IS Inside/Saddo   作:真下屋

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[BGM] Butterfly Swimmer / School Food Punishment


Butterfly Swimmer

 海に、沈む。

 思考の海に、脳内の海に、眠りの海に。

 柔らかく、暖かく、溺れるように、抱かれるように。

 現実とのリンクが切れ、外から内へシフトした世界。

 沈む。

 沈む。

 沈夢。

 

 

 海から、浮かぶ。

 

 思考視野の海に、隔世の陸に、覚醒を空に。

 物理的な感覚を伴い、産み落とされるように昇る。

 眠るたび、起きるたび。

 死んで。

 生き返って。

 断続的な自己の存在に。

 継続的な己の意識に。

 感謝する。

 今日と言う日も、無事俺が産まれた。今日と言う日も、俺が愉しむ。

 

 人は。

 生きてるだけで、幸せである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロが部屋から引っ越し、晴れて一人となった俺は「一人部屋」をエンジョイしていた。

 ほら、ビジネスホテルとか泊まると全裸になりたくない?

 電気つけっぱ音楽かけっぱエアコンガンガンで寝落ちしたくない?

 したくない? 俺はしたい。それし、俺はした。

 

 昨日は全裸でベッドイン。素肌に触れるシーツの感覚が心地よかった。

 そして今は、ぬくぬくの布団に包まれ、至福空間にひきこもる。

 半分目は覚めているが、本日は休校日。祝日。イッピー休業。

 絹の様な肌触りに身をゆだねる。

 ゆだねる。

 ゆだねる。

 委ねる。

 

 絹?

 肌触り?

 肌?

 肌。

 

 チョロっと布団をめくり、なんか銀髪が視界に映るのを確認し、布団をかぶせた。

 目蓋を下ろし、考えに蓋をし、海へ沈む。

 イッピーは今日はお休み、休業日。

 次に目覚めた俺に任せます。

 さようなら。

 それでは、よい終末を。

 

「ん、んんん。……なんだ、もう朝か?」

 

 離脱失敗。離脱失敗。プランBに移行。

 目標を可能な限り抱き寄せ、寝たふりを実行する。

 他人の体温とは、眠りに誘うもの。

 

「夫婦とは互いに包み隠さぬものと聞いたが、うむ、とうに実践されている。

 私と嫁の間にはなんら隔てるものがない。流石だな」

 

 何が流石なんだろう。お前の頭の中のお花畑感が流石ですよ、と突っ込みたい、突っ込みたいが。

 よもや俺の全裸生活二日目の朝にしてベッドに全裸で忍び込む女がいるとは。

 俺はこういった事態に備えてしっかりと、確実に施錠を行っていた筈なのだが。

 ええい足を絡めるな、気持ちがいいではないか。

 

「それにしても随分と逞しいものなのだな。これで骨が入っていないと言うのだから恐れ入る」

 

 恐れ入るな。無遠慮に触るな。おいジョンソン喜ぶな。

 ズイっと更に体を寄せ、密着させ、俺の胸元に埋まる銀髪の少女。

 

「誰かと床を共にする経験ははじめてではないが、相手が嫁であれば格別だ。

 こう、なんというか『ラウラ・ボーデヴィッヒを満たす織斑一夏成分』に溢れかえるな」

 

 日本語でおk。

 そして俺成分を返せ。

 

「これが俗に云う『女の幸せ』というやつかも知れん。この男を嫁に選んだ私の眼に狂いはなかった」

 

 狂いっぱなしだハゲ。狂ってるぞハゲ。頭狂ってるんじゃねえかハゲ。

 あと女の幸せはそんなに安くねえ。

 もっともっともっと、幸せだ。

 抱かれ、満たされ、孕み、産み、育て、巣立ち、老いる。

 世界で最も尊い命を循環させるサイクル的な? ななな? なんあなな。なんとらや。なんとやら。

 ああねみい。

 こいつ体温たけえ。

 

「不思議なものだな。あれだけ憎かった相手が、これ程愛おしくなってしまうなんて。憎さ余って可愛さ百倍、か」

 

 んな言葉ねーよ。

 っつーか人のベッドに入り込むのも、入り込んでぶつぶつ独り言とか怖いことすんのも、テメエのツラが可愛くなければ。

 なければ。ねむい。

 寝起きは悪い。わるいのだ。

 朝は弱い。よわい。

 弱いから、俺のそのだらしなさを許せない姐さんが。

 

「私だ一夏。起きろ」

 

 そう、唯一俺の惰眠を許容してくださらない篠ノ之箒さんが、休みの日はバッチし起こしに来るのでした!

 ガバリと体を跳ね起こす。

 ノックしてドアノブを捻る箒。

 だがしかし、鍵が―――。

 ガチャリ、ばたん。

 ―――かかっていない。

 おいラウラ手前鍵開けっ放しかよてかどうやって開けやがった!

 

「一夏よ。休みだからと云って、弛んではい、まい、か?」

 

 朝練の帰りなのだろう。

 剣道着のまま竹刀を肩に担ぎ入室した篠ノ之箒さん。

 

 体を起こし上半身を惜しげもなく晒す全裸の織斑一夏さん。

 布団がめくれ寒いのか俺にしがみつく見た感じ全裸のラウラ・ボーデヴィッヒさん。

 

 

「( ゚д゚)」

「\(^o^)/」

 

「無作法なやつだな。夫婦の寝室に無断で入ってくるとは」

 

 

 どうみても事後です。

 本当にありがとうございました。

 

「(゚д゚)」

「/(^o^)\」

 

 箒が凄い顔してる。

 俺は事の重大さをことさら重く認識し、信じてもいない神に強く懇願した。

 誤解だと伝わりますように、と。

 俺は指一本挿れてません、と。

 

「箒、きっと君が」

 

 思っていることは何一つない、と続けようとしたけど、無駄だわ。

 うわあ、凄い良い笑顔。

 まるで外交官が浮かべてる笑顔だ。

 

「一夏。例え心の広い私が許しても、神が許さんよ」

 

 神様心狭ぇぇぇぇぇ!

 そして神様が許さないとどうなるか教えてくれ、いや教えてくれるな。

 

「―――人誅ッ」

 

 振り上げた竹刀が降ろされる前の刹那、やっぱりお前許してないじゃんとかせめてもの抵抗で枕ガードを心みるけど期待薄だとか剣道着のままなのに実はシャワー浴びてる箒ちゃん乙女チックだとか今回に限っちゃ俺何も悪くないじゃんだとか。

 思ったけれど、枕ゴト俺の意識は絶たれ、折角の休日の午前中を棒に振るのでした。

 棒を振られたのは俺だけどな!

 ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

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「理不尽だ。世の中ものっそい理不尽だ」

 

 イッピー知ってるよ。そんなもんだって。世の中は基本的にそんなもんだって。イッピー知ってるよバーカ!

 

「にしても、良かったのか?」

 

「何が?」

 

 要領を得ない質問を投げかけてくる美人さんに聞き返す。

 ただいま電車でGO(都内まで)の真っ最中。

 

「その、なんだ。折角の休みを私と過ごして良かったのか?」

 

「えー、いやだった? 折角の休みだからこそ、だったんだけど」

 

「まさか。私は別に用事もなかったから渡りに船だったが、お前は相手が沢山いるだろう」

 

 と、言われましてもねぇ。

 そうでもない、と言い切っちゃうのもおかしいし。

 なんと伝えればいいのやら。

 

「ほら、この前辛くあたったから、そのお侘びもかねて、ね?」

 

「待て、あれは私が悪かったのだ。こちらが侘びるのが筋だ」

 

「そういうと思いました! さあ謝れ!」

 

「……殺すぞ?」

 

「サーセン。正直調子に乗った。今では反省している」

 

 おいおいまさかあの硬い物は常備されてる訳じゃないよな。

 あんなもんでバカスカやられたら俺の脳細胞が死滅すんぜよ。

 

「にしても、こうして二人でゆっくりするのは久しぶりだな」

 

「ですねえ。なんだかんだタイミングが合わなかったですしおすし」

 

「なんだ、その『おすし』って語尾は。流行っているのか?」

 

「知らぬ!」

 

「なぜそう力強く否定する……」

 

 俺にも分からん。

 分からんさ、誰にも。

 十代のうちは勢いだけで生きていけるって、ばっちゃが言ってた。

 テンションに流される人生、大好きです。

 

「一夏、ちょっと眠いんじゃないか?」

 

「何故わかったし」

 

「分かるさ、それくらい」

 

 ほら、と、膝に置いた手を開き薦めてくる。

 今いるのがいくらボックス型の座席とはいえ、少しTPOとか考えますよね。

 

 黒の膝丈のタイトスカートの上にそう易々と頭を預けれれれれれ?

 

「……早いな、ちょっとひいたぞ?」

 

「ふとももが悪いんやー。俺は悪くないんやー。この魅力的なふとももが悪いんやー」

 

 ヨコシマな思いがダダ漏れのようです本当にありがとうございました。

 この立派な(性的な意味で)身体の持ち主はクスクスと上機嫌に笑って、俺の頭をなでる。

 

「一夏、結婚しよう」

 

「素手で500円玉握りつぶせる女性はちょっと……。ご兄弟で」

 

 姉とデートに出かけ、姉に膝枕されながら、姉から求婚される男子高校生の姿がそこにはあった。

 と言うか、俺だった。

 可愛い女の子だと思ったか、姉だよ!

 

 けっこう強く殴られた。しどい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒のテーラードジャケットに白無地の七分丈のインナー。

 ダメージジーンズに丸っこいサングラス。

 決めてる、というよりは可愛らしい感じのする格好の男の子。

 私の隣を歩く、私の弟だ。

 

 久しぶりの休日だと昼まで寝ていた所、陽気に8ビートでドアノックされ、無遠慮に起こされた苛立ちのまま扉を開けた。

 

「ハロー。どうも俺です。下着姿の眩しいお姉さん、わたくしとデートにでも出かけませんか?」

 

「……30分。いや、45分待て。50分後に駅前のスタバに集合で」

 

 私はそのまま扉を閉めた。

 自分の服装を省みる。

 黒のタンクトップと、ショーツ。以上。

 痴女か?

 あ、ちょっと恥ずかしくなってきた。顔が紅くなってなければいいけど。

 シャワー浴びて、服決めて、髪セットして、服着て、メイクして、40分。

 駅前まで車で10分。行ける。

 真耶にメールで「30分後に車出せ」と。

 ああ散らかって部屋も見られたし、ビールの空き缶も床に転がってたし。ああもう。

 とりあえずシャワー。

 時間はないのだ。

 

 

 

 

 そんな風に慌しく出てきた割には、しっかりお使い―――仕事を握ってくる私がいた。

 こういう所が可愛くない。

 オフなのだから仕事のことなど忘れてしまえばよいのに、街に出るついでと届け物を掴んできてしまった。

 

「いやいや、にしたっていい天気だ。こういう天気が良い日はいいねぇ。なんだか気分がよくなっちまうぜ」

「お前は単純だな」

 

 ニヤニヤしながら一夏は言う。

 

「単純ですとも、シンプルですとも。頭は空っぽの方が、夢詰め込めるんですよ?」

「夢以上に詰めて欲しい物が教師としてはあるんだが、馬鹿をしないお前は詰まらないから好きにしろ」

 

 もちろんですよー、とてきとーな返事をする一夏。

 一夏は、気分屋だ。

 こんな風に天気が良いだけで幸せになったり、些細な事で苛立ったり、その場のテンションだけで行動する。

 嘘をつくことも、人の顔色をうかがうことも、感情を隠す事もできるけど、あまりしない。

 「偽ったってなんも楽しくねー、素のまま気のまま、人生楽しく!」をモットーに掲げている。

 

 頭軽そうな一夏だが、この偉大な姉はそんな一夏の一部分を否定せず受け入れており、また別の側面の一夏も知っている。

 一夏は意外に熱血で、存外卑屈で、案外寂しがりで、慮外に臆病で、望外に真っ直ぐだ。

 

「特に決めてねーけど、何処まわる? 古着屋と靴屋は行くとして」

 

「こっちの用事は5時までに書類を届けるだけだ。他は合わせる」

 

「えー、それはエスコートしろと言う意味で?」

 

 ちょっとそういう準備はしてきてないなぁ、とぼやく。

 少し困ったような笑顔の一夏をみてると、自然と顔が綻んでしまった。

 

「馬鹿、お前は私をどうする気だ?」

 

 喜ば死させる気か?

 

「人のこと馬鹿馬鹿言いすぎよ姉さん? 俺けっこうナイーブですよ?」

 

「いいんだよ。弟相手には無条件で偉そうにできるのが、姉の特権だ」

 

 一夏が横暴だーとわめく。

 私が16歳の頃はどうだったのだろう。

 一夏ほどストレートに感情をあらわにしてただろうか。

 そうでないとしたら、可愛くない女子高生だっただろうな。

 

「ねーちんは可愛いと云うよりキレイ系だかんねー。あ、でも俺ねーちんの可愛いとこいっぱい知ってるぜ?」

 

「声に出していない独白を勝手にコメントするな、馬鹿者」

 

 ふむ。以心伝心というのも考え物だな。

 私は表情がそれほど顔に出るタイプでもないのだが、それでもたった一人の愛しい肉親にははっきりと伝わってしまうようだ。

 試すか。

 一緒に唱えろ!

 

「ラブアーンドピース!」

「おい」

「正直すみませんでした」

 

 よろしい。

 

「では、まず―――結婚指輪を買いに行こう」

 

「垂直跳びで自分の身長飛び越せる女性はちょっと……。姉と弟で」

 

 今日の夜はきっと、真耶と二人で呑みにいくことだろう。

 延々と愚痴られる真耶の姿が目に浮かぶ。

 今夜の酒は、染みそうだ。

 

 ふと、昔の事を思い出した。

 昔の事、両親の事を。

 

 

 

 

 

 

 

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 私の家庭は、壊れていた。

 

 父は外面の良い人間だが、内面は他者の上に立ちたい/他者を見下したい器の小さな人間で。

 母は優しい人間だが、それは誰より自分に優しい自分主旨/我が身が可愛い小さな人間で。

 私は幼い頃からそんな矮小な両親の娘である事に辟易しつつ、人生を送っていた。

 但し、そんな家庭を繋ぎ止める鎖が在った。

 父に取って念願の男児、母に取って愛しい二児、一夏が居た。

 

 私に取っても、大切な弟。特別な存在。

 家庭に居場所がない私でも、家庭に居場所を求めない私でも、家に繋ぎ止める。

 悪意も邪気も打算もなく、私の事を必要とする存在。

 

 ずっとずっと壊れていた私の家を、なんとか繋ぎとめてくれていた。

 その愛らしさで。その無垢さで。その無邪気さで。

 とっくに壊れてしまっているのは、分かっていたのに。

 目を背ける余裕を作ってくれた。

 

 ずっと言い争いを続けていた父と母も、一夏の前でだけは避けようとするのだ。

 一夏がそれを止めようとするから。

 だけど。

 

 

 私が中学生に上がったばかりの頃。

 放課後、篠ノ之さんの道場での稽古を終え家に帰ると、怒声と甲高い大きな音が響いた。

 まるで、平手で頬を張ったような音が。

 泣き声が聞こえる。

 一夏の泣き声が聞こえる。

 守るべき弟の泣き声が聞こえる。

 

 両親が喧嘩をし、その仲裁に入った一夏が殴られた。

 恐らく間違いない。

 私は玄関で、見えもしないリビングの惨状を思い浮かべて、胸を押さえた。

 

 アイツ等が勝手に争う分にはいい。

 アイツ等が勝手に不幸になる分にはいい。

 それに、一夏を巻き込んだのか。

 3歳になったばかりの幼子に、感情的に手を上げたのか。

 何の非も無い、何の罪もない私の弟を傷つけたのか。

 

 胸が締め付けられる。

 一夏の声が、痛い。

 それは、痛みに泣く声じゃないから。

 一夏は、痛いから泣くのではない。悔しいから泣くのだ。

 

 間違っている事がまかり通るこの世の理不尽さに。

 間違っている事を正せない自身の無力さに。

 間違っている事が変えられないと言う現実に。

 

 叫ぶように、切り付けるように、一夏は泣く。

 そんなの、間違っている、と。

 そんなの、おかしい、と。

 何故、届かないのだろう。

 

 こんなにも。

 こんなにも、強く願っているのに。

 一夏の声は、こんなにも強く求めているのに。

 

 コイツ等は。

 父は泣き喚く一夏を黙らせようと殴りつけ。

 母は呆然と自分の頬をさすり続ける。

 一夏に危害を加え続ける父と、それを見ようともしない母。

 何故、コイツ等には届かないのだろう。

 

 一夏は、泣く。

 泣き声は、より大きく。

 それは痛みからではなく、訴えているのだ。

 より強く。

 

 

 泣く子供を殴り続ければ、泣かなくなる。

 意思を、感情を、心を殺し、泣かなくなる。

 それが一般的な反応だ。

 けれど、きっと一夏は泣き続ける。

 声をあげるしか出来ないから。

 声をあげることが出来るから。

 一夏は、泣くのだろう。

 なんて、尊い。

 

 私の目尻から、水滴が流れた。

 織斑千冬、これで最後だ。これが最後だ。

 私が流す涙は、もうお終いだ。

 私には、こんなにも泣いてくれる弟がいるのだ。

 間違いに対して間違っていると、声をあげてくれる弟がいるのだ。

 懸命に。必死に。抗ってくれる弟がいるのだ。

 だから、私はもう泣かなくていい。

 私が垂れ流すべきは、涙ではなく、暴力だ。

 

 存分に理不尽に泣け一夏。

 私が、其れを討つ理不尽に成ろう。

 

 目蓋を袖で乱暴に拭い、竹刀袋から木刀を抜いた。

 有無を言わさず。有無を言わせず、私は父を斬り伏せた。

 その日、初めて私は骨が砕ける音を聞いた。

 情状酌量の余地なく、私は母を殴り飛ばした。

 その日、初めて私は無抵抗の人間に危害を加えた。

 

 後の話は詳しく語るまでもない。

 篠ノ之家、轡木家、クレスト、倉持技研、日本政府、ドイツ軍、IS学園

 それらを頼り、利用し、織斑千冬の価値を活かし、織斑一夏との生活を得るだけの単調な話。

 

 織斑一夏と織斑千冬の生活は、そうして始まったのだ。

 

 

 

 

 

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「一夏、水着を買いに行こう」

 

「いやだ。ぜったいにいやだ」

 

 おや、珍しく一夏が反抗的ではないか。

 

「あんな空間に俺を連れて行くな。アウェイだあそこは」

 

「女性用の下着売り場に入ったときも同じ様なことを言っていたなお前は」

 

「女性用の下着売り場なんかに実弟連れてってんじゃねえよタコ!」

 

 そんなに怒る事か?

 たしかに視線が辛いかもしれんが、そんなヤワなハートはしてないだろう?

 

「おばちゃんとか、可愛くない女の子に『えーなんでオトコがいんの?』みたいな視線で見られると本心ころしたくなるからやだぷー」

 

「よし。―――二着まで好きな水着を着てやろう」

 

「さっさと行くぞダボが! 夏は待っちゃくんねぇんだぞ、分かってんのか!」

 

 私はいつか一夏が女に騙されて失敗しないか非常に心配です。

 姉としても、女としても。

 前、「女に騙されるのは嫌いじゃない。騙されている間は、幸せだから」とか言ってたしなコイツ。

 本当に16歳かと心配になってきた。

 子供なのか大人なのか、よく分からん。

 我慢の出来ないため息が漏れる。

 

 ほんとうにもう、しょうもない男だ。

 そんなコイツを、私は好きだと云うのだから笑えないな。

 

 

「一夏、合体しよう」

 

「サイズ合わない靴はいて靴擦れするかと思いきや靴の皮の方がズレていた女性はちょっと……。御友達で」

 

 兄弟ですらなくなったぞ真耶どういうことだオイィ!

 

 今日も今日とて、織斑ブラザーズはいつも通りの平常運転でしたとさ、まる。

 


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