「申し訳ございませんでした!」
開口一番に土下座を敢行。
決して、土下座癖が付いた訳ではないからな!
「・・・まずい事になった」
「・・・やはり・・・」
「うむ。ツクモがな」
週に一度の訪問曜日。
事実を逸早く伝えるべきかとも思ったが、予定にない時にジャンプして拙い事になったら困ると、臆病風に吹かれて、結局、予定日まで無為に過ごす事になってしまった。
そして、今日、ようやく予定の日になり、急いで跳んだ。
眼の前には苦悩する神楽大将。
俺にはただ頭を下げるだけしかできなかった。
「今日はあの三人も呼んであるんだ」
「・・・そうですか」
顔を合わせ辛いな、あの三人とは。
「もう数時間したら来るだろうから、それまで地球の状況を教えてもらおうか」
「はい。それでは・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そうか。地球も荒れているのだな」
先日のユリカ嬢の改革和平派代表就任の事から、
草壁派と北米支部に嵌められて総参謀長が永久追放された事などを話した。
「はい。木連の情勢はどうなっていますか?」
「草壁派が先日、シラトリ・ユキナの奪還を大々的にアピールしていた」
「どのように報道されていましたか?」
「シラトリ・ユキナが生きていると発覚し、総勢を上げて地球へと襲撃。どうにか敵の防衛網を破り、囚われていた基地へと少数ながら突撃した。十機で飛び込み、九機もの多くの犠牲を出しつつ、一機がボロボロになりながらもどうにか帰還し保護に成功したといったところだ」
「それはまた、木連が好きそうな展開ですね」
「うむ。その結果、木連内の草壁中将の支持が更に増してしまったよ」
「ユキナちゃんはどうしているんですか?」
「保護され眠っている姿は映されたが、その後の事は聞かされていない」
・・・ユキナ嬢は囚われの身か。
「ツクモさん達の様子はどうでした?」
「前もって話しておいた事が功を奏したのだろう。シラトリ・ユキナ帰還に喜びつつも複雑といった感じだ」
俺達に話を聞く前だったら単純に妹の帰還に喜んだだろう。
無論、草壁に対する尊敬の念も。
だが、ユキナ嬢をナデシコが保護していると知り、安全であると知った。
その裏の事情を知るが故に、この一連の奪還もどこか演出のように感じているのだと思う。
確かに地球に置いておくのは危険だが、木連内にいるより安全だったのではないか?
彼が妹に弱いというのは周知の事実。利用されかねないと危惧していたと思う。
たとえば俺達の下にユキナ嬢がいれば、ツクモさんは自分の意思で動ける。
だが、草壁の下にユキナ嬢がいると、必然的に草壁に付く事しか出来ない。
自由選択の意思を奪われ、妹の為に組織に力を尽くさなければならなくなる。
これはツクモさんにとって人から機械になれと言われているに等しい。
しかし、従わざるを得ないだろう。
何故なら、妹が彼の自由の翼を封じる枷となっているのだから。
「悩み続け、そろそろ結論を出そうかという状況下でのこれだ。残念な事だが、彼ら三名は草壁中将に付く可能性の方が高いだろう」
・・・だろうな。
ユキナ嬢は三羽烏三人にとって妹みたいなものだ。
実際、一人は本物の兄妹な訳だが・・・。
妹分が囚われていて、好きに動く事なんて出来ない。
また、たとえ素直にユキナ嬢を返して貰おうとも、その恩義があり、従わざるを得ない。
結局の所、ユキナ嬢を確保した事で三羽烏を手中に収めたも同然なのだ。
「草壁中将はユキナちゃんをどうするんでしょうか?」
「うむ。手元に置いておくか、ツクモに返すか」
「どちらにしても、中将の思い通りですね」
「ふぅ。後手に回ってばかりだ。上手くいかんな」
「ええ。本当に」
俺達の計画は長期的なもの。
その為、短期的に成果は見えてこない。
それは分かっているのだが、どうしても成果が見えないと不安になる。
向こうが着実に成果を残しているからこそ尚更。
「地球では今後、反乱分子を抑える仕事が増えそうです」
「ふむ。どうしても和平を嫌がる者はいる。それは地球も木連も同じだな」
「ええ。まぁ、地球の場合は個人的な理由が多いでしょうけどね」
「木連とて変わらんさ。復讐とて個人的な理由」
利益を求めるのも復讐も結局は個人的な理由か。
「それなら、戦争自体も個人的なものなんですね」
「・・・そうなるな」
結局、個人的理由で争う者に他の人間が巻き込まれているだけなんだな。
「無論、私達も個人的な理由で和平を考えているのだがね」
「ええ。私は戦後の平穏な生活の為です」
「そうかね。突然だが、私には夢があるのだよ」
「夢・・・ですか?」
「ああ。それはそれは大きな夢さ」
神楽大将の夢。
木連最強の武人であり、人格者である男の目指す先とは・・・。
凄く興味がある。
「木連式武術を多くの人に伝えたい」
「木連式武術を?」
「そして、他の流派と触れ合い、木連式武術を更に昇華させたいのだ」
触れ合い、昇華させる・・・。
「地球には多くの武術があるのだろう?」
「ええ。国単位、地域単位、もっと言えば、人単位で異なります」
武術と一言にいっても多くの流派があり、更にはそれらを組み合わせて新しい流派が生み出される事もある。
武術の歴史は長い。中国でも日本でも、年々廃れながらも語り継がれてきた。
「私は木連式武術を伝え、他の流派と切磋琢磨し、更に流派の技を深めたい。木連は木連式武術だけの決まった形しか持たない国。それでは駄目だ。先には進めない。凝り固まった概念など捨てるに限る。私は武人として、もっと多くの武術と触れ合い、もっと多くの強者と戦いたいのだ」
「・・・壮大な夢ですね」
「ハッハッハ。子供みたいであろう」
「いえ。とても大将らしいです」
「そうかね。ハハハ」
「ええ。本当に」
・・・武人の貴方らしい夢です。
より強く、より早く、より高みへ。
子供だなんてとんでもない。
一人の大人として、尊敬する姿です。
「その時は是非君も育ててみたいな」
「え? 俺ですか? 才能ないですよ」
自覚しているし、ケイゴさんにも言われた。
「なに。才能なんぞなくとも何かがきっかけで目覚めるかもしれんからな」
「そうですかね?」
「気が向いたらで構わんよ」
「機会がありましたら、よろしくお願いします」
「うむ。早速地球人の木連式武術の後継者を見付けたな」
継げる程の技量になるかは分かりませんけどね。
「君の言う平穏な暮らしとはどんな暮らしなのだね」
「簡単です。愛する妻と愛する子供に囲まれて、時に喧嘩し、時に愛し合う。別にお金持ちじゃなくてもいいですし、有名にならなくても構いません。上司に認められずとも、妻や子が私を認め、支えてくれます。俺が求めるのは笑顔溢れる極々平凡などこにでもある家庭。ただそれだけです」
「ハハハ。そうか。君程の能力と功績があれば要職に就けるのに、その先は求めないと?」
「いや。人には人に相応しい地位や立場がありますよ」
俺なんかとても人の上に立てる人間じゃありませんし。
「和平の架け橋となる男が平凡な生活を望んでいるか・・・」
「ですから、私はそんな立派な事はしていませんよ。せいぜい地球と木連を往復しているだけです。私なんかよりケイゴさんやアキトさんが、そう呼ばれるべきです」
「フハハ。立派な人間は総じて自分の事を低くみるものだよ」
随分と酷い勘違いをしているなぁ、カグラ大将は。
「さて、今後はその代表となった者に近況を伝えていけばいいのかね?」
「・・・そうですね」
ユリカ嬢にこういう陰謀チックな事は向いてないだろうな。
彼女は戦術家であって戦略家ではないし。
う~ん。とりあえずムネタケ提督に相談してみよう。
今現在何をしているかは知らないが。
もしかしたら提督じゃなくなっているかもしれん。
いや、良い意味でね、昇進しているかもって事。
「伝えるべき人には私がきちんと伝えますので、地球側についてはご安心を。和平派同士の足並みが揃うようしっかりと役目を果たします」
「うむ。君ならば安心して任せられる」
「それは嬉しいですね」
そこまで信頼されると嬉しいものだ。
地道に毎週通い詰めた意味があったな。
まぁ、通い詰めるといっても、一瞬の移動だが。
「ふむ。そろそろかな」
「俺はどうすれば良いですかね?」
「奥の部屋で待機していてくれ。会話が聞こえるよう扉は少し空けておいて構わない」
「分かりました」
・・・彼らの前で、俺が一番始めにやらなければならない事は・・・。
コンコンッ。
「入りたまえ」
「「「「ハッ。失礼します」」」」
ツクモさんに謝る事だろうな。
「・・・大将」
「うむ。話は聞いた。シラトリ・ユキナが無事に戻ってきたようだな」
「はい。ご心配をおかけしました」
「なに。弟子の心配をするのは当たり前の事だ。当然、その家族もな」
「大将・・・」
「・・・では、お前達の答えを聞かせてもらおうか」
「・・・・・・・」
大将の言葉に黙り込む三人。
深く悩み、深く考えたであろう決断。
その答えを聞く時が来た。
「・・・私は神楽派には・・・」
ゴクリッ。
「・・・付いていけません」
・・・ツクモさん。
「ユキナが・・・戻って来ないのです」
「・・・中将が保護下に?」
「はい。精神的に不安定だから、落ち着くまで預かっていようと」
「・・・そうか」
「神楽大将の想いは私も共感できます。私も・・・和平を成し遂げたい」
「うむ」
「ですが・・・ですが、私にとっては自分の命より大切な妹です」
「・・・そうか」
「申し訳・・・ありません」
「・・・・・・」
表情を歪め、苦悩しきった顔で弱々しく告げるツクモさん。
・・・やはりこうなったか。
「・・・今回のシラトリ・ユキナ奪還の仔細は聞いたか?」
「いえ。私も他の二人も待機命令が出されていました」
「そうか。・・・私は詳細を聞いた。誘拐だそうだ」
「・・・誘拐?」
「太平洋に戦隊を展開。迎撃で基地を留守にした間に誘拐するように連れて行ったと」
「・・・そうでしたか」
「なッ! 中将がそのような事をする筈がありません! 中将はユキナを―――」
「それならば、何故、ツクモの下へ妹を返さない」
「そ、それは・・・」
「真実の漏洩を防ぐ為。ツクモの下へ返し、お前達が支配下から抜けるのを抑える為だ」
「それでは、ユキナは・・・」
「そう、お前達の動きを抑える為の枷。・・・人質だ」
「・・・クッ」
項垂れるツクモさん。
「・・・行くしかないだろ」
今、この瞬間に謝罪しなければ、絶対に後悔する。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
大将、よろしいですか、そう視線で訴える。
すると、大将は無表情で頷いてくれた。
「・・・行こう」
部屋の扉を思いっきり開き、皆が注目する中、ツクモさんの前まで向かい・・・。
「申し訳ありませんでした」
土下座した。
信頼を裏切って、約束を守れず、申し訳ありませんでした、と。
「あ、貴方は!」
俺が必ず護ると約束したのに・・・。
こうして大切な人を囚われの身としてしまった。
ガツッ。
胸倉を掴まれる。
土下座の体勢から強引に立ち上がらされ、真正面から眼を合わせて来るツクモさん。
「貴方は、貴方は必ずユキナを護ると、そう約束しました」
「・・・はい」
「それなのに! それなのに、どうしてこうなったのですか!」
「・・・すいません」
「謝って・・・謝って済む事ではありません!」
ドガッ!
頬を殴られ、床に倒れこむ。
・・・これは俺が受けるべき罰。
何発殴られようと、頭を下げ続けねばならない。
そうしないと、俺が俺を許せない。
「ユキナが! ユキナが今、どれだけ苦しい思いをしているか!」
ドガッ!
「くだらない争いに巻き込まれ、どれだけ心細い思いをしているか!」
ドゴッ!
「怖がっている!」
ドガッ!
「苦しがっている! 涙を堪えている!」
バキッ!
・・・奥歯が折れたな。
本当に遠慮なく殴ってきやがる。
「シラトリ中佐! もう―――」
「黙っていろ! サブロウタ!」
タカスギさんがツクモさんを止めようとするが、大将の一言で動きを止める。
・・・ありがとうございます、大将。俺の思いを酌んでくれて。
「悲しんでいる。ユキナは・・・強くありません。強がっているだけだ」
「・・・・・・」
「だから、俺はユキナを護っていこうと決めた、絶対に」
胸倉を掴まれたまま、眼の前にツクモさんを見る。
その顔には涙が零れており、先程までの姿が嘘のように弱々しく見えた。
「それを、それを貴方は!」
バゴッ!
「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
最早顔はボロボロだろうな。
口の中も切れまくっているし。
顔が膨らんでいるのが分かる。
あぁ~。またミナトさんとセレス嬢を心配させちまうな。
もしかしたら、説教を喰らう事になるかもしれん。
・・・こんな事を考える余裕がよくあるな、俺。
「・・・分かっています。これが唯の八つ当たりであると」
「・・・ツクモさん」
「貴方はパイロットとして戦場に立っていた。違いますか?」
「・・・そうです」
「貴方は地球人の命を背負っている。ユキナ一人の為に動けない」
「・・・・・・」
「それぐらい、この私にも分かっています。ですが、どうしても・・・」
「・・・・・・」
「どうしても、許せなかった」
「・・・当然です。貴方は何も悪くない」
「・・・・・・」
「俺が、俺がいけないんです。俺が未熟だったから・・・」
どうしてユキナ嬢を護れなかったのか。
争いになったらどうしても基地が手薄になってしまうのは分かりきった事。
そんな時こそ危ないなんて子供にだって分かる事だ。
どうして、そんな事にも気付けなかったのだろう。
俺は・・・本当に馬鹿だ。
「・・・何故だ」
「え?」
「・・・どうしてこうなった・・・」
「ゲンイチロウ?」
呆然と何かを呟きだすツキオミさん。
「俺はまた草壁中将の下、三人でやっていけると思っていた」
「ゲンイチロウ。まさか、お前・・・」
「そうだ。草壁中将に話したのは俺だ」
「ツキオミ。お前が・・・」
どうして、どうしてですか!? ツキオミさん!
「和平などというくだらない思想に染まり、闘争心を失ったお前達を見ていたくなかった」
「くだらない? 和平がくだらないと言うのですか!?」
許せなかった。
ミスマル司令が、カグラ大将が、力を尽くして成し遂げようとしていた和平を。
暗殺されかけても、それでも和平を訴えた司令の志を。
多くの人間が望み、未来へ繋ぐ為の大事な行為を。
今この人は全て、全てを否定したんだ!
「くだらないであろう! 俺達は地球を見返す事を生き甲斐にしてきた!」
「それこそくだらない! 復讐を生き甲斐にして何の意味がある!」
「貴様には分かるまい! 俺達の苦しみも憎しみも!」
「だから、だから親友の妹を売ったのか!?」
「違う! 俺はただ、二人にも俺と同じ道を共に進んで欲しかっただけだ!」
「その結果がこれです! 貴方のせいで親友が苦しんでいる!」
「それは・・・クソッ!」
・・・どうしてだよ?
どうして分かってくれない。
復讐して何になる。未来が拓けるのか?
その先に、貴方の望む世界があるのですか?
「・・・カグラ大将」
「何だ? ゲンパチロウ」
ツクモさんが項垂れ、ツキオミさんが俯く重々しい雰囲気。
そんな中、無言に徹していたアキヤマさんが口を開く。
「私は貴方に付いていきます」
「なっ!? ゲンパチロウ! お前」
「ツクモ。ゲンイチロウ。すまないな」
「馬鹿な真似はやめろ。お前も俺達と共に―――」
「ゲンイチロウ。言った筈だ。俺達は先を見なければならないと」
「だから、共に地球を滅ぼし―――」
「最早何を言ってもお前とは意思を共に出来まい」
「・・・ゲンパチロウ」
「いいのだな? ゲンパチロウ」
「はい。和平の為、友情を断ちましょう」
「艦長・・・」
「サブロウタ。お前はこれより別の―――」
「何を言っているのですか。私は貴方に付いてきますよ」
「・・・後悔はしないな?」
「はい。艦長と共に意思を貫きます。和平の為に全力を」
「ああ」
アキヤマさんが二人との友情を断ち、こちらに付いた。
喜ばしい事だが、彼ら三人の友情を考えると・・・胸が痛い。
それに・・・。
「いいのですか? もし貴方が神楽派に付いたと知ったら、ユキナちゃんが」
「そ、そうだ。ゲンパチロウ。考え直せ」
突き込む隙を見付け、必死に説得するツキオミさん。
そのチャンスを与えてしまったのは俺だが、この問題は無視出来ない。
「ゲンパチロウ・・・」
頼む。そう言いたげな顔でアキヤマさんを見詰めるツクモさん。
妹の身に何があるか分からない。だから、頼むから付いて来てくれ、と。
でも、アキヤマさんは首を横に振った。
「殺せまい」
「え?」
「もし、ユキナに危害を与えたらツクモが離れる。それを知っている以上、手は出せん」
「それでも、万が一が・・・」
「二度も言わせるな。こちらに付くと決めたのだ。何があろうとその意思は貫く」
「ゲンパチロウ。ユキナがどうなってもいいのか!?」
「ゲンイチロウ。悔しく、悲しいが、これは戦争だ。私情を挟む物ではない」
「草壁中将を、俺を、ツクモを、お前は裏切るというのか!?」
「裏切ったのはどっちだ! 俺は木連の事を真剣に思う中将に憧れ付いていこうと決めた。だが、今の中将は木連の事など考えていない! 中将は俺の、俺達の思いを裏切ったんだ!」
「違う! 中将こそ誰よりも木連の事を考えている!」
「ならば! このような卑怯なやり方をした中将を! お前は信じられるのか!」
「俺は・・・中将を・・・」
「正々堂々と信念を貫く事こそが木連戦士だと力強く語るお前が! このような卑劣を許すのか! 中将であれば何をしても許されると、お前はそう考えているのか!」
「俺は・・・俺は・・・」
揺るがぬ意思。揺るがぬ信念。
何者にも屈しない力強さを見た。
「ツクモ。すまない」
「・・・ゲンパチロウ」
「俺達の縁も・・・ここまでだ」
「・・・いや。俺のせいで辛い決断をさせたな」
「・・・達者でな」
「・・・ああ」
トボトボと扉へと向かっていくツクモさん。
「・・・大将」
「何だ?」
「もし、もしユキナを取り戻せたら・・・私も・・・」
「・・・・・・」
「・・・いえ、何でもありません」
「・・・そうか。中将に尽くせ」
「ハッ。失礼致します」
退室していくツクモさんとそれを見送る俺達。
・・・辺りを静寂が包み込んだ。
「何故だ? ・・・どうして、こうなってしまった」
「・・・ゲンイチロウ」
「俺はただ、草壁中将の下でお前達と志を同じくしたかっただけなのに」
「・・・お前はお前の信念に従え」
「・・・ゲンパチロウ」
「それが、お前の生き様だ。俺達も離れる時期が来たのだよ」
「・・・俺とお前もここまでか?」
「・・・ああ。俺には俺の、お前にはお前の道がある」
「・・・そうか」
「今まで楽しかったぞ。ゲンイチロウ」
「ああ。俺もだ。ゲンパチロウ」
立ち上がり、キリッとした凛々しい表情で敬礼するツキオミさん。
「失礼致しました! 大将!」
「お前も草壁中将に付いていくのだな」
「ハッ!」
「・・・そうか。残念だ」
「申し訳ありません!」
「いや。信念を貫け。ゲンイチロウ」
「ハッ。ありがとうございます」
「うむ。行ってよい」
「はい」
扉へと向かうツキオミさん。
そのまま退室していくのかと思いきや、振り返り・・・。
「大将。私が中将に告げたのは、ユキナの生存を大将より教えられたという事。神楽大将より俺達三人に接触があったという事。その二つだけです。ケイゴや地球との事は何も言っておりません」
「言わなくていいのか? お前は中将に付いていくと決めたのであろう?」
「ハッ! ですが、それは私の信念に反する行い。私は正々堂々立ち向かいます」
「そうか。分かった」
「ハッ。それでは、失礼致します!」
そうして、ツキオミさんも去っていった。
「・・・アキヤマさん」
「大人にはなりたくないものだな。友情より理屈を取った」
「後悔・・・しているのですか?」
「まさか。私の生き様に後悔などないよ。ただ悲しいだけだ」
・・・アキヤマさん。
「秋山・源八郎」
「ハッ!」
「高杉・三郎太」
「ハッ!」
「貴君らの決意。感謝する」
「「ハッ」」
「歓迎しよう。我らの願う和平の為、貴君らの力を貸して欲しい」
「「ハッ!」」
友情を断ち切り、信念に生きたアキヤマさん。
力強い味方を得たのは素直に喜ばしいが、複雑な思いだった。
願わくは、三羽烏皆と共に歩みたいと思っていた俺は甘かったのだろうか。
・・・こうして彼らは友情を断ち切り、それぞれの道へと進んでいった。
無二の友、いや、無三の友である友を失った彼らの気持ちは俺には分からない。
なんでもないように笑う秋山さんの横顔が酷く悲しそうに見えたのは俺の勘違いではないと思う。
ユキナ嬢が兄と慕う三人。
その三人の友情を引き裂いてしまったのは・・・状況か、環境か、それとも俺なのか・・・。
少なくとも、ユキナ嬢が悲しむ事は間違いない。
・・・悔しい、苦しい、そして、胸が痛い。
俺は・・・やっぱり、彼ら三人と共に歩みたかったんだ。
三羽烏と呼ばれる木連の戦士達と共に。
その為にも俺にできる事、いや、すべき事をしよう。
たとえ、死ぬ事になろうとも・・・彼女は俺が救ってみせる。