IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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皆様、お久しぶりです 私です

色々ありました。.hackとかハゲとかウィッチャーとかダークソウルとか村正10版とか塩とか凍京とか香辛料とベルセルクに新刊が出たりとか、もう色ッ々ありました。もうヤヴぇでござる。もうヤヴぇというかバヤいです

つまるところ遊んでましたスイマセンした!!

ということで、会長と楽しいお話回


第三十七幕 光の影と影の瞳と

夜は更けていく。

 

薄い雲の合間から零れて差し光る月の薄明かりは儚げで、地面に辿る光明は一層儚く、そして人の不安を駆り立てる程の脆さを孕んで道筋を空けていく。

 

一歩、踏み入れる。

 

影が生まれ、一足分、光が失せる。

 

二歩、踏み込む。

 

闇が這い出し、両足分、光は呑み込まれる。

 

一歩、深みに身を晒す。

 

遂に光は消える。それに代わり、五体の総てが明かりの中に浮き上がる。

 

世界とは常にこういうものだろう。

 

光を浴びる定員は既に満席。

 

そこに入り込む為には奪うしかない。

 

簒奪せよ、強奪せよ、略奪せよ。

 

一つの場所には一人のみ。

 

一人の場所に二人は入れない。

 

「つーことで、死ねや糞アマ」

 

右腕に装着された籠手、待機形態の『白式』を廊下の曲がり角へと向けて、有らん限りの全力の■■を込めて投げ入れる。

 

豪速球と化した白式。あまりにも突然すぎる暴挙、もしくは暴投とでも言おうか。

 

待機形態とはいえ個数限られる、一つ一つが国家の財産でもあるISで野球児ばりの全力投球をするという前代未聞の超珍事を平然とやってのけておきながら、特に何の感慨も湧かないのであろう少年は、風切り音を引き連れて飛翔する籠手の後を追い抜く勢いで駆け出す。

 

数刻の間を置くこともなく、白式が何かに激突する音が鳴るが、それは硬質な物同士がぶつかるもので標的が回避したことを暗に伝えてくる。

 

だが、それでいい。

 

最高加速と共に飛び上がり、その顔面目掛けて蹴りを放つ気分はまるで某改造人間のよう。

 

果たすことは悪を討つ正義の一撃ではなく、ただただ私的な憂さ晴らしではあったが、その威力だけは並外れていた。

 

そして予定調和のごとく、衝突。

 

「ず、随分いきなりなのね、一夏くん?」

 

「受け止めてんじゃねーよ、楯無会長」

 

肉と肉が打ち合う破裂音が響き、ある種の大鉈となった右上段蹴りを打ち据えるが、その暴力に対しては見劣りする白い細腕が止める。

 

黒髪に黒々しい目を月光で輝かす少年と、青海を敷いたような髪を揺らす紅い瞳の少女、一夏と楯無が再び会い見えた瞬間だった。

 

「こんな、場所で、何をしてるの? ていうか、私は何でいきなり襲われてるわけ?」

 

「うるせぇ黙れ疾く黙れ。テメェの存在そのものが俺の黒歴史なんだよ。分かったらさっさと俺の視界から原子レベルで消滅しろ」

 

「ちょっと、どういうことよそれ!?」

 

彼らの初邂逅は凄惨なものであったことは今更語る必要はないだろう。

 

互いが互いを許容することの出来ない水と油、視界に入れば即殺斬とまでいかないまでも二人の生き様は対極や対立の生き標本だ。

 

つまり出逢えばこうなる。

 

流暢かつ淀みない涼やかな罵詈雑言の(一方的な)舌戦が始まったのだった。

 

「貴女を見ていると不愉快極まりまくりなので迅速かつ早急に次元の彼方までそのミスジアオイロウミウシのような毛髪一本に至るまで遺さず滅尽滅相してくださいお願いします」

 

「丁寧に言って欲しかったわけじゃないし、むしろさっきより酷くなってないかなぁ? というか、あなたは私を何だと思ってるわけ・・・・・・」

 

「教育施設にてキッッツイ勘違いコスで待ち構えるという、下手に美人の自覚がある分に肌色成分だけは多分に含んだ先輩風吹かせて遊んでるリアル水龍敬な痴女」

 

「いい加減、その痴女痴女言うの止めなさいよ! しかも、言うこと欠いて水龍敬はないでしょ!?」

 

「うぅーわ、知ってんのかよ水龍先生のこと。もはや流石としか言わせて貰えない歪みない歪んだ性癖っぷり、ある種の感動とともに拍手と会長職の解雇嘆願を贈らせてください」

 

「あーもう、ああ言えばこう言う! そう言うあなたの他人を貶すことに関しての語彙力こそ変態的じゃない!」

 

「男が軒並み下着晒したり胸触らせれば鼻息荒くして顔赤くするラノベ脳程度の認識しかないような処女丸出し女がよく言うよ」

 

「だ、誰がしょ・・・・・・~~~ッ!! この馬鹿! 変態!! 鬼畜!! 女の敵!!」

 

「It's 誉め言葉」

 

「うがぁーーーーーー!!」

 

仮にも先輩であり生徒会長という立場にある相手にも一切妥協しない、どころか増し増しに絶好調な悪言を垂れ流す一夏の蹴り足、というより踵にて踏み潰すように力を込め始めている楯無も遂に根負けする。

 

この男におおよそデリカシーという高尚なものは存在せず、"抉る"ためなら何でも引き合いに出してくる真性の下衆である。

 

そしてこの状況は、楯無にとって非常に面白くない。

 

足蹴にされていることもだが、こうやって主導権が相手に握られているのが何よりも我慢ならない。

 

本来、楯無は悪戯好きの猫のような性格の女性であり、言動行動を持って周りを振り回して笑う狂言師(トリックスター)である。毛色は大いに違えど、一夏と彼女はある意味同属、人を弄る才能に関しては一家言持ちの、"いい性格"同士だ。

 

だから、彼女にはハッキリ見えていた。

 

冷徹に魅せる無機質な表情の奥で、まるで秋の空を眺めるがごとく穏やかな顔で愉悦に浸る外道の姿が。

 

しかし、このまま奴に言わせたままなのはあまりに癪というもの。

 

何としてでも仕返ししたい。

 

未だに足を乗せられているという事実も加算し、過去の自分が、そして未来の自分が応報せよと叫び狂っている。

 

だがしかし、今の楯無には一夏に対する有効な手札がない。

 

つまりは相手にとって突かれれば痛いところ、それでいて責められて激昂することなく的確に黙らせ恒久的に押し留め続けることができるような絶妙な塩梅の、さらに言うなら見れば胸が透くような悔しさ一杯に歪めた顔をみせてくれる、そんな決定的な一夏の"弱味"を楯無は未だに掴めずにいる。

 

・・・・・・何かないのか。

 

一度の失敗がその後の自分に大きな影響を遺す。一時の気の迷い、自惚れ、慢心、それが今の現状を造り出した原因なのだ。

 

このままでは永遠に『痴女』と『勘違いコスマニア』の黒歴史でネタにされ続ける悪夢が晴れることはない。

 

 

 

―――と、そこで楯無の思考が急停止した

 

 

 

「・・・・・・・・・なんスか、その顔」

 

「フフ、ウフフフフッ」

 

無論、手詰まりの打つ手なしの状況から宇宙に放逐された究極生物のような心境に至ったとかそういうわけではない。

 

この微笑は、彼女にとっての合戦の合図。

 

キーワードは『黒歴史』。それが楯無の灰色の脳細胞に電撃を走らせ、彼女だけが知る一夏の弱所を見いだしたのだ。

 

「一夏くん。今は月明かりが私たちを照らしていたけど、"あの時"は綺麗な夕焼けだったわね?」

 

一瞬、凝固した顔を、楯無は見逃さなかった。

 

一夏は最初、楯無そのものを『黒歴史』と称した。つまりは、彼にとって彼女自身をそう罵るしかないような案件が、二人の間にあったということ。

 

織斑 一夏という人間性から照らし合わせ、その果てに行き着く答えは一つしかない。

あの日、あの時、あの数分間。

 

一人の少女の涙が流れ、彼女が問いを投げ掛け、少年の矜持がぐずぐずに崩れたあの赤焼けの空での一幕が彼にとって―――

 

「あら、さっきまでの勢いはどうしたのかしら一夏く・・・・・・ん?」

 

"S"は打たれ弱い。その定説におよそ外れはなく、一度ペースを崩したら簡単には戻らない。

 

だからか、今の楯無には余裕が生まれつつあった。ここから一夏が持ち返してくることは、彼女であっても至難と言っていい。

 

しかし、だ。唐突に足を避け、俯き加減に懐から取り出した携帯端末を操作し始めた一夏の行動に静かな不安が芽吹く中、不意に手に持った携帯の画面を楯無に突き付ける。 

そこにはどこか見慣れた青い髪と白いエプロンらしき物を着た女性の姿があった。

 

というか、自分だった。

 

「ちょ、おま」

 

見間違いようがなく、それは彼によって散々ネタにされた楯無の"やっちゃったコス"の生写真。

 

いつ撮ったとか、なんで目に黒いモザイクが引いてあるのかとか色々あったが、一番の問題はソレが何かに使用されているということだ。

 

黒とピンクの入り雑じる如何にもな配色の低俗な背景。『HN:たっちゃん』と打ち込まれ、そこから数行に渡るこれまた頭の悪い、むしろ尻の軽い自己紹介文と連絡先と思われる十一桁の数字に、極めつけは最後尾の《登録》という吹き出し内の二文字。

 

どう見ても"その手"のサイトである。

 

「・・・・・・ねぇ、まさかそれ」

 

「してません。 "まだ"」

 

「じゃあ、その見覚えのあるケータイの番号は?」

 

「虚さんのケー番」

 

「こんなことに身内を巻き込まないでよォ?!」

 

泰然自若に余裕と冷静さを併せ持つ楯無ではあったが、今回ばかりは艶のいい肌を青ざめさせ目尻に涙すら浮かべて絶叫を響かせた。

 

"弄り屋"にも一線はある。

 

とかく、やり過ぎないことだ。

 

何事も冗談で済む程度、最後は互いが笑って終わる分水嶺を見極めて相手の"アラ"を笑う話術。

 

何処をどう好意的に見ようと下世話な類である彼らが人の輪を外れずに居られるのは、一重にこの術に長けていることに尽きる。

 

ならば、そんな彼らがその一線を越えたならば? 人間関係なんぞ鼻唄ついでに粉砕することも出来る者が、それの実行に踏み込んだことの意味することは?

 

何てことはない、遊び(悪意)本気(殺意)に変わっただけである。

 

こうなれば詰みだ。後手に回った人間に成す術は存在しない。

 

爆弾のスイッチに指を掛けた相手に、懐柔のための言葉すら封じられたなら素直に諦めるのが怪我も少く済むというものだ。

 

「なぁ、楯無会長。一つ、質問いいっスか」

 

ガックリと項垂れる楯無に一通り満足したのか、携帯端末からタグと履歴を消去するとそう問い掛けた。

 

力なく疲れきった頭を上げる。

 

もうここまで来たなら好きにしろや、などと投げ遣りな思いは存外に重く、その行程はひどく緩慢なもので鬱陶し気。

 

それでもどうにか上がりきった彼女が見たのは自分を包み込む、人型の影そのものであった。

 

 

 

「うちの同居人、アレ、あんたらも絡んでんのか?」

 

 

 

影から言葉が零れ落ちる。

 

月光を背後に従えた暗いソレは瞳だけを妙に光らせながら、小首を傾げるような仕草で声を紡ぎだした。

 

思わず、奥歯を噛み締めてしまう。

 

以前に打ち据えられた腹部が厭に熱を持ち始める錯覚が、楯無を内から苛んだ。

流れ落ちそうになる冷や汗を堪えながら思案する。

 

恐らく、彼女の秘密がバレている。

 

いや、既に判りきった上でこの男は彼女と共に生活していたと考えるのが妥当だろう。それが今夜、何かしらの進展があったのだ。

 

「・・・・・・ええ、彼女のことは、"学園長"から親子共々よく聞かされていたわ」

 

彼の目的がわからない。

 

何故にこんな形式をもって、自分たちのことを訊いてきたのか。

 

想像するのは簡単だ。存外に彼の価値観は簡潔で短絡的。

 

しかし、彼が何に理由と価値を見いだし、それに対しどのような行動をするのかはあまりに未知数でもある。

 

ならばもう、馬鹿正直に事実を語る他ないだろう。

 

学園側に何の思惑があって、こんな大それたことをしているのか理解に大体の予想はつくが、今ここでこの男に口先だけの虚言を聞かせる方がよっぽど恐ろしいというものだ。

 

楯無の言葉を聞いた影は、ゆらりとその輪郭を揺らす。

 

返るものは嘲笑か、激昂か、それとも―――

 

「―――っんだよ、結局ただの茶番かよ」

 

ふっ、と影が霞みように薄れ、呆れ顔の一夏が現れた。

 

瞬きすら忘れた調子で間の抜けた表情をする楯無など眼中から消し、口の端から愚痴ともつかぬ独り言を流しながらズルズルと壁を背に廊下へ座り込み、彼女へ向けてだらしなく両足を投げ出した。

 

「茶番って・・・・・・」

 

「そのまんまさ。主演を含めて見事に馬鹿躍りに付き合わされてんだよ、俺たちは」

 

盛大な溜め息と舌打ちを重ねながら、隠しもしない苛立ちを乗せて楯無の疑問に答えてみせる。

 

もともと品性を上等とは言えない彼だが、今は平時の倍増しに酷く、その様は抜き棄てられた刃よりも荒々しい。

 

だが不思議なことに楯無は、そんな一夏から"怒り"といった感情が見つけられなかった。

 

「魔法使いも王子もガラスの靴すら用意しといて、最初っからお払い箱とか脚本がイカし過ぎてんだろ。あーあ、マジにやってらんねぇー」

 

楯無からして、一夏が至った答えというものが何なのか、十全に理解することはできなかったし、一夏自身も彼女に全てを説明する気はないのだろう。

 

だからかといって、一夏の台詞からおおよそのことを推測するのは楯無には容易なことだ。

 

突然の転校生、その片割れである少女が此処に遣わされた本当の理由。

 

きっとそこにあるのは・・・・・・。

 

「んで、あんたは何かねぇの?」

 

楯無の思考を切るように、一夏が何やら問い掛けてきた。

 

相変わらずに、不機嫌と顰めっ面を隠しもせずに。

 

「何かって、なに?」

 

「だーかーらーよ、俺はあんたに一つ質問しただろ。あんたは何かねぇのかってことだ」

 

それはつまり、自分に対して何か質問はあるか、ということだった。

 

どうして唐突にそんなことを彼は持ち出したのか。もしかすれば楯無から情報を聞き出したのを"借り一つ"と考えてなのか、一夏という人間性を思えば有り得なくない話だ。

 

単純に負けず嫌いというのもあるだろう。

 

楯無に質問をし、それをそのままにしておくことがこの男にとっては我慢ならない、そこまで謂わずとも面白くはないのだ。

 

「訊けば、答えてくれるの?」

 

「答えられる範囲で、お応えいたしましょう」

 

腕を組み半眼で睨みを効かせつつも、一夏は了承の返事を返してきた。この男は人としての品格は低いが、自分の発言に反する行動はしない。

 

それにしても、だ。これは楯無にとってまたとないチャンスに違いない。

 

経歴、人格を通しても不審物の塊のこの男から、一回だけの質疑応答の機会を与えられたのだ。

 

愚問を提するわけにはいかない。

 

だが、何を訊く?

 

限られた権利はただの一回。

 

その一回を、何に使う?

 

「・・・・・・じゃあ、一つだけ」

 

一夏は楯無よりも背が高い。第二次成長期にある男女の差は、明確に二人にも現れている。

 

しかし、今の二人の目線は同じ位置にある。

 

窓の下で影の中にいる一夏と、光の中で彼を見据える楯無。

 

対極であり対立的である対律点、二人の人間がいる場所と世界がそこにはあった。

 

薄暗い闇の下で退けぬ壁を背に合わせながら大胆不敵に笑う彼と、光のを一身に浴びながら自らの影を後ろへ伸ばす彼女。

 

息を深く吸い、吐き出される息吹にある感情は、きっと決意と諦感の入り雑じり。

 

燐と紅く輝く瞳は僅かに天井を見詰めた後に目の前の彼へと、そして彼女はこう言った。

 

 

 

 

 

「あなたは本音のことをどう思ってるの?」

 

 

 

 

 

楯無の発した言葉に、一夏は暫し言葉を失う。

 

そして直ぐにそれが『あの日』の焼き増しであることに気付くと、血管が千切れんばかりに顔を歪めてみせた。

 

しかし、そんな様の彼に臆するどころか淀みなく真っ直ぐに睨み返してくる楯無に、確かに一夏は背後へ押し返されるような圧迫感に押し留められたのだ。

 

事実、一夏の大敗である。

 

自分が出した義理立ての譲歩は、見事に自身の首を括る縄に変貌してしまったのだった。

 

歯を軋ませながら上を向き、現実から目を逸らすように視界を右へ左へと動かしながら、必死に理性と意地をぶつけ合わせて歯噛みする苦渋の百面相は、彼がかつてない程に追い詰められている証拠に違いない。

 

そして。

 

本当に、本当の本気で、嫌々に嫌々を二乗したような屈辱と恥辱に塗れきった顔で、最後の抵抗なのか楯無から視線を逸らして呟いた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・考え中」

 

 

 

 

 

 

その答えを、楯無は大仰に頷きながら聞き届けた。

 

ある意味、前回より大した進歩と言えるだろう彼の答えに、微笑を浮かべて胸の内を満足感で満たしていく。

 

今も蛇蝎を踏み潰すが如く、喉奥で唸り声を上げる一夏に対し、楯無は勝利者の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

「クソッ、むかつくからこの写真拡散してやる」

 

「やめてよぉ!!?」




龍水先生を知ってる方、誤解のないようにいっておきますが作者の趣味ではありません。

ホントですよ?

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