機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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始まりの一歩

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

「邪魔するぞ」

「・・・お邪魔する」

 

部屋で悩んでいた。

ミナトさんはどうしてしまったのだろうか、と。

俺は嫌われてしまったのだろうか、と。

頭の中がぐるぐるして考えが纏まらない。

どうすればいいんだろう?

そんな永久に解決しそうにない悩みに頭を抱えている時に三人はやってきた。

・・・そういえば、後で話があるとか言っていたな。

すっかり忘れていた。

 

「どうしました? 顔色悪いですよ」

「あ。大丈夫、大丈夫。とりあえずお茶でも入れますんで座っていてください」

 

逃げかもしれないけど、何かしていた方が考えずに済んで気がまぎれていい。

 

「どうぞ」

 

三人にお茶を渡す。

それぞれ三人は礼を言って、お茶を飲む。

落ち着いてお話するのにお茶は欠かせません。

 

「それでは、早速ですが本題に入りましょう」

 

司会はルリ嬢。

堂に入っているし、任せよう。

流石は元艦長って所かな。

 

「コウキさん、貴方がナデシコに乗る前、乗ってから今まで、双方で行った事を確認します」

「うん」

 

俺がした事か。

あんまり意識した事ないな。

 

「まず、MCの救出。救われない命もありましたが、救われた命もあります。ありがとうございました」

「あ、いや。礼を言われても。実際にやったのは俺じゃないし」

「いや。情報がなければ助けられなかったら。俺からも礼を言う」

「えぇっと、それじゃあアキトさんが?」

「ああ。詳しく言えば俺とネルガルのシークレットサービスがやった」

 

ネルガルシークレットサービス。

確か月臣さんとゴートさんが所属していた奴だな。

 

「次にナデシコクルーの意識改革。戦艦だという意識を持たせ、状況に対し冷静に臨機応変に対応していただきました」

「そんな事を言われても困っちゃうんだけど、俺は色々と知っていた訳だし」

「いえ。知っていようが、コウキさんが補佐として働いてくれたおかげで何度も救われました」

「ま、まぁ、役に立てたならいいけど」

 

意識してやった訳じゃないから褒められても困る。

俺は死にたくなかっただけだしさ。

 

「次はセレスの教育。私とラピスは現状でもある程度の力を発揮できましたが、セレスは別でした。本来なら私がするべき事をコウキさんに代わって頂きました」

「代わった訳じゃないよ。元々オペレーター補佐の俺はそういう仕事がメインだからね。当然の事さ」

「そうですか。ですが、助かった事は事実です」

「ま、俺としてはセレスちゃんが一人前になれたのは嬉しいね」

 

うん。残って訓練した甲斐があった。

 

「次に、クロッカスの件です。とても助かりました。あらかじめプログラムを組むという考えは私にはなくて・・・」

「ま、偶然思いついただけだから。あれが成功したのはルリちゃんのおかげだよ」

「そういえば、擬似マスターキーを作ったと言っていたな」

「ええ。見事、テンカワさん達が無意味にしてくれましたが」

「む。それは悪かった」

「あ、いえ。きっとテンカワさん達の方が最善でした。俺は下手すると越権行為でしたから」

 

擬似マスターキーは許可されて作ったものじゃないからな。

バレていたら罰もあったと思う。

 

「マエヤマはプログラミングが得意なようだが、それは前に言っていた遺跡の知識か?」

「始めはそうでしたが、最近は自分でも作っています。擬似マスターキーは自作ですよ」

「ほぉ。ナデシコの制御プログラムをコントロールできるだけのプログラムを自作でな」

「まぁ、一年間以上プログラムを組んでいましたからね。流石に慣れますよ」

 

始めにOSを作ってから、色々なソフトを作って、その度に俺のプログラミング技能も向上した。

俺自身、中々のレベルだと自負している。

 

「最後にですが、エステバリス用のレールカノンの開発。私達も考えなかった訳ではないですが、実用できるかどうかというレベルでして」

「ウリバタケさんに協力してもらって、後は適当にやっただけですよ。レールカノンはテンカワさん達が導入したんでしょう?」

「ああ。開発途中の時にな。危険だと訴えたら急遽付けてくれたんだ」

「助かります。正直、ナデシコは武装のバリエーションが少な過ぎますから。レールカノンがなかったらもっと酷い眼にあっていたと思います」

「そうだな。レールカノンは正解だった」

「そこから派生したものです。手柄はテンカワさん達ですよ」

 

ナデシコはGBに依存しすぎだからな。

まぁ、DFがあるから、武装はいらないってのも分かるけど。

 

「よくよく考えると俺ってあんまり貢献してないんですよね。結構、空回りしていた気が・・・」

「・・・そんな事ない」

「そうかな?」

「・・・そう」

「ま、ラピスちゃんがそう言うならいいけど」

 

ラピス嬢のお墨付きという訳だ。

ま、これからは足並み揃えるんだから役に立てるだろう。

 

「それじゃあ、次はテンカワさん側が何をしてきたか御願いします」

「分かりました」

 

現実に経験しているからこそ違う観点から物事が見れる筈。

きっと俺に考えも付かなかった事をしているに違いない。

 

「レールカノンの件はいいですね。私達はナデシコで初めて互いが無事だと知ったので、その前は特に何もしていないんです」

「あ。そうなんだ。それじゃあレールカノンはテンカワさんの独断?」

「ああ。ナデシコに足らないものを考えた時にこれが浮かんだ。俺はもともとナデシコに乗るつもりでネルガルに接近したからな」

「えぇっと、覚えてないと思いますが、俺はナデシコに乗る前にテンカワさんと会っているんですよ」

「何? そうなのか?」

「はい。俺がこちらの世界にやってきたタイミングはテンカワさんが地球に来た時と同じですから。先に眼を覚まして、サイゾウさんにテンカワさんを任せたんです」

「・・・そうだったのか。それでサイゾウさんが、坊主がどうだこうだと」

「だから、テンカワさんがテストパイロットと聞いた時は驚きましたよ。てっきりサイゾウさんの所にいると思っていましたから」

「サイゾウさんに礼を言った後に即刻ネルガルに向かったんだ。パイロットの腕を証明してテストパイロットとして入社した」

「そういえば、テンカワさんはネルガル社員として乗っているんでしたね」

「ああ。状況が状況だったからな」

 

ふむ。なるほど。

 

「出航の時はどうするつもりだったんですか?」

「ユリカが来る事は分かっていたからな。囮をしていれば大丈夫だと思っていた」

「不確定要素であるコウキさんの事は疑っていましたが、害にはならないだろうと放っておいたんです」

「・・・意味は分かるけどさ、本人の前で放っておくって言うのはどうなの?」

「あ。す、すいません」

「ま、気持ちは分かるけどね。あの時の俺は未来を知っているテンカワさん達からしてみれば怪しい事この上ないだろうから」

「・・・すいません」

 

シュンとなるルリ嬢。

大方、昔の事を思い出しているんだろう。

・・・ちょっと嫌味っぽかったかな?

 

「過ぎた事は忘れようよ。こうして和解できたんだし」

「そうですね」

 

うんうん。ルリ嬢には笑顔が似合うよ。

 

「ムネタケ副提督の反乱の時はご迷惑をおかけしました。作戦を台無しにする所でしたよね?」

「まぁ、そうなるが、お前もお前で考えて行動していたのだろう? それを否定する事は出来んよ」

「そう言ってもらえると助かります」

 

俺がルリ嬢の行為をばらさなければカイゼルオジサンとの交渉の時、普通に優位に立てた筈なんだ。

それをギリギリな状態にしたのは俺だし、立て直したのはテンカワさん達。迷惑しかかけてない。

 

「だが、まさか擬似マスターキーとはな」

「ああなる事は分かっていましたからね」

 

結局使わなかったけど。

 

「無事にクロッカスとパンジーを、正確には乗組員を救えたのは良かったですね」

「ああ。間一髪だったがな。あれは歴史の改変の初めての成功だ。正直、嬉しかったな」

 

そう話すテンカワさんの顔は本当に嬉しそうで。

どうにかして未来を変えたいという気持ちが伝わってきた。

 

「ビックバリアですが、解除パスワードは元々するつもりだったんですか?」

「ああ。ルリちゃん一人でも解除できたと思うが、ルリちゃんの悪知恵でな」

「悪知恵ではないですよ。ただあの時はコウキさんを試すつもりでした」

「試す? 俺を?」

「ええ。どれだけのハッキング能力を有しているのか。それがナデシコに危害を与えるか」

「な、なるほど。そこまで疑っていたのね」

「・・・すいません」

 

流石にそこまで警戒されると頬も引き攣る。

 

「その後、経歴とあわせてお前の正体を突き詰めようとした」

「あぁ。あの経歴は捏造したものなので、正体も何もないと思いますが。えぇっと、俺ってテンカワさん側から見てどんな人になっていましたか?」

「俺の両親がネルガルに殺されたのは知っているな?」

「ええ。確かボソンジャンプを公表しようとしたのを防ぐ為にネルガルがやったとか」

「ああ。その通りだ。そこで俺は能ある研究者は都合が悪くなると消されると理解した」

「・・・あぁ、そういえば、俺の両親も研究者にしていましたね」

「そうだ。そこで、お前の両親は偉大なナノマシンを開発した優秀な研究者で、会社の利益の為に殺されたと考えた。交通事故と見せかけてな」

「コウキさんの両親はそれを見越してコウキさんを地球に逃がした。ナノマシンを託して」

「そして、ナノマシンを狙う者達から逃れる為にナデシコに身を寄せた。そんな感じだな」

「えぇっと、物凄く苦労していますね、俺」

「そうだな。頭が回るのもその苦労のおかげだと思っていた」

「俺はそんなに凄い人間じゃないですよ。色々と考えるのが好きなだけです」

 

ボーっと何かを考えるのって意外と楽しいし。

 

「ま、予想は見事に外れた訳だが」

「むしろ、俺の正体をあれだけの情報で正確に見破れる人間はいないと思います」

「確かにな」

 

普通の思考じゃ絶対に考え付かない。

たとえボソンジャンプを知っていようと。

次はサツキミドリの事だな。

・・・あ。

 

「訊いてもいいですか?」

「ん? 何だ?」

「何でサツキミドリが襲われると分かっていて、リョーコさん達を迎えに行ったんですか? テンカワさんはパイロットですから分かりますが、ルリちゃんとラピスちゃんは」

 

あの時、ルリ嬢とラピス嬢がいない事が逆に安全だと思わせてくれたんだけど。

 

「俺達はあの時、マエヤマの存在に焦っていたからな」

「マエヤマさんのようなイレギュラーが発生しないか確認しにいったんです。あの時は焦って周りが見えていませんでしたからね」

「・・・いなくて安堵していたら襲われた」

 

あぁね。そんな事情があったんだ。

 

「それからは御存知の通りです」

 

振り返ると色々な事があったんだな。

 

「ある程度は把握しました。結構、見解のすれ違いがあったみたいですね」

「ああ。俺達は思い通りに事を運ぶ為にお前を危険視していたからな。どうも好意的に受け取れなかった。すまなかったな」

「あ、いえ。いいですよ。きちんと話を聞くと止むを得ないかなと思いました。俺だって過去に戻って知らない人がいたら驚きますから」

 

たとえば今から中学校に戻ったとしよう。

そこになんでもないように知らない人が同級生としたら、何者だと怪しむに決まっている。

それが悲劇の回避という大きな目標がある人間なら余計に。

 

「それでは、次の議題ですね。これからどうするか、です」

 

ルリ嬢が話を進める。

 

「テンカワさん達は戦争をどう終わらせようとしていますか?」

 

戦争は何よりも終わらせ方が大事だと思う。

どちらかが滅びるまで戦争なんて事はないと思うが、戦争中は相手を気遣う余裕はない。

やはり手頃な所で条約を締結する必要があるのだ。

だが、その条約の項目次第でまた争いになる。

原作の木連のように一方的な要求では更に争いを呼ぶだけだ。

 

「模索中だ。だが、まずは地球連合軍をどうにかする必要があると俺は思っている」

「地球連合軍をですか?」

「ああ。過去の謝罪もせず、情報を操作し、木連の交渉役を殺した連合軍だ。このままでは駄目だな」

「えぇっと、交渉役を殺したというのは?」

 

そんな話、原作に出ていたっけか?

細部までは覚えてないからなぁ。

 

「木連は火星や地球に襲撃をかける前に交渉役を送っている。こちらの存在を認め、移住を許してくれれば、水に流してもいいと」

「そ、それじゃあ・・・」

「ああ。連合軍の首脳陣が原因で始まったようなものだ。この蜥蜴戦争はな」

 

・・・戦争の終結。

なるほどね。そういう事か。

そんな地球連合では泥沼になる。

 

「・・・大切なのは地球連合の意識改革という事ですか。理想的な戦争の終結を迎える為に」

「そうなるな。都合良く、俺達はこれから地球連合軍海軍極東方面軍に編入される。そこでミスマル提督に接触すれば・・・」

 

確かミスマル提督、改め、カイゼルさんは劇場版で連合軍の総司令官をやっていた。

器としては申し分ないし、その時期が少し早まるだけだ。

 

「ミスマル提督に協力を求める。その他にも私達は切り札があります」

 

ミスマル提督以外に軍に伝手があるのか?

 

「お忘れですか? フクベ提督です」

「あ! そうか!」

 

ただでさえ、チューリップを落とした英雄として名高いんだ。

そこに無事に火星の民を救出したという栄誉も加わり、フクベ提督の求心力は凄まじいものになる。

 

「既に退役の身ですが、その影響力は計り知れないでしょう」

「それに、フクベ提督は火星の民に対する罪の意識がある。火星の民の為に地球連合を変えて欲しいと言えばフクベ提督も断れないだろう」

「・・・テンカワさんって黒いですね」

「色々経験すれば黒くなるさ。仕方あるまい」

 

ま、黒いのが善い事に向かっているからいいんだけどさ。

ちょっと寒気がしたぞ。

 

「ミスマル提督とフクベ提督の二人に協力を求めつつ、俺達は極東方面軍の名声を高める。これが今後の方針だな」

「はい。俺もそれで良いと思います」

 

まずは軍の意識改革か。

ナデシコの事だけでも精一杯の俺にそんな事が出来るかな?

・・・まぁ、なるようになるか。

 

「とりあえずこんな所だな」

「はい。他に何か議題がありますか?」

 

ルリ嬢が俺達を見回す。

俺が気になる事・・・。

あ、あるじゃないか。

 

「はい」

「はい。コウキさん」

 

学校の授業か? これは。

というか、ノリいいね、ルリ嬢。

 

「最終確認ですが、遺跡はどのようにするつもりですか?」

 

俺の質問に顔を強張らせる三人。

そうだよな。三人とも遺跡に良い思いは抱いてないだろう。

でも、これはきちんと確認しておきたい。

 

「遺跡の存在が世界を構築している以上、破壊する事は無理だと判断している。それは今も同じですか?」

「ああ」

「その通りです。思い出を消したくありません」

「・・・私もイヤ」

 

破壊しない事が前提で、遺跡をどうにかしなければいけない。

原作では宇宙に放ったらしいけど・・・。

 

「失礼を承知で伺います。俺は遺跡をきちんと処理しなかった事が火星の後継者事件に繋がったと思いますが、どう思いますか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

黙り込む三人。

実際に体験してない第三者からの視点だから導けた結論だ。

実体験した彼らが同じ結論を導くとは限らない。

仲間意識が強い彼らの事だから、ナデシコは間違っていないという思いもある筈だしな。

 

「もっと簡単に訊きます。遺跡の処置があれで正しかったと思いますか?」

「・・・それでは、コウキさんは遺跡を破壊してしまえばよかったと。そうおっしゃるのですか?」

 

ルリ嬢って思い込み激しいよね。

いきなり敵意を向けられても困るんだけど。

・・・テンカワさんも。

ラピス嬢だけが俺の味方だよ。

 

「違うよ。遺跡を破壊する事は俺も反対。でも、ナデシコのコアブロックと一緒に遺跡を放置した事が間違いだと思うんだ」

「え?」

「遺跡を宇宙空間に放置する。一見、誰にも渡らないように思えるけど、絶対じゃない。人の執念は奇跡すら起こせるんだ」

「・・・人の執念。・・・そうだな。人の執念は奇跡すら起こす」

 

感慨深く呟くテンカワさん。

そうだな。執念という意味ではテンカワさんがもっとも馴染み深い。

 

「俺はきちんとした制御が出来るように管理する必要があると思います」

「管理・・・ですか?」

「そう、企業とか政府とか。一箇所に権限を持たせるのではなくて皆で」

「・・・皆で管理。聞こえはいいですが、絶対に無理です。誰かしらが主権を握ります」

 

何もしなければそうなるだろうな。

そうならない為に頭を使おうと思っているんだけど。

ま、この意見はまた後々検討するとして、他の意見も出すかな。

 

「管理が無理であるなら、どのように対処しようと取りにいけない所に放置するのも手です」

「どうしても取りにいけない場所・・・ですか。それは?」

「遺跡の耐久度次第ですが、俺は太陽の表面でもいいかなと思っています」

「太陽だと?」

「ええ。どれだけ文明が進もうと太陽の表面にある遺跡を回収する事は不可能でしょう。仮に出来るようになるとしても、数百年以上は時間を稼げると思います」

「・・・そんな事、考えもしなかった」

 

どうしても対処のしようがなければ太陽に放置する。

それもまた、一つの対処法だと思う。

 

「どちらにしろ、すぐに放り出すのは間違いだと思います。遺跡がどのようなものかをきちんと調べた上で放置する必要があると俺は思っています」

「・・・そうだな。俺達は焦りすぎていたのかもしれん」

「・・・アキトさん」

「もちろん、原因であって悪いのは火星の後継者です。ですが、防げたのかもしれません」

 

言い過ぎかもしれないが、それ程に対処の問題は慎重にならなければならないんだと思って欲しい。

 

「当時のナデシコは遺跡さえなければ戦争は終わるとそう思っていたんですよね?」

「・・・はい。誰もがそう思っていました」

「酷な事を言いますが、それが地球連合軍と統合軍との間に軋みを入れた原因だと思います」

「・・・どういう意味ですか?」

「戦争というのは終わり方が大切です。ナデシコが地球を勝手に背負い勝手に和議交渉をした事で地球人と木星人の意識の統一が出来なかったと思います」

「・・・・・・」

「その上で争いの原因を取り除いた。両軍の首脳陣はどこに着陸地点を設ければいいのか分からなくなったんですよ。戦争の終結の為の着陸地点を」

 

両方の国民が何故争ったのかさえ理解していない。

どうして戦争に発展したのか分かってない。

所詮は木星人と地球人は侮り、憎き地球人と木星人は恨む。

両者が憎しみ、蔑む、疎んじている状態で和平を結んだ所で平和的解決になるとは到底思えない。

 

「両者が両陣営で管理するという方向性で纏まった可能性もある。それを失くしてしまった事で一つの終結を潰してしまった事は紛れもなく事実です」

「・・・分かります」

「少なくとも草壁は遺跡に固執しています。遺跡の喪失は遺跡さえあれば全てを支配できるという考えの草壁を暴走させました」

「・・・そうだな。少なくともきちんとした形で遺跡を管理か放置していれば草壁を暴走させずに済んだかもしれん」

「はい。熱血クーデターの突然の政権交代。軍人は付いてきたかもしれません。ですが、国民はどうだったのでしょう? きちんと理解していたんでしょうか?」

「・・・あちらの和平派はあくまで軍内での和平派でした。国民全てを和平へ導いた訳ではありません。草壁のカリスマ性は凄まじいものでしたし」

「そう。草壁が徹底抗戦を訴えている状態で突然の政権交代。徹底抗戦を支持していた国民はどう思うでしょうね? 間違いなく、憎しみを抱えたままの和平です」

「憎しみを抱えたままでは両者が争うのは必然。地球の国民の意識改革をしつつ、木連の国民の意識改革もしなければきちんとした和平は出来ないという訳だな」

「どうして争っているか。それを両国民は知る必要があるという事です。憎しみの根本を知らなければ、互いの苦しみを理解しなければ、両者が歩み寄る事はありません」

「・・・厳しいな。これが歴史を変えようという責任の重さか」

「・・・そうですね。とても重たいです」

 

悲劇の回避を目的とするのならば、戦争の終結すらも考えないといけない。

本当に俺のような凡人には荷が重い。

 

「その為にも多くの協力者が必要でしょうね。地球側はもちろん、木連側にも」

 

ただ草壁から政権を奪い、和平を結べばいいという訳ではない。

きちんと国民の意思を統一させ、それでいて和平へと導く力強い意思がなければならない。

多くの統合軍兵士が火星の後継者に参じたのは未だに草壁の影響力が強かったからだ。

草壁に真っ向からぶつかって和平を結べる人間が木連側に必ず必要になる。

いないかもしれない。でも、いるかもしれない。俺達地球人が木連に介入できない以上、木連人の誰かが同じ理想を追ってくれなければならないのだ。

目先の事だけではなく、大局的に、ずっと先の事を考えられる影響力の強い人物が。

 

「俺のような若造が政治を語っても仕方ないので、遺跡の事はその時に考えましょう」

「・・・ああ。遺跡の事は俺達では判断できない」

「どうするのがベストか。両陣営が吟味する必要がありますからね」

「どちらにしろ、ナデシコが遺跡を確保する必要があります。地球側でもなく、木連側でもない俺達が」

「地球側では拙いのか?」

「地球側が遺跡を確保すれば、草壁の暴走は激化します。木連側が確保しても、草壁の独裁が激化するだけです」

「ナデシコが確保して、時間を稼ぐ必要があるという事だな」

「はい。ナデシコが確保し、中立の位置にいる事で、両陣営の考えを整理する時間を与えます。木連側での和平派の勢力を強くさせる為にも時間は必要でしょう」

 

鷹派の草壁の権力が強い状況下だ。

鳩派の人間の権力なんてあってないようなものだろう。

その勢力を逆転させる為に必要なのは長い時間と確実な援助。

利を説き、損を説き、真理を説き、虚偽を説く。

そうして、生まれ持った意識を改革する必要がある。

地球人の戦争への意識と木連人のゲキガン魂という意識を。

 

「我々が出来る事は遺跡を確保し、傍観する事。もしくは協力者と力をあわせて状況を的確に読み、的確な行動をする事でしょう」

 

それしか、ナデシコに出来る事はない。

所詮、突出した性能を持つだけの一戦艦に過ぎないのだから。

 

「・・・マエヤマ」

「あ、はい。以上で俺の考えは終わりですが」

「・・・お前は俺達より何倍も考えているんだな」

「え?」

「はい。私達はナデシコの悲劇を回避する事だけしか考えていませんでした。ですが、本当に悲劇を回避するのならそこまで考える必要があったんですね」

「・・・コウキ。凄い」

 

あの・・・そんなに尊敬の眼で見られると困るんですけど。

 

「俺は政治も戦争も詳しくないですから、俺の勝手な考えですよ」

「いや。それでも、それだけの認識が出来るのは凄いと思うが」

「ええ。地球人でそれだけの事を考える人がどれだけいるか」

 

そうまで褒められても、俺はどうしていいか分からん。

・・・照れるだけ。

 

「と、とにかく、まずはミスマル提督とフクベ提督に接触しましょう。それが全ての始まりです」

「そうだな。これでとりあえずの方針は決まった」

「今の私達に出来る事はとにかく与えられた任務をこなす事ですね」

「そうだね。まだ木連側に伝手がない以上、俺達に出来る事はない。地球側も提督達に任せるしかない」

「要するに俺達の役目は両陣営の橋渡し役という事か」

「ええ。それが何の権限もない俺達の限界でしょう」

 

一人で世界は変えられない。

でも、一人の要因で世界は変えられる。

きっとそれが未来を変えるという意味なんだと俺は思う。

今この瞬間、確かな始まりの一歩を俺は実感した。

 

 

 

 

 


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