黙示録が持ち出された。史上最悪の呪いの書。それを持ち出したのは謎の少女、クラウド。一体彼女は何者なのか、何が目的なのかそれは判明しない。黙示録が持ち出されてから31時間彼女はなにかするでもなく、ただ陰に身を潜めていると思われていた。
「ここか………」
クラウドは次元拘置所を訪れていた。いや、正しくは侵入していたのだが。侵入し、向かったのはある男が捉えられている場所。クラウドは黙示録から生まれる黒い何かで鍵を精製し、扉を開けた。
「ほら、約束通り来てやったぞ。変人」
檻の中にいた人間は、ニヤリとほくそ笑んだ。
ー時空管理局本局 上層部ー
管理局では今回の黙示録の書の件について緊急会議が開かれた。使いようによっては人類を抹殺することなど容易い代物だ。緊急対策本部は一気に立てられた。だが、ことを大ごとにするとパニックの恐れがあったので今回対策本部長に選ばれたのは、管理局のお偉いさん合計四人。呼び出されたのはクラウドに会った人物たちだった。
クラウドはアキラだけではなく様々な人物に挨拶をしていた。主にそれは機動六課メンバー、なのは、はやて、フェイト、ティアナ、スバル、メグ。合計六人。
「さて、たった四人の対策本部にようこそ」
「ああ。あんたは?」
「ははっ聞いていた通りだな、アキラ・ナカジマ君。職場結婚、中々いいところまで出世しているのに、無愛想さは変わらないようだ。一応私は管理局では結構えらい方なんだがね」
「それは俺もだ。で、御託はいい。まず対策本部にいるのがなんでたったの四人なのか説明しろ」
四人のうち一人は随分と気さくな様子だった。どうやら四人の中では一番上、つまり対策本部のトップというわけだ。アキラの態度に無礼などとは思わず彼を受け入れ、説明を始めた。
「うむ、では説明しよう。っと、その前に自己紹介だ。私は小此木陽平。私の隣にいるのは助手のアスト・スエッタ」
小此木の隣にいた少女がぺこりと頭を下げた。
「アストの横にいるのがテレジー・シファク。アキラ陸尉殿とは面識があったかな?説明は省くが黙示録に詳しい人物だ。さらに隣にいるは、アリア。これは偽名だ。管理局のスパイでね。腕は一流だ」
一通り説明をすると、事件の話に戻る。
「今回の事件。仮に黙示録事件と名付けよう。これはこのミッドチルダ、いや、全次元に関わる重要案件だ。そう簡単に誰かに話していいことでも公開していいことでもない。だからこの事件に「関わらなくてはいけなくなった」人物だけで集まってもらった」
「…………」
「理由はわかるね?パニックを防ぐためだ。黙示録は相当危険な代物で都市伝説になるほど有名だ。これが持ち出された、つまり実在することが露見すればパニックは免れないのは簡単に予想できる。よって、今回は黙示録の存在を知り、今回の主犯と思われる少女に声をかけられた人物だけに集まってもらったわけだ」
集まった人数の少なさを説明されたあと多少の話し合いがあった。まずはこの事件で各々どう動くかはすべて小此木から指示を出すということ。決して口外はしないことの二点だけだ。そして、最後にアキラとギンガの話になった。
ギンガとアキラは管理局にとって重要戦力の一つである。しかし二人は現在産休中。子供の安全を第一にするなら無理に協力する必要はない。小此木はその決断を迫った。
「ナカジマ夫妻。あなた方はあくまで産休である身。今回の事件は命に関わる危険もない訳ではない。そこで聞きたい。あなた方はどうしたいかを。もちろん強制はしません。事件は我々に任せていただいて、育児に専念されるのも構いません」
「………協力しない場合はどうなる?」
「いえ、どうもしませんよ。ここで話されたことは口外しないことを約束していただければそれで結構です」
「……………アキラ君」
アキラは少しギンガを見つめると口を開く。
「俺はギンガと一緒にいるのが一番だ。お前と一緒に幸せな夫婦生活をするのが夢だった」
「……うん」
「だが今回の案件は、そんな幸せな時間すらも壊しかねない。だから、俺だけ参加する」
「なっ!」
それは、ギンガにとってかなり驚くべきアキラの決意、発言だった。
「どうして!私は…」
「ギンガ……お前は、アリスを近くで守ってやってくれ。俺ら二人が出てって、両方やられたら、誰がアリスに愛情を与える?」
「…………死ぬ気なの?」
不安そうな目でギンガが尋ねる。
「まさか…………だが、今回は相当危険を伴う…………だよな?」
アキラは最後の一言を小此木に対して言った。小此木は小さく頷いた。
「だから、俺だけ行く。お前は家でアリスと」
「ダメ…行かせられない!」
「ギンガ…………」
その後、アキラは何とかギンガを説得しようとしたが、ギンガは譲らなかった。なので結局アキラは緊急事態のみ招集される嘱託魔導師として待機することとなる。一応事件に協力する形ではあるが、なにか相当大変な事態にならなければ呼ばれない。しかも周りの面子はS級の魔導師ばかり。アキラの出番はほぼないだろう。
「協力してやれなくて悪いな」
「いや、大丈夫だ。娘さんを大切にしてやってくれ」
「ああ」
◆◆◆◆◆◆◆
ー帰り道ー
「……………」
「怒ってるのか?」
帰り道、ギンガとアキラは何も話してなかった。いや、アキラは何度か話しかけたが、ギンガはほとんど反応しようとしなかった。怒っているのか、何なのか、なぜ反応してくれないのかアキラは全くわからなかった。
「なぁ…」
「は……」
「ん?」
「アキラ君は、どうして自分の命を顧みないの?あなたのことを大切に思ってる人も沢山いる………あなた一人の命じゃないんだよ?」
ギンガは心配をしていた。まるで、アキラが死に急いでいるように思えたからだ。まだギンガはサラの言ったことを覚えている。自分とアキラが一緒にいれば、アキラは死ぬ可能性があるということ。ギンガはそれが心配だった。
アキラは少し笑ってギンガを抱き寄せた。
「…………俺はさ、ギンガと出会って、幸せになれた。けどさ、どこまで幸せになっても、誰より出世しようと、俺にできることはただ一つ。守るために戦うってことだけ。手が届くのに手を伸ばさないなんて、俺にはできない。お前と会って、管理局に入って、伸ばせる手の距離が広がった。だから、俺はもっともっと手を伸ばしたい。だから、俺はそのために命を張る」
アキラらしい理由だと思った。でも、ギンガには、それ以上に、アキラに自分の心配して欲しかった。
「…………大丈夫。お前を一人にゃしねぇよ。死なねぇ工夫はしてるつもりだ」
「うん」
アキラは笑ってギンガの頭をガシガシと乱暴に撫でた。ギンガは少し自分の心を見透かされた気がした。だが、二人の気持ちが繋がってると考えると少し嬉しかった。
「さ、帰ろうぜ」
「うん」
ー翌日 ナカジマ家ー
[てなわけで頼むぜノーヴェ]
この日、珍しくアキラがノーヴェに連絡をしていた。内容は、ギンガは育児で体調を崩した、自分は育児で忙しいので代わりに買い物に行って欲しいとのことだ。
「あのなぁ、こっちは今世の中のために働こうとウゼェ姉とわざわざ勉強会してんだ。他当たれ」
[そんなこというなよ〜。ナンバーズ姉妹の中でもお前がトップクラスの成績で、多少は余裕あるかなって思ったから頼んでんだぞ?つまりお前の実力を認めてるってことだよ。俺がギンガを傷つけたお前らを認めてるんだぞ?感謝して買い物くらいいけってんだよな〜?アリス?]
普段と、アキラの様子が違うことにノーヴェが気づいた。
「何かあったのか?」
[ん?]
「お前は普段、そんなしゃべり方しない。ギンガが体調崩したってのもなんか不自然だし。ギンガなら育児くらいじゃなんともないって気がするだけだけど」
ノーヴェの予想は大当たりだ。アキラは最初、クラウドに狙われたギンガの身を案じ、側を離れることも外に出ることも危険だと判断した。だから今、ノーヴェにお願いしてるのだ。しかし、身内とはいえ黙示録のことを言えるはずもなく、適当言って誤魔化しているだけだ。
[あのなぁ、育児は大変だぞ?四六時中泣き続ける娘をあやし、夜中は三時間ごとくらいに起こす。それがどれだけ大変か………とはいえ、娘が可愛いから許しちゃうんだよなぁ]
誤魔化した。アキラは話を茶化したり、誤魔化したりする時に特有の癖が出る。下で頬の内側を押すのだ。ノーヴェは海上隔離施設にいた時にそれをアキラとギンガのいちゃつくシーンで嫌というほど見てきた。
しかしそれは口に出さず、ため息を一つ。
「はぁ、わかったよ。……………何があったかしらねぇけど、無理はすんなよ」
[おう、ありがとなー]
「ノーヴェ、クッキー焼けたよー……ってどこ行くの?」
部屋を出ようとしたノーヴェの前にスバルがやってきた。スバルは詳しい方針が決まるまで待機、その間救助隊も休むということで、家にいた。なので姉妹の資格ゲットの勉強を手伝っているのだ。
「身内のバカップルから買い物を頼まれたからいってくる。それくらいはいいだろ?」
「あ、じゃあ私も行く!久しぶりにアリスちゃんも見たいしねー」
「んじゃいくか」
ー商店街ー
「頼まれたのは…………あとはオムツか」
「何だか、アリスちゃんのためのものと、保存食とかが多いね」
(やっぱなんかあったのか…………)
ノーヴェは考え事をしながらスーパーの中のオムツコーナーに向かっていた。
「えーっと頼まれたメーカーはっと………」
アキラはアリスのお気に入りのメーカーをノーヴェに頼んでいる。それをスバルと探していると、背後から声をかけられた。
「すみません」
「ん?じゃなかった、はい」
振り返ると、長い髪の女性が立っている。
「ノーヴェ・ナカジマさん…………でしょうか?」
「…………管理局の人間か?」
自分の名前を言われた瞬間、ノーヴェは嫌悪感丸出しで女性に尋ねた。ノーヴェの名前を知っているということは、管理局の人間くらいだ。それが、事件を起こした自分に文句でも言いにきたのと考えてしまったから。もちろん、普通はそうは思わない。だが、ノーヴェは直感的に嫌な人間だと感じたのだ。
「いえ、管理局ではありませんよ。それで、あっています?」
「…………そうですけど」
「ノーヴェその人は?」
ノーヴェが誰かと話してるのをみてスバルが駆け寄ってきた。
「あら、スバルさんまで!これは都合がいいです」
「え?」
「まとめて連れて帰れるのですから」
ぼそりと最後の言葉を言うと、女は手に槍を出現させて大きく振りかぶった。その刹那、スバルはノーヴェを押し、自分も横に避ける。それから一秒経たないうちに、ノーヴェの立っていた空間を槍の刃が通り抜ける。
「っ!!!」
「ノーヴェ!店の外に!」
「わかってら!!!」
二人は慌てて出口まで走り、店の外に飛び出して行った。逃げる二人を見ながら女は槍を消滅させ、ゆっくり歩き始める。
ー路地裏ー
店を飛び出した二人は離れた場所の路地裏を走っていた。スバルは息を切らしながらマッハギャリバーに周囲を探知させた。
「マッハギャリバー、近くに敵は!?」
『Not』
「ありがとう…………」
「何だったんだ……さっきのやつ」
「とりあえず、私たちが狙いだったみたいだね………っていうことは戦闘機人が狙い…。とりあえずアキラさんとお父さんに連絡を………」
「その必要はありません」
「!!」
スバルがアキラ達に連絡をとろうとした瞬間、上空から声がした。さっきの女の声。スバルが上を向くと、路地裏に通っている電線の上に女が立っていた。
「くっ……どうやって探知じゃ反応はなかったのに…」
『Master, the system is jacked』
「え!?」
「ただの基礎プログラム程度の探知では私は捕らえられませんよ?それから、ご家族への連絡も不要ですよ。すでにそちらには、私の姉妹が向かっています」
「………っ!テメェ何者だ!何が目的だ!」
「私は………あなた達と同じ、ですよ。目的は言えませんが、名前だけはお教えしましょう。私の名前は、今はゼロ・サード」
「!?」
「まぁ詳しい話は私達の家に来てから話しましょう」
そう言うとサードは再び槍を出現させ、構えた。スバルはマッハギャリバーを構え、ノーヴェの前に立つ。
「くっ、ノーヴェ、下がってて。とりあえずあっちから来るなら、正当防衛位には出来る!」
「正当防衛………うふふ、大した自信ですこと」
サードは槍を振り上げ、電線から飛び降りた。スバルは一瞬でBJを纏い、バリアで女の槍を防いだ。
「ノーヴェ!行って、みんなに注意を!」
ノーヴェは小さく頷き、走り出した。
「あら、逃がしませんよ」
サードが指をはじくと、結界が展開された。結界内には三人以外の人間がいなくなる。
「結界…」
「さぁ、スバルさん、あなたもこれなら全力で戦えるでしょう?かかってきてください?」
(今回の目的は力量の測定。その後、壊さずに連れて帰る。全力を出してもらわねば)
続く