機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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気付いた想い

 

 

 

 

「ハァァ。夢の旅路もここで終わりか。また女房のケツに敷かれんのかよ」

 

ウリバタケさん。

駄目男に見えますよ。

 

「私達、これからどうなるんでしょうか?」

 

皆が皆、暗い顔をしている。

そうだよな。軍人にブリッジ占拠されて、監禁されているんだ。

不安になるのも当然か。

 

「おいおいおい。何を暗くなっているんだよ!」

「当たり前じゃないか。希望が絶たれたんだからよ」

 

そんなに家から逃げたいんですか? ウリバタケさん。

 

「そんな時はこれだ!」

 

ビデオテープを掲げるヤマダ・ジロウ。

噂のゲキ・ガンガーか。

 

「お? 何だ? 何だ?」

「元気が出る熱い奴だよ!」

「ほぉほぉほぉ。お前も男だな」

「おうよ! 熱く燃えるのさ!」

 

残念ですが、ウリバタケさんが考えているのとは違うと思いますよ。

というか、こんな公衆の面前でいかがわしいものはありえないかと。

 

「何だこりゃ? アニメかよ」

「なにぃ!? ゲキ・ガンガーを馬鹿にするな!」

 

わいわいと騒がしいな。

ま、元気が出て良いか。

雰囲気、暗くなくなったし。

 

「マエヤマさん」

「マエヤマ」

「・・・・・・」

 

ん? ルリ嬢とテンカワさんか。あ、ラピス嬢もいるな。

どうしたんだろう?

 

「お前は―――」

「コウキ君」

「ん? あ。ミナトさん」

 

テンカワさんの言葉を遮って俺に近付いてくるミナトさん。

何だろう? どうかしたのかな?

 

「何です? どうかし―――」

 

バチンッ!

 

「・・・え?」

 

殴ら・・れた?

頬が焼けるように痛い。

でも、そんな事より、何で?

 

「・・・・・・」

 

無言で俯くミナトさん。

俺からはどんな表情をしているのか分からなかった。

 

「・・・どうして?」

「え?」

「どうしてあんな危険な真似したの!?」

 

凄く怒っている様子。

あの優しさを感じさせる柔和な顔をこれ以上なく歪ませて・・・。

 

「危険な真似?」

「銃を持っている相手に挑発するなんて何を考えているのよ!?」

「ちょ、挑発だなんて、俺は」

「バカ!」

 

叫びと共に抱き締めてくるミナトさん。

その顔には涙が浮かんでいた。

顔を真っ赤にして、怒りながら・・・泣いていた。

 

「私、コウキ君が殺されちゃうんじゃないかと思った」

「・・・ミナトさん」

 

そっか。俺の為に・・・泣いてくれているんだ。

 

「撃たれないって自信があったのかもしれない。でも、相手は人間なの。逆上したら何をしでかすか分からないわ」

「・・・・・・」

「ずっと怖かった。いつかコウキ君が撃たれるんじゃないかって。・・・無茶しないで。私は貴方に死んで欲しくない!」

 

必死に縋りつくミナトさんが小さな子供みたいに見えた。

俺なんかの為に泣いてくれるミナトさんを愛おしく思った。

 

「・・・すいません。ミナトさん」

 

だから、俺には謝る事しか出来なかった。

弱々しく震えるミナトさんを力強く抱き締め、心の底から。

 

「心配・・・かけましたね」

「・・・・・・」

「本当にごめんなさい」

 

原作で誰も撃たれなかったから大丈夫だと思っていたんだ。

もう原作とは違うって理解していたのに。

殺される訳がないって過信して。

 

「・・・許さないわ」

「え?」

「絶対に許してあげない」

「えぇっと」

 

困ったな・・・。

 

「どうすれば許してくれるんですか?」

「・・・して」

「え?」

「・・・キス・・・して?」

「・・・ミナト・・・さん?」

「・・・キス。貴方がここにいるって私に教えて。私に貴方の存在を感じさせて」

 

・・・いつからだろう。

ミナトさんの事を想い始めたのは。

始まりは単純だった。

ミナトさんが俺に温もりと暖かさをくれたから。

きっかけはたくさん。

死んだら悲しんでくれるかなって思いを否定されたと誤解して勝手に心を痛めて。

悲しんでくれるんだって分かった瞬間、喜びが込み上げてきて。

想ってくれているんだと実感して、嬉しくなって。

近くにいてくれるだけで心が落ち着いて。

・・・傍にいてくれるだけで幸せで。

あぁ。やっと気付いた。

俺はミナトさんが・・・。

 

「・・・ミナトさん」

「・・・コウキ君」

 

・・・大好きだったんだ。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

コウキ君が殺される。

そう思っただけで心が引き裂かれるように痛かった。

失いたくない。傍にいて欲しい。

そんな想いが胸の中で膨らんできて・・・。

堪らなくなった。

暗闇の中を歩いているように、心が、身体が、恐怖で震えた。

怖くて怖くて堪らなくて・・・。

気付けば、頬を叩いていた。

どうしてそんな事をするのか?

何故、私の想いに気付いてくれないのか?

やり場のない怒りと悲しみで心がぐるぐると渦を巻いて。

そして、無意識に彼を求め、温もりを求めた。

視界は涙で滲み、足は恐怖で震え、腕は探し物を探すように彷徨う。

少しでも早く、少しでも強く、少しでも・・・。

私は必死に彼に縋りついた。

そこにいるんだって実感したくて。

死んでないんだって実感したくて。

でも、全然足りなかった。

温もりが、優しさが、私には全然伝わってこなかった。

存在を感じたい。

温もりを感じたい。

優しさで包まれたい。

だから、私は・・・。

 

「・・・ミナトさん」

「・・・コウキ君」

 

・・・唇で貴方を感じたの。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・コウキ君。好きよ」

「・・・ミナトさん。大好きです」

 

暖かくて、ずっと抱き締めていたかった。

唇の感触が心地良くて、ずっと触れていたかった。

見上げるように見てくる彼女が愛おしくて、俺は・・・。

 

パチパチパチパチパチ。

 

「え?」

「え?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・あ。

 

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「・・・グゥゥゥ・・・ギィィィ・・・おのれぇぇぇ!」

 

こちらを見る数多の視線。

女性陣の叫びと男性陣の血走った眼。

 

「・・・ミナトさん。これって」

「・・・え、ええ」

 

胸の中に収まるミナトさんと顔を見合わせる。

顔に赤みを帯びているミナトさんを可愛らしく思いながら、近くにいた女性に訊いてみた。

 

「あの、見ていました?」

 

すると・・・。

 

「うん。もう。バッチリ」

 

・・・素敵な返答をありがとうございます、お姉さん。

 

「・・・・・・」

 

興味やら歓喜やら憤怒やらの視線を向けてくる周囲を見渡した後、俺は見詰めてくるミナトさんを見詰め返して・・・。

 

「・・・とりあえず」

「とりあえず?」

「もう一回御願いします」

「もぅ。バカ」

 

見せ付けるようにキスしてやった。

 

「マーエーヤーマーコーウーキー!」

「テメェ! この野郎!」

「呪い殺すぞ! クソガキが!」

 

ふっ。ミナトさんは俺の物だ。

 

「開き直ると凄いのね、コウキ君って」

 

お褒めに預かり至極光栄。

 

「クゥ~~~! 熱いぜ。燃えるぜ。敵の策略に嵌り閉じ込められたクルー。助けを求める子供達。愛し合う男と女。一致団結し、基地を取り戻す主人公」

 

おぉおぉ。盛り上がっているじゃないか。ダイゴウジ・ガイ。

 

「自由を勝ち取れぇ! 基地奪還だぁ!」

「うるせぇ!」

 

ウリバタケさんの鉄拳がガイ、改め、ヤマダ・ジロウの後頭部へ飛んだ。

 

「グハッ!」

 

・・・痛そぉ・・・。

 

「おい! コラッ! マエヤマ!」

「何ですか?」

「テメェ! ミナトちゃんを俺に寄越せ!」

「馬鹿言わないで下さい。ミナトさんは俺の物です」

「コ、コウキ君」

 

誰にも渡さない。

掴んだ物は放さない主義ですから。

 

「クソォォォ! チッ! 野郎共ぉ!」

「へイッ! 御頭!」

 

・・・お前ら、どこの賊だよ?

 

「桃色の幸せを求め、こんな所抜け出してやろうじゃないか! 自由を奪え! 愛を掴み取れ! 次は俺達の番だ!」

「オオォオォオォオォ!」

 

凄まじい咆哮だな。

やる気が漲り過ぎだろ。

 

「な、何だ? 今の叫び声は」

 

叫び声が聞こえたんだろうな。

見張り番の兵士が扉を開けてこちらを覗き込んで来た。

 

「いくぞぉぉぉ! 続けぇぇぇ!」

「オオォォッォォオォ!」

「お? お? な、何だ? 何なんだ? うわぁぁぁ!」

 

哀れ。名も無き兵士は人の波によって押し潰されてしまいましたとさ。

 

「おい。マエヤマ」

「・・・テンカワさん」

 

怒涛の勢いで走っていく男性陣を見送る俺にテンカワさんが話しかけてきた。

 

「お前は食堂を護れ。時期が来たら連絡する。その後、ブリッジクルーをブリッジまで連れて来い」

「了解しました」

 

フッと笑って男達の方へ走り出すテンカワさん。

そして、男達の波の先頭に立って。

 

「ナデシコを取り戻す。ゴートさんと何人かは俺とブリッジへ。残りは格納庫だ」

「おう!」

「よし。行け!」

「うおっしゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

凄まじい勢いだな。おい。

 

「・・・コウキ君」

 

未だに胸の中にいるミナトさん。

どうしよう。放したくないけど・・・。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

女性達の好奇の視線に耐えられません。

 

「大胆ですね、マエヤマさん」

 

今更ですが、恥ずかしいので言わないで下さい、メグミさん。

 

「おいおい。熱過ぎて火加減間違えるだろ? 他所でやっておくれよ」

 

茶化さないでくださいよ、ホウメイさん。

ニヤニヤしていて丸分かりです。

 

「・・・ポッ」

 

子供にはちょっと早かったかな?

 

「・・・いいなぁ・・・」

 

すぐに恋人できますよ。ホウメイガールズの皆さんなら。

 

「・・・私もアキトさんと・・・」

「・・・アキトと・・・」

 

口に出したらまずいんじゃない? その台詞。

 

「あの、さ、恥ずかしいんだけど」

 

背の関係で見上げるように俺を見てくるミナトさん。

潤んだ瞳と頬を赤く染めた顔が愛し過ぎる。

 

「嫌・・・ですか?」

「え? い、嫌じゃないのよ。ただ―――」

「じゃあ、いいじゃないですか」

 

ふっ。恥ずかしさも限界を超えれば問題ないのさ。

今の俺に羞恥心という言葉は存在しない。

 

「もぉ。人が違うみたいに大胆になって。普通は逆でしょ?」

「偶にはいいじゃないですか。いじられるミナトさんって可愛いですよ」

「ッ!」

 

息を呑んで、もっと赤くなる顔。

あぁ。もう駄目だ。末期だな。

 

「まだ放したくあ―――」

『こちらテンカワだ。ブリッジを取り戻した。至急、な、何だ?』

 

良い所なのに邪魔するからです。

 

「睨まないの。アキト君。分かったわ。すぐに向かう」

『りょ、了解した』

 

ちぇっ。他の男と話しちゃってさ。

 

「あら? ヤキモチ?」

「そ、そんなんじゃありませんよ」

 

何で分かるんだ?

 

「顔に出ているわよ」

「ふ、ふん。他の男と話すミナトさんがいけないんです」

「ふふふ。拗ねちゃって。可愛い。続きはまた後でね」

「し、仕方ないですね。それなら」

 

渋々、本当に渋々ミナトさんを放す。

 

「ほら。行くわよ」

「はい」

 

手を引かれながら、俺とミナトさんはブリッジへ向かった。

どうやら、これからもミナトさんに引っ張られる事の方が多そうだ。

 

「ねぇ? 私達の事、忘れられてないかな?」

「・・・仕方ありませんよ」

「・・・いく」

「・・・ポッ」

 

 

 

 

 

「ようやく来たな」

 

ブリッジに辿り着いた俺達の視界に映るのは縛られた兵士達と気絶したキノコ副提督。

あ。提督はここで監禁されていたんですか。

 

「アキト君は?」

「格納庫へ向かった。艦長とミスターを迎えに行くらしい」

 

ミスター、要するに、プロスさんと艦長を迎えに、ね・・・。

すると、テンカワさんは時間稼ぎにいったという訳か。

ところで、クロッカスとパンジーはどうなったんだ?

間に合ったのか?

 

「遅れました」

「すいません」

 

あ。忘れていた。

 

「・・・マエヤマさん」

 

ジト眼で見られてしまいました。

すいません。

 

「ごめんごめん。ルリちゃん、状況を」

「はぁ・・・」

 

呆れられちゃった。

 

「チューリップ、こちらに接近中。途中、連合軍所属クロッカス、パンジーの両艦が襲われたようですが・・・」

 

・・・クソッ。間に合わなかったか。

 

「乗組員は脱出済みです。怪我を負った方もいるようですが、全員、命は無事です」

「そう。アキト君の時間稼ぎが功を奏したのね」

 

ほっ。良かった。

流石です、テンカワさん。

 

「アキトさんが足止めしているので接近といっても微速です。今のうちに対策を」

 

・・・確か、原作だとチューリップに突っ込みつつグラビティブラストだったよな。

あれは相転移エンジンの出力が低くて、普通に撃つだけじゃ力が足りなかったからだろ?

今回はどうなんだろう?

 

『こちらダイゴウジ・ガイ。いっくぜぇ!』

 

おいおい、おい、ちょっと待て!

勝手に出撃するなっての。

 

「メグミさん。ウリバタケさんに―――」

『もう遅ぇ!』

 

あ。前方にヤマダ機確認。

苦労をおかけます、ウリバタケさん。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

・・・どうしようか?

 

「アキトさん。そちらにヤマダさんが向かいました。対処の方、お願いします」

『骨折しているのに無茶をするな、ガイの奴。了解した』

 

面倒をおかけします、テンカワさん。

 

「艦長の乗った飛行機を確認。アキトさん。ヤマダさ―――」

『ダイコウジ・ガイだぁ! ガイ! ガイ! ガイィ!』

「・・・両名はチューリップを引き付けつつ、艦長の防衛を」

 

どうやら、今回も同じ作戦になりそうだな。

 

「ルリちゃん。レールカノンで援護に入る。良いかな?」

「現在の指揮権は提督にあります。提督に許可を」

 

今まで結構、自由にやっていたよね? 俺達。

今更感が漂っているんですが。

 

「提督。よろしいですか?」

「うむ。じゃが、どうするつもりじゃ?」

「本体に当てるとこちらに注意が向く可能性がありますので、両パイロットを狙う触手を蹴散らします」

「む、無理です。この距離であんな細いものに当てるなんて」

 

ふっふっふ。ルリ嬢。

俺を甘く見てもらっては困る。

 

「オモイカネ。レールカノンセット」

『セット開始』

 

コンソールに手を置いて、オモイカネに指示。

その後、懐からサングラスのようなものを取り出す。

 

「コウキ君。それは?」

「ウリバタケさんの力を借りて作った精密射撃専用のシューティングレーダーです」

 

このサングラスみたいなのはイメージ次第でズームインやズームアウトを行え、かつ、レールカノン一つ一つの照準を合わせられる射撃モニターを映し出す。

また、逐一情報も送られてくるから、まるでエステバリスから射撃するように精密な射撃が行える。

手元の端末と同期してあり、コンソールからの指令にこいつは従ってくれる訳だ。

名付けて精密君。ごめん、嘘。

 

『セット完了』

 

誤差修正ソフト、未来予想ソフト、空間把握ソフト。

これらスナイパーにとって垂涎ものの精密射撃ソフトを導入しているんだ。

俺が狙いを外す訳がない。

 

『う、うわっと』

 

早速出番だ。

 

ダンッ!

 

「す、凄い。この距離を・・・」

 

驚くのはまだ早いぜ、ルリ嬢。

 

『ナデシコ。助かったぜって、うお!』

 

ダンッ!

 

世話が焼ける。

 

『よっしゃぁ。このダイゴウジ・ガイ様の勇姿。見てやがれって、ダハッ」

 

ダンッ!

 

「ねぇ、ルリちゃん。ヤマダ・ジロウ。下げられない?」

「言う事を素直に聞いてくれるとは思えませんが?」

「・・・それもそうだね」

 

まさか、触手に翻弄されているヤマダ・ジロウを助ける為だけにレールカノンを使う破目になるとは思わなかったよ。

ま、テンカワさんに援護なんて必要ないだろうけど。

 

「艦長、着艦しました。すぐに来るかと」

「了解した。援護を続ける」

 

メグミさんもミナトさんも自分の仕事をしている。

ラピス嬢もセレス嬢もルリ嬢のフォロー。

うん。艦長がいなくてもやっぱりプロだな。

誰もが何をすべきか把握して、きちんと動いている。

 

「ナデシコで対処致しますので退避してください」

『しかし・・・』

「再度申します。ナデシコ以外で対処できませんので、退避を御願いします」

『・・・了解した』

 

これで連合艦隊が巻き込まれる事はなくなったな。

ナイスです、メグミさん。

 

「コウキ君。射線上に何もない位置へ移動したわ。これでグラビティブラストを撃っても被害は皆無よ」

 

かなり細かい微調整だったでしょうに。

助かります、ミナトさん。

 

「グラビティブラスト装填完了」

「・・・いつでも撃てます」

 

よし。後は艦長を待つだけだ。

 

「ルリちゃん。チューリップの様子は?」

「ほぼ停止状態です。アキトさんとヤマダさんに引き付けられています」

 

対処可能な環境を整った。

後は艦長の裁量によるな。

 

「お待たせしましたぁ!」

 

帰ってきたみたいだ。

 

「いやはや。大変でしたぞ」

「・・・・・・」

 

やっぱりジュン君は忘れてきたんですね。

 

「状況を」

「チューリップは両パイロットによって停止状態。グラビティブラスト発射準備完了」

「ミナトさん。射線上にチューリップを」

「とっくに終わっているわよ」

「メグミちゃん。連合軍に退避するよう連絡入れて」

「完了済みです」

「わお。皆、早いですね」

「感心してないで指示を御願いします、艦長」

 

こうまで周りが優秀だと艦長も楽だろうな。

 

「それでは、チューリップに気付かれないよう微速前進。チューリップの口にナデシコを接近させます」

「え? チューリップにくっつけるの? どうなっても知らないわよ」

 

ま、まぁ、普通はそうですよね。

 

「御願いします」

「はぁ~い」

 

説明してないんだけどな。

結構、お気楽ですね、ミナトさん。

 

「こちらの合図でいつでもグラビティブラストを撃てるようにしておいてください」

「了解」

 

徐々に迫るチューリップの姿。

触手を使ってエステバリスを払う姿はチューリップというよりはハエトリグサ?

いや。違うか。

 

「もっとです。もっと、もっと、近付いてください」

「食べられちゃうわよ?」

「構いません」

「あ、そう」

 

いやいや。構おうよ。

 

「・・・・・・」

 

暗い空間の中に入っていくのって結構怖いよね。

気味が悪い。

 

「・・・食べられちゃった」

 

呆れるように告げるミナトさん。

貴方も大概余裕ですよね。

 

「グラビティブラスト、放てぇぇぇ!」

「グラビティブラスト、発射します」

 

艦長の感情の篭もった叫びにルリ嬢はクールに告げる。

ま、対照的な二人だけど、それが良いバランスなのかな? ナデシコでは。

 

「チューリップの撃破に成功。エステバリスは帰艦してください」

「やったぁ!」

「やはり逸材だな」

 

高評価を得て満足そうなユリカ嬢。

周りも一安心って所かな。

 

「無茶するわね、艦長って」

「ま、結果よければ全て良しって奴ですよ」

「それもそうね」

 

顔を見合わせてミナトさんと笑い合う。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

な、なんか、照れるな。

 

「見詰め合っちゃっているよ、ルリちゃん」

「構いません。作戦は終了していますから」

「・・・ルリ。興味あるのバレバレ」

「なっ!?」

「・・・ポッ」

 

・・・聞こえていますよぉ。

 

「うふふ」

「ははは」

 

もう笑うしかないよな。

 

「どういう事ですか?」

「私も気になりますな」

「後で教えてあげますよ。艦長、プロスさん」

 

・・・結局、テンカワさん達パイロット組が帰ってくるまで照れ隠しをしていましたとさ。

 

 

「あ。副長はどうしました?」

「ジュン君? そういえば、どこに行ったんだろ?」

「・・・忘れてきましたな。いやはや。歳を取るとは怖いものです。ハッハッハ」

「・・・可哀想に」

 

というお約束があったのも忘れちゃいけませんよね。

・・・はぁ。次はビックバリア突破か。大変だな。

ご愁傷様です、ジュン君。

 

 

 

 

 

「マエヤマ・コウキ。一人の介入者の影響がここまでとは」

「ミナトさんと結ばれてしまうなんて」

「ツクモさんと結ばれるべきだと思っていたんだが・・・」

「それもありますが、どことなく違和感があります。私がオモイカネに秘密で御願いしていたのを知っていましたし」

「ルリちゃんが本気で隠したのをあいつは簡単に見つけてしまったという訳か。電脳世界で最強を誇るルリちゃんの」

「ええ。彼の影響がどれ程になるかまるで検討がつきません。もしかすると・・・」

「俺達の計画に支障をきたすかもしれんな」

「あの精密射撃もそうです。あんな事、普通の人には出来ません」

「射撃には慣れていたつもりだが、あそこまでの精密射撃は俺にも無理だな」

「能力を隠している。何故かはわかりませんが、私はそう思います」

「隠さなければならない理由がある。そう考えるべきか?」

「はい。彼の本当の目的が何なのか。それを見極める必要がありそうです」

「仲間を疑わなければならないとはな」

「仕方ありません。私達の計画を邪魔される訳にはいきませんから」

「あの状況でバラされるとは思わなかったからな。どうにか交渉に利用できたが・・・」

「もともとオジサンとの交渉に使うつもりでしたからね。キノコさんはどうでも良かったんです。意味がなくなるかと心配になりました」

「これからもそんな事をされたらいずれ邪魔になる」

「・・・どうしましょうか?」

「・・・そうだな」

「・・・・・・コウキ。良い人だと思う」

「・・・それでも、計画の為なら仕方ありません」

「・・・分かってくれるよな? ラピス」

「・・・・・・」

「ラピス?」

「・・・分かった」

 

 

 

 

 

「あれ? ミナトさん。胸元。どうしたんです? いつも開けていたじゃないですか」

 

・・・・・・あれ? いつの間に食堂に?

あれ? 俺っていつの間に着替えていたの? あれ?

何で眼の前に朝食が? ま、いっか。食べよう。

 

「当たり前じゃない。あそこはコウキ君専用なの。もう誰にも見せてあげないわ」

「ゴホッ」

 

グッ! 器官に詰まった!

 

「な、何を言っているんですか!?」

「あら? 誰かに見せてもいいの? 私の胸元」

「胸元と言わず何でも見せたくありません。視界に入れる事すら嫌です」

「うふふ。独占欲が強いのね」

「・・・ご馳走様です」

 

何か昨夜からの記憶がないんだよな。朝とかどうなっていたんだっけ?

制服を着た覚えもないんだけど・・・。ま、いっか。食べよう。

 

「マエヤマさん、ボーっとしていますね。どうかしたんですか?」

「私の部屋に泊まっていったもの、コウキ君」

「・・・それって」

「ええ。昨夜は大変だったわ。コウキ君ってば初心だし。朝だって私が着替えさせてあげたのよ。ずっとボ~っとしていて」

「ゴホッ」

「・・・ご馳走様です」

 

グッ! 器官に詰まった!

 

「えぇっと、その、あの・・・」

 

お、思い出したぁ!

お、俺って・・・。

 

「あら。真っ赤」

「分かりやすいんですね、マエヤマさんって」

 

微笑ましいみたいな眼で見ないで下さい。

 

「あぁ~あ。せっかく狙っていたのに」

「ごめんなさいね。我慢できなくなっちゃって」

「いいですよ。お似合いですもん、ミナトさんとマエヤマさん」

「・・・・・・」

「思考停止中みたいね」

「結構、手馴れてそうに見えたんですけどね」

「女性経験が少ないんでしょ? ま、私としては私色に染められるみたいで嬉しいけど」

「姉さん女房って奴ですか?」

「そうね。コウキ君ってまだまだ頼りないし。私が引っ張ってあげなくちゃ」

「じゃあ、これからマエヤマさんをミナトさん色に染めちゃう訳ですね」

「そうよん。うふふ。楽しみ」

「・・・・・・」

「まだ思考停止中ですよ」

「まったく。コウキ君ったら」

「・・・・・・」

「フゥゥゥ」

「ひゃっ」

 

ゾ、ゾクっときた。

 

「な、何ですか? おぉ!? 近い近い」

「耳が弱いのよねぇ、コウキ君って」

「耳に息ですか。典型的ながら有効的な訳ですね」

「何を真面目に解説しているんですか、メグミさん」

「あら。いいじゃない。ゾクってきたでしょ?」

「そ、そりゃあ、きましたけど―――」

「フゥゥゥ」

「や、やめてください」

 

ゾ、ゾクっときた。

 

「朝からお腹一杯です」

「止めてくださいよ、メグミさん」

「フフッ。嬉しそうですよ、マエヤマさん。私は馬に蹴られたくないので失礼しますね」

「メ、メグミさん、待ってください」

 

・・・行ってしまった。

 

「恋人の前で違う女性を呼び止めようとするなんて、いけない子ね、コウキ君」

「ミ、ミナトさん」

「罰ゲームよ。フゥゥゥ」

「ひ、ひゃっ」

 

・・・周囲の視線が気にならなくなった日の事でした。

 

 

 

 

 


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