機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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深まる対立

 

 

 

 

 

「へぇ。そういう事」

「どういう意味だ? アカツキ」

「彼女が大慌て。それって彼が関係しているって事でいいんだよね?」

「・・・さぁな」

「ふ~ん。誤魔化しちゃって」

「・・・何が言いたい?」

「ねぇ、テンカワ君。彼は一体何者なのかな?」

「何?」

「君の記憶を見た時、僕達は多くの事を知った。そうだよね? カザマ君」

「え、ええ」

「記憶ってどういう事よ」

「後で詳しく話してあげるよ。エリナ君」

「ったく、この極楽トンボが。大事な事は早く言いなさいよね」

「はいはい。ねぇ、カザマ君。君はあれを見てどう思ったのかな? まさか、自分が死ぬ所を見るなんて思わなかっただろうけど」

「・・・信じられない思いで一杯でした。でも、それと同時に、私はコウキさんに命を救われたと思いました。事実、私は隊長の記憶同様に自ら接近したのですから。コウキさんが止めてくれなければ、隊長の記憶と同じように死んでいたと思います」

「そうだよねぇ。ねぇ、テンカワ君。彼は君の記憶を知っていたんでしょ? だから、カザマ君の死を防ぐことができた」

「・・・・・・」

「でもさ、カザマ君には悪いけど、そんな些細な事より、もっと気になる事があるんだよねぇ。きっと、僕だけじゃない。あれを見た他の誰もが知りたい事がさ」

「・・・コウキの存在・・・か」

「そう。分かっているじゃないか。君の記憶には何故か彼の姿がなかった」

「・・・・・・」

「でも、事実、彼はここにいる。クルーの一員として確かにここに、ね。これってどういう事なのかな? 彼は一体何者なの? ねぇ? テンカワ君」

「・・・・・・」

「ダンマリかい。仲間に対してそれはないんじゃない? 悲しいねぇ」

「別に俺はマエヤマがどんな存在だって構わない。マエヤマはマエヤマだし、俺達ナデシコの一員だからな」

「・・・スバル」

「流石リョーコ。良い事言う」

「茶化すな。だけどよ、ちょいと気になる事があるっていうのも事実だ。なぁ、どうして、ルリはマエヤマを殺そうとしたんだ?」

「ッ!」

「お前達が裏で何かしていたって事は分かった。けど、詳しい話は所詮記憶だからか、分からなかった。アキト達はマエヤマの奴と何を話し、何をしてきたんだ?」

「・・・・・・」

「言えない事か?」

「・・・いずれ話す機会を設けようとは思う。だが、これはコウキの根本に関わる事だ。申し訳ないが、俺の口からは何も言う事は出来ない」

「・・・そうか。そんなら、しょうがねぇな。言えねぇって事を言わせるつもりはねぇ。ちゃんとその時がきたら全部話せよ。アキト。ルリ」

「分かった」

「・・・はい。全て御話します。私の罪を」

「話が脱線しているよ。僕は彼が何者かを聞いているんだ。君達の記憶の中では彼が何者かという事に触れるシーンはなかった。不思議な事にね。何の意思が働いたかは分からないけど。でも、君達は彼の存在、何者かを確実に知っている。そうでしょ?」

「・・・ああ。一時、俺とコウキは敵対関係にあった。敵対関係ってのは大袈裟かもしれんが、少なくとも敵意はあり、警戒していた」

「ハッ!? 嘘だろ?」

「事実だ。ガイ。まぁ、実際はこちらからの一方的なものだったがな」

「それで? 敵対関係にあった君達の間に何があったの?」

「その和解の際に、俺達は逆行してきた事を、コウキは己の存在について教えあったんだ。言わば、信頼の証だな。それを無闇に教える訳にはいかない」

「別に友情話を聞きたい訳じゃないんだよ、テンカワ君。問題は、君達の逆行という要因によって生まれたイレギュラーなのかという事。でも、それはきっと違うでしょ? 敵対関係だったって事は。それなら、彼は君達とは関係ない所でナデシコに絡んで来た事になる。それって要するに彼はナデシコに存在するべき人物ではなかったという事になるよね」

「てめぇ、それはコウキがナデシコにいちゃいけないって言ってんのか?」

「おっと、単純馬鹿はこれだから困る。勘違いしないで欲しいね、ヤマダ君」

「俺はダイゴウジ・ガイだ!」

「はぁ。大声でうるさいね。分かったよ。僕が言いたいのはね、ガイ君。当事者である僕達以外にもこれらの一連の出来事を知っている存在がいるって事。おかしいよね? ナデシコに乗っていた訳じゃないのに、ナデシコに詳しいなんて。もし、彼がテンカワ君達と同じ逆行者だとしても、こんなおかしな話はないよ。じゃあ、彼は何者かって話になる。もしかしてさ、彼は・・・木連人なんじゃないかい?」

「・・・それはまた突拍子もない意見だな」

「そうかい? 良い線いっていると思ったんだけど」

「その根拠を聞こうか?」

「当事者ではなくても、敵対者なら、情報を集める事は出来る。その情報に、更に、当事者であるナデシコクルーから話を聞けば完全に補完できる。始めは敵対関係だったんでしょ? それも木連人っていうのが原因なんじゃないの?」

「要するに、お前はコウキが木連出身の逆行者だって言いたいのか?」

「ま、そうなるね」

「それなら大きな勘違いだな。コウキは決して木連出身じゃない」

「へぇ。逆行者って事は否定しないんだ」

「何?」

「OK。OK。少しずつだけど真実に近付いて来たよ。ありがと。テンカワ君」

「・・・・・・」

「テンカワ君達に積極的に協力するって事は彼も火星の悲劇を知っているって訳だ。それなら、彼も君と同じ火星出身なのかな?」

「・・・だとしたら?」

「それじゃあ、ボソンジャンプの条件に引っ掛かるよね?そして、さっきの彼女の反応。自ずと答えは出てくる」

「・・・・・・」

「またダンマリかい? もしかして、僕、図星をついちゃったのかな?」

「・・・さぁな」

「ま、いいよ。でも、一つだけその反応で分かった事がある。それは、マエヤマ・コウキもA級ジャンパーであるという事。今、彼はナデシコ内にいるんだろ? 戦場に一人残ったのもそれがあるからって訳だ。まぁ、いつの間にCCを手に入れたんだって謎は残るけど、そんなのいくらでも方法はあるだろうし」

「・・・・・・」

「まるでミステリーを解いていくかのようで楽しいね。おっと、テンカワ君。先にネタバレなんて無粋な真似はしないでくれよ。少しずつ真実に近付いて、最後に証拠を突きつけて、引導を渡してやる。それがこういう話の醍醐味なんだからさ。名探偵アカツキ・ナガレ。良い響きじゃないか」

「引導を渡すとは穏やかじゃないな」

「だって、犯罪者でしょ? 彼」

「何?」

「あれだけのIFS処理能力でずっと在野にいた人間だ。きっと色んなあくどい事をしてきたんだろうね。後ろ暗い事の一つや二つ、いや、もしかしたら三つぐらいあるんじゃない?」

「・・・・・・」

「困った時のダンマリは悪い癖だよ、テンカワ君。沈黙は肯定と同じなんだから」

「・・・証拠はあるのか? コウキが犯罪者だという」

「ふふふ。組織の調査力を甘く見ちゃいけないよ。彼の事だから巧妙に事実を隠しているだろうけど、解けない謎はないんだ。いずれ露見する」

「お前こそコウキを甘く見ない方がいい。ネルガルとて後ろ暗い事はいくらでもある筈だ。余計な事に手を突っ込むと藪蛇になるぞ」

「今度は脅しかい? 怖いなぁ、テンカワ君は」

「お前にだけは言われたくない言葉だな」

「お互い様って訳かい。それなら、マエヤマ君と競争って訳だ。どっちが証拠を突きつけて、まいったって言わせるか」

「コウキはそんな事をしないがな。お前と違って他人を陥れるような事はしない」

「はいはい。君は他人に希望を持ちすぎなんじゃないかな? マエヤマ君だって人間だよ?」

「それでも、だ。少なくともお前よりはあいつの事を理解している」

「そう? ま、いいや。いずれ彼もネルガルが手に入れる。ただそれだけの事だよ」

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「コウキ君!」

 

焦る気持ちを抑えながら、コウキ君の部屋に駆け込む。

お互いに行き来するからってカードキーをコウキ君に弄ってもらった。

以前、私がコウキ君に慰められた時、コウキ君はマスターキーを艦長から借りたらしい。

そんな経由はいらないって、強引に押し通された結果だけど、良かったって思える。

今、この瞬間、誰よりも早くコウキ君に会えるのだから。

 

「・・・コウキ・・・君」

 

部屋の電気を点ける。

日頃からあまり汚さないよう定期的に掃除をしてあげている部屋は綺麗そのもの。

なにかが崩れているような事もなく、いつも通りのコウキ君の部屋だ。

ただ、部屋の中心に頭部から血を流す彼がいる事を除けば。

 

「コウキ君!」

 

近付いて、彼の脈を計る。

こんな状態でも冷静な自分を不思議に思いつつ、迅速に状況把握の為に自分の身体を動かしていた。

 

「脈は・・・ある。息は・・・している。良かった。ちゃんと生きている」

 

ホッと一息吐く。

最悪の事態は免れたようだ。

怪我はしているようだけど、死んではいなかった。

 

「不安にさせないでよ。コウキ君」

 

出来る事なら、彼の無事を喜んで、彼の身体を抱き締めてあげたい。

でも、怪我をしていて、なおかつ、意識を失っている彼にそんな事は出来ない。

だから、意識を取り戻したその時、おはようと笑顔で言ってあげよう。

きっと、それだけでも喜んでくれる筈だから。

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・コウキさん」

「セレセレ」

「・・・コウキさんは・・・無事ですか?」

 

・・・そうだったわね。

コウキ君を心配する人間は他にもいるんだ。

家族であるセレセレなら尚更。

 

「無事よ。怪我はしているみたいだけど、ちゃんと生きているわ」

「・・・良かったです」

 

走ってきた疲れからか、それとも安心からか。

脱力して地面に膝をつくセレセレ。

ふふっ。コウキ君。愛されているじゃない。

ちょっと訂正。セレセレと二人でおはようって言ってあげよう。

ふふっ。ホント、愛されているわね、コウキ君。

 

「・・・心配なので、早く医務室に」

「そうね」

 

確かに一刻も早く医務室に連れて行くべきだ。

見た所、命に別状はない、と思う。

でも、それは素人の私意見であり、実際は危険な状態なのかもしれない。

コウキ君の為にも、心配する私を含めてクルーの為にもちゃんとした検査を受けた方がいい。

 

「早速医務室に連絡を・・・」

 

でも、おかしく思われないだろうか?

一人戦場の残った人間が突如現れたりして。

きっと、誰もが不思議に―――。

 

『私が見てあげるわよ』

「イネスさん」

『何も言わなくていいわ。見ていたし、聞いていたから』

 

コミュニケ越しに現れる理知的な顔。

そうね。彼女なら、語らずとも理解してくれる。

きっとブリッジの様子とかも理解した上での提案。

私にとって渡りに船だった。

 

「御願いします」

 

頭を下げる。

私なんかの頭でいいなら、いくらでも下げてやろう。

それで、コウキ君が助かるなら。

 

「・・・御願いします」

「・・・セレセレ」

「・・・コウキさんは私にとっても大切な人ですから」

 

ありがとう。セレセレ。

 

『あらあら。愛されているわね。彼』

 

ニヤニヤ顔のイネスさん。

でも、ちょっと安心した。

これだけ余裕を見せるなら、きっとコウキ君は無事だ。

本当に危なかったら、この人だって焦りを見せる筈なのだから。

 

『私も火星人の一人。アキト君の記憶を見た以上、何が最善かぐらいは分かるわ』

「えっと・・・」

 

それって、今、関係ないと思うんですが・・・。

もちろん、大事な話ではあるんだけどね。

 

『彼に死なれちゃ困るのよ。彼には色々と訊かないといけないし』

「・・・お大事にね。コウキ君」

 

検査より、検査後が大変だなって思った。

 

『それに、あの彼がこうまで危機に陥った。その理由も知りたいじゃない? もしかすると、物凄く重要な情報を握っているのかもしれないわよ? 彼』

「・・・そうですね」

 

確かにそうだけど、そんな事は私にとって二の次。

コウキ君が無事かどうか、ただそれだけが大事なのだ。

 

『ふふっ。まぁ、それは後で聞くとするわ。とりあえず、そちらに人を送るから、付いてらっしゃい』

「はい。御願いします」

 

しばらくして、コウキ君が運ばれていった。

検査した結果、症状は頭部の強打による脳震盪と全身打撲。

症状自体は軽いから、すぐにでも眼を覚ますだろうって。

入院という形で休ませてあげるし、隠しておいてあげるって。

本当に感謝しても、し足りないぐらいだ。

ありがとうございます。イネスさん。

これで安心だ。本当に良かった。

そう思っていた。

でも、それから三日経った今でも、コウキ君の瞼が開く事はなかったの。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・ここは?」

 

・・・俺は確か、カグラヅキから戻ってくる途中に・・・ッ!

 

「そうだ! 夜天―――イッタァ!」

 

思わず起こした身体を再びベッドに戻す。

な、何だ? なんか全身が物凄く痛いんですけど。

 

「あら? 起きたの?」

「・・・イネスさん」

 

イネスさんがいるって事は医務室だろうな、ここ。

いやぁ。実は俺が一番お世話になっているんじゃないか?

おっと、そんな余裕はないっての。

急いでアキトさんに!

 

「イネスさん! アキトさんはどこに!?」

「はぁ・・・。落ち着きなさい。コウキ君」

「で、でも・・・」

「ここに呼んであげるから、貴方は怪我人なのよ?」

「・・・分かりました」

 

渋々ベッドに身を預ける。

イネスさんはコミュニケで連絡を取っているようだ。

終わったら、状況とかを聞くかな。

ま、その間にちょっと整理しておこう。

 

「北辰が動き出した。狙いは何なのだろう?」

 

草壁派が和平の使者を送った。

別にそれは原作と同じだから別段驚きはない。

使者がユキナちゃんじゃなければ話は別だけど。

しかし、だ。ユキナちゃんを使者として送った理由が未だに分からん。

彼女自身は使者としての自覚がないのかもしれないが、草壁にとっては使者とは言わなくても接触させる気があったのではないかと思う。

何故かというと、彼女が単身ボソンジャンプでナデシコに乗り込んできたからだ。

単身ボソンジャンプできるような機体を軍人の妹とはいえ、一般人に扱わせるだろうか。

兄の戦艦に乗っていて機体を奪ったという見方もできるが、そうなれば一般人に機体を奪われたシラトリさんと奪った本人であるユキナちゃんに罰がくだされる筈。

まったくそうならなかったのは草壁が容認したからではないだろうか。

そうであれば、草壁は彼女がナデシコにいた方が、都合が良いと考えたという事。

草壁は彼女を接触させる事で何かしらの計画を思い付いたのではないだろうか・・・。

やはり、あの時から既にシラトリさんの暗殺を企てていたのか?

もしくは、彼女を送る事が徹底抗戦を訴える上で必要だったって事?

・・・分からん。

ユキナちゃんは別に草壁派という訳ではないだろ?

実際、彼女はミナトさんに接触する為に乗り込んだようなものだし。

彼女は何も知らない。そもそも兄の暗殺事件に協力する筈もない。

・・・となると、彼女を木連から引き離した事に意味がある?

でも、彼女がいないぐらいじゃ、大した影響はないと思う。

そりゃあ、ツクモさんの意識を草壁派から逸らす事は出来るさ。

愛しの妹が敵側に赴いてしまったんだから、意識が逸れるのは当然。

しかし、それだけの理由で彼女を送り出すだろうか。

何か、もっと大きくて、大事な意味がある気がするのだが・・・。

 

「あ。先にハルカ・ミナトを呼んでおい―――」

 

シュインッ。

 

「コウキ君!」

 

イネス女史が告げるとほぼ同時に、扉が開き、凄い勢いでミナトさんが入室してくる。

ミナトさんはベッドにいる俺を見ると、ホッと息を吐いた後、ゆっくりと近付いてきた。

ちょっと・・・バツが悪い。

なんだかんだで、また心配かけちゃったし。

 

「良かったわ。無事で」

「すいません。また、心配かけちゃいましたね」

「ううん。あ、心配したっていうのはもちろんだけど、貴方は私達の為に無理してくれたの。ありがとね」

「いえ。俺にだけ出来る事があった。それだけですよ」

「それでもよ。コウキ君のお陰で私達はこうして生きていられる。素直に感謝を受けても損じゃないと思うんだけどなぁ」

「・・・そうですね。俺もホッとしています。皆が無事で」

 

本当に危機的状況だった。

俺の秘策が成功したからいいものの。

失敗していたら俺はもちろんの事、ナデシコもすぐに追撃を受けてヤバかったと思う。

今更だけど、ちょっと達成感。

無茶したのはあまり良い事じゃないだろうけど、無茶して良かったと思う。

 

「ミナトさん。今の状況を教えてくれますか」

「ええ。分かったわ」

 

 

 

 

 

「なるほど」

 

あれから無事に撤退に成功したナデシコは修理の為にコスモスと合流。

これは予想が付いていた。事実、コスモスを探していた訳だし。

まぁ、結局、見付かりませんでしたけどね。

使者は変わらずシラトリ・ツクモさんの妹ユキナちゃん。

使者らしいものは何も持ってないけど、確かに木連の女の子だ。

彼女を通して、草壁派は和平交渉をしようとしているらしい。

まぁ、和平交渉かどうかは甚だ疑わしいが。

 

「それでね、あ、先に言っておくわよ。誤解されちゃ困るから」

「えっと、何ですか?」

「ユキナちゃんのお兄さんのツクモさん。私に・・・」

 

そこまで言って言いよどむミナトさん。

あぁ。やっぱり、ツクモさん、ミナトさんに恋しちゃったんだ。

 

「ツクモさんとは御会いした事があります」

「え? そうなの?」

「はい。まぁ、恋にも一途って感じでした」

「・・・知っているの? 彼が私に好意を抱いているって」

「ハハハ。ユキナちゃんはお兄さんの為にナデシコに来たようなものですよ?」

「・・・それじゃあ、ルリルリが言っていた人って」

「ネタバレになりますよ?」

「流石にそこまで鈍感じゃないわ。本当なら、私は彼と結ばれたのね」

 

う~ん。結ばれたってのとはちょっと違うな。

お互いに惹かれあったのは事実だけど。

 

「ちょっと違うんです」

「え? 違うの?」

「ここからはミナトさんにも関わる事なので言い辛かったんですが・・・」

「・・・・・・」

「覚悟して聞いてください」

「・・・ええ」

 

話していいかどうか悩んだけど、ここまでバレたらきちんと話すべきだよな。

 

「彼は暗殺されます」

「・・・え?」

「ツクモさんは草壁派における和平の第一人者。草壁は彼を殺し、その罪を地球側に擦り付ける事で民衆を煽りました。悪の地球が和平を望む誇り高き木連軍人を殺した。今こそ悪に鉄槌を。私達は彼の意思を踏み躙った悪の地球を絶対に許さないと」

「そ、そんなのって!」

「ええ。愚かにも木連国民はその言葉を真に受けてしまった。シラトリさんは死した後、軍神として祀り上げられたんです。草壁によって」

「木連は、木連はそんなに戦争がしたいの! そんなの、そんなの・・・あんまりだわ」

「俺もそう思います。だからこそ、俺は彼も救いたい。若くして亡くなる英雄を」

 

シラトリさんの死。

それが木連に与えた影響は大きいと思う。

木連の若者達の憧れである優人部隊。

その中でも少佐というエリートであった彼は軍人や国民からの知名度も高い。

簡単に言えば、人気も高かったんだと思う。

そんな彼が地球側に謀殺された。

そうなれば、国民が怒りを覚えるのは当然の事。

もしかしたら、和平を唱えていた人間が徹底抗戦に鞍替えした可能性もある。

潔さをモットーとする木連なら充分ありえる事だ。

草壁はそこまで国民の事を理解した上で実行した。

熱血とは盲信にあらず。

月臣さんが掲げた言葉を国民に知って欲しいと思う。

与えられた情報だけを鵜呑みにする事の恐怖。

それを知って欲しい。木連はもちろん、地球にも。

 

「・・・彼が死んだ後の私は?」

「・・・絶望の淵にいました。その後、どうにか立ち直りましたが、戦争終了後は彼の妹であるユキナちゃんを引き取り、独身を貫いたようです」

「・・・そっか。当事者じゃない私には分からないけど、平行世界の私はとても情熱的な恋をしていたのね。ごめんなさい。コウキ君」

「えっと、何で謝るんですか?」

「平行世界と言えど、私の事、しかも、恋やら愛やらの話じゃない? そんな話をするのって辛い事だと思うんだ。だから、ごめんなさい」

 

・・・そりゃあ、今付き合っている人が実は違う人と結ばれていましたって。

そう話すのは辛いし、思い出すだけで腹が立つ。

それは確かだけど・・・。

 

「でも、俺はあの真っ直ぐで真摯に彼を想い続ける姿が美しいと思いました」

 

恋人を殺されて慟哭するミナトさん。

必死に縋りついて、泣き叫ぶミナトさん。

彼の意思を継ごうと立ち上がるミナトさん。

兄を失った妹を案じ、引き取ると告げたミナトさん。

どれも俺には想いが伝わってきた。

本当に思い遣りがあって、暖かい女性なんだって。

そう俺に教えてくれたんだ。

 

「それに、己惚れじゃなければ、俺はミナトさんに愛されています」

「・・・コウキ君」

「もちろん、俺もミナトさんを愛しています。平行世界のミナトさんは本人であって本人ではない。 向こうのミナトさんの心はツクモさんに奪われてしまいましたが、こちらのミナトさんの心は俺がガッチリと奪い取っちゃいました」

「・・・うん」

「貴方を愛しているから、貴方に愛されているって自信があるから。だから、何を言われようと動じませんよ、俺は。俺の想いに嘘はないですからね」

 

そう、何があったって動じない。

それだけの絆が俺とミナトさんにはあるって思っているから。

たとえツクモさんであろうと、俺と彼女の絆の前には敗れ去る事だろう、うん。

 

「ふふっ。なんだかコウキ君じゃないみたい。そんな台詞。似合わないわよ」

「茶化さないでくださいよ。とにかく、向こうとこちらでは別人です。俺としては、向こうのミナトさんにはちゃんとツクモさんと結ばれて欲しかった。辛い生活を送るのではなく、夫婦仲良く幸せな家庭を築いて欲しかったって思います」

「へぇ。それって、私とツクモさんが結ばれて欲しいって事?」

「ちょ、ちょっと、勘違いしないで下さい。俺はミナトさんを譲るつもりは―――」

「冗談よ。冗談。大丈夫。コウキ君の想いはちゃんと伝わってきたから」

 

胸の上に手を重ね合わせてどこか嬉しそうに微笑むミナトさん。

・・・いや、今更ながら照れるな。俺らしくなかったかも。

 

「・・・そろそろいいかしら?」

「へ?」

「・・・あ」

 

・・・そういえばいましたね。イネス女史。

 

「そりゃあ、愛しの彼が無事に生還したんだもの。喜びたいのは分かるけど・・・」

 

どこか呆れていらっしゃるイネス女史。

 

「さっきからお待ちしているわよ。お客さん」

 

え? お客さん?

 

「・・・邪魔するぞ。コウキ」

「・・・すいません。お邪魔かなと思ったんですが・・・」

「・・・私達は悪くないと思う」

 

・・・アハハ。呼んでいましたね。誰でもなく俺が。

 

「さて、それじゃあ、アキト君達を呼んだ理由を話してもらいましょうか」

「えっとぉ、イネスさんもですか?」

「あら? 私だけ除け者? これでも役に立つと思うけど?」

「え、あ、それはそうなんですが・・・」

 

いいんですか? アキトさん。

そう視線で訊いてみる。

 

「構わん。記憶を見られた以上、隠していた所で意味はない。それに、博士なら俺達の強い味方になってくれるだろうしな」

「あら? お兄ちゃん。博士なんて呼び方しなくていいのよ?」

「・・・イネスさん。貴方のお兄ちゃんは俺ではない」

「ふふっ。まぁ、いいわ。お兄ちゃん」

「・・・・・・」

 

そうだよな。記憶の流出はそういう意味もある。

イネスさんは自身がアイちゃんと呼ばれた存在であると自覚しているし、アキトさんこそが初恋?かは分からないけど、あのお兄ちゃんだって理解している。

原作では最終回あたりに知る事になるんだけど、今はとっくに知っちゃっている訳だ。

 

「私自身、お兄ちゃんの記憶を見て、色々と考えさせられたわ。どうして、私はあの時、遺跡を放置する事の危険性に気付かなかったのかしら?」

「いや。俺に聞かれても困ります」

 

普通、そこはアキトさんに聞くべきじゃないかな?

どうして、俺はそんなに凝視しながら問いかける?

 

「あら? 貴方なら分かるんじゃない? イレギュラーさん」

 

・・・まぁ、そう言われてもおかしくはないよな。

アキトさんの記憶の中に俺がいなかったのは事実だし。

誰かが、というより、誰もが疑問に思うのは分かりきっていた。

 

「ふふっ。やっぱり貴方は興味深いわ」

 

・・・なんか嫌な標的にされた気がするんですけど。

 

「ま、その事は後々に話してもらうとして・・・」

 

あ。結局、誤魔化し切れてない訳ね。

 

「まずはアキト君達に伝えたい事って奴を話してもらいましょうか」

 

・・・たくさんあり過ぎて困っちゃうな。

 

「えっと、アキトさん」

「ああ。何だ?」

「そうですね。良いニュースと悪いニュース、どっちがいいですか」

「・・・先に良い方を聞いておこうか」

「・・・分かりました。ルリちゃん。この部屋って」

「ええ。先程、オモイカネに頼んでおきました」

 

おし。情報秘匿は完璧だな。

それじゃあ、話すとしようか。神楽派と北辰の事を。

希望と絶望の話を。

 

 

 

 

 


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