機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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ここにいる意味

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「今頃、どうしているのかなぁ?」

 

コウキ君が去って、ナデシコが月に向かってから色々あった。

月の都市が襲われて、月面フレームっていうのにヤマダ君が乗って大騒ぎ。

 

『争いたい訳じゃねぇ。だがよぉ! 拳でしか分かり合えない事もあるんだよ!』

「ガイさん! 人間同士で争う必要なんてないんです!」

『そんなこたぁ分かっている! だけど、だけどな、ここで退いたら町はどうなるんだ!?』

「・・・ガイさん」

『分かってくれ、メグミ。俺だって戦いたくて戦っているわけじゃねぇ。木連の事を聞いた時だって俺は木連にゲキ・ガンガーを感じ、地球にキョアック星人を感じた』

「・・・でも・・・でも・・・」

『でも! だからといって、何の罪もない人達が犠牲になるのを俺は黙って見てられねぇんだ!』

「・・・・・・・」

 

といった感じ。

向こうのジンという機体に対し、ヤマダ君は月面都市を守る為に戦い抜いた。

メグミちゃんにも何か思う事があったんだと思う。

それから数日間は二人が顔を合わせる事がなかったんだもの。

ま、その後は思わず殺気を出してしまう程のバカップルに戻っていたけんだけど・・・。

殺気なんか出ないけどね。やっぱり私としては見ていると寂しくなっちゃんだよなぁ。

はぁ・・・。早く戻ってこないかな、コウキ君。

 

「ミナトさんはどうしてあの人を逃がしたんですか?」

「あの人って?」

「シラトリさんです」

 

ルリルリにそう訊かれる。

どうしてって言われてもねぇ。

 

「おかしいかな?」

「いえ。その理由を教えて欲しいんです。前回もミナトさんはシラトリさんを逃がしましたから」

「あら? 私ってそんな事をしたの?」

 

へぇ。流石は私。

 

「え? 知っていてやったんじゃなかったんですか?」

「違うわよ。確かに私はコウキ君から色々と聞かされているけど、自分の事は何一つ聞いてないの」

「・・・そうだったんですか。どうしてか聞いてもよろしいですか?」

「ええ。いいわよ。といっても理由は簡単。自分の運命が決まっているだなんて信じたくなかったから」

「運命・・・ですか?」

「そうよ。私が未来でしてきた事を知り、その上で行動なんてしても面白くないでしょ?」

「お、面白くないですか?」

「ふふっ。だって、それって結局は経験もしてない運命に縛られているって事じゃない? 私の事は私が決める。未来の私に左右されたくないの」

 

私が誰かを好きになった。だから、私もこうする。

ううん。今の私が好きなのはコウキ君。私自身が決めて、私自身が選んだ。

この選択に未来の私は何の関与もしていない。

だから、胸を張って言えるの。コウキ君が好きだって。

 

「人生何があるか分からないから素敵なんじゃない。未来を知るっていうのは私にとって楽しみを奪われるみたいなものよ」

 

どっちが正しい? どっちが最善?

そんなの元から決まってないのよ。

数ある選択肢から何を選んでも、後戻りなんて出来ないんだもの。

だから、いいんじゃない。選んだ道を堂々と進める。

もしああだったらなんてIFの事を語っても虚しいだけよ。

ま、私も人間だから、後悔はするけどね。何度だって。

 

「ルリルリは未来を知りたい?」

「それはこの世界でのという事ですか?」

「もちろんよ。この世界が今のルリルリの世界。既にルリルリを縛る運命の鎖はないんだから」

 

パチッとウインクなんかしてみる。

 

「私は未来を知るのが怖いです。私達が改変した未来がどうなっているのか。もし変わってなかったらと思うと・・・」

 

そう言って震えるルリルリ。

そうよね。怖くない筈がないわよね。

 

「怖がったっていいのよ。ルリルリ」

「え?」

「怖いから強くなろうとする。怖いから変えようと頑張れる」

「・・・ミナトさん」

「怖くて当たり前じゃない。だから、怖がっていいの。その為に私達がいるんだから」

 

皆で変えようって約束したんだもの。

怖いから団結する。それでいいじゃない。

 

「はい。そうですね」

 

そう言って笑うルリルリが歳相応の可愛らしい笑みで・・・。

 

「ルリルリ~」

「ミ、ミナトさん」

 

抱き締めてしまったのは仕方のない事だと思うのよ。

 

「ところでYユニットってどうなっているの?」

「調整中ですね。接続はほぼ完了しています」

 

ちなみに、現在月面都市でYユニットの調整中。

シャクヤクっていう同型艦だから、接続できる筈っていう艦長の提案だけど・・・。

 

「ちょっと無理があったんでしょ?」

「ええ。一応、こちらで調整してみたので、大丈夫だとは思いますが」

 

Yユニットに木連の何とかっていう敵が侵入して大変な事になったらしい。

聞いた話だから、詳しくは分からないけど。

調整したって事はもう大丈夫なのかしら?

 

「この後は?」

「コスモスに合流して最終調整ですね」

 

ふ~ん。コスモスに合流か。

私としては早く地球に戻りたいんだけどなぁ。

・・・駄目みたい。う~ん。寂しいなぁ・・・。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「教官。どうかしましたか?」

 

さっそく柔術と剣術を習っているのですが・・・。

 

「・・・いや。ボロボロだなと」

 

・・・ええ。全くもって歯が立ちません、はい。

 

「流石にすぐには負けられません。ですが、筋は良いかと。何より身体能力は私以上です」

 

そりゃあ、ナノマシンで強化されていますからね。

 

「私自身、身体が衰えぬよう鍛えているつもりですが、更に上がいるとは・・・」

 

あ。予備知識。ケイゴさんって軍内での体力テストいつも基地内トップらしい。

涼しい顔して厳しい訓練を軽くこなすクールなイケメン。

うん。軍の女性がキャーキャー言うのも頷ける。

 

「それなりに鍛えていますから。いずれはケイゴさんと互角に戦えるようになりたいですね」

「私もそうなっていただけると嬉しいです。そうなるよう鍛えさせて頂くつもりですが」

「変な事を訊きますが、ケイゴさんは周りと比べてどれくらい強いんですか?」

「私は同じ流派の者達の中では五指に入ると自負しています。門下生時代は友人と切磋琢磨したものですよ」

 

うわ。五指に入るだって。

どれくらいの人数がこの流派を習っているかしらないけど、凄すぎじゃない?

なんか物凄く遠くなった気がする。

 

「時間がある限り、お教えしましょう」

 

・・・助かります。

 

「次は射撃訓練でしたよね。御願いします」

「はい。いきましょう」

 

ハッハッハ。射撃訓練では俺の方が上だ。

それ故に、偉そうに出来る。ハッハッハ。

はぁ・・・。ガキだな、俺。

 

 

 

 

 

「うわ。なんて裏金。税金なのに・・・」

 

現在、趣味のハッキング中。

軍内部の裏について調べています。

あ。趣味なので、調べるだけです。

もしかしたら、間違って誰かにデータを送ってしまうかもしれませんが。

 

「カイゼル派にとってどの派閥が邪魔なのかな?」

 

ま、とりあえず調べて全部提督にデータを提出しておけば問題ないか。

・・・おっと。間違って送っちゃっても仕方ないかな、だった。

 

「とりあえず―――」

『マエヤマ君。ちょっといいかね』

 

ん? またもや提督から連絡。

今度は何だ?

 

「何でしょう?」

『紹介したい者がいるんだが、いいかね?』

「分かりました。向かいます」

『頼むよ』

 

うし。とりあえず調べてデータを軽く纏めて、ついでに提出しちゃおう。

パーッと簡単に纏めて・・・。

 

「失礼致します」

 

執務室に到着。

あれ? あのキノコヘッドは・・・。

 

「紹介しよう。ムネタケ・ヨシサダ参謀だ」

「よろしく。マエヤマ君」

 

・・・やっぱり。劇場版にチロッと登場したキノコ父。

ここにキノコ提督がいる訳ないしね。

そういえば、ミスマル提督の親友っぽい扱いだったな。

 

「こちらこそよろしく御願いします」

 

刻まれた皺は英知の証。外見瓜二つだけどオーラが違う。

なるほど。キノコ提督が尊敬していると言っていたけど、なんか納得できた。

 

「私の息子が迷惑をかけているようだね」

「え、えぇっと・・・」

 

激しく肯定したいけど、出来る訳ないでしょ。

なんて厳しい質問。もしかして、揺さぶられています?

 

「いや。分かっているんだ。最近の息子の状態ぐらいは」

「あの、提督に何かあったんですか?」

 

言い方は悪いけど、どこか歪んでいるというか、捻れているというか。

 

「昔は優秀だったんだよ」

 

苦笑しながらそう告げるムネタケ参謀。

唖然としちゃったのもおかしくないと思うんだ。

 

「息子の自慢をするようで悪いけど、あいつは士官学校も首席で卒業しているんだ」

「しゅ、首席ですか?」

 

そ、それって滅茶苦茶有望で優秀じゃないか。

あのキノコ提督が? 嘘でしょ?

 

「よく父である私にも理想を語っていたよ。俺が軍を引っ張っていく。汚職なんかせずに軍人としての模範となる、とね」

「・・・・・・」

「頼もしく思ったものだ。あいつなら私を超えて、軍を良い方向に引っ張ってくれる軍人になれると。私はそう思っていた」

 

キノコ提督はそんなに真っ直ぐな理想を掲げていた。

それなのに、今は出世の為なら手段を選ばない軍人としてあまり褒められない人間になっている。

それだけ提督の考えを変えてしまう何かがあったって事か?

 

「でも、あいつは過酷な現実の前に挫折してしまったんだよ。それは我々にも責任があるんだけどね」

「過酷な現実とは?」

「軍があいつの望む、あいつが思い浮かべていた軍ではなかったという事さ」

 

そういえば、原作でも何か言っていた気がする。

あまりにも酷い軍に絶望したって。

 

「変わってしまった。誰もがそう思うがね。私はまだ信じているのだよ」

「提督を・・・ですか?」

「そう。私に理想を語ったサダアキはまだ完全には屈していない。きっかけさえあれば昔のサダアキに戻る筈だ、とね」

 

・・・なんか父親って良いなと思った。

あれだけ変わってしまえば、もう放っておく親だっていると思う。

でも、この父親は見限らず息子を信じている。

彼ら親子の絆は深いんだろうな。

父を尊敬し、あまりにも気高い理想だったが為に、崩れたギャップでああなってしまった息子。

それでも、息子を信じ、待ち続ける父親。

やっぱり親子って凄い。

 

「おっと、話が逸れてしまったね」

「いえ」

 

良い話を聞かせて頂きました。

 

「マエヤマ君。ムネタケ君は我々の頭脳だ。何かあったら彼に相談してくれ」

「了解しました。何かありましたら参謀に報告します」

 

要するにハッキングデータはムネタケ参謀に提出しろって事ね。

その後で、参謀が纏めて、どう効果的に用いるか決めるからって。

うん。俺なんかより参謀にお任せした方がずっと良いよね、確かに。

とりあえず俺はハッキングしまくって参謀に提出しまくればいい訳だ。

うん、分かりやすくて良い。

 

「うむ。用件は以上だ」

「ハッ。さっそくですが、ご相談に乗って頂けますか?」

「それじゃあ私の執務室に行こうか」

「了解しました」

 

提督の部屋に出入りしまくっていると怪しまれるというのもあるんだろうなぁ。

でも、参謀の部屋に出入りしまくるっていうのも同じくらい怪しまれる気がする。

そもそも怪しまれるっていうのも後ろめたさから来る被害妄想かもしれんが・・・。

う~ん。どうなんだろう?

 

「こちらになります」

 

執務室に着いたら、さっそく提出。

俺としてはいつまでもこんな危険な資料を持っていたくない。

 

「ほぉ。これだけのデータを」

 

紙媒体の資料をパラパラ捲る参謀。

情報漏洩が怖いので、紙媒体です。

これならきちんと保管すれば誰にも見られないしね。

そこの所、頼みますよ、参謀。

 

「すまんね。こんな危険な事をさせてしまって」

「いえ。趣味の一環でやっている事ですから」

「そういう設定だったね」

 

設定って、おいおい。

 

「万が一には私も君を護る為に動く」

「あ、ありがとうございます」

「聞いたよ。君は普通の生活がしたいって」

「はい。今は軍に協力しているという状況ですが、戦争が終わり次第普通の生活をしたいと思っています」

「なるほど。それなら・・・」

 

それなら?

 

「すぐにでも協力を辞めた方がいい」

「・・・え?」

 

それって・・・。

 

「君の優秀さは証明された。このまま軍に居続けてしまうと容易に軍から抜けられなくなる」

「し、しかし・・・」

「しっかりと考えた方が良い。絶対とは言わんが、このまま軍に協力し続けたら、普通の生活に戻れなくなる可能性もあるのだから」

「・・・・・」

 

・・・俺は平穏な生活をしたい為にここにいる。

ここで俺に出来る事をしなければ、きちんとした形で戦争を終えられないと思っているから。

でも、その代わりに平穏を捨ててしまう事になったら・・・。

そんなの意味がないじゃないか。何の為に俺はここにいるんだよ・・・。

 

「私は戦争が終了次第、君を解放したいと考えている」

「・・・・・・」

「だが、私やコウイチロウの権限でそれが可能かは分からない」

「それは、他の方が俺を欲すると?」

「その可能性があるという事だ。それに、軍を辞めた所で君が軍で残した功績が消える訳ではない。いずれ、また軍から徴兵されてしまうかも知れん」

「・・・・・・」

 

それじゃあ何の意味もない。

俺はただ普通の生活をしたいだけなのだから。

 

「ここで君に抜けられたら困る事は事実だ。でもね、私達は一般人に軍人としての役割を求めようとは思わない。軍人になるつもりなんてなかったんだろう?」

「ええ。まぁ・・・」

「それならば、君は我々が護るべき市民だ。護るべき市民に軍人として犠牲になれとは言えないし、言わないよ」

「・・・考えてみます」

「そうして欲しい。後悔だけはしないように」

「・・・はい」

 

参謀の執務室から出る。

 

「はぁ・・・」

 

少し軽く考えていたのかもしれない。

そうだよな。すんなり軍を辞められるかなんて分からないもんな。

・・・ふぅ。どうすればいいんだろう? 俺。

 

 

 

 

 

「何、ボーっとしてんのよ」

「ん?」

 

食堂。・・・あ。晩飯食いに来ていたんだっけ。

 

「大丈夫? なんか顔色悪いわよ?」

「いや。大丈夫」

 

色々と考えていたら頭がこんがらがっちゃっただけだし。

 

「お前が心配してくれるなんてな」

「当たり前じゃない。心配ぐらいするわよ」

「そっか」

 

意外と優しい所あるじゃん。

 

「どうかしましたか?」

「あ。ケイゴさん」

 

ケイゴさんも合流。

 

「夕飯ですか?」

「ええ。毎日美味しくて。食事が楽しみで仕方ありませんよ」

「だってさ、カエデ」

「ふ、ふんっ。当たり前じゃない。私が作ってんのよ」

 

おばちゃんもだけどな。お前だけではなく。

 

「それで、何かあったのですが? 深刻そうでしたが」

「こいつが暗かったから声をかけてみただけよ」

「そうでしたか。どうかしたのですか?」

 

相談してみようかなぁ。でも、もうちょっと自分で考えたい。

 

「いや。なんでもないよ。大丈夫」

「そう。何かあったら言いなさいよ。少しぐらいなら力になれると思うから」

「私でも構いません。教官にはお世話になっていますから」

「あ、ありがとう」

 

な、なんか優しくない? 二人とも。何かあった?

 

「カエデ。いつものを御願いします」

「自分で頼みなさいよね、まったく」

 

と言って俺の正面に座るケイゴとキッチンに向かうカエデ。

あれ? なんかいつの間にか仲が良い?

 

「いつの間に呼び捨てになったんですか?」

「毎日のように食堂にお世話になれば話す機会ぐらいありますよ。同じ副官同士ですし」

 

あ。そういえば、カエデも俺の副官扱いなんだよな、一応。

すっかり忘れていた。

 

「大丈夫ですよ。教官の恋人を取るような事はしません」

「だから、恋人じゃないですって」

 

いつまで勘違いしているんだか・・・。

 

「彼女は素敵な女性ですね。少し勝気な所がありますが、心優しい前向きな女性です」

「えぇっと、惚れました?」

 

なんか大絶賛なんですけど・・・。

 

「ですから、恋人は取りませんよ」

「違うんですってば」

 

まずは勘違いを解かなければ。

 

「どこか惹かれる所があるんです、彼女には」

 

へぇ。あれかな?

お互いに被害者だから、共感できる所があるみたいな。

いや。こんな暗い理由じゃないさ。

もっと、こう、なんというか、明るい理由だよ、きっと。

 

「今度は何を考えてんのよ?」

「うお! 何だ。カエデか」

「何だとは失礼ね。はい、ケイゴ」

「ありがとうございます、カエデ」

 

配膳お疲れ様。いや。何かこの二人って並ぶと絵になるね。

黙っていれば可愛いカエデとクール系イケメンのケイゴさん。

容姿的にはバッチリ過ぎる。モデルみたいな二人だもんなぁ・・・。

羨まし・・・って、なに、俺、劣等感なんか覚えてるんだ。

俺は俺。そして、俺の彼女はモデルみたいなミナトさん。

全然、問題ないじゃないか。

 

「いやいや。なんでもないよ」

 

うん。なんでもない。なんでもない。

 

「ま、ゆっくり食べてなさい」

「頑張れよぉ」

「頑張ってください」

 

去っていくカエデにエールを送ってみた。

意外とケイゴさんもノリがいい。

 

「教官。明日は・・・」

 

それからは所謂軍のお仕事についてのお話。

真面目だねぇ。ケイゴさんは。

はぁ・・・。なんか考えが纏まらない。

部屋でゆっくり考えるとしよう。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「おし。今日もセレセレの所に行こう」

 

コウキ君がいなくなってからずっとセレセレは元気がない。

コウキ君を慕っていたセレセレの事だ。きっと寂しがっているんだろうなぁ。

という訳で決行したお泊り会。それが今では日常となっていた。

 

「セレセレ。来たよ」

「・・・ミナトさん。いらっしゃい」

 

ベッドの上、テディベアを抱き締めながら出迎えてくれるセレセレ。

部屋にいる間はずっとテディベアを抱き締めているらしい。

多分、コウキ君のいない寂しさをテディベアに抱き付く事で紛らわしているんだと思う。

ま、可愛らしい事この上ない光景なんだけれども。

 

「今日はどんなお話しよっか」

 

ベッドの近くにある椅子に座ってセレセレに話しかける。

最近はいつもそんな感じ。

二人で色々な事を話して。

二人でお風呂に入って。

二人で一緒に眠る。これにはもちろんテディベアが付くけどね。

なんだか、話に聞いた親子みたいで、ちょっとくすぐったい。

 

「おやすみ。セレセレ」

「・・・おやすみなさい。ミナトさん」

 

テディベアに抱き付いて眠るセレセレを後ろから更に抱き締めて眠る。

だって、ほら、テディベアに負けたみたいで嫌じゃない。

ふふっ。冗談よ。ただそうしたいからそうしているだけ。

静かな寝息をたてて、可愛らしく眠るセレセレ。

テディベアに抱き付いて、安らかな寝顔を浮かべるセレセレはどんな夢を見ているんだろう?

ちょっと頬を緩める。うん。やっぱり気になるなぁ。

 

「ふふっ。可愛い」

 

柔らかいほっぺたを指先でつつく。

私にとっても安らぎの時間。

 

「もっと可愛らしいその笑みを見せて欲しいんだけどなぁ」

 

コウキ君がいなくなってから笑顔になる事が少なくなったような気がする。

私の勘違いかもしれないけど。

でも、こうして、眠っている時はいつも幸せそうな笑みを浮かべている。

出来れば、いつでもこんな笑顔を見ていたいんだけどなぁ。

早く戻ってきなさいよ、コウキ君。

セレセレがこんなにも寂しい思いをして待っているんだから。

それに、貴方だってセレセレの笑顔が見たいでしょ?

皆、貴方の帰りを待っているんだからね。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ご苦労様だったね、マエヤマ君。これだけの情報があれば、状況を覆せるよ」

「そうですか。それは何よりです」

 

趣味の一環で集めたデータを提供。

俺に出来るだけの事をした、うん。

これ以上は無理。絶対に無理です。

 

「それで、答えは得たのかな?」

「ええ。決めました」

 

派閥の一員としてカイゼル派を盛り立てていくか。

あくまでナデシコの一員として、ナデシコを護る為に戦うか。

 

「俺はナデシコに護りたい人がいます。俺のやるべき事はナデシコを護るというもの。ただそれだけです」

「・・・そう。分かった」

 

そう言って参謀は席を立つ。

 

「付いて来てくれるかな」

「ハッ!」

 

ムネタケ参謀の執務室を退室し、廊下を歩く。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

俺も参謀も無言だ。

きっと向かう先はミスマル提督の執務室。

俺には提督に言わなければならない事がある。

 

コンッコンッ。

 

「私だ」

「ヨシサダか。いいぞ」

「失礼するよ」

「失礼します」

 

参謀の後に続く。

 

「ん? マエヤマ君もかね」

「コウイチロウ。提案があるんだが」

「何だね? ・・・まぁ、何となく予想は付くが。とりあえず座ってくれ」

 

執務室にある来客用のソファ。

そこに腰掛け、正面の提督を見詰める。

 

「さて、用件を聞こうか」

 

聡明な提督の事だ。

聞くまでもなく理解している。

でも、言葉にしなければいけないと思う。

 

「提督。私はナデシコの一員です」

「うむ」

「今まで、私はテンカワさんと提督の目的に賛同し、協力してきました」

「・・・・・・」

「ですが、私はあくまでナデシコの一員です。現在、ナデシコは徴兵という形で軍隊入りしていますが、私の中でナデシコと軍は別物であると割り切っています」

「それは、現在の地位を捨てても構わないという事かね?」

「はい。むしろ、私には不要の階級であり、不要の名誉です。技術士官という立場も特務大尉という立場もお返し致します」

「・・・そうか」

 

俺がここにいるのはアキトさんが未来を変えたいと言ったから。

そして、その為に軍内部で権力が必要だったから。

その為に俺は軍に協力したまでだ。

俺とてあんな未来を変えたいとは思っている。

だが、既に未来は変わりつつあり、もはや俺個人の力だけでどうなる事ではない。

CASを開発し、教官としてパイロットを育て、武装の調整をした。

先程提出したハッキングデータは俺にとって最後の義理立てだ。

あれは勢力を逆転させるだけの証拠と成り得る。

最後だからこそ、このデータに関しては全力を尽くした。

俺がカイゼル派に出来る最高の贈り物だったと自負している。

これだけの事を俺はしてきたんだ。

既に俺に与えられた役目は充分に果たしていると思う。

それならば、俺は本来の役目に戻りたい。ナデシコを護るという本来の役目に。

 

「そうか・・・」

「・・・・・・」

「分かった。君の意思を尊重しよう」

「ハッ。ありがとうございます」

「ハハハ。普通の軍人であれば降格されれば落ち込むというのに逆の反応。君にはやはり軍人は似合わないよ」

「最高の褒め言葉です、参謀」

「そうかね」

 

執務室に笑い声が木霊する。

提督も参謀も、そして、俺も笑っていた。

本当に上司らしくない気の良い人達だと思う。

軍人に似合わない? それは要するに一般人だと言われているようなもの。

俺はあくまで一般人だ。

そう言われるのはむしろ嬉しい。

 

「そうなると一つだけ問題がある」

「・・・キリシマの事ですね」

「ああ。現在のナデシコは私の管轄外。キリシマ君を、火星人をナデシコに戻す事は出来ない」

 

カエデはナデシコにいられない。だから、こちらで保護してもらった。

ナデシコの立場も状況も変わっていない以上、カエデをナデシコに搭乗させる事は出来ない。

 

「では、管轄外でなくせば良いのです」

「それはナデシコの利権を私側が得ればいいという事かな?」

「ええ。その通りです」

「しかし、キリシマ君の為にそこまでの事は―――」

「いえ。キリシマだけの為に言っているのではありません。他にも理由はあります」

「他の理由かね?」

「はい。テンカワさんが乗っているという点もありますが、何よりナデシコはこれから重要な役目を担ってくれるからです」

「重要な役目? それは何故かね?」

「戦力的な点もありますが、彼らが一度木連に接触しているという点が一番大きい」

「・・・なるほど。ナデシコがもしかしたら橋渡しの役目を担ってくれるかもしれないという訳だね」

「はい。ナデシコのクルーの事です。木連側と接触し、木連の生い立ちを聞けば、必ず和平を申し出るでしょう」

 

原作ではそうだった。そして、今回も必ずそうなると確信している。

俺が画面越しではなく実際に知り合ったナデシコクルーだ。

彼らがどうするかなんて原作を見ていた時以上に理解している。

 

「彼らが和平を申し出た時、管轄内にあれば、後押しも出来るし、行動を規制する事も出来ると思うんです」

「後押しは分かるが、規制とは?」

「たとえば、和平交渉を勝手にやられたり、和平交渉に必要な物品を勝手に向こう側に渡したり。そのような事を防ぐ為です」

「・・・ふむ。しないとは思うが、確かにその危険性もなくはないな」

 

・・・いえ。娘さんは前者をしましたし、後者も似たような事をしました。もちろん、本意ではなく、不本意な結果ですが・・・。

 

「どちらにしろ、ナデシコはこれから大事な役目を担ってくれる頼もしい艦です。違う管轄で味方にするよりはきちんとした形で指揮下に置いた方がやりやすいかと」

「・・・そうだな。理解した。だが、その方法が―――」

「参謀。貴方なら、出来ますよね?」

「ハハハ。それを君が言うのかい?」

 

苦笑する参謀。

だってね、その為のデータだし。

 

「どういう意味だね?」

「彼が仕入れてくれた情報の中に極東方面軍司令官のスキャンダルが載っているのだよ」

「そ、それでは・・・」

「ああ。司令官を失脚させた上でコウイチロウを極東方面軍の最高責任者に出来る」

 

参謀ならそういう事だって実現してくれる筈。

それだけの能力が参謀にはある。伊達に参謀ではないのだ。

・・・なんか偉そうだな、俺。

 

「ナデシコが極東方面軍に配属されている以上、最高責任者になったミスマル提督になら配属を自由に出来る権限があります」

「そうか。だが、あくまでナデシコは独立部隊とする。そうでなければ力を発揮しないだろうからな」

「そうですね。それならば、提督の直属部隊としてしまえばよろしいかと」

「ふむ。そうしよう」

 

ナデシコは独立部隊でないと力を発揮しない。

それが真理であり、独立部隊としている事は意地悪でもなんでもないのだ。

ナデシコの性能。DFという盾にGBや相転移砲という矛。

それらを活かすには単独行動の方がナデシコにとって遥かに効率がいい。

 

「しかし、いきなりは不可能だぞ」

「承知しています。そのあたりはキリシマを説得しますから」

「うむ。了解した。ナデシコが地上に戻り次第、君の身柄はナデシコに戻そう」

「ハッ。ありがとうございます」

「なに。君は私達の期待以上の功績を残してくれた。感謝こそすれ感謝される筋合いはないよ」

「いえ。キリシマの件など、私にも感謝する理由があります」

「そうか。君の功績に昇進という褒美が出せない以上、君に頼まれたキリシマ君は必ず私達で護ろう」

「御願いします。提督」

「ふむ。次は司令と呼ばれる立場にいたいものだ」

 

貴方なら必ず司令として責務を全うしてくれると信じています。

 

「カグラ君には君の副官から外れてもらう事になるな」

「カグラはその後、どうなるのですか?」

 

ケイゴさんにはお世話になった。

異動になる前にきちんと話しておきたい。

 

「ちょうど良い機会だろう。彼には小隊を任せる」

「カグラ小隊ですか?」

「ああ。極東方面軍の要となってもらうと以前言ったな。それを実行するまでだ」

「カグラは要になれるだけの能力があります。それは私が保証しましょう」

「教官からのお墨付きをもらえれば安心だな。彼の下には同じ訓練生をあてがおう」

「私が教官として教えられる事は全て教えました。彼らなら期待に応えてくれる筈です」

 

ケイゴさんを筆頭に、皆、筋の良いパイロットだ。

俺の代わりにナデシコにいっても充分活躍できる。

それだけのパイロットに育て上げた自信がある。

 

「そうか。君には本当に世話になったな。今の我々が一つの派閥として活動できるのは君のお陰だ」

「いえ。そんな」

「謙遜なんぞしなくてもいい。CASがなければ我々は木連に対抗できなかった。君が教官として鍛えてくれなければパイロットは戦力にならなかった」

「そんな事はありません。彼らが成長したのは彼ら自身の力です」

 

教えたのは俺。でも、応えてくれたのは彼らだ。

俺はちゃんと知っている。彼らが仕事として与えられた時間外にも訓練に勤しんでいた事を。

俺が育て上げたんだという思いはある。だが、彼らの力は彼らの物で、俺は少し後押ししただけだ。

教育なんてやる気を促すだけだと俺は考えている。努力したのは彼ら自身だ。

 

「そうか。だが、それだけではない。こうして我々の派閥にとって何よりも必要としていたデータまで集めてくれた」

「君の情報がなければ私も何も出来なかったと思う。私からも感謝させて欲しい」

「派閥があるのも君の尽力のお陰かもしれんな」

 

・・・いや。それは言い過ぎだと思うんですけど。

 

「感謝しよう。マエヤマ君」

「感謝する。マエヤマ君」

 

えぇっと、将来の連合宇宙軍総司令官とその参謀に頭を下げられてしまいました。

どうしましょう? というより、恐れ多い。

 

「えっと、頭を上げてください。提督、参謀」

 

うん。とりあえず、心苦しいので。

 

「私に出来るだけの事はしました。同じ目的を持つ同士、私が協力しないのもおかしな話かと」

「しかし・・・」

「でも、それ程に私に恩を感じていただけるのなら・・・」

 

正面から二人を見詰め、ハッキリと告げる。

 

「なんとしても目的を果たしてください。私やテンカワさん、そして、提督達が掲げる嘘偽りのない最善の和平を」

 

それだけが軍に対する俺からの望みです。

報酬はいりません。だから、なんとしてもこれだけは果たしてください。

 

「了解した。ミスマル・コウイチロウの名に誓って、私は責務を全うしよう」

「ムネタケ・ヨシサダ。全力で責務を全うすると誓う」

 

それで、俺は満足です。提督、参謀。

 

「ありがとうございます。とても心強いです」

「ありがとう。マエヤマ君。君の協力は忘れないよ」

「機会あれば、君とは飲み交わしたいものだね」

「そうですね。生意気な若造ですが、提督や参謀と一人の男として飲んでみたいです」

「ほぉ。一人の男としてか。楽しい時間になりそうだ」

 

笑顔の二人。

きっと、彼らなら、俺達の理想を実現してくれる。

そう信じられる頼もしさを俺は彼らに感じた。

 

 

 

 

 


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