ゴーレムⅠの襲撃事件から翌日。俺は知らない部屋のベッドで目を覚ました。
「うぅーん……ここは…保健室?」
全体が白く塗られた壁、白いカーテン、そして微かに漂ってる薬品の匂いでここが保健室だと分かる。
あの最後の一撃のあと、白桜の光輪乱舞が消え、その後にかかった疲労感によってその場で気を失ってしまったためである。
「ふぅー、確かに凄い力だが、ここまで疲労感が襲ってくるとは……こいつはとんだじゃじゃ馬みたいだな。」
そう愚痴りながらもベッドから起き上がろうとした俺だったのだが、
モゾモゾ……モゾモゾ……
「ん?何だ?なんか変な膨らみが……」
その時だった。シーツの中から一人の少女が現れたのだ。
しかも両脚のニーソックス以外は全裸の少女が…
「はぁ⁈」
「おはようございます。ご主人様…」
「はあぁぁぁ⁉」
保健室内に俺の叫び声がこだまする。
「ご、ご主人様って誰が⁉俺が?って言うかお前は誰だ‼」
「エスト……人間の発音器官では、私の真名は発音出来ませんので、エスト……とお呼び下さい。ご主人様」
「エスト……それがお前の名前なのか。」
「はい。ご主人様。」
「じゃあ、エスト。質問いいか?」
「はい。なんでしょう…」
「何で俺がお前のご主人様なんだ?」
「ご主人様はご主人様だからです。」
何を当然の事を……みたいな目で俺を見るエスト。
(えぇーと、俺がこの子のご主人様?全く覚えがねぇ〜)
「まあ~それはさておき、そのご主人様って言うのはなしにしないか?」
「何故ですか?」
「出来れば、他の呼び方がいいんだが……」
「わかりました。では、マスター。」
「呼び方変わっただけじゃねーか!」
「では、お父様。」
「何でだよ!ダメだ!」
「パパ?」
「もっとダメだ!……あーもう、俺が悪かったよ。一夏だ一夏。そう呼んでくれ。」
「一夏、一夏……ご主人様は一夏。」
そう確認する様に俺の名前を連呼するエスト。しかし、まだ解決されてない問題がある。
「なぁ、エスト。」
「なんでしょう一夏。」
「何でニーソだけ履いてるんだ?」
「ッ!ニーソを脱げと言うんですか⁈一夏のエッチ。」
「なんでだよ!つーかお前全裸じゃん!両脚しか隠せてないけど⁈どんな羞恥心⁈」
そんな会話とミニコントをしている時だった。保健室のドアがいきなり開いたのである。
「一夏!大丈夫⁉気分はい……い……?」
「一夏、見舞いにき、た…ぞ?」
「一夏さん。ご機嫌いかがで……す、の?」
ドアの向こうには俺を心配して来てくれた鈴、箒、セシリアがおり、その後ろには冬ニの姿もあった。
しかし、三人は目を丸くし、ぽかーんと口を開けてこっちをみており、冬ニは頭に?マークを浮かべてこっちを見ていた。
(ま、まずい!こ、こ、これは…非常にまずい‼)
それはそうだろう。なんせ俺のいるベッドの中に一緒にほぼ全裸の少女がいるのだから。
「い、い、一夏‼あんたなにやってんのよ⁉」
「一夏、貴様‼」
「なにをしてますの⁉なんと破廉恥な‼」
事態に気づいた三人はすぐさま鬼の形相で俺を睨み、冬ニは相変わらずフリーズしたままだった。
「い、いや!これには訳があって…と、とりあえず落ち着け⁉」
「これが……」
「落ち着いて……」
「いられますか!!!」
三人の叫び声と共に、鈴の手には双天牙月が、箒の手には日本刀が、そしてセシリアの手にはスターライトが握られていた。
「一夏〜!!死ねぇぇぇ!!!!!」
「天誅ぅぅぅぅ!!!」
「見損ないましたわ!!!!!」
「うわ!ちょっ、待て!うわぁぁぁぁ!!!!」
鈴と箒は斬りかかり、セシリアはスターライトで俺を狙撃して来た。流石に死を覚悟した俺だったのだが…
「控えなさい……未熟な操縦者とただの人間が、この『魔王殺しの聖剣[デモン・スレイヤー]』に刃向かいますか。」
俺の前に立ったエストが白桜の左肩部のユニットを呼び、セシリアのビームを防ぎ、ユニットから出した小太刀で箒の斬撃を受け止め、右手を双天牙月にかざし、双天牙月をぐしゃりとへし曲げてしまった。
「なっ⁈」
「部分展開⁈」
「双天牙月が⁉」
箒もセシリアも鈴もあまりの早技に驚きを隠せなかった。
「ってちょっと!どうしてくれるのよこれぇぇ!!」
鈴が怒るのも無理ない。甲龍の武装である双天牙月がみるも無惨な事になったのだから。すると、エストは再び双天牙月に右手をかざす。そうすると、かざした途端双天牙月が粒子変換し、元の形に戻ったのだ。
「なっ⁈」
「これは一体…」
「どうやりましたの⁈」
「これは『属性干渉(ハウリング)』と言うものです。私はあらゆる刀剣類に干渉する力を持っています。それはISの装備でも例外ではありません…」
エストがいつものように冷静でたんたんと事の説明をする。
「エスト……お前、もしかしてIS…いや、白桜なのか⁈」
「はい。その通りです一夏。私はあなたの専用機、白桜のコアから生まれた人格と言えばいいでしょうか……」
すると、エストの体が光に包まれていき、俺の右手首に集まるとそこには、二つの剣が交差した様な形の白いブレスレットになっていた。しばらく眺めていると再び光りだし、元の少女の姿に戻った。しかし今度は、裸ニーソでは無くIS学園の制服を着ていた。
「お前……制服を粒子変換出来るやらもっと早くやってくれよ……」
「この方が一夏は喜ぶと思ったので…」
「お前は俺を何だと思ってんだよ…まぁ~いい、ところで話は変わるんだがエスト、ちょっと聞きたい事があるんだが。」
「なんでしょう一夏。」
「以前セシリアとの決闘の時、フォーマットとフィッティングをやった時になんだが、お前とのリンクが一瞬途切れた様な感覚があったんだが…あれはどうしてなんだ?」
「わかりません。しかし、あの時は私と言うより一夏の方に問題があったと思います。」
「俺に?」
「はい。一夏は無意識に私とのリンクを拒んでいる様でした…」
「…………」
確かに、言われてみればそれも事実だ。レスティアの事があって何処かエストの事を拒んでいたのかもしれない。
「ごめんな……決してお前と一緒に居たくないとかそう言うのではないんだ。許して欲しい。」
「別に気にしてはいません。むしろ私も久しぶりに外に体を構成して出てこれたので、一夏には感謝しています。」
「久しぶり……って事は、以前にも外に出た事があるって言うのか?」
「肯定します。しかし、出た時間は短かったですし一夏以外にも私を乗りこなそうとした操縦者達もいましたが、その者達の前には、一度も姿を出した事はありませんでした。」
「でも何で俺の前には姿を出したんだ?」
「それは、直感…でしょうか。私はあなたに好意みたいな感情を持っています。」
「こ、こ、好意⁈」
「はい。好きかも…と言う事です。……あなたと私はどこか似ている気がします。」
そう言いながら、顔を近づけて俺を覗き込む様に見てくるエストに少しドキドキしながら顔をそらす。
「まぁ、なんにせよこれからよろしくな、エスト。」
そう言いながらエストの頭を撫でてやると、エストは気持ち良さそうに目を細める。
「ふぁー、一夏……」
そして翌日。エストが人型になったと千冬姉に報告すると千冬姉は頭を抱えていた。そしてエストの一組への編入が決まったのである。
「えぇーと、今織斑先生の説明があったと思うんだけど、こいつは俺のISのコアみたいなもので名前はエストって言うんだ。みんな仲良くしてくれないか?」
「テルミヌス・エストと申します。よろしくお願いします。」
俺の説明とエストの自己紹介が終わった時、教室内は静寂に包まれていたが、その数分後には割れんばかりの歓声か響いた。
「きゃぁぁぁー、可愛いぃぃぃ!!!」
「なにあの子、お人形さんみたい!!」
「エストちゃん!こっち向いて‼」
「撫で撫でさせて!!!!」
「うぅん、こいつは凄いな……」
留まる事がないクラスメイトの圧力に俺もエストもタジタジだった。
いやー自分で書いててなんですが、エスト……すっげー可愛いですよね〜~。