「セレスちゃん。ちょっと手伝って欲しい事があるんだけどいいかな?」
「・・・はい! 頑張ります!」
「さて、今日はちょっとテストを行ってもらいます」
「テスト?」
明日香インダクトリーと軍の基地を訪ねてから数日。
ようやく追加装甲をシミュレーターに反映する事ができた。
ナデシコのパイロット数は全部で八名。
今の所、追加装甲は三種類だが、それぞれどれに乗るか決まっていない。
まぁなんとなくそれぞれの希望は想像つくんだけど・・・。
折角だから、適正テストでもしようかなと思った訳。
もちろん、一機だけにしか適正があるなんて事は絶対にない筈だ。
理想は状況によって乗り換える事なんだろうけど、適正外の機体に乗っても効果は発揮できないだろ?
その為の適正テストにもなる訳だ。
まぁ、ガイなんかは何があってもスーパー戦フレームに乗るとか言い出しそうだけど。
・・・案外、ヒカルとかも好きそうだな、スーパー戦フレーム。
「今、俺が色々と動き回っているのはご存知だと思いますが、早速その成果をお見せします」
「あ。この前の奴だね」
「そうそう。早速シミュレーションに組み込みましたので試してみてください」
「お。流石コウキ。仕事が早いぜ」
「早く乗りたくてウズウズしていたんだろ? ガイ」
「分かっているじゃねぇか。早くしろよ」
「はいはい。まぁ、ちょっと落ち着けよ」
興奮冷めやらずって奴だな、ガイ。
まぁ、憧れのゲキ・ガンガーに乗れる訳だから分からなくないけどさ。
「簡単にですが、名称を付けさせて貰いました」
シミュレーション室内にあるモニタに機体データを映し出す。
「こちらが明日香インダクトリーより譲り受けた追加装甲。後方支援特化です」
モニタの映像を操作し映像を映し出す。
「明日香インダクトリーはご存知のようにデルフィニウムを作り出した会社であり、そのミサイル技術は他企業を大きく上回っています」
「会社としての技術力は勝っている自信があるけど、ことミサイルに関してはうちも分が悪いね」
ネルガル会長が認めるぐらいだから相当高い技術力なんだな。
だって、あの負けず嫌いの会長が認めるぐらいなんだぜ。
「そのノウハウを存分に活かした高性能ミサイルを搭載し、加えて射程距離の長いスナイパーガン、連射性に優れたマシンガン、その間の性能を持つレールガンを備えています」
「その名の通り、後方支援特化な武装だな」
「ええ。接近戦用にはナイフぐらいしかありません。基本的に近付かれずに後方からの支援、射撃がメインの役割となります。その分、装甲は厚くしてありますし」
固定砲台に近い考え方だな。
機動力は通常より若干損なわれるが、それをカバーできるだけの多面的な攻撃ができる。
「イズミなんか最適だね、これ」
ヒカルと同意見。
恐らく、適正テストでも彼女がこの機体を一番うまく使うだろう。
「聞いていいかい?」
「どうぞ」
会長が不満顔でこちらを見てくる。
なんか初めて見る顔って感じ。
「なんで明日香の追加装甲がうちのエステバリスに装着できるんだい?」
あぁ、そういう事か。
「敵軍の戦力向上を懸念して軍から明日香に協力を求めた結果です」
「明日香はそれで得をするの? エステバリス用の追加装甲なんて作ってさ」
「問題ないそうですよ。明日香も利益があると見込んで製作してくれたそうですし」
「・・・ふ~ん、そう・・・」
別に会長は明日香を心配してくれている訳ではないだろう。
重要なのは軍がネルガルではなく明日香に協力を求めたという事。
これはいつでもネルガルと手を切れる事、軍がネルガルと手を切ってもいいと考えるぐらいの高性能な何かを明日香が開発している事の二つを示している。
会長の懸念はそこにあるのだろう。
このまま軍に協力しない姿勢を貫く事が凶とでるか吉とでるか、と。
いや、軍に、ではなく、俺達に、か。
あれだけ脅かしている訳だし。
こうして考えさせているだけでも効果があったと考えるべきだな。
「えっと、次に進んでも?」
「うん。構わないよ」
どこか思案顔のアカツキ会長。
あれだね? 企業の顔って奴。
今後の方針について考えているのだろう。
ま、俺は俺の仕事をするだけだけど。
「次は軍内の知り合いに提供して頂いたエステバリスの新フレームです」
「ネルガルの許可は既に?」
「はい。軍を通して」
最近、長い交渉の末にようやく自由開発が許可されたらしい。
既にエステバリスの研究をかなり進めている軍。
これからますます戦力を充実させていく事だろう。
特に最も早く戦力の充実を図った改革和平派は。
「こちらも両極端ですね。スーパー戦フレームとリアル戦フレーム」
「スーパー戦フレーム?」
「リアル戦フレーム?」
「はい。まずはスーパー戦フレームの説明をします」
モニタを操作。
映し出されるのは通常のエステバリスの三倍のエステバリス。
決して赤くないし、機動力でもないぞ。大きさだ。
「両者に共通する事ですが、これらは追加装甲という形を取っています」
「・・・しかし、これは極端だろう」
「・・・既に追加装甲というよりは別の機体だよね」
「初めて見た時は同じように感じました」
まぁ、誰だってそう思うさ。
実際、エステバリスの姿なんてないに等しい訳だし。
「核となるのは高機動戦フレーム。各部にパーツを装着させる形で実現されます」
装着前と装着後を映し出す。
「スーパー戦フレームの名は伊達ではなく、追加装甲にはそれらしい武装が数多く組み込まれています」
「えっと、両手がギガントアームで、それぞれ着脱式ドリルアーム付き」
「それで、腰部からはグラビティブラスト。・・・ジンみたいだな」
「対艦ミサイルに対艦刀ねぇ・・・」
「しかも、この拳、ロケットパンチみたいに飛び出すんだそうです」
「ってか、なんで身体のあちこちからドリルとか剣が飛び出てんだ?」
「・・・滅茶苦茶ね」
「お前らにはこれの凄さが分かんねぇのかよ!」
・・・いや、凄いのは認めるけど、滅茶苦茶なのも事実だよ。ガイ。
でも、まぁ、破壊力抜群ってのは認めざるを得ない性能だ。
「通常の重力波に加えて背部にある相転移エンジンから出力を確保しています」
「背中の妙な奴はそれだったのか・・・」
「なんともエネルギーコストがかかりそうな機体だね」
流石は企業の会長。現実的な視線で物事を見ますか。
でも、ちょっとだけ眼が輝いていますよ。スルーしましょうか?
「高機動フレームの機動力に加えて大型のブースターを取り付けていますので・・・。まぁ、細かい機動さえ諦めてくれれば、直線移動はなかなかの早さですよ。多少の攻撃はその分厚い装甲とDFが弾き返してくれると思うので心配ありません」
ジンシリーズはDFさえ突破してしまえば脆いものだった。
だが、慎重派の多い地球ではきちんとDFがない状態も想定されている。
だから、実用性の高い頑丈な装甲が取り付けられているって訳だ。
「次はリアル戦フレームですね」
パッと映像を変更。
「こちらも核は高機動戦フレームですが、方向性が真逆です」
「なんとなく両者の関係に意図を感じるんだけど・・・」
会長。その通りなんですよ。
「その基地内でスーパーロボット派とリアルロボット派で対立していましてね」
「あ~、そういう事か。どちらもその理想を具現化したって訳ね」
「仰る通りです」
オッチャンを始めとして連中は如何にスーパーロボットに近づけるかを。
知的お兄さんを始めとした連中は如何に理想のリアルロボットを実現するかを。
それぞれ追い求めた結果がこの二つのフレームな訳だ。
その敵愾心というか、負けず嫌いからだろう。
こんなにも高性能なフレームを作り出したのは。
いや、ライバルはいいね。切磋琢磨してさ。
「しかし、スーパー戦フレームはでかくないか?」
「それがいいんだろうが!」
「いや、批判している訳ではなくてな。ナデシコに載せられるのかという疑問だ」
「・・・あ」
なにこの世の終わりみたいな顔をしているんだよ、ガイ。
「問題ありませんよ、アキトさん」
「そうなのか?」
「ええ。このフレームは出撃後に換装、取付する形で完成する追加装甲ですから」
仮にナデシコであればパーツをそれぞれ射出、合体! といった感じになる。
基地なんかなら、場所取るけど、別に元から合体しといても問題ないかもしれないな。
場所は確保できているだろうし。
「なるほどな」
納得していただけたようで何よりです。
ま、コンセプト的に追加装甲にしたというよりはせざるを得なかったといった所だろう。
アキトさんの言う通り、そのままじゃナデシコを含めた戦艦に搭載しきれなそうだし。
それに、取り外し可能っていのはある意味、汎用性にとても優れているとも言える。
あのでかさだと、参加できる作戦も限られちゃうだろうし。
「では、話を戻しますね」
「ああ。すまない」
「いえ。こちらはエステバリスが服を着るような形で実現されます」
言わば、防弾チョッキを着込み、ありったけの武器を取り付けたって感じかな。
「安定性抜群の理想のリアルロボットとでも言いましょうか」
「確かに欠点らしい欠点は見付からんな」
そう、それが一番大きいんですよ。
弱点がない。これが理想のリアルロボット。
近・中・遠対応で、武器も多彩。
機動力、重量、装甲のバランスも良し。
良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏だけど、
一小隊に必ず一機は欲しい補佐役の機体ですね。
「後は詳しい資料を配布しますので御自分で確認を」
各自に資料を配る。
実際に自分で見た方が分かり易いだろうし。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
黙って読み込む五人。
うん。優秀な生徒だ。
そして、残る二人は・・・。
「・・・あぁ」
「・・・グッ」
案の定、ソワソワし始めました。
まぁ、ここは名誉の為に誰かは言うまい。
「ダァ! まどろっこしい。こういうのは感覚で覚えるもんなんだよ!」
「さっさと乗らせろ! この機会を何年待ったと思ってやがるんだ!」
・・・誰か分かっちゃったかな?
ま、いいや。早速テスト開始といこうか。
「セレスちゃん。準備は?」
「・・・大丈夫です」
ここで特別ゲスト登場。
はい。拍手。
「どうしてセレスがここにいるんだ?」
「セレスちゃんに協力してもらうんですよ」
「セレスに?」
「まぁ、見ていてください」
少しズレ、コンソールの前から移動する。
パッと後ろから台を持ってきて、セレス嬢を乗せ・・・。
「セレスちゃん。よろしく」
「・・・はい」
コンソールに手を置いてもらう。
同時に凄まじい情報がモニタに映し出された。
「セレスちゃんと俺の合作って奴です」
「・・・これは?」
「それは後のお楽しみで。ガイ。とりあえずシミュレーターに」
「おっしゃぁ!」
勢い込んでいるけど、この先に待つのは決して天国じゃないぜ。
「とりあえず、ニ倍速で」
「・・・分かりました」
「ニ倍速?」
「モニタに注目していてください」
その言葉でパイロット達全員がモニタに視線を注ぐ。
『おっしゃぁ! 行くぜ! ゲキガンファイト! レディーゴッ、ゴホッ、な、何だ!?』
そんな余裕はないぜ。
巨大なスーパー戦フレームの周りを高機動戦フレームが飛び回る。
「これは・・・」
「お察しの通りです」
高機動戦フレームが拳を叩き込もうとする中、ガイは必死にエステバリスを視界に収めようとする。
だが、結局、捉え切る事は出来ずに一撃を喰らってしまった。
まぁ、大したダメージにはならないだろうが。
「敵対するのは自身の戦闘データを基にした言わば自身の影。とりあえず、今回の適正テストでは自分自身と戦ってもらいます」
高機動戦フレームと新型機のどちらで自身の能力を高く発揮できるか。
それを見たいが為の新システムだ。
「だが、それだけではないだろう?」
「ええ。同時に夜天光、及び、ブラックサレナ対策もしてもらいます」
「・・・その為のニ倍速か」
「そうです。機動力で差が出る以上、まずは慣れてもらわないと」
どうせ自身と戦うのなら、こういう趣旨を持たせないとね。
ただ戦うだけじゃ面白くないし、テスト内容が薄くなる。
機体性能が向上するのなら、それに伴ってパイロットの技能も向上させるべきだし。
通常の自分の倍以上の動きをする敵と争ってもらおうって魂胆です、はい。
自身の限界を超える良いきっかけになりますよね。
行動パターンはあくまで同じなんだし。
ニ倍速の自分を打ち破れば二倍強くなるのさ。
・・・単純な考えだけど、効果は出る筈だ。
「セレスがいるのは?」
「通常速とニ倍速が同じ空間内に混在しちゃっている訳ですから。それの演算はかなり複雑なものになるんですよ。セレスちゃんがいるのはその為です」
「・・・それはかなりの負担になるのでは?」
「一応、シミュレーターだけでも処理できるよう改良しましたから大丈夫ですよ。ただやっぱり少しだけ動きがぎこちなくなったりするので、リアルティに欠けるというか。まぁ、そんな感じなので倍速変更は俺かオペレーター勢がいる時だけにした方が良いかもです」
「了解した。だが、面白い考え方だな。高機動戦フレームと新型機のどちらで力を発揮できるかをテストし、同時に自身と戦う事で自身を見詰め直す事にも繋がり、倍速をあげる事で機動力の差を慣れさせる事で今後に活かさせる。テストと言いつつも、これは既に修行に等しいシミュレーションだな」
「まぁ、俺なりに色々と考えているんですよ」
最初は思い付きだったんだけどね。
考えてみれば結構有効だったりするんだ、これが。
既に高機動戦フレームでの機動データは入手済みだから、後はこの戦闘での機動データと掛け合わせるだけで適正テストが出来る。
「しかし、敵が違っては参考にならないのでは?」
「アキトさん。俺が今まで何回機動データを取って来たと思いますか?」
「・・・かなりだな」
「はい。もうかなり慣れています。敵が違うぐらいじゃ惑わされませんよ」
いやぁ、気付けば俺も成長したもんだ。
データ収集と解析、研究は最早俺の特技の一つになったな。
意外と楽しいのが理由だったりもするけど。
『ク、クソッ! 当たらねぇぞ!』
「ガンバレ~。ガイ」
『このっ! 軽く言いやがって』
苦労していますね。
まぁ、人間とハエとまではいかないけど、自身よりかなり小さい敵が相手なんだ。
そりゃあ捉えるのに苦労しますよね。
でも、やってもらわないと困る。
これからそれに乗り続けるのであれば、同じような場面には絶対に遭遇するのだから。
本当にスーパー戦フレームに乗りたいのなら成し遂げてみせろ! ガイ!
『オラァ!』
「お疲れ様。セレスちゃん」
「・・・いえ。コウキさんこそ」
あれから人数分の適正テストを行なった。
まぁ、同時進行したから時間はそれ程掛からなかったけどね。
・・・うん、こっち側の精神的な負担が大きかったんだ。
最初はガイだけだったけど、次からはニ、三人同時だったからさ。
俺も制御の方に参加して、俺とセレス嬢との協力体制。
まだ幼いセレス嬢の負担を考えて途中で休ませたりなんかして。
一人でやる事もあったからか、終わったと同時に一気に脱力しました。
いや、頑張ったな。俺。
その後はひとまず解散。発表は後日という事になった。
これから解析、分析作業です、はい。
やばい。マジで忙しい。
ケイゴさんからの連絡もまだないし。
うがぁ。考える事が多過ぎるぞ!
「ありがとね。助かった」
「・・・お役に立てたようで嬉しいです」
うん。荒んだ心を癒してくれるね。
この笑顔と癒しであと百年は戦えます。
「・・・ん」
思わず頭を撫でてしまう。
この感触もまた癒しなんですよね。
柔らかい髪質だしさ。
眼を細めるのも可愛らしい。
やばいな。このままじゃ絶対に親馬鹿になる。
「・・・分析作業もお手伝いします」
「いいの?」
大変なんだけどな。
なんか、あれだよ、断っちゃいけない空気。
「・・・大丈夫です」
「それじゃあ、御願いしようかな」
「・・・はい!」
笑顔で、はい! なんて言われたらねぇ。
マジで断れませんよ。
実際、助かっていますしね。
御願いします。セレス嬢。
「とりあえず、お腹空いたし、食堂にでも行こうか」
「・・・はい。私もお腹空きました」
クーっとお腹を鳴らし、恥ずかしそうにお腹を押さえるセレス嬢。
「じゃあ、行こっか」
「・・・はい」
でも、そこをスルーするのが紳士って奴だ。
からかいたくなったっていうのが本音だけど、自重しました。
俺のせいでもあるしね。今日は僕がセレス嬢に奢るとしましょう。
さてっと、何を食べますかね。
「おぉ! こんな所にいやがったか」
「どうかしたんですか? ウリバタケさん」
食事中、慌しくウリバタケさんがやってくる。
その手には何かが書かれた紙束が・・・。
なんか更に忙しい事になりそうな気がするのは僕だけですかね?
「どうかしたってなぁ、まぁいい。ほらよ」
分厚い紙束を投げられた。
食事中だっていうのに、まったく・・・。
まぁ、愚痴っていても仕方ないか。
「・・・これは」
その紙束に書かれていたのはエステバリスの外形、武装内容、性能内容など。
うん。あれだね。仕様書だね。
「ようやくエックスエステバリスが完成してな。現在、改良中だ」
完成したってだけでも驚いているのに・・・。
更に改良ですか。自重は忘れずに。
「お前の意見も参考にさせてもらったぞ」
「俺の意見?」
「おうよ。ライフル自体にアンテナを取り付けるって奴だ。あれは良いな」
あぁ・・・。イネス女史と意見交換した時の奴か。
「とりあえず、これ見て確認しといてくれ」
「了解しました」
「手伝ってもらいたい時に呼びに行くから覚悟して待っていろよ」
風のように去っていくウリバタケさん。
きっと、覚悟してろっていうのは冗談なんだろうけど・・・。
マジで覚悟を決める事になりそうだ。主に忙しさ的に。
「・・・コウキさん」
「ん? セレスちゃんも見る?」
「・・・はい。私もお手伝いしたいですから」
・・・良い子や~。
「えーっとぉ、エックスエステバリス改修案」
とりあえずエックスエステバリスを基本に弄くっていく訳ね。
きっとかなりの自信作なんだろうな。
「武装案、グラビティライフル」
「グラビティブラストの小型化に成功したのよ」
「うぉっ!? イネスさん!?」
「・・・ビクッ!」
ビ、ビックリした。
「何をそんなに驚いているのよ」
「そ、そりゃあ驚きますよ。いきなり後ろから話しかけられたら。ねぇ?」
「・・・はい。驚きました」
マジでボソンジャンプ習得しているんじゃないか? イネス女史。
「前、空いているわよね。失礼するわよ」
返事する前に座っちゃった。
まぁ、分かっていましたが。
「さぁ、ドンドン質問しちゃいなさい。全て万事完全完璧に説明をしてあげるわ」
盛り上がっていますねぇ、イネス女史。
「小型化に成功したってのは?」
「以前はジェネレーターの問題で困っていたじゃない」
「はい。確かにそうでしたね」
「それを貴方が提供してくれたデータで解決できたの。だから、今度は銃型に収める事は出来ないかなと検討したのよ」
「結果、可能であったと」
「ま、シミュレーションの段階でしかないけどね」
「それじゃあ、この資料は・・・」
「ええ。あくまで完成予定図よ。どうなるかはまだ分からないわ」
「完成までどれくらい掛かりますかね?」
「そうね。少なくとも一、二ヶ月以上は掛かるとみていいわ」
・・・一、二ヶ月か。まぁ、問題ない・・・かな。
木連もまだ動き出してないし。
和平交渉に応じるとしても国内の意見を纏めなくちゃいけない。
だから、時間が掛かるのは当たり前な訳よ。
まぁ、木連が分かっているかどうかは不明だけど。
「このグラビティライフルは威力、射程距離をパイロットが自在に調整できるの」
「ほうほう」
そいつは使い勝手が良さそうだ。
射程距離、威力は少なめだが、エネルギーコストが低いモード。
エネルギーコストが高いが、射程距離、威力が高いモード。
状況によって使い分けができる万能銃という訳だな。
「これが一丁あれば他の重火器はいらないんじゃないか。それぐらいの万能性があるわ」
「威力はどの程度あるんです?」
流石にナデシコのグラビティブラストを超える事はないだろう。
「このグラビティライフル単体だとナデシコのグラビティブラストには敵わないわね」
まぁ、単機でその威力が撃てちゃったらね。
戦略級兵器になっちゃうよ。
「ん? 単体?」
気になるワードを発見。
単体だとって・・・どういう意味だ。
「良い所に目を付けたわね」
ニヤリと笑うイネス女史。
美人だから様になるけど・・・マッドの笑みは不思議と背筋が凍る。
「このライフルは単体でも運用できるの。コストの問題でそんなに量産はできないけど、貴方のもってきた後方支援特化だったかしら? それに使わせるぐらいならいいかもしれないわね」
「それは助かりますね。戦闘の幅が広がります」
「ええ。でも、始めに言っておくわ。グラビティライフルの真価はエクスバリスと組み合わさってこそ発揮されるのよ」
真剣な表情でそう告げる。
若干、自慢気な一面も覗かせるが・・・。
「元々のエクスバリスのコンセプトは知っているわよね?」
「えっと、月面フレームのパワーとエステバリスの機動性を併せ持ち、限りなくグラビティブラストに近い攻撃を放てる火力に富んだ高性能な機体といった所でしょうか」
付け加えるならば、エネルギー変換効率に優れるが、その分、安定性に欠け、かつ、莫大なエネルギーに耐えられず、自爆する可能性すらある欠陥機。
まぁ、完成したと言っているのだから、その問題は解決したんだろうけど。
「模範解答ね。よくできました。花丸」
「あ、ありがとうございます」
・・・小学生の先生ですか?
「・・・流石コウキさんです」
「あ、ありがとう」
セレス嬢に褒められてしまった。
「じゃあ、その段階でグラビティブラストはどう撃つ想定だった?」
「えっと、確か、ジンみたくお腹から撃つ想定だったような・・・」
「そうね。でも、グラビティライフルの登場によってわざわざお腹から撃つ必要はなくなったわ。じゃあ、お腹のエネルギーは?」
「上乗せが可能。そういう事ですか?」
返答はニヤリ、で頂きました。
ちょ、ちょっと待とうか。
「グラビティライフル単体でも劣化グラビティブラストぐらいの威力はあるんですよね? そこにエネルギーが上乗せされたりなんかしたら」
「そう。その火力はナデシコのグラビティブラストと同等、いえ、もしかしたら、それ以上になるかもね」
単機でナデシコ級の火力だって?
おいおい。それは反則だろ。
「ま、その代わり、いつもお腹に莫大なエネルギーを抱え込むんだけどね。例えるなら核爆弾をいつもお腹に抱えて戦闘するようなものよ」
「・・・・・・・・・はい?」
ちょ、ちょっと待とうか。
デメリットが大き過ぎるでしょ。
「そんな危ない機体に誰が乗るんですか!?」
確かに高性能だよ。
でも、核爆弾を抱える機体に乗るとか、正気の沙汰じゃない。
「候補は貴方だけど?」
「・・・え?」
「貴方なら乗りながら色々と調整できるし、最悪、ボソンジャンプで逃げられるじゃない」
「・・・え?」
「不満?」
いや、不満というか・・・不安?
「ま、今は調整の段階だから、貴方も参加して少しでも不安材料を減らせばいいんじゃない?」
「乗る事は確定ですか・・・そうします」
死にたくないしな。
「あ、勿論、アンテナも改良してあるから、調整も難しくなっているわよ」
どうしてそう不安になるような事を言うかな?
ニヤニヤしちゃって。
「しっかし、まぁ・・・」
やっぱり、イネス女史とウリバタケさんが組むと混沌と化すな。
まぁ、抜群というか、ありえないぐらいの結果を残すから文句も言えないんだろうけど。
優秀な人間って偶に性質が悪いと思う時があるのは僕だけでしょうか?
「今回の開発、貴方の提供してくれた資料が非常に役に立っているわ」
「それは嬉しい限りですね」
「いえ、違うわね」
「はい?」
どういう事さ?
「役に立ちすぎているのよ、貴方の資料。まるで既に形となっている技術を紹介されているような印象を受けるわ」
「五年後の技術が基ですから、そう感じるのは当然では?」
「見くびられたものね、私も」
「・・・・・・」
鋭い視線を突きつけてくるイネス女史。
「ねぇ、本当に貴方は何者?」
鋭い。穴が空いてしまうんじゃないかと思うぐらい鋭い視線。
でも、流石の俺も慣れてきた。そう簡単には屈しない。
・・・慣れたくなんかなかったけどな、こんな事には。
「私を馬鹿にしないで欲しいものね」
「馬鹿になんて」
「気付かないとでも思った? あの資料は・・・五年後のものじゃないわ。少なくともこの世界の五年後のものでは」
「この世界?」
「ええ。確かに技術的には五年後でも実現可能かもしれないわ。でも、全く方向性が違う。まるでまったく違う方向に発達した世界の技術を奪い取ってきたみたい」
・・・鋭すぎますよ、イネス女史。
なんであの資料を見ただけでそこまで分かっちゃうんですか?
「アハハ。まるで俺が違う世界から来たみたいな言い草ですね」
「その可能性も検討したわ」
・・・誤魔化そうと思って言ったのに。
実際にその可能性を検討しているとは思わなかった。
「でも、確固たる証拠もなく、所詮は予測でしかなかった」
「まぁ、おかしな話ですからね」
「そうかしら? 私は違う世界、並行世界の存在を信じている側の人間よ」
「本当ですか? あの現実主義のイネスさんが」
「現実主義だからこそ思うのよ。世界の枝分かれ。タイムパラドックス。当然生じる事象だわ。そして、事実、貴方の存在はアキト君の記憶の中にはなかった」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
流石に黙り込むしかなかった。
アキトさんの記憶の話になったら、俺には反論する術がない。
実際問題、俺の姿は本当の意味でのナデシコにはなかったのだから。
「貴方はアキト君の影響でここにいるのか。それとも自らの意思でここにいるのか。ふふっ。考えるだけで面白いわね。コウキ君」
「性格悪いですよ。イネスさん」
「ふふっ。研究者なんてそんなもんよ。ま、いいわ。本題からズレ過ぎちゃったし」
「本当です」
誤魔化されてくれないのが強かなイネス女史。
あれだけの会話でまた何かしらの考えに発展したんだろうな。
やっぱり天才っていうのは性質が悪いよ、ホント。
「さて、そろそろお暇するわ。お邪魔みたいだし、私」
視線の先にはセレス嬢。
うん、なんかちょっと拗ねている。
構ってあげられなかったからかな?
・・・反省。
「また後にでも伺います」
「ええ。待っているわ。天才プログラマーさん」
・・・行ってしまった。
「冷めちゃったね、ご飯」
「・・・知りません」
プクッと頬を膨らませるセレス嬢。
昔では考えられなかった仕草が思わず笑いを誘う。
「・・・笑うなんて酷いです」
「ごめんごめん。なんかデザート食べよっか」
「・・・はい」
その後、頬を緩ませてプリンを食べるセレス嬢を見て果てしなく癒された僕でした。