とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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数か月ぶりです。もう少し早く出す予定でしたが新生活がなかなかに忙しく。
今後はForceを一時中断し、異世界編、それが終わり次第Forceは再開されるまで待って最終章へ移行しようかと思います。約9年ほど書き続けてるこのシリーズですがもうすぐ終わりへと行くかと思われます。よろしくお願いします。


第十話 オレ達の幸せ

アキラが家に戻った日の夜。二人はいつも通り一緒に眠った。目の前にいる大切な存在を抱きしめながら。

 

 

 

―朝―

 

 

 

「おい、起きろバカ夫婦」

 

「ん……ノーリ?」

 

朝、ノーリの罵倒でアキラとギンガは起きた。ノーリは今日の昼前まで帰ってこないはずだったが、目を覚ましたギンガが時計を見るとすでに12時を回っていた。

 

「………昨日寝たの11時くらいだったのに…」

 

「お互いに必要なものを得た結果ってことだろ?もうすぐアリスが来る。夫婦になるのもかまわないが、そろそろ親に戻れよ」

 

「…そうだな」

 

アキラは起き上がり、ベッドから出た。そしてそのまま部屋を出ていく。その様子をギンガとノーリは不思議そうに見ていた。アキラが出て行ったところでノーリはギンガに尋ねる。

 

「…………昨日、どうだった?」

 

「え?」

 

「アキラだよ。様子とか」

 

「………いつもと変わりない…って言ったら嘘になるかな。普段から物静かな人だけど、いつも以上に。昨日だって、私は準備できてたのに…」

 

準備ができていたというのは当然夫婦の営みのことだ。昨日、準備はしていたし何なら誘ってみたのだがアキラは断った。

 

「まぁ、そう簡単に割り切れやしないよな」

 

アキラは顔を洗い、朝食兼昼食の準備を始める。しかしその顔は全く浮かれていない。

 

「…………親……か」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「来たッスよ~!!!」

 

ノーリが来てから一時間ほどでナンバーズらが到着し、その中のウーノの手の中にはアリスがいた。今は眠っているようだ。

 

「………おかえりなさい」

 

玄関にはギンガだけが出迎える。ウェンディとウーノは玄関から奥を見るがその奥からアキラが出てくる気配はない。

 

「…アキラは?」

 

「……それが」

 

ギンガは苦笑いで居間に通すがそこにアキラの姿はない。昼食のすぐあと少し目を離した隙に、いなくなったとギンガが話した。

 

「どうして…」

 

せっかく戻ってきたのにまたすぐにいなくなってしまったことにウーノが困惑を覚える。いや、ウーノだけではない。セッテも、他のナンバーズも同様だ。

 

「まだ、戻ってこれてないんだ………日常に」

 

戸惑っているナンバーズの前にノーリが現れた。

 

「日常…」

 

罪から解き放たれ、かつての友に、妻に会ってもなおアキラは日常に戻ってこれていない。そんなアキラの心情をノーリは感じていた。かつては自分だったからだろうか。

 

「どうして…私には会えたのに…」

 

「恋人と、子供、その違いはあるだろ。心の整理の時間が必要なんじゃないか」

 

「でも、また出て行ったって可能性はない?もう記憶改ざんが難しいからって…何もせずに…」

 

「それはない。ギンガに着けてある発信器から逆探知ができるようになってる。今は………あいつの家に向かってる。もう少ししたら迎えにいってやろう」

 

 

 

―旧アキラ宅―

 

 

 

ここはとある山の中にある小屋。ほとんど物置のような小屋にアキラは昔住んでいた。管理局に入るよりも前の話だ。

 

「…」

 

家の中に入る。もう何年も放置しているせいでかなりほこりまみれだったが何も変わっていない。庭に出るとそこにはトレーニングのために自作した施設がある。アキラは木刀を持って装置を起動させた。

 

近くにある装置から木の棒が襲い掛かってくる。それを木刀で防ぎ、背後から放たれた木の棒を足で蹴り落とす。さらに三方向から飛び出してくる木の棒に対し木刀を構えた。

 

「一閃必壊・円陣舞!」

 

回転して放った剣撃は木の棒を木っ端みじんに破壊し、放たれた剣圧はついでに装置まで破壊した。そして想定以上の負荷がかかった木刀は根元から折れる。

 

「…」

 

もやもやした気持ちを切り離したくてものに当たってみたがあまり効果はなかった。アキラは折れた木刀を投げ捨て、どこかへ歩いて行った。

 

 

 

―とある山―

 

 

 

アキラは山にやってきた。そこはセシルの墓が置いてある山だった。アキラはセシルの墓の前に行き、花を手向ける。

 

「………ダメだよな…こんなんじゃ。お前もそう思うだろ?」

 

「…何をしている」

 

「!」

 

背後から声がした。振り返った先にはノーリがいた。アキラは小さくため息をついてから答えた。

 

「………なんも」

 

まぁそんなことだろうなという顔をしてからノーリはアキラの隣に座った。

 

「娘と嫁、幸せな家庭に戻ることに何の戸惑いがある?」

 

「俺は一回家族を捨てたんだぞ………そう簡単に戻ってたまるかよ…」

 

「戻れるさ。俺だってたくさん人を殺した。だけど、お前たちっていう家族ができた。アインハルトとリンネっていう………まぁ俺を好きになってくれた人もいる。お前だってそうだろ」

 

「……それを捨てて、お前は戻ることができるのか?」

 

「俺は戻る。あいつらが許してくれるってんならな…。お前も、いつまでもそんな態度でいるならギンガも俺が取っちまうぞ」

 

「………そうしたほうが…いいのかもな」

 

刹那、アキラの頬にノーリの拳がめり込んだ。構えてなかったアキラはそのまま吹っ飛び、近くの岩に叩きつけられた。

 

「ふざけるな!いまの言葉!もっぺん言ってみろ!」

 

ノーリはいつのまにか大人モードになっていた。アキラは頬をぬぐいながら立ち上がる。

 

「…………俺を選んだんだぞ!もっといいやつはいたはずなのに!俺を選べばどうなるかわかって!!こんな俺を選んでくれたのに………俺は捨てたんだぞ!」

 

ノーリは歯を食い縛り、拳を握ってアキラに殴りかかった。アキラはECディバイダーを出現させてその攻撃を防いだ。

 

「だったらその分幸せにしてやればいいだけの話だろ!」

 

ノーリはさらに蹴りを放ったがアキラは姿勢をのけぞらして躱した。そのままカウンターで膝蹴りをノーリに食らわせた。

 

「がっ……!」

 

「俺を許してくれたあいつに顔向けができない!申し訳なくて申し訳なくて心が押し潰されそうなんだ!俺はどうればいい!?」

 

アキラは膝蹴りをくらい怯んだノーリの背中を掴み、近くに投げた。ノーリは少しふらつきながら立ち上がる。

 

「はっ………まさかお前、俺らやギンガがお前のために助けるって言ってると思ってんのか?馬鹿が!もうギンガにはお前しかいないんだぞ!アリスの父親だってお前だけなんだ!だからお前を必死に引き留めてんだ!逃げるなんて選択肢最初からねぇんだよ!」

 

「…」

 

ノーリはその場で構え、拳を握った。そして足先から練り上げた力を拳に込めてアキラに殴りかかった。

 

「覇王断空拳!!」

 

「くっ!!」

 

背後にセシルの墓があるため、アキラは回避するわけにもいかず、その拳をガードで何とか防ぐ。

 

「心が押しつぶされそうだろうが関係ない!生きろ!ギンガの夫として!」

 

ノーリの拳がアキラのガードを貫通し、そのまま腹部に深く突き刺さる。アキラは吹っ飛び、セシルの墓に当たりそうになる。

 

「しまっ…」

 

ノーリもすぐに動こうとしたが間に合うわけもない。しかし、墓とアキラの間に誰かが入り込み、アキラを受け止めた。

 

「義兄貴…」

 

「墓の前で喧嘩とは、良くないな」

 

現れたのはアキラの義理の兄である橘レイだった。

 

「なんでこんなところに」

 

「お前が死んでから、ずっとセシルの墓の面倒を見てったってだけだ」

 

アキラがいなくなり、セシルの両親も暇ではないしそろそろご老体ということもあってセシルの墓の掃除等を担ってたらしい。

 

「それに、嫁と娘の前だろう?」

 

レイが指さした方向にはギンガがおり、その手にはアリスが抱かれていた。

 

「ギンガ…」

 

「アキラ君…」

 

罪悪感からかアキラは自然と目を逸らす。ギンガは何も言わずそっと近寄る。

 

「ほら、アリス。お父さんよ」

 

「あう……」

 

小さな手がアキラの服を掴む。

 

「父……様ぁ………?」

 

アキラはっとしてアリスに視線を向けた。アキラが行方をくらましたとき、アリスはまだ1歳だったがもう2歳と半年くらい経っている。言葉を話して当然だ。

 

「アリ………ス?」

 

アキラがアリスを見るとアリスは無垢な眼差しをアキラに向けていた。そしてアキラの顔を見るなりアリスはにっこり笑った。

 

「父様!!」

 

「…」

 

(いったい何を恐れていたんだろう…)

 

こんなに無邪気で、一年も放置した父を父と呼んでくれる存在に対し、アキラは恐れや戸惑いを感じていたのが馬鹿らしくなってきた。

 

「アリス………」

 

アキラはギンガからアリスを受け取り、頭を撫でる。アリスは笑顔で撫でられる。それを見てからアキラはギンガを見た。

 

「………ギンガ…ただいま」

 

「…おかえりなさい」

 

二人の様子がいつも通りになったことを確認するとノーリは二人にチケットを差し出した。

 

「…これは?」

 

「この間買い物での福引で当てたんだ。俺が持ってるとうるさいのが来るからな。仲直りがてら行ってこい」

 

「…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アキラたちナカジマ一家はチケットに書いてある屋内プール施設『アクアランド』へとやって来た。

 

『アクアランド』は最近オープンしたばかりの大型娯楽施設で、その広大な敷地内の施設の中には大小の様々なプールが存在し、普通の25mプールに競技用プール、オーソドックスな流れるプールや波のプールから、温泉やサウナをはじめとする入浴施設や飲食店や物販なども揃っており、水着着用のまま食事や買い物も出来る。

 

「かあさま、はやく!はやく!ぷーるにはいろ~」

 

フリルがついた子供水着姿のアリスがギンガの腕を引っ張る。その目はキラキラと輝いており、早く、早く、とギンガを急かしている。

 

アリスのその様子から、彼女が目の前に広がる大きなプールに早く入りたいと思っているのは手に取る様に分かる。

 

アキラが殺されたと思われた時、ギンガはアリスに『お父さんはしばらくお仕事で留守なの』とごまかしていた。

 

まだ幼少のアリスに父親が殺されたと言われても理解するのは難しいだろうし、二度と父親に会えないという事実を幼い娘に伝えるのは辛かった。

 

アリスは年相応な子供用の水着を着用しており、ギンガの水着は黒いビキニタイプの水着を身に着けて腰にはパレオを巻いている。当初、ギンガはパレオを身に着けていなかったのだが、アキラが物凄い剣幕でギンガにパレオを着けてくれと頼みこんできたので、ギンガはパレオを身に着けたのだ。

 

何故、アキラがギンガにパレオを強く薦めたのか?

 

その理由は只一つ!! 

 

愛妻の水着姿を他の男共に晒すこと事態が面白い事でなく、気にいらなかったのだ。

 

しかし、その事実をアキラはプールに着いてから気が付いた。 

 

だが、娘がここまで喜んでいる手前、「ギンガ(お母さん)の水着姿を他の男共に晒したくないから帰ろう」など当然言える筈もなかった。

 

しかし、パレオを着け、下の水着部分は隠せても上半身の程よく実ったギンガの胸の果実を隠すことは出来ず、遠巻きから男共の欲に満ちた視線をアキラは感じ取り、狂犬並みに周囲の男共を威嚇していた。

 

その反面ギンガとアリスの方はというと周囲の視線を全く気にしておらず、何故アキラが周囲を威嚇しているのか分からず、首を傾げていた。

 

そして今、ナカジマ一家がいるのは何の変哲もない普通のプールのプールサイド。まだ幼いアリスを連れているので最初は無難にということだろう。

 

「アリス、プールに入る前にちゃんと準備運動をしないとダメよ」

 

プールサイドにて、ギンガはアリスにプールへ入る前、しっかりと柔軟体操をするように言うが、

 

「やぁー!はやく、ぷーるはいりたいのぉ~」

 

ギンガの言葉にアリスはプクッと頬を膨らませ、ギンガの手を引っ張り早くプールに入ろうと催促する。

 

アリス本人としてはもう我慢の限界で、早く目の前のプールの中へ入りたい様子だった。

 

「ダメだぞ、アリス。ちゃんと準備運動をしないでプールに入ると足がイタイイタイになっちゃって帰らなきゃいけなくなっちゃうぞ」

 

「うぅ~。かえるのはやぁ~」

 

「だったら、ちゃんと準備運動しよう。なっ? 大丈夫だよアリス。プールは逃げやしないから」

 

「う、うん」

 

アキラの言葉を聞いて、渋々といった様子でギンガと一緒に準備運動を始めるアリス。

 

「いち、に、さん、しー‥‥」

 

「ごー、ろく、しち、はち‥‥」

 

と言ってもまだ幼いアリスが一人で準備運動をちゃんと出来るわけでもなく、ギンガやアキラの動きを見よう見まねで体を動かし、時折ギンガがちゃんとアリスに手を貸してしっかり柔軟させているので問題は無いだろう。

 

「とうさま!これ膨らましてー!!」

 

一通り準備運動が終わると、アリスが大事そうに抱えていたふにゃふにゃ状のビニールをアキラに渡す。

 

アリスが渡したビニールは水着と共に買ったミッドで人気のアニメキャラが描かれた浮き輪だ。

 

「おう。任せとけ、見てろ」

 

アリスからふにゃふにゃ状態の浮き輪を受け取ると、アキラは大きく息を吸って浮き輪へと一気に空気を吹き込む。

 

アキラが浮き輪に息を吹き込むたびに膨らんでいく浮き輪の様子をアリスはワクワクした様子で見ていた。

 

「ふぅー!!……ふぅー!!……ぷはぁっ~!!ど、どうだ?アリス」

 

「とうさま、すごーい!!」

 

アキラは会心の一息、とでも言うのか最後に大きく胸をそらせて一気に吹き込み、浮き輪をパンパンに膨らませた。

 

ほとんど息継ぎなしで一気に膨らませたため、肩で息をしているアキラ。

 

「は、ははは……と、とうさまにかかればこんなもんだ……」

 

娘の前なので、キリッとカッコつけたいようだが、断続的に息を吹き続けたため、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返すその様子ではカッコ良さも半減である。

 

戦闘機人とはいえ、これはきつかったみたいだ。

 

しかし、浮き輪を膨らませたことで、アリスは満足がいったようで、アキラの様子を特に気にしてはいない。

 

「お疲れ様、アキラ君‥‥でも、そこまで張り切らなくても、あそこで空気入れを借りられたみたいだよ」

 

「えっ?」

 

ギンガが指をさしている方向に視線を移して見ればちょうど他の家族が浮き輪に空気を入れているようだった。

 

無料の自動空気入れの様で、空気の差し込み口に浮き輪を着けると瞬く間に浮き輪が膨らんでいく。

 

「そ、そんな………俺の……俺の苦労は一体………」

 

「とうさま。よしよし」

 

ガックリと膝をついてうなだれるアキラの頭をアリスが撫でて、アキラを慰める。

 

「うぅ~アリスの様な優しい娘を持てて俺は幸せ者だ」

 

アキラはアリスの行為に感動し、自分の頬をアリスの頬に擦り合わせ、嬉しさと幸せを実感していた。

 

そんな親バカなアキラの姿をギンガは苦笑しながら見ていた。その時、アキラたちの先の木陰に見覚えのある姿が見えた。ギンガはアキラにアリスを任せて木陰まで行った。

 

「メグ!来てたの!?」

 

木陰にいたのはメグだった。ずっと復讐のために仲間も友も見ずに突っ走ってきたギンガはなんだかメグに会ったのが久しぶりな気がした。

 

「ハロー。あのバカがまたウジウジしてないか気になってね。ま、あの様子なら大丈夫でしょ」

 

「……うん」

 

「…もう離すんじゃないわよ」

 

「もちろんよ」

 

「じゃあね」

 

去ろうするメグをギンガは引き留めた。

 

「待って!せっかく来たんだから一緒に遊んでいかない?こうやって話すのも久しぶりな気がするし…」

 

「夫婦水入らずで仲よくなさい」

 

メグは手をひらひらと振りながら帰っていった。メグも彼女なりにアキラを心配してくれていたのだ。そのことにギンガは心の中で感謝した。

 

「よーし、アリス。かあさまの所まで頑張れ!!」

 

「うん!!」

 

「アリス~おいで~」

 

「かあさまー!!」

 

浮き輪に乗ったアリスがぱちゃぱちゃと足で水を蹴りながらアキラの下からギンガの下へとたどり着く。

 

ギンガに受け止められると、アリスは本当に楽しそうにエヘエヘと笑顔を浮かべている。

 

「それじゃあ今度はまた、とおさまの所に行こうね?」

 

「うん!!」

 

アリスが足を使って器用に体の向きを反転し、アキラの下に泳ぎだそうとしたが、視線の先に先程まで居たアキラの姿がないことに気が付く。

 

ほんの先ほどまで、少し離れたところで待っていたはずなのにその姿はどこにも見えない。

 

「あれ?とうさま、いない……どこー?とうさま、まいごになっちゃったの?」

 

不思議そうな顔できょろきょろと辺りを見回すアリス。

 

そんな娘の様子が可愛らしくてクスリと微笑むギンガ。

 

そして視線をアリスの元に水面下から近づいてくる茶髪に手で合図を送る。

 

その合図を受け、水面下の茶髪は「いつでも準備できているぞ」と、水の中でサインを送ってくる。

 

「とうさまー?どこー?」

 

「ホント、どこに行っちゃったのかしらね?アリスの言う通り迷子になったったのかな?」

 

そう言いながらギンガも水中でサインを送る。

 

それに合わせるかのようにアリスの目の前にザパッと水中からアキラが急浮上した。

 

「ふぇ?」

 

突然、目の前に急浮上したアキラにアリスが目をぱちくりと瞬きをして驚きの声を上げる。

 

「どうだ?アリス、ビックリしたか?……って、思ったより反応が薄いな……」

 

アキラ本人としてはアリスをびっくりさせたつもりだったのだが、肝心のアリスのリアクションがいまいちであり、『すべったか?』とアキラが思っていると、

 

「ほぇー……」

 

ぽかんとした表情でアキラを見るアリス。

 

どうやらアリスは事態を把握できていないらしい。

 

「あ、あれ? もっとこう、びっくりしたり泣き出したりするかと思ったんだが……もしかして無駄骨!?無駄骨なのか!?」

 

「とうさまー!」

 

ようやく事態を把握したのか、アリスは嬉しそうにぱちゃぱちゃと泳いでいくとアキラに抱きついた。

 

せっかく驚かそうと思って長く潜水してまでスタンバっていたのに、なんというか拍子抜けとなる結果となった。

 

そんな父娘の様子をギンガはやはり苦笑しながら見ていた。

 

 

それからしばらくして、ギンガは波のプールの近くにある休憩所のベンチで一人、遠目にプールを眺めていた。

 

アキラはアリスをすべり台へと連れて行き、ギンガは現在一人で休憩中なのだ。

 

人工的ではあるが波の打ち寄せる音が一定のリズムを奏でている。

 

どこか落ち着くその音に、ギンガは周囲の喧騒を余所に、目を閉じて耳を澄ませて波音を独り静かに聴いていた。

 

「ねぇ~彼女、一人? よかったら俺たちと一緒に遊ばない?」

 

そんなギンガに軽薄そうな声で話しかけてきたのは、やはり軽薄そうなチャライ男達だった。男達はギンガのその熟れた胸や腰回りを下心全開の目で舐めまわすように見てくる。

 

相手にするのも面倒くさいので、ギンガは小さくため息を吐く。

 

「きっと楽しい思い出になるからさ、一緒に遊ぼうぜ」

 

「あっ、いえ、連れを待っていますので」

 

流石に公共の場で事を荒立てるのはマズイので、とりあえずやんわりとギンガは男たちの誘いを断る。

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ」

 

「えっ!?ちょっ!!」

 

断っているのにも関わらず一人の男がギンガの腕を無理矢理掴む。

 

さすがに不快そうに男を睨みつけ、声を上げた。

 

一撃を与えて気絶させようかと迷っている中、その男のかぶっていた帽子が突如として吹いた強風によって飛ばされる。それと同時に男の手からギンガが消える。

 

「え?」

 

振り返るとそこには左手にギンガを抱え、右手には滑り台を終え、満足そうなアリスを抱えたアキラが立っていた。

 

「俺の女になんか用か?」

 

アキラの怒りを押さえ込んでいるような低い声に男たちの動きが止まった。

 

「「「し、失礼しました~」」」

 

アキラの迫力に、男たちは情けなく愛想笑いを浮かべ、蜘蛛の子を散らす様に去っていった。

 

「とうさま、かっこいいー!!」

 

睨みだけで男共を追っ払ったアキラにアリスがキラキラと輝くような尊敬のまなざしを向ける。

 

「そ、そうか?」

 

「うん!!」

 

娘からの賛辞に少し照れたような笑みを浮かべるアキラだった。

 

それからは、三人は『アクアランド』内のレストランで昼食を摂ったが、利用客の目は山盛りとなっている料理を気にすることなく食べているギンガとアリスに集中していた。

 

(やっぱりアリスもクイントさんの血を継いでいたか……)

 

アリスにとっては祖母であるクイントの大食いな所は娘のギンガ、そして孫であるアリスにもちゃんと受け継がれていた。

 

昼食後、再びプールへと戻ったナカジマ一家は流れるプールでアリスが水流に逆らおうと必死に足をばたつかせるも水流にされていったり、親子三人でウォータースライダーを滑ったりと様々なプールで遊びまくっていた。

 

プールを満喫した後、施設内の家族風呂に入り、ナカジマ一家は家路へと向かった。

 

帰りのバスの中、一日遊び続けたからかアリスはアキラの膝の上に座り、穏やかな寝息をたてている。

 

そして、一日中アリスを追い掛け回していたギンガも、アキラの肩を枕にして夢の中にいる。

 

(アリスの体が抱き枕みたいだ……暖かいし、柔らかい。それにギンガの体温や香りがなんともいえなく心地よくて眠気が……)

 

気を抜くと睡魔に意識を持っていかれそうになるのを何とか頭を振って堪えるアキラ。

 

(俺が起きてねぇとな………。乗り過ごしちまう)

 

アリスとギンガの寝顔を見ながらアキラは何とも言えない満たされたような感覚に陥る。

 

(これが………俺の幸せ。そしてきっと………二人にとっての幸せ。誰も変わってやれない………ってことなのかな)

 

懐と肩から伝わってくる家族の暖かい温もりに幸せを感じつつも気合を入れなおし睡魔と懸命にアキラは戦ったが、結局睡魔に負けてしまい、最終的にバスの終点の停留所にゲンヤに車で迎えに来てもらった。

 

「どんまいだよ。とうさま」

 

そしてまたもやアリスから慰められるアキラであった。

 

 

 

それから数日後。

 

「ノーリさん」

 

「な、なんだ?アインハルト」

 

ノーリにアインハルトが笑みを浮かべながら迫ってくる。

 

「先日、アクアランドの招待チケットを福引で当てたみたいじゃないですか」

 

「な、なんでそのことを!?」

 

あの場にアインハルトは居なかった筈なのにアインハルトはノーリが福引でチケットを当てたことを知っていた。

 

「リオさんが、偶然ノーリさんがチケットを福引当てたところを見て居たみたいで、後日私に聞いてきたんです……ノーリさんと一緒にアクアランドに行ったのか?と……」

 

「………」

 

「それで、誰と行ったんですか?アクアランドに‥‥リンネさんとですか?」

 

「あ、あのチケットなら、アキラたちに譲ったんだよ」

 

信じてもらえないかもしれないが、ノーリはあのチケットをアキラたちに譲ったことをアインハルトに教える。

 

「そうですか」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

これでアインハルトが引いてくれると思ったノーリであったが、

 

「でしたら、今度は私たちも一緒に行きましょう。アクアランドへ」

 

「えっ?」

 

「アキラさんたちは一家団欒でアクアランドを楽しんだんですもの。私たちも一緒に楽しみましょう。もちろん二人っきりで行きましょうね?」

 

アインハルトは『断ったらどうなるか分かっていますね?』と圧がある笑みを浮かべながら有無を言わせずにノーリにプールデートの約束を取り付けた。

 

「…」

 

チケットをアキラたちに譲ってもノーリはアインハルトから逃れることは出来なかった。

 

 

 

続く


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