大切だった。誰よりなにより大切で、守れるなら命だって惜しくない存在だった。アキラにとってギンガを守ることがすべてだった。結婚し、子供を作り、家庭を築く中で守りたいから一緒にいたいと思う様になってしまった。そして、自身の体に異変が出始める。正しくは自身のECウィルスを封じ込めていた腕輪に変化が生じたのだ。
使用者の能力を封じ、同時に開放するための道具である腕輪。それはかつて冥王のために作られた兵器であったがアキラに譲り渡された。それにより暴走寸前だったアキラのECウィルスはその腕輪の中に封じ込められたはずだったが腕輪の中で成長を続け、ある日、あふれ出した。
アキラは真夜中に暴走したが、家にあったシェルターを利用し、そこに自身を幽閉することによって暴走が収まるのを待った。血反吐を吐き散らし、自己対滅寸前まで追い込まれたアキラの前に現れたのはサイファーだった。
「いずれこうなるだろうと思っていたからな。ずっと観察させてもらっていた。死にたくなければついてこい」
サイファーはそう言ってアキラを連れ出した。
一時的にだがECウィルスの暴走を抑えるべくサイファーが相手となり、アキラの破壊衝動を封じるべく戦い続けた。
「はぁ………はぁ………はぁ」
「ようやく収まったようだな」
連れてこられた採掘場が平地になるまでアキラは暴れ続けた。
「これからどうする?もう家族のところにいたいなどと甘いことは言っていられないほどECは育ち切っている。道は二つに一つだ。我々と共に来るか、死ぬか」
「………治す方法はないのかよ…」
アキラは歯ぎしりをして呟いた。
「これはそもそも病と呼ぶべきものではない。ただの兵器だ。病であれば治す方法が考えられるが、兵器を平和利用するための方法があると思うか?」
その通りだ。作り出した銃を完全に別のものにすることはできない。銃はどこまで行っても銃であり、それを別の形にしたいのであれば溶かすしかない。ECウィルスでいえばそれは宿主が死ぬことだ。
「まぁ、ECの正体がわかれば治す方法が見つからないわけではない。治療法がないのではなく基本的に我々が治したいと思っていないだけだからな」
「正体?」
「原初の種と呼ばれるECの感染源と呼ぶべきものが存在する。それさえ手に入れられれば、どうにかできる可能性がなくはないといったところだ」
「それはどこにある!」
アキラはサイファーに掴みかかって聞き出そうとする。
「それがわからないから我々もこうしてECと共に生きる道を選んでいるんだ」
ごもっともだ。それさえ分かっていればECウィルスを保有している人間だけで構成されたファミリーなど作られないだろう。
「まぁ怪しんでいる部分はある。ここ最近頻発している小さな集落を狙った大量虐殺。それには妙なディバイダーを使っている連中が絡んでいるという情報を得た。そこから何かつかめるかもな」
サイファーは現場で撮られたと思われる銃剣をもった二人組の写真を渡す。
「まぁ今回は何とか抑えられた。まだ時間は僅かだがあるだろうよ。それまでにどうするか決めておけ」
サイファーはそう言い残してその場を去った。一人残されたアキラは空に向かって叫んだ。
「………リュウセイ!!見ているんだろ!?」
「……………まぁ、な」
アキラの呼び声に答えるようにどこからともなくリュウセイが現れる。
「これもお前の言う歩むべき道なのか…?」
以前リュウセイは言った「俺はお前たちを歩むべき道に連れて行く」と。アキラは疑問だった。もはやギンガと別れるのは明白なこの状況が腑に落ちなかった。
「ああ。これもお前の歩むべき道だ。以前の新婚旅行の時のようにイレギュラーが起きれば俺はそこに必ず介入する。それをしないってことは………わかるだろう?」
「…お前の目指す未来はなんだ?俺が死ぬことも…そこに入っているのか?」
「さぁな。そこまで教えたら未来が大きく変わる。だから、自分の信じる道へ行け。ギンガに迷惑をかけないために自殺するのも手じゃないか?まぁ俺が絶対にお前の味方とも限らないが」
「おまえっ!」
掴みかかろうとしたとき、そこにはリュウセイはいなかった。
「…」
それからアキラは必死にその二人組を捜索した。ほんのわずかな可能性に賭けて。そして捜索していく中で気づく。どの形を取ろうとギンガと別れなければならないことに。仮にこの二人組から原初の種のありかを突き止められたとして、入手するのは困難なのは目に見えていた。カレン達のような人を殺すのを躊躇しない連中ですら見つけられていないものだからだ。
それに仮に入手できたとしてアキラだけでECの治療法を見つけ出すのは時間がかかるからだ。他者を感染させる可能性のあるものを施設に持ち込むわけにはいかない。
だから、自身の隠れ蓑として「マスク」という存在を生み出した。
サイファーの言っていた犯人は管理局では確認されていなかったので各次元で起こっている虐殺事件の罪をそのマスクに被せ、そのマスクを捜索する名目でアキラはその二人組を探した。
そして、ある日その二人組を見つけた。ギンガと二人きりで捜査に来ていた次元で。
アキラはその二人を殺害し、脳からISで依頼者の情報を読み取り、そこからマスクとして生きていく決意を固めた。ギンガたちを危険にさらす可能性と、自身のケジメをつけるために幸せを、家族を、人生を、自分を、捨てる決心をした。
「俺はナナシだ。誰でもない。アキラは死んだ。俺はナナシになった」
だが、あの日に計画は破綻する。
「待ってよ!アキラ君!!!!!」
ギンガの記憶にマスクがアキラを殺したという記憶の改竄をISを使って行った。しかし、あの日にトーマが行ったゼロ・ディバイドにいち早く気づいたアキラはとっさにギンガを庇った。
アキラのおかげでゼロ・ディバイドを軽傷で免れたギンガはアキラが脳に施した改竄した記憶が「分断」され、本来の記憶が戻ってしまった。
今のアキラにプランはない。ただ、ギンガを突き放すことしかできなかった。
◆◆◆◆◆◆◆
母を亡くし、次は自分の夫が死んだ。いや、殺された。
そして、手にかけた犯人は分かっており、仇を討つことも逮捕することもできず、その悔しさから自分は復讐鬼の一歩寸前まで堕ちた。
だが、夫を殺したと思われた犯人であるナナシが殺されたと思ったアキラ本人だった。
なぜ、アキラがこんなことをしたのかはギンガにはわからなかった。だがそんなことは関係ない一週間後に約束された勝負で叩き潰す。今のギンガにはそれしかない。
しかし、ギンガはナナシだったアキラには一度も勝ったことがない。もっとも勝っていたらギンガはナナシであったアキラを殺していたかもしれないが。
言いたいことはいろいろあるがとにかくそれは拳で伝えようとギンガは考えていた。
フッケバインへの襲撃作戦から4日経った。ギンガは作戦中に限界を迎えた体を半ば無理やり治療し、リハビリのトレーニングを始めていた。
「君の身体はまだ万全じゃない。無理はしないこと。この前みたいな無理をしたら一生ベッドから起き上がれないよ?いいね?」
「わかってる」
「もっと自分を労われ。我々も、お前を死なせるために手を貸しているわけではない」
作戦時に大きな負荷をかけ、限界ギリギリだったギンガの身体を経った四日で再起可能にできたのはウィードとクラウドが協力したおかげだった。
「死ぬつもりはないわ………私は…」
局内のトレーニング場に立つと、そこにファントムのツムギが現れる。今回のリハビリ相手にギンガが指名したのだ。
「リハビリらしいから加減はするけど、頑張ってね」
「お願いします」
アキラに勝つにはアキラに勝ったことがある相手に強くしてもらうしかない。ギンガはそう考え、ツムギに依頼したのだ。
「ちゃんと避けられるように頑張って」
その言葉の後にギンガの目の前にツムギの膝が現れる。
「!!」
間一髪ギンガはそれを避けた。これで加減されているのだ。その強さは尋常ではないことが伺える。さらに彼女は間髪入れず攻撃を放ってきた。ギンガはそれを必死に避け、反撃の機会をうかがう。
「ああ、今は避けることに集中すればいいから。まずは早さに慣れて」
「は、はい!」
全く容赦のない追撃をギンガはぎりぎりで躱し続ける。そんな作業が20分ほど続けられ、休憩となった。休憩中ツムギはお弁当を取り出して食べ始める。
「………協力、感謝します」
ギンガは改めて礼を言いに行った。
「………いい。私も、アキラの料理………また食べたいから」
アキラはかつてツムギに鍛えられたときに食事の楽しさを教えてやった。ツムギも表に出すことはないがアキラが生きていて少なからず嬉しかったようだ。
「ギン姉!」
そこに次のトレーニング相手のスバルが現れる。スバルだけでなくナカジマ家の面々やギンガと関わりが深い人物が集まった。
「スバル、みんな」
「差し入れ持ってきたっス」
「ありがとう。あとでいただくわ。スバル、お願い」
「うん」
強い相手との戦いも大切だが普段通りの型を忘れないのが大切だと考えたギンガがスバルに事前に頼んでいた。
「やっぱり、ギンガさんまだ殺気立っているわね」
ティアナはスバルと対峙するギンガを見てぽつりと零す。
「ティアナ、何か知らない?」
「まぁあなたもそのうち知らされるでしょうからね。教えとくわね」
特務六課のメンバーであるウェンディやチンクにもまだアキラのことは伝えられている。しかし、あと三日でアキラは六課までやってくるのであればそこまで大差はないだろうとティアナはノーヴェたちに事の顛末を話した。
殺されたと思われたアキラが生きてきたこと。そのアキラと一週間後、決闘することになったこと。
決闘で勝てばアキラは自分たちの下に帰ってくるが負けたらアキラはトーマを連れてまた何処へ行ってしまうこと。
「そうか………」
「………驚かないわね」
全て聞かされてもノーヴェは驚きはしなかった。
「あいつの考えそうなことだ………。あたしもいろんなやつ見てきたからな。わからないでもない」
「そう」
「でも、なんでアキラの奴、ギンガの所に戻ってこないんだ?夫婦になってもあのバカップルぶり全開の仲だったのに」
アキラが殺された様に偽装された前からギンガとアキラの仲は夫婦関係になってもバカップルみたいにラブラブな仲であり、ノーヴェたちにしてみればあのギンガラブのアキラが何故、ギンガの下に戻ってこなかったのか不思議だった。
「私にもわからないけど、あの人にはあの人なりの事情が何かあるんでしょうね」
ティアナもアキラとギンガの仲の良さは知っている。だからこそ、ノーヴェの疑問もわかる。
「あいつ、多分悩んでんだ」
「ノーリ」
トレーニング場には関係者として通ってきたノーリがいつの間にかそこにいた。
「全部全部捨てて、己を捨てて生きていくつもりが、全部バレてしまった。捨てていたはずの自分と向き合って、戻らなきゃいけない事情もできて………だけど、戻りたくない。どうすりゃいいかわかんねぇんだ」
「そんなもんなのかねぇ」
ノーリの話を聞きながらノーヴェがチラッとリングに目をやるとギンガとスバルのスパークリングが行われているのだが、スバルはギンガの勢いに対して完全に防戦一方になっていた。
元々スバルにシューティング・アーツを教えたのはクイントからシューティング・アーツを教えてもらったギンガであり、六課時代からギンガは強かった。
しかし、産休・育児と一時、ギンガはシューティング・アーツから離れていた時期があり、スバルは救助隊で前線勤務をして鍛えていたのだが、ギンガの腕はそんなブランクを感じさせないぐらい技のキレと勢いが鋭い。
(つ、強い‥それにやっぱり怖いよぉ~)
ギンガのスパークリングの相手に付き合わされているスバルは心の中で弱音を吐く。そして、スバルの顔面にギンガの拳が寸止めされてようやくギンガとのスパークリングが終わる。
「次、ノーヴェ……相手をしてくれる?」
「少し休め。治ったばかりの身体また壊す気か」
ノーリが続行を辞めるように促す。
「………」
ギンガはしぶしぶと了承する。まだ続けたいがクラウドたちに言われたこともあり、了承したのだ。これもアキラが生きていたからこその判断だろう。
スパークリングを終えたスバルはティアナから飲み物を受け取る。
「どうだった?今のギンガさん」
「今のギン姉は、元のギン姉に戻りつつあるけど、やっぱりまだ怖い。スパークリング中、本当に殺されるかと思ったもん」
「そうね……でも、アキラさんが戻ってきてくれたら…」
「うん」
アキラがギンガの下に戻ってくれたらすべては元に戻る。
スバルもティアナもそう思っていた。
その後、決闘の日までスバルとノーヴェはギンガとの特訓相手となり、ギンガはツムギのトレーニングを受けた。マリエルもギンガの身体や体調面をバックアップし、シャーリーはデバイスの調整をした。
そして迎えた運命の日。
(彼とはナナシの時から本気で戦っている。決して殺しには来ていないけど、それでも油断はできない)
拳をギュっと握りしめながら対峙するアキラをジッと見るギンガ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
ギンガは最初に仕掛けに行った。一気に接近し、アキラに強力な蹴りを食らわせた。
アキラは、その攻撃をなんの抵抗もせずに受けた。アキラは吹っ飛んで訓練場の地面にクレーターを作りながら転がっていった。
「うわっ…」
「モロに入ったわね…」
アキラはゆっくり立ち上がる。その姿を見たギャラリーは小さく悲鳴を上げる。アキラの下あごが砕け、血に染まった舌がデロンと生々しく垂れた。
アキラは自身の下あごを掴むと無理やり引きはがし、海へ投げ捨てる。しかし失われたアキラの下あごはすぐに再生した。
「わかるか?俺はもう、人間じゃない」
「………」
「トーマも同じだ。俺たち、EC感染者は感染した時点で人間じゃなくなる。人の形をした兵器だ」
「だけどあなたは、兵器となったうえで私と出会い結婚して、幸せを手にしたんじゃないの?」
「そんなもん一時的なものでしかない。俺が作り出された機関で俺にECウィルス感染実験をしたとき俺は本来自己対滅を起こして死ぬはずだった。だが俺はその途中でECウィルスの性質をISで書き換えた。だからお前らと一緒にいられた。もう、ダメなんだよ。人として幸せになれる時間は…………夢の時間は終わりなんだよ」
ギンガは構える。
「終わりにしない。終わらせたりしない」
「まだわかんねぇのか!俺はもう戻れないんだよ!!この勝負がどうなろうと!!事実は変わらない!俺は………兵器のままだ…」
「だぁぁぁぁぁぁ!」
アキラの言葉を最後まで聞き届けず、ギンガは再びアキラに立ち向かう。
「っ!!!」
アキラはその場から消えた。そして気づけばギンガの背後にアキラは移動しており、ギンガは無数の打撃をその身に受けたことを気づく。
「万閃必壊、乱咲」
峰打ちの攻撃を一瞬の内に無数に食らったギンガはその場に跪く。ギンガは追撃してこないアキラを見る。アキラは震えていた。刀を握る手は強く握り過ぎて血がにじんでいる。アキラにとってギンガはかけがえのない存在だ。傷つけるのに、攻撃をすることに抵抗があるのだ。
ナナシとして完全に割り切っていた時は少しは気が楽だった。だが、もうナナシではない。ナナシでいられないアキラは胸が締め付けられる思いだった。
「お前じゃ俺には勝てない。もう諦めろ」
「諦めない………まだ…」
ギンガはアークネメシスギャリバーを出した。
「セットアップ!」
「………」
黒いバリアジャケットを装備したギンガはさらにオーバーリミットモードを発動させる。
「どんなことをしたって俺には勝てない!そんな姿になっても!リアクト!!!」
アキラもリアクトし、ディバイダーを構える。
「結果は変わらない!フロストバスターEC!!」
アキラは氷結属性の魔力砲を放った。砲撃の瞬間、発射した方向だけでなくアキラの周囲も一気に凍り付く。ギンガはその攻撃を上空に飛んで避け、そのままアキラに向かって上から殴りかかる。
「来るな!」
アキラはギンガに向かって魔力弾を数発飛ばしたがギンガは身体を翻して華麗に回避し、アキラの目の前まで迫る。ギンガの攻撃をアキラはとっさにディバイダーで防ぐが衝撃を受け流しきれずに後方に押される。
「はぁぁぁぁぁ!!」
ギンガはアキラにさらにラッシュを繰り出す。アキラは防戦一方だ。ギンガが強いのではない。アキラが攻撃を躊躇っているだけだ。
(どうすればいい………俺は………人間じゃないことを証明すれば諦めてくれるなんて思ってはいなかった………でも、もうどうすることも…)
ギンガを引き離すようにアキラは思いっきりディバイダーを振った。しかし、ギンガはすれすれのところでそれを躱す。
攻撃を外したアキラはディバイダーを持ち換えて再度攻撃をしようとする。
「遅い!!」
ツムギの攻撃をよけ続けたギンガにとって今のアキラの攻撃など止まって見える。アキラにぴったりくっついて離れない、大きな武器を使うアキラにとってそれは一番やりにくい闘い方だった。
そこに生まれた一瞬の隙、ギンガはそこに全力の拳をぶつけた。アキラは吹っ飛ばされ、壁に衝突する。
「あなたからは最初から戦いの意思が見えなかった…………だけど、言葉はすべて嘘に塗り固められてた」
「…」
「ナナシのときからずっと、あなたは嘘しか言っていない。私は、あなたから本音を聞き出すまで全力で戦い続ける。例えこの身が砕けようと」
「話して………何になる。運命も、俺も、未来も、もう変わらない。管理局に相談したところで貴重な感染者第一号として実験ネズミ第一号の出来上がりになるだけじゃねぇか。それは、トーマだって同じだ」
「秘密裏にやるなりなんなり方法はあるでしょう!?ここまであなたが広げてきた仲間の輪はそう簡単に仲間を売ったりしない!」
アキラはディバイダーを強く握りしめてギンガに飛び掛かった。
「それで!?フッケバイン程ECに付き合ってきた連中でもわからなかった治療の方法が見つけられとでも思ってんのか!?」
縦横無尽に振り回される大剣をギンガはうまくいなしながらアキラの言葉に耳を傾ける。
「その間!俺を気にして!!心配して苦しむお前や家族を!!!仲間を見てろっていうのか!!?」
「そうだよ!苦しんで苦しんで苦しんだ先で!また幸せを掴めばいい!!」
「もう………もう戻れない!!最愛のお前を散々傷つけた!自分が生きるためだからっていくつもの村を襲撃した!世界中の人に迷惑をかけた!管理局のみんなに、仲間に顔向けできるはずがない!こんな方法鬼畜にも劣る!!ECをこの世から根絶しない限り!!けじめをつけない限り俺は…っ!」
最後に放った強力な一撃をギンガは両手で無理やり受け止める。防ぎ切ったが地面にはクレーターができるほどの重い一撃だった。しかしギンガはアキラの想いと共にそれを受けきった。
「いままで多くの事件を解決に導いたあなたは、きっといつの間にか自分だけでどうにかしなきゃいけないって思い込んでたのかもしれない……………実際、あなたがいなければどうにもならなかった事件はたくさんある………だけどいいんだよ。たまには、みんなにすべて任しても」
顔上げてギンガはアキラに訴えた。その優しい瞳にアキラは怯え、後ずさる。
「……」
「苦しむ家族を見ていろって私は、私たちはずっとその立場だったんだよ?私も、スバルも、セッテも、みんな、みんな」
アキラが下がった分ギンガは距離を詰めようとする。アキラは少しずつ、少しずつ壁際に追いつめられる。
「………」
「あなたは昔から良くも悪くも人の気持ちを考えるのが苦手だったから、わからなかったかもしれないけどね」
とうとう壁に追いやられ、アキラはそれ以上後ろに下がれなくなった。怯えた顔でディバイダーを構えるがそれに力がこもってないのは目に見えていた。
「俺は…」
「だから、言って?あなたの本音を」
向けられたディバイダーをどかし、ギンガはアキラの目の前まで迫る。アキラは膝から崩れ、ディバイダーを落とした。
「俺の本音は………」
アキラの行動、言葉、すべての裏側にあった本当の気持ち。それはアキラ本人にもわかっていなかった。しかし、ギンガの言葉でようやくその気持ちに気づく。自分がふがいないばっかりに大切な人を目の前で二回も失った。だから強くあろうとした。実際強くなった。ツムギには敵わないがきっとここにいる誰よりも強くなった。だが、それは同時にアキラに誰かに頼る弱さを忘れさせてしまっていた。
頼られることはあっても、頼ることは許されない勝利者の宿命から逃れられないと思っていた。しかし、仲間は、自分が最も愛し、守ろうとしている存在は「頼ってくれ」と言ってくれた。そして、近くでアキラたちを見守るかつての仲間と家族も同じ目をしていた。
それに気づいたとき、アキラはずっと背負っていた重荷から解放された気がした。自然と瞳から涙があふれ、その顔を手で覆い隠す。
「……………助けて………くれ」
「……うん」
その場にうずくまるアキラにギンガは近づき、顔にそっと手を当てて自分を見させる。
「やっと素直になってくれたね、アキラ君」
そう言ってギンガはアキラを抱きしめた。ナナシがアキラだと判明してから、ギンガは初めてアキラに対し、「アキラ君」と呼んだ。
続く