機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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宝物

 

 

 

 

 

「セレスちゃん。どういうシステムがいいかな?」

 

アドニスに搭載する予定の新型AIアザレア。

パイロットの補佐を目的とし、機体の性能を最大限に活かす為のものだ。

しかしながら、ただ各機にそれぞれ積むのでは面白みがない。

AI故の強力な何かが欲しいのだ。

唯の補助だったら、別に俺がソフトをインストールしちゃえばいいだけだし。

 

「・・・オモイカネを参考にしてみるのはどうでしょう?」

「オモイカネ?」

「・・・はい。感情豊かで意地っ張り、でも、ナデシコと共に成長しています」

「ふむふむ。共に成長していくか・・・」

 

そういえば、オモイカネに関する事件もたくさんあったな。

地球圏脱出の際に連合軍から受けた攻撃でストレスを溜めて暴走したり。

それを解消する為に恋人役?を作り出して、仲良くさせたり。

仲良くやっているのかなと思ってたら、浮気がどうたらとか言いだして。

その結果、予定外のコミュニケ混在事件が起こっちゃったり。

でも、その度にオモイカネはナデシコクルーとの絆を深めていった気がする。

・・・なるほど。共に過ごし、共に成長し、絆を深める。

これが俺達にとって理想のAIっていう訳か。

 

「それなら、一人一人にそれぞれのAIを提供するかな」

「・・・一つ一つを独立させるんですか?」

「うん。そうなるかな」

「・・・一人ぼっちは寂しいです」

「寂しい・・・」

「・・・AIだって友達がいた方が嬉しいと思います」

 

AIも人と同じって訳か。

う~ん。それなら、それぞれを同期させる?

いや。でも、そうするとパイロットの特徴を活かしきれないんじゃないか?

ガイとイズミさんとかだと全く方向性違う訳だし。性格的にも。

 

「あら? 私を仲間外れにして、何の悪巧みをしているのかしら?」

「いきなり人聞きの悪い事を言わないで下さいよ。ミナトさん」

 

突然来て何を言っているんですか・・・。

 

「新しいAIについてセレスちゃんと話し合っていたんです」

「知っているわよ。コウキ君のスケジュール調整をしているのは私だもの」

 

・・・そうでしたね。

分かっていて言った訳ですか・・・。

 

「ふふっ。それで、どうなったの?」

「折角の新しいAIですから、色々と工夫してみようと思うんです」

「ふむふむ」

「各機にそれぞれ搭載してもいいですが、それじゃあ寂しいかなと」

「寂しいって?」

「・・・AIにもお友達は必要だと思います」

「とまぁ、こういう事です」

「なるほどね」

 

オモイカネにシタテルとサルタヒコがいるように、それぞれのAIを友達にしてあげたい。

セレス嬢からの強い要望だ。それなら、応えるしかないだろ?

それに、友達がいれば、ストレスも溜まらないし、他にも良い影響を与えてくれるだろう。

 

「それに加えて、パイロットと共に成長するようにしたいんですよね」

 

パイロットと触れ合う事で精神的にも成長し、名実共にパートナーに。

補佐役というのはもちろんだが、それ以上に相棒として活躍してもらいたい。

その為にはパイロットとAIの間での絆が不可欠。

 

「要するに、各機それぞれに同一意識ではなく、パイロットに合ったAIを提供したい。だけど、完全に独立させてしまうのは寂しいから、各AIで親交を結ばせるようにしたい」

「まぁ、そうなりますね」

 

良い案が全然思い浮かばないだけど。

 

「ふ~ん。そんなに難しく考えなくていいんじゃない?」

「え?」

 

そんなに単純なものではないんじゃないですか?

 

「オモイカネとシタテルとサルタヒコは親交を結んでいる訳でしょ?」

「ええ。同一制御下にいますからね」

 

あれはナデシコの制御下にYユニットを強引に押し込んだからこその実現。

シタテルはもともとナデシコの制御下に作ったし。

ナデシコとYユニットがそれぞれ独立していたら、あれは実現していなかった。

 

「それなら、同じように同一制御下に置けばいいのよ」

「えっと・・・どういう意味ですか?」

「呼び出し制ね」

「はい?」

 

ミナトさん。まるで分かりません。

 

「コミュニティを作って、そこで親交を結ばせつつ、必要な時に呼び出すのよ」

「・・・セレスちゃん。分かる?」

「・・・分かりません」

「しょうがないわねぇ。詳しく説明するわよ」

 

・・・すいません。

 

「コウキ君とセレセレが用意するのはAI達の交流広場」

「交流広場?」

「ええ。AI達が交流を深め、共に技術を磨き合う場所よ」

「呼び出し制というのは?」

「まだ誰がどの機体に乗るのか決まってないんでしょ?」

「ええ。きちんとは」

 

一応、それらしい組み合わせは決まっているんだけどね。

 

「だから、貴方達が作ったコミュニティに待機させて、使いたい時に呼び出すようにすればいいの」

「なるほど。機体単位ではなく、パイロット単位で選ぶ訳ですね」

 

そうすれば、機体を変更してもパイロットに合ったAIが補佐してくれる訳だ。

 

「でも、どうやってコミュニティを?」

「その辺りの事を考えるのがコウキ君の仕事でしょ?」

「あ。そこで任せられるんですか、俺」

「詳しい事は分からないもの。餅は餅屋」

 

ま、いいですけど。

良いアイデアもらいましたし。

 

「コミュニケを介せば、機体にAIを移せるかな?」

「・・・はい。でも、ナデシコに機体全てを賄える程の空き容量はないと思います」

「そっか。ナデシコは既にかなりギュウギュウだもんね」

 

そうなると、どこか別の場所に作る必要があるな。

 

「今、ナデシコ、改修しているんでしょ? 容量も増えるんじゃないかしら」

「・・・あ」

 

そうでしたね。ミナトさん。

 

「ちょっとネルガルに確認してみます」

 

改修後に容量が少しでも空いてれば、そこを活用させてもらおう。

とりあえず、確認してからだな。

 

 

「行っちゃったわね」

「・・・どんなAIになるのか楽しみです」

「これからセレセレとコウキ君の二人でたくさんのAIの面倒を見なくちゃいけないのよ?」

「・・・え?」

「コミュニティでAI達が交流している間、貴方達で見守ってあげなくちゃ」

「・・・はい」

「コミュニティは託児所みたいなものよ。コウキ君が保父さん、セレセレが保母さんね」

「・・・ポッ」

「ふふっ。どうして照れるのかなぁ~?」

「・・・お父さんとお母さんです」

「クスッ。そうね。二人にとって子供みたいものか」

「・・・はい」

「生まれたてのAIって赤ん坊みたいなものよね。どうやって成長していくのか楽しみだわ」

「・・・赤ちゃん。・・・ベイビィAIアザレアですね」

「良い名前じゃない。ベイビィAI」

 

 

確認を終えて、先程までいた部屋へ。

流石はネルガルで、全てにおいて妥協はしないとの事。

容量もそうだし、全体的な性能も向上する予定らしい。

まぁ、それに関しては完成後に改めて話を聞こう。

改修中だから、実際にナデシコに載せるのは当分後。

それまでは俺自身のPC内で作製しておこう。

なんて、そんな事を考えながら、部屋に戻ったんだけど・・・。

 

「どうして笑っているんですか?」

 

笑顔で楽しそうに触れ合う二人を発見しました。

 

「ふふっ。名前を決めていたのよ。ね?」

「・・・はい」

 

名前ってAIの?

 

「・・・ベイビィAIアザレアです」

 

ベイビィAI?

 

「絆を深め、共に成長し、アザレアは育っていく。まだ何も知らない無垢な赤ちゃん」

「・・・どう成長するかは周りの環境次第です」

「だから、ベイビィ。愛される事を知って成長していくの」

 

なるほどね。花言葉からか。

 

「良いと思います」

「それで、どうだったの?」

「ええ。いけそうです。それまでは俺のPCで作製しておきます」

「・・・作製じゃないです」

「ん?」

「・・・アザレアは赤ちゃんです。作製なんて言わないで下さい」

「えっと・・・」

 

ミナトさん? これはどういう?

 

「ふふっ。物扱いなんてして欲しくないのよ。それぐらい分かってあげなくちゃ」

「それなら、なんて?」

「そうね。命を宿してあげなさい」

 

そういう事か。セレス嬢に悪い事をしちゃったな。

 

「セレスちゃん」

「・・・はい」

「一緒に命を宿そう」

「・・・はい!」

「・・・なんか嫌な響きね」

「え?」

「・・・何が、ですか?」

「なんでもないわ」

 

どういうこっちゃ?

 

 

後日、といっても二週間後ようやく大まかな枠組みが完成した。

あとは実際にアザレアをパイロットに預けつつ、調整していけば良い。

ベイビィAIアザレアは共にいる人で機能も性格も変化する特殊なAI。

また、それぞれが経験した事をコミュニティに持ち帰る事で、多くの事を他のAIにもフィードバックできるようになっている。

これはAI同士の交流と言えるだろう。

加えて、コミュニティに俺の作った照準補正ソフトなども置いてあり、各AIが必要だなと思った際に、各自で任意にインストールできるようにもしておいた。

たとえば格闘戦重視のパイロットの場合、照準補正ソフトはあまり活用されず、機動予想ソフトなどの方が重用されるだろう。

そんな、誰にどのソフトがいいのか、という事をAIがパイロットと接する事で判断してくれる。

だから、俺の勝手な推測ではなく、経験に基づいて必要なものを揃えてくれる訳だ。

まぁ、そこまで判断できるようになるまでかなりの経験が必要になるだろうが。

そんなAI達に俺がしてやれる事はコミュニティ環境を整えてあげる事。

後は各自が勝手に成長して、そのパイロットに相応しいだけの能力を身に付けてくれる。

まぁ、子供みたいなものだからな。ちゃんと面倒は見るつもりだ。

でも、あくまで彼らの相棒はパイロット達。

俺やセレス嬢は代わりに面倒を見ているに過ぎないという訳だ。

そう考えるとちょっと寂しいけど、我慢するしかない。

パイロットと共に活動すればする程、自身の能力を高めていってくれるアザレア。

正にベイビィAI。眼を掛ければ掛ける程、慕ってくれて、育ってくれる訳だ。

ちゃんとパイロット達に説明して、面倒を見させるようにしないとな。

凄いぞ? シミュレーションに連れて行けば、徐々に適応して、使い易くなっていくんだから。

まずはきちんとシミュレーションに付き合わせるよう言っておかないと。

ガイとかスバル嬢とか面倒臭がりそうだし。

とりあえず、ナデシコ完成までは俺のPCと彼らのコミュニケを同期させておこう。

そうすれば、コミュニケを介して、シミュレーションにも付き合える筈だ。

俺も俺のアザレアをきちんと大切にしてあげないとな。

大事なパートナーなんだから。

 

 

 

 

『どうだ? エネルギー変換効率は? 実機とシミュレーターで違いはありそうか?』

 

ようやく形になってきた試作型エクスバリス。

今日はウリバタケさんと共に実機における調整作業を行っている。

以前シミュレーターで得た情報をきちんとフィードバックしており、完成も間近といった所だろうか。

 

「思ったより違いはありませんでしたね」

 

どうしても、理論値より実機は劣ってしまう。

それは仕方がない事だが、思ったよりその落差はなかった。

これなら、得られた重力波エネルギーをかなり効率よく貯め込む事ができるだろう。

 

『そうか。それじゃあ、次はチャージ時間の測定だ。今回分かった変換効率で計算し直しておけよ』

「了解」

 

エネルギー変換効率が算出されたので、それをもとにフルチャージまでどれくらい時間がかかるかを計算し、実際に貯め込んで値の差を導き出す。

調整業務って結構こういう計算とか地味な仕事が多いんだよね。

大事だって分かっているから手は抜かないけどさ。

 

「アザレア」

『はい。マスター』

「ちょっと御手伝いよろしく」

『喜んで』

 

他のパイロットのアザレアは戦闘的な補佐が殆どだろう。

でも、俺はこういう日常的な事も手伝ってもらっている。

その為、戦闘専用ではなくなり、他のアザレアに比べたら戦闘補佐はあまり得意ではない。

だが、その分、調整業務や細々とした仕事では随分と助けてもらっている。

俺のシミュレーション回数が他のパイロットに比べて少ないという事もあるけど。

本来こういう仕事はセレス嬢に手伝ってもらっていたけど、セレス嬢は他のアザレアの子守で忙しい。

アザレア達にとってセレス嬢はママであり、セレス嬢は随分と彼らに慕われている。

まだまだどのアザレアも幼く、甘えたい年頃だしな。

未来のミナトさん曰く、甘えた分だけ男になれよ。

これからの成長に期待しよう。

あ。ちなみに、経験値でいったら、俺のアザレアが一番だと自負している。

なんでも助けてもらっているからな!

・・・子供に負担かけている事を自慢してどうするんだ・・・。

コホンッ。そ、それに、戦闘補佐は他のアザレアから多少学んでいるみたいだし実はそれほど問題ではないんだ。

いや。コミュニティ制度。本当に便利だな。

 

「ジェネレーターの耐久性測定と許容量の限界判断を頼む」

『はい』

 

気分はたまごをウォッチする奴。

可愛いぞぉ。暇があったら触れ合っているからな。

 

「それじゃあ、チャージ開始するぞ」

『はい。マスター』

 

俺は理論値算出と実機との差を測定。

それとエネルギーの安定性を確認している。

早く貯まっても、そのエネルギーが不安定だったら何の意味もないからな。

 

「耐久性に問題は?」

『ございません』

「制御系統に異常は?」

『ございません』

「俺が調整する所はある?」

『今の所はございません』

 

いやぁ、優秀なパートナーをもって幸せだよ。

完全に仕事をお任せしてもいいぐらいだ。

 

『マスター。許容量到達します』

「そうか。了解。チャージ終了」

 

ふむふむ。なるほど。

フルチャージまでの時間はかなり早い。

まぁ、周りが敵だらけの戦場ではこの時間でも十分隙になってしまうので、少し運用方法を考えた方がいいかもしれないけど・・・。

それでも、まぁ、許容範囲内だな。

 

『貯め込んだエネルギーは徐々に安全機構から放出。そのまま放出機能の確認テストに移れ。まだ調整段階だから、慎重にな』

「了解。徐々に放出します」

 

次は仮にエネルギーを過剰に貯め込んでしまった際の安全放出機構の確認だ。

これがないと爆発する可能性は飛躍的に増してしまう為、確実かつ安全に放出されるのを確認しないと・・・俺が死ぬ。

自爆とかは嫌なので、いつにもまして真剣に取り組んでいる自分がいた。

 

「ふぅ。放出終了。ジェネレーター貯蓄エネルギー量ゼロ。安全機構に異常なし」

『おし。ご苦労さん。今日はこれで終わろうか』

「了解です! アザレア。お疲れ様」

 

ホント、助かりました。

 

『疲れてなど。マスターのお役に立てるならどのような苦労も苦労ではありません』

 

このぉ・・・可愛い奴め。

なんだか思ったよりも慕われているみたいで・・・素直に嬉しい。

だからだな、俺もついつい甘くなってしまう。

 

「そんな君にはお菓子をあげよう。コミュニティの皆で食べな」

『ありがとうございます! マスター』

 

お菓子といっても電子世界のお菓子だけどね。

AIの腹を満たす特別なプログラムですわ。

容量喰うけど、時間が経ったら消えるっていう。

食事とは必要ないんだけど、ちょっとした嗜好品感覚。

 

「コミュニティに戻っていていいよ」

『はい』

 

さてっと。

 

「ありがとうございました」

「どうだった? 一応、完璧だと思うんだが」

「ええ。流石はお二人の合作。完璧でした」

 

マッド二人。混ぜたら危険。

 

「ワーッハッハッハ。あたりめぇだ」

 

その自信が恐ろしいです。

 

「また何かあったら呼んでください。いつでも手伝いますから」

「おう!」

「御願いします」

「それでは」

 

リスクは高いが・・・非常に高いが、リターンもまた大きい。

この機体は地球の切り札になるかもしれない。

リスクは高いが!

・・・それをなんとかするのが俺の仕事って訳か。

ふぅ。前途多難だぜ。

 

「まぁいいや。とりあえず自室に戻ってコミュニティ環境を整えようかな」

 

セレス嬢に預けたままのPC。

そこに他のソフトも導入させておこう。

日常的にも、戦闘にも使えるソフトは他にもたくさんある。

どれだけあっても必要だと判断したのを選んでくれるから容量オーバーもないし。

ま、偶にオーバーしてセレス嬢のお世話になる食いしん坊AIもいるらしいけど。

 

「お待たせ。セレスちゃん」

 

PCのIFS端末から電脳世界へ進入しているセレス嬢。

どうやら今もアザレアコミュニティで保母さんをしているらしい。

意外と天職かな? セレス嬢の。

 

「・・・コウキさん」

「えっと・・・何かな?」

 

声をかけたまではいいが・・・どうしたんだろう?

普段ならもっと温和な顔なのだが・・・。

プクッと頬を膨らませていて・・・どうやら怒っているみたいだ。

俺は可愛らしいとしか思えないけど、うん、間違いなく怒っている。

 

「・・・お菓子ばかり与えないで下さい。ワガママになってしまいます」

「・・・ごめんなさい」

 

・・・マジでママさんらしいママさんをしていました。

 

「コミュニティ内はどうなっているかな?」

「・・・楽しそうです。偶に喧嘩もありますが、コウキさんのアザレアが仲裁してくれていますので皆仲良しです」

「流石、俺のアザレア」

 

なんてちょっとした優越感。

一番経験値あるから、ちょっとしたお兄ちゃん―お姉ちゃん?―のような存在なんだろう。

 

「・・・精神面ではコウキさんのアザレア、戦闘面ではヤマダさんのアザレアが一番です」

 

ヤマダ? あぁ。ガイか。

・・・え? ガイなの?

 

「・・・毎日一緒に訓練しているみたいです」

 

あぁ。熱血ですか

俺に付いて来い的なノリ。

面倒臭がりだと思っていたのに、まさかの逆。

・・・相手してくれるのが嬉しいのかもしれないな。

 

「・・・コミュニティ内でも暑苦しいと」

 

熱血がうつったか。

まぁ、そうじゃなければガイとは言えないけど。

 

「・・・皆、日々成長しています」

 

それが嬉しくてたまりませんと言わんばかりの笑顔。

本当に天職なんじゃないかな? 保母さん。

 

「・・・最近、コウキさんからお菓子を頂いていません」

「ん?」

「・・・アザレアばかりずるいです」

 

も、申し訳ないです。

・・・しかし、AIに嫉妬するとは思わなかったな。

反省します。

 

「・・・初めて会った時にコウキさんから貰った飴の味。私、忘れません」

 

あぁ。どう接していいか分からずに対策として用意しておいた飴の事か。

あれのお陰で話しかけられたし、あれのお陰でセレス嬢の優しい所を知ったんだよな。

俺とセレス嬢の初めての思い出って訳か。

 

「それってこれかい?」

 

イチゴ味の飴。今でも疲れている時なんかに良く食べる。

 

「・・・あ。はい」

「そっか。これのお陰でセレスちゃんと仲良くなれたのか」

 

ちょっとした出来事。

間が持てない情けない男が飴で間を取ろうとしたありきたりなもの。

そんな小さな出来事なのに、思い出として大切にしてくれているんだな。

なんか、嬉しい。

 

「はい」

「・・・くれるんですか?」

「ふふっ。感謝の証」

 

日頃、お世話になっているからね。

 

「・・・ありがとうございます」

 

頬を膨らめせるような形で飴を舐めるセレス嬢。

なんかハムスターみたいで可愛い。

 

「・・・懐かしいです。私にとって・・・とっても大切な思い出」

「そんなに大きな事をしたつもりはないんだけど」

「・・・いえ。初めて人に優しくしてもらいました」

 

・・・セレス嬢。

 

「・・・それに」

「それに?」

「・・・コウキさんと出会えた瞬間でしたから」

 

・・・照れるじゃねぇか。

 

「ほっと」

 

飴を飲み込まないようにセレス嬢を慎重に抱き上げる。

セレス嬢はセレス嬢で大人しくじっとしていてくれたから抱き上げるのも簡単だった。

あとはさっきまでセレス嬢が座っていた椅子に抱き上げたまま座るだけ。

 

「・・・なんだか久しぶりの感触です」

 

そういえば、最近はしてなかったな。

忙しくて駆け回ってばっかりだったし。

 

「・・・暖かい」

 

愛い奴よのぉ。

 

「・・・あの」

「うん? 何かな?」 

 

見上げてくるセレス嬢の頭を撫でる。

なんとなくそうして欲しいんだと思ったから。

 

「・・・なんでもありません」

 

クスッ。恥ずかしがっちゃって。

 

「・・・しばらくこのままでいてください」

「かしこまりました。お姫様」

「・・・お姫様じゃないです」

「クスッ」

「・・・笑われてしまいました」

 

俺に君はとってはお姫様だよ、セレス嬢。

大事な大事な俺の、俺とミナトさんの宝物。

俺が命に代えても絶対に護らないといけない大事な家族だ。

だから、君は自分の好きなように生きてごらん。

何があっても、俺達が必ず護るから・・・。

 

 

 

 

 


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