機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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歪んだ檻

 

 

 

 

 

「父上」

「どうした? ケイゴ」

「父上の副官が私を疑っていると聞きました」

「・・・・・・」

「私はそれも当然だと考えています」

「・・・うむ」

「ですが、信じてもらわねば計画が行き詰ってしまう」

「それならば、ケイゴ、お前はお前であると証明できるのか?」

「私がどれだけ私の事を証明しようと信憑性は薄いでしょう」

「そうだな。お前自身の事など調べればいくらでも分かる事だ」

「ですから、マリアを、マリアを連れてきたいと思います。私の秘書として知られているマリアならば納得していただけるのでは?」

「ふむ。確かにわざわざ秘書の偽者まで用意するとは思えんな」

「では?」

「証明にはなる」

「それでは、早速」

「あの地球の使者に任せるのかね?」

「もちろんです。コウキさんであれば、必ず」

「信じているのだな。あの者を」

「私の教官ですよ? あの方は」

「そうであったな。師弟の絆は固いか」

「はい」

「分かった。この件はお前に任せる」

「ハッ。ありがとうございます」

「ケイゴ」

「何ですか? 父上」

「私達も動こうと思う」

「は?」

「草壁派を内部から崩す為の策を行う」

「草壁派の内部を?」

「草壁派の人間全てが草壁の真の思惑に賛同している訳ではない」

「真の思惑・・・遺跡確保による地球圏支配ですか」

「うむ。彼らは草壁によって踊らされているだけだ。ゲキ・ガンガーを利用し、地球を一方的な悪とする事で悪は滅ぼすべしと」

「以前、教官に言われました」

「地球の使者に、か?」

「はい。戦争に正義も悪もないと。あるのは加害者と被害者でしかないと」

「正論であり、それこそが真理だ。自身の思い通りに世の中を動かしたい。所詮はそんな人間の欲やエゴが戦争を引き起こしているに過ぎんのだよ」

「確かに戦争当初は地球側が一方的な悪だったかもしれません」

「うむ」

「ですが、火星人の殺戮。あれによって、我々は同等、いえ、それ以下にまで墜ちた」

「無差別大量殺人。宣戦布告もなし。ふっ。我々が考える悪そのものだな」

「我々が火星に行ってしまった事。それを国民は知りません」

「知らせるべきなんだろうがな。草壁が軍内の事を国民に知らせる必要はないと」

「私はそうは思いません。全ての真実をきちんと国民に告げるべきです」

「地球のミスマル総司令官のようにか?」

「はい。あれこそが指導者として正しい姿かと」

「知らせたくないのだ。あれを知れば、戦争の醜さを理解してしまう」

「醜いのは当然です。それが戦争なのですから」

「そうだな。何よりも醜く、何よりも恐ろしい。それが戦争だ」

「国民は戦争の真の姿を知るべきです」

「だが、国民は戦争の恐怖を知らない。いや、知る事が出来ない」

「次元跳躍門のせいですね」

「そうだ。あれがある以上、我々は被害を受けずに一方的に攻撃できる」

「被害を受けなければ、恐怖を覚える事はない・・・」

「恐怖を覚えなければ、危機感を抱く事もないのだ。だからこそ、国民は思考を破棄し、草壁の言葉に踊らされる」

「それならば、一度恐怖を味わえば、その意識も無くなるのでは?」

「かもしれん。だが、我々は何よりも国民を護らねばならんのだ。木連軍人として国民が被害を受けるような事を許す訳にはいかんよ」

「戯言を申しました」

「構わん。さて、話を戻そうか」

「そうでしたね。内部を崩すとは?」

「木連派で最も勢いがある若者をこちらに引き込む」

「・・・もしや」

「そう、木連三羽烏、白鳥・月臣・秋山。木連の未来を背負って立つであろう三羽烏を檻から解き放つ。草壁の妄執という頑強ながらも捻じ曲がった歪んだ檻からな」

 

 

 

 

 

「お久しぶりです」

「楽にしてくれ。使者殿は地球の代表なのだから」

 

いや。そう言われてもね。

 

「少将より伝え聞き、参りました」

「ご苦労」

 

現在、木連軍神楽派の本拠地にお邪魔しています。

神楽大将は木連内で最も高い位にいる士官の一人。

そんな人間の本拠地という事は、言わば、木連の本拠地であり、木連軍全ての本拠地と言っても過言はありません。

いいのかな? 俺がこんな所に来て。

覚えちゃったよ? いつでもジャンプできちゃいますよ?

 

「ここに来るまでの間、何か変わった事はあったかね?」

「いえ。特に」

 

訪問予定日だった為、いつものようにタニヤマ少将の基地へボソンジャンプした。

そうしたら、大将が呼んでいるから向かって欲しいと言われて、案内役に少将の副官の方に付いて来て貰い、共にこの場所へ。

後は少将からの言葉を伝えに来たって受付に言って、神楽大将の執務室まで案内してもらっただけだから問題はなし。

誰かに見られたとしても、まさか地球人だとは思わないだろう。

木連に知り合いなんて本当に少数だし、バレる訳がない。

ちなみに、少将の副官の方には外で見張りをやってもらっています。

バレたらまずい完全な極秘面会ですからね。

 

「今回、君には頼みたい事があって来て貰った」

「少将から聞いております」

「そうか。君は跳躍の条件を持たない者も跳ばす事は出来るのか?」

「それは木連でいう遺伝子改造をしていない者という事ですか?」

「そうなる」

 

出来るであろうとは遺跡に言われていた。

でも、もしかしたらと思って挑戦もしていない。

もし、跳べなかったら、俺はその人間を殺した事になるから。

戦争ならまだしも、そんな事で人を殺した立ち直れる自信がない。

 

「それに関しては断言できません」

「何故だ?」

「理論上は可能なのですが、実際に行った事がないからです」

「・・・ふむ」

 

機体を介してディストーションフィールドを張れば可能だと思うけど。

 

「理由をお聞きになっても?」

「連れて来て欲しい者がいる。秘密裏に」

「それは?」

「ツバキ・マリア、シラトリ・ユキナの両名だ」

 

マリアさんとユキナ嬢?

 

「無論、シラトリ・ユキナは地球への使者として赴いた者。一時で構わない」

「開けた空間さえあれば、両名を連れて来られますが?」

 

機体持ち込みなら可能だ。コクピットを少し拡張すればいいだけだしな。

DFも張れるし、俺がきちんと誘導すれば、ジャンプ事故は起きないだろう。

 

「それならば、今から格納庫へ案内しよう」

「分かりました。ですが、その前に両名を連れて来てどうするのかを教えて頂きたい」

 

俺としては逐一司令や参謀に報告する義務がある。

これに関しても司令や参謀の許可がなければ行えない。

たとえこの件に関してかなりの権限を与えてもらっていたとしても。

 

「ふむ。確かにきちんと話す事が礼儀だな」

「ありがとうございます」

 

一礼。礼儀は大切だよ。

 

「マリアはケイゴの証拠だ」

「証拠?」

「ケイゴが偽者ではないか? と疑う者が少なからずいる」

「・・・まぁ、分からなくはないですが・・・」

 

随分と慎重な人がいたものだ。

どう見たってケイゴさん本人以外ありえないと思うけど。

 

「私の側近内では、マリアがケイゴの秘書だと知られている」

「一般兵は?」

「少なくともカグラヅキのクルー以外は知らないだろう」

 

ふむふむ。それで証拠ですか。

 

「ケイゴさんのみなら怪しいですが、マリアさんがいれば怪しさを払拭できる訳ですね」

「流石に秘書の偽者までは用意しないだろうからな」

「分かりました」

 

それならば納得です。

 

「では、ユキナちゃんはどうして?」

「シラトリ・ユキナの兄シラトリ・ツクモをこちら側に引き込む為だ」

「え?」

 

あのツクモさんを?

 

「しかし、ツクモさんは草壁に心酔していた筈です」

「ん? シラトリを知っているのか?」

「え、ええ。以前一度話す機会がありまして」

「そうだったのか。それなら説明する手間が省けたな」

 

あぁ。俺が知らないつもりだった訳ね。

大丈夫です。ある程度なら把握しています。

 

「シラトリは現在、木連軍人の中で最も勢いのある若者の一人だ」

「そうでしたか」

 

なるほど。三羽烏的な評価は木連内共通だったのか。

 

「以前、草壁に対して和平を訴えたと聞いている」

「はい。それで、ユキナちゃんが使者として送られたと聞きます」

「うむ。だが、今は違う」

「・・・ユキナちゃんの死ですか」

「そうだ。あいつは妹を自分の命以上に大切にしていた」

「それでは・・・」

「徹底抗戦派の中心となっている」

 

そうだよな。ツクモさんはそれぐらい妹を溺愛していた。

感情に踊らされちゃいけないなんて言うけど、

俺だって大切な人を殺されたら絶対に復讐に狂うと思う。

批判は出来ない。感情は理屈を覆すだけの力がある。

 

「そのシラトリに続くように若い連中は徹底抗戦を訴え出した。ツクモの親友であるツキオミ、アキヤマもまた、抗戦を訴えている」

 

ツキオミさんは分かる。でも、まさかアキヤマさんまで・・・。

 

「若い奴らは熱血で全てどうにかなると思っているんだろう」

「ゲキ・ガンガー効果ですね」

「ああ。幼い頃から誘導されていれば自然とそうなる」

 

草壁の意識誘導。

その結果が、草壁に心酔する若者集団の誕生って訳だ。

 

「そんな中、冷静に戦争を眺め、和平を訴えたシラトリすらも抗戦を訴えた。木連の若者達は思い込んだら後ろを振り返るような事はしない。良い意味でも、悪い意味でも、団結力がある連中だ。シラトリを中心に、若者達は草壁の下、徹底抗戦派として団結してしまっている」

「最早手に負えない段階まで来てしまっていますね」

「だからだ。手遅れになる前に、少しでもその勢いを削いでおきたい」

「そこでユキナちゃんという訳ですか」

「こちらに引き込む事は出来ずとも草壁に疑いを持たせる事は出来るだろう」

「ツクモさんの勢いを削げば、若者集団の勢いも削がれると?」

「それだけの影響力がシラトリにはある」

 

そう言われてみると悪い手ではないと思う。

でも、幾つか障害がある気がする。

 

「しかし、ユキナちゃんの生存を伝える事がケイゴさんの存在をバラす事にもなるのでは?」

「それは百も承知だ。だから、あいつらにはケイゴも会わせる」

「そ、それはかなりの賭けですね」

「ああ。だが、それだけの価値はあると私は考えている」

「・・・そうですか」

 

確かに三羽烏を引き込めたらかなり大きいだろう。

しかし、その反面、この企みは三羽烏から草壁に秘密が伝わってしまう危険性もある。

草壁がケイゴさん生存と和平派の活動を知ったら、活動の妨害をしてくる事は必至。

草壁派にとっては自身が仕組んだ事である事を誰にも知られたくないのだから。

 

「彼らは規律を守る真面目な軍人だ。信用できる」

 

確かに三人とも真面目で礼儀正しい軍人らしい軍人さ。

でも、草壁への心酔はその前提すらも覆してしまう。

ツクモさんやアキヤマさんは冷静に物事を眺める事が出来るから大丈夫かもしれない。

でも、草壁心酔度NO.1のツキオミさんは安心する事が出来ない。

原作でも、彼も苦渋の選択だっただろうが、草壁に諭され、親友であるツクモさんを殺した事がある。

もちろん、その後、かなり悔やんでいたし、それがきっかけで熱血クーデターが起きたからなんとも言えないんだけど。

 

「申し訳ありませんが、即答は出来ません。司令に相談してみたいと思います」

「ふむ。出来るだけ良い返事がもらえるように御願いしたい」

 

・・・大人だなぁ。神楽大将。

別に地球の和平派と木連の和平派は同じ目的の為に手を結んでいるに過ぎない。

確かに計画を提案し、賛同したが、完全に同一意識で活動する所まではいってないのだ。

それなのに、きちんと筋を通して、司令の許可をもらってくるように依頼してくれた。

現状では、自身の活動に関して、相手側に許可を求める必要なんてないのに・・・。

神楽大将はミスマル司令に匹敵するぐらいの素敵なオジサマだよ。

 

「分かりました。出来るだけやってみます」

「御願いするよ」

 

原作を知る俺としては彼らの仲を引き裂くような事態は出来る事なら避けたい。

ツクモさんにだって生きていて欲しいし、ツキオミさんにだって親友殺しの罪を背負わせたくない。

アキヤマさんにだって、親友同士が喧嘩をするさまなんて見せたくないしさ。

その為に、この計画が活かせるなら、俺としても出来るだけの事をしたいと思う。

しかしながら、懸念事項はまだあったりする。

 

「しかし、和平を訴える派閥の代表に会いますかね?」

「頭に血が上っていても激情を抑えられるだけの理性はある。礼儀も通すさ」

「それなら良いです。後もう一つ」

「何だね?」

「ツクモさんと和平派の代表が接触した。その事から何かしらの不都合な事が生じるのでは?」

「問題ない。私も今は抗戦を訴えている事になっている」

「え?」

 

え? 神楽大将も徹底抗戦派の一員って事?

 

「あくまで仮の姿だがな。息子を殺され恨みを持った軍人と自身を偽らねばならん」

 

あ、そういう事か。

 

「徹底抗戦は反対だが、地球の力を削ぐ為の戦争は必要。そういうスタンスだ」

「確かにお互いに戦争継続を訴えているならそこまで怪しまれはしないでしょうね」

「うむ。多少は怪しまれるだろうが、接触の内容までは露見しないよう注意する」

「分かりました」

 

接触した事実だけじゃそこまで問題にはならないと思う。

どうして和平派と接触したんだって味方から批判されるかもしれないが、それはそれ、勝手な考えだけど、ツクモさんにはその状況に耐えてもらうしかない。

騙されていたと知り、妹は生きていると知った方がきっと彼の為だから。

ツクモさんが戦争を妹の弔いとして考えているのなら、それはあまりにも悲し過ぎる。

妹は生きているのに、その憎しみを利用されるなんて哀れな話だ。

真実を伝え、曇った眼ではなく、真の眼で戦争を眺めて欲しい。

 

「それでは、いつ?」

「マリアに関してはすぐにでも頼みたい」

「分かりました。艦長やミスマル司令などへの手続きが必要なので」

「分かった。明日、この執務室に連れて来てくれ」

「え? 直接ですか?」

「マリアも遺伝子改造を受けている」

 

あ、そうなんだ。知らなかった。

女性なのに珍しい事もあるもんだ。

あれ? それなら、カグラヅキのオペレーター達も遺伝子改造済みって事か?

 

「そうでしたか。突然の訪問になってしまいますが、よろしいですか?」

 

明確な時間を決めた訳ではないから、いきなり現れる事になる。

 

「構わない。明日は誰かが来る予定もないのでな」

「分かりました。それでは、格納庫の方へ」

「うむ。詳しい事は明日にでも改めて話そう」

「分かりました」

 

こうして次の日、マリアさんを木連へと送り届ける事になった訳だ。

ま、これでケイゴさんに対する疑いも晴れるだろう。

その結果、神楽派がより団結してくれたらこちらとしても助かる。

なお、ツクモさん説得に関してだが・・・渋々ながらも許可を得られた。

予定日は今から一週間後。ユキナ嬢を連れて、俺が神楽派の本拠地に赴く。

最悪の事態も想定して、草壁にバレたら計画を修正し、すぐさま和平派同士で手を組んで敵対組織に立ち向かうという話し合いもしてある。

被害は大きくなるだろうが、致し方のない事だと割り切るしかない。

成功すれば、より計画の実行が確実になる訳でもあるし。

俺としても早くツクモさんにユキナ嬢の生存を教えてあげたい。

きっと憎しみに狂い、精神も身体もボロボロだろうから。

ユキナ嬢も物凄く兄の事を心配している。

こんな状況でいさせたら、お互いに悪い方向にしか事態は進まないだろう。

彼ら兄妹は絶対に再会させるべきなんだ。

たとえそれによってツクモさんの考えが変わらずとも。

復讐心に囚われたままじゃいずれツクモさんは外道に墜ちる。

その愛ゆえ一気に。そんな事、許す訳にはいかないだろ。

それに、もしかしたら、これを話した事で、

ツクモさんがまた地球を信じるようになってくれるかもしれない。

たとえすぐに考えが変わらずとも、いつか和平を考えてくれるようになるかもしれない。

俺は思う。三羽烏と共に和平へ向けて活動できる日が必ずやってくると。

そんな日がやってくるように、俺も出来る限りの事をしようじゃないか。

 

 

 

 

 

「マリアはどこに行ったのよ!?」

 

そうだった。こいつの事を忘れていた。

 

「どうどう」

「私は馬か!」

「とりあえず落ち着け」

 

午前中にマリアさんを送り届けた日の午後。

カエデがパイロットコースを受けてから大体一週間になる。

才能があったのか、目覚しく成長するカエデをのほほんと見ていたら・・・。

こうして胸元を掴まれ、揺らされてしまいましたとさ。

 

「マリアさんは特別任務を受けて留守にしているだけだよ」

 

木連へ連れて行ったら、私はケイゴ様のお手伝いをしますとか言われて。

あ、カエデに申し訳ない事をしたなと思ったけど、時既に遅し。

マリアさんはケイゴさんに合流。カエデは置いてけぼりに。

 

「ケイゴは?」

「えっと・・・」

 

マリアさんには計画の事を少し話した。

彼女が木連に行く以上、事情を知らない訳にはいかないし。

でも、まだカエデには話してない。

マリアさんが知った以上、話すべきなんだろうけど・・・話したら修羅場になるな。

 

「マリアはケイゴの所にいるんでしょ?」

「ギク」

「連れて行ったのも貴方」

「ギクギク」

「私を連れて行く気はない」

「ギクギクギク」

「私も連れて行きなさいよぉぉぉ!」

 

す、鋭い!?

・・・いや、分かるよな、これくらい。

 

「カエデ。ちょっと落ち着いてくれ」

「落ち着いていられる訳ないでしょ! マリアに盗られる!」

「分かった、分かった。ちゃんと話すから」

 

はぁ・・・。俺って甘いのかな?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「ケイゴは今・・・木連にいるのね?」

「ああ。そうなる」

 

結局、マリアさんに教えた事と同じくらいの事を話してしまった。

まぁ、俺とて話して良い事と悪い事ぐらい弁えている。

彼女達に話したのはケイゴさんの生存を伝えた事と、それによってケイゴさんの親父さんを説得した事ぐらいだ。

ミスマル司令が提案した計画の事は話してない。

 

「それなら私も・・・は無理よね」

「ああ。お前を連れて行く理由がない」

 

個人的な感情でそこまでの事は出来ない。

俺としても出来る事なら連れて行ってやりたいが、個人の都合過ぎる。

 

「私がケイゴに出来る事はないのね」

「・・・カエデ」

 

すまんな。お前にしてやれる事が俺にはない。

 

「ま、いいわ。私、もう行くわね」

「・・・お前」

 

もしかして・・・諦めたのか?

 

「勘違いしないで」

「え?」

「私はケイゴを諦めた訳じゃないわ」

「それなら、どうして?」

「今はひたすら自分を鍛えて、戦場でケイゴを颯爽と助けてやるのよ。そうすれば、マリアなんて敵じゃないわ。ケイゴはもう私に夢中よ!」

 

・・・単純。まるで艦長を見ているようだ。

でも・・・。

 

「そうか。なら、頑張れ」

 

なんか強くなったな。お前。

 

「ええ。もちろん。さぁて、やるわよぉ!」

 

大股でシミュレーターに向かう姿はやる気に満ち溢れていて・・・。

なんとも覇気のある後ろ姿だった。

 

「俺も負けてられないな」

 

確実に成長していくカエデを見ていたら本格的に抜かれる気がしてきた。

 

「やるか」

 

最近サボり気味だったシミュレーションを行なった。

一応、新型機の実験とかはしていたけど、やっぱり実戦形式は全然違う。

調子に乗ってブランクを取り戻そうと頑張っていたら、終わる頃には立ち上がるのも苦労する程の疲労困憊状態に・・・。

ま、お陰で心地の良い眠りにつく事が出来たけどね。

 

 

 

 

 


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