あ、原作も勿論買いました。
というわけで、イギリスと黒サマーの決闘宣誓回
「納得がいきませんわ!」
一年一組の教室に怒号が響いた。
机を叩きながら立ち上がったのは、金色の長髪に宝石のように輝く青い瞳の少女、イギリスが代表IS操縦者候補生、セシリア・オルコットはその端正な顔を憤怒に染めて周りを睨みつける。
唐突なことに皆が呆気にとられている中、飄々とヘラヘラと彼だけは笑っていた。
「クラスに一人はいるよなー、あぁいう空気読めないジコチューなヤツ」
ヘラヘラと、ニヤニヤと、嘲るように一夏は笑う。
◇ ◇ ◇
時は少し戻り、四時間目開始前の休憩時間のこと。
「クラス代表者? なんだよそれ、クラス委員の亜種?」
男がいるという環境に周りが慣れ始め、昨日よりも大分落ち着いてきた教室にて、椅子に座る一夏とその机に座る本音がとりとめのない会話をしていた。
「んー、ちょっと違うけどー、結構合ってる?」
「どっちなんだよ。もしかして、再来週の対抗戦とか委員会に出される不憫な奴のことか?」
対抗戦というのは、一つのクラスから代表者を選出し一対一でISによっての模擬戦を、リーグ戦方式で行う大会のようなものである。
と言っても、一年に限っては大会を通して個人の競争力や学業における向上心を上げさせる、といった意味合いがの方が強くある。
「なんでそんな話になったんだよ」
「だって、一組はまだ決めてないでしょー? きっと、おりむーが代表だね!」
「あぁ、ありそう。面白がって人の名前あげるヤツっているもんな」
はたして本音の予想は大当たりを引く。
授業開始の鐘が鳴ると同時に入ってきた真耶副担任の口から言われたのは、まさに話題としていたクラス代表者を決めるというものだった。
ここまでくれば展開は簡単に予想がつく。
「はい! 織斑くんを推薦します!」
案の定、まさに予定調和。容易にできた想像どおりの光景に一夏は顔をうつ伏せにベッタリつけて、「やっぱりね」と呟く。
ちらほら聞こえてくる会話から察するに、物珍しさから推薦する者がほとんどのようだ。
そして物語は冒頭へと戻る。
「このような選出、何より他の方ならいざ知らず、あんな男がクラス代表だなんて恥さらしもいいとこですわ!」
よほど一夏が代表者として名を挙げられたのが気にくわないのか、周りが追い付けていないなかセシリアはヒートアップしていく。
「あの男はこの場所にいるという誇りも、ましてや実力さえ持ち合わせていないような人間です。そんな人間を上に立たせるわけにはいきません!」
「おーい」
「そう実力もあり、エリートである私こそが―――」
「せしりん」
「誰がせしりんですの!?」
ほぼ反射的にセシリアがツッコミを入れた先には、やはりヘラヘラと笑う一夏がいた。
「まぁ、落ち着けよ。ちょうど担任も来たことだし、そこら辺はきっちり話し合おうや」
一夏がそう言い終える瞬間、見計らったかのように扉が開き、その向こうから織斑 千冬が現れた。
「・・・・・・何があった?」
入った瞬間に何か気取ったのか、怪訝そうな顔をし近場にいた一夏に事情を問いただした。
代表者を決めること、それで自分の名前が挙がったこと、そしてセシリアが激昂したこと。かいつまんで適当に一夏が説明すると、小さく溜め息を吐きセシリアに目を向けた。
「オルコット、お前はどうしたい。どうすれば納得できる」
「・・・・・・できれば模擬戦を。彼自身の実力も判りますし、わたくしの実力も示すことができます」
そうか、と呟くように千冬は答えると、次に一夏へと質問を向ける。
「他薦された者には拒否権がある。どうする、織斑」
「やりますよ。売られた喧嘩くらい買わなきゃ男が廃るというもんです」
「・・・・・・相手はイギリスの代表候補だ。わざわざ闘う必要はないと思うが?」
表情こそ変わらないが、その声はどこか勢いがなく、その内容は暗に闘うなと言っているようにも聞こえる。
「何も正面きってヤり合うわけないでしょ。紳士の国の方なんですから、ハンデくらい付けてくれますよ」
「勿論ですわ! 下々の者に施しをするのも貴族の責務。あなたに格の違いというものを教えてさしあげますわ!」
「そうそう、その方が互いに"都合がいい"ですしね」
「・・・・・・それはどういう―――」
「そこまでだ」
相も変わらずヘラヘラとニコニコと笑う一夏に、セシリアが再び食って掛かろうとするが千冬の言葉に中断される。
「模擬戦は一週間後の放課後とする。そこで好きなようにやり合え」
順に一夏、セシリアに念を押すように見ると、話に入れず涙目に成りつつあった真耶に代わり、静まりかえった教室で千冬は授業を始めた。
◇ ◇ ◇
セシリアは一夏を追っていた。
何とも言えない空気のまま授業は終了し、昼休みとなるとすぐに教室から消えた一夏に訊かなければいけないことがあったから。
多くの生徒で溢れた廊下で、奇異の視線に晒されながらもセシリアは人の波を掻き分けながら一夏を探す。
そして、見つけた。
不自然なほどに人がいない廊下で、背中を向けながらに歩いている男を。
「待ちなさい! さっきの言葉はどういう意味ですの!?」
「・・・・・・言葉どおりだけど?」
一夏はその声に足を止めるも、振り向かずに返事をする。
背中だけで顔は見えないが、それでもその声音からいつものように笑っているのが手に取るような感じられた。
「まぁ、判んないよね。つまんねぇ自己顕示欲と意味もねぇプライド掲げて生きてるアンタに、脳ミソなんて飾りでしかねぇもんな?」
「なっ!?」
「意味なら教えてやるよ。お前が勝てばハンデ付けても勝ったっていう箔がつくし、負けた俺も『やっぱり勝てなかった』とか言って笑ってれば事が済む」
逆に、とそこで一度区切りをつけ、振り向かず、両手を広げる。
舞台の役者のように、芝居がかった手振りで、一夏は言う。
「もし、アンタが負けても、言い訳ができるだろ?」
「わたくしが、あなたに負ける? そんなこと、万が一にも有り得ませんわ」
「万だろうが億だろうが京だろうが、有り得ないなんてことはねぇよ。その生き見本が目の前にいるだろ?」
一夏は続ける。
「ていうか、アンタ貴族とか言ってたけど、家の方は没落ギリギリじゃん。国の補助合ってなんとか存続してる感じだし」
「っ! な、なんでそんなことを!?」
「調べたから。やっぱ先代がアカンかったみたいだね。やたら、無能だったらしいじゃんアンタの親父」
一夏は笑う。やはり笑う。肩を揺らし、喉を震わせ、腹を抱えて嗤う。
愉快痛快極まりないといったように、嗤い飛ばす。
「な・・・・・・にを」
「バッシングひでぇぜ? オルコット家の不良債権、お飾り、無駄、無価値、中学生レベルの誹謗中傷の雨あられだねぇ」
「っ・・・・・・まれ」
「んで、母親もかなりのもんだぜ? 無能を家に連れ込んだ大馬鹿者だとよ。子供は優秀なのに親は・・・」
ふと、背中に何かを押し付けられた感触に、一夏は言葉を止める。
顔だけ振り向けば、俯いて息を切らすセシリアがいる。
だが、見るべきものはそこではない。群青色の金属がセシリアの左腕を包み込み、そこには長大な彼女の牙が握られ、一夏の背中へ構えられていた。
「おいおい、なんつーもん向けてんだよ」
彼女が握るはIS用エネルギーライフル《スターライトmk-Ⅲ》。
長距離から相手を狙撃するのを目的として作られたそれは、並みのものなら跡形もなく消し飛ばす代物であり、まず生身の人間に向けらるものではない。
「・・・・・・あなたがどのような人間か、再認識しましたわ」
引き金を引けば、音よりも早く殺せる状況の中、心の内に在るものを圧し殺すように、セシリアは声を絞り出す。
「あなたにハンデなんてつけません。全身全霊を持ってあなたを撃ち倒します」
顔を上げた二人の視線が合った。
一夏は兵器を向けなられながらも愉しそうな笑みを浮かべ、セシリアは涙で潤んだ瞳で射抜くように眼前の敵を見据える。
「あなたに決闘を申し込みます」
男は笑う。
少女は銃を握る。
人形劇は静かに動き出す。
原作読んでみたら、意外とこの場面が短いので驚きました
この二人って仲直りすると思います?
あと、千冬さんて意外と理不尽過ぎて高校時代の部活の顧問を思い出しました。どうでもいいですね。
では、また次の機会に。