機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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自分にもできること

 

 

次はクルスク工業地帯のナナフシ。

敵の武器はマイクロブラックホールキャノンだ。

ナデシコを撃沈させるだけの威力を持つ強力な武器。

DFすら容易に突破した威力は注意するべきである。

あれを回避するのは不可能に近いしな。

ま、それは後で考えるとして、今回は色々と動いてみようと思う。

 

「ウリバタケさん」

「おう。マエヤマ。どうした?」

「DFがある敵専用の武器とか考えてくれませんか?」

「ふっふっふ。良くぞ聞いてくれた。一応だが、構想はあるぞ」

 

フィールドランサーだな、きっと。

 

「どんな奴です?」

「槍の先端にDFを中和する装置をつける訳だ。槍の先端って事は一点集中し、なおかつ、全重量をそこに込められる」

「なるほど。それなら、DFを容易に突破できる訳ですね」

「ああ。見た所、敵の戦艦の装甲は薄いからな。DFさえ突破できれば余裕だろう」

 

ジンシリーズの対策にもなる素晴らしい武器。

これはDF対DFでは必須のアイテムだ。

 

「ま、形状や性能的にチームを組んで対応する事になるだろうな。突破した瞬間を狙われると隙だらけだしな」

 

チームを組む・・・か。

単機じゃフィールドランサーを活かしきれないのかな?

一機で一つの戦艦を攻略できた方が効率もいいし、無駄なエネルギーを消費しなくて済む。

・・・要するにフィールドランサーで突破すると同時に攻撃できればいい訳だ。

右手にフィールドランサーを持って、左手にラピッドライフルを持って突撃するか?

でも、そうするとフィールドランサーを両手で持てないから威力が弱まっちまうな。

どうすれば、いいんだろう?

 

「名前はフィールドランサー。ふっふっふ。素晴らしい考案だろう」

「流石はウリバタケさんですね。DFを無効化できればこちらが断然有利です」

「だろ、だろ。あ。マエヤマには開発の途中で協力してもらうかもしれん」

「全然問題ないですよ。任せてください」

「流石は天才プログラマーだな。俺はいつもプログラミングで苦労するんだよ」

「いえいえ。プログラミングなんてパズルみたいなもんですよ。決まった形を組み合わせるだけ―――」

 

・・・組み合わせる?

 

「どうかしたのか? マエヤマ」

 

決められた二つの事柄を組み合わせる事で一つの事柄としてしまう。

別の物と別の物とを組み合わせて一つの物体としてしまう。

銃と槍とそれぞれの機能が欲しいのなら、一つでどちらの機能も賄ってしまえばいい。

 

「マエヤマ。どうかした―――」

「そうか! その手があったんだ!」

「うぉ!? な、何だ? いきなり」

「ウリバタケさん。もし、フィールドランサーでDFを突破したと同時に攻撃できたらどう思います?」

「そりゃあ理想だがな。そう簡単にはいかんだろうが。両手にそれぞれ武器を持っちまったら威力は半減だしな」

「違うんですよ。ウリバタケさん。一つの武器で二つの機能を満たしてしまえばいいんです?」

「あん? 近距離と遠距離を同時にこなすってか? 何だ? 蛇腹剣でも作れってのか? ありゃあ現実には無理だぞ」

「もっと簡単なのがあるじゃないですか! 技術の進歩で廃れてしまいましたが、日本の戦争時代では標準装備だった奴が」

「日本の戦争時代だと? お前、若いのによくそんな事を知ってんな」

「え? だって、戦争の事は色々と・・・」

「そんな昔の事は誰も知らないんじゃねぇのか? 地球連合が発足して戦争なんて起きなくなったしな」

 

そうか。地球連合の存在があったのか。

俺の時代は下手したら祖父ぐらいの世代が戦争を体験していた時代だもんな。

俺なんかは割と身近な事で話とかも聞けたけど、この世界じゃずっと遠い昔の話なんだ。

この時代じゃ二百年以上昔の事だし、興味ないのは当たり前か。

しかも、地球連合の存在が戦争を抑止していたから、戦争なんて一般人には縁の遠い話。

誰も戦争の事なんか考えないよな。道理で一般人が木星蜥蜴に対して気楽な訳だ。

今の軍なんて反乱やら何やらの抑止力でしかないし。軍活動なんてやってなかったんだろ。

ま、そのツケが木星蜥蜴襲来時に何にも出来ないっていう今の現状なんだろうけど。

 

 

「銃剣って知りません?」

「おぉ。あれだろ。銃の先端に刃をつける奴。すっげぇ昔の事、知ってんだな、お前」

「ま、まぁ、何で知っているかはいいじゃないですか。銃剣は近距離も遠距離も対応できる特別な仕様になっているんです」

「ほぉ。すると、お前はフィールドランサーにライフルとしての付加価値を付けようってんだな」

「ええ。命名、フィールドガンランス。どうです? いけそうですか?」

「・・・フィールドガンランス。おめぇ、やるじゃねぇか。その案はすげぇぞ」

「おし。どうです? 作ってみませんか?」

「おっしゃ。任せとけ。作ってやるよ」

「俺も協力しますよ。言いだしっぺですし」

「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、と言える日がやってくるな」

「ええ。技術職なら一度は言ってみたい台詞ですね」

「おぉ! 分かってんじゃねぇか! おめぇ、ナデシコ終わったら俺ん所、来るか? おめぇがいればプログラミングも任せられて助かるしな」

「ハハハ。考えておきますよ。いつ頃出来そうですか?」

「試験的に軽く作るだけならすぐにでも出来んぞ。本格採用はまだまだ先になりそうだが」

「そうですか。それじゃあ、何かあったら呼んでください。力になりますから」

「おう! いや、良いアイデアをもらうと気分がいいな。いつでもきやがれ!」

「はい。それでは・・・」

 

フィールドガンランス。

ナデシコの新しい力になりそうだ。

これは楽しみだな。

おし。次は・・・。

 

「コウキ」

「あ。何っすか? アキトさん」

「微妙に口調が変わっているな」

「うす。後輩風っす」

「ま、まぁ、いい。ちょっと相談があってな」

 

アキトさんが相談?

何だろ?

 

「俺がミスマル提督と接触したのは知っているよな?」

「ええ。皆で考えた計画ですからね」

 

フクベ提督とミスマル提督の両名をリーダーとした新しい派閥。

二人には木連の事、遺跡の事など、この戦争に関する事を説明してある。

ま、それとなく気付かせるようにで、完全な説明をしている訳ではないが。

あまりにも詳しすぎると逆に怪しまれる可能性が高いしね。

 

「フクベ提督とミスマル提督の協力を得られた。彼らを核に勢力は広まっていくと思う」

「軍内部での新しい派閥。さしずめカイゼル派といった所ですか?」

「い、いや、意味が分からんだろ。トップの特徴を伝えても掲げる意図が掴めん」

「冗談です。協力を得られた事は分かりましたが、何故、そこで俺が出てくるのかが分かりません」

「ああ。徐々に勢力は強まっている。だが、如何せん発言力が低い。影響力、求心力は高くとも軍内での身分はそれ程高くないのでな」

「確かにそうですね。フクベ提督は既に退役していますし、ミスマル提督も数ある提督の中の一人でしかないですから」

「そうだ。そこで、彼らの発言力を高めたいんだ。カイゼル派の発言力をな」

「カイゼル派でいいのかよ!? ・・・えっと、発言力を高める為にはどうすれば?」

「意外とカイゼル派でも良い気がしてきた。・・・そうだな。木星蜥蜴を倒したという事で評価を得たい」

「要するに、現状で成す術がない彼らに対する術を授けてくれと」

「ああ。そうなるな」

「何故に俺なのか、って感じです。俺には何も出来ませんよ」

「武器や機体を開発しろと言っている訳ではない。IFSがなくても戦えるようにしてくれないかという事だ」

 

IFS?

あぁ。未だに嫌がっているんだっけか、地球の軍人は。

まったく、地球人は危機感が足りないねぇ。

 

「あれですか? 未来で統合軍が標準配備していたステルンクーゲルのEasy Operation Systemみたいのですか?」

「そうだな。もちろん、コウキならより高度なものを用意してくれるんだろう?」

 

何? そのニヤッとした笑みは。

お前なら当然だよな的な黒い笑みだね。

急な技術進歩はまずいんだけどなぁ。

 

「ま、ご期待に沿えれば」

「ほぉ。楽しみにしてよう」

 

いえいえ。楽しみにしないでください。

 

「あ。それとも、トレースシステムがいいですか?」

「何だ? そのトレースシステムというのは」

「簡単に言えば、身体の至る所にセンサやらを付けて身体を動かした通りにエステバリスを動かすというものです」

「ほぉ。面白いな」

「ですが、中の人間が超人じゃなっきゃ無理ですね。たとえば生身の身体と腰布だけでエステバリスを破壊できるぐらいには」

「何だ? その空想上の人物は」

「いえ。まぁ、気にしないで下さい」

 

貴方も一応空想上の人物なんですけどね・・・。

 

「とりあえず、EOSのようなIFSを必要としないソフトを組んでおいて貰えるか?」

「組むのは構いませんが、どこ製の機体に搭載するつもりですか?」

「む。そこまで考えてなかったな」

「生産ラインを整えなければなりませんからね。いっそ技術士官でも派遣してもらいます?」

「軍自体が生産するという事か?」

「ええ。でも、それだけの資金があるかが問題ですけどね」

「・・・そうか。その辺りは提督と相談してみるから、とりあえずコウキはソフトを開発しておいてくれないか」

「分かりました。あれですよね? シューティングアクションゲームみたいな感じでいいんですよね?」

「ん? どういう事だ?」

「幾つもの動作をルーチン化して、コンボとかで動作を変えるようにしたり、決められた動作を瞬時に出せるようにしたりとか」

「ま、まぁ、その辺りは任せる」

「それでは、アキトさんの機動データを参考にしてパターンを幾つか作ろうと思いますが、構いませんか?」

「構わないが、俺は癖が強いぞ?」

「それじゃあ、誰がいいですかね?」

「そうだな。癖がないといえばアカツキかヒカルだな」

 

会長かヒカルのどっちか。

うん。ここはヒカルに頼もう。

会長にはあまり借りを作りたくない。

それじゃあ、ヒカルを基準にして・・・。

 

「分かりました。では、アキトさんの動きは上級者用にしておきましょう」

「じょ、上級者用?」

「扱いが難しいけど、慣れると強いみたいな、味がある設定です」

「そ、そうか・・・」

「幾つかパターンを製作してパイロット毎にパターンを選べるように出来たら楽しそうですね」

 

やばっ。なんか燃えてきた。

俺の知るシューティングアクションゲームを全て参考にしてやる。

ゲームの画面上に映像として行っている事を実機でやらせればいいって事だろ?

うん。なんかやる気が出てきた。

 

「ま、まぁ、任せる」

「分かりました」

「それではな」

 

仮想ソフトを多用して幾つもの動きを検証しよう。

まずはナデシコパイロットの機動データを参考にして、仮想キャラを作ってみるかな。

コンピューターが基本動作を行うステルンクーゲルよりむしろ決められたパターンの複合だから簡単だと思う。

ま、パターン読まれたら厳しくなるかもしれないけど、それは、あれだ、必殺コンボでも編み出して欲しい。

 

「ガンアクションシステム。略してGAS。ガスか? それとも、リアルアクションシステム。略してRAS。ラスか?」

 

・・・名称は後で考えよう。

とりあえず、何パターンも動作パターンを用意して、それぞれの動きをコマンド入力する形で。

おし。誤差補正のソフトを組み込めば、正にシューティングアクションのような事が出来そうだ。

色々と試してみよう。やる気が漲ってきたぁ! ・・・ん? あれ? ちょっと待とうか。

 

「・・・トレースシステムも面白いかも」

 

機体に乗ってリアルタイムで直接動かすのは無理だけど、自分の動きをパターンとして覚えさせて同じように動かす事は出来る。

スポーツゲームとかでプロ選手にセンサを付けて実際に動いてもらって、それをPCで解析して実現させるみたいな感じ。

これはある意味、イメージのIFSよりも自分の動きを忠実に再現しているからやりやすいかもしれないな。

要するに、基本動作だけ登録しておいて、後は自分の身体を使ってカスタマイズできるみたいな感じ。

うん。これはこれで面白い。EOSみたいだけど、それよりちょっと趣がある。

カスタマイズ出来なければ、パターンがあらかじめ登録されているGASかRASを使えばいいし。

GASかRASはサンプルとして提供して、独自でカスタマイズしてもらうというのも面白いか?

パイロット一人一人が独自で機体を成長させる事が出来る。

また、一人一人が独自にカスタマイズ出来るんだから、個性も出てくるだろ。

軍としては形が決まっていた方が分かりやすいかもしれないけど・・・。

俺は個性を尊重する。皆違って皆良いんだよ。うん。

 

「さしずめトレースアクションシステム。略してTAS。タスだな」

 

おし。方針としてはナデシコパイロットを参考にサンプルを作り、ヒカルの機動データを基本動作として登録。

後はトレースアクションシステムを開発して、ヒカルの機動データをカスタマイズできるよう設計。

サンプルは格闘重視、援護重視、機動重視あたりで手を打つか。アキトさんの機動は隠しキャラとして登録しておこう。

まるで格ゲーのような扱いだ。まぁ、リアルアクションシステムは格ゲーとあまり変わらんしな。

 

「複合アクションシステム。略してCAS。・・・カス。なんか嫌。キャスだな」

 

うん。そうだな。俺はCASを製作しよう。

 

「フィールドガンランスと複合アクションシステムの二つ。とりあえず俺が現状で出来るのはこれくらいだろう」

 

知識があっても実現できるだけの技術力はまだこの時代にはない。

現状で取り組める事といったら、これくらいだ。

ふむ。出来るだけ早く完成させたいな。フィールドガンランスは特に。

 

「おし。やるか」

 

明確な目標が定まりやる気が漲った日の事でした。

 

 

 

 

 

「・・・そうですか」

「ええ。正面から立ち向かう事か、時間が解決してくれるかを待つか。そのどちらかね」

「正面から逃げずに・・・という事ですね」

「そうね。逃げていたらいつまで経っても直らないわよ」

「・・・分かりました。ありがとうございます、イネスさん」

「頑張りなさい、コウキ君」

 

 

 

 

 

「ナナフシ!?」

 

ついにこの時が来ました。

一、二度しかなかったナデシコ撃沈の危機の内の一つ。

もう一つはボソン砲かな。ディストーションブロックは正にこんな事もあろうかと、だった。

・・・マイクロブラックホールキャノン。

ナデシコを沈めたといっても過言ではない重力波レールガン。

DFを貫く威力も当然だけど発射後に大気に与える影響も軽視できない。

チャージまでに莫大な時間が掛かるといっても、その戦略性は凄まじいものがあると思う。

下手すれば、連合本部なんて一瞬な訳だし。

戦略級の武器の一つだと思うね、俺は。

相転移砲も凄まじいものがあったけど、それに等しいぐらい。

もしナナフシが大量に配備されていたらと思うとぞっとする。

恐らく、このナナフシは実験機でしかなかったんだろう。

だから、大量生産されずに済んだ。

これで実験機かよ!? とも思うけどさ。

 

「そうよ。木星蜥蜴がクルスク工場地帯を占拠し、新たに配置した新兵器。その形状から司令部ではナナフシと呼ばれているわ」

「それでは、今回の任務はそのナナフシの破壊という訳ですね。提督」

「ええ。でも、油断しない事ね。今までに連合軍の特殊部隊が三度破壊に向かったわ。でも・・・」

「・・・でも?」

「全滅よ。全滅。何をやっているのかしらね」

 

キノコ提督。

仕方ないと思いますよ。

それ程にマイクロブラックホールキャノンは恐ろしいのです。

 

「な、何と不経済な。いやはや。その分をネルガルで・・・」

 

どうしようと言うのですか? プロスさん。

あと、その高速演算は何の計算でしょうか?

 

「そこでナデシコの登場という訳ですね! グラビティブラストで一撃必殺!」

 

ピースっと笑顔でアピール。

ナデシコの性能なら敵うかもしれませんけど、そうはいかないんだよなぁ。

 

「そうか! 遠距離射撃だね! ユリカ」

「その通りだよ! ジュン君」

 

おぉ。艦長と副艦長が分かり合っている。

これはこのまま実行という形になりそうだけど・・・いいのかな?

 

「これ以上、地球経済に負担をかけないよう、我々ナデシコが頑張るべきですな」

 

プロスさんは地球の経済を背負っている方なのですか!?

 

「エステバリスが危険に晒されなくて済みますね」

「あら~。それを言うならガイ君が、でしょ?」

「そ、そそそ、そうですね」

 

ガイ。大切にしてやれよ。健気な彼女を。

 

「それでは、直ちに作戦を―――」

「ちょっと待ってくれ」

「え? アキト? そう。遂に私に告白する決意を―――」

「艦長。我々は―――」

「ユリカ! ユリかって呼びなさぁい! 艦長命令です」

 

凄い職権乱用。

 

「艦長。真面目な話だ」

「・・・ぶぅ」

 

不貞腐れた!? やはり子供だな。

ユリカ嬢。大人になれよ。甘えた分だけ大人になれよ。

 

「我々がナナフシの攻略に適している事は分かる。射程距離にしても、その攻撃力にしても、地球ではナデシコがトップだろうからな」

 

うん。それは確かに。

 

「だが、だからといって、安心するのは気が早い。俺達はもっと情報を集めるべきではないのか?」

「テンカワ。それはどういう意味だい?」

「ジュン。三度も特殊部隊が攻め込んでどうして攻略できなかったのか。それを知らずして攻め込むのは愚かな事だと思う」

「そ、それは・・・」

 

正論です。

正論過ぎてジュン君も言葉がありません。

 

「提督。その辺りはどうなんだ?」

「ナナフシとその一帯が持つ対空迎撃システムが原因ね」

「それに全滅させられているのだな?」

「そうよ。それがどうしたのよ? ナデシコが遠距離射撃したら御終いじゃない」

 

成功すれば、ですけどね。

 

「コウキ」

 

え? 俺? ここで? 何故?

 

「な、なんすか?」

「火星においてお前は言ったな。万が一を考える事こそが生き残る為には必要だと」

「ええ。最悪の事態を常に想定する。そうする事で気持ちに余裕が生まれますから。想定外の事ほど、焦るものはないでしょう?」

「その通りだ。焦りは人に死を運ぶ。常に冷静である事が戦場で大事な以上、あらゆる想定をしておくべきだと思うがな」

「・・・そうだった。士官学校でも僕はそう習ったじゃないか。慢心していたよ」

「ナデシコの性能が圧倒的で油断するのは分かる。だが、指揮官たるもの、常に客観的に物事を眺めるべきだ」

「ああ。その通りだ。すまなかった」

 

ジュン君が頭を下げる。

えぇっと、これで一応は最悪の事態を想定するという展開に持ち込めたのかな?

 

「艦長。敵の射程がこちらより長かったと想定しよう。どうする?」

「・・・グラビティブラストによる遠距離射撃が不可能である以上、エステバリスによる破壊になるでしょう」

「しかし、グラビティブラストの射程に敵う武器が―――」

「最悪の事態を想定するのに固定概念は不要ですよ、ゴートさん。何があってもおかしくないよう想定しておくんですから。なにより我々が知る木連蜥蜴は八ヶ月前のもの。秘密裏にグラビティブラスト以上の武装が開発されていたとしてもおかしくないです」

「・・・む。すまない。そうであったな」

 

グラビティブラストが最強。

そんな事を言っていられるのも今の内だけだ。

これから相転移砲という破壊力抜群の兵器も出てくるんだし。

 

「対空迎撃システムが充実されている以上、陸移動になりますよね」

「そうだな。地上戦のフレームは陸戦フレームと砲戦フレームの二つ。攻撃力的には優れているが、いかんせん移動力がない」

 

陸戦フレームは本当に唯のエステバリスって感じ。

あえて言うならワイヤードフィストがあるぐらい。

でも、あれって、そんなに必要性を感じないんだよな。

どうせやるなら、もっと高出力のロケット積んで、巨大な拳とかドリルにしちゃえばいいのに。

ドリルのロケットパンチとかウリバタケ技師には鼻血もんだろうに。

 

「移動するなら陸戦フレームに外付けのバッテリーを大量に積ませる必要があるな」

 

お。ウリバタケさん参加。やっぱり本職に意見を聞かないとね。

 

「それだけで解決できますかね?」

「下手すると敵陣のど真ん中に取り残される可能性があるな。あれだろ? ナデシコは近付けない前提だろ?」

「ええ。対空迎撃がある以上、格好の的ですから」

 

流石にDFでも無理だろ。

マイクロブラックホールキャノンをもし初弾で避けられたとしても、近付くのは困難だと思われる。

結局、攻略法はグラビティブラストの射程外距離からの遠距離射撃か、エステバリスによる単独破壊しかない。

 

「分かりました。それでは、考えを纏めましょう」

 

御願いします。艦長。

 

「現状で取れる策はナデシコの遠距離射撃かエステバリスによる破壊工作かのどちらかです」

 

ふむふむ。

 

「エステバリスによる破壊工作のリスクが高い以上、遠距離射撃で仕留めてしまいたいというのが私の考えです」

 

誰もがうんうんと首を縦に振る。

誰だって危険な目にあって欲しくはない。

 

「確実に仕留める為にはまず向こう方の射程距離を確認する必要があります。その辺りはどうなのですか? 提督」

「残念ながら分からないわよ。詳しい射程距離なんて。グラビティブラストとどちらが長いかなんてもっと分かんないわ」

 

・・・それで良いのか? 連合軍。

 

「それを確かめる為に他の艦隊から援軍を頼みたいのですが―――」

「無理よ。この独立愚連隊のナデシコに助けなんて来るもんですか」

「・・・ですよねぇ。ユリカ、困っちゃうなぁ」

 

独立愚連隊って自覚あったんだね、提督。

 

「どうしよう? アキト」

「・・・危険だが、ナデシコのDFを前方に集中させて、敵の攻撃をあえて受けるしかあるまい」

「でも、それって、かなり危険ですよ」

「ああ。だが、策としてはこれしかないだろうな」

 

あえてナデシコで受けるか。

でも、そんな危険な橋を渡るのは嫌だな。

そもそもDFを前方に集中とか出来るのか?

 

「やはりここはナデシコによる遠距離射撃に賭けるしかないな」

 

そうなんだよね。

でも、失敗するって分かっているのに何にも出来ないってのも・・・。

 

「・・・そうだな」

 

どうなるか知っている組も手詰まり。

ここでエステバリスでの作戦を提案しても周囲の賛同は得られないだろうし。

 

「どちらにしろ、DFを即座に張れる準備を御願いします。ミナトさんはいつでも回避できるようにしておいてください」

「分かりました。DF発動シークエンスを進めておきます」

「緊急回避ね。やってみるわ」

 

少しでも直撃から免れれば、ナデシコの被害も減るか。

 

「それでは、作戦を開始します。直ちに配置についてください」

「了解」

 

それぞれのクルーが配置に付く。

パイロット組はブリッジで待機。

出番がなければ嬉しかったけど、そうもいかない。

すいません。そして、御願いします。

 

「グラビティブラストチャージ開始」

「グラビティブラストチャージします」

 

果たしてグラビティブラストをチャージして意味があるのかどうか。

 

「チャージ完了と共に山陰から抜け出し発射します。ルリちゃん、念の為、DFの発動も意識しておいてください」

「グラビティブラストの発射はラピスに任せます」

「・・・わかった」

 

山陰を隠れ蓑に。

出てきた所を狙われるとはもぐら叩きされている気分だ。

 

「相転移エンジン異常なし」

 

グングンと上昇するナデシコ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何があるか分からない。

それがクルーに緊張感を与える。

 

「作戦ポイントに到達」

「ラピスちゃん。グラビティブラス―――」

「敵弾発射しました!」

「ルリちゃんDF発動。ミナトさん! 緊急回避!」

「ディストーションフィールド発動します」

「揺れるわよぉ~」

 

ドダァァァァァァァァァァァァ!!

 

「ディストーションフィールド消失!」

「直撃は避けられましたが、エンジン機関部に命中」

「相転移エンジン停止します」

「え? 嘘? ミナトさん! 緊急着陸を」

「いいわ。きちんと掴まってなさい」

「艦内の全クルーに連絡します。本艦は敵兵器の攻撃を受け、墜落します。近くにある物にすぐさま御掴まりください!」

『あれは重力波レールガンね。私の見解では―――』

「イネスさん。後で説明の機会を設けるので静かにしていてください!」

「補助エンジンを起動!」

『仕方ないわね。でも―――』

「聞いている余裕なんてありませぇぇぇん!」

「不時着するわ! 振動に気を付けて!」

 

ズッシャァァァァァァァァァン!!

 

『マイクロブラックホールの生成に時間がかかるから、しばらくの間は安全よ』

「き、貴重なご意見ありがとうございました」

『ええ。詳しくはまた後で』

「・・・相変わらずマイペースな人だ」

「・・・カオスだな」

 

うん。酷い有様だ。

正に混沌。収拾がつかない。

やっぱりエステバリス作戦か。

また、俺は何にも出来ないのかな?

 

 

 

 

 


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