機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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別れる時だからこそ

 

 

 

 

 

「・・・え。それって・・・」

「教官。それは真ですか?」

「はい。本当の話です」

 

提督の執務室から退室後、俺は副官の二人を呼び出した。

これからの事をきちんと話す為だ。嘘偽りなく。

 

「ちょっと待って。コウキ。貴方は私を置いてくの?」

「・・・すまない」

 

カエデを置いていく事になる。

それが一番の心残りだ。

 

「い、嫌よ。ここに残されるなんて」

「少しだけ待っていてくれ。時間が解決してくれる」

「そ、それなら、貴方も残ってよ。私が帰れるようになってからでもいいじゃない」

 

・・・そう。確かにそうなんだ。

カエデが帰れるようになってからでも遅くはない。

でも・・・。

 

「すまない・・・」

 

・・・一刻も早く帰りたいんだ。

立場も名誉もいらない。あそこには待っていてくれる人がいるから。

ナデシコが俺の家だから。

 

「い、いいわよ! もう知らない!」

「カ、カエデ!」

 

走り去っていくカエデを追う事が出来ない。

俺があいつを置いていくのは事実なのだから・・・。

 

「・・・教官」

「すいません。ケイゴさん。カエデの事、御願いできますか」

「それは構いませんが、良いんですか?」

「・・・元々、ここでの任期が終わったらカエデはここで保護してもらい、俺はナデシコに帰るつもりでした」

「それはカエデにはもう話してあったのですか?」

「一応は。俺はナデシコでの仕事があり、あいつがナデシコに帰れない以上、そうなるだろうって」

「・・・そうですか。分かりました。私がここにいる限り、カエデの事は私が護ります」

「御願いします」

 

頭を下げる。

二人とも俺のエゴに巻き込んだのだ。

本当に申し訳ない。

 

「問題ありません。私も彼女の支えになりたいですから」

「え、あ、はい」

 

頭を上げる。

ケイゴさんは頼もしい笑みを浮かべていた。

本当に俺には過ぎた副官だったな。

 

「カグラ小隊・・・でしたか?」

「はい。今一緒に訓練を受けている訓練生と共に小隊を組んでもらう事になると」

「彼らですか。背中を任せられますね」

 

共に訓練を受けたからこそ、ケイゴさんが一番彼らの能力を把握している。

多分、俺以上に把握し、信頼を寄せているんじゃないかな?

 

「教官、いえ、コウキさん」

 

えぇっと、突然何だろう?

 

「今までありがとうございました」

 

そう言って頭を下げるケイゴさん。

本当に律儀な人だと思う。

俺がケイゴさんに与えられ物なんて殆どない。

むしろ、俺がもらってばっかりだった。

 

「こちらこそ、今までありがとうございました」

 

共に頭を下げあう。

そのどこかおかしい光景に俺達は苦笑しあうのだった。

カエデの事、よろしく御願いしますね。ケイゴさん。

 

 

 

 

 

「お世話になりました」

 

ナデシコへ帰艦する事を決めてから数日が経った。

その間にカグラ小隊は何度か出撃し、功績を残している。

うん。安心した。彼らなら出来るって分かっていたけどね。

カエデとは・・・話してない。

気まずいというよりは避けられているといった感じ。

分かっている。これは俺の自分勝手さがいけなかったんだから。

護ると言っておいて、途中で他人任せにして置いていく。

酷い奴だと自分でも思う。いつかはこうなったっていうのは・・・言い訳だよな。

・・・はぁ。本当にすまないとしか言いようがない。

 

「おぉ。大尉。いなくなっちまうんだってな」

 

そして、今は基地内の挨拶回り。

退任する事を報告して、今までありがとうございました、と頭を下げる。

 

「またいずれ機会があったら飲みたいですね」

「おお。いいぜ。今度は家に呼んでやるよ」

「いいんですか? パパさんの面目を奪っちゃいますよ」

「て、てめぇ、俺の娘に手を出そうってのか?」

「さぁ? もしかしたら、パパさん以上に懐かれてしまうかも・・・」

「駄目だ! お前、出入り禁止! 面会禁止! 日本訪問禁止!」

 

日本かよ!? 範囲広過ぎだろ!

 

「と、まぁ、冗談は置いといて」

「あ。冗談なんですか。それなら、娘さんは―――」

「ゴラァ!」

「じょ、冗談ですよ」

 

すぐ本気にするんだから、この人は。

 

「それより、どうです? 新フレームは」

「おぉ。秘密で開発中でな。着々と進行中だぞ」

「流石。それでこそです」

「ハッハッハ。まぁな。フレームから武装も派生できっから、そっちに回してやれるかもしんねぇぞ」

「マジですか。それなら、ロケットパンチの方を回してください。そういうのが好きな奴がいるんで」

「おぉ。お前の所にも話が分かる奴がいるんだな」

 

ガイのつもりでいったが、よく考えたら整備班全員が興奮しそう。

あれだね。おっちゃんとウリバタケさんを一緒にしたら歯止めが利かないね。

暴走し尽くす、絶対。ま、その分、驚異的な開発をしちゃうんだとは思うけど。

 

「分かった、分かった。うまくいったら回してやるよ。一つ二つだけどな」

「構いませんよ。ロケットパンチを好んで使いそうなのは一人二人ぐらいなんで」

 

多分、ガイだけだと思うけど・・・一応ね。

 

「大尉。お前さんには世話になったな」

「いえいえ。俺の方が世話になりました」

「あっち行っても頑張れよ。お前ならできっから」

「何が、です?」

 

ニヤリと笑ってみる。

 

「何でもだよ。お前はもっと本気出せ。手抜きし過ぎだ」

「えぇっと、いつでも本気出していますよ」

 

もちろん、本気ですとも。

 

「ま、意地っ張りなのも大尉らしいけどな。ハッハッハ」

 

俺らしいって何だろう?

 

「んじゃあな。また飲める日を楽しみにしてんぞ」

「はい。そちらもお気をつけて」

「へっ。若い奴に心配されるほど、俺は歳とっちゃいねぇよ」

 

手をあげて去っていくおっちゃん。

うん。本当に俺の周りにいる人は良い人ばっかりだ。

清々しい気持ちにさせてくれる。

 

「おばちゃん。今までありがと」

「おぉ。コウキ君の食べっぷりはこっちも気持ちが良かったよ」

 

次は食堂。いつもお世話になっていたおばちゃんに声をかける。

キッチンの奥には・・・カエデの姿もあった。

 

「あのさ、おばちゃん、カエデの事、頼むね」

「何を気まずそうに。なに? 喧嘩でもしてんのかい?」

「ま、まぁ、そんな所。ほら、俺いなくなっちゃうからさ。お願いしたいんだよ」

「分かっているって。コウキ君がいない分はおばちゃんが補ってあげるから」

 

おばちゃんが補う・・・。あ、そう。

 

「あいつ、最近、どんな感じ?」

「ちょっと上の空って感じだね。悩み多き年頃だから仕方ないんだろうけど」

「おばちゃんだってまだまだ若いって」

「お世辞言うならまずはお姉さんって呼ぶ事から始めなさいな」

「ご尤もなご意見で」

 

お姉さんって呼ぶにはちょっとね。

 

「最近はよくカグラ君が来て元気付けてくれるから、それなりに大丈夫」

「えぇっと、ケイゴさんが?」

「そうそう。コウキ君。取られちゃうよ?」

「いや。だから、別にあいつとはなんにもないってば」

「あらまぁ、意地っ張りだねぇ、相変わらず」

 

相変わらずって。おっちゃんと同じ意見ですか?

俺ってそんなに意地っ張りかな?

 

「ケイゴさんと良い関係なの?」

「どうだろう? ま、これからが楽しみな関係って所だね」

「・・・そう」

 

ミナトさんも言っていたな。

心の支えになってくれる人が現れてくれたらいいなって。

ケイゴさんがそうなってくれたら安心できるんだけどなぁ。

あの人ほどに好青年という言葉が似合う人はいないと思うし。

 

「ん? ショックかい?」

「だから、何にもないって。俺はカエデとケイゴさんがくっつくなら応援する」

「そう。ま、おばちゃんとしてはカエデちゃんが幸せになってくれればいいんだけどね」

「そのあたりは二人にお任せって感じ」

「そこをサーっと奪っていこうって魂胆ね?」

「おばちゃんは俺に何を期待しているのさ」

「そりゃあ、ねぇ」

 

ねぇ、じゃないっての。

 

「あいつ、意地っ張りだけど、優しい奴だから、本当に御願い」

「分かっているってば。カエデちゃんの良さは私達全員が認めているよ」

 

そっか。キッチンの皆がカエデを認めてくれているのなら、大丈夫か。

 

「うん。おばちゃんになら安心して任せられる」

 

本当に。お母さんみたいな暖かさがあるし。

 

「そうかい。そんじゃ、コウキ君の期待に応えるとしようかね」

 

そう言ってニッコリと笑うおばちゃん。

うん。本当に頼もしい。

 

「んじゃ、続き行ってくるわ」

「終わったらまたこっちにおいで。ご馳走してあげるから」

「お。遂におばちゃんの本気が食えるの?」

「いつでも本気だって」

 

食堂への挨拶を終え、その後は残りの部署を色々と回った。

教官として指導した訓練生達。

何度もお世話になりました医務室の方々。

ほら、ケイゴさん、容赦ないから。

事務の人や清掃業の人とか、俺がお世話になった人はたくさんいる。

今までありがとうございました。僕はここから巣立って行きます。

そうやってきちんと挨拶した。感謝の気持ちを込めて。

・・・あ。台詞はなんとなくだよ。卒業式的イメージ。

 

「本当にお世話になりました」

 

最後に演習場から基地に向けてお辞儀。

こうして、俺の挨拶回りは終わった。

 

 

 

 

 

「お父様ぁ~」

「ユ~リ~カ~」

 

えぇっと、感動のご対面という事でしょうか?

わざわざ僕の迎えの為にナデシコがこの基地までやってきた。

まぁ、補給という面も大きいと思うが・・・。というか、むしろ、俺がついでかな。

責任者同士の対面という訳で、ナデシコからはムネタケ提督とユリカ嬢、基地からはミスマル提督とムネタケ参謀が代表として前に出た。

これって、あれだよね、どっちも親子関係だよね。

 

「サダアキ。その顔は何かあったようだね」

「ええ。お父様。私は生まれ変わったのよ」

 

な、何があったんだ?

ア、アキトさん!

 

「久しぶりだな。コウキ」

「こ、こちらこそ、お久しぶりです。それよりキノコ提督に何があったんですか?」

「ああ。何でも昔を思い出したらしい」

 

昔を思い出した? それって噂の首席時代って事?

 

「理想と現実の違いに絶望したキノコはもういない。今のあいつは理想を求め足掻き続けるキノコだ」

 

・・・真面目な口調でキノコ呼ばわり・・・キノコ提督の事、舐めてませんか? アキトさん。

・・・他人のこと言えないけど。

 

「何かきっかけが?」

「ふっ。前回はガイがいなかっただろ?」

「ええ。ガイを殺したのがキノコさんでしたから」

「ああ。そうだったな。だが、そのガイがキノコの考えを変えたんだ」

「ガイが?」

「前回同様、錯乱したキノコはエックスエステバリスに乗り込んで、コスモスに攻め込んだ」

「やはり錯乱したんですか」

「責任を押し付けられたからな。仕方あるまい」

 

ナデシコクルーに木連の事を知られてしまった。

その責任を取って、降格させられてしまう。

その恐怖がムネタケ提督を錯乱させたんだっけか?

そして、ウリバタケさんが秘密裏に開発していたエックスエステバリス(キノコ提督曰くエステバエックス)に乗り込み暴走。

本来であれば、キノコ提督はそこで死んでいた。

エックスエステバリスが抱えるエネルギーチャージの問題が発生し、大爆発を起こして。

 

「それに誰よりも早くガイが気付いてな。GBをチャージするムネタケを体当たりで吹き飛ばした」

「ガ、ガイ。危険な事を・・・」

「そうだな。だが、そのお陰で自爆されずに済んだんだ。そして、ガイがキノコを説得した」

「ガイが説得? どんな感じで、ですか?」

「理想に挫けるのは当たり前なんだよ。すんなり叶っちまったら何の面白味もねぇだろ。いいじゃねぇか、挫けたら立ち上がれよ。何度だって立ち上がれよ」

「・・・何だろう?」

 

アキトさんが言うと凄い違和感。

 

「その果てに叶うからこそ理想って言うんだろうが。数回の挫折で諦めてんじゃねぇ!」

 

でも、すごくガイらしいと思う。

言葉の節々にあいつの想いが込められている。

 

「錯乱していたのが逆に幸いしたんだろうな。ガイの言葉はきちんと奴に伝わった。いつもだったら、憤慨していたんだろうが、今回は冷静に受け入れられたようだったな」

「・・・そうですか。凄いですね。アキトさん」

「ん? 何がだ?」

「ガイを救う事が出来た。その結果、キノコ提督まで救う事が出来た。なんか改めて意味があったんだなって実感します」

「・・・そうだな。迷いながらも歩んできた道に間違いはなかった。そう思えるな」

 

そう言って笑い合う俺とアキトさん。

こうして救えた事に意味を持てるのなら、俺達のしてきた事に意味はある。

それが胸を暖かくさせた。

 

「コウキ君!」

「うぉ」

 

ダッと突然の背中への衝撃。

ん? この柔らかい感触は・・・。

 

「コウキ君!」

「ミナトさん!」

 

後ろを振り向けば、そこには最愛の人の姿があった。

 

「それじゃあな」

 

苦笑しながら去っていくアキトさん。

すいません。なんだか申し訳ないです。

 

「お久しぶりです。ミナトさん」

「久しぶりね。コウキ君」

 

ナデシコを離れてからかなりの月日が経つ。

久しぶりに会うミナトさんはやっぱり素敵だった。

 

「ほら。セレセレ」

「ん?」

「・・・お久しぶりです。コウキさん」

 

いそいそと現れたのはセレス嬢。

おぉ。なんだかちょっと背が伸びた気がする。

 

「久しぶりだね、セレスちゃん」

「・・・はい」

「元気だった?」

「・・・寂しかったです」

「え?」

「・・・コウキさんがいなくて寂しかったです」

 

・・・そっか。寂しい思いをさせちゃっていたのか。

 

「ごめんね。寂しい思いさせて」

「・・・いえ。仕方ありませんから」

「そっか。でも、もうこれからはずっと一緒だから」

「・・・はい」

 

久しぶりのセレス嬢の笑顔。

花が咲くような可憐な笑みで、本当に癒される。

 

「滞在期間はどれくらいでしたっけ?」

「えっと、あと数時間で補給を完了させるって言っていたわね」

「・・・そうですか。あの、ミナトさん、御願いしてもいいですか?」

「何かしら?」

「あの、ですね・・・」

 

ミナトさんに御願いしよう、あいつの事を。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「あの、ですね・・・」

 

御願いって何かしら?

 

「俺がナデシコに戻るという事は聞いていますよね」

「ええ。だから、戻ってきたんじゃない」

 

何を今更って話よね。

 

「でも、そうなると、カエデはここに残していかなくちゃいけないんですよ」

「・・・そうだったわね」

 

ナデシコが火星人の受け入れを禁止されている以上、カエデちゃんはナデシコには戻れない。

 

「説得を試みたんですが、怒らせちゃって・・・」

 

・・・はぁ。コウキ君。そういう事を私に頼むのはどうかと思うわよ。

信頼されているって思えば嬉しいけどさ。それって恋人に頼むような事じゃないわ。

 

「分かったわ。私が少し話してみる」

「すいません。御願いします」

 

コウキ君は本当にカエデちゃんを大切に思っている。

もちろん、きっとそれは友達としてなんだろうけど。

ちょっと妬けちゃうかな。私をもっと見てって思うのはおかしいのかしら?

 

「それじゃあ、案内し―――」

「おぉい! マエヤマ! ちょっとこっち来い!」

 

えっと、ウリバタケさん?

あんな遠い所から拡声器まで使って。

 

「なんですかぁ!?」

「補給やら何やらでお前の意見を聞いておきたいんだよ! いいから。早く来い!」

「えぇっと、すいません。ミナトさん」

 

・・・はぁ。コウキ君の馬鹿。

 

「あ。ちょっといいかな」

「はい。何でしょう? 大尉」

 

近くにいる誰とも知らない女性に声をかけるコウキ君。

えっと、多分、軍人の人・・・よね?

 

「申し訳ないんだけど、食堂まで案内してもらってもいいかな?」

「この方をですか? 構いませんよ」

「ごめんね」

「いえ」

「ミナトさん。すいません」

「分かったから、行ってらっしゃい」

 

コウキ君は頭を下げた後、パーッと行っちゃった。

ちゃっかり、セレセレの手を繋いでいるのがなんとなくコウキ君らしいって思う。

 

「それでは、こちらに」

「あ。はい。御願いします」

 

女性兵士に導かれた食堂へ向かう。

今回もコックをやっているのね、カエデちゃんは。

 

「あの、食堂へは何故?」

「カエデって子、分かります?」

「あぁ。コックさんですね。分かりますよ」

「あの子にちょっと用があるんです」

「そうですか」

 

カエデちゃんになんて話せばいいのかしら。

きちんとした状況を把握している訳じゃないから・・・。

逆に話を聞く事から始めてみようかしらね。

 

 

 

 

それからしばらく歩いて、多分、食堂に着いた。

 

「帰りもご案内致しましょうか?」

「いえ。大丈夫です。道は覚えていますから」

「そうですか。分かりました。それでは、失礼します」

 

ありがとうございますと一礼。

さてっと、カエデちゃんは・・・。

 

「あ。いたいた」

 

食堂の椅子に座って、深刻そうな顔をしている。

近寄って、話しかけようかなと思ったんだけど・・・。

 

「カエデ」

 

カエデちゃんの前に誰かが座って話しかけた。

 

「何だろう?」

 

会話が聞こえる位置まで行って、静かに椅子に座る。

 

「いいんですか? 見送りに行かなくて」

「あんな奴、知らない」

 

きっとコウキ君の事ね。

 

「そんな事を言っては駄目ですよ。コウキさんはカエデの為にあんなに頑張ってくれたのに」

「でも、私一人をここに残していくのよ。あいつは私を助けてくれるって言っていたのに」

「しかし、コウキさんはナデシコでやる事があると言っていました。こうなる可能性があるという話もしていたそうじゃないですか」

「そんな事は分かっているわ。でも、私はまた一人ぼっちじゃない」

 

・・・そっか。カエデちゃんにとってコウキ君は火星壊滅後で初めての友達。

コウキ君がいないという事が一人ぼっちに繋がっちゃうのか。

でも、それは違うわよ、カエデちゃん。もっと周りを見なさい。

 

「カエデ。貴方は一人じゃない。この基地には私だっている」

「ケイゴ。貴方、何を言っているのよ?」

「もちろん、私だけじゃありません。キッチンで一緒に働いている方々だって貴方にはいるでしょ?」

「・・・あ」

「笑顔でコウキさんを見送ってあげましょう。それが今、カエデが一番しなければならない事だと思いますよ」

 

・・・どうやら私の役目なんてなかったみたい。

まだ納得してないみたいだけど、彼ならカエデちゃんを説得してくれるわね。

ふふっ。私はもう用なし。ナデシコに帰りましょう。

コウキ君。カエデちゃんを支えてくれる人が現れたかもしれないわよ。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ご苦労様だったな。マエヤマ君」

「いえ。ありがとうございました。提督」

 

ナデシコへの補給も終えて、遂にナデシコ発進の時が来た。

この時より、俺は特務大尉の肩書きを捨て、ただの一クルーとしてナデシコに乗り込む事になる。

 

「敬礼!」

 

ビシッ!

 

ケイゴさんの声を合図に見送りに来てくれていた訓練生やパイロット達が敬礼をしてくれる。

皆、俺の教え子か、パイロットとして訓練に混じった友人達。

彼らと別れるのは寂しいけど、俺の居場所はナデシコだから。

 

ビシッ!

 

敬礼を返す。感謝の気持ちと楽しかったという気持ちを込めて。

 

『ほぇ~。カッコイイ』

『なんだか別人みたいね。コウキ君』

『・・・コウキさん。カッコイイです』

 

えぇっと、一応、感動の別れなので、その覗き見とかはしないで欲しいんですが・・・。

というか、聞こえていますから、はい。

 

「それでは、失礼します!」

 

基地のデッキからナデシコへ向かう。

感慨深いな。ここには結構お世話になったし。

でも、ちょっと、心残りがある。

あれから、結局、カエデと話す事が出来なかった。

やっぱり、まだ―――。

 

「コウキ!」

「ッ!?」

 

その声にバッと振り向く。

そこには疎遠気味だったカエデが一生懸命こちらに手を振っていた。

 

「貴方なんかいなくたって私は全然大丈夫だから!」

「カエデ!」

「貴方は私の心配なんてしないで自分の仕事をしっかりと果たしなさい!」

「ああ! 分かっている! お前もな!」

「私だって分かっているわよ!」

「俺がいないからって寂しがるなよ!」

「そっちこそ私がいないからって寂しがらないでよ!」

「それはない!」

「はぁ!? 少しは寂しがりなさいよ!」

 

・・・安心した。

いつものカエデだ。

 

「ナデシコで待っているぞ! カエデ!」

「ええ! ナデシコで待っていなさい! コウキ!」

 

・・・ありがとう、ミナトさん。

そう感謝の念を抱きながら、俺はカエデに手を振り返した。

 

「じゃあな!」

「ええ! また会いましょう!」

 

そう言って笑うカエデ。その笑みが今までに見た事ない程に魅力的で不覚にもドキっとしてしまった。

その事を誤魔化したくて、俺はまたバッと背を向けてナデシコへと歩き出す。

・・・頑張れよ、カエデ。俺も頑張るからな。

こうして、俺は無事ナデシコに帰艦した。

連合軍の士官としてではなく、ナデシコにいる普通のクルーとして。

 

 

 

 

 


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