機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

58 / 89
木連中将の影

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「・・・マエヤマさん。今頃・・・」

「・・・ユリカ。残念だけど・・・」

「うん。分かっている。可能性で言えば生きている方が不思議なんだって事は」

「・・・そうだね」

「・・・私は覚悟が足りなかったのかな?」

「ユリカ。前を向こう。そんなんじゃ、犠牲になってくれたマエヤマが報われないよ」

「・・・うん」

 

艦長と副長の会話が示すように今、ブリッジ内には暗い雰囲気が漂っている。

・・・というか、勝手にコウキ君を殺さないで欲しいんだけど。

 

「ミナトさん。マエヤマさんは・・・」

「大丈夫よ。メグミちゃん。生き残るって言っていたでしょ?」

「でも・・・」

「コウキ君は冗談ばっかりだけど、嘘は吐かないもの」

「・・・ミナトさん」

「絶対に帰ってくるって言っていた。それなら、私が信じてあげなくちゃ」

「・・・私も信じています」

「セレセレ・・・」

「・・・私もコウキさんなら絶対に戻ってくるって信じています」

「ええ。信じましょう」

 

秘策があるって言っていたもの。

コウキ君が戻ってこない筈がない。

 

「・・・強いんですね。ミナトさんは」

「そんな事ないわよ?」

「いいえ。強いです。もし、ガイさんが残るなんて事になったら、私・・・」

 

悲しそうに俯くメグミちゃん。

多分、それが普通の反応だと思う。

もしかしたら、私自身、強がっているだけなのかもしれない。

だけど、どうしてだろう?

コウキ君なら大丈夫だって、そんな気がするの。

 

「機影反応」

「ルリちゃん。モニタに」

「はい」

 

突如として告げられる機影反応。

艦長の指示に従ってモニタに映し出されたのはヒナギクのような飛行機。

そして、それには一人の女の子が乗っていたの。

 

『うわ、うわわわ』

 

・・・とりあえず、回収してあげましょう。艦長。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ナデシコに攻撃していたのは力を示す為ですか?」

「ええ。福寿の性能を認めさせる。それが第一歩でしたからね。ナデシコは木連軍人にとって最大の障害である敵幹部のようなものです。ナデシコを撃退させる事が出来れば、私達は軍内で大きな権限を持つ事が出来ます」

 

敵幹部って・・・。

流石ゲキ・ガンガーの国。

発想がアニメチックだ。

 

「まぁ、戦争なので、何も言いませんが、一応、念の為に・・・」

「はい」

「俺の中での認識でしかありませんが、ナデシコこそが和平の鍵になると俺は考えています」

「それは教官が乗っているからですか?」

 

いやいや。だから、俺なんてそんな大袈裟な存在じゃないってば。

 

「艦長がミスマル提督の娘というのもありますが、何より対木連ではかなりの知名度を持つからです。戦争の中心にナデシコがいる事は間違いないでしょう」

「はい。こちらもナデシコには注目しています」

「だからこそ、ナデシコの動きが両陣営に対して与える影響は大きい。現在、軍内部での・・・」

 

・・・ミスマル提督の企みとか言わない方が良いのかな。

俺自身はケイゴさんならって思うけど、こういうのは代表者同士で話し合うべきだしね。

 

「どうしましたか? コウキさん」

「あ、いえ。ミスマル提督ら改革和平派の権力も強くなってきましたしね」

「・・・・・・」

 

うわ。何? その誤魔化しは利きませんよ、的な視線。

 

「詳しい事は現段階では御話できないんです。申し訳ないですけど」

「・・・そうですね。まだ私達は完全に協力体制を築いた訳ではないので」

 

う。そんな言い方されたら罪悪感が・・・。

いや。うん。ごめん。でも、やっぱり言えないわ。

 

「コホン。ケイゴさん。今後の方針について確認しておきましょう」

「・・・仕方ありませんね。分かりました」

 

そうそう。優先すべき事を優先しましょうね。ケイゴさん。

 

「俺はこのまま脱出してもいいんですよね?」

「ええ。本来なら許されない事なのですが、ツクモを逃がしてもらった恩がありますし」

 

あぁ。シラトリさんね。確かにナデシコが彼を逃がしたわ。

いやぁ。シラトリさんを逃がした事が巡り巡って俺を助けるとは。

ありがとうございます。ミナトさん。

 

「そもそもこちらがそうしなければ教官一人に撃退されてしまう」

「いや。そんな事は―――」

「事実、私達は一人でやられてしまいましたから。実質的に私達が敗北したと言って良い。むしろ、私達こそがコウキさんの言う通りにしなければならないでしょう」

 

敗北者だから的な話ね。

まぁ、俺としてはそんなに事を荒げたくないからスルーの方向で構いませんけど。

 

「それなら、許して欲しい事があるんです」

「は? 許して欲しい事とは?」

「事後承諾になりますが、先程の戦闘データ、全て消させて頂きました」

「・・・本当ですか?」

「ええ。本当です」

「・・・教官。何をしてくれているんですか!?」

 

うわっ。ケイゴさんがキレた。

やばい。初めてだ。普段物静かな人って怒ると怖いんだよなぁ。

なんて新鮮に感じている余裕はないだろっ!

怖っ! 檄怖!

 

「今回、ナデシコを撃退した事で権力を得られると思ったのに・・・」

 

今度は項垂れるケイゴさん。

えっと、すいませんとしか言えない。

 

「でも、その後のこの戦艦が占拠されてしまった映像もありましたよ」

「そちらは削除するつもりでした」

 

・・・胸を張って不正を言われてもね。

まぁ、既に消してしまった以上、何を言っても変わらないんだけど。

でも、多分、その件は大丈夫だと思う。

 

「映像がなくとも情報は伝わると思いますよ。ナデシコが注目されているのなら」

「・・・そうでしょうか?」

 

・・・恐らくでしかないけど。

 

「どちらにしろ、ナデシコが撤退したという事実に変わりはありません」

「・・・分かりました」

 

まぁ、納得してもらえるとは思ってないさ。

 

「えっと、話を戻しても?」

「ええ。どうぞ」

 

まず、カグラヅキから脱出した後、ナデシコに戻るだろ?

その後、原作通りならナデシコは地球に降下する事になる。

そこで色々とネタバレした後、クルーの逃亡生活が始まる。

そして、だ。ナデシコ強奪事件が起きて、クルー達が再度集まる。

そして、仮初めの和平交渉。

ここから全てがズレ始めた。

とまぁ、原作をなぞってみたけど、既にこうはならない筈。

まず、地球に降下してもナデシコは安全。

原作ではシラトリさんの妹であるユキナちゃんが乗っていて、彼女を引き渡すようにと告げる軍人達から逃亡して隠れる事になる。

でも、それは地球側があくまで事実を隠蔽しようとしていたから。

今回はミスマル提督の下、和平派が活動しているから、ユキナちゃんを一方的に渡せなどと言われない筈。

予想だけど、ナデシコ内で保護って形になると思う。

その間、ナデシコやらエステバリスやらを全面改装する必要があるな。

臆病とか思われてもいいから、性能を強化しておいた方がいい。

夜天光とまではいかなくても、ノーマルエステバリス以上の機体は出てくるだろうから。

どちらにしろ、地球に戻ってからが忙しいって訳だな。

火星再生機構の話もきちんとしておきたいし。

一度、火星人の皆や提督達を集めて話し合う必要がありそうだ。

 

「地球に戻り次第、俺は提督に連絡を取ろうと思います」

「はい。私も父と話してみます」

 

神楽派の代表はケイゴさんの父親か、やっぱり。

ケイゴさんと同じでイケメンなのかな?

まぁ、関係ないけどさ。

 

「その間の連絡手段ですが・・・」

 

・・・どうするか。

同じ目的を掲げていようと、両者間での緻密な話し合いは必須。

秘密裏に結託して活動するのなら尚更だ。

その為には何度も連絡を取り合う必要がある。

でも、俺達には連絡を取り合う手段が・・・。

 

「それは大丈夫です」

「手段があるんですか?」

 

驚いた。

だってさ、地球と木星間で連絡を取り合うとか、無理じゃないの?

 

「教官は偶に抜けていますよね」

「・・・よく言われますよ」

 

どうしてかな? いつも言われるんだけど。

 

「そう拗ねないでください」

「べ、別に拗ねてないですよ」

「教官の新たな一面ですね」

 

・・・なんで遊ばれているんだろう、俺。

 

「コホン。その手段っていうのは?」

「はい。クリムゾンへ連絡する方法と同様の方法を用います」

「・・・あ」

 

そういえば、クリムゾンと連絡を取り合っていたんだったな、木連って。

あぁ。それで抜けているって事ね。

 

「クリムゾンとはどうやって? 直接連絡は取れないですよね?」

 

「ええ。流石に地球と木連では遠過ぎますからね。ですが、連絡を取り合うだけならば、簡単なんですよ」

「簡単?」

「はい。地球で言うバッタ等の機体。これらにデータを載せてチューリップ越しに意見交換すればいいんです」

「なるほど。その方法がありましたか」

 

確かにそれが一番楽だな。

木連は一瞬でバッタを送れる訳だし。

後はそれを受け取ればいい。

無論、撃退してしまわないように注意する必要があるが・・・。

そして、同じようにバッタに言葉やら情報を乗せて再度送る。

そうすれば、メールのやり取り的な感じで情報交換できるな。

なるほどね。そうやって連絡を取り合っていたのか。

 

「クリムゾンと同じルートではコウキさん達に届かないと思うので、新しいルートを構築します」

「分かりました。どれくらいで構築できますかね?」

「すぐにでも可能です。小型チューリップを配置してもらうだけなので」

 

それもそうか。

でも、小型とはいえチューリップを近くに置いておくのは怖いな。

いつ武装したバッタとかが襲ってくるのか分からないのだから。

突然の事態にも対応できるよう対策してからにしないとな。

 

「分かりました。ちなみに、その小型チューリップの大きさはどれくらいです?」

「バッタ一機が通れる程度の大きさです」

 

なるほどな。

それなら、それほど大きな土地もいらないと。

・・・恐らく、ケイゴさん側も気を使ってくれているのだろう。

ジン一機分とかのチューリップもない訳ではないが、いきなり攻撃されるという恐怖はどうしてもある。

その為、被害が少しでも小さくなるように小型のチューリップと。

そうだな・・・うん。

ウリバタケさんに相談して、ディストーションブロックで小部屋を作ってもらおう。

そうすれば、攻撃される恐れもなく、連絡が取り合える。

疑っている訳じゃないけど、万が一を考えればそれぐらいの対策は当然だ。

 

「では、こちらの受け入れ準備もありますので後日受け取るという事でいいですか?」

「構いませんが、どのように渡せばよろしいですか?」

 

ふむ。そこまで考えていなかった。

俺はバカなのだろうか・・・。

 

「そうですね。では、こうしま―――」

 

ドンッ! ドンッ!

 

「ケイゴ!」

「おい! シンイチ!」

 

・・・駆け込み乗車は違反ですよ。キノシタさん。

 

「ノックしたまではいいが、したなら、返事を待てよ」

「その通りです。シンイチさん」

 

うおっ。いつの間にかマシンガンを構えるマリアさんが隣に。

怖っ! 超怖っ! これが最強メイドさんの実力かよ!

・・・俺、まるで気付かなかったぞ。

 

「そんな余裕はないんだ! ケイゴ!」

 

肩で息をしながら、大柄な身体の全体を使って緊急事態をアピールするキノシタさん。

尋常じゃない何かが、想定外の何かが、起きてしまった。そんな形相をしている。

 

「草壁中将が和平を提案して、地球側に使者を送った」

「な、何!?」

 

・・・残念だけど、俺にとっては想定内ですよ。

いつになく慌てているケイゴさんに比べ、俺は冷静そのものだった。

そりゃあ、今まで徹底抗戦を訴え続けてきた草壁派が和平を唱えたら驚くさ。

でも、それは一種のイベント前の準備でしかない。

白鳥九十九暗殺事件。徹底抗戦を訴える道具にする為の演出。

あくまで草壁派の狙いは徹底抗戦だ。

 

「・・・草壁中将が?」

「俺達の意見に賛同したって事なのか?」

「いや。それはないと思う・・・が、そうではないとも言い切れない」

「クソッ。おちょくられている気分だぜ。今まで散々徹底抗戦を訴えていたくせに」

「駄目だ。判断材料が足りな過ぎる」

「・・・俺達は草壁中将と結託するべきなのか?」

「・・・それも分からない。現状では保留だ」

「・・・だな」

 

暗殺事件の事を話せてしまえたらどれだけ良い事か。

でも、現時点でそれを知っているのはあまりにもおかしすぎる。

言った所でケイゴさん達を混乱させてしまうだけだ。

そもそも同じ事件が今回起きるかも分からないし。

とりあえず、現時点では、俺も決断を保留にせざるを得ない。

もちろん、厳重に注意を払って暗殺は確実に阻止するつもりだけど。

 

「草壁中将が派遣した使者はどこに?」

「そこまでは分からなかったが、恐らくナデシコだろう」

「・・・ナデシコ、か。誰なのかは分かるか?」

「それも不明だ」

「そうか。・・・コウキさん。充分に注意してください」

「ええ。分かりました」

 

和平の使者か・・・。

確か原作だとシラトリさんの妹であるユキナちゃんが単身ナデシコに乗り組む。

なんかの通信装置を使って、シラトリさんと連絡を取り、和平について語り合う。

ユキナちゃんはナデシコで保護され、ナデシコは地球に・・・といった流れだったと思う。

最終的に草壁との対談を果たす為の架け橋となったのはシラトリさんだが、そういう意味ではユキナちゃんこそが和平の使者と言えるのかもしれないな。

まぁ、ユキナちゃん自体はそんなつもりじゃなかったんだろうけども・・・。

彼女はあくまでツクモさんの為であって・・・あれ?

 

「今回、ミナトさんはツクモさんと・・・」

 

まさか・・・ね。

恋人持ちの女性を追うなんて事は・・・ないよな?

写真を飾っているなんて事は・・・ないよね?

 

「使者か暗殺者か分かりません。本当に気を付けてくださいよ」

「分かっています。誰にも危害は加えさせません」

 

心配性だなぁ・・・。

でも、気を引き締めないといかん。

まだ、ユキナちゃんだって決まった訳じゃないんだし。

もしかしたら、本当に暗殺者が使者として赴いている可能性もある。

 

「それでは、こちらから小型戦闘機をお貸ししますので、コウキさんはそれで」

「はい。ありがとうございます」

 

とりあえず自分のエステバリスをそれに括り付けて、ナデシコに帰ろう。

いやぁ。流石にね、エステバリスのバッテリーが持ちませんでしたよ。

まぁ、帰る分まで積んでいた訳じゃなかったから覚悟の上だったけどさ。

いざとなったらボソンジャンプで帰ろうと思っていた僕を叱ってください・・・。

 

「送ります。マリア。シンイチ」

「かしこまりました」

「おう」

 

という訳で、三人に連れられて格納庫へ移動中。

言わば、艦長と副長という艦内トップの二人に送らせている訳だ。

偉くなったなぁ、俺も。

 

「おい。マエヤマといったな」

「あ。はい」

 

隣を歩くキノシタさん。

うん。木連軍人らしい刈上げなんだけど・・・。

それが真面目という印象ではなく怖いという印象を与えている。

まるでヤーさんのようだ。

 

「次に戦場で合間見える時は俺が勝つ」

「・・・えっと」

 

ここは、俺も負けません、とか熱血路線でいけばいいのか?

それとも、冷静に、味方になろうとしているのに争うんですかと返せばいいのか?

・・・うん。違うな。俺達の目的が和平なら・・・。

 

「キノシタさん」

「何だ?」

「共に和平を築き、平和になった時、真剣勝負をしましょう」

「・・・へっ。言うじゃないか。いいな。その勝負、乗った」

 

手を差し出す。

さっきの喧嘩腰なんかじゃなくて、心からの握手だ。

 

「よろしく御願いします。シンイチさん」

「お前・・・ふっ。こちらこそよろしく頼む」

 

今度はガッチリと握手をかわす。

共に同じ目的を達成する為の同志として。

 

 

 

 

 

「コウキさん。こちらでお帰り下さい」

 

格納庫へ到着すると既にエステバリスが括り付けられていた。

仕事が速いですね。ケイゴさん。

 

「助かります。ケイゴさん」

「いえ。コウキさんは地球と木連を繋ぐ要。当然のことをしたまでです」

 

また、そんな大袈裟な。

 

「コウキさんが優人部隊の人間であれば、次元跳躍門で近くまで送られたのですが・・・」

「い、いえ。お気遣いなく」

 

い、言えない。優人部隊の人達以上に優れたジャンパーなんて事は。

こっちとしても送ってもらった方が楽だけど、ジャンパーだってバレる訳にはいかないので却下。

地道にナデシコを探して合流するとしよう。

・・・あ。そういえば、さっきの話が終わってなかったな。

 

「それと、さっきの小型チューリップの件ですが・・・」

「はい。かなり強引な手段になりますが、よろしいですか?」

 

よろしいですか?

といわれても、はい、としか答えようがないですって。

強引な手段ねぇ・・・なんか怖いな。

 

「え、ええ」

「これから先、私達木連とナデシコは何度も相見えることでしょう。その戦闘中、小型チューリップを受け渡します」

 

なんともまぁ、強引な手段で。

でも、それぐらいしか方法はないか。

 

「了解しました。強引ですが、俺もそれ以外の方法は思い付きません」

「分かりました。厳密にこの日と決められませんが、できるだけ早く受け渡したいと思います」

「助かります。こちらの準備時間もそれほど掛からないと思いますが、念のため、一ヶ月後を目安にお願いします」

「一ヶ月後ですね。分かりました」

「何か目印でも付けてもらえると助かります」

 

そうしないと、区別がつかないからな。

 

「もちろんです。では・・・これでどうでしょう?」

 

そう言って見せられるとあるマーク。

 

「あはは。ケイゴさん。本気ですか?」

「ええ。本気ですよ。そんなに笑わないでください」

 

互いに笑い合う。

まさか、ケイゴさんがそんなマークを使ってくるとは。

すっごく予想外だ。

でもまぁ、確かにこれなら俺達以外には誰も分からないな。

 

「分かりました。なんとしてでも提督に話を付けてみせます」

 

それが和平に繋がるなら、俺だって労力は惜しまない。

軍内で活動する訳でもないから目立たないだろうし。

大事なのはトップ同士の話し合い。

俺はそれのお膳立てをするだけだしね。

 

「両陣営の間を取り持つ。それぐらいなら俺にも出来るでしょうから」

「教官なら安心して任せられます」

 

信頼されるのって気持ち良いね。

期待に応えたくなっちゃう。

 

「両者間での繋がりを深め、足並みを揃える。和平の道を探すのはそれからです」

「はい」

 

まだまだ課題はいくらでもある。

民間意識の統一も済んでなければ、事実の公表も終えてない。

軍の主導権だって握ってないし、ネルガルの問題も解決してない。

でも、少しずつ、出来る範囲で解決していこう。

焦らなくていい。俺には支えてくれる人がいるんだから。

 

「約束、守れよな」

「もちろんです。シンイチさん」

 

男臭い笑みを浮かべるシンイチさん。

なんか、どことなくガイみたいだった。

多分、ガイならすぐに木連人と馴染むだろうな。

共通の話題もあるし。

 

「それじゃあ、ケイゴさん、また」

「ええ。また、コウキさん」

 

始めの一歩。でも、大きな一歩。

今回、和平を目的とする神楽派と接触出来たのは幸運だったのかもしれない。

後は俺がどれだけ両者間を取り持つ事が出来るかに懸かってくる。

う・・・。責任重大じゃないか。

でも・・・頑張ろう。

まずは戦争を終わらせる。それが後々の平穏に繋がるのだから・・・。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「う~~~~~~」

「ちょ、ちょっとぉ、落ち着いてぇ」

「人誅ぅ~~~」

「ミナトさぁぁぁん」

 

・・・私にどうしろって言うのよ?

突如としてやってきた女の子の名前はシラトリ・ユキナちゃん。

あの、シラトリ・ツクモさんの妹さんらしい。

なんでも、お兄さんの部屋のナナコさんのポスターの後ろに私の写真があったとか。

・・・よく分からないけど、多分、お兄ちゃん大好きっ子を怒らせちゃったんだと思う。

うん。そりゃあ確かに親切にしたし、逃げるのに協力したわよ。

でも、しっかりとお付き合いしている人がいるって教えたじゃない。

・・・ちょっと困っちゃうなぁ。

コウキ君がヤキモチ焼いちゃいそう。

別にヤキモチ焼かれるのは嬉しいけど、勘違いされたら嫌だものね。

 

「ねぇ、ユキナちゃん」

「フシュウゥ~~~」

 

・・・なんかネコみたいで可愛いかも。

 

「私はきちんとお付き合いしている人がいるって言ったわよ」

「それでも、お兄ちゃんは諦めないわ。諦め悪いもの」

 

・・・それって私のせい?

 

「貴方、恋人がいるのに、お兄ちゃんを誑かしたのね。この、悪女!」

 

あ、悪女って・・・。

う~ん。困ったわねぇ。

 

「私は絶対に許してあげないんだからね。ビシッ!」

 

擬音付きで指を突きつけられても、私はコウキ君一筋だし・・・。

う~ん。本当に困った。

 

「と、とりあえず、彼女は保護致しまして、私達はコスモスへ向かいましょう」

 

流石、プロスさん。

混乱した事態を収めるのは彼が一番ね。

 

「艦長。御願いします」

 

さてっと、私も自分の席について・・・。

 

「ナデシコ。発進!」

「ナデシコ、発進します」

 

コウキ君が守ってくれた大事な家。

そして、コウキ君が帰るべき大切な場所。

しっかりと直してあげなくちゃね。

・・・この後、求婚チックな事をされるというイベントがあったんだけど・・・。

特筆するような事じゃないから省かせてもらうわね。

まったく、彼氏持ちに告白するだなんて何を考えているのかしら・・・。

・・・そういえば、和平とかいう言葉を耳にした気がするけど、何だったのかしら?

途中でコウキ君に申し訳なくて退室しちゃったから、詳しい事は聞いてないのよね・・・。

ま、いいや。後で誰かに聞きましょう。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「さて、ナデシコはどこにいる事やら」

 

いやぁ。まさか、操縦士の資格がこういう形で役に立つとは思わなかった。

木連にIFSなんて基本的にないから、この飛行機みたいなのは手操縦。

気分はパイロットって感じ。

まぁ、周りは全方位真っ黒だから、あんまり楽しくはないんだけどね。

気分爽快とはいかない。ま、いいけどさ。

とりあえず、ナデシコと合流したいんだけど・・・。

 

「・・・レーダーに反応なし、か」

 

宇宙を甘く見ていた。

あれだけ離れた状況下で簡単にナデシコが見付かる訳ないよな。

多分、修理の為にコスモスと合流するんだろうとは思う。

でも、その肝心のコスモスの位置すら僕には分かりません。

合流ポイントを聞いてれば別だったんだろうけど・・・。

そういうのは他の人に任せていたしなぁ。

これって大気圏突入出来る?

出来るなら、先に地球に戻っておくのも一種の手なんだけど・・・。

多分、出来ないよなぁ、見た目的に。脆そうだし。

 

「SOS信号でも出しますか?」

 

誰か気付いてくれるとは思う。

でも、それが地球側とは限らない。

そりゃあ、地球に近いから、地球側が拾ってくれる確率が高いとは思う。

でも、ほら、万が一っていうのがあるし。

それに、ミスマル派以外に拾われても借りが出来て困っちゃう。

う~ん。闇雲に探す?

そうすると、時間掛かるし、下手すると一生迷子だぜ?

食料だってそんなに積んである訳じゃない。

・・・無計画の恐怖を今更味わいました。

うがぁ。どうする? どうするよ? 俺。

実はカグラヅキで近くまで送ってもらった方が良かった?

いや、でも、それじゃあ色々とマズイだろうし。

うん。そもそも、もうカグラヅキとは離れちゃっている。

本当に・・・どうすればいいんだぁ!

 

「・・・馬鹿野郎」

 

宇宙で迷子って・・・。

本当に自分、馬鹿ですね、はい。

仕方ない。最終手段を使うか。

 

「・・・イメージはコスモス付近でレーダーに感知されない位置」

 

使いたくなかったけど、使わなくちゃ帰れない。

チューリップとかがあれば、誤魔化せるんだけど、近くにないし。

 

「周囲を確認して、安全を確認」

 

一応、レーダーにも反応はない。

・・・誰も見てないよな?

それなら・・・跳ぶか。

 

「・・・ジャン―――」

『・・・見つけたり。神楽の犬よ。ナデシコと接触させる訳にはいかぬ』

 

カシャン! カシャン!

 

・・・空耳・・・だよな?

 

『我らが悲願の為、汝には死んでもらう』

 

カシャン! カシャン!

 

・・・この声。

・・・この背筋が凍りつくような感覚。

ようやくレーダーに映ったって時には既に周囲を囲まれていた。

囲んでいるのは赤とオレンジ色に染まった七機の機動兵器。

 

「嘘・・・だろ?」

 

・・・まさか、付けられていた?

カグラヅキを見張っていたのか?

神楽派がナデシコに接触しないようにと。

それ程に今回の使者は大きな意味を持つって事か?

・・・それとも、神楽派を異様に警戒している存在がいるとでも?

 

「神楽派と対立している派閥なんて俺が知っている限り一つだけ」

 

そう、草壁派だ。

和平を唱える神楽派は徹底抗戦を訴える草壁派にとって邪魔な存在でしかない。

地球側と接触する事で、和平への道が一歩近付くとなれば邪魔に入るのは当然。

・・・要するに、俺はナデシコの接触しようとする神楽派と間違えられている訳だ。

 

「草壁の実行部隊。まさか、劇場版の人間がこのタイミングで出てくるとはな」

 

草壁派。その実行部隊といえば・・・。

 

「北辰と愉快な六連衆しかいないじゃないか」

 

・・・というか、余裕ぶっこいてる場合じゃないぞ。

なんたって、相手は・・・。

 

「・・・夜天光」

 

・・・まずい。非常にまずい。

まさか、既に夜天光や六連がロールアウトされているとは思わなかった。

いや。問題はそこじゃない。

エステバリスが使えない状況下、今の俺には成す術がないじゃないか。

一方的にやれてしまう。

 

「クソッ。どうする?」

 

戦闘機なんかで戦える訳がない。

敵う訳がない。逃げ切れる訳がない。

やばい。・・・手詰まりだ。

 

『殺』

 

・・・気付けば、目前に迫っていた赤い悪魔。

 

「グハッ」

 

錫杖が突き刺さられ、衝撃で吹き飛ばされる。

 

「・・・クソッ。このままじゃ・・・」

 

頭部から流れ出る血。

どうやら吹き飛ばされた際に頭を打ったらしい。

視界が赤く染まる。

 

「・・・もう、駄目なのか・・・」

 

全身に伝わる痛み。

視界が揺らぎ、朦朧とする意識。

 

「・・・ミナトさん・・・セレスちゃん」

 

途切れかけた意識の中、思い出されたのはやはり俺達の家だった。

 

「・・・ジャン・・・プ」

 

呟きが零れ落ち、瞬間、宇宙にニ輪の花火が咲き誇る。

 

『我らが栄光の礎となれ。我、草壁の影なり』

 

一欠片も残さず、エステバリスと小型戦闘機は塵と消えた。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

ブリッジにて、眼の前には偉そうに胸を張る女秘書。

 

「その子は私達が預かってあげるわ」

「はい?」

 

いきなり何を言っているのかしら? この人は。

どうしてネルガルなんかに彼女を任せなくちゃならないのよ?

 

「だから―――」

「残念ですが、彼女は木連より地球に送られた使者。私達は軍人として、丁寧しっかりに彼女を送り届ける義務があるんです」

「うっ」

 

キッパリと告げる艦長。

本当にやる時はやるって感じ。

普段のポワ~っていうのが嘘みたいよね。

 

「そもそもネルガルに預ける理由がないですよねぇ」

「そうよね。ちょっと無理があるわ」

「うっ」

 

多分、戦争を続けたいネルガルとしては和平なんてって事だと思う。

戦争中の利益はもちろん、遺跡の確保の為にも戦争は続いていて欲しいと。

そうじゃなければ、必ず遺跡の事が和平条件に出て来るから。

ふふっ。秘書さん。焦るのも分かるけど、ボロを出しちゃ駄目じゃない。

 

「エリナさん。交渉はもっと手順を踏まなくては」

「プロスペクター。貴方まで」

「私もネルガルの一員ですが、同時にナデシコの一員でもあります」

「それが何よ?」

「ネルガルの利益は絶対ですが、ナデシコの目的もまた絶対。私は一方に利益があり、一方に損があるような選択は認めませんぞ」

「うっ」

 

・・・プロスさん。

ネルガルの利益を唱え続けてきたプロスさんもやっぱりナデシコは大事なんだ。

やっぱり私達にとって最高の家であり、皆が家族なんだなって実感した。

 

「さて、私達の今後について話しましょうか」

 

ムネタケ提督も変わった。

以前の嫌な所もなくなり、今はオカマ言葉の切れ者ってイメージ。

まぁ、オカマ言葉なのはよろしくないと思うけど・・・なんか慣れたわ。

 

「コスモスで修理を終えた後はヒラツカドックに入港する事になっているわ」

 

ひとまず作戦を終えたから、地球に帰るって事ね。

それまでに戻って来られたらいいんだけど・・・。

まさかの事態なんて想定してないわよ? コウキ君。

 

「ヒラツカドック入港後は何日かの休暇を挟ん―――」

「休暇ですか!? やったぁ。ジュン君。どこに―――」

「艦長! どこに休暇と聞いて大事な話を遮る艦長がいるんですか!?」

「うぅ・・・。すいません」

「副長も副長です! しっかりとけじめはつけさせなさい」

「は、はい」

 

う~ん。ジュン君。もうちょっと頑張ろう。

今更ながら思ったんだけど、ナデシコ最強ってプロスさん?

 

「コホン。続けるわよ。いいわね?」

「御願いします。提督」

 

お疲れ様です。プロスさん。

 

「何日かの休暇を挟んで、というよりも、現状ではその後の指示は出てないわね」

「それじゃあ、ヒラツカドックで待機って事ですか?」

 

ふふっ。眼を輝かせながら聞くなんて可愛らしいわね。艦長。

 

「そうね。その後は軍の指示待ちよ。恐らく・・・」

「恐らく?」

「いえ。なんでもないわ。楽しみに待っている事ね」

 

ニヤニヤしながら告げる提督。

その笑みの意味する事はよく分からないけど、多分、ミスマル提督を筆頭とする改革和平派に関する事。

ようやく権限が握れてきたって事かしら?

 

「それじゃあ、ひとまず―――」

「・・・これは。まさかッ!」

「皆さん、休憩に入っちゃってくださぁ~い」

 

ポワポワ~とした艦長の指示の途中、椅子に座るルリルリが息を呑む。

ブリッジ上段にいる人間は気付かなかったけど、私やパイロット達は気付いた。

ルリルリが息を呑むって事はかなり重大な意味を持つって事。

ブリッジ上段にいるネルガル陣に気付かれなかったのは運が良かったわね。

あ、これはあの秘書さんや会長さんにって事よ。プロスさんは別。

 

「ルリルリ。どうしたの?」

 

気になって、私は席を立ってルリルリの後ろに向かう。

横から覗き込むように見たルリルリの表情はどこか深刻そうな表情をしていた。

 

「ルリちゃん。どうした?」

 

アキト君や他のパイロット達も集まってくる。

 

「・・・・・・」

 

それでも、その表情のまま固まるルリルリ。

気になって仕方がなくて、ルリルリが知っているなら他の子も、という訳でセレセレに訊ねる。

 

「何かあったの?」

「・・・え、あ、その・・・」

 

セレセレまでこの始末。

見た事ない程に慌てた様子で周囲を見回していた。

 

「ルリちゃん?」

 

怪訝そうに名前を呼ぶアキト君。

そうして、ようやくルリルリが重い口を開いた。

 

「・・・コウキさんの部屋からコミュニケ反応が出ました」

「・・・え?」

 

・・・コウキ君の部屋からコミュニケの反応?

それって・・・。

 

「それはコウキのコミュニケのか?」

「・・・ええ。恐らく・・・」

 

ボソンジャンプ。

コウキ君はボソンジャンプでナデシコに帰ってきたという事。

無事だったんだ! 良かった!

歓喜が胸を過ぎる。

 

「それなら、迎えに―――」

「しかし、そんな愚行をコウキさんがするでしょうか?」

「確かにな。コウキなら、直接ナデシコ内にジャンプするような事はしない」

「もし、するのなら、かなりの緊急事態だったって事になります」

 

・・・確かにそうかもしれない。

コウキ君ならナデシコの近場にジャンプして何食わぬ顔で帰艦して来る筈。

それをしない、もしくは出来なかったって事はかなり危ない状況だったって事になる。

・・・果たして、コウキ君は今、無事なのだろうか?

 

「ミナトさん!?」

 

気付けば走り出していた。

一刻も早く彼の状態を知りたい。

そんな気持ちが私を焦らせる。

 

「へぇ。そういう事」

 

だから、誰かが呟いたこの一言を気にもかけなかった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。