とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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ここまでくるのに設定詰め込みすぎた気もするがまぁしょうがない。


第九話 オレの帰る場所

―ヴァンデイン・コーポレーション―

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

この日、いつも通りの仕事を終わらせたハーディス・ヴァンデインは帰ろうとし、駐車場から車を動かした。そして、車を地下駐車場から出そうとしたとき、車の前に男が立ち塞がった。

 

「ヴァンデイン・コーポレーションの専務取締役、ハーディス・ヴァンデインだな?」

 

男はフルフェイスを被ったアキラ、即ちナナシもといマスクだった。

 

「………どちら様ですか?もう本日の業務は終了しておりますのでまた後日…」

 

車の窓から顔を出したヴァンデインがそれを伝えている途中、アキラは手りゅう弾を投げた。ヴァンデインがそれを手りゅう弾と認識した刹那手りゅう弾が破裂した。ヴァンデインは反射的に車の扉を盾にしたが爆発に耐え切れず扉は吹っ飛んだ。ヴァンデインは反対側の扉からスーツについたガラスの破片を払いながら出てくる。

 

「あーびっくりした。なんなんだいったい」

 

「シャア!!!」

 

ヴァンデインの死角からアキラが刀を構えて襲い掛かった。アキラの刀が首を狙って振られたがそれはヴァンデインが出現させたショットガン型のディバイダーで防がれた。

 

「!!」

 

「せめて襲ってくる理由くらい話してもらいたいんだけれど………」

 

「関係ねぇよ」

 

アキラは一気に距離を取り、刀を一旦納刀して構えた。

 

「一閃必斬、時雨露走」

 

居合切りを放ち、ヴァンデインの首に剣を振るったがその刃は首を切り落とせなかった。それどころか傷一つつけられていない。

 

「ふむ、悪くない太刀筋だ。私を倒すには遠く及ばないがね」

 

(か…堅ぇ!)

 

ヴァンデインはアキラの刀を掴み、自分の首から離していく。

 

「炎神剣・業烈火!!」

 

アキラは刀に炎を纏わせ、その勢いで一瞬ヴァンデインの手を緩めさせる。その隙にヴァンデインの手から刀を一気に引き抜き、その勢いを利用して炎を纏った刀で回転切りをヴァンデインに食らわせた。

 

「一閃必薙!!!炎剣・円陣舞!!!」

 

しかし、それで砕けたのはアキラの刀の方だった。

 

「っ!」

 

ヴァンデインに握られた時点ですでに刀にヒビが入っていたようだ。さらにアキラがそのことに驚いて生まれた隙にヴァンデインはアキラの胸元にディバイダーの銃口を向けていた。そのまま弾丸を打ち込まれアキラは吹っ飛ぶ。

 

「痛ぅ………」

 

「今のを受けて生きているのか。興味深い。生きているのなら………名も知れぬ襲撃者君。対面から今に至るまでの数々の無礼、どう責任を取ってくれるのかな?」

 

「お前は………15年前、違法にECの研究を行っていたか?」

 

「15年………………?ああ!ずいぶん昔の話をするね!確かにわが社はそれくらい前、いやそれ以上からECの研究をしていて15年前に実験の成功をしたからそこから研究がはかどったね。それがどうかしたのかい?」

 

「ディバイダー!!!!!」

 

アキラは確信した。アキラが生み出されたAtoZ計画でアキラが感染させられたECはここが出所だと。そして、自分自身が感染を成功させてしまったことでEC感染者が様々な世界を襲撃し、命を奪う現状がある。

 

「お前をこの世界から切り離す…リアクト・バースト!!!!」

 

アキラはリアクトバーストを発動させ、そのままヴァンデインに切りかかろうとしたが刹那の間に胴体を深く切り込まれた。大量の血を吹き出し、アキラは仰向けで倒れた。

 

(なん………だ?何をされた……っ!)

 

「ん?胴体を切り落とすつもりだったが、おもったより頑丈らしい」

 

ヴァンデインはアキラが落としたディバイダーを拾い上げて形式番号を確認した。

 

「なるほど、このディバイダー……君はあの実験で生み出された人造魔導士か。まさかまだ生きていたんて思わなかったなぁ」

 

「がはっ………ああそうだ………お前が偽物のEC感染者を作り上げて様々な集落を襲ってるのも知っている…。なぜだとか理由は聞かねぇ。お前みたいなクソ野郎は嫌ってほど見てきた…。だから、一刻も早くテメェをこの世界から消す」

 

「うーん勘違いして欲しくないんだけど…我々はただ社会貢献したいだけなんだけどなぁ。それに消すっていうけれど…消されそうなのは君じゃないかい?」

 

「そいつはどうかな」

 

倒れたアキラの手には閃光手榴弾が握られていた。ヴァンデインがそれに気づくと同時に閃光手榴弾が光を放ちながら炸裂した。警戒していなかったヴァンデインはそれにやられて隙が生まれた。

 

アキラは再生能力を最大限に発揮しながら近くに落とした折れた刀を拾い、構えた。

 

「一閃必壊!竜閃禍!!」

 

折れた刀で放った全力の一撃。辺り一面を抉り、破壊し、打ち込まれた一閃は深く、鋭く地面を斬り込んでいた。

 

「ふぅ、いまのはまともに食らってたら危なかったかな…………」

 

駐車場の影から埃を払いながらヴァンデインが現れた。いつのまにやらアキラは姿を消し、どこからか声だけが聞こえてきた。

 

「今は見逃してやる!だがな!次は必ず貴様の首を取る!首洗って待っとけ!」

 

「…やれやれ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「なるほど。それが君が管理局を離れてからの行動だった訳か」

 

アキラは捕らえられ、一時的に隔離された。椅子に座らされた状態で手足が完全に動かせない様に拘束された。取り調べ役として小此木とそのボディガードとしてツムギが来ていた。

 

「そうだ。つーかずいぶん堅牢な拘束だな」

 

「上の人間はまだ君を恐れている人間も多い。形式上のものさ」

 

「そうかい…………マスクって犯罪者は実在しない。俺が勝手に追っていた感染者が犯した罪をやったことにした架空の人物だ。俺はそいつらを追う口実にマスクを作り出した。そして、その捜査中、感染者を見つけ出して殺した。殺したときにそいつらの頭を覗いてスポンサーを調べた」

 

「なるほど。しかし君の能力で調べたからといって我々は彼を逮捕することはできない。証明ができないからね。だから直接手を下したわけか」

 

「ああ。ともかくやつを仕留めないとこの事件は終わらない。終わりにしちゃいけねぇんだ」

 

「なるほど、大体理解した」

 

小此木はそう呟き、アキラの拘束のロックを解除した。急に自由にされたアキラは戸惑いながらも椅子から立ち上がる。

 

「君がなぜここから離れたか、離れて何をしてたか、合点のいく内容でよかった。でなければもう少し君を拘束しなければいけなかったからね。上に報告してとりあえず君の処分を検討するよ」

 

「信用されたみたいで安心した」

 

「とりあえず君には治療が必要だ。その辺のスペシャリストを集めてきたからともかく暴走しない治療を受けてくれたまえ」

 

小此木の合図で扉が開くとそこから、マリエル、ウィード、クラウドの三人が現れる。

 

「やぁ、久しぶり」

 

ウィードが気さくに挨拶をするとアキラは呆れ顔で小此木に尋ねた。

 

「………スペシャリストには違いねぇだろうが。犯罪者に頼るってのはどうなんだ?」

 

「今回の事件はなりふり構ってられないからね。ECを今回で根絶するのが我々の目標だ。そのためだったらどんな力でも私は使うよ。それに最初に彼らを協力させたのはギンガ君だ。マスクを倒すためにね」

 

「…」

 

「それにクラウド君はもうすぐ釈放の予定だ。我々への貢献が多いほど時期も早まる」

 

「あの事件からもうそんなに経つのか」

 

「私としてはもう静かに余生を過ごしたいのだが…まぁギンガの頼みとあっては仕方ない。それに……」

 

クラウドは思いっきりアキラをぶっ叩いた。

 

「!?」

 

「娘同然の存在を悲しませた馬鹿を少々シバきたかったからな」

 

「…………………………悪かったよ」

 

言い返す言葉もない。アキラはバツの悪そうに謝った。

 

「それにしてもテメェが協力とは、なにを考えてやがる」

 

アキラはウィードに疑いの眼差しを向けた。

 

「僕の研究は既に今の君と言う形で完成している。これ以上なにも望まない。だが檻のなかでなにもせず過ごすのは少々退屈でね。研究や開発をできるなら大歓迎さ。それに君を失いたくはない」

 

「ああそうかい」

 

管理局としてもECウィルスの研究と治療薬の開発は今後の管理世界拡大に必要な案件であった。

 

マリエル、クラウド、ウィードと言った一流の研究者たちがこの案件に参加してECウィルスの研究と治療薬の開発にかかわることになり、アキラとトーマもウィルス保持者として血液の提供などを行った。

 

完全な治療薬はそう簡単に開発されはしなかったが、ECウィルスの衝動を抑えるナノマシンの製作には成功したことからアキラとトーマは当分の間、苦労はかけるが月に数度、先端技術医療センターにてこのナノマシンの接種が義務付けられた。

 

 

 

 

 

ー保護施設ー

 

 

 

アキラが自身のECを抑え、ギンガを、家族を傷つけないために始めた嘘はギンガがアキラの本音を聞き出すことで終わった。長く苦しい嘘を終えたアキラとアキラの側にいた少女シーラはとりあえず逮捕という形で六課に預かられたがアキラはファントムの一員であることと多くの味方によってすぐに管理局員として復帰するだろう。

 

「あなたがシーラちゃん?」

 

「ええ。よろしく」

 

アキラやフッケバインと一緒にはいたが、いただけで何かしたわけではないシーラはとりあえず保護という形に代わり、現在は事情聴取されている。

 

「これまではなにを?」

 

「私は瞬間移動の能力を持っています。自分も自分以外の物体も自由に。その能力の研究のためにとある違法研究所で実験台として隔離されてました。そこを兄様……アキラに助けてもらったという感じです」

 

この少女はアキラが造り出された実験「AtoZ計画」の唯一の生き残りである。アキラが暴走し、施設にいた職員とBからZまでの被験体を殺害した事件では、自身の能力で施設から抜け出していた。

 

しかし、行く宛もなく放浪してたところをAtoZ計画を行っていた研究施設と同じ系列の実験施設に拾われ、再び実験台として扱われていた。そこに、ギンガと別れて間もないアキラが実験施設を襲撃、シーラと出会ったのだった。

 

「一応確認するけどあなたがギンガさん?」

 

「ええ。ギンガ・ナカジマです」

 

「兄さまをどうか許してあげて。なんかすごい数の女を抱いたとかデリカシーの欠片もないこと言ってましたが、あれ嘘ですから」

 

「まぁ、そうでしょうね。言われなくてもアキラ君を許してる………いいえ、最初から怒ってなんかもないわ。私がアキラ君に怒ったのは、私を傷つけたからじゃない。ずっと自分を傷つける嘘をついていたから」

 

それを聞いてシーラは驚いた表情をした。あの二人は本当に愛し合っているのだと肌で感じたのだ。シーラは小さく笑う。

 

「?」

 

「いえ、さすがはあの兄さまの奥さんだと思いまして…」

 

「………まぁ、アキラ君には昔っからずっと振り回されっぱなしだからね。もう慣れちゃった」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

取り調べと治療を終え、アキラは海上隔離施設に入れられた。ナンバーズたちに教えるべく何度もここに足を運んだが、自分が隔離される側になるとは思いもしなかった。そんなアキラのところに小此木がやってきた。

 

「やぁ、マスク。調子はどうだい?」

 

「その名前で呼ぶな。安直すぎてちと恥ずかしいんだ」

 

「うむ、元気そうで何よりだ。君の処分が決まったから伝えに来た」

 

「………」

 

アキラは小さく覚悟を決める。戻るとは言ったものの判断するのは上である。下手すれば処分の可能性だってあった。

 

「これまで数々の事件を解決してきたことが功を奏したようだね。局を離れたのも、襲撃事件も事情ありきということで、君は再び管理局で務めることが許された。ただし得た情報はすべて吐いてもらう。フッケバインにどういう経緯で入ったかは知らないが彼らを庇うような真似はしないと誓ってくれ」

 

「……ただ敵になることはできない。あいつらも被害者みたいなもんだ。助けると約束してくれ」

 

一時的とはいえ行き場を失っていたアキラに居場所をくれたフッケバインを早々と敵として扱うことにアキラは抵抗があった。

 

「…任せたまえ。管理局はそこまでひどい組織ではないと君もわかっているだろうに。上の人間が酷い人間だったとしても、私がいる。同じファントムとして、信用してくれたまえよ」

 

「ああ……そうだったな。いつのまにか、そんなことすら忘れちまってたみたいだ」

 

アキラは敵の情報をある程度話したが残念ながらそのほとんどは既に調べがついている情報だった。フッケバインはアキラにあまり深く関わらないこと、そしてアキラもフッケバインにあまり深く関わらないことを約束していた。

 

アキラも故郷を捨てたとはいえ、フッケバインに心から染まろうともしていなかったからだ。

 

「あといくつか質問だ。フェイト執務官はどうして殺しかけた?」

 

少し前の戦闘でアキラはフェイトを思いっきり切った。その時の怪我はひどく、フェイトは今も予断を許さない状況だ。

 

「…………あの時、俺はギンガにしばらく寝てもらうつもりだった。あんな無茶までするなんて思ってなくて……だからちょっと強めの技を使った。あの装備ならちょっと一、二週間入院する程度で終わらせられると思ってたんだが………間にフェイトさんが割り込んじまった。ソニックモードで防御力も薄くて、あんな結果に………」

 

「なるほどね………じゃあもう一つ。エクリプスウィルスの破壊衝動、殺人衝動を殺人や破壊で抑えなくても感染者自身死ぬことはない。君でも耐えられないのか?」

 

「………」

 

アキラは黙ったまま俯く。

 

「……………最初は、耐えようとした。実際昔はそれでどうにかなってた時期もあった。俺に感染したECウィルスは俺が変異させたから一時的に殺人衝動はなかった。破壊衝動もほとんどなかった。だが、時間と共に活性化し、俺の肉体が限界を迎え、一度崩壊しかけた時にほとんど元の形に戻ったらしい。無理に押さえ込もうとしても、暴走するだけだ」

 

「………そうか、まぁ、君が人として生きられるよう努力するよ。私という化け物を、彼女が救ってくれたように」

 

少し前に小此木がなぜ管理局の味方をするのかと聞いたとき、

 

(けどね、私は孤独が嫌いなんだ。私の能力が明らかになってから、学校の友人どころか家族すら疎遠となった。その時の孤独と言ったら……。そんな時、管理局に僕は引き取られた。家族が僕を恐れて局に売ったんだ。正直もうどうなろが良かったが、管理局である人にとてもやさしくされた。その人は任務中の事故で亡くなってしまったが、僕は彼女が守ろうとしたこの世界を護りたい。そんな思いで管理局に努めているんだ)

 

そう言っていたことを思い出す。境遇的には同じようなものだった。八神はやても、ツムギも、全員同じだったのだ。

 

「サンキュな」

 

「そういえば、君がマスクの時に使っていたディバイダーは?」

 

アキラがマスクとして戦っていたとき、通常とは違うディバイダーを使っていた。それがいったいなんなのか小此木は気になっていた。

 

「あれは俺がこれまで狩ってきたエセ感染者のディバイダーだ。俺が使ってたのを使っちゃバレちまうからな。だから、狩った感染者のディバイダーの持ち主を俺に書き換えて使ってた。研究のために使いたいならくれてやるよ」

 

「いや、その必要はないよ。先日ヴァンデインコーポレーションの研究施設がフッケバインに襲撃されてね。その調査のためにあちらが開発してるディバイダーは押収した………さて、話はここまでにしておこう。お客さんだよ」

 

「客?」

 

小此木がドアのロックを解除すると、そこから見覚えのある顔ぶれが現れる。コロナ、アインハルト、リオ、イクス、ルーテシア、ヴィヴィオ、ノーリ、DSAAに参加している面々とそのサポーターたちだった。小此木は彼女たちに「ごゆっくり」と伝えてそのまま出て行った。

 

小此木がいなくなるや否やコロナが駆けてきてアキラに触れる。

 

「アキラさん………本当にアキラさんなんですか?」

 

コロナが不安そうな顔で訪ねてきた。アキラは優しく微笑んだ。

 

「ああ。まぎれもなく、俺だよ」

 

「――っ!」

 

声にならない歓喜の声を漏らし、コロナはアキラに抱き着いた。その瞳には涙が溜まっていた。コロナにとって命の恩人で、師であるアキラが死んだと聞いたときコロナは心から悲しんだ。そして、生きていた吉報に誰よりも喜んだ。

 

「よかったです………生きていて…」

 

「はいっ!本当に!」

 

「心配してました!でも、無事で何よりです!」

 

この中で真実を知っているのはノーリだけだった。ヴィヴィオたちにはアキラが殉職したと思われていたが、無事でようやく戻ってきたという風に伝えられていた。

 

「心配かけたな」

 

「本当に!本っ当に!心配したんですからね!!」

 

コロナに続き、ルーテシアとイクスが抱き着いてきた。

 

(ああ…………俺は………こんなにも愛されている………愛を、渡されている………なのに、俺は…)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アキラは釈放され、隔離施設から移送された。普段の服に着替え、アキラは家に帰る前に管理局の病院まで向かった。そして、集中治療室で眠っているフェイトの病室の前まできた。

 

「…………すまねぇ………フェイトさん…」

 

アキラとフェイトにそこまで深い繋がりがあるわけではない。話したこともそこまで多い訳ではない。六課で知り合い、ギンガの恩人であり目標であるからなんとなく他とは繋がりが深い程度だった。

 

「いまはゆっくり休んでくれ。あんたの分まで、あんたが護りたいものは俺が護るから」

 

アキラはそう言い残して病室を去った。

 

 

 

―ナカジマ家(アキラ宅)―

 

 

 

アキラが家に帰ってくる頃には夜になっていた。家の前に立ち、アキラは家を見上げる。まさかここに帰ってくることになるとは思ってなかった。もうアキラはこの先を考える気力は残ってなかった。流れに身を任せ、仲間に頼ることにした。

 

アキラは家の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

「…」

 

玄関には自分の妻が待っていた。いつから待っていたのだろう。家に帰れる大体の時間は伝えていたが前後のズレは生じる。それでもそんなのは気にせずギンガは玄関にいた。

 

「おかえり」

 

ギンガは笑顔で言った。これまでのアキラの行いを気にしている素振りなど一切見せない。かつてと同じだ。アキラがクイントの死の原因になった時も同じだった。彼女はアキラを愛しているという理由だけでアキラを許したのだ。

 

「……………ギンガ」

 

アキラはそっとギンガを抱きしめた。ギンガも抱き返す。お互いにそのぬくもりを感じていた。

 

「ごめん、ごめんなさい」

 

「いいよ。アキラ君に振り回されるのはもう慣れっこだもの………。ごはん、できてるよ」

 

「うん、いただく」

 

二人は居間に向かった。居間には二人分の夕食が用意されていた。特別感などない、いつも通りの夕食だ。

 

「ノーリたちは?」

 

「しばらく父さんの家にいたから、ノーリもセッテもアリスもまだ戻ってこれる準備ができてなくて」

 

「そうか」

 

今日は夫婦水入らずの時間が過ごせそうだった。特別なものなど何もない、いつも通りの時間。これが二人に一番必要な時間だった。

 

 

 

続く


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