「歓迎しよう」
「・・・提督?」
ただいま、地球。
という訳でコスモスでの修理を終えて、無事に地球へと戻ってきた。
エステバリスの強化案も順調に進み、ウリバタケさんもハッスルハッスル。
乗り気を飛び越して、最早彼主導の計画へと成っている。
まぁ、俺個人としては頼もしい限りなのだが・・・。
だってさ、イネス女史とウリバタケさんのマッドコンビだぜ。
何か途轍もない事をしてくれるんじゃないかって。
彼らに任せれば限界を超えてしまうんじゃないかって。
思わずそう考えてしまったのは別に変な事じゃないと思うんだ。
実際、俺がエステバリスの開発に携わるより、強化に関係のある情報をひたすらに提供した方が遥かに効率が良いと思う。
しかし、その情報でも色々と考えなくちゃいけない事があって、その辺りをイネス女史あたりに相談したいかなぁ~とか悩んじゃってもいる。
まぁ、こんな情報はないのかって訊いてくれたら助かるかな。
とまぁ、強化案についてはこんなもの。
それで、だ。目の前には以前までと制服が違う提督の姿。
あ。・・・もしかして・・・。
「コホン。提督はよしてくれないか」
「そ、それじゃあ・・・」
やっぱり!
「うむ。改めて、自己紹介といこう。私は連合宇宙軍極東方面支部総司令官ミスマル・コウイチロウである」
お・・・おぉ。
ようやくにして、念願の極東方面総司令官に就任したんですね!
「け、敬礼!」
慌てた様子で告げるユリカ嬢。
そして、同じく慌てた様子で敬礼を返すクルー達。
一応、僕達も軍属だからね。当然の事なんだけど・・・。
「・・・・・・」
形になってねぇ・・・。
いや。まぁ、僕も最初は稚拙というか、無様というか、そんなんだったけど。
原作でもそうだったけど、どうして敬礼する機会とかなかったんだろう?
むむむ。謎だ。敬礼なんて教わってもいないぞ。
「ユリカァ。そんな堅苦しい挨拶はいらないんだぞぉ」
「お父様、いえ、総司令官! 公私の区別はきちんと付けます!」
「おぉ・・・。成長したな。私は嬉しいぞ。ユリカ」
「お父様!」
「ユリカ!」
・・・なんか始まっちゃったよ。
まぁ、親子の対面だ。邪魔すまい。
「やぁ。マエヤマ君」
「あ。参謀。お久しぶりです」
「ようやく君の前に立つ事が出来たよ」
「えぇっと?」
どういう意味だ?
参謀も忙しかっただろうし、お互いにいた場所も場所だし、
仕方なかった、で別に済む話だと思うんだが・・・どうも重い。
「あれだけの事をしてもらっておいて、成果を出す前にノコノコと会えないっていう意味だよ」
あぁ。そういう事。
「いえ。これは参謀だからこそ実現できた事。流石です」
「ハッハッハ。そうかね」
「はい」
「それなら嬉しい限りだ」
不思議な事に、やっぱり提督と参謀は親子なんだなって思った。
最近の提督は本当に心強いからな。親譲りの知能って訳だ。
将来、提督も参謀みたいな王佐の才的な人間になるんだろうなぁ。
とか、ふと思った。
「あら。お父様」
「サダアキか。おかえり」
「ただいま戻りました。お父様」
さてさて、こっちでも親子の対面が始まった訳だし、俺はさっさとずらかりますかね。
「それでは、私はこの辺で―――」
「待ちなさい。マエヤマ・コウキ」
身を翻して去ろうとした訳ですよ。
でも、途中で呼び止められてしまった。
何だろう? 俺、なんかしたかな?
「お父様。彼の話を聞いてあげてくれますか?」
「ふむ。彼には返しきれない恩があるからね。出来る限りの事は叶えてあげたいんだが・・・」
「お願いします。お父様。私は彼に全面協力すると決めました」
「・・・そうか。とりあえず、話を聞いてからだな」
・・・えぇっと? どういう事だ?
「ほら、さっさと話しなさいよ」
「・・・何の話をですか?」
「何の話って・・・。はぁ~。火星再生機構の事よ」
「あ」
「まったく。お父様なら私達の力になってくれるわ」
最近、色々と考える事が多くて、頭が回らなかった。
そうだよな。参謀も巻き込んじゃえば良いんだ。
「はい。それじゃあ・・・」
「・・・そうか」
話し終えた後の参謀の表情はあまり歓迎できるようなものではなかった。
でも、嫌悪感とか、不機嫌そうなのはないから、多分、否定ではないと思う。
「・・・難しいな。地球側のメリットが少ない」
・・・自覚はしている。
確かに木連と地球で比較したら、圧倒的に地球の利益は少ない。
木連はともかく、地球側が賛同してくれる理由はないに等しいのだ。
・・・それでも、実現したい。たとえ、無理に近いと分かっていても。
「私とて、出来る事ならば実現させてあげたい。だが・・・」
難しい顔で黙り込んでしまう参謀。
・・・駄目なのだろうか? あまりにも浅い考えだったのだろうか?
でも、俺は・・・。
「それなら、お父様、地球側にも利益が出るようになさればよろしいのでは?」
提督?
「・・・もちろん、その通りだが・・・」
「木連同様、我々地球にも行き場のない者は数多くいますわ」
「・・・難民を移民させようというのか?」
「たとえば、の話です。探せばいくらかあるかと・・・」
「うむ。考えておこう」
「ありがとうございます。お父様」
えぇっと、これは了承してもらえたと受けとっても?
「それじゃあ、マエヤマ・コウキ」
「あ、はい。何でしょうか? 提督」
「私は私のするべき事をするわ。貴方も貴方のするべき事をしなさい」
「はい!」
そうだよな。俺から提案した事だ。
まずは率先して、俺から動き出さないと。
おっしゃ。やるぞ。
「頼もしくなったものだな。サダアキ」
「・・・お父様」
「昔のお前を見ているようで私は嬉しいよ」
「現実から眼を背けるのはいい加減やめましたわ」
「うむ」
「変えてくれたのは、きっと・・・ナデシコです」
「ナデシコはこの基地内にて待機。指示は追って連絡する」
極東支部のトップにミスマル提督、いや、今は司令官か、が就任した為、実質、改革和平派にナデシコが組み込まれた事になり、自由度が大幅に向上した。
前まではいちいちどこかしらを経由させなくちゃ干渉できなかったらしいし。
うん。ナデシコ内の思想も改革和平派に近くなってきているし、何とも都合が良い。
「さて、使者殿がいらっしゃると聞いたが・・・」
とりあえず、木連側の和平派については後で話そう。
今は、何の思惑があるかどうか分からないけど、草壁派の使者を丁重におもてなしせねば。
「彼女です。お父様」
ユリカ嬢がユキナちゃんの肩に手を添えて前に出る。
さり気なく気遣う辺り、流石艦長って感じ。
「ふむ。初めまして。使者殿。私は連合宇宙軍極東支部総司令官ミスマル・コウイチロウです」
「あ、は、初めまして。シラトリ・ユキナです」
「彼女は木連所属優人部隊の佐官の妹さんなんです」
「そうかね。・・・使者殿、本国ではどのような結論に?」
「あ、はい。木連内の実質的な指導者である草壁中将からこう伝えるようにと」
ナデシコとシラトリさんとで通信した際にシラトリさんからユキナちゃんに伝えられた草壁の考え。
それを今、ユキナちゃんはミスマル司令官に伝えている。
その際にいなかったので詳細は知らないが、原作通りの企みを考えているなら、とにかく直接会って話がしたいとかおそらくそんな所だろう。
実際、ナデシコだから、あんな会談が成立したけど、普通はありえない。
会談のテーブルを自国近くで用意するとか。
本当に和平なら対等な立場である筈。
どちらかに国に赴くのは変な話なのだ。
まぁ、ナデシコの独断専行という面も否めないが・・・。
今回、普通の戦争における中立というか、間に入ってくれる組織がないだけに、慎重な対応、そして、長い期間をかけて穴のない和平を創り上げる必要がある。
それを初端から無視しているんだから、そもそも和平の意思なんてなかったって訳だ。
というか、今更だけど・・・ナデシコと木連が結んだ和平なんて無効だよな。
ナデシコは別に地球を代表していた訳じゃないんだし。
原作では結局草壁の陰謀に巻き込まれてあんな形になったけど、もし、草壁の提案した和平条件がちゃんとしたもので、それをナデシコが了承したとしても、それは地球側の意思じゃないんだから、結局、和平は成立しなかったって事になる。
それにしても、そもそもどうしてナデシコは自分達で和平を結んじゃおうとか思ったのかな?
結んじゃえばなし崩し的に本当の和平が成立するとでも思ったのだろうか?
ないでしょ、普通に。
下手すると、ナデシコに対して地球側、木連側の両陣営からバッシングがあったかも。
だって、地球側からしてみれば、何を勝手にって思うのは当たり前だ。
きっと原作でも、和平の為に働いていた人間は少なからずいたと思うんだ。
そのコツコツと積み上げてきたものを横から掠め取られただけならいざしらず、ぶち壊した事になる訳だし。
間違いなく、ナデシコこそが戦争を長引かせたってなるよな、うん。
そして、それは木連側も同様。
和平は互いに合意し、信頼しあう事で初めて成立するもの。
それなのに、いざ結んだら、それはある部隊の独断だったとか、激怒ものだよね。
信頼を裏切ったなんてもんじゃない。それこそ偽りの和平って奴。
和平が成立したと安心していたら、地球との争いが再び起こり、話が違うじゃないかってなる。
一度信頼してもらったからこそ二度の裏切りは最早致命的。
また裏切られるだけだって、余計に頑なになっていた可能性が大だ。
結局の所、ナデシコの単独和平交渉はどのように運んでも悪手だったって事。
だって、成功しても失敗しても、どちらかに禍根を残すだけだし。
逆に、戦争の元凶とか、長引かせた悪魔の船とか、そう思われていたかもしれない。
それにしても、草壁も意外とそういう意味では権謀術数には不向きなのかもしれないな。
たとえば俺が草壁の立場にいて、徹底抗戦を続けたいと思っていたのなら、まずは地球側の情報を細かい事まで逐一調べて、状況を完全に把握するだろ。
それだけ動かせる権限もあるだろうし、北辰達もいるだろうしさ。
そうしたら、地球側の現状も把握できるし、ナデシコの事も把握できた筈。
すると、だ。ナデシコが規律違反の独断だった事すらも把握できていただろう。
独断でやってきた部隊に交渉なんていう地球全てに関わってくる権限がある訳ない。
そこまで読み取っていれば、ツクモさん暗殺、ユキナ嬢暗殺なんていう強硬案ではなく、さっき考えたように、偽りの和平をナデシコと結ぶ事で軍内の和平派を懐柔。
その上で、抗戦派には意図を明確に話した上で、改めて地球本国に使者を派遣。
そこで、まぁ、実際の条件でもいいし、嘘偽りの木連有利の条件でもどっちでもいいから、それを地球側に提出。さて、和平をきちんとした形で結びましょうと訴える。
すると、んな事知るかと、当然、地球側はなる訳だ。
実際、その時になっても、国民達は木連の事を知らされていなかった訳だし。
未だに国民への情報漏洩を恐れる軍が何をしでかすかなんて想像に容易。
暗殺か? 幽閉か? まぁ、碌な事はしないわな。
一度こちらから手を差し伸べて、それを握った筈だ。それなのに・・・。
と、木連側の和平派もその裏切りに打ちひしがれ、抗戦派の発言力が増す。
後は再び使者に危害を加えられたなんて国民に教えればもう完璧だな。
その使者にツクモさんとかでも別に地球側の対応は変わらないだろうし。
要するに、木連側が自国の軍人を暗殺するような下手すると露見するような形じゃなく、完全に地球側のみを悪者に出来て、和平派も懐柔できて、国民を煽る事も出来る。
うん。マジで完璧な流れだな。
もし俺が草壁だったらそうしている。
あとは、そうだなぁ・・・和平条件はむしろ嘘で凝り固まっていた方が良いかもしれない。
ナデシコが承諾してなくても、承諾したって事で貫いちゃってさ。
更に地球軍内を混乱させちゃってもいいかなぁ。
地球側の焦りやら怒りやらもピークに達しちゃって、強硬策へと導き易くなる。
別にナデシコにまで確認するような事はしないだろうし、というかできない。
その時既にナデシコは監禁されているし、こっちが返答を迫ればそんな余裕も持てない。
軟弱な地球軍ならば、返答を迫ったら強硬策っていうのが容易に想像できるし。
別に後でナデシコに連絡を取られても全然構いません。
大事なのは使者が危害を加えられたっていう事実。
そうすれば、国民だろうと、軍内だろうと、意思の統一がしやすくなりますからねぇ。
うん、そして、だ。その時こそ、北辰の出番じゃね?
もし万が一使者に対して地球側が丁重な態度だったら、その時にこそ北辰あたりを使って使者を暗殺しちゃえば良い。
そもそも、何故、月臣さんに任せるなんていう愚考に到ったのかが分からない。
どれだけ自身のカリスマ性に自信があったんだよ、って話。
裏切られないって確信しているからこその企みなのかもしれないけどさ。
絶好の策なればこそ、してやったりみたいな友情破壊にこだわらないで確実性を求めるべきだ。
あそこは北辰でいいでしょ。露見したらまずい事は子飼いにやらせるのが普通じゃね?
そして、暗殺するなら、自国から遠ければ遠い程に良い。言い掛かりに出来るから。
自国に近くて、当事者が生存。うん。火種を残しちゃっている訳じゃん。
なんで露見しないなんて思ったかが分からない。
実際、月臣さんが覚悟を決めて暴露したから熱血クーデターが起きたんでしょ?
事実を知らない月臣さんに白鳥さんが地球側に殺されたなんて言えば、彼の事だ。
地球は悪だって徹底抗戦派の若手を束ねる存在になってくれただろうに。
草壁ってなんだかんだいって、馬鹿なのかもしれない、そういう所。
熱血は盲信にあらず。その言葉は誰よりも草壁に諭すべきだな。
自身を盲信して足元を崩されていちゃ世話ないって。
「・・・やばいな」
・・・なんか今更だけど、自身が黒い気がしてきた。
何だろう? 最近のストレスで思考が危ない方向に・・・。
「分かりました。返事は出来かねますが、和平の意思は伝わりました」
「あ、ありがとうございます」
「それでは、使者殿が本国に帰国するまで、私達が責任を持って御守りします」
・・・コホン。落ち着け俺。
あまりにも長く考え過ぎて、話が終わっちゃっているぞ。
大事な事を聞き逃しているじゃないか。
「ミナトさん。草壁中将からは何と?」
「あら? 聞いてなかったの?」
「ア、アハハ。ちょっと考え事をしていまして」
「もうしょうがない子ね」
「すいません。それで、何て?」
「簡単に言えば、和平の席を用意した。本国にて和平について話し合おう。最早我々に戦争を続行する意思はない。お互いにとって良き形で終われるよう、互いに歩み寄り、最善の道を探そうじゃないか、みたいな感じよ」
「・・・マジですか?」
「ええ。大マジよ」
・・・呆れて言葉も出ません。
まぁ、言葉を聞く限りでは、良いように聞こえるけど。
どうしてわざわざこちらから木星にまでいかないといけないのかな?
別に下手に出ろとまではいかないけど、上手に出られてもなぁ。
草壁を知っているから、その偏見で穿った見方をしちゃっているだけかもしれないけどさ。
一応、司令も慎重に対応しているし、特に俺も焦らなくて大丈夫。
後は信用できる神楽派との橋渡し役を務めるとしますか。
ま、俺が信じているだけで、神楽派の事を詳しく知っている訳じゃないんだけど・・・。
その辺りは、うん、お互いの派閥内で交渉事に向いている人がいるだろうし。
信じられるかどうかもその人達に判断してもらいましょう。
俺に出来るのは間に立つ事だけかな。
「それでは、解散」
ユキナちゃんを連れたって司令が去っていく。
同時にクルー達もパラパラと立ち去っていった。
ふむ。それじゃあ、俺も司令に話を付けにいくかな。
色々と話し合う事が多過ぎる。
「コウキ。司令の所に行くのか?」
「あ。アキトさん」
と、ルリ嬢とラピス嬢。
所謂、テンカワ一味って奴だな。
命名、俺だけど。
「はい。そのつもりです」
「それなら、俺も同行しよう」
確かにアキトさんがいてくれた方が助かるかも。
「それじゃあ、ルリちゃん、ラピス、先に戻っていてくれ」
「はい。分かりました」
「・・・うん」
「あ。ミナトさん。後で行くので先に休んでいてもらっていいですよ」
「分かったわ。それじゃあ、セレセレとお留守番しているわね」
「・・・頑張ってください。コウキさん」
うん。癒されるね。
「それじゃあ、行きましょう。アキトさん」
「ああ」
女性陣を残して、俺とアキトさんは司令の後を追った。
恐らく、基地内にあるお偉いさんがいそうな部屋に向かったんだろう。
ま、いざとなったら誰かに聞けばいいだけだしね。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
基地内の廊下を無言で歩く。
いや。別に気まずい訳じゃないけど、いや、やっぱりちょっと気まずい。
「あの―――」
「コウキ」
「あ、はい」
と、突然、何だ?
「火星再生機構の代表の事だが・・・」
「・・・はい」
考えてくれていたみたいだ。
・・・どうなる?
「俺でよければ引き受けさせてくれないか」
「ほ、本当ですか?」
「な、何を驚いているんだ? 意外だったか?」
「あ、いえ」
よかったぁっていうのが正直な感想。
俺としてもアキトさんに務めて欲しかった。
他の火星人の中で向いている人を探すのが大変だったっていうのもあるけど。
うん。一安心。
「ありがとうございます」
引き受けてくれて。
「いや、お前にお礼を言われるような事でもないさ。むしろ、俺から言わせてくれ。ありがとう。コウキ」
えっと・・・。
「俺こそお礼を言われる事はしてないかと・・・」
「そんな事はない。火星出身でもないお前が火星を再生しようとしてくれたんだ」
「・・・・・・」
「それだけじゃなく、俺の戦後の目標まで作ってくれた。お前には感謝しても、し足りないぐらいだと思っている」
そこまで言われると恐縮なんだけど・・・。
うん。それなら・・・。
「それなら、別にお礼なんて良いので」
「ああ。何だろうか?」
「絶対に幸せにしてあげてくださいね。ルリちゃんとラピスちゃんを」
別に見返りが欲しくてした訳じゃないんだから、そんな眼で見ないでいいですよ。
戦後に目標が出来たっていうんなら嬉しい限りです。
貴方の不幸は彼女達の不幸ですからね。
「・・・ああ。分かっているさ」
「こういう事は何度言ってもいいんですよ、特にアキトさんには」
「ハッハッハ。違いない」
「無茶ばかりで彼女達を悲しませていますからね」
「そうだな。だが、それをお前に言われる筋合いはないぞ」
「アハハ。耳が痛いですね」
笑い合う。本当に、幸せにしてあげてくださいね。アキトさん。
「さて、真面目な話、俺に代表は務まるだろうか?」
「務まるとか務まらないとかじゃないんですよ。無理でもこなすんです」
「そうか。お前も同じような事を言うんだな」
「えっと、誰とですか?」
「フッ。誰でもいいじゃないか。そうだな。とにかく成し遂げよう」
えっとぉ?
・・・まぁ、別に誰でもいいけどさ。
アキトさんもやる気になっているみたいだし。
出来る限りサポートしますよ。
「まずは火星の方達の説得ですね」
「ああ。誠心誠意、想いを伝えるさ」
「そうですね。俺よりアキトさんの方が伝わるでしょう」
さてっと、どちらにしろ、司令の力をお借りしなければ・・・。
「ミスマル総司令官。就任おめでとうございます」
「まぁ、座りなさい」
「ハッ」
敬礼。完全に雲の上のお方になってしまわれました。
まだ約束のお酒タイムは実現してない訳だが・・・。
まぁ、いずれ機会はやってくるだろう。
とりあえず、総司令官と対面する形でソファに座る。
「ユキナちゃんはどうなりました?」
「使者殿なら護衛を付けてナデシコ内に休んでもらっている」
「ナデシコ内にですか?」
「意外かね?」
「ええ。まぁ・・・」
保護している訳だし、基地内で休ませていると思ったんだけどな。
「彼女としても敵国の軍より君達がいるナデシコの方が安心できるだろう」
まぁ、それはそうかもしれない。
俺だって、ケイゴさんの船だから安心して乗り込んだけど、流石に草壁達がいる木連軍内部に行けるかって言えば、うん、無理って断言できる。
「それに、だね、護衛という観点でもナデシコ内の方がいいのだよ」
「一度飛び立ってしまえばある程度の危険からは逃れられますからね」
「うむ。正直、軍内部では誰の暴走を許すか分からんからな」
実際、誰かを護るならナデシコ内が一番安全。
補給とか以外では着陸しないのだから、隔離されている訳だし。
ボソンジャンプでもない限り、いきなりナデシコ内には乗り込めない。
戦力としても充分な訳だから、墜ちる危険性も少ないし。
護衛をつけてナデシコ内で保護がやっぱりベストの選択か。
ユキナちゃんの精神的負担もここよりは少ないだろうしね。
まあ、ナデシコ内で裏切りがあったら、その限りではないんだけど・・・。
ナデシコに限ってそれはないだろう。
「分かりました。私達が全力で護ります」
「頼むよ。アキト君。彼女に危害が加われば、木連の暴走を許す事になってしまう」
「もちろんです」
流石に理解しているみたい。
使者を保護する危険性を。
まぁ、俺なんかより何倍も頭は回るだろうし、政治を知る軍人なら当然か。
「さて、ここまでやってきたんだ。何か話したい事があるのだろう?」
ま、分かっちゃいますよね。
「ええ。大まかに言えば三つ程連絡があります」
「ふむ。聞こうか」
「はい」
ミスマル司令官に話すべき事は大まかに分けて三つ。
1、木連の機動兵器と戦艦の現状。
これはナデシコ内にある戦闘映像を提出しつつ話そうと思う。
2、火星再生機構。
代表であるアキトさんに協力してもらい、司令官を説得。
最低でも、火星人を一同に集める所まではこじつけたい。
まずは彼らの協力が得られてこそな訳だし。
3、神楽派、木連内の和平派について。
これに関してはケイゴさんからの連絡待ちの状態な訳だが、
前もってミスマル司令官に伝えるのは特に問題ないだろう。
草壁派についても同時に報告して、より慎重になってもらおうという意図もある。
「では、まず・・・」
「・・・なるほど」
ミスマル司令に現状において話せることは全て話した。
火星再生機構の話。神楽派の話。そして、敵機動兵器の話。
その内、司令にお世話になるのは火星再生機構と機動兵器。
神楽派との接触に関しては俺自身が手引きして、後はお任せという形になる。
とりあえず、火星再生機構も和平の成立を前提に計画しているから、まずは地球、木連両者の和平派同士の結びつきが最優先事項って所かな。
「火星再生機構の件に関しては今後検討するとしよう」
「はい。御願いします」
前向きに捉えてくれるだけでいい。
ミスマル司令にとっても最優先事項は和平な訳だし。
「さて、まずはマエヤマ君」
「はい」
「よくやってくれた。君にはまた大きな借りが出来てしまったようだね」
「借りだなんて。偶然ですよ」
実際、ケイゴさんと会話が出来たのも運の要因が大きい。
そもそもケイゴさんと知り合いになったきっかけも軍の基地だった訳だしさ。
「連絡が来次第、逸早く我々に連絡してくれると助かる」
「もちろんです。確実にお知らせします」
「ありがとう。どれくらいになるかは聞いているかね?」
「こちらの受け入れ準備がある旨を伝えて一ヶ月後を目安にしました。もうそろそろ届く筈です。受け入れ準備に関しても八割方完成しています」
ウリバタケさんに相談したらすぐに設計して形にしてくれました。
流石としか言いようがない。
「む・・・。分かった。気長に待つとしよう」
「すいません。ぬか喜びをさせるような形になってしまって」
「なに。気にする事はない。実際、我々には接触する手段がなかったのだ。マエヤマ君が間に立ってくれなければ、接触する機会自体がなかったかもしれん。感謝しておるよ。現状で私達が求める一番の物を君は私達に与えてくれたのだからな」
「そう言ってくださると気が楽になります」
改革和平派としても木連側と接触したかった訳だ。
自画自賛するようだけど、ナイス、俺。
「しかし、あのカグラ君が実は木連軍人だったとは・・・」
どこか複雑そうな表情の司令。
・・・そうだよな。
司令はケイゴさんを極東の要として期待していた訳だし。
期待のパイロットが実は敵国からのスパイだったとなれば複雑だ。
まぁ、そのお陰でこうして接触する機会が得られたっていうのも事実。
・・・うん。やっぱり複雑だ。
「うむ。だが、既に過ぎた事。良い機会だったと考えよう」
それがいいと思います。
「次だが、遂に敵側にも新兵器が現れたのだね?」
「はい。覚悟していましたが、予想以上の戦力でした」
現状では、夜天はおろか福寿改にも遅れを取ってしまっている。
もちろん、ナデシコならば両者にも対応できるだろう。
でも、それは所詮局地戦。
全箇所で対応できなければ、ナデシコは勝利しても地球が敗北してしまう。
早急に対策を取る必要がある。
「ふむ。準備をしていた甲斐があったな」
「準備とは?」
「私とて敵戦力の向上を懸念していなかった訳ではないのだよ」
え? その口振りは・・・ひょっとして・・・。
「それでは・・・」
「うむ。私の知り合いにとある企業の社長がいるのだが、相談した所、我々に協力してくれる事になったのだ」
企業の協力を得られたって事か。
それは非常に嬉しいんだけど・・・。
問題はその企業がどれだけのノウハウを持っているかって事。
機械産業に関して経験がなければ何の意味もない。
「その企業の名は?」
「明日香。明日香インダストリだ」
明日香インダストリ?
聞いた事があるような、ないような・・・あ。
「明日香というとデルフィニウムの?」
「うむ。エステバリスの登場で最近はネルガルに押されているが、以前までは、機動兵器分野で他企業を圧倒していた企業だ」
「それなら、機動兵器の開発における経験は・・・」
「無論、最高峰であろう」
流石はミスマル司令。
ここぞという時に頼りになる。
ある意味、これもこんな事もあろうかとって奴だよな。
「既に何機かエステバリスを譲り渡し、研究してもらっている。彼らもネルガルの機体は、と嫌がったのだがな。無理矢理通してもらった」
まぁ、そりゃあ、嫌だよな。
自身の製品に誇りを持つのがエンジニアの性分。
それを他企業の機体の方が優れているからこちらを研究して発展させろなんて。
いやぁ、僕でも嫌ですよ、マジで。
でも、実際、デルフィニウムとエステバリスを比べたら一目瞭然。
しかし、だ。今まで培ってきたものにエステバリスを組み合わせられたら・・・。
それは凄まじい機体が出来上がるんじゃないかと少し興奮する。
まぁ、デルフィニウムの二の舞は踏まないだろう。
言っちゃ悪いが、あれはミサイルに手足くっ付けただけって感じだし。
恐らく、早急に量を必要として、仕方なしにああなったんだろう。
コスト的にも、組み立ての時間的にも、あれは都合が良いだろうしね。
「一度、話し合いの機会を作ろう。直接会って話した方がいいだろうからな」
「ありがとうございます」
現状でネルガルの協力が仰げない以上、他企業の協力は何よりも心強い。
それが明日香インダストリという機動兵器の分野で経験豊富な企業なら尚更。
「しかし、いいのですか?」
「著作権やら特許やらの事かね?」
「はい。たとえ軍と言えど、法に触れる事は・・・」
「勘違いしてもらっては困るな。アキト君」
「は?」
「エステバリスをもとに開発するのではない。エステバリスの技術を導入して新たな機体を開発するのだ」
「・・・・・・」
「そもそも既にそのような事にこだわっている余裕はないのだ。戦争中に類似した機体が登場するのはよくある事だよ」
なんともまぁ、反論できない言葉な事で。
違反っちゃあ違反なんだろうけど、仕方ないっちゃあ仕方ない。
極論で言えば、敵国が同じ機体を開発しようと文句は言えない訳だし。
仲間内であろうと商売では敵。
結局の所、性能で勝っている方が採用されるって訳だ。
ネルガルとてそのへんの事は分かっている筈。
研究は怠っていないだろう。
とにもかくにも、エステバリス及びナデシコの強化という面での協力者が得られた。
時間は掛かるだろうけど、無事に対策を練る事が出来た訳だから、一安心って所かな。
それなら・・・。
「司令に御願いがあります」
地球、木連両者の和平派の接触。
エステバリス、ナデシコの強化。
それらについて話し合う事が出来た。
だから、後は・・・。
「司令の権限をお借りするようで申し訳ありませんが・・・」
「うむ」
「火星の方達を・・・解放していただけませんか?」
※ デルフィニウム 明日香製は独自設定です
明日香=漫画版ナデシコに登場した企業らしいです。詳しくは存じ上げませんが名前だけ貸していただきました。