になれたら…』って……思ってた…」
なぜに俺の考えていた事がわかったのか…さては、簪さんはエスパーですか?
「ダメだよ一夏くん。君は安静にしてないと…」
「それは、わかっているが………あっ!」
渋っていた俺は、ある事を思い出した。
「簪、お前まだタッグマッチのパートナー決まってなかったよな?」
「う、うん…それがどうかしたの?」
場所は変わってアリーナの観客席。そこに、一つの人影があった。
(もうすぐだ…! もう少しで真の最強になれる! そうすれば…いずれはまた彼女と…ッ!)
深夜の観客席。そこに立っていたのはヴェルサリアだった。
(たとえ、この〈システム〉に精神と肉体を蝕まれようともーー)
そう、一人で闇の中にたたずみ、昂ぶる気持ちを鎮めていた。すると、背後から気配を感じた。
「貴様か、魔女」
「あら、流石ね、あたしの気配に気付くなんて♪」
観客席のゲートの中から妖艶な笑い声が聞こえる。
現れたのは、VTシステム技師、ヴィヴィアン・メローサだ。
「今日はみごとだったわね、おかげでいいデータが取れたわ♪」
「やはり、あの暴走機をけしかけたのは貴様だったか」
ヴェルサリアは鋭い殺気をヴィヴィアンに向ける。
「ええ、でも、すぐに壊されちゃったけどねぇ〜。名高いIS学園とはいえ、あなたみたいな優秀な素材には、なかなか巡り会えないものねぇ」
「消えろ。もう二度と私の前に姿を現すなと言ったはずだ」
「あら、ずいぶんと冷たいのね。侵食率を調べにきてあげたのに」
「貴様の研究に協力するつもりはない。〈システム〉は完全に制御している」
「強がりはよしなさい。これを制御出来る者なんていないわよ。あのレン・アッシュベルでさえ…ね」
「ふんっ…まぁいい。とにかく消えろ。貴様の存在は目障りだ」
「はいはい。言われなくても…」
そう言うと、ヴィヴィアンはその姿を消し、ヴェルサリアは夜空に浮かぶ月を眺め、明日の試合に向けて決意を固めるのだった。
そして、翌日。
試合の抽選が行われた。
冬ニは同じ男のシャルルとそして、エリスは簪とタッグを組んだ。そして、一回戦の相手は…
織斑 冬ニ&シャルル・デュノア VS 篠ノ之 箒&ラウラ・ボーデウィッヒ
そして、
エリス・ファーレンガルト&更識 簪 VS ヴェルサリア・イーヴァ・ファーレンガルト&サラ・ウェルキン
となった。
次くらいで、ヴェルサリア&ラウラ篇は終わりかな?