機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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普通の女の子

 

 

 

 

 

「ほぉほぉ。なるほどね」

 

現在、適正診断中。

診断ソフトを組み、先日のテストで得たデータを基に機械的に評価。

まぁ、若干の私的評価も混じっていますが・・・。

しかし、案の定というか、予想通りの結果になったな。

 

「セレスちゃん。そっちはどう?」

「・・・もうちょっとです」

 

俺は機動データや戦術展開などを参考に機体の外部情報を。

セレス嬢はバイタルデータなどを参考に機体内部のパイロット情報を。

それぞれ検討、評価している。

後はその評価を掛け合わせれば良い訳だ。

そうすれば、その状況下におけるパイロットの精神、身体状況が分かる。

たとえば、一つの急加速に対してきちんと認識して機動を行えているかなどなど。

やっぱり操縦する上で身体と精神の状況を知っておく事は大事だからな、うん。

バラバラの事を調べて掛け合わせるのは逆に効率が悪い。

なんてセレス嬢に言われたけど、きちんとそのあたりの事は考えています。

専用のソフトを組みましたから、掛け合わせは容易なんですよ、はい。

それなら、同じ作業を繰り返した方が効率も良いでしょう? 慣れてくるし。

しっかし、流石にこの莫大な情報を二人で扱うのは疲れるな。

 

「・・・ふぅ」

「・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。セレスちゃんこそ大丈夫? 休憩する?」

「・・・大丈夫です。もうちょっとですから」

「そう? 無理しないでね」

「・・・はい」

 

セレス嬢にはお世話になりっぱなしだな。

いずれきちんとお礼をしなくちゃ。

 

「・・・ふぅ・・・終わりました」

「お疲れ様」

「・・・あの・・・」

「うん。ありがと」

「・・・はい!」

 

褒めて褒めてと言わんばかりに身を乗り出してくるセレス嬢。

そんな光景に頬を緩ませつつ、頭を撫でてやる。

期待には応えてあげないとね。

俺としても心地良くてこの時間は好きだし。

 

「おし。んじゃ、ちょっと待っていて」

 

データの掛け合わせを実行。

ちょっと時間が掛かるから、終わるまでブリッジにでもいるかな。

 

「うん。お疲れ様。ちょっと休憩にしよう」

「・・・はい」

「ブリッジにでも行こっか」

 

手を繋いでブリッジへと向かう。

気分はすっかりパパさんだな。

 

 

 

 

 

シュンッ。

 

「あ。マエヤマさん」

「お久しぶりです」

 

うん。随分と久しぶりなんですよ、本当に。

地球に来てからあちらこちらに飛び回っていましたから。

もちろん、ナデシコには帰ってきていましたけどね。

ブリッジにわざわざ顔は出してなかったという訳で。

実際、一週間ぶりぐらいかな。

 

「あら? ブリッジに来るなんて珍しいじゃない」

「まぁ、時間が空いたので」

 

俺の定位置。

ミナトさんの隣でセレス嬢の隣。

いやぁ。この席も久しぶりだぁ。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様、って言いたい所だけど、私は特に何もしてないもの」

「そういえば、ブリッジ組って日頃は何をしているんですか?」

 

忙しくて考えてなかったけど、何しているんだろ?

 

「な~んも」

「へっ?」

「だから、特にやる事がないの」

「えっと、この二週間は・・・」

「時々、木連が来て出撃するんだけどね。私達の仕事はそれぐらいよ」

「・・・な、なるほど」

 

まぁ、確かにナデシコを強化しようっていうのに環境は整ってない訳だし。

明日香インダクトリーも準備を頑張ってくれている訳で、待機なのは仕方ない。

でも、なんだか、勿体無いと思ってしまうのは僕だけでしょうか?

 

「コウキ君が忙しく動き回っているのに申し訳ないんだけどね」

 

本当に申し訳なさそうに告げるミナトさん。

いや。別に気にしなくていいのに。

 

「俺が好きでやっているだけですから。それに、後々忙しくなりますしね」

「しっかり休んでおけって?」

「ええ。大変でしょうし」

「それなら、コウキ君はいつ休むのよ?」

「え~と・・・」

 

その責めるような視線はやめましょうよ。

 

「そ、それなりに休んでいますから大丈夫ですよ」

「・・・本当に?」

「え、ええ」

「・・・コウキ君って一つの事に集中すると我を忘れちゃうから安心できないわ」

「えっと・・・」

「明日、休みなさい」

「えぇ? そんな時間は・・・」

「いいから。休みなさい。いいわね」

「・・・はい」

「よろしい」

 

満足そうに微笑むミナトさん。

まぁ、確かに休んでなかったからなぁ。

・・・いい機会か。

 

「セレセレもコウキ君を手伝って忙しかったでしょ?」

「・・・いえ。楽しかったですから」

「そっか。愛されているわね。コウキ君」

「あ、あはは」

 

ニヤニヤと笑われてしまった。

 

「セレセレを連れて街にでも行ってきなさい」

「いいんですかね?」

「いいわよね? 艦長」

 

突然艦長に振るミナトさん。

 

「構いません。休んじゃってくださ~い!」

 

ユリカ嬢。ちゃっかり聞いていました。

というか、そんな適当じゃ駄目でしょ・・・。

 

「いいんですか? プロスさん」

 

その奥で苦笑しているプロスさんに問いかける。

 

「はい。むしろ、そろそろ休んで頂かないと困ります」

「困る?」

 

あれ? どういう意味だろう?

 

「ええ。コウキさんの活動は一応業務として扱っておりまして」

「提督、あ、違った、司令の御指示ですか?」

「その通りです。その為、そろそろ休んで頂かねば・・・」

 

労働基準法だとかそういう事だろうな。

 

「分かりました。それなら遠慮なく休ませて頂きます」

「はい。ごゆっくりお休み下さい」

「ありがとうございます」

 

う~ん。なんの障害もなく休暇が決まってしまった。

 

「セレスちゃんの休暇も取れますかね?」

「ええ。セレスさんにも働いて頂いていますからね。休んで頂いて構いません」

「だってさ」

「・・・はい」

 

そして、セレス嬢の休暇もなんの障害もなく決まった。

 

「このままミナトさんも―――」

「残念だけど、私は厳しいと思うわよ」

「え?」

「私も一緒に行けたら良いんだけどね・・・」

「駄目なんですか?」

「捨てられた小犬みたいな眼で見ないでよ」

 

そんな眼で見ていたのか? 俺。

男のそんな光景はあまり良いものではないと思うが・・・。

 

「ほら? 私は休ませてもらえる程、働いてないでしょ?」

「・・・ミナトさん」

「ごめんね。セレセレ。コウキ君と二人きりで楽しんできて」

「・・・いいんですか?」

「ええ。楽しんでらっしゃい」

「・・・はい。分かりました」

 

いつの間にか休暇の予定も決まってしまいました。

ま、折角ですから、楽しむとしますか。

セレス嬢のお礼もかねて贅沢してやろうと思う。

とりあえず、今日やれる事は今日の内に済ませておこうかね。

 

「それじゃあ、セレスちゃん、続きをさっさと済ませちゃおうか」

「・・・はい。明日、楽しみです」

「うん。明日を楽しむ為にも、ね」

「・・・(コクッ)」

 

おし。シミュレーション室へ向かうとしますか。

ご褒美もあるし、モチベーションが上がってきたぞ。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

セレセレと手を繋いだコウキ君がブリッジから出て行く。

 

「いいんですか? ミナトさん」

「何が?」

「休もうと思えば休めたじゃないですか。ミナトさんも休暇を取らずに働いていましたし」

「コウキ君に比べたら全然働いてないわよ」

「でも、最近のコウキさんはミナトさんを―――」

「いいじゃない。仕事に燃える男の子って魅力的よ」

「・・・ミナトさん」

 

・・・なんだか心配されちゃっているみたいね。

 

「そりゃあ寂しくないと言えば嘘になるわ」

「それなら・・・」

「でも、コウキ君にとって今はとっても大事な時期じゃない?」

「恋人を放って置いてまでする事じゃないと思います!」

「ふふっ。メグミちゃん。誰にだって大切な時期ってあるでしょ?」

「でも、ミナトさんが我慢してまで―――」

「別に我慢なんかしてないわよ。私は充分満足しているわ」

「変です。この状態で満足できるなんて・・・」

「そうかしら?」

「はい。もしかして・・・倦怠期ですか?」

「け、倦怠期って・・・」

 

大袈裟だなぁ。

 

「私だったら耐えられません。一緒にいて、楽しい時間を過ごしてこそ恋人だと思います」

「それもカップルの一つの形ね」

「それじゃあ、ミナトさんの形って何なんですか?」

「そうね・・・。支え合い、それでいて、一定の距離感を保つ事かしらね」

「よく分かりません」

「たとえ恋人であろうと、踏み込んではいけない領域があるってことよ」

「それを共有しあうのが恋人なんじゃないんですか?」

「そうね。でも、誰にだって、たとえ恋人であろうと放って置いて欲しい時ってあるでしょ?」

「・・・それはそうですが・・・」

「なんでもかんでも構えばいいって訳じゃない。偶にはちょっと離れるのも必要なのよ」

「それが今って事ですか?」

「ええ。そういうものなの」

 

触れ合っているだけが恋人じゃない。

相手の事を本当に想っているなら、引くべき時は引く。

相手が自分を欲しているのなら、今度は私から歩み寄ればいい。

そういう心情の距離感って云うのかしら。

それを察するのも良い女の条件よ、メグミちゃん。

・・・なんてね。それに・・・。

 

「それに、一度距離を置いたからこそ次に触れ合った時、愛を感じるのよ」

「参りました。最後は惚気できましたか」

 

苦笑してそう告げられてしまった。

惚気だと思われたらしい。

ま、別に間違っちゃいないけどね。

 

「私はミナトさんのように大人にはなれそうにないです」

「いつもガイ君と一緒にいたい?」

「はい。偶に暑苦しいですけど、元気をくれますから。ちょっとした事で悩むとか、迷うとか、悲しむとか。そういうのって生きていく上でよくある事じゃないですか」

「ええ。そうね」

「でも、彼を見ていると何を小さな事を気にしていたんだろうって。そう思うんです。本当に大雑把で、どんな事だって笑い飛ばしちゃう」

「素敵な彼氏ね」

「ふふっ。はい」

 

笑顔でちょっと頬を染めてそう告げるメグミちゃん。

本当にガイ君の事が好きなんだなってそう思わせる可愛らしい笑みだわ。

 

「別に私が大人って訳じゃないわよ」

「いえ。私なんて考え方が本当に子供で」

「別に私のだって多くの形がある愛の、一つの形でしかないの」

「多くの形がある・・・ですか」

「ええ。人の数だけ違う形の愛があるんじゃないかしら。私はそういう愛の形が理想だなって思うし、実現したいって思っているわ。でも、メグミちゃんにはメグミちゃんにあった愛の形があると思うのよ」

「私には私の・・・」

「ええ。艦長には艦長の、ルリルリにはルリルリの愛の形があると思うの。だから、別に私や他の誰かと比べる必要なんてまったくないと思うわよ」

「やっぱりミナトさんは大人ですね」

「そうかしら?」

「はい。とってもそう思います」

「私だって嫉妬はするし、醜い感情はあるわよ」

「それが恋愛ですからね。仕方ありません」

「ふふっ。なんだか悟ったみたいね」

「大人の女に近付いたって事だと思います」

「そっか。そうだと良いわね」

「なんかイマイチ同意を得られていない気が・・・」

「気のせいよ」

 

恋する女の子・・・か。

メグミちゃんが魅力的な女の子に見える訳だ。

やっぱり大事なのよね、こういう感情。

今はちょっと離れちゃっているけど・・・。

また、私を抱き締めてね。コウキ君。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

「そういえば、それならどうしてセレスちゃんを同行させたんですか?」

「親と恋人は違うのよ」

「へ?」

「私に気を遣うのとセレセレに気を遣うのでは違うって事」

「どちらでもコウキさんは幸せだと思いますけどね」

「ま、コウキ君には単純に癒しだけ味わってもらいましょう」

「ミナトさんでは癒しきれないと?」

「ふふっ。それは私への挑戦かしら?」

「い、いえ。そういう訳では?」

「大丈夫よ。帰ってきてから癒してあげるから」

「そ、そうですか・・・」

 

 

 

 

 

シュンッ!

 

「お疲れ。コウキ」

「アキトさん。お疲れ様です」

「進捗状況はどうだ?」

「セレスちゃんの御陰でもうちょっとで終わりますよ。ね」

「・・・はい」

 

セレス嬢の頭を撫でながらの返答。

気持ち良さそうにしてくれるからついつい撫でちゃうんだよなぁ。

 

「そうか。セレス。俺からも礼を言う。ありがとう」

「・・・いえ。楽しいですから」

 

頭を下げるアキトさん。

こういう誰にでも対等になろうという姿勢は見習わないとなって思う。

 

「ところで、コウキ、木連の件だが・・・」

「あ、はい」

「まだ連絡はないのか?」

 

約束の期限はもう過ぎている。

それなのに、例のものが来ないという事は・・・。

 

「ええ。まだないんです。もしかしたら、何かあったのかもしれません」

「草壁派の妨害工作という点が妥当だな」

「そうですね」

 

奴らならやりかねない。

北辰という存在もいる訳だし。

 

「こちらから連絡を取る事は可能か?」

「厳しいと思います。向こうがどこにいるのか分からない訳ですし」

「・・・そうか。連絡が来次第、すぐに教えてくれると助かる」

「了解しました」

「ああ。それじゃあな」

 

去っていくアキトさん。

改革和平派の一員としてアキトさんも多忙な日々を送っているんだろうなぁ。

なんだか、負けてられないなって気持ちにさせてくれるよ、あの背中は。

 

「また悪巧みかい?」

「・・・アカツキ」

 

アキトさんと入れ違いになるようにアカツキが現れる。

こいつ、狙っていたな?

 

「いつから呼び捨てにされるような仲になったのかな?」

「今更さん付けできるような関係でもないですから」

「そうかい」

「それで、何か御用ですか?」

「おっと。険悪な事で」

 

別に険悪っていう訳じゃないけど・・・。

なんとなくさん付けしたくないだけだ。

 

「ま、一応、報告しておいてあげるよ」

「報告?」

「お陰様でネルガルの業績は右肩下がりに突入さ。軍内でのネルガル評判も下がっちゃったみたいだし」

「今からでも遅くないですよ」

「明日香や軍に屈しろ、とでも?」

「意地って奴ですか?」

「ま、意地なんてクソ喰らえなんだけどね」

「意地より利益と?」

「そういう事」

 

肩を竦めるのがどことなく演技臭い。

相変わらず真意を見せない人だな、この人は。

 

「社長派は・・・まぁ、違法ばっかりだからいいんだけどね。最近は他の重役達が色々とうるさくてさ。会長の僕としても苦労している訳だよ」

「そんな情報を俺にくれていいんですか?」

「ま、この情報をどう使うかは君次第なんじゃないかな?」

「・・・・・・」

「精々、僕達の利益の為に頑張ってくれたまえ」

 

後ろ向きのまま手を挙げて去っていくアカツキ。

今の言葉の真意が掴めない。

立場上、こちらに協力できないからそっちで上手くやってくれって事か?

それとも、手出ししても既に意味がないって伝えたいのか?

もしくは、現状で落ち目だから俺を利用しようって魂胆なのか?

その重役とやらに連絡が取れれば間違いなくこちらが有利になる。

でも、そんな隙をアカツキが作るか? わざと? それとも、あえて?

・・・駄目だ。分からん。

クソッ。キャラが掴めなん。

・・・とりあえず保留にしておくか。

どちらにしろ、その重役の事は念頭に置いておくか。

おし。さてっと・・・。

 

「お疲れ様。セレスちゃん」

 

隣で静かに待っていてくれたセレス嬢に挨拶。

 

「・・・はい」

「今日はもう終わりだから。ありがとね」

「・・・いえ」

「それじゃ、明日に備えてもう休もうか」

「・・・楽しみです」

「そうだね」

 

嬉しそうに微笑んでくれるセレス嬢。

うん。明日は楽しくなりそうだ。

楽しみで眠れないなんて事には・・・ならないといいな。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「これでよしっと」

「・・・ありがとうございます」

 

今日はセレセレとコウキ君のデートの日。

という訳でしっかりとおめかししちゃいました。

今日は一段と可愛いぞ。セレセレ。

 

「コウキ君を楽しませてあげてね」

「・・・はい」

 

グッと胸の前で手を握り締めるセレセレ。

本当に可愛らしい。

 

「それじゃあ、いってらっしゃい」

 

頭を撫でてからセレセレを送り出す。

ちなみに、すぐにコウキ君と合流する訳ではないわよ。

ほら、デートって待ち合わせが肝心じゃない?

だから、きちんと待ち合わせ場所を決めさせたのよ、コウキ君に。

 

「楽しんできてね。セレセレ。コウキ君」

 

さてっと、今日も一日、お仕事頑張りますか。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

現在、ヒラツカ公園で待ち合わせ中。

ナデシコからはリニアモーターカーで移動しました。

いやぁ、これが未来の移動手段ですか。

静かですね。早いですね。本数多いですね。

普通の電車に慣れている僕としては新鮮でした。

リニアモーターカー以外にも色々な種類の列車があって・・・。

うん。未来って凄いね。まぁ、百年も経てば当たり前なんだろうけど。

 

「・・・しかし、ここまで来られるかな。セレスちゃん」

 

ミナトさん。流石に無謀でしたよ。

確かにナデシコ最寄り駅からは一駅だし、駅のすぐ眼の前だけどさ。

あんな小さい子に少しといっても一人で行動させるなんて。

・・・何かあったらなんて思うと心配で胸が痛くなります。

ただでさえ、あんなにも可愛らしいのに。

危ないオジサンに襲われないだろうか・・・。

・・・やはり迎えに行くか?

しかし、ミナトさんはもちろん、セレス嬢にまで駄目って言われているし。

うがぁ。心配で胃が痛くなりそうだ。

 

「・・・お待たせしました」

 

頭を抱えて座り込んでいる俺の後ろから聞こえてくる声。

バッと振り返ると、そこには見慣れた少女の姿が!

・・・なんて劇的な表現はしなくてもいいか。

とにもかくにも・・・。

 

「・・・よかったぁ」

 

一安心。

 

「・・・どうかしましたか?」

「ううん。なんでもないよ」

 

首を傾げて見上げてくるセレス嬢の頭を撫でる。

別に誤魔化している訳ではないのであしからず。

・・・それにしても、変な所を見られてしまったな。

恥ずかしい限りだ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

・・・どうすればいいんだろう。

ひたすら無言で見詰めてくるセレス嬢。

一体、セレス嬢は俺に何を要求しているんだ?

 

「・・・あの・・・」

「うん。何だろう?」

「・・・どうですか?」

 

・・・どうって?

 

「・・・ミナトさんに言われました。感想を聞くまで動いちゃ駄目だって」

 

・・・あ。

 

「うん。ごめんごめん。とっても似合っていて、可愛らしいよ。セレスちゃん」

「・・・はい!」

 

うん。反省。

まずは褒めなくちゃね。こんなにも可愛らしいんだもの。

お世辞でもなんでもなく、心の底からの感想でした。

 

「それってあの時の?」

「・・・はい。サツキミドリコロニーでコウキさんに買ってもらった物です」

 

セレス嬢にとっての初めてのお出掛けって奴だな。

ミナトさんとセレス嬢と俺とで出掛けたサツキミドリコロニー。

今まで服らしい服を持ってなかったセレス嬢に大量の服を購入した日。

あれから、ミナトさんの画策でセレス嬢もどんどん可愛いものに興味を持つようになってきて・・・。

うん、感無量。

本当にセレス嬢はどんどん可愛くなっていくな。

いずれ本当にアイドルになってしまうかもしれん。

なんだか、嬉しくもあり、寂しくもあるっていうか、うん、これが親心って奴か。

 

「・・・私のお気に入りです」

 

俺自身、ファッションは相変わらず詳しくないから細かい事は分からないけど・・・。

小柄なセレス嬢にマッチしていて、庇護欲を湧かせて、抱き締めたくなるような、ね。

これは勧誘にも気をつけなければならんだろうな、マジで。

 

「それじゃあ、行こうか」

「・・・はい」

 

無事に合流できたし、早速目的地へ向かうとしましょうか。

 

 

 

 

 

「早速やってまいりました。アニマルアイランドへ」

「・・・誰とお話していたんですか?」

「大事な事なんだよ。セレスちゃん」

「・・・そうですか。・・・やってきました。アニマルアイランド」

「うん。偉い。偉い」

「・・・はい」

 

という訳で今回の目的地は動物園。

無難な選択って思うかもしれないが、俺的にはかなりベストだと思っている。

セレス嬢はあまり動物と触れ合う機会がなかったし、

以前のホッキョクグマ救出の際、実物を眼にした時に眼が輝いていた。

テディベアもかなり気に入ってくれていたし、きっと可愛い動物に喜んでくれると思う。

ちなみに、ここは水族館も同じ施設内にあるという優れもの。

しかも、少し歩けばちっちゃいけど遊園地もあるという。

今日は存分に楽しもうじゃないか。

 

「さぁ、行こっか」

「・・・はい」

 

迷子にならないように手を繋いで、ゆっくりと歩き出す。

隣には既に頬を緩ませて喜んでくれているセレス嬢。

楽しんでくれると嬉しいかな。

 

 

 

 

 

「・・・とっても可愛らしいです」

 

小動物の可愛らしさに花が咲いたかのような笑みを浮かべて・・・。

 

「・・・大きいです」

 

普段お眼にかかれないゾウやキリンといった動物に驚き・・・。

 

「・・・強そうです」

 

獰猛な肉食動物(もちろん、大人しいですよ)にちょっと怖がって・・・。

 

「・・・気持ち良さそうです」

 

波に揺られてゆったりとする動物に心癒されて・・・。

 

「・・・早く次に行きましょう」

 

いつもは引っ張る側の俺も今回ばかりは引っ張られる側。

活き活きしているセレス嬢は新鮮で、俺も嬉しくなってしまう。

本当に表情が豊かになったなって思う。

昔は本当に無表情で、滅多に笑顔すら見せてくれなかったけど。

今では本当に色々な表情を見せてくれる。

周りからしてみれば今でも分かりづらい所があるらしいけど、いつも傍で見ている俺やミナトさんにはきちんと感情表現しているのが分かる。

嬉しい時には笑い、悔しい時には歯を食い縛って、悲しい時には瞳に涙を浮かばせる。

寂しい時には肩を落とし、ワクワクしている時には眼を輝かせて・・・。

マシンチャイルド? 彼女は唯のちょっと変わった特技を持つ女の子だ。

マシンチャイルド? だから、何だ。彼女はちゃんと自分の意思で動いている。

マシンチャイルド? そんなの彼女にとってほんの少しの意味しか持たない。

もう彼女を機械なんて言わせない。もう彼女を人形なんて言わせない。

彼女は彼女なんだ。こんなにも可愛らしくて、優しくて、内気で、でも、意外と頑固で。

セレス・タイト。君はもう普通の女の子だよ。

 

 

 

 

 

「そろそろお昼にしようか」

「・・・はい」

 

結構回ったかな。

楽しかったけど、ちょっと休憩したい気分。

分かるでしょ? この気持ち。

それに、そろそろお昼の時間だし、ちょうどいいかなって。

 

「ちょっと歩くけどいいかな?」

「・・・もちろんです」

 

場所はもう決めていたんだ。

施設からちょっと離れた公園内。

そこには持ち歩きが出来るちょっとしたお弁当を売るお店があり、ついでにレジャーシートを貸し出していて、芝生の上で食事が出来るという。

なんとも魅力的なものがあるのだ!

いやぁ。風も気持ちいいし、ゆっくり出来そうだ。

 

「彩り御膳を二つ」

 

現在、三月の上旬。

若干薄寒いけど、春が近いからかぽかぽかとした陽が顔を出している。

日光浴するにはピッタリって感じだ。

 

「あとレジャーシートを」

 

ちゃんとこれも借りないとね。

 

「さて、セレスちゃん。ちょっと手伝って」

「・・・はい」

 

二人で協力してレジャーシートを敷く。

こういう共同作業も大切なのさ。

 

「うん。それじゃあ、食べようか」

「・・・頂きます」

「頂きます」

 

木陰にレジャーシートを敷いて、陽のあたりを少しだけ感じつつ、心地良い風を浴びる。

 

「気持ち良いね」

「・・・気持ち良いです」

 

そろそろ桜が咲こうという時期な事もあり、ちらほらと桃色が眼に映る。

どれだけ時が進んでも、こういう美しさは変わらないんだなって。

今更ながら感慨深くなった。

 

「・・・あ」

 

サーッと強い風が吹く。

セレス嬢の綺麗な髪が靡き、陽の光が銀色の髪を煌かせる。

 

「・・・綺麗だ」

 

思わず見惚れてしまうなんとも美しい光景。

妖精なんて呼ばれているけど、それも納得って感じだ。

 

「・・・コウキさん?」

 

おっと、娘になる子に見惚れていちゃ駄目だよな。

 

「気持ちいいなって」

「・・・はい。本当に」

 

同じ会話を二度。

それなのに、なんて心が安らぎ、穏やかになる事だろう。

不思議だけど、今はただこの心地良さに身を任せたかった。

 

「・・・眠たくなってきました」

 

激しく同意です。セレス嬢。

 

「少し眠ろうか」

「・・・でも」

「時間が勿体無い?」

「・・・はい」

 

せっかくだからって事かな。

ふふっ。可愛い奴よのぉ。

 

「それじゃあ、ちょっとだけ。その後にしっかり楽しもう」

「・・・(コクッ)」

 

心地良い日差し、心地良い風、穏やかな昼下がり。

そんな昼寝に抜群の環境に囲まれたら寝ちゃうのも当然だって。

 

「・・・コウキさん」

「はいはい」

 

縋るように密着してくるセレス嬢。

どうやら枕をお求めのようだ。

苦笑しながら、その要求に応えてやる。

 

「・・・おやすみなさい。コウキさん」

「うん。おやすみ」

 

木に寄り掛かる俺の膝に頭を乗せて、すっかり微睡んでしまったセレス嬢。

その邪気のない寝顔は微笑ましさを誘い、自然と心が癒されていった。

透き通るような綺麗な髪を櫛で梳くように撫でながら、大地にしっかりと根を張る木の下で、俺達は少しの間、穏やかな時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

「・・・今日はとっても楽しかったです」

「そっか。それは何より」

 

午後、残った動物園を回り、最後に遊園地で遊んだ。

あまり活動的ではないセレス嬢。

案の定然、絶叫系などは乗り気ではなかった。

まぁ、嫌なら嫌で、と思いながらも挑戦させたのだが・・・。

見事に嵌ってくれた、いや、嵌ってしまった。

乗せた後に気付いたのだが、俺の絶叫系嫌いは直っていなかった。

いや、嫌いというか、苦手なだけだけどね。

エステバリスに乗って慣れたと思っていたけど、全然違った。

一度、経験してみてくれ。これは乗った俺にしか分からないと思う。

それなのに、絶叫系に嵌ったセレス嬢は遠慮なく絶叫系巡りに。

身長制限とかであまり規模のでかいものに乗れなかったのは不幸中の幸いだった。

・・・が、それでもやっぱりかなりの疲労だったさ・・・。

何度も乗ればそうなるよね?

しっかし、どうしてこう女の子っていうのはこんなにも絶叫系が好きなのだろうか。

これは俺が一生を掛けて研究するに相応しいテーマかもしれんな・・・。

 

「・・・ありがとうございました」

「こちらこそ、楽しかったよ。ありがとう」

 

遠足は帰ってくるまでが遠足。

その言葉を表すようにしっかりとナデシコまでエスコートさせて頂きました。

片手にお土産、片手に小さな手。これが最終的に収まった形ですね、はい。

 

「・・・明日から、また頑張りましょう」

「うん。頑張ろう。セレスちゃん」

「・・・私も協力します。コウキさんの役に立ちたいですから」

「ありがとう。本当に助かるよ」

「・・・それじゃあ、失礼します。ありがとうございました」

「うん。こちらこそ」

 

ペコリ。

最後に一礼して、セレス嬢は部屋へと入っていった。

どうやら、かなり楽しんでくれたようで、俺としても嬉しい限りだ。

さてっと、後は・・・。

 

「どう? 楽しめた?」

「ミナトさん」

 

いきなり背後から声が掛かる。

振り返るとそこにはミナトさんの姿が。

 

「丁度良かったです。お土産も渡したかったですし」

「そう。それじゃあ、ひとまず私の部屋に行きましょう」

 

肩を並べてミナトさんの部屋へと向かう。

 

「それで、楽しめた?」

「ええ。結構充実していましたから、色々と楽しかったです」

「それは良かったわ」

「今度は皆で行きましょう。ミナトさんも一緒に」

「それはセレセレも含まれているの?」

「二人きりの方が良いですか?」

「ふふっ。どうでしょうね」

「それも良いかなって思います。きっと楽しいですよ」

「そうね。きっと楽しいでしょうね」

 

顔を見合わせて笑う。

最近、二人きりでデートしてなかったし。

愛想尽かれないようにしなくちゃね、なんて。

 

「今度の休みはミナトさんと二人きりでデートがしたいです」

「あれ? 前はそんな事、言わなかったのに」

「俺だっていつまでも照れていちゃいられないですから。それに、セレスちゃんとも楽しいですが、やっぱり一番はミナトさんとですから」

「そっか。それじゃあ、デート、しましょう」

「ええ。今すぐにでも」

「気が早いわね」

「それぐらいの気持ちって事です」

「ふふっ。そっか」

「はい」

 

慌しい日常の中で、久しぶりにゆっくり休めた気がする。

よし。もう少しで全てが解決するんだ。

気を引き締めて頑張ろう。

きっと、それがもっと先の幸せに繋がるのだから・・・。

 

 

 

 

 


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