IS Inside/Saddo   作:真下屋

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Holiday of Seventeen # 箱庭ロックショー / UNISON SQUARE GARDEN


HofS:箱庭ロックショー

 すーはーすーはーと、何度も深呼吸を繰り返す少女。

 金髪にアメジストの瞳、中性的な美人とでも称されそうな顔立ちだが、隠しきれないスタイルの良さは彼女が女性であると優に物語っている。

 首元の開いた黒のポロシャツにチェックのミニスカート。太陽の下に惜しげもなく晒した長く魅力的な生足は、太陽光を反射し眩い輝きに満ちている。

 額に汗を滲ませ、その美貌に何かしらの覚悟を賭した表情をする少女。

 少女の名は「シャルロット・デュノア」。

 IS学園一年生且つフランスの代表候補生であり、フランスの大手ISメーカー「デュノア社」の秘蔵っ子である。

 

 シャルロットは一軒家の前に立ち、雰囲気を険しくさせながら何度もインターホンに手を伸ばす。

 その一軒家は立ち並ぶ家に対して遜色ない、普通の家だ。

 築十年以上、二十年未満といった所だろうか。古くも新しくもない。特に目立った特徴はなく、しいて言うならば庭にガーデニングスペースがある程度だ。

 

 かれこれシャルロットは5分以上、その家の前に立ちインターホンと睨めっこをしている。

 はっきり言ってこんな住宅街には不釣合いな人物で、どう見ても不審者だった。

 それでも、こういった光景に慣れ親しんでいる近隣住人は気にしない。気にもとめない。

 なぜなら、その家に掛かる表札には『織斑』と書かれているのだから。

 

「勇往邁進、勇往邁進。―――いけっ、ボク!」

 

 やっと覚悟が固まり、意を決して押したインターホン。

 その覚悟とは反比例し、「ぴんぽーん」と間の抜けた音が響いた。

 待つこと10秒(体感的にはたっぷり1分)、マイクからこぼれるノイズが、家の人間とのコンタクトが繋がったことを知らせた。

 

「―――はい、田村ですが」

 

「わ、ワタクシ一夏くんの友達のシャルロット・デュノぇええええええええっ!」

 

 驚き慌て、表札を確認する。確認し、確認し、確認し、どうみても織斑だった。

 少女は予想外の事態にパニックになる。

 パターンは幾つか想定していた。本人が出るパターン。彼の姉が出るパターン。不在なパターン。

 そのどれにも当て嵌まらないパターンに、シャルロットは困惑する。

 

 慌てる少女を他所に、家の扉から一人の少年がドアを開け出てくる。

 カラーTシャツにハーフジーンズ。ところどころ跳ねた髪と、幼さを残した成長途上の顔立ちが印象に残る。

 彼の名は「織斑一夏」。

 少女が訪問しているくだんの家―――織斑家―――の長男であり、ワールドワイドにその存在を騒がれている少年である。

  

「オッス、おらイッピー! 五日ぶりじゃん、どうかした?」

 

「あれ? さっき『田村』って。え、でも表札『織斑』だし。あれ、あれ?」

 

「ああ、さっきの田村って答えたやつ? アレは嘘だ。お探しかどうか知らねーけどここが織斑邸で間違いねーよ」

 

「どんな嫌がらせだよ! 一夏はいちいち行動が奇想天外すぎるよっ!」

 

 シャルロットは自分の想定外のパターンしか取らない少年への不満か、取り乱したことへの羞恥の裏返しか、一夏に対し怒りを露わにする。

 対して一夏は、ゆるい態度で謝りおざなりに場を収めようとした。

 内心、シャルロットはそれ程怒ってもいない。

 ただ会話の切欠として、普段の自分のペースが掴みやすい「怒ったフリ」を選んだだけだった。

 

「ごめんって。でもちゃんと理由もあんだよ。

 結構姉さんのファンとかが家を訪ねてくることもあってさ。

 ああやって他人の、ハウスキーパーのフリしてやり過ごすようにしてるんだ。

 いちいち応対しているとしんどいのなんのって」

 

 ウンザリした顔で頭をかき、ため息をこぼす。

 シャルロットはその現場を想像し、一夏の大変さの一端を感じ重い息を吐いた。

 

「簡単に想像できちゃって、怒るに怒れないよ」

 

「話の分かる女で助かるぜデュノア先輩は」

 

「シャ・ル・ロ・ッ・ト! もう、一夏、わざとやってるでしょ!」

 

 怒りを再燃させ、プリプリと『怒ってます』と態度を露わにする少女。

 少年はその姿に堪えきれない笑みを浮かべ、上っ面の謝罪だけでごまかす。

 平凡な、いつも通りのやりとり。

 いつもと変わらぬ少年の平時運行で、少女の緊張はとっくに溶けていた。

 

「お詫びという訳でもなけれど、時間があるならお茶ぐらいだすよ。上がってく?」

 

「うん!」

 

 むしろその為に来たんだから、と聞こえぬ声で呟き、少年の背中の裏でほくそ笑む彼女。

 また、少年は心の中でピンク色なゴムの「買い置きあったっけえええええ?!」と目に血管を浮かばせながら自問するのだった。

 

 

 

 

 

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「アハ、アハハ、……はぁ」

 

「そんな残念そうな溜息しないでくださいまし。わたしくだって同じ気持ちですわ」

 

 程なくして来訪したセシリア・オルコットに、二人きりの時間を邪魔された。

 こうなる気はした。したからこその先制攻撃。

 それを潰されてしまったのであれば、いたしかたあるまい。

 

「シャルロットさんは油断ならない方ですわね。

 誰にも何も言わず、いつの間にか一夏さんと行動を共にしているのですもの」

 

 まるで詰問するようなセシリアの口振りに、シャルロットは肩を竦めた。

 

「逆に聞かせて貰うけどさ。誰かに何かを言う必要があるの?」

 

 分かってるくせに分からないフリをする。

 その偽りの愚鈍さは、静かにセシリアの癪に障った。

 

「ないですわ。ないですけれど、どうなのでしょうね?

 貴女が本当に一人で戦うと言うのであれば構いません。

 けど、貴女が想像している以上に敵は多いですわよ」

 

 いつものにこやかな笑みはどこにいったのやら。

 シャルロットが浮かべるのは冷たい笑みだ。

 

「敵の敵は味方だって言いたいの? くだらないよセシリア。

 ぼく等みたいな関係で呉越同舟なんて有り得ない。仲良く転覆するだけさ。

 同じ立場でツルんで安心したいの『お嬢ちゃん』?」

 

 機嫌が悪いのがミエミエな刺々しい態度で接する。

 対するセシリアも、どうにも感情が昂ぶってしまっている。

 

「その自信がどこから湧いてくるか知りませんが、喧嘩を売る相手は選ばないと火傷しますわよ?

 失礼。それが理解出来る程上等な頭はしておりませんわね。

 なにせ、自分の性別を間違えるほどお馬鹿さんなのですから。ねえ、『シャルル・デュノア』?」

 

 互いの鋭い視線が、探るような視線が交わる。

 勢いのまま放った言葉は相手の怒りを買い、それは十分な火種となった。

  

「喧嘩売ってるんだよね、セシリア・オルコット」

 

 酷薄な笑みと視線に、セシリアは数秒瞳を閉じ、情報を反芻する。

 

「シャルロット・デュノア。父はダヴィッド・デュノア、母はマリエル。

 13歳の時に母と死別し、父方に引き取られる。その際にIS適正検査で高い適性が検出され、デュノア社のテストパイロットとなる。IS学園へは『シャルル・デュノア』として偽造戸籍を起こし、男性として入学。目的は織斑一夏に関する情報の入手、並びにフランス―――ひいてはデュノア社への引き抜き。その後正式な戸籍である『シャルロット・デュノア』として再入学。クラブは料理部へ所属しており、部では和風料理、特に肉じゃがの練習を熱心にしているとか」

 

 目を閉じたまま一息で語るセシリアは、一拍の間を置き続ける。

 

「必要であれば現在のデュノア社内部の構想、デュノア本家の家庭環境、シャルロット・デュノアの身長体重スリーサイズまで公開して差し上げますけど、いかが?」

 

 閉じていた瞳を空け、目線を合わせる。

 その瞳は怯えも竦みも感じられない。

 真っ向から向かい合い、一歩も引かない強い眼をしていた。

 

「転覆するほどの烏合の集にはならないと言いたいのか。

 はたまた出し抜く準備はいつでも出来てると言いたいのか。

 ちょっと判断に困るね。どちらにせよ、思った以上にしたたかだ」

 

「ご想像にお任せしますわ。単に裏事情も知ろうとせず粋がる輩が気に入らないだけですので」

 

 IS学園に、敵は多い。

 特に一年一組の生徒は触れ合う時間も多く、クラスの大半は彼に好意を抱いている。

 飾らない、気取らないその人間性は男女の仲を抜きにして好感を覚えるものだ。

 

 女の園に男が一人。 ルックスはそれなりなので人気が出ない方がおかしい。

 その上で、彼はアクが強い。

 セシリア・オルコット代表候補生との対戦でみせた、絶対的不利状況でも引かない野性味。

 凰鈴音代表候補生との対戦でみせた、一般生徒の盾となる自己犠牲の精神。

 何より、ラウラ・ボーデヴィッヒ代表候補生との対戦でみせた、彼の本質。

 魂と言い換えてもいい。

 

 

 それに心を動かされた人間は少なくない。

 

「だから手を組むって? 仲良しこよしってタイプじゃないでしょセシリア・オルコッ―――」

「―――IS学園には、一夏さんと肉体関係を持ったことのある女性が居ます」

 

 さえぎった台詞に、シャルロットは口が塞がらなかった。

 己が一番近い位置にいると確信していた女は、後続を鼻で笑い突き放していたつもりだったが、どうやらそれは間違いらしい。

 

 IS学園に敵は多い。

 その言葉の意味を、はじめて理解したシャルロットだった。

 

 

 

 

 

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「ごっめーん紅茶なくてさ、コーヒーで我慢してよ?

 ドリップオンだからインスタントよりはマシだと、個人的にはおもう……」

 

 人数分のカップとソーサー、スティックシュガーとクリープをお盆に載せて持ってきた俺は、何やら二人の少女から不穏な空気を感じ取り、コーヒーを配りながらもその原因について考える。

 イタズラがばれたか、俺の悪口大会になっていたか、乾燥機の中にあった忘れ物の下着を気付かぬフリして持って帰ったのが噂になったのか。

 目まぐるしく頭を駆け巡る人には云えない普段の行いに、自分のことながら呆れてしまった。

 やっぱアレか? たしかに布仏さんのスソを椅子に縛ったのはやり過ぎだったかと後悔する。

 いや、でもあれ実は谷ポンに指示されてやったんだけど。

 そりゃ全責任押し付ける訳じゃないけど、「織斑くん、本音とちょっと距離を置いてない?」とか言われた上で「これを機に絡んじゃいなよ!」と促されればやるしかないじゃん? 「こんなイタズラどーよ?」って笑顔で提案されたら乗っちゃうじゃん? むしろ谷ポンに乗りたいじゃん!

 結果、布仏さんは転んでしまった。

 咎める視線が俺に集中するさなか、俺は谷ポンが裏切って皆の後ろに隠れたのを見つけてしまった。

 

「ハ ナ ガ サイタ ヨ」

 

「一夏ヤバイヤバイヤバイやばいってそれは!」

 

 ええい、クラスの十分の九に冷たい眼をされればこうもなろう!

 絶望した! 誰も俺の味方をしてくれなかった現実に絶望したっ!

 布仏さんは最終的に笑って許してくれたが、だからこその罪悪感も半端じゃなかった。 

 新学期に皆が(俺も含めて)忘れてくれていることを祈ろう。

 

「祈った所で何も変わりませんわよ?」

 

 うっせーよ何と戦えってんだよ。それともRevo様ディスってんの?

 超えちゃいけないライン考えろよ(震え声)

 

「あーはいそうですねー。貴族様はお偉いこって。

 その立派さが態度と行動に表れてますもんよ」

 

「棘がありますわね。卑屈すぎまわよ? 何をそんなへこんでいるか知りませんが、わたくしの買ってきたケーキでも食べて機嫌を直してくださいまし」

 

「セシリア、お土産あるんだ。ぼく何も持ってこなかったよ」

 

「気にすんなよ。手土産持参なのは嬉しいけど、そんなもんで気兼ねされたら困る。

 基本的には気が向いたらとか、なんか世話になるときだけでいーんだ」

 

 もしくは、ご家族への挨拶とかね。

 ぼそりと補足したシャルロットの声に、セシリアは咳払いで気まずさを誤魔化した。

 なにこの水面下のバトル。俺帰っていい? 

 

「帰るも何も、ここが一夏さんの家でしょうに」

 

「まさか、遊びに来た女の子を追い返すなんて真似、一夏はしないよね?」

 

 なんとも駄々もれらしい俺の気持ちは、セシリアに呆れた顔をさせ、シャルロットからは恐い笑顔を頂戴するのだった。

 これには思わずイッピーも苦笑い。

 しかしCMの後、更に驚くべき事態が!

 

 

 

 

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「ケーキ、足りませんわね」

 

 セシリアは不満げにぼやく。

 インターホンに呼び出された一夏は、続々とその数を増した客人を招きいれた。

 

「来てたのか、お前たち」

 

 ノースリーブから惜しげもなく肌を晒している超絶美少女・篠ノ之箒がソファに座る。

 座るときにたゆんと揺れた胸も特筆すべきだろう。

 

「シャルロット、誘ってくれてもよかったではないか」

 

「ごめんね、ラウラ」

 

 ほのぼのとした雰囲気の二人。

 

「お前は、またそうやって平然と抜け駆けを……」

 

「夏休みのアプローチに関しては何も約束はしてなかった筈ですわよ、箒さん?」

 

 それとは相対的に棘のある箒の視線と、どこ吹く風としれっとしているセシリア。

 これはこれで、仲が良いのかも知れない。

 誰かに自分の気持ちを露わにする。

 箒にはずっと、こうやって素直に感情をぶつける相手がいなかった。

 家庭環境に引き摺られ、あまり年相応な人間関係を結ぶことができなかったのだ。

 なので、純粋に―――。

 

「なんなの。なんでお前等全員ノーアポで人の家にくんの? 誰一人として連絡もらってないけどどういうこうなの?

 俺がおかしいの? 俺ん家集合なのは別にいいけど実は俺ハブられてんの?」 

 

 意外! それはイジメ!

 姉さん、事件です。

 今回のターゲットはなんとあの有名人、織斑一夏。

 世界にたった一人の男性IS操縦者であり、世界的に見ても超VIPな少年である。

  

 

「あの時はもう駄目かと思いました。クラスに男一人、周りは全て敵となった状況で私は諦めてました」

 

「一夏ってたまにトリップするよね。正直、恐いんだけど」

 

「ああ、キモイな」

 

「おいいいいいいいい! ボーデヴィッヒちゃんキモいとか友達に言っちゃ駄目だろ!」

 

「大丈夫だ。心理学にも詳しい医者を紹介してやる。従軍してると心を病む者も少なくない」

 

「いや、だから本気で心配してるんじゃねえよ失礼だろこのゲルマン女。

 ことあるごとに俺を精神疾患な人にしようとしてんじゃねーよ」

 

「安心しろ、指折りの腕利きだ。嫁の病気と闘うのも私の仕事だ。―――決して見捨てない」

 

 キリッ、と効果音が聞こえそうな効果音とともにキメ顔を披露するラウラ。

 一夏は頭が痛いと言いたげに、髪をかき上げた。

 歪ませた顔はこの少年には珍しく、なんと口にすればいいのやら、といったものだった。

 

「セシリア、なんで顔を紅くしてるの?」

 

「ななななんでもありませんわ!」

 

 シャルロットは目敏く、セシリアの表情の変化に気付き言及する。

 

「け、決して今の一夏さんの仕草にトキめいていたりはしませんことよ!」

 

「……テンパリ過ぎじゃないかな?」

 

 『髪をかきあげる仕草』は女性が魅力的に感じる男性の仕草にランクインしている。

 確かにドキリとする女性も少なくはないだろう。

 それでも、セシリアの反応はあまりに顕著だ。

 あの尻軽そうな金髪は発情しているのかもしれない。

 

「忘れてくださいまし。あまり広げたい話でもありませんので」

 

「そう露骨に嫌がられると気になるな」

 

「箒さん、私が普段弱みを見せないからってここぞとばかりに攻め込もうとしてませんか?

 ……ちょっと、なんですのその『え、コイツいつもあんだけ抜けといて何言ってんの?』的な顔は!」

 

「いや、英国貴族は流石だなと。あれだけヤラかしといて失敗だと思ってないなんて、大物にも程がある」

 

「嫁よ。この女、夏休み前に教室で机にロングスカート引っ掛けて盛大に下着を披露していたぞ。

 やたらエロティックな下着だったので記憶に残っている」

 

「忘れてくださいまし! セシリア・オルコット一生の不覚ですわ!」

 

 え、何それ見たい。

 一夏の本音は自然と口からこぼれ、ギロリと女性陣から睨まれる。

 

「それで、セシリア。どういった話なのさ?」

 

「シャルロットさんまで。はあ……。……別にいいですけど、あまり面白い物でもありませんわよ」

 

 『髪をかきあげる仕草』には、思い入れがあるのです。

 そうセシリアは前置きし、口を開いた。

 

 最近、遺品整理で手付かずだった母親の寝室に手を出した所、母親の日記が見つかった。

 そこには溢れるほどの私への想いと、妬けるほどの父への想いが綴られていた。

 そう、うだつの上がらない母のイエスマンだった情けない男性。

 私の男性への蔑視を冗長した父への愛が、余すことなく。

 否、余して余りある程に。

 

 父は婿養子で、会社では母の秘書をしておりました。

 母には顎で使われ、他の社員からは馬鹿にされていました。

 私も誰かが下したそのくだらない評価に影響され、父のことを見誤っておりました。

 でも、違ったのです。

 父は他人の軽視を愛想笑いで受け流し、会社の不満や汚れ仕事を自ら引き受け、いつなんどきも母を支えてました。

 父にその役回りを押し付けてしまう母は、自分の弱さを日記の中で何度も悔いていました。

 強い方だったのです。

 私より、私が尊敬していた母より、きっと、ずっと。

 

 父がたまに、髪をかきあげていたんですよ。

 そういった時の父は、ヘラヘラしてなくて。びっくりする位平淡な、冷たい顔でした。

 いつもそういう顔していれば舐められないのに、なんてわたくしは思っていました。

 母はあの仕草に関して、こう日記に記してました。

 普段の「役割」としての彼でなく、彼の垣間見える本質で、この歳になっても見るだけでゾクッとするって。

 本当はわたし、きっとびっくりじゃなくてどきっとしてたんですよ。

 母娘だなって、笑っちゃいました。

 

「セシリアのご両親って……」

 

「ええ、鬼籍に入っております」

 

「ごめん、セシリア」

 

「謝らないでくださいまし、シャルロットさん。貴女だって実母を亡くしておいででしょうに。

 箒さんと一夏さんは家族バラバラですし、ラウラさんに至っては生物学上の両親しかいない。

 言い方は悪いですけれど、誰一人まともな家庭環境の方などおりませんわ。

 それに、わたくしは恵まれておりますもの。

 母はオルコット家を背負う女傑で、父はそんな母を惚れさせる程魅力的で、強い方でした。

 ―――立派で、誇れる両親でしたから」

 

 

 そういって朗らかな笑みを浮かべるセシリア・オルコットは、人間としての深みを増した顔付きをしていた。

 

 

 

 

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 湿っぽい雰囲気を吹き飛ばそうとゲーム大会に励む俺達。

 IS/VSで白熱し過ぎてリアルにISでVSしそうになってしまったのはご愛嬌。

 代表候補生と第四世代機でバトル。そんなエクストリームなバーサスはご勘弁願いたい。

 間違いなく織斑邸が半壊するか全壊するか、もしくは焼け落ちるわ。

 

「まあ、そんなんやった日にはチッピーがガチギレして殲滅されるな」

 

「教官は確かに恐ろしいが、そう物騒な思想をお持ちではあるまい」

 

「そりゃあ『教官』、『教師』だからだろ。

 あの人は仕事ではピシっとしてるが、プライベートとなると案外てきとうだ。

 それは怒り方面でも適用されるぜ? いつもの説教とは訳が違う。

 ただただ怒りをぶつけてくる千冬姉は、恐竜と大差ない」

 

 苦い記憶を思い出し、ちょっとブルっちまった。

 主にゴールデン的な玉がヒュンってなった。

 

「恐竜はあんまりだろう。ましてや教官はいま、ご自身の専用機をお持ちでない」

 

「え、なにお前。クロックアップした織斑千冬を止められんの? マジなら結婚してください」

 

 お前それ織斑千冬(サバンナ)の前でも同じ事言えんの?

 生身なら勝てる? 甘いわー。ドラ焼きに蜂蜜をかけるが如き思想! 甘過ぎ。

 バイオライダーを前にしたゴルゴムの怪人並みに甘いわ。

 

「ならば全力を以って挑もうではないか。我とレーゲンで屍山血河を築こうぞ」

 

「恐いなら無理をするなラウラ。膝が笑っているではないか」

 

 平静な顔のその下で、ラウラの膝は笑える程震えていた。

 多芸な奴である。その多芸の一環で屍山血河を作る筈だ。……己の身で。

 

「篠ノ之、私を見縊るでない。コレはそう『武者ぶーい』だ」

 

 誰も突っ込まない。ラウラの震えで机の食器がかちゃかちゃ鳴る音だけが響く。

 言えてねぇ、言えてねぇよラウラ。

 あのKYクイーンなオルコットお嬢様ですら「うわぁ……」って顔してんじゃねえか。

 その残念さ、エクストリーム。

 

「冷汗三斗の真っ只中わるいけど、話題の人が帰ってきたみたいだよ?」

 

 リビングで寸劇をしていた俺の変わりに、シャルロットが誰かさん(鍵を開けて表から入ってくる人間なんて家人以外いるまいに)の来訪を教えてくれた。

 俺は黙ってさっきまで自分が使っていたコップに氷を足し、麦茶を注ぐ。

 

「おかえりんこ」

 

 部屋に上着を脱ぎながら入ってきた千冬姉は、スッと差し出されたコップを受け取った。

 

「ただいまん『ゴッ』」

 

 まるでこぶしで頭を勢い良く殴りつけた様な音が響く。

 あまりの痛みにフローリングをゴロゴロと転がるイッピーなど存在しない。しないのだ。

 姉はそんな俺を華麗にスルーし麦茶を飲み干した。

 え、なにそれこわい。

 平然と今の仕打ちを無視する俺の姉がこわい。さっきの俺モップだったよね? モッピーだったよね?

 セクハラをしようと織斑千冬そっくりの女の子に悪戯してみたら、オレがモップになっていました。

 

「イッピー知ってるよ。悲しみの、向こうへと、辿り着けるなら、ボクはモウいらない! 何も! 捨ててしまおう!」

 

「織斑せんせー。あまりの痛みに弟さんがバグってますけど……」

 

「先生ではない。お前等と違って短い休みだが、私ももうオフだ。

 そう堅苦しく構える必要は無い。遠慮せず好きに振舞え」

 

 上着をポールハンガーにかけ、どっかりとソファーに座る

 そして俺の取り皿にあるケーキを自然に口に入れた。

 え、なにそれこわい。

 平然と人のケーキを勝手に食す俺の姉がこわい。

 誰もが恐れるあの織斑千冬が、ぼくの特注ケーキを食べたようです。

 

「うむ。美味かった」

 

 感想だけ残して席を立つチッピー。

 あの女、実はケーキ食うためだけに俺殴ったんじゃね? 

 別に甘いもの好きじゃないから言ってくれたらあげましたわよ。殴られ損だよ。

 いやアイツたぶん弟を無碍にする姉ってキャラ立てする為だけに俺殴ったよ。イッピー知ってるよ。

 なにそれ危ない。精神的に危ない人じゃないですか。え、あんなんが俺の姉なの?

 この家にお医者様もしくは精神鑑定者さまはいらっしゃいませんか?

 

「よし、人生ゲームをしよう」

 

「……あの、織斑先生? まさかとは思いますが」

 

「先生ではないと言っている。今の私は集団に属していない個人だ」

 

 戻ってきたチッピーはそう言って机に『人生ゲーム ハッピーファミリー ○当地ネタ増量仕上げ』を置いた。

 なんの躊躇いもなくKOTYノミネート作品を持ってくるとは。

 コイツ、出来る……ッ!

 つーか普通に十代の集いに混ざろうとすんなよ空気読め。

 僕の姉は空気が読めない。

 

 

 

 

 

 

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「って訳で、どうよ?」

 

「お前は脳内で誰と会話してるんだ。物事をすっとばしすぎだ」

 

「確かに。一夏さんは常日頃から思考が迷子になってますわね」

 

 あれ、なんだか冷たいこの二人。

 チッピーとセッシーって実は相性いいのよね。

 セシリアって尊敬している人間には礼を尽くすタイプだし、向上心あるし、素質がある。

 教える側としては良い生徒になるんだよな。

 理屈で考えるタイプは、理論さえしっかりしてやれば学んでくれるし。

 たまに放課後バトルフィー、課外授業しているらしい。

 マンツーマン課外授業。

 俺にもしてくんねーかな。

 

「おい嫁、来週、良い医者を紹介してやる。ウチの隊員も何度か世話になっている腕利きだ」

 

「ラウラ、その何気ない発言はガチっぽくてグサりと一夏の胸に刺さっちゃうから、その辺で辞めてあげた方がいいと思うよ?」

 

 あれ、なんだか遠いなこの二人。

 ラウラとシャルロットってかなり仲良いよね。

 噂ではたまに一緒にお風呂に入ってるとか。

 おいラウラ替われ。はよ。

 

「私は赤だな。白も好きだが」

 

「一人紅白とはよくばりさんめ」

 

 赤は情熱的とか我が強いタイプ。 

 白は確か潔癖とか真面目とか。

 

 ねえ、なんで今ので箒会話が成り立ってるの? 分からん。

 何気に箒さんも頭イってますからねぇ。お前、けっこう篠ノ之には厳しいよな。

 おいガールズ、むしろ話を読むんじゃなくて流れを読め。

 モッピーこう見えて他人の機微を詠むのは得意なんだぜ。

 普段自分でいっぱいいっぱいでそれどこじゃないけどな!

 あと言ってる俺ですら何を読まれたのか分からんがな!

 イッピー知ってるよ。俺の幼馴染がこんなにホラーな訳がない。

 

 それはそうとてご説明。

 『好きな色からの性格判断』という趣旨を理解した皆の回答が、続々と発表される。

 

「わたくしは青ですわね」

 

「セシリアもなかなか順応早いね……。黄色か緑かな?」

 

 青、立場とかを大事にする。慎重で、他人とよく比較する。

 セシリーはなんかイメージに合ってて良い感じだけど、シャルロットてめーは駄目だ。

 黄は忘れたが、緑はおだやかで愛想の良い感じだった筈。

 あれ、そのまんまじゃん。むしろなんか狙いすぎてる感がしやがりませんか? 

 腹黒プリンセスとしてのキャラはどこにいった。

 あとあんたの水着がオレンジだったことは、俺はしっかり覚えている。

 あとアクシデントで見えたピンクのポッ

 

「なんだ? 好きな色を言えばいいのか嫁?」

 

「気付くのおせーよ。あと嫁云うな。お前じゃ幸せにできんから俺はやらん。

 さっきの話に戻るが、俺が欲しければチッピーを倒してくる事だな。

 きゃつは織斑ブラザーズで一番の下っ端よ」

 

「任せておけ。教官も含めてゆくゆくは私の嫁にする。ゆくゆく、いつか、きっと。

 ちなみに私のトレンドは『茶色』だ」

 

「……ほう、云うものだな小娘。その話は後でじっくり聞いてやる。今日は歩いて帰れると思うなよ?」

 

 ラウラ は 逃げ出した!

 

 ……速いな軍人、即断即決即行動、ッつー奴か。

 凄いスピードで逃げていった。

 あれが脱兎か。

 どことなくウサギチックだよな、アイツ。

 兎さんのきぐるみ着たラウラとか、バニーな姿のラウラとか想像していない。

 ましてソレを脱がすさま等想像していない。いないッ……(全霊)

 

 茶色は保守的で堅実。あと失うことを極端に恐れる、とかだったっけ?

 

「『黒』だ。私はあまり選り好みはないが、一品物を買うときは大体そうだな」

 

 チッピーはゆるくウェーブしてる髪を紐でくくりポニーテールにした。

 七分丈の袖を軽くまくり、アキレス腱をゆっくり伸ばし、たっぷり十秒。

 一度だけ深く息を吸い込み、ロケットみたく飛び出して行った。

 

 黒、ねぇ。

 そのまんま過ぎてちょっと伝えらんねーや。

 あとあんたの下着が黒ばっかなんだけど青少年の育成上どーなのよ?

 

 

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「そんじゃ、ネタばらししまーす。好きな色による性格判断! 結果はこちらの雑誌をご覧あそばせ!

 以上、さあどうぞ遠慮なくご歓談くださーい」

 

「えええ! 今の放置していいのっ?!」

 

 放置せずにどうしろってんだ! 俺の手には余るわ!

 

「可もなく不可もなく、だな」

 

「箒さんは飾りませんわね。わたくしはちょっと、お高く止まった感じがして恥ずかしいのですが」

 

 馬鹿野郎、それがいいんじゃねぇか。

 ブランドを大事にする青色、女の子らしくて素敵じゃありませんか。

 何気に俺はあんたのロングスカートに心奪われてるぜ?

 ロングスカート>ミニスカート(一夏方程式)

  

「うん、これは譲れない。こう、なんっつーの? たくし上げた場合の破壊力とかパないし。

 見える美より、見えない美学を大事にしていきたい。そんな大人に、ワタシハナリタイ。

 でも俺、実はタイツとかも大好物なんだよなぁ……」

 

「一夏さん? タイツは食べ物ではありませんよ?」

 

「放っておけ。幼い頃からその男は妄想癖があってな。一度そうなると中々帰ってこなくてな。

 ―――とうッ!」

 

「あいだっ!」

 

 篠ノ之箒のチョップにより脳天直撃セガ○ターンされた俺は現実に帰還した。

 おい誰だ俺のドリキャス売った馬鹿。あと俺のゲームギア何処に消えた。

 

「箒は一夏の扱いに慣れてるね。今のはぼく、真似できそうにないなぁ」

 

「いや、真似すんなよ暴行だろ今の! 普通に名前呼んでくれりゃ気付くっつーの」

 

「一夏さん、恐らく普通は目の前に人が立っている時点で気付きますわ」

 

「正論すぎて反論できませんよ悪かったですねぇっ!」

 

 神は死んだ。

 全治無能な神様は、いつだって俺を救ってはくれないのだ。

 

「それで、一夏は?」

 

 シャルロットおぜうさまの首をかしげる仕草にちょっと胸きゅんしながら、俺は考えるのだ。

 白か、はたまた黒か。紫、ピンク、こげ茶、嫌いな色なんてないんですよねぇ。

 どれも大好きだけど、でもなんかちょっと違う。

 一番、心に浮かぶのは―――、

 

「『灰色』、かな?」

 

 

 

 

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 かれこれ二時間は遊んでいただろうか。

 マリカーでセシリアがあろうことかドンキー使いでしかも上手いことに爆笑したり。

 Wii Partyで一夏が皆から謀ったように狙い撃ちにされたり。

 スマブラで箒がメタナイト様無双による愛くるしいドヤ顔を披露したり。

 

 遊び疲れ、一息の休憩。

 話題は箒が読んだとある本について。

 ルームメイト・鷹月静寐の愛読書「CUTE!」に掲載されていた「女子力アップ」。

 

「この『とびきりの笑顔』というやつがよく分からんのだが、コツを教えてくれないか?」

 

「そんな計算尽くの『とびきりの笑顔』はすでにとびきりじゃないとぼくは思うな……」

 

 あーだこーだと盛り上がるガールズトーク。

 たった一人の男は、たまたまタイミングよく届いた宅急便の受け取りに行っている。

 内心助かったとでも考えていることだろう。

 

「『ドジっ子』要素……奥が深い。おいセシリア、このただの阿呆にしか思えない『わざと転んだ時のチラリズムがポイント!』とは何を指しているのだ?」

 

「なんでわたくしに訊ねるのですか箒さん? 悪意しか感じませんわよ」

 

 苛立たしげに返すセシリアに何を今更といった表情の箒。

 

「セシリアは被害妄想だなぁ、ははは……」

 

「なんで目を背けながら仰るのですか!」

 

 シャルロットの力ないフォローも火に油を注ぐばかり。

 セシリアのボルテージは順調に上がっている。

 

「いや、お前のは『パンモロ』だったな。すまんな、訊ねる相手を間違えた」

 

「~~ッ!! 貴女には武士の情けはないのですか!」

 

「私は武士でなく女子高生だからな……」

 

 金髪は頭が悪いらしく、日本人=武士といった図式が完成してしまっているようだ。

 

 裏口で物音がする。

 扉が開き、階段を昇る音。

 一夏は玄関に出ているので、千冬がウサギ狩りから戻ったのかも知れない。

 そう結論付ける箒とシャルロット。

 セシリアだけが訝しげに眉根を寄せた。  

 

「どうかした、セシリア?」

 

「いえ、きっと気のせいですわ」

 

 二階でドタバタと暴れる音がする。

 ドアの開いた音がし、階段を降る足音。

 音の正体は止まることなくリビングの扉を開き冷蔵庫へ直行する。冷蔵庫から牛乳を取り出し、そのままパックに口をつけて飲み、のそのそと二階へ帰ろうとした。

 

「コラー鈴! またあんた一夏さんのベッドで寝てたでしょ! 今日という今日は許さないからね!」

 

「あによー。本人の許可は取ってるわよー」

 

「平然と嘘つくなよ。取ってねえよ」

 

 宅急便の対応が終わったのか、一夏はリビングへ戻ってきた。

 

「あ、一夏さん! デートに行きませんか?」

 

「お、看板娘から常連のハートを掴み、今やファンクラブすらいる超時空シンデレラ、蘭ちゃんじゃん。

 ちょっとお客さん来てるから延期でお願いします」

 

「何時行くの?」

 

「今でしょ! ……いや、直言いたかっただけゴメン。お詫びといっちゃなんだが、この猫娘やるから。

 オオサンショウウオさん的なマスコットとしてどーよ。結構人気出ると思うよ」

 

「超時空シンデララー」

 

「こんな壊れたラジオみたいな声だしといて、国民的アイドルっていうんだから凄いですよね……」

 

 蘭はまだ寝ぼけマナコでかみっかみの鈴音を無視しつつペシペシと叩く。

 叩かれるたび「あによー」と鳴く鈴音。

 

「ああ、もうっ! いつも通り、変わってないですね!」

 

 夏らしく開放的にお洒落してきた蘭。

 

「おい嫁。なんだか人が増えているのだが」

 

 頭から木の枝を生やしつつ、首根っこを掴まれて帰ってきたラウラ。

 軽々と片手で女子高生を持ち上げている千冬。

 

「一夏、コイツ等はなぜ勝手に家に上がっているんだ?」

「いいんだよ。こいつらは身内だから」

 

 ノーアポで部屋に上がっていったであろう二人に不満を隠せない箒。

 

「女子中学生と仲が良いのは、あまり感心しませんわよ?」

「ロ、ロリコンちゃうわ!」

 

 それとなく冷たい視線を送り、牽制を忘れないセシリア。

 

「ちょっと、大人気ないよセシリア。一夏の家族なら大事にしなきゃ」

 

 いつもと変わらぬ笑顔と、柔らかい雰囲気のまま蘭に自己紹介を始めるシャルロット。

 

「おいおい、何人居んだよ? 今日はゆっくりまったりする予定だったのに。

 しかも誰一人連絡寄越さねぇーしどういうことなの? そういうサプライズ求めてねーよ」

 

 ブツブツ文句を垂れながらも、顔を嬉しそうにカメラを準備していた。

「何を隠そう、俺は記念写真取りの名じ」やかましく何かを騒ぎつつカメラを構える。

 その日、シャッターは何度となく瞬くのだった。

 

 

 

 

 そんな感じの『日常』を、日がな一日眺めていた私にメールが届いた。

 さっきまで眺めていたモニターの向こうに、まぶしい笑顔が写る。

「大事な人達の写真を、大事な人へ」と銘を打たれたソレは、やけに必死に私を海へと誘うのだった。

 感覚の無い筈の兎耳を私は擦り、呆れた吐息と共に口が弧を描く。

 元気というか、欲張りというか……。なんだかなぁ、いっくんは。

 

 根負けし同行した海で騒がしい一騒動が起きたが、それはまた、別のお話し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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===================没ネタ==========================

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 セシリア・オルコットとシャルロット・デュノアは、机越しに対峙する。

 優雅に傾けられたティーカップと、香る紅茶。

 ―――それを払拭する、一触即発な空気。

 

「よもや、貴女に先を越されるとは思いませんでしたわ」

 

「選ぶドレスもない身分でね。身軽さが取り得なのさ」

 

 怒気を孕ませながらも、高貴な振る舞いを欠かさない女。

 まるで男性の様な口振りで、上っ面の軽薄さを演出する女。

 

「こうも簡単に邪魔されるとは思わなかったよ。わざわざ忙しい日を選んだってのに」

 

「浅ましい。見え透いてますわよ、貴女。ああ、元々男性として入学してすぐバレた方でしたものね。

 演技も淑女の嗜みですのに、嘆かわしいことですわ」

 

「別に構わない。どうだって良い事だったからね、ぼくにとっては。

 オトコも知らずにオンナを語る寡廉鮮恥な処女に絡まれてちゃうのは、ちょっとウザいけれど」

 

 ドキリするような笑顔の奥に、冷たい敵意を覘かせる。

 その眼に対しフラットな表情のまま、セシリアは言葉の刃を突きつけた。

 

 

「所詮は妾の娘ですわね。頭も軽ければ尻も軽い。きっと貴女の本家も、吹けば吹き飛ぶ程軽いのでしょうね」

 

「貴族様はスケールが大きいなぁ。流石に電車丸ごと道連れにするだけはあるね」

 

 

 乙女の数多い隠し場所から流れる所作で抜かれた拳銃はデュノアの額をポイントし。

 ケーキを切り分けた細く鋭いナイフは掬い上げられオルコットの眼球へ寸止めされた。

 

 

「ねえ淫売。頭頂部にオトコを咥える穴を増やして差し上げましょうか」

 

「遠慮するよ。それよりその甘ったるいお花畑に、本物の砂糖をプレゼントしてあげる」

 

 

 寸分違わず互いの即死点(キルスポット)へ向けられた凶器は、今か今かと振るわれるのを待つ。

 放たれた瞬間、殺意が貫く拳銃と。

 引き金より早く、眼窩を抉るナイフ。

 交差した二人の手の先は一寸もブレることなく、鈍い輝きを放つ。

 

 

 かえりたく、なったよ。

 イッピー知ってるよ。ココが俺の実家だって。『ロアナプラ・俺支店』なんだって、イッピー知ってるよ。

 そこには家の中でクラスメイトが殺し合いの一歩手前になっていて青傍テルマなみに『(意識が)山にいるね』なサマーバケーション中の高校一年生の男子が居た。

 て云うか、俺だった。

 

 




ヒウィッヒヒー @mashitaya

今日の「あるあ……ねーよ」①
昨日初フォロワーに驚き過ぎて間違えてブロックして消してしまう。

今日の「あるあ……ねーよ」②
実はアカウントを半年前に作成していたことに気がつき驚愕。

今日の「あるあ……ねーよ」③
初心に返り本編を進めつつ、自分が面白いと感じる物を書こうとしたが、
なぜか外伝で軽く一万字を超える。

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