とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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お久しぶりです。この作品含め最近複数投稿されている自分の小説が書きにくいところで全て止まっていたのでなかなか投稿できませんでした。本当にお待たせしました。少し短いですが次回は一週間以内に投稿します!


第七話 そしてオレはソコへ戻る

これは俺とスゥちゃんたちがお出かけした時の話だ。俺はまだ、この時アキ兄を許せていなかった。いや、犯人がアキ兄とは違うってことは分かっていたけれど俺の故郷を破壊した連中と同じ存在だと思うと、心が拒絶した。

 

スゥちゃんたちとは桜っていう花を見にいった。

 

道中、アキ兄は俺に話しかけてくれたのに、俺は拒絶した。お弁当の時に一緒に食べようと近付いた時、俺はやはり激しく拒絶した。

 

「っ!!!」

 

「………ああ、わかった離れるよ」

 

「アキラ君、あっちで食べよう」

 

ギンガとアキラは二人だけで離れていった。トーマは別にアキラのことを心の底から嫌っているわけではない。心が受け入れてくれないのだ。トラウマからきている一種の潔癖症のようなものだった。それをナカジマ家の全員が理解していたから何も言えなかったし、言わなかった。

 

そんな俺のところに、ギン姉の同僚のメグ姉が現れた。

 

「あんたがスバルの言ってたじゃじゃ馬坊主?」

 

「誰?」

 

「アタシはメグ。108部隊の人間よ。ギンガとは古い付き合いなのよ。よろしくね」

 

メグ姉は笑顔で自己紹介した。

 

「トーマ・アヴェニール…」

 

「いい名前じゃない。あんな不愛想な強面男ほっといてお姉さんとご飯食べましょ」

 

メグ姉は食事をしながら俺といろいろ話してくれた

 

「あんたの話は聞いてるわ。家族や、故郷のこと。残念だったわね」

 

「………うん」

 

ナカジマ家の中で俺の過去についてたくさん聞いてくることは誰もしなかった。きっと俺がトラウマを再発しないためだろう。でもメグ姉はけっこうずかずか聞いてきた。

 

「あいつの生まれとかこれまでのこと、聞いた?」

 

「………」

 

俺は首を横に振った。

 

「だったらちょっとだけ教えといてあげる。これ聞いて、あんたが気になったら細かいところは自分であいつに聞きなさい」

 

「…?」

 

「あいつね家族がいないのよ。そして、大切な人を目の前で二回亡くしてる」

 

「え?」

 

「私からはこれだけよ。あいつの人柄知るだけでも、結構印象とか変わるんじゃない?じゃねー。ゲンヤさーん日本酒ちょーだい♪」

 

メグ姉はそれだけ俺に言って去って行ってしまった。一人残された俺はしばらくメグ姉の言葉を考え、そっとアキ兄のところに行った。アキ兄はギン姉といっしょに食事をしていた。

 

「アキラ君あーん」

 

「あ」

 

二人は仲良くしていた。そこに俺が入る余地がないのは目に見えていた。戻ろうとしたが、振り返った時にフードを引っ張られた。

 

「なんか用か」

 

「………………」

 

「どうしたの?」

 

アキ兄とギン姉は俺に気づいて来た。

 

「たくっ。変に隠れんじゃねぇよ。不審者かと思ったじゃねぇか」

 

「………メグって人からあんたのこと少しだけ聞いた………でも、細かくは教えてくれなかった………だから聞きに来た」

 

「………そうかよ」

 

アキ兄は俺をギン姉と座っていたシートに座らせた。

 

「座れよ。聞いて心地いい話じゃねぇだろうが聞きたきゃ聞かせてやる」

 

ギン姉の作った料理をもらいながら俺はアキ兄のこれまでの話を聞いた。細かいところは省かれたと思うけど、そんな話でもアキ兄がどんな人物かはわかった。

 

口は悪いけど、馬鹿みたいに優しくてお人好しで。そんなアキ兄のことを話すギン姉は本当に幸せそうで……。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「う…」

 

トーマが目を覚ますと、視界には夜空が広がっていた。そして、近くから焚き火の音が聞こえてきている。身体を起こすとそこには失われたはずの家族がいた。

 

「…アキ兄?」

 

「起きたか」

 

トーマは起きたばかりでこれまでの記憶が曖昧だった。しかも目の前に死んだはずの人間がいる。自然とこれは夢なのではないかと思っていた。

 

「…これは夢……?」

 

「…だったら、よかったんだがな」

 

アキラは焚火に薪を投げながらそう呟いた。

 

「………ん?」

 

横を見るとそこにはリリィが眠っていた。

 

「リリィ!」

 

トーマはそこでようやくこれまでのことを思い出す。

 

「なんで……いったい何が!?…どうしてアキ兄が………」

 

「落ち着け。順を追って話す」

 

困惑するトーマにアキラはすべて話した。これまでマスクとしてナカジマ家と管理局を騙していたこと、今回それがばれてしまったこと、一週間後にギンガとの決闘が待っていることを。

 

「なんで………どうしてそんなことを!」

 

「…エクリプスウィルスは………俺が生まれたから、作られたと言っても過言じゃない。だから俺がケリをつけなきゃいけないんだ………これまで俺が行動をしなかったせいでお前まで巻き込んでしまった…っ!」

 

「アキ兄………」

 

「許してくれなんていうつもりはない………だが俺は……」

 

「そんな………アキ兄」

 

トーマは声を荒げようとした。しかし、一つの思いがそれを止めた。いまのトーマの意見はきっと、ギンガたちも持っているはずだと思ったのだ。

 

「…………俺からは何も言わないよ……でも、思うところがないわけじゃない」

 

「………助かる」

 

「でも…………………生きててくれて、よかった」

 

トーマは瞳に涙をためながらそう言った。いろいろ思うところはあるが、アキラが生きててくれてよかったと思ったのだろう。だがその言葉と顔はアキラを追い詰める。仲間を騙し、妻を裏切り、多くの仲間の心に多くの傷を作った。生きてていいわけがないと思っていた。

 

そんな時、その場にバイザーをつけた黒髪の少女が薪をもって現れた。

 

「兄さま、お待たせ」

 

「ああ」

 

見慣れぬ少女の登場にトーマは驚く。

 

「アキ兄、この人は…?」

 

「………シーラ。俺の妹だ」

 

「妹…?」

 

アキラが人造魔導士ということはトーマは知っていた。しかし、AtoZ計画については聞いていなかった。

 

「ああ」

 

アキラは手首をそっと見せた。アキラの手首にはAの文字が、そしてシーラの手首にはSの文字が烙印されていた。

 

「ギンガたちから離れて、たまたま出会った」

 

「よろしく」

 

トーマは軽く会釈をし、トーマは気になっていたことを聞いた。

 

「………アキ兄、俺を連れてきたのはなんで?」

 

「EC感染者は己の意思と関係なく周りの人間を襲う。お前も大切な人を傷つけたくはないだろう?」

 

「……」

 

アキラが今言った言葉も、アキラがギンガから離れた理由の一つなのだろうと思い口をつぐんだ。

 

 

 

 

―一週間後―

 

 

 

それから、一週間が経った。アキラとトーマはさほど言葉も交わさず生活し続け、運命の日を迎えた。アキラとシーラはトーマとリリィを連れて特務六課の訓練場を訪れた。訓練場にはアキラにとって見慣れた面子がそろっている。六課時代の仲間、ナカジマ家のみんな。皆思い思いの表情でアキラを眺めている。

 

「………一応来たが、最初に言っておく。トーマを渡す気はねぇ。そして、お前らのところに帰る気もねぇ」

 

「それは負ける気はないって意味?」

 

呆れた顔でメグが言った。

 

「ああ。悪いが軽い気持ちで離れたわけじゃない。俺もそう簡単に曲げれねぇし曲げれることじゃねぇんだよ」

 

「そんなのどうでもいいわ」

 

そこに、髪を後ろで纏めてポニーテール姿のギンガが現れた。

 

「さっさと始めましょう?」

 

どうやら決闘相手はギンガらしい。だがそれはアキラには予想できたことだ。

 

「ギンガ………お前が俺に勝てると思ってんのか?」

 

「ええ」

 

「ハンっ、俺に守ってもらってた女が良く言うな」

 

「守ってくれなんて言った覚えはないけど、まぁそう思うのは仕方ないわよね」

 

「俺に勝てるかもわからないのに戦うってことは、そんなに俺に戻ってきてほしいのか?」

 

「悪い?まぁ戻ってきたら最初に言いたいことはいろいろあるけど」

 

「………はぁ」

 

アキラはため息をついた。

 

「56………………なんの数字かわかるか?」

 

「…?」

 

「俺がお前のところを離れてから抱いた女の数だ。わかるか?お前がいなくても俺はもう困らないんだよ。倦怠期って言ったっけか。そういう感じでお前にも飽きたしな」

 

「…………………本当に、あなたは変わらないね」

 

「なに?」

 

「自分から大切な人を離したいとき、嫌われやすい嘘や態度をとる………昔から……何にも変わらない」

 

「…本当だぞ」

 

「だったらその分抱いてもらうし、愛してもらう。それだけよ」

 

「…………なんで」

 

「?」

 

「なんでそんなことが言える!俺はお前らを、お前を裏切ったんだぞ!お前がどう思うかをわかって俺が死んだことにした!お前に辛い思いをさせ続けた!そんな俺になんで戻ってきてほしいなんていう………」

 

「わからないの?」

 

「…………」

 

わからないわけがなかった。仮にギンガが今のアキラと同じことをしたとしたら、きっと同じことをする。そんなことはわかりきっていた。

 

「わからねぇな」

 

長い付き合いのギンガはアキラが嘘を言ったことはわかっていた。だが何も言わなかった。

 

「始めましょう」

 

「ああ」

 

ギンガはデバイスを構える。アキラはディバイダ―を出現させた。今までギンガたちと戦うときに使っていた炎属性のものではなくかつてアキラが使っていたものだ。

 

「俺は…」

 

試合開始の直前、アキラは揺らいでいた。この先どうするべきかを。

 

 

 

続く


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