ウィード事件編エピローグ&トーマ編プロローグ
眼前に映るのは、燃え盛る炎と瓦礫。そして、その中で倒れた人影。
「…アキラ君!!!!!!」
叫ぶ声すら、瓦礫と、巨大な化け物の咆哮でかき消される。ギンガは倒れた人物…橘アキラに駆け寄った。
「アキラ君しっかり…アキラ君?」
アキラはギンガの頬に手を添える。
「ありがとう…」
◆◆◆◆◆◆◆
「!!!!!!」
夜中にギンガは目覚めた。汗でびっしょりな身体で起き上がろうとしたが、その身体は優しく抱き締められ、撫でられている。ギンガは瞳だけを動かして横を見る。そこには、アキラが自分を見守っていてくれた。
「…大丈夫か。うなされてたが。無理にでも…起こした方がよかったか?」
心配そうな顔でアキラは尋ねる。
(今のは…夢?アキラ君が…死)
ギンガは考えるのを止めた。そして、アキラを思いっきり抱き締める。アキラは怯えるように抱きついてきたギンガの頭を撫で、優しく声をかけた。
「怖い夢、見ちまったんだな。大丈夫。俺がついてる。また寝れるまで抱き締めててやるよ」
「アキラく…ん」
ギンガは、アキラに抱かれる内に、安心して眠りにつく。普段はアキラが心を癒される側なのに、今日は彼女の方が癒されたのだった。
「……………守るよ。俺が。何があっても」
ー新暦76年 四月ー
その年に、ここ、ミッドチルダでは世界を揺るがす大事件が起きた。ジェイル・スカリエッティによるゆりかご、そして神威の起動。それはJS事件と呼ばれ、特別編成された機動部隊、八神はやてを部隊長とする機動六課によって解決された。
そして、規模は小規模に収まったが、同じレベルで大事件に発展しかけたウィード事件。それも、一人の少年の勇気と、橘アキラによって解決された。そして………その翌年の春。その橘アキラは、事件の起こる前に出会った少女ギンガ・ナカジマと恋に落ち、今では共に暮らしている。大きな事件もなく、もうすぐ機動六課が解散することとなる少し前のある日の朝。
「アキラくーん」
エプロン姿のギンガが、布団の中にいるアキラに声をかけた。
「起きてー、朝ごはんできたよー?」
「……………」
「もうっ……」
ギンガはアキラの耳元まで顔を近づけ、そっと囁く。
「早く起きなきゃお仕置きだよ?」
ギンガは囁いたあとに、アキラの耳を甘噛みした。アキラは一瞬ピクっとしたが、それ以降動く気配はない。起きないアキラに、ギンガは不満そうな顔を見せた。それから少し考え、部屋の棚に置いてある耳かきを取る。
「動いちゃダメだよ…………?」
ギンガはゆっくり耳かきを耳の中に入れ、コリコリと動かし始めた。
「結構溜まってるね………。これは定期的にしなきゃダメかな〜」
耳かきを動かすたび、アキラの身体はピクンと動く。それを面白く感じながらギンガは耳かきを続けた。アキラの返事がないところを見ると、彼はまだ起きていない。普段は早起きなのにどうしたんだろうとギンガは疑問を思いながらアキラを撫でる。
「…………アキラくーん、朝だよ〜。ふーっ」
耳に息を吹きかけ、反対の耳に移ろうとしたがアキラが横向きに寝てるのでそっちに移れなかった。ギンガは無理やり反対側を向かせようとする。アキラの肩を掴んだ瞬間だった。
アキラは急に目覚め、ギンガと自身の身体を密着させるように抱き寄せる。
「きゃあ!ア…アキラ君!?」
「おはようギンガ…………耳かき気持ち良かった。ありがとう」
「起きてたの?」
「まぁ、ほとんど寝ぼけてたけどな」
目を瞑りながらアキラは話した。ギンガはアキラに撫でられながら、アキラの下半身に手を伸ばす。そして、彼が朝の生理現象を起こしている部分を撫でた。
「昨日もしたのに………まだ元気なのかな?」
ギンガがその話題を出した瞬間、アキラは急にギンガを退かす様に起き上がり、ベッドから降りる。そして、さっさっと部屋を出ようとした。
「さ、さてと………ちゃっちゃっと朝飯食うか……………」
「アキラ君!」
そんなアキラをギンガは止める。そして、珍しく視線を合わせない様に尋ねた。
「アキラ君は……その………私と……その…………こ、子供は作りたく………ない…………のかな?」
アキラはどうしてギンガがそんなことを聴くか、理由はわかっている。アキラはそもそも、あまり夜の営みを好まなかった。それは、ギンガをただの性のはけ口と見たくなかったという理由。それから…
「まだその………子作りには年齢的に早いだろ?だからさ…」
「それはそうだけど…」
「それにさ…俺らの間に出来るってことはさ……もしかしたら普通と違うかも知れない…俺もお前も戦闘機人で、人工的に産み出された命だ。俺に至っては、完全な戦闘用に作られた……こんな俺たちの間に産まれたら…って思うとな」
「だとしても!私はきっと…後悔しないっ」
ギンガは急に立ち上がり、アキラを抱き締めながら壁に押し付けた。
「どわっ!」
「…私は年なんて気にしないし…子育てだって自信あるよ?だから…」
妙に押してくるギンガに、アキラは妙な違和感を覚える。だが、その違和感の正体をすぐにアキラは見抜いた。
「気にしてんのか?あの日……サラに言われたこと」
「え?」
「俺が………死ぬってこと」
アキラに言われた瞬間、ギンガの脳裏に今朝の夢がフラッシュバックされる。それによって、一瞬変わったギンガの表情をアキラは見逃さなかった。
「そうか………やっぱそうだったか。………俺が死ぬかもしれないから………早いうちに…その……妊娠しようとした訳か?」
「…………………子供は………好きな人との愛の結晶だから……」
アキラは軽く頭をかいてから、ギンガの頭をぽふぽふと叩いた。
「人が勝手に死ぬ前提で話すなよ。少なくとも俺は、死ぬなら………ちゃんとお前にプロポーズして、結婚式やって…今心配なナンバーズの連中ちゃんと社会に出してやって………子供作って…老衰で死ぬさ。……な?」
アキラは笑顔で振り返る。ギンガは不安そうな顔を無理やり笑顔に変え、頷く。
「そう、だよね!」
「さ、朝飯食おうぜ」
アキラは部屋を出て行った。ギンガはその場から動かず、少し俯いた。
「ばか…」
◆◆◆◆◆◆◆
ー海上拘置所ー
「よう」
「お、来たか」
ギンガとアキラが入ってきたことに、チンクが最初に気づいた。ギンガはナンバーズを呼んで集合させる。ナンバーズの更生プログラムは、主にギンガの仕事だ。アキラはあくまでサポートという名前だけでついて来ているだけである。
ので、アキラは基本邪魔にならないところで静かにしている。
「さて…今日は……」
アキラはがいつも通り部屋の隅に座り、ぼーっとそこらを眺めていると、ウェンディとセインがアキラの腕を掴んで引っ張ってきた。
「うおっと!……なんだなんだ?」
「アキラも一緒に授業受けようよ〜」
「犠牲者は多い方がいいッス」
「はぁ?距離はあっても同じ場所にいるのは確かだろ?」
「「いいからいいから!」」
アキラは無理やり引っ張られ、なぜか、セッテの横に座らされた。
「……さて、じゃあ授業を始めます」
アキラは退屈そうに授業を聞く。そして、その隣のセッテはそんなアキラを見つめていた。セッテの心に最近感じる気持ち。それを察しの良い二人は気づいていた。
アキラが授業の時間にくるたびに、セッテはよくアキラの方を見ていた。セッテは最近なぜ自分がこちら側に来たのか、分かって来ている。アキラと一緒にいると心が和らぐのだ。アキラがスカリエッティによって捕まり、彼の世話をしていた時に色々話をした。自分が感じることの出来ない感情をアキラはよく話して聞かせてくれた。
「…………」
「それで、ここを出てからの仕事は色々あるんだけど、みんなの場合、戦闘機人の丈夫さと戦闘能力とか能力の面を考えるとやっぱり私たちと同じ仕事になっちゃうかな?もちろんあなたたちに選択の自由はあるから強制はしないけれど……あ、そういえばセッテ」
急に名指しされ、セッテは軽く驚く。
「はい?」
「あなたの出所の日が決まったの。仮出所だけどね」
「ええっ!!!!」
驚きの声をあげたのは主にウェンディ等だ。珍しくノーヴェも声を大きくする。アキラとギンガはナンバーズ達の声に驚いている。
「いくらなんでも早過ぎじゃないッスか!?それになんでセッテだけなんスか!?」
「そうだよ!だってまだここに私らがいれられて……………どんくらい?」
「そろそろ半年経つかしら」
ウーノがボソッという。
「そう!まだ半年でも決まったの!?」
「え、ええ。上の決定。セッテは誰も殺してないからその分罪が軽くなってるし、感情がないなら早めに社会に順応させた方がいいっていう上の考慮よ」
「良かったな。セッテ」
アキラが隣で軽く微笑んだ。チンクやウーノも良かったというような表情でセッテに微笑んだ。セッテは照れるような気分なり、軽く目を逸らしながら小声で礼を言う。
「ありがとう……ございます」
「それで、実験っぽくてあんまり私も」
「よう」
ギンガが何か言いかけた、ちょうどその時に手土産を持ったゲンヤが現れた。
「あー!パパりんッス!」
「父さん!どうしたの?」
「ちょっと暇になったんでなほら、お土産だ」
「パパりん大好きッス〜」
ゲンヤが来て話がそれてしまった。何だかタイミングを読まれた気がしたが、ギンガは仕方ないという表情をして提案する。
「ちょっと休憩にしようか」
◆◆◆◆◆◆◆
―4月28日―
今日は機動六課の解散日。現在は、解散式を終わらせた後みんな後片付けをしているところだ。スターズとライトニングを除く一般業務係は自分のデスクの片付けが終わり次第解散だ。
しかし、なのはたちはまだやることがある。アキラとギンガはなのはと共にフォワードメンバーを呼ぶように八神はやてに頼まれた。
「ところで高町隊長、まだやることがあるって……どういうことだ」
何をするのか気になるアキラはなのはに尋ねてみた。当然ギンガも何も知らされていない。二人の先を歩くなのはは軽く振り返って首を傾げる。
「ああ、アキラ君達にはまだ説明してなかったっけ」
ギンガとアキラはほぼ同時に頷いた。二人の動きがシンクロしているのをみて、なのははクスクスと笑う。
「とっても素敵で、きれいな場所だよ」
なのははにっこり笑ってそう言った。
◆◆◆◆◆◆◆
アキラ達がフォワードメンバーを引き連れてこられた場所、そこは桜が咲き乱れる場所だった。桜はミッドチルダには存在しておらず、地球から運ばれたものたちだ。アキラとギンガは二人でみんなとは少し離れた場所で桜の中に立っている。
「とっても素敵できれいな場所…か…」
「なのはさんの言った通りだね」
「…そうだな」
風が吹き、桜の花弁が舞った。まるで二人を包み込む様に。風に舞う花弁をアキラが少し伸ばした掌に収める。近くで掴んだ手を開くと、再び風に乗せられて行ってしまう。
「こういうのきれい…」
ギンガが言うとアキラはギンガの肩に手を回し、少し抱き寄せた。
「お前の方がきれいだ」
「ふふっ、お上手」
そんな感じにイチャイチャしてるとはやてが二人を呼びに来た。
「そこの熱いお二人さーん、戻ってきてや〜そこからも二人の世界からも」
「あ、呼んでる」
「行くか」
アキラ達が皆がいる場所に戻ってくると、いつの間にかFW陣も隊長陣もバリアジャケットを着装済みだった。アキラもギンガも目を丸くする。
「は…?」
「そんじゃ行くで」
「ちょ…ちょっとまて八神部隊長!!なんだこれは!なんだこれは!」
大切な事なので二回言ったアキラ。どちらかというと混乱してて二回言ってしまったのだが。いつの冷静なアキラが珍しく焦りまくっている瞬間だった。
「なにって模擬戦やよ?」
「いや…見れば分かっけどよ!」
アキラは隊長陣を見る。確かすでにリミッターは外れている。それはつまり、以前とは比べ物にならないレベルの化け物が、四人。それに教えられ、今や隊長達に追いつきそうな元新人が、四人。
「死人でねぇか?」
「もう、心配性やね〜アキラ君は〜きっと大丈夫やって。きっと」
「きっとって…」
「アキラ君」
「お兄ちゃん♪」
アキラとはやてが話してるときに後ろからフェイトとヴィヴィオの声がした。アキラは疲れた表情で声のした方を向く。振り向いた先にはフェイトに抱かれたヴィヴィオがいた。
「ああ?」
「アキラ君、ヴィヴィオお願いしていいかな?ちょっと…危ないから」
「危ないから〜♪」
「………………………………へいへい」
あのフェイトですらヴィヴィオを預けるほどだから本気なんだろうとアキラは悟り、ヴィヴィオを受けとった。そして、ギンガの隣でヴィヴィオを胡坐をかいた足の上に座らせて桜の木の下に座り込んだ。はやてとギンガが前に出て試合開始の合図の準備を始める。アキラはヴィヴィオを撫でながら空を見上げた。
「平和だな…………」
「それでは…」
「レディー…」
「この平和が、いつまでも続きますように…………」
「「ゴーーーーー!!!!!!!!!」」
◆◆◆◆◆◆◆
「世界は全て、繋がっている」
白い甲冑の男が、真っ暗な空間の中で呟いた。その背後には、歯車が大量につけられている巨大な塔がある。塔の歯車は、一部が回り、一部に歯車が足りずに回っていない。
「しかし、繋がっているだけで歯車が足りなければ回らない組みもある」
男は回っている歯車と回っていない歯車の間に「橘アキラ」と描かれた歯車を差し込む。歯車は、「トーマ・アヴェニール」と書かれた歯車を巻き込んでその他の歯車と同時に動き出した。
「世界は無限の可能性を秘めている。いくつもの平行世界がある……………ギンガ……お前は全ての世界の全ての未来で、同じ道を歩んでもらわなくちゃ行けない…………俺の……俺たちのために」
続く