機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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陰謀ひしめく太平洋

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「・・・・・・」

 

私達はモニター越しに戦況を眺める事しか出来ない。

それが堪らなく悔しい。

 

「・・・コウキさん」

 

戦場に大切な人がいる。

それが辛くない訳がない。苦しくない訳がない。

でも、信じるしかないんだ。今の私達にはそれしか出来ない。

 

「司令の仇を!」

「木連に痛い目を味わわせてやれ!」

「潰せ! 潰せ!」

 

モニターを見ながら叫ぶ軍人達。

どれだけ司令が慕われているかが分かる。

でもね、忘れちゃ駄目よ。司令は何を願っていたの?

司令を慕っているのなら、和平に向けて全力を尽くしなさい。

木連を潰せなんて聞いたら、司令はきっと悲しむわ。

それが自分を慕ってくれているからこそ出た言葉だとしても。

 

「私、ここにいたくない」

「・・・ユキナちゃん」

 

そうよね。木連人の貴女はここに居辛いわよね。

 

「行こう。ユキナちゃん」

「・・・でも」

「いいから。セレセレも」

「・・・すいません。私はここでコウキさんを」

 

あらあら? 逆らわれたのなんて初めてじゃないかしら?

それ程、セレセレにとってはコウキ君が大事って訳か。

妬けちゃうわね。

 

「分かったわ。何かあったら教えてね」

「・・・はい」

 

私の分までコウキ君の無事を祈ってあげて。セレセレ。

私は彼女の事を見ているわ。

きっとコウキ君がいたら、彼女を護ってあげていたと思うから。

 

「行くわよ。ユキナちゃん」

「・・・うん」

 

シュインッ。

 

指令室から抜け出す。

 

「ユキナちゃんの部屋ってどっちだっけ?」

「あっち」

 

指で指し示すユキナちゃん。

そっちか。それじゃあ・・・。

 

「・・・あ」

 

なんだか元気がなかったから、手を繋いでみた。

 

「・・・あ」

「偶にはいいでしょ? ね?」

「・・・うん。私、お兄ちゃん以外の人と手を繋いだのは初めて」

「そっか。女の人の手もいいものでしょ?」

「うん。お兄ちゃんと違う暖かさがある」

 

肩を並べて歩く。

なんだか妹が出来たみたいで嬉しい。

セレセレはもう娘みたいなものだし。

 

「私、お母さんもお父さんも早くに亡くしちゃったんだ」

「うん」

「だから、ずっとお兄ちゃんと二人っきりだったの」

「そっか」

「それからしばらくして、ゲンイチロウとゲンパチロウと知り合って・・・」

「楽しくなってきたの?」

「うん。変な二人だけど、とっても良い人」

「お兄ちゃんの親友だもんね」

「本当に三人とも仲が良いんだ。喧嘩もするけど、すぐに仲直りしていた」

「うん」

「だから、三人にはいつまでも仲良くしていて欲しいの」

「優しいのね。ユキナちゃんは」

「そんな事ないよ。三人は三人揃って初めて一人前なんだから」

「ふふっ。手厳しいわね」

 

でも、本当に三人が大好きなのね。ユキナちゃん。

こんなにも飛びっきりの笑顔で語るなんて・・・。

 

「前にさ、木連に行った時」

「ええ」

「ゲンイチロウだけ、凄く悩んでいた」

「そうなんだ」

「お兄ちゃんもゲンパチロウも悩んでいたけど、ゲンイチロウはもっと」

「それで仲が悪くなるんじゃないかって?」

「ううん。きっと敵同士になってもお兄ちゃん達の友情は変わらないと思う」

「それじゃあ、何が心配なの?」

「私のせいで友情が壊れる事」

「え?」

「私が今、地球にいる事で、お兄ちゃん達は凄く心配している」

「そうね。大事な妹分だもの」

「もし私に何かあったら、お兄ちゃん達の仲が悪くなるかもしれない」

「どうしてそう思うの?」

「お兄ちゃんはきっと私に何かあったら、信念を曲げてでも従うと思う」

 

ユキナちゃんを人質にして、シラトリさんを従わせる。

卑怯だけど・・・一番有効な手段。

 

「でも、ゲンイチロウもゲンパチロウも信念を曲げない人」

「頑固って事?」

「そう、凄い頑固。思い込んだら一直線」

 

なんとなく分かる気がするわ。

シラトリさんの親友ってだけでね。

 

「皆、それぞれの信念を尊重している。貫く事を誇りとしている」

 

良い関係ね。羨ましい友情関係。

 

「でも、お兄ちゃんは私のせいで曲げてしまうかもしれない」

「それが怖いの?」

「そう。友情が深いからこそ、本当の意味で仲違いしたらきっと・・・」

 

自分のせいで兄の友情関係が壊れてしまうのが怖い。

三人ともお兄ちゃんとして慕っているからこそ余計に。

 

「でも、そんな事はさせないわ」

「え?」

「そんな事は絶対にさせない。だって・・・」

 

だって、ここには皆がいるもの。

ナデシコの皆で貴女を護るわ。

だから、安心して。ユキナちゃん。

 

「私達が貴女をまも―――」

「シラトリ・ユキナだな?」

「・・・え?」

 

突如として背後から聞こえてきた声。

どうしてだろう? 凄く・・・振り向きたくない。

 

「檻から飛び立とうとする烏の枷となってもらおうぞ」

「ミ、ミナトさん」

「だ、大丈夫よ。だって、ここは・・・」

 

地球連合軍の基地だもの。

護ってくれる軍人がいる―――。

 

「・・・いない?」

 

どうして? 地球人の本拠地なのよ?

・・・そうか。皆、出撃中なんだ。

そうじゃなくても、モニターしか見えていない。

誰もこんな所に・・・いる筈がないんだ。

いつもユキナちゃんを護っている護衛も・・・ここにはいない。

彼らも司令、司令とモニターを噛り付くように見ていた。

・・・今、この空間には・・・私達しかいないんだ。

 

「我らが栄光の為に」

 

震える身体に鞭を打って、振り向く。

眼の前には・・・爬虫類のような顔の男。

全身から・・・恐怖が込み上げてくる。

本能が・・・彼との接触を拒んだ。

 

「ユキナちゃん! 逃げ―――」

「眠れ」

 

ドガッ!

 

「うっ」

「ミナトさん!」

「付いて来てもらおう」

 

ユキナ・・・ちゃん。

御願い・・・逃げ・・・て・・・。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

流石に・・・これだけの長い時間、戦うのは厳しいな。

 

『・・・コウキ。弾切れしちゃったわ』

「・・・仕方ないさ。誰だってこんな長時間は保っていられない」

『私も弾切れです』

 

俺も弾切れだ。

既に格闘戦以外の攻撃する方法はなくなっている。

 

「クソッ。どれだけ用意してんだよ」

 

どれだけやっても減らない敵機。

既に有人機は数えられる程だが、バッタなどの無人兵器は際限なく現れる。

何だ? これが木連の最終決戦とでもいうのか?

 

『隊長。戦線を下げますか?』

 

・・・それも考慮しなくちゃならないか。

 

「全機、戦線を下げる。後退を―――」

『た、隊長! 我々も復帰します』

 

アインス4? アインス5?

 

「お前ら、どうして?」

『修理と補給を終えたので。隊長達はこれを』

 

弾薬? 補給させてくれるのか?

ありがたい。

 

「すまない。助かった。カエデ。ライフルを」

『ええ。ありがとう』

 

カエデに投げ渡されたラピットライフルに弾薬を詰める。

肩のレールキャノン用の弾も数発だけだが補給できた。

おし。これでまだ戦える。

 

『それと、司令部より伝言があります』

「何だ?」

『あと少し戦線を維持してくれ。戦況を覆す援軍が現れる、との事です』

 

あと少しってどれくらいだよ・・・。

曖昧だなぁ・・・。先の見えないマラソンほど辛いものはないっていうのに。

ま、戦況を覆す援軍っていうのは嘘じゃないと思うから・・・。

 

「気張るか」

 

あと少しで終わる。

それなら、やるしかないだろう。

 

「各機へ通達。最後だ。死ぬ寸前まで暴れまわれ」

『『『了解!』』』

『死ぬつもりなんてないわよ!』

「その意気だ」

 

さて、やりますか。

その援軍とやらが来るまで・・・。

際限なきハエ叩きを。

 

 

 

 

 

「ラッストォ! ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

お、終わった・・・のか?

一応、眼に見える範囲は全て破壊したが。

 

『た、隊長、この後は?』

「少し休む。流石に限界だ」

 

俺、ヒラノ、カエデの三人は休まずにぶっ通し。

いつ倒れてもおかしくない。

 

『分かりました。私達が警戒を』

「すまないな。助かる」

 

後から合流して、一応余裕があるアインス4、アインス5の二人に周囲の警戒を任せる。

これでしばらくなら休めるだ―――。

 

『隊長! 来ました!』

 

休ませろっての! マジで!

 

「ダァ! ヒラノ! カエデ!」

『・・・は、はい・・・』

『・・・な、何よ・・・』

 

疲れているみたいだな。

勿論、俺もだけど。

 

「お前達はアインス4、アインス5の援護」

『・・・了解』

『や、やってやろうじゃない』

「アインス4、アインス5、暴れろ。暴れまわれ」

『『了解』』

『コウキはどうするのよ?』

「あん? 俺か? 最後までやってやろうじゃないか!」

 

限界なんてないんだよ。

・・・嘘。ごめん。

限界超えると開き直っちゃうって奴だから。

多分、戦闘終了後、ぶっ倒れるだろうな・・・。

 

「かかってこいや!」

 

シュッ! ダッ! ダダダダダッ!

 

・・・あ、あれ? 来ない? 逃げた?

 

『マスター。敵機引き上げていきます』

 

どういう事?

 

『コウキ。どうなっているの?』

「俺にも分からん」

 

勝手に攻めてきて、勝手に引き上げるってどうよ?

せめて説明してから帰れよな。

あ。無理ですか。そうですか。

 

『マスター』

「どうした? アザレア」

『理由が分かりました』

「何だった?」

『太平洋に展開された木連艦隊が全滅したようです』

 

なるほどね。でも、随分と突然だな。

戦況を理解していた訳じゃないけど、そんなきっかけもなしに終わるものか?

それに、戦況を覆す援軍とかなんとか言っていたし。

 

「何故かは分かる?」

『いえ。全滅したとしか・・・』

 

そっか。まぁ、連絡が取れなければ分からないよな、普通。

 

『すいません。私は駄目な子です』

 

あ、あぁ・・・どうして、こうすぐに落ち込むかな。

普段とギャップがあり過ぎる。

 

「あ。いや。それだけ分かれば大丈夫だから」

『・・・シュンッ』

 

どうしてセレス嬢と同じく擬音を口にする?

そんなに落ち込まなくていいからさ。

 

「おし。アザレア」

『・・・はい』

「帰還する。道案内を頼む」

『は、はい!』

 

落ち込んでいる暇はないぞ。

 

「各員へ告ぐ。我々の勝利だ。よくやった。基地へ帰還するぞ」

『『『了解!』』』

『終わった? 終わったのね?』

「カエデ。了解は?」

『え?』

「命令に対してちゃんと返事しないと確認できないだろ」

『あ、そうね。了解』

 

大事なんだぞ。返事っていうのは。

全員無事かどうか確認する為にもな。

 

「第一小隊。ちゃんと付いて来いよ」

『『『『了解!』』』』

 

よく出来ました。花丸。

 

 

 

 

 

「ん?」

『どうかしましたか? 隊長』

「いや・・・」

 

基地帰還中に怪しい何かを見付けた。

あれは・・・輸送機か?

この状況で?

 

「ヒラノ」

『はい。何でしょう?』

「第一小隊を連れて先に帰っていてくれ」

『は? 如何しましたか?』

「嫌な予感がするんだ」

『・・・分かりました。御気を付けて』

 

帰還予定の基地からまるで逃げ出すように飛び出してくる輸送機。

補給の為の輸送機だったら、別におかしくはないが・・・。

戦闘中に果たして基地に物資を輸送しに来るだろうか?

おかしくはないの・・・かな?

 

『どうしたの?』

「カエデか。ちょっと気になる事があってな」

『私も付いていこうか?』

「いや。構わない。先に休んでいてくれ」

『そう? それなら、いいけど』

 

第一小隊と別れ、輸送機の後を追う。

輸送機は日本の陸地を過ぎ、海上へと出た。

まだ日本からそこまで離れていない為、行動できるが、そろそろ限界稼動距離になる。

それまでにきちんと確認できればいいんだが・・・。

 

「アザレア。機体の状況は?」

『各部に損傷があります。通常戦闘は辛うじて可能ですが、無茶な事は・・・』

「武器は?」

『どの武装も残弾が残り少なく、使えるのはディストーションブレードぐらいかと』

「了解」

 

流石にあれだけ戦い続ければガタも出てくるよな。

無理は出来ないか・・・。

武器も接近戦用のものしかないし・・・。

 

「もう一つ。あの輸送機の所属は?」

『クリムゾン製のようです。所属は・・・』

 

クリムゾン製?

この方向には・・・確か北米基地があったよな。

 

「北米方面軍か?」

『はい。そのようです』

 

北米方面軍所属の輸送機が何故日本に?

 

「通信取れるか?」

『試みます』

 

北米基地へ向かう怪しげな輸送機。

これが亜細亜支部とかだったらスルーしてもいいけど・・・。

なんとなく北米支部ではちょっと信用出来ない。

 

『・・・駄目です。拒否されています』

 

通信を入れても拒否・・・か。

ますますもって怪しいな。

 

「アザレア。もう一度強引に―――」

『マスター! 熱源反応。海中から何かが飛び出してきました!』

 

何ッ!?

海中からだと?

あれは・・・積尺気・・・。

ッ! 輸送機が危ない!

 

「おい! 敵がいるぞ! 下がれ!」

『聞こえていません! マスター!』

 

クソッ! 落とさせる訳にはいかないだろ!

限界稼動距離は既にオーバーしているが、すぐに戻れば良い!

 

「突っ込むぞ! アザレア」

『はい! マスター!』

 

間に合え! 間に合えよッ!

 

「うぉぉぉ!」

 

ダンッ! ダンッ!

 

クッ! ミサイルを撃たれた。

積尺気の搭載限界数である四基のミサイルが輸送機に向かう。

狙いは輸送機? 俺なんて眼中にないってか?

敵機を破壊してすぐさまライフルで撃ち抜く!

 

「ハァ!」

 

ミサイルを撃ってすぐの隙だらけの機体にディストーションブレードを叩き付ける。

 

ガキンッ!

 

クソッ! 両腕を犠牲にして、防ぎやがった。

やばいッ! ミサイルがッ!

 

「ロックオ―――」

 

ガンッ!

 

『マスター! 照準が付けられません!』

 

た、体当たりしてきやがった!

お前に構っている暇なんてないってのに。

 

「この野郎! 調子に乗るな!」

 

ダンッ!

 

体当たり後、離脱していた敵機にレールキャノンをぶち込む。

これで撃破しただろ!

 

「早く! 急げ!」

 

今にも輸送機にぶつかりそうなミサイルにライフルを放つ。

 

ダンッ! ダンッ! カツッ。

 

「カツッ? 弾切れか!?」

 

まだだ! まだいける!

二基は破壊したんだ。

あとたったの二基じゃないか。

 

「レールキャノンセット」

『マスター! さっき撃ったので最後です!』

「クソッ! それなら、フィールドガンランスで!」

 

背中に手を伸ばす。

・・・ない。

ッ! そうだ! カエデに渡したまま!

 

「これなら!」

 

カツッ。

 

「クソッ! こっちも弾切れかよ!」

 

ガントレットアームも既に弾切れ。

当たり前だ。補給できていなかったんだから。

 

「クッ!」

 

・・・諦めるしかないのか?

いや。まだだ! まだ手段はある!

 

「ウォォォォッ!」

 

出力のリミッターを切り、この機体に出せる最高速度でミサイルに向かう。

ミサイルが破壊できれば、その後で空中分解しても構わない!

なんとしてもぶつかる前に切り裂いてみせる!

 

「まず一つ!」

 

接近して、切り裂く。

これであと一つだ!

 

「間に合えぇぇぇーーー!」

 

間に合う! 俺の計算なら、この速度、この距離ならギリギリ間に合う!

あと少し! あと少しなんだ!

もう少しだけ・・・。

 

『マスター! 離脱してください!』

「あと少しなんだ! 間に合う!」

『駄目です! 機体が耐えられません! エネルギーも不足しています!』

「諦めるな! まだ―――」

『アサルトピットを離脱させます!』

「待て! アザレア!」

 

・・・俺の行動は無意味だったというのか?

アサルトピットごと俺が離脱してすぐ、アドニスは空中分解し、海へと散った。

今までの戦闘で損傷した部分がリミッター解除後の機動に耐えられなかったらしい。

そして・・・。

 

ダンッ! バンッ! バンッ! ドォォォッォォン!

 

眼の前で撃墜される輸送機。

たった一基、たった一基のミサイルに間に合わないだけで、全ての行為が無駄となった。

どう足掻いても動かないアサルトピットの中、俺はこの光景を眺める事しか出来なかった。

 

『申し訳ございません。マスター』

「何故だ! 何故あの時お前は勝手な事を―――」

 

・・・いや。アザレアは悪くない。

あのままでは俺が死んでいたんだ。

アザレアの判断は正しい。

ただ・・・俺が未熟だっただけだ。

 

『この罰は如何様にも―――』

「いや」

『え?』

「すまない。助かった。お前は何も悪くない」

『・・・マスター。いえ』

 

真実は闇の中。

謎の輸送機はただ謎のまま終わった。

クリムゾン製で北米基地。

分かったのはただそれだけ・・・か。

 

「アザレア。救難信号を出しておいてくれ」

 

海にぷかぷかと浮かぶアサルトピット。

その上部に位置する扉を開ける。

 

『はい。マスターはどこへ?』

「ちょっと外の空気を吸いたくてな」

『分かりました。御気を付けて』

「アザレア」

『はい』

「ありがとな」

 

一人だったら、もっと辛かった。

 

『いえ。マスターの傍らこそ私の居場所ですから』

「そうか・・・」

 

子供みたいな奴に元気付けられるなんてな・・・。

なんて情けない親だ。

 

「・・・でも」

 

ありがとう。アザレア。

俺には出来すぎた相棒だよ、お前は。

 

「・・・はぁ・・・」

 

外に出て深呼吸。

こんなにも近くで成功を逃した事が今までにあっただろうか?

なんたる未熟。何が教官だ。何が小隊長だ。

どれだけ己惚れれば気が済む。最後を締められない奴は新人以下だろうに。

 

「・・・エネルギー不足・・・ね。どちらにしろ、失敗していたのか・・・俺は」

 

限界稼動距離を超え、内蔵バッテリーのみで賄っていた戦闘。

無茶な機動で損傷を悪化させたり、無茶な行動でエネルギーを余分に使ったり。

あのまま空中分解せずともエネルギー不足で止まっていただろう。

・・・余裕がない時こそ、細かい事に気を配らなくちゃいけないって事か。

今回の戦闘では多くの事を学んだな。

・・・いや。違うか。

学んだんじゃない。露見したんだ。

俺が抱える多くの未熟が。

誤魔化すな。直視しろ。

 

「結局、俺もまだまだ未熟って事だな・・・」

 

強くならないと。

眼の前で失わないように。

護りたい人を護れるように。

 

「ん?」

 

お迎えが来たか?

 

『隊長。ご無事ですか?』

「あぁ。ヒラノか。わざわざすまないな」

 

アサルトピット内に通信が入り、俺も急いで中へ戻る。

 

『救難信号が隊長の向かった方向から発信されたので、驚きましたよ』

「色々あってな」

『基地を代表して、私が迎えにきた所存です』

「ありがとう。詳しい事は後で話すよ」

『了解しました』

 

一応、報告しないとな。

輸送機が基地から出てきた事も。

輸送機が落とされた事も。

 

『どうやら他にも救難信号を受け取った者がいるようですね』

「ん? どこだ?」

『北の方角ですね。人型機動兵器に乗っています』

 

モニターから映像が見えないので、外に飛び出す。

えっとぉ、北の方角ね。どれどれ・・・なッ!

 

「嘘だろ!?」

『如何しましたか?』

 

アサルトピット内からヒラノの声が聞こえてくる。

でも、その音は耳の右から左へと抜けていった。

ヒラノの言葉を脳が感知しない。

それは、それ以上に眼の前の光景に意識を奪われていたから。

強化された視力でもギリギリ点のように映るそれ。

でも、確かにあの機体だった。

 

「ヒラノ! 奴を追え!」

『突然どうしたのです!』

「いいから追うんだ!」

 

反転する機体。

そのカラーリングはある男の漆黒と対照的な深紅。

 

『不可能です。あちら側には重力波がありません。追っても追い付く前にこちらのエネルギーが切れてしまいます』

 

クソッ!

 

「それなら、せめて映像だけでも取っておいてくれ!」

『わ、分かりました』

 

・・・アドニスから離脱する前にはそんな反応はなかった筈。

それなのに、突然出現したというのなら・・・。

・・・短距離ボソンジャンプ。

もしや・・・。

 

「あの輸送機に乗せられていたのは・・・夜天光?」

 

無性に悔しかった。

眼の前で輸送機が爆破されるより。

強大な敵の前で身動きが出来ず、見送るだけだった事が。

 

「北米支部。クリムゾン。夜天光」

 

点が線になった気がした。

 

 

 

 

 


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