IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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活動報告の方で色々とやりだした素品です。

気が向いたら見てみてください。

ということで、入れるか迷ったフラグ回


7/8 誤字と変な文章を修正しました


第七幕 Distrust and Fact

乾いた音が空間に木霊する。

 

多くの観衆の見守る中で、胴着の上から藍色の防具に身を包んだ二人の人間が、向かい合い、竹で作られた刀を振るう。

 

片方は大きく息を切らし、肩で呼吸をしながら、前のめりがちの姿勢で取り落としそうになる自身の得物を満身の力で握りこみ、ギラつく眼と今だ衰えぬ闘気は少しの隙も逃さぬ獣のように唸りをあげる。

 

片方に疲れはない。額からは汗を流してはいるが、呼吸に乱れのない自然体。凛とし、毅然と、泰然自若(たいぜんじじゃく)に竹刀を構え、矯めつ眇めつ相手を見やる。その様は熟練の武芸者ゆえの気迫に満ち、刃身一体の境地を体現する。

 

板張りの道場で、緊張は次に奏でる音を待ちわびる弦のように張りつめ、立ち込める空気は二人の奏者以外の者を押し潰すかのように重苦しい。

 

時はその流れを遅らせ、一秒が十秒に、十秒は一分に、一分は一時間、時は刹那へと集約され、刹那の一瞬は無限へと昇華されていく。

 

だが、時は移ろうもの。無限が在ろうとも永遠など有り得ない。

 

だから、動く。脚は敵を屠るために踏み出され、腕を一撃必勝の全霊を込め天に向かいて振りかぶり、喉は鬨の声をあげて咲き開く。

 

「ぜぇえああああああ!!」

 

「突き」

 

「げぶふぉおほぉ!?」

 

ただ突きだされた竹刀の先に自分から飛び込み綺麗に喉に刺さった片方は、反動で後ろによろけそのままの勢いで後頭部をしこたま強く床に打ち付けた。

 

「・・・・・・弱っ」

 

竹刀を放り出して後頭部の痛みに悶える様は地に落ちた蝉のよう。

 

そんな季節外れの蝉に観客の一人が投げ掛けた言葉は、失望と呆れの入り混じったひどく冷たいものだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「なんださっきの様は!?」

 

一夏がセシリアと模擬戦をすると決まった日の放課後、箒は特訓と称して一夏を剣道場に連れ込み、試合形式の稽古をしていた。本来なら剣道部が使用しているのだが、一夏が来るということで快く受け入れられた。

 

箒が言うには、幼少時代に二人は同じ道場に通い切磋琢磨しあった仲であると。その時の一夏は箒よりも強かったと聞き、部員全員が期待に胸を膨らませていたのだが、結果は散々なものである。

 

「・・・・・・いや、だって」

 

「だっても、しかしもない! 摺り足どころか竹刀の構えに、防具のつけ方まで忘れているなど、今まで一体何をしていた!?」

 

現状、一夏はばつの悪い顔で床に正座し、対戦相手であった箒からのお叱りのようなものを受けていた。

 

箒からしてみれば、長年続けていた剣道は一夏との数少ない思い出を繋げるものだった。だというのに、その本人の今は素人同然のそれにまで落ちてしまっているのが非常に納得がいかない。一夏からしてみれば理不尽に感じられるが、彼女にとっては今までの自分を支えてきたものであり、今の一夏はそれを蔑ろされたと思っても仕方がないことではあった。

 

「いやいや、そもそも中学で全国大会を優勝してらっしゃるような方とタメを張ろう、なぁんていうのが土台無理な話なんでげすよ〜」

 

「・・・・・・・・・・・・知っていたのか?」

 

怒りに顔を染めていた箒だが、一夏の発言にひどく驚いたのかその勢いを減衰させる。

 

「調べたからね。お前のことは大体知ってる。もうちょっと誇ってもいいんじゃねぇの?」

 

「特に威張れるようなことでもないからな・・・・・・」

 

「おいおい箒ちゃん! 謙遜は日本人の美徳だがよぉ、度が過ぎれば嫌味どころか悪意だぜ? 今の言葉、日本一を目指してお前に負けた奴らが聞いたらどう思う?」

 

「っ! ・・・・・・そう、だな。すまない」

 

「謝るほどでもないけど、とりあえずシリアスな話は終わりにして、俺は退散するよ。お前は部活あんだろ? 特訓はまた明日にでも頼むぜ」

 

怒りから一転、一気に意気消沈としてしまった箒を見て、一夏は苦笑を浮かべながらに道場を後にしようとする。

 

「一夏っ!」

 

靴を履き替えようとしたところで、再び箒は一夏を呼び止めた。

 

その顔は不安げで、迷子の子供のような瞳が一夏を捉えている。

 

対して一夏はいつものようにニヤリと爽快に笑い、箒に振り向く。

 

「どうかしたか?」

 

「・・・・・・あぁ、いや。胴着は洗っておいてくれ。あとは私が干しておく」

 

その顔を見てか、何かを振り払うように頭を振り、少しの間を置いてから箒は口を開いた。

 

やはりその瞳には若干の憂いに似た光が見て見える。

 

オッケー、と後ろ手に手を振りながら歩いていく一夏を、自分の記憶より広く大きくなった背中を眺めながら、箒は自分の中の違和感と不安が心を濃い霧のように包み込んでいくのを感じていた。

 

「何があったというんだ、一夏・・・・・・」

 

その言葉は静かに、春先の喧騒の中へと溶けて消えていった。

 

◇ ◇ ◇

 

織斑 千冬は廊下を歩いていた。その様はまるで行進する兵隊のように厳然とし、周りに威圧感を放っている。

 

だが、それだというのに千冬の表情はいつものようなものでなかった。

 

焦る何かを堪えるように歯を食い縛り、きつく握られた拳は血の気が失せて青く変色している。彼女を知る者ならその変化にひどく驚くだろう。それだけ、今の彼女は普段の千冬とかけ離れていた。

 

「織斑先生〜!」

 

そんな彼女を呼びながら、パタパタと駆けてくる音が聞こえてきた。

 

一度深呼吸をし、表面だけでも取り繕いながらに千冬は声の主に顔を向けた。

 

「山田君。アリーナの予約は取れたか?」

 

「あっ、はい! 来週のこの時間に一時間ほど」

 

「・・・・・・そうか」

 

それだけ言うと千冬は再び歩き出し、真耶も慌てて小走りになりながらも着いていく。

 

「でも、今回の模擬戦、本当に大丈夫でしょうか?」

 

共に歩みを止めないまま、真耶は呟いた。

 

「大丈夫というのは、どちらのことを言っているのだ?」

 

「どちらもですよ! 本当なら、こんなことは止めるべきだと思うんです。織斑君だって、いくら専用機が用意されるからといっても相手は代表候補生です。一回しかISを動かしたことがないって聞きますし、もしもなにかあったら・・・・・・」

 

生徒のことを何よりも大切にする真耶にとって、一夏とセシリアの試合はあまり好ましくないのだろう。

 

その表情は悲しさに染まり、本気で二人の身を案じていることが窺える。

 

「少なくとも、アイツに関してはその心配は杞憂でしかない。むしろ、心配すべきはオルコットの方だ」

 

千冬の言葉に思わず真耶の足が止まり、二人の間に少し距離を作る形で千冬も止まる。

 

「それはどういう・・・・・・」

 

「言葉の通りだ。今回もっとも留意するべきはオルコットの安全だ。本来なら、織斑自身に何らかの拘束を用意すべきなのだろうが、それでは納得できないだろう。この際だ、織斑にはオルコットに世間を知らしめるための当て馬になってもらう。それと―――」

 

「ちょっ、ちょっと待ってください! どういうことですかそれは?!」

 

「言葉の通りだ。二度も言わせるな」

 

千冬の言葉の内容に、つい大声を張り上げてしまった真耶に対し、彼女の態度は眈々としたものだった。

 

背中を向けたまま振り向かず、千冬は言葉を並べる。

 

「今回のことに関して、私はオルコットのバックアップに回る。アイツには君がついてくれ、頼む」

 

「・・・・・・わかりました」

 

今だ納得のできていない真耶であったが、千冬の言葉に了解の言葉を告げて近場の階段を降りていった。

 

真耶がいなくなったところで、千冬は倒れるように壁に寄りかかり、ズルズルと背中を滑らしながら床に座り込む。

 

顔を両手にうずめる姿は、世界最強の人間には程遠く、まるでただの少女のように不安定で揺れていた。

 

「私は、どうしたらいいんだ、"一夏"っ・・・・・・!」

 

滴り落ちる水の音を響かせながら、まるで現実から目を塞ぐように、千冬は自身の眼を手で隠した。




はい、なんか色々書きすぎたような内容でした

文字制限もあって本格的な戦闘は次の次くらい

話進まねぇ

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