「・・・よくやったぞ。北辰」
「・・・ハッ」
「最近の神楽派は眼に余る。勢いを削ぐ為にもこの策は成功させねばならん」
「・・・・・・」
「神楽派は無事にナデシコと接触したと考えているだろう。その慢心が命取りになる事を思い知らせてやろうではないか」
「御意」
「北辰。お前は予定通り事を成すんだ。頼んだぞ」
「命に代えても・・・」
「イネスさん。ちょっといいですか?」
現在、ナデシコはコスモスにて修理中。
その間、俺に出来る事といったら限られてくる。
とりあえずは、エステバリスとナデシコの強化案を纏めようと思う。
その為にも、ナデシコの設計者であるイネス女史の力を借りたい。
「あら? 私に用なんて珍しいわね」
「ええ。貴方の知恵を貸して頂きたくて」
「まぁ、話して御覧なさい」
「はい。それじゃあ・・・・・・」
ナデシコC、現在ではカグラヅキと呼ばれている戦艦から盗んできた各種データ。
それをイネス女史に公開しながら、綿密な話し合いを図る。
「とりあえず、重力波アンテナの複数装着は基本だと思うんですよ」
「そうね。でも、それに耐えられるだけの構造が必要になるから・・・」
「勿論、強度とかもありますからね。よくて二つ、三つでしょう」
「ええ。それに加えて、アンテナ自体の性能向上も図りましょう」
「いいですね。出力を確保できれば、色々と構想の幅が広がりますし」
なんにしろ、アンテナは大事だしな。
「そういえば、ウリバタケさんのエックスエステバリスはどうなったんですかね?」
「ウリバタケ技師の事だから、完成させるとは思うけど難儀しているみたいね。特にジェネレーター関係が」
まぁ、あれだけのエネルギーに耐えるものを小型化しようっていうんだからな。
少しずつ調整して、シミュレーションして調整を繰り返すしかないでしょ。
「私も協力するから、貴方も協力しなさい」
「もちろんです」
当たり前ですよ。イネス女史。
あれは切り札にもなりますし。
「それで? 機体はどうするつもり? 性能向上だけ?」
「ブラックサレナみたいな追加装甲もいいかなって思います。やはり、各パイロットの長所に特化させた機体にしたいですし」
短所すらも長所で補う。これが僕のポリシー。
もちろん、短所を失くすっていうのも大事だと思うけどね。
やっぱり、何か一つでも誇れるものがあっても良いと思う。
・・・とりあえず、俺はそれを探す事から始めるか。
「それなら、わざわざ追加装甲にする必要もないと思うけど?」
「一からフレームを練り直すのも時間的に厳しいかなと」
「ま、それもそうね」
「もちろん、時間が取れるなら、一から練り直したいですけどね」
「その辺りは臨機応変って所かしら」
「はい」
などなど、イネス女史とは話しに話し尽くした。
やはり、俺だけの認識かもしれないけど、地球最高の頭脳は伊達じゃない。
こちらの意図を明確に理解し、より高い次元で答えてくれる。
「そういえば、イネスさん、さっきの話ですけど」
「何かしら?」
「エステバリスみたいにアンテナをグラビティライフルに直接付けた方が効率良くないですか? 機体からエネルギーを分けてもらうんじゃなくて」
「そうね。ところでグラビティライフルって何?」
「分からないなら肯定しないでくださいよ・・・。あれです。小型グラビティブラストの事です。多分、ジンみたく身体から撃つんじゃなくて銃型にすると思うので」
「採用」
「あ。ども」
独特なテンポだよね、イネス女史って。
「そうね。ジェネレーターの問題が解決したら提案してみましょう。というより、武器の一つ一つにアンテナ付けたらもっと効率良くならないかしら?」
「とりあえず、ディストーションブレードとグラビティライフルはそうですね」
「機体からのエネルギーを使用しない分、機体の方に集中できるわね」
「実際にはナデシコから送られてくるエネルギーが多くなるだけですけどね」
「いいじゃない。アンテナの負担が軽くなる事は事実なんだから」
「ま、そうですけどね。どっちにしろ、アンテナ性能の向上は必須と」
「ええ。ねぇ? 求めている以上のエネルギーが送られてきたらどうなると思う?」
「そりゃあ、バン! だと思いますけど?」
「そうね」
「・・・分かっているなら聞かないでくださいよ」
「でも、その過剰エネルギーを上手く外に逃がす事が出来たら?」
「そりゃあ・・・」
通常の出力に加えて、更に爆発的な出力が得られる・・・。
単純に、うん、至極単純に言えば、そうなるかな。
「圧倒的な加速力になりますね」
うまく調整すればブラックサレナ以上の加速力になるかもしれない。
まぁ、そのレベルになったら、パイロットへの負担が大きすぎて誰も乗れなくなるけど。
アキトさんでも流石にそれは無理でしょ。
実現するにはG緩和技術も向上させないといけなくなる。
「重力波を圧縮した後に道を作ってあげれば・・・」
あれま。マッドモード突入。
「イネスさ~ん。戻ってきてくださ~い」
「あら? ・・・コホン。何かしら?」
照れながら誤魔化すイネス女史。
・・・ノーコメントで。
いや、やっぱり、一言だけ。
アキトさん。やっぱり貴方は恵まれています。
「エステバリスの武装面、機体面はとりあえずこんな所で」
「願わくは、一から構想を練りたいものね。私としては追加装甲よりも機体単体の方が構成も練りやすいし何より安定性があって好ましいもの」
・・・劇場版では順々と方向性を変えていったらしい。
一から練り直すような状況ではなかったんだろうな。
「そうですね。でも、追加装甲であるメリットも大きいですよ」
「基本となるフレームが決まっていて追加装甲により戦い方を変えられる。エステバリスの元々のコンセプトである臨機応変な対応が可能になるわね」
「ええ。それに規格化すれば生産性も向上して修理もしやすくなる。ナデシコだけの戦力向上を考えればワンオフの機体でもいいのでしょうが、これからを考えると地球全体の戦力を向上させる必要があります」
「ナデシコの戦力を向上させると共に、それらで培った技術を更に転化させて地球全体の戦力向上を図る。その為に転化しやすい追加装甲にすると。ホント、抜け目ないわね、貴方って」
「時間がないですからね」
そう本当に時間がない。
追加装甲にしても色々な方向に手を出したら間に合わなくなるだろうし。
幾つかの方向性に絞らないと・・・。
同時進行はきついがやるしかない。
他にも色々あるし、下手するとイネス女史とウリバタケ技師にお任せする事になるかもな。
いや、もちろん、少しでも時間が出来れば、参加するつもりですが。
・・・出来る事なら、ちゃんとした開発・改造環境があればいいんだけど・・・。
こればっかりは個人の力じゃどうしようもないか。
方法としてはネルガルを説得するか、違う組織に協力してもらうかのどちらか。
でも、出来る事なら、エステバリスとナデシコの稼動データがあるネルガルが好ましい。
・・・まぁ、これも臨機応変にいくしかない。
決して、行き当たりバッタリって意味じゃないぞ?
「もう一つはナデシコですね」
「あら? 私の設計に不備があるって事?」
口を尖らせて、拗ねてみせるイネス女史。
なんか、不思議と違和感を抱かせない光景だな。
ちょっと可愛らしいとか思ったのは俺だけの秘密。
それにしても、そろそろ三十―――。
ビクッ!
さ、殺気?
「・・・・・・」
「・・・コホン」
失礼しました。
「ナデシコはカグラヅキ、ナデシコCの事ですが、武装面ではそれより優れています」
「あくまでバリエーションって意味ではね」
「はい。威力で言えば、格段に劣りますね。スピード、強度、それらでも」
「散々なご意見ね」
「別にイネスさんを貶している訳じゃないですよ」
「どうかしら?」
・・・捻くれているなぁ。
「忘れないで下さいね? ナデシコCも貴方の設計だって」
・・・多分だけど、きっとそうだよね?
「・・・そう。それなら、これは未来の私への挑戦って訳ね」
おぉ。なんか乗ってきたって感じ。
負けず嫌いのイネス女史の事だ。
たとえ未来の自分であろうと負けたくないと。
「周りの技術力の差というハンデはあっても、得られた知識量は同じ。むしろ、完成された状態を知っている私の方がスタートラインはずっと前。これだけのハンデを持たされたら、たとえ未来の私と言えど負ける訳にはいかないわ」
・・・背中から炎が見えます。イネス女史、いや、イネス博士。
「えぇっと、僕の事も少しは構ってくれますか?」
「ふふっ。拗ねないの。良いアイデアでもあるのかしら?」
ニヤニヤと。別に拗ねてないっての。
「幾つか疑問がありまして」
「ええ。なんでも訊いて良いわよ」
頼もしい事で。
「それじゃあ、遠慮なく」
「どうぞ」
「どうして、前方だけなんですか?」
一つ目の疑問。
どうして、グラビティブラストが前にしか撃てないのか。
だってさ、戦場に立つ以上、必ず前方だけとは限らない訳だし。
それに、砲台一つだけに拘る必要もないような・・・。
「一つはエネルギーコストの問題。流石に同時に多数発射できるだけのエネルギーは賄えないわ」
「でも、それはYユニットの存在で解決されたのでは?」
「そうね。相転移砲を使っていない時は可能よ」
「そうですか・・・」
でも、なんだかんだいって、一点集中という形の方が好ましいのかもしれない。
そりゃあ、グラビティブラストを横から後ろやらに撃てたら便利だよ?
だけど、威力的には一点に集中させた方が良い訳だし。
その為のエステバリスだって言えばそれまでだし。
「もう一つはあくまでナデシコは砲台であるという事」
「砲台・・・ですか?」
「ええ。性能が他を圧倒していて、DFという盾があるから単独行動を可能としているだけよ」
「でも、それで理由としては充分なのでは?」
性能が圧倒的というだけでは物足りないのだろうか?
「実際、単機で全ての事をこなせるだけの汎用性もなければ、単機で危機を脱するだけの特別な、そうね、切り札がある訳でもないわ。それは二度の危機を結果として救った貴方が一番分かっているんじゃないかしら?」
・・・確かに人海戦術で屈し、性能を上回る戦艦に遭遇したら何も出来ずに屈した。
今の所は頭一つ抜けているけど、ステルス性に特化している訳でもないから、いずれは簡単にレーダーに捉われるようになってしまうだろうし、ステルス特化には負ける。
スピードも優れてはいるけど、あくまで優れている程度、スピード特化には負ける。
ある意味、汎用性に優れているとも言えなくはないけど、結局、ナデシコは砲台にしかならない。
「ナデシコに兄弟がいる事は知っているわよね?」
「あ、はい。シャクヤクやらカキツバタやらですよね」
「ええ。私は兄弟艦で艦隊を組むつもりで設計したの」
「え? そうなんですか?」
「ええ。実験艦であるナデシコ」
・・・元も子もない言い方だな。
「攻撃力に優れて遊撃に向いたカキツバタ」
あぁ。最終回あたりに特に何もする事なく終わった奴か。
性能的にはナデシコ以上だったんだなぁとぼやいてみる。
「後方支援、ドック艦としてドッシリ構えるコスモス」
確かにお世話になっています。
今思えば、すぐに修理できるのって非常にオイシイよな。
「そして、相転移砲という一撃必殺を持つシャクヤク」
「今でさえナデシコに相転移砲がありますが、元々はシャクヤクのですからね」
「そう。ナデシコは新しい機能を試す為のものなの。兄弟艦にフィードバックする為だけの戦艦。要するに、あくまで実験艦よ。良く言えば、汎用性を高める為にバランスの取れた性能。悪く言えば、今後の為に低い次元で抑えてあるデータを取る為だけの砲撃台」
・・・自分で設計した割に酷評。
いや、自分で作ったからこそ・・・か。
でも、イネス女史の言う通りだったとしたら・・・。
「それなら、設計の段階で今より高い性能にも出来たって事ですか?」
「当たり前じゃない。固定砲台ではなく、可変砲台にも出来たし。単砲ではなく、複数で、しかも、一点に集中させて威力を向上する事も出来たわ」
面ではなく、点で複数のGBをぶつける。
うわ。えげつない程の攻撃力になりそうだ。
それに・・・可変式の砲台だって?
「可変式ですか?」
「ええ。前方だけじゃなく横まで振り幅を作り、面と点、その両方での攻撃を可能にする方式よ。もちろん、耐久性が落ちるというデメリットもあるし、それによって連発性、威力の低下も懸念されるわね」
耐久性を除けば・・・かなり理想的かもしれない。
複数の砲台。
あまり多くし過ぎても強度の問題で厳しいと思うから、二つでいい。
二つだけでも両側に対処できるし、可変式なら前方に集中砲火も出来る。
後ろに関しては、エステバリスで対処すればいいしな。
威力の低下と連発性の低下を考慮すると色々と考えなければいけなそうだが。
「あら? その顔は色々と思い付いた顔ね」
「はい」
他にも色々とアイデアはある。
ユーチャリスのバッタ散開を参考にしたAI操作による援護システム。
これにはラピス嬢の力を借りよう。
形はバッタじゃなくても、それこそ簡易的な砲台で構わない。
とりあえずは援護が目的だし。
ナデシコ単体でより強度なDFを張れるなら、突撃しても良い。
まぁ、これは最終手段だけど。
性能的に劣るナデシコだけど、幅広い武装で補えば良い。
カグラヅキに劣るとしても、性能の向上は可能なのだから、底上げもしてやる。
後は、最高のクルーが欠点なんて全て補ってくれるさ。
甘くみちゃいけないぜ。
「御願いします。イネスさん」
「任せなさい」
頼もしい笑みを浮かべるイネス女史。
本当に、心強い味方だ。
「ようやく補修が終わったわね」
ナデシコ格納庫。
ようやくコスモスでの修理を今日の朝に終えて、さぁ、これから地球に向かうぞ~という訳だったんだけど・・・。
どうしたの? ムネタケ提督。
「そこで、私から貴方達に話したい事があるの」
突如としてムネタケ提督に格納庫へと集められた全クルー。
普段だったら、それでも持ち場を離れちゃいけないんだけど、未だにコスモスに格納されている状態だから、とりあえず今は大丈夫。
多分、このタイミングでしか皆に直に話せないから、呼んだんだと思うが。
「知っての通り、私は火星人を見殺しにしたわ」
・・・わお。初端からハードだな。
当然、周囲は俄かに騒ぎ出した。
「その事に対して、私は言い訳も何もしない。事実、私は逃げ出した」
その深刻な表情でざわついていたクルー達も黙り込む。
「その事で、私はきちんと火星の方達に謝ろうと思う。いえ。謝らないといけない」
真摯に眼の前を見詰めるムネタケ提督。
その真剣な眼差しは己の発言に嘘がない事を充分に示していた。
「これは私の罪。眼を背けてはいけない罪」
罪を背負う。
確かに俺は原作を見て、こいつは何だ? と思っていた。
軍人としても失格、人としても失格、ガイは殺すし。
でも、実際に話してみると、なんとなくこの人も犠牲者なんだなって思った。
この世界に来て、知らなかった裏事情とか、真実も知った。
火星大戦。確かに軍人達は逃げ出した。それは変わりようのない事実だ。
でも、成す術がなかった事もまた事実。
あの時の戦力差でいえば、勝つ術は全くといっていいほどなかった。
そりゃあ、民間人を放って逃げたのは肯定する事の出来ない過ちだ。
だが、彼らの行動も理解できなくはない。
火星に謎の艦隊が現れた。
その情報、映像を届ける為に、地球へ帰還するのは、その後を考えた行動として間違ってはいない。
事実、それがあったからこそビックバリアなどの対策が出来たのかもしれないのだから。
だが、それを全艦隊で行う必要は全くなかった。
逃げ出さず、火星に降下して、救出していれば、多くの火星人を救えた筈だ。
軍人を責められる点はそれだけ。
フクベ提督とてやりたくてユートピアコロニーにチューリップを落とした訳ではない。
彼も必死になって撃退法を考え、火星に降下する前のチューリップに体当たりを敢行したまでだ。
あくまで、火星を考えて降下を防ぎたかっただけなのだ。
それが、偶然、で済ませていいかは分からないが、コロニーに落ちた。
恨むのも当然、憎むのも当然。
だが、果たして同じ立場だった時、俺に何が出来たのかなんて考えたら・・・。
・・・きっと何も出来なかった。
フクベ提督は間違いなく歴戦の勇士だと俺は思う。
それが、後の軍の方針によって捻れ曲がり、あのように気の抜けた老人となってしまった。
犠牲者で片付けたくはない。火星人の気持ちを考えたら・・・。
でも、間違いなく、火星駐在軍も犠牲者なんだって俺は思うんだ。
「だから、贖罪とか、罪滅ぼしとか、そんな事を考えている訳じゃないけど・・・」
ゆっくり周囲を見渡す提督。
「火星の為、地球の為、私に出来る何かを全力で成し遂げたいと思う」
キッと表情が鋭いものに変わる。
「そんな時、私は知ったわ。貴方達も知った筈よ。木連の存在を」
木連。火星大戦以前は完全なる犠牲者で、それの後は正義を語る反逆者とでもいえばいいのか。
元が同じ地球人なだけあって、少し複雑な気分になる。
「私は木連の存在をきちんと国民に打ち明けたい。対岸の火事じゃない。貴方達も当事者だって。そう伝えたい」
国民の危機感のなさは何なのだろう?
他人事のように空を見上げ、軍の脆弱さを嘆く。
報われない。軍人も戦死者も。
別に戦争に参加しろとは言わない。
でも、自分達も死んだ人間と同じ立場の人間だって理解した方がいい。
・・・何にも関与せずに暮らそうとしていた俺も含めて。
「そして、私は地球、火星、木星、それぞれが協力し合う世の中を作りたい」
「・・・それって・・・」
誰かが呟く。
そして、提督が頷く。
「そう、嘘偽りのない和平よ」
息を呑む音が聞こえる。
「地球が非を認め、木連が非を認め、火星を元の形に戻す。そんな世の中を作りたくて、私は軍内部に出来た新しい派閥、改革和平派に入った」
「改革和平派?」
「そうよ。国民に真実を打ち明け、全ての真実を晒した上で、木連と交渉の席に付く。独り善がりじゃ駄目。一部の人間な勝手な行動じゃ駄目。国民皆で考え、国民の総意で和平を結びたい。私はそう考えているわ」
国民の理解。戦争なんて政治だ。
和平を結ぶにしろ、争いを続けるにしろ、国民の意思が大切になってくる。
だからこそ、一人一人が戦争の真実を知る権利がある。いや、義務がある。
「最低の事をした私が言って、説得力がないのも分かる。信じられないのも分かる。成功するか不安なのも分かる。それでも、私に出来る事があるのなら、精一杯それを果たす。だから、私に、私達に、改革和平派に貴方達の力を貸して欲しいの」
「て、提督!?」
・・・頭を下げた。
プライドが人一倍高い提督が、床に額を擦り付けるまで。
膝を床に付け、ただひたすらに・・・。
「私は貴方達ナデシコクルーこそが鍵を握っていると思っているわ。戦争も、和平も、きっと、その後も。だから、私は貴方達に協力してもらいたい。皆で和平という意思の下に団結して、私達に協力して欲しい」
目的の為なら手段を選ばない。
提督はそう言っていた。
早速、提督はその方法を選んだんだ。
自分の自尊心なんてクソ喰らえ。
目的を達する為に必要な事だったら何だってする。
決して信念を曲げた訳じゃない。演技とかいう偽りの姿でもない。
ただ真摯にプライドすらも投げ捨てて、真正面からぶつかった。
取り繕った姿なんかじゃなくて、ありのままの姿で。
それなら・・・。
「俺は―――」
「私は!」
・・・あれ? ユリカ嬢?
「私は提督に協力したいと思います!」
「・・・艦長」
「同情した訳じゃありません。責任を感じた訳じゃありません。でも、それが、きっと、最善だから・・・私は提督達に協力します!」
「俺も・・・俺も協力するぞ!」
「俺もだ!」
「私も協力するわ!」
「ありがとう。ありがとう! 貴方達!」
・・・アハハ。参ったな。
流石は提督。誰よりも頼もしい人達を味方にしちゃったよ。
こりゃあ、大変だぞ。
盛り上がったナデシコクルーは他の何よりもパワフルだからな。
「言いかけたのなら最後まで言えば?」
隣で笑っているミナトさん。
「そんなの無粋ですよ、ミナトさん。あの場面は艦長で正解です」
「ま、あそこでコウキ君が言うより流れ的に良かったんじゃない?」
「・・・そうですね。俺じゃあ、改革和平派の元一員って事でサクラになっていました」
「まぁ、誰もそこまで考えないとは思うけど・・・。ほら、艦長だし」
「そうですね。艦長ですし」
あのカリスマ性。
ちょっと頼りない一面もあるけど、それを超える艦長ならなんとかしてくれるっていう存在感がある。
欠点を補ってくれる恋人さんもいる事だしね。
なんか、将来、あの二人のコンビが軍を引っ張る気がして来たなぁ、なんて。
「・・・コウキさん。私も何か手伝いたいです」
「セレスちゃん」
ちゃっかり手を繋いでいるセレス嬢と俺。
なんだか、気分は既に親子ですね。
「そっか。それじゃあ、俺を手伝ってくれるかな?」
「・・・はい!」
うん。頼もしい返事だ。
「・・・あれが貴方の恋人?」
「ええ。そうよ」
「・・・全然似てないのに、なんかお兄ちゃんみたい」
「そうかな?」
「うん。なんかお人好しっぽいし、熱血そうだし」
「うふふ。そう言えば、どことなく似ているかもね」
「頼りなさそうだけど、なんかミナトさんが惚れたのも分かる気がした」
「そう。それは良かったわ。ちなみに、結構頼り甲斐はあるのよ」
「嘘だぁ~」
「ふふっ。本当よ」
・・・後ろの会話は気にしない事にした。
俺とツクモさんが似ている?
いやいや。俺はあんなナイスガイじゃないぜ。
顔的にも・・・あ、違うか。ガイ繋がりで混乱した。
「・・・おし。やるか」
提督にああまでやらせて、俺がやらない訳にはいかんだろ。
おし。頑張ろう。これから忙しくなるぞぉ。