朝? 眼が覚めると真っ白な空間にいました。
「・・・なんでさ?」
突如、視界に映る眩い光。光が止むとそこには可愛らしい少女がいました。
「・・・なんでさ?」
「いらっしゃい」
・・・いらっしゃいってどゆこと?
「ここ何処?」
俺、昨日、普通に寝たよねってか、本当にここどこだよ?
「ここは遺跡の空間」
「遺跡の空間?」
「ボソンジャンプ。そういえば分かるかな?」
ボソンジャンプってもしかしてあの!?
「ここはあれか。所謂、あの世界か?」
「そう。あの世界。貴方は迷い子。偶然に偶然が重なって、そこに更に偶然が重なるくらいの確立の低さでやってきてしまった哀れな子羊」
子羊っておい。別に何も信仰してないけど?
「冗談」
「・・・冗談かよ」
どこがだ!? どこまでが冗談なんだ!?
「詳しく事情を説明する」
・・・・・・・・・・・・。
「えっと、要するに、だ。ボソンジャンプは時空間移動。だから、平行世界であるこの世界にもやってこれるって訳だな」
「そう。過去、未来、平行世界。その全てから情報を摂取しているのが遺跡。でも、平行世界で私にアクセスしてきたのは貴方が始めて」
「アクセスというのは?」
「ナノマシンを介して私に接触してくる事を意味する。
何の因果か、貴方に遺跡アクセス用のナノマシンが注入されていた。普通は在り得ない。だから、偶然の三乗。奇跡」
「奇跡・・・ねぇ」
正直、俺には分からんよ。
「私の存在を知った以上、元の世界に戻す事は無理」
「え? ちょ、ちょっと待てよ。それなら、俺はどうなるんだよ」
「選択肢は三つ。1、記憶を消して元の世界に戻る。2、私がいる世界に移る。そして・・・」
「・・・そして?」
ゴクリッ。
「3、死ぬ」
や、やっぱり死ぬんかい! え、ちょっと待とうよ。
まだ俺ってばピチピチの十八歳。死ぬには少し、いやいや、かな~り早いんじゃないかな。
「普通に1でいいんじゃないか?」
「分かった。ただし記憶の消去は繊細な作業。もしかすると全ての記憶が―――」
「ちょっと待とうか!」
記憶を消すってもっとこう簡単に今から二時間前とか、そんな感じで消そうよ。
何だよ? 全ての記憶って。
人間の記憶能力ってそんなに複雑なの?
俺なんて昨日の晩飯も思い出せないぞ。
「なら、3?」
「何で3なんだよ!? 何故、死を要求する!」
「簡単」
そ、そうだよね。
殺すのが一番楽だよね。
でもさ、僕としてはもっと長生きしたんだよね。
とりあえず、六十八歳ぐらい?
「なら、2?」
2、遺跡の世界に移る。
・・・どうしよう?
記憶を消されるのも断固として拒否。
死ぬのなんてもっと拒否。
でも、あの世界って死亡確率高過ぎだよね?
ま、戦争だからしょうがないんだと思うけど。
あれ? ちょっと待て。
あの世界って一般市民にはそんなに危険はなかったっけか?
そうだよな。何か、一般人は戦争とか気にせずお気楽に過ごしてたし。
戦争の自覚がないから両者とも反省しないで次の悲劇に繋がったとか誰かが言ってた気がする・・・。
うん、もしや・・・安全か?
俺みたいな一般市民には戦争をどうする事も出来ないだろうし。
無難に安全に平和に過ごそうよ。
うん、そうしよう。
「分か―――」
うん? 待て。ちょっと待とうか。
それって家族とお別れって事かい? 友人とお別れって事でっしゃろか?
恋人と・・・はいないからいいとして。
結構、シビアじゃないかな?
あっちいったら知り合い皆無だなんて。
あぁ・・・俺はどうすればいいんだ?
「決まった?」
「うん、まぁ、一応は、ね」
「それで? どうするの?」
「2、かな」
シビアだけど。記憶消去とか死亡とかよりは良いかなって思った。
「でも、家族とか友人とかにさよならって伝えたいんだよね。急にいなくなったら心配だと思うし」
「・・・・・・・・・」
え? 無言ですか?
「終わった」
「え? 終わったって?」
「貴方の世界の過去にアクセスして、ナノマシンの侵入を防止した」
・・・万事解決じゃん。
「それじゃあ、俺はもう帰れるって事か?」
そうだよな。
原因が失くなったんだ。
俺はもう―――。
「無理」
「そうだよな。無理だよな・・・って無理!?」
なして!?
「そう。無理」
「ど、どうしてだよ!?」
「貴方にナノマシンが注入された時点で時間軸はズレている。私が干渉したのは貴方の世界であって、貴方の世界ではない」
「タイムパラドックス効果的な何かって奴? 良く分からんが・・・」
俺が過去に戻って親を殺したら俺は生まれてないからそもそも親を殺す事が出来ないとか、そんな変な矛盾が生じちまう理論。
「そう、つまり貴方はパラレルワールドの住民。貴方自身の存在は貴方の世界から消えるけど。違う世界で普通に過ごしている貴方がいる」
そっか。それなら・・・納得、とはいきませんのであしからず。
「おいおい。それじゃあ意味ないじゃん。俺は自分の両親とか友達ににお別れをしたいんだよ」
平行世界の俺とか知らんがな。
要するに、現行世界じゃ俺ってば行方不明のままなんだろ?
「管理者権限を行使した」
管理者権限って、おい、まさか。
「貴方が消える瞬間に平行世界と貴方の現行世界とを融合させた。今、貴方が元の世界に戻ったら貴方という存在が二人いる事になる」
「・・・要するに俺が消えたなんて事にはならずに周りは平穏な生活を送っている訳だな」
「そうなる」
そっか。それなら、安心だな。
・・・理不尽だけど。理不尽だけども!
「要求は達成した。準備は・・・良い?」
「良・・・ちょっと待とうか。いきなりそっちの世界に飛んで俺はどうなる? 知人も衣食住も何もかもないんだろ?」
「ない」
「・・・断言するぐらいなら何かしらの温情を与えてくれ」
せめて最低限生活できる程度には。
「分かった」
すると突然俺の体が光り出す。
・・・お~い。俺の身体に何をした?
「貴方に管理者権限を行使した」
「えぇっと? 何をしたんだ?」
冷や汗が止まらない。
嫌な予感が止まらない。
「1、遺跡へのアクセス権。今の貴方ならCCがなくても飛べる。DFがなくても飛べる」
「人体実験されちゃうじゃん!? あ。逃げればいいのか」
「2、ナノマシンとの親和性の向上。今の貴方ならMCを超える」
「無視!? マイペースだな、おい。というか、余計だよ。その効果。ナノマシンとか怖すぎるし! MC以上とか絶対頭がパンクするし!」
「3、ナノマシンの注入。向上効果のあるナノマシンを全て注入した。今の貴方ならナノマシンの複数注入も耐えられる。危険なのも調整して注入したから大丈夫」
「・・・・・・・・・」
もう駄目だ。
俺の身体は人外になっちまった。
平穏な生活さようなら。
危険な生活いらっしゃい。
あぁ。涙が止まらない。
「4」
「まだあるのかよ!?」
もう勘弁してあげてください。
もとい、勘弁してください。
「遺跡の知識。必要な時、必要な知識を取り出せる」
ん?
それなら・・・。
「もしや、過去も未来も」
「過去も未来も平行世界も」
おぉ。
それなら・・・。
「楽が出来る。何か困ったら特許を取ろう。後はそのライセンスとかで金が儲かる。おぉ。ニート街道まっしぐらか?」
「・・・・・・」
無表情。
でも、あれって呆れられてる?
「・・・・・・・」
無言が痛いっす。
「それと貴方という要因が存在する以上、私の世界も平行世界になる。パラレルな世界に歴史の修正力は存在しない」
「大丈夫。大丈夫。俺は歴史に関与するような事はしないから。平穏にお気楽に過ごすんだい!」
蜥蜴戦争? 火星の後継者? 俺には関係ないさ。
あ、でも、人体実験は容認できないな。
必要悪だなんて言われても納得できないし。
俺にはあの人達の思想も考えも理解出来ない。
「会社を興しても良い。軍人になっても良い。平穏に生きても良い。じゃあ・・・送る」
「分かった。何だか色々とオマケしてもらったみたいで悪かったな」
「いい。こちらも悪かった。喧嘩両成敗」
「いや、それはちょっと違うような・・・」
「バイバイ」
「・・・最後の最後までマイペースだったな」
こうして、俺はこの世界から追い出された。
マエヤマ・コウキ。
十八歳の旅立ちだった。
「最後に一言。絶対貴方は巻き込まれる。それが運命。貴方の決して逃れられない運命」
「って、おい!?」
不吉な言葉をありがとう。
それでも、俺は平穏に生きてみせる!