「・・・ここは?」
眼が覚めると緑豊かな空間にいました。
そして、隣には黒髪の青年。
おぉ、今をときめくアキト少年ではないですか。
という事はサセボシティって訳か。
それでアキト少年、いや、アキト青年か、が最初のボソンジャンプで降り立った時と場所だな。
「ん? 何かちょっと視線が高いような・・・」
おぉ。背が伸びてる。
えぇっとアキト青年って何センチだ?
多分170は超えてるだろう。
という事はそれよりチョイ高いから・・・。
もしや俺が理想とする178センチぐらいか。
うん。これからはそう主張しよう。
それにしても背が伸びるだなんて。
長年の夢が叶った。
なんて素晴らしいアフターサービス。
モテ顔じゃない事は諦めていたが、背は諦め切れなかったんだ。
何度牛乳を飲み、薬にまで手を出したのに、俺の身体は俺の要望に応えてくれなかった。
もしやあの薬が悪かったのか?
やはり広告を無条件で信じてはいけないのか?
まぁ、個人差がありますと書いてあるから俺には効果がなかっただけかも知れんが・・・。
「・・・まぁいいや。結果オーライ?」
と、落ち着いた所で・・・。
「・・・・・・」
アキト青年と知り合うとほぼ無条件で物語に参入だな。
すまないが、アキト青年。
サイゾウ氏が現れるまで耐え切ってくれ。
僕には出来る事がないんですよ。
「フフ~ン。ンンンン~ン」
お、この鼻歌。
サイゾウ氏の登場ですか。
分かります。
「・・・・・・」
服は・・・大丈夫だろ。ただの寝巻きだし。いや。普通じゃないけど寝巻きで出掛けるのとか別におかしくない筈。夜だし、時間帯的に。
顔は・・・調べる必要ないよな。
あ、でも、MCを超えたってか、MC化したって事は瞳が金色になったりとかは・・・。
ほっ。なってなかった。遺跡の仕事は素晴らしいな。
・・・湖で顔確認とかベタな事をしてしまって申し訳ない。
金は・・・やばい。この世界の金じゃない。
・・・とりあえず、日雇いバイトして、金を得よう。
そして、その金でどこかに泊まって、IFS対応の端末を探す。
その後は・・・。
「・・・俺は遂に犯罪行為に?」
どこかしらの裏金を取っちゃおうとか思ったんだけど、それって普通に犯罪だよな。
バレなっきゃいいんじゃん? とか開き直れないよ。
でも、衣食住全てが不足している現状、どうしようもないんだよな。
MC以上のナノマシン親和性があるといってもハッキングなんて慣れが必要だろうし。
体の中にあるナノマシンとかどれくらい恩恵があるんだろう?
色々と試さないといけないよな。
ん~~~どうするか?
「おい。兄ちゃん」
とりあえず普通のナノマシンとかよりは高性能だろうな。
本来は禁忌な複数注入もされているみたいだし、色々と効果はあるだろう。
「お~~~い」
身体は特に異常は・・・。
ま、強いて言うなら眼が良くなったのか?
俺って意外と眼悪かったしな。
という事は五感が強まっ―――。
「おい!」
「ッ!」
な、何だ!?
いきなり襲われたのか!?
「あ」
気付けば眼の前に鼻息の荒い中年がいました。
もとい、料理人、サイゾウ氏が。
「やっと気付いたな。まったく」
「すいません」
まったく気付きませんでした。
「んで、こいつは誰なんだ? 行き倒れか?」
「さぁ・・・」
「さぁっておいおい」
実際知らないしな。
設定以外は。
「俺も偶然彼を見付けたんですよ。それでどうしたのかなって近付いてみたんですが」
「この通り、倒れてたって事か。息はあるみたいだし、生きてんだろ」
「はい。助けようと思ったんですが、俺も一人旅みたいな事してるんで」
とりあえずでっち上げだ。
物語には介入したくないしな。
「そうか。そんなら、俺が面倒見るよ」
「えぇっと・・・良いんですか?」
「ああ。どうせ俺も一人暮らしだしな。ガキが一人増えた所で変わんねぇよ。それに、お前が気にする事でもないだろう?」
優し過ぎです。
サイゾウ氏。
「すいません。御願いします」
「だから、お前に御願いされるような事でもないっての」
苦笑されてしまった。
ちょっと人任せという事に罪悪感を覚えるが、今の俺にはどうしようもないしな。
「そんじゃあな。お前も一人旅だった、か。気を付けろよ」
「はい。ありがとうございます」
アキト青年を抱えて、店へと帰っていくサイゾウ氏。
「カッコイイな。俺もあんな大人になろう」
そう俺は心に誓った。
サイゾウ氏の器は半端なく大きい。
「さて、とりあえず日雇いのバイトを・・・あ」
忘れていた。
日雇いの仕事だからって俺自身だと証明できなければ働けないのでは?
そういう所で働いた事ないから分からんが。
そもそも俺って戸籍とかないよな?
や、やばい。
捏造しなければ!
・・・この時点で犯罪だよな。
あぁ。俺も遂に犯罪者か。
とりあえず、バレないように頑張ろう。
・・・さて、その前に・・・。
「すいませぇぇぇん! 御願いがぁぁぁ!」
サイゾウ氏にお金を借りよう。
「・・・ここでいいかな?」
どうにか、お金を借りられました。
すぐに返します。
本当です。
「この世界ってか、二百年ぐらい後の時代にもネットカフェってのはあるんだな」
眼の前のネットカフェに入って、早速戸籍の捏造だ。
「会員証を御願いします」
・・・そうだよね。まずは会員証だよな。
アハハ・・・自分を証明できるものなんて何一つ持ってない・・・。
か、会員証が作れないではないか!
「如何しました?」
どうする? どうするんだ? どうすんだよ?
・・・どうしようもねぇぇぇ!
「いや。ちょっと会員証を忘れてしまいまして。また来ます」
「お、お客様?」
とりあえず店から出る。
「はぁ・・・」
前途多難だな。
甘く見ていた。
現実とはこれ程に厳しいのか・・・。
「ネットカフェも駄目か。どうすれば俺は電脳世界へと辿り着けるんだ?」
戸籍を作るにしろ、金を作るにしろ、まずはネットが繋げる環境がなければならん。
どうするべきか・・・。
「ねぇ」
ん? もしや声を掛けられている?
・・・そんなに今の俺は困っているように見えるのだろうか・・・。
えぇい! ままよ!
「はい。何でしょう?」
振り返る。
その先には・・・
「どうかしたの?」
若き日のハルカ・ミナトさんがいました。
うん。やばいね。巻き込まれる!
「い、いえ。何でもないですよ」
「そう? こんな所で立ち尽くしているから何かあったのかなって」
こんな所?
あぁ。そっか。ネットカフェの前で立ち尽くすとか意味わかんないもんな。
「ネットカフェで一夜を過ごそうと思ったんですけど、金もなくて、会員証も作れなくてですね。どうしようかなって途方に暮れていました」
これで通じるでしょ。真実っぽい嘘。
「あら。そんな事しちゃ駄目よ。ちゃんとした所で寝なくちゃ。そうね・・・いいわ。私の家に来なさい」
・・・ちょっと待とうか。
いくらなんでも無防備過ぎでしょ。
「いえいえ。女性が住んでいる家に行くなんて」
「あら。襲うつもりなの?」
「そ、そんな事」
あんまり免疫ないんだからからかわないでくれぇ。
「あら。真っ赤になっちゃって。ウフフ」
ウフフだなんて。
御姉様。余裕あり過ぎです。
「いいですよ。ご迷惑をおかけする訳にはいきませんから」
「いいのよ。私、こう見えても社長の秘書をやってて儲かっているの。少年一人ぐらいの面倒は見るぐらいの甲斐性はあるつもりよ」
甲斐性って。
俺ってばヒモですか?
「いえいえ。僕は―――」
「いいから、いらっしゃい。すぐ近くだから。ほら、あのマンションよ」
・・・強引に連れて行かれました。
女性はどんな世界でも、どんな時代でも強過ぎる生き物です。
僕は一生敵わないでしょう。
「へぇ。一人旅していたの?」
「えぇ。と言っても、始めたばかりですけどね」
はい。一生懸命、誤魔化し続けています。
でも、バレるのも時間の問題でしょう。
だって・・・。
「ふ~ん」
ニヤニヤ笑顔が止まらないんですもの。
もちろん、ミナトさんの。
「信じていませんね?」
「あら。そんな事ないわよ」
この人、鋭そうだしな。
「学校はどうしたの?」
「中退です。やりたい事が見付かったので」
「それが一人旅?」
「ええ、まぁ。そんな所です」
「ふ~ん」
妖しい笑顔です。
いえ、怪しんでいる笑顔です。
眼が笑ってない。
「そう。これからはどうするの?」
「とりあえず旅を―――」
「お金もないのに?」
「そ、それは・・・」
それは言わないお約束って奴ですよ。
「そうね。じゃあ。バイト、してみない?」
「バイト・・・ですか?」
「ええ。うちの会社でちょっとさ」
「えぇっと、職権乱用ですか?」
「コラッ」
「イタッ」
拳骨なんて何年ぶりだろ。
頭が痛い。
「折角気を遣ってあげてるんだから。年上のお姉さんの言葉には従うものよ」
「えぇっと、それじゃあ、御願いしてもいいですか? でも、俺って何の取り得もありませんよ」
「あら。その手は飾り物?」
手?
あ。忘れてた。
「・・・IFS」
「そうよ。地球ではパイロットの人ぐらいしか持ってないけど、火星では殆どの事をIFSでやっているんでしょ。それって便利だからよね?」
「そうですけど、良いんですか? 地球の人はIFSに拒絶反応を起こすって聞きましたが・・・」
「という事はやっぱり貴方は火星出身なのね」
「あ」
別に隠していたわけじゃないけど、やっぱり鋭いな。
地球出身で通すつもりだったのに。
ま、火星出身という訳でもないけど。
「え~っとですね。地球生まれの火星育ちです。最近、また地球に帰ってきたんですが」
「そうなんだ。それでIFSを持っているのね。事務処理とかは出来るのかしら?」
「IFS用の端子さえあれば可能だと思いますよ。書類を整理するぐらいだと思いますけど」
・・・別に無いわけじゃないよな? IFS用の端末。
パイロットのみって聞いていたけど、社会で利用できない訳じゃないんだし。
「そう。書類整理か・・・。うん。じゃあ、御願いしようかしら」
「良いんですか? 機密事項とかあるのでは?」
「大丈夫よ。そういうのは除外するから」
「そうですか。それなら、御願いしますね」
「はい。お任せあれ」
ニッコリ笑うミナトさん。
やっぱり年上の女性って素敵だな。
「それじゃあ、もう遅いから寝ようか?」
「はい。えぇっと、ソファを貸してもらえますか?」
「え? 何を言ってるのよ。いらっしゃい」
「え? え?」
「一緒に寝ましょう」
「えぇ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんな一緒になんて。無理です。絶対に無理です。・・・あ」
気付いたよ。
気付いちゃったよ。
笑っていますよ、この人。
「・・・またからかったんですね」
「ほら、コウキ君ってからかい甲斐があるじゃない」
「あるじゃない? とか当事者の俺に聞かないでくださいよ」
「ウフフ。面白い子ね。大丈夫よ。布団、出してあげるから」
「すいません。何から何まで」
「いいのよ。コウキ君って良い子だし」
えぇっと、良い子って言われてもな。
「ありがとう?ございます」
なんて返していいか分からなくて変な返事になってしまった。
「本当におかしい子」
案の定、笑われてしまいましたとさ。
その後、ミナトさんから布団を借りて、リビングの方で寝させてもらった。
同室でどう? なんてからかわれたけど、俺だっていじられよりいじりを得意としていた男。
見事、迎撃・・・出来ませんでした。
真っ赤になって一発KOです。
やっぱり免疫ないのって辛いな。
だって、すぐ近くでミナトさんが寝てると思うだけで動悸が・・・。
「ふぅ・・・」
リラックスだ。
うん。これからの事を考えよう。
「どうするかな?」
アキト青年から逃げたのはいいが、見事なまでに原作キャラに関わっちまった。
ハルカ・ミナトさん。
ナデシコの操舵手。数多の資格を持つ才女であり、ルリ嬢の姉貴分。
などなどメイン中のメインキャラ。
このままだと確実に巻き込まれるだろうな。
でも、都合良くIFS対応の端末を手に入れられそうだし、恩を仇に返すような真似はしたくないしな。
それはもう莫大な恩を感じていますとも。
食事を用意してもらって、寝床を用意してもらって、挙句の果てには仕事まで。
本当にもうお世話になりっぱなしで、頭が上がりません。
せめて、この恩を返してから去らないとな。
とりあえず、明日からの行動方針。
まずは戸籍を手に入れる。捏造? 構いやしないっての。死活問題だ。
次に裏金を入手。これはまぁ、最終手段だな。まずは自分の手で金を稼ぐ。
楽しちゃ良い大人になれんよ。・・・ニート志望ですが何か?
特許でも手に入れるか? 一つぐらいあった方が後々も動きやすいよな。
その金で衣食住を確保しよう。まずはそこからだ。
いつまでもミナトさんにお世話になる訳にはいけないしな。
よし。この方針でいこう。頑張れ。俺。
SIDE MINATO
「ふぅ」
ベッドに横たわって一息つく。
「面白い子」
偶然、見つけた若い男の子。
まだまだ大人の魅力とかは感じないけど、とっても良い子みたい。
IFSを付けていたから軍人かなとも思ったけど、そんな雰囲気でもなかったし。
「それにしても・・・」
一人旅なんて嘘ついて何しているのかしら?
悪い子じゃないと思うから、変な事ではないと思うけど。
それに、どことなく戸惑っているみたいな、そんな感じもあったわ。
家電とかちゃんと使えてなかったし。
間違いなく生活レベルが違ったのよね。
「本当に不思議な子」
何か黄昏ている姿が捨て猫みたいに見えたから拾ってきちゃったけど。
「楽しみね」
これからの生活がちょっと楽しみでもあるの。
男の子って日々成長するって感じで見ていて楽しいのよ。
それにいじり甲斐もあるし。
ウフフ。こんなに楽しいのはいつ振りかしら。
「おやすみなさい。コウキ君」
SIDE OUT
「それじゃあ、行きましょうか」
ミナトさん先導のもと、ミナトさんが社長秘書を務める会社へと出向く。
「おはようございます」
「うん。おはよう」
「え~と、その方は?」
受け付けの人が訝しげに見詰めてくる。
ま、当然だよな。私服だし。
ちなみにミナトさんの持ち物です。
何故、貴方が男物を持っているのですか?
・・・訊いてもはぐらかされるんだろうなぁ。
「アルバイトよ」
「アルバイト・・・ですか?」
「ええ。私が身元保証人になるから、あれ、頂戴」
あれと言われて持ってきたのは社員証。
そうだよな。これがなっきゃ会社に入れないし。
「はい。これ。失くしちゃ駄目よ」
「ありがとうご―――」
「ほらほら。しゃがんで」
お礼を遮って告げられる言葉。
「えぇっと。ミナトさん」
「ん? 何よ。早くしゃがんで」
「あのですね。自分で付けますから」
「駄目よ。しゃがみなさい」
「クスッ」
笑ってないで助けてくださいよ。
受付嬢さん。
「ほら。早くしなさい」
「・・・・・・」
とりあえず、無言でしゃがんでみました。
「ん~。ちょうど良いわね。この身長差」
「・・・・・・」
「あら。真っ赤」
駄目だ。本当に敵わない。
「ハルカさん。苛め過ぎですよ」
「笑って言ったって説得力ないわよ」
その通りです。受付嬢さん。
「クスッ。すいません」
だから、笑わないで下さいよ。あぁ。背中に嫌な汗が・・・。
「じゃあ、いきましょうか」
「はい。分かりました」
とりあえず、付いていく。
「それじゃあ、コウキ君。これを使って」
連れてこられた秘書課。やっぱり周りは女性社員ばかりだ。
・・・苛めですか。ミナトさん。
「ハルカさん。彼は?」
「アルバイトよ。遊んであげて」
「はぁ~い」
ミナトさん!
分かりますか?
この女性に囲まれた環境が如何に肩身が狭いのかを。
「ウフフ。ハーレムね」
いじられハーレムなんて嫌じゃ。
「じゃ、後で仕事を持ってくるから、それまでは扱いに慣れておいて」
立ち去っていくミナトさん。
一人にされるなんて。心細い。
「とりあえず」
コンソールに両手を置く。
あ、やばい。忘れていた。
MC以上のナノマシン親和性で、数倍のナノマシン濃度を持つ俺だ。
ルリ嬢やラピス嬢がコンソールに触れただけでかなり輝くのだ。当然、俺が触れたら・・・。
「・・・全身が光っているわ」
こうなるわな。
もう眩しいぐらいに輝いています。
でも、俺はルリ嬢やラピス嬢みたいに容姿は整ってないからな。
綺麗とは言われないさ。
「えっと・・・」
恐る恐る後ろを見る。
すると・・・。
「・・・・・・」
あ、良かった。呆然としていらっしゃる。
避難、避難っと。
「ちょっとトイレに行って来ます」
サッと逃げ出す。後ろから呼ばれたような気もするが気にしてはいけない。
「どうするか?」
ナノマシンの扱いに慣れれば光らないようになるだろう。きっと。
というか、それ以外に考え付かない。
「じゃあ、戻りますか」
そ~っと。そ~っと。
「あ、帰って来ましたよ」
「行くわよ」
「はい!」
・・・速攻でバレました。
現在、尋問中です。
「さっきのは一体何なの?」
「嫌がらないでくださいね。コンソールを見れば分かると思いますが、俺はIFSを持っています」
「うんうん。それで?」
「あれ? 嫌がらないんですか?」
「そんな事はどうでもいいの。さっきの説明をしてちょうだい」
「あれはIFSの制御ミスとでも思ってください。久しぶりだったので」
実際、俺には何でそうなるか分からん。
制御に慣れれば、抑えられるようになると思うけど。
「へぇ。IFSってあんな反応するんだ」
「知らなかったわね」
「そうよね」
・・・冷や汗が止まらない。
気付けば女性に囲まれていました。
こんなに女性に囲まれたのは生まれて初めてです。
「あら。いつの間にこんなハーレムを築いていたの? コウキ君」
「あ。ミナトさん」
正直、助かりました。
これで解放されます。
「どう? 扱えそう?」
あ。試してなかった。
「ちょっと待ってくださいね」
コンソールに手を置く。
今度は輝かないように注意して・・・。
「あら。綺麗ね」
無理でした。初めてだからしょうがないさ。
「・・・これは・・・」
手が端末となってまるで映像化のように脳へと伝わってくる情報。
それが補助脳で整理され、欲しい情報として確立される。
今までに味わった事のない感触、というか、イメージがフィードバックするってこういう事なのか。
是非ともIFS対応の車とか乗ってみたいな。
「・・・え~と」
頭の中に映像として残る情報をそのまま頭の中で整理する。
ファイルとして残るデータを右にずらそうと意識すれば右にずれるし、フォルダに保存したい時はそうやってイメージすれば良い。
プログラミングだってイメージすれば勝手に構築されていく。
なんて、なんて素晴らしいんだ、IFS。これがあれば現代社会―この時代からするともう200年近く前だけど―でも苦労せずに生きていけるぞ。
「どう? 大丈夫そう」
「ええ。何とか出来そうです」
「無理しちゃ駄目よ」
「はい。ありがとうございます」
初心者なりに頑張れそうだな。
今は慣れる事を優先しよう。
その後に戸籍を捏造してやる。
「じゃあ、これ御願いできる」
渡されたのは山のように積まれた書類。
何だろう? これ。
「数値とか内容とかで間違いがないか確認して。それと内容別とか、種類別とかで分別できるようにまとめて整理してもらえるかしら」
以前だったら面倒だと思っていた仕事。
でも、今なら、そういう事も体験してみたいと思った。
「分かりました。お任せ下さい」
「はい。お任せしちゃうわ。休憩は自由に取っていいから。御願いね」
また立ち去っていくミナトさん。
きっと忙しいんだろうな。
「さて、やりますか」
パ~ッと済ませて、目的を果たさなければ。
「はい。お茶」
「あ、ありがとうございます」
「頑張ってね」
美人の微笑みは癒されるねぇ。
頑張ろうって気にさせるよ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
駄目だ。
効率が悪い。
というより、俺の反応に付いてこれていないようだ。
「どうかしたの? 難しい顔して」
「あ。ミナトさん。お疲れ様です」
「そちらこそお疲れ様。それで、どうかした?」
結構な頻度で顔を出してもらっているけど、社長の方は大丈夫なのかな?
・・・きっと気を遣ってもらっているんだろうな。
「いえ。効率が悪くて、ですね」
「効率が悪い? えっと、全然終わらないの?」
「あ、いえ。そんな事はないです。もう終わりますよ」
「えぇ!? もう!?」
驚いて顔を近づけてくるミナトさん。
「近いです。近いですってば」
「あ、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって」
「どうかしたんですか?」
興奮って。ドキッとしちゃったじゃん。
「普通は半日ぐらい掛けて終わらせる仕事だもの。数人掛かりで」
・・・やばい。あんまり仕事とかした事ないから一般基準を知らなかった。
これってそんなに大変な仕事だったのか?
「あんまり急ぎじゃなかったから慣れるつもりでやってもらったのに。僅か一時間足らずで終わらせてしまうなんて。社長にIFSを提案しようかしら」
「えぇっと、俺の奴が特別性なだけですよ。普通のだったら・・・」
どれくらいだろう? 基準が分からん。
「へぇ。コウキ君のは特別性なんだ。凄いのね」
「俺じゃなく俺のナノマシンが凄いだけです」
ん~とかニヤニヤしながら近付かないで下さい。
「アルバイト君は正式採用ね。仕事がはかどって助かるわ」
「あ、そうですか。お世話になります」
とりあえず稼げるだけ稼ぐか。
IFSの取り扱いの練習にもなるし。
「あ、そうだ。こいついじくってもいいですか?」
俺が現在扱っている端末に手を置きながら訊いてみた。
これじゃあ効率が悪過ぎて使い物にならない。
「いじくるって? どういう事?」
「効率が悪いんでね。ちょっと使いやすいように改良しようかと」
「そ、そう。壊さないでね」
「大丈夫ですよ。ま、任せてください」
「わ、分かったわ。じゃ、またね」
冷や汗を掻きながら去っていくミナトさん。
どうかしたのかな?
「・・・あれって最近入荷したばかりの最新OSなのに。それを改良するって・・・」
との呟きを残されていきました。
し、しまったぁぁぁ!
墓穴を掘ってしまった!
「・・・ま、いいか。むしろ、最新OSを特許に・・・」
ニヤリと笑う。
意外と良い手かもしれん。
「じゃあ、早速」
残った仕事を片付けて、OSの改良に移る。
「う~ん。どうすっかな」
OSの改良案が思い浮かばない。
とりあえず、分かっている事は俺のナノマシンの機能に対してこいつが対応し切れていないって事だよな。
まぁ、オモイカネ級の機能がなければMCも必要ないとかいう話も聞いた事あるし、オモイカネ級の簡易版でも開発しましょうか。
ってな訳で・・・。
「・・・アクセス」
遺跡へのアクセス権を行使。
既存の情報を入手。必要な設定をインストール。補助脳を介して手先の端末へ。
パーーーっと全身を光らせ、莫大な量の情報を補助脳で整理し、コンソールを通して具現化させる。
映像を文字化。文字をプログラム化。情報を整理し、情報を具現化し、情報を形にする。
「ふぅ・・・」
な、何だ? こりゃ。
頭が潰れるっての。
遺跡へのアクセスとか今後覚悟がいるぞ。
「・・・でも、ま、後はこれをチョチョイといじくって」
現状では高機能過ぎる。十年後ぐらいのOSを参考にしちまったからな。
これをかなり劣化させて一、二年後ぐらいには実現出来そうなOSにしよう。
今更ながら、何でもありだな。俺の身体ってか、遺跡。
過去、未来、平行世界の知識とか。半端じゃないっす。
「今度は何をしたの? はい。お茶の御代わり」
「あ、どうも。すいません。ちょっと改良してました」
さっきお茶をくれた人がまたお茶を持ってきてくれた。
あ~。前からお茶は好きだったが、更に好きになりそうだ。
「改良って?」
「OSのです。趣味なんですよね。プログラミングとか情報関係とか」
嘘です。
そんな趣味ありません。
遺跡の恩恵です。
「へぇ。凄いのね。このOSって最近発売されたばかりよ」
「そうみたいですね。でも、発売されてないだけでもっと高度なOSは幾らでもありますよ。実用化が難しくて調整しているのとか」
実際は知らないけど、それぐらいありそうだよな。
表に出てないけど高度な技術とか。
「そうなんだ。じゃあさ、今のより凄いのが出来たら私の方にもインストールしてみてよ」
「はい。いいですよ。是非とも試してみてください。感想を聞いてみたいですし」
多分大丈夫だとは思うけど、実際に意見を聞いてみたいしな。
「言ったなぁ。私って辛口よ。このOSだってイマイチだって思ってた所だもの」
「大丈夫です。任せてください」
・・・もうちょっとだけ高度にしようかな。
「どれくらいで出来そう?」
「色々と調整したいですから。結構時間掛かりますよ」
「大丈夫よ。開発なんて年単位でしょ。気にしてないわ」
「えぇっと。後一週間程で大丈夫なんですが・・・」
だって、面倒だから遺跡からそのままデータ貰っちゃったし。
「・・・・・・」
呆然とするお茶のお姉さん。
そうだよな。普通じゃないもんな。一応、言い訳しておこうか。
「前々から研究していましたから」
「そ、そうよね。そうじゃないと」
な、何だ・・・と呟く。
・・・ちょっと罪悪感が。
「ま、まぁ、完成したらすぐにお知らせしますよ」
「そっか。うん。よろしくね」
ニッコリ笑って去っていくお茶のお姉さん。
さて、少しだけ高度にして、汎用性を高めて、一般向けにしましょうか。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。ミナトさん」
ん・・・。
随分と入れ込んじまったな。
まさか、この作業がこんなに楽しいとは。
「今何時ですか?」
「・・・呆れた。時間も確認してないの? もう定時過ぎてるのよ」
「げ!? もう七時じゃないですか!?」
「そうよ。周りだってちらほらと帰ってるでしょ?」
「あ。本当だ」
辺りを見回すと何人かいなかった。
何人かの残っている人達は今でも真剣に作業している。
「じゃあ、帰りましょう。何が食べたい?」
「えぇっと。そうですね。お任せします」
「もぉ。お任せが一番困るのよ。そうね。じゃあ―――」
「ハ、ハルカさん。ど、同棲しているんですか!?」
声が聞こえていたんだろうな。騒ぎ出す秘書課の皆さん。
・・・俺は見ましたよ。今、貴方の顔がニヤリと笑ったのを。
「・・・ミナトさん。またからかうつもりですか? 他の人まで巻き込んで」
「さぁね。あ、ちょっと用があったわ。先に玄関に行ってて」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ミナトさん。ミナトさぁぁぁん」
それから質問攻めを受けました。
終わった頃にはもう精神的にボロボロでした。
あぁ。やっぱり女性は強いです。僕では一生敵いそうにありません。
「あら。女性に囲まれていたのに元気ないわね。貴方ぐらいの年頃の男の子だったら飛び上がらんばかりに喜ぶんじゃないの?」
「・・・誰かさんが爆弾を落としていきましたから。その処理で大変だったんですよ」
「へぇ。大変だったのね」
貴方ですよ。ミナトさん。
「それじゃあ、買い物に行きましょうか。貴方のスーツとかも買わないとね」
「え? い、いいですよ。そんな」
「いいの。いいの。いつまでも私服で会社なんてまずいでしょ? スーツでバッチリ決めちゃいなさい」
決めちゃなさいって。
「でも、もう時間も遅いですし」
「大丈夫。昼頃に知り合いに電話しておいてから。今からでも充分間に合うわ」
「そ、そうですか」
準備がよろしい事で。
「じゃあ、御願いしてもいいですか? 稼いだら返しますんで」
「ふむふむ。君も男の子だね」
「もちろん。男の子です」
顔を見合わせて笑う。
本当に頼りになる、というか、心強い姉貴分だな。
ルリ嬢が慕ったのが良く分かる。
「ほら。ボ~っとしてないで。行くわよ」
「あ、はい。今行きます」
それから、スーツとか買って、食材を買って、家に帰宅した。
また悶々とした夜を過ごしたのは俺だけの秘密だ。
翌朝、買ってもらったスーツに身を包む。
「昨日も見たけど、結構似合っているじゃない。男前よ」
「あ、ありがとうございます」
美人さんに男前だなんて言われると照れるな。
「ほら。照れてないで行くわよ。今日も忙しいんだから」
「あ、はい」
昨日と同じ道を通って、昨日と同じように会社へと出社した。
「おはようございます」
「あ、おはようございます。ハルカさん。マエヤマ君」
挨拶してくれる秘書課の皆さん。
嬉しいんだけど、女性ばっかりでやっぱり肩身が狭い。
「じゃあ、また仕事持ってくるから、ちょっと待っていてね」
さてっと、今日はIFSの扱いにも慣れてきたし、ちょっとしたハッキングの練習でもしようかな。
まだ、戸籍の捏造とかは無理でしょ。技量的に。
「ふぅ・・・」
深呼吸して、コンソールに手を置く。
今日も忙しい一日が始まるぞ。