でも、この時期はマジで忙しいんです! 言い訳ですね。
そしてお贈りする話も山なしオチなしな話。すんません。
ということで、シャルルさんの波乱万丈回
転校生騒動から五日が経った土曜日。平穏とは程遠い、されど慣れてしまえば日常となるのが当たり前。要は皆毒されているわけである。
いつも通りの発破騒乱とした馬鹿騒ぎに、上から下へと駆け抜ける乱痴気騒ぎ。そんなところに新たな住人が二人加わったところで、一度渦を巻き始めた竜巻が止まるわけもない。
ただ一組の男女、一夏とラウラだけは違った。
元より険悪、というよりラウラの一方的なものが、日を跨いだ次の日には隠しもしない敵意に変わっていた。
これには周囲の者も只事でないことを悟るが自分たちの言うことなど聞くはずもなく、唯一の防波堤であった千冬さえも御せぬ程に彼女は変質していた。
現在、ラウラは半ば隔離状態にある。
両者を引き離すことで一応の決着は着いたが、結局は問題の先送りにしかなっていないのが現状だ。
「・・・・・・・・・はぁ」
そして、この一件で最も頭を悩ませているのは、一組副担任である山田 真耶であった。
不器用であれど人一倍生徒思いの彼女にとって今の状態は到底容認できるものではなく、必死に打開策を考えるも一夏という存在だけで全てがボツに投げられてしまう。
―――最悪
そんな単語が頭に過る。
教員歴はそれ程でないにしろ、今年の惨状は常軌を逸している。
それもこれも、
「織斑くんを中心に、動いてる・・・・・・」
セシリアの決闘騒動、無人機の乱入、織斑 千冬の不調、そして今回。噂には会長とも一悶着あったらしい。
まるで小説の主人公のように、彼の周りでは事件が絶えない。
拭えぬ不安が、加速度的に真耶の心を暗い影に引き摺っていく。
「・・・・・・・・・・・・」
職員室の自分に宛がわれた教務机に散乱する、数人分の個人情報。
それらはこの学園内でも、一夏と最も関係が深い者たちのもの。それらに本を斜め読みするように視界に入れては流していく。
そして最後の一人。
一際目を惹く風貌の少年。
容姿端麗、閉月羞花の美男子。
「相部屋にしましたけど、大丈夫でしょうか・・・・・・」
同性だからという安易な理由で同室にしてしまったこと、今では少し後悔していた。
悪い予感というのは、思い付いた瞬間に血液のように全身へと回っていくものだ。
山田 真耶、二十代にして吐き出す溜め息は非常に重苦しい。
余談だが、ここ最近の急務で彼女は五kgの減量に成功したらしい。
◇ ◇ ◇
土曜日の午後のことだった。
アリーナ、所謂ISの訓練場にて三人の男女がいた。内二人は鈴音とセシリア。各々、自身の愛機であるISに身を包み、自分で設けたノルマをこなしていた。
そしてもう一人、明るいオレンジと白の配色の機体『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』に搭乗する少年、シャルルの姿があった。
「ねぇ、一夏って練習に来ないの?」
目の前に映し出される仮想ターゲットの最後を撃ち抜き、アサルトライフルの弾装を交換しながらシャルルが問い掛けた。
「一夏? 一夏なら来ないわよ。絶対来ない」
「えっと、どうして? 皆より機動時間も圧倒的に短いし・・・・・・」
「そんな素人相手にわたくしたちは負けましたわ」
呆れたように答える鈴音に対し、切り捨てるように言ったのはセシリアだった。
シャルルの困惑の混じった目線が集中し、自分の言葉に刺があるのに気付いたセシリアはバツの悪そうに笑うと話を続ける。
「少なくとも、わたくしも鈴さんも彼によって敗北しています。現時点では、わたくしたちより彼の方が実力は上ということになりますわ」
「まぁ、そうなるわよねー。・・・・・・アイツのニヤけ面が浮かぶわ」
腹の底から吐き出すように息を吐く彼女たちの姿を見ながら、シャルルは静かに己の記憶野に思考を走らせる。
そこで見つけたのは彼の戦闘記録。
一言で現すならば、それは"暴力"だ。
経験や相性なんてものを始めからないかのように無視して押し潰す、自身が乗るISさえ捩じ伏せ隷従させたかのような強引で底冷えするような戦い方。
それも、ISを起動してから僅かに数度しか動かしていない人間が行ったもの。才能という"ご都合主義"な詭弁では騙れぬ異様。
今でもシャルルの脳にはこびりついていた。
ラウラと相対したときに見せた、母に聞かされた寝物語の怪物のような
「―――ぇ、シャルルってば!」
「っ!?」
肩を掴まれるような呼び掛けられる声に目を覚ますと、心配そうに窺い見る鈴とセシリアの姿。
気分が悪いのかと気にかけてくれる二人の優しさにやんわりと否定の返事を返し、何でもないということを強調するようにシャルルは笑顔を作り直した。
「本当に大丈夫ですか?」
「うん、何ともないよ。えっと、何の話だっけ?」
「だから、普段は一夏とどんな話してるのか、って」
隠しきれぬ焦りを滲ませながら話題をすり替えるように話を聞き返せば、何とも何気ないものだった。
一夏との会話。そう考えて思い返すのは、かなり浮き沈みの激しい男の表情と笑い声だ。
「う~ん、別にこれといっては・・・・・・。好きな食べ物とか、あとは、女の子の話とか、かな?」
「あー、やっぱり男子だもんね。そういうエロ的な話はするわよね」
「ぼ、僕はしてないよ!? 一夏だけだよ!」
「そうやって必死に言う方ほど実は、という話はよく聞きますわね」
「ムッツリ、ってヤツね」
「違うってば!?」
何やらニヤリとした笑みと共にシャルルを弄りに掛かる二人に、慌てて自分の無罪を主張するがそれがより拍車をかけて彼女たちを愉しませる。
(まるで一夏と話をしているみたい・・・・・・)
口にこそ出しはしなかったが、人の悪い笑みを浮かべる二人はまさしく一夏のソレであった。
普段は一夏と本音という場を掻き回しまくる人間がいる為に影に回りがちだが、よく考えれば彼女たちもその問題児と対等に過ごしているのだから中々の傑物に違いない。
その後もワイワイと根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる二人に、シャルルも羞恥なんてものは在るだけ無駄だと考え始めたのか、虚な瞳でYESマンへと成り下がる。
「他は他は!」
「他は、って言われても・・・・・・」
「彼のことですし、わたくしたちのことも何かしら仰ってるのではないですか?」
「・・・・・・・・・・・・言ってたけど」
「それ! それ聞きたい! アイツっていっつも好き勝手やる癖に、自分がどう思ってるかとか言わないのよ!」
犬歯を剥きながら催促する鈴だったが、元より小柄な彼女だからかどうにも可愛さしか感じらないのが愛嬌と言うべきか。
少し思巡するように視線を空に泳がせながら、シャルルは答えた。
「鈴に関しては」
「はいはい!」
「"いい女"って、言ってた」
「・・・・・・・・・・・・うん?」
ポツリと呟くような解答。
余さず思考が吹き飛んでしまった鈴音と誤爆を受けたセシリアに、シャルルは至って真面目に続ける。
「好みドストライク。自分の正義を持っていて、それを貫く覚悟もある格好いいヤツ。アイツに惚れられた弾君が心底羨ましくてしょうがない、とか。えっと、あとは・・・・・・」
「待って。ちょいと待ってください。それ誰が言ってたの?」
「え、一夏だけど」
増える瞬きで戸惑いを伝えるシャルルの倍増しに、典型的な文章では到底表現仕切れる筈のない奇異面妖極まる表情で鈴音が頭を抱える。
いい女? 誰が言った? 一夏? イチカって誰よ。
青くなればいいのか、赤くなればいいのか。喜ぶのとは程遠い、途方もない気味の悪さで、鈴音の自己討論は明後日の方向へ飛んで行くのであった。
「あのシャルルさん、ちなみに、わたくしは?」
おずおずと進み出てきたのはセシリア。
知りたいような知りたくないような、興味有りきの怖いもの見たさで問い掛けた。
そんなセシリアに鈴音から視線を外し、自身の記憶を探り始めるシャルルだったが、
「セシリアは・・・・・・あっ」
言葉は途中で切られた。
そして露骨に頬を真っ赤に染め上げながら、シャルルは自分の前髪に視線を隠してしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・なんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ゴメン」
「いえ、答えてください。あの野郎はなんと言っていたのですか?」
「僕、先にあがるね。今日はありがとう」
「お待ちなさい。待ってください。お話ししましょう? ねぇ、お願いですから待ってくださいませんか!?」
そそくさとアリーナを後にしようとするシャルルにセシリアがブーストをかけて行く中、思考のゲシュタルト崩壊に落ちていく鈴音が一人残されるのだった。
▼ ▼ ▼
シャワーのノズルを回すと、身を刺すような水が噴き出した。その冷たさは、慣れない日本の暑さに嬉しいものだったが、その温度は十分以上に僕を驚かせた。
慌てて水温を調整しようとするが、今度は火傷しそうな程の熱湯が降り注ぎ思わず絶叫をあげかける。
「・・・・・・はぁ」
漸く適温になった温水を浴びながら、ここに来て幾度目になるかも判らない溜め息を零す。
―――上手くいかない
僕の感情を一つに纏めて表現するなら、この一言からくるストレスに完結する。
自由奔放で無軌道な人かと思えば、周囲には彼と対等に向き合い巫山戯合う友人もいて、時には彼が叱られているような光景さえあった。
だけど、彼が"その気"になった瞬間の、あの影が入れ替わるような底冷えする眼はいつまでも僕の視界に刻まれている。
快活さと悪意が同時に有るような違和感は、せせら笑うようにゆらゆら揺れてはすり抜ける陽炎か煙のように掴むことが出来ず、かと思えば蛇のように音もなく傍に現れてはまた笑う。
「これじゃあ、【データ】なんて・・・・・・」
力なく正面の鏡に額をぶつける音が、骨を伝わって全身に響く。
そこで僕は見た。
自分の正体。
鏡面に写る僕の姿。
僕の
少しだけウェーブのかかった金色の髪。男を自称するには頼りない細い腕と足に、括れた腰。
そして、男の人にある筈のない、本来なら"削られていた"かもしれない『胸』の上を、水滴が流れていく。
こうやって鏡を見たときは決まって、安心と不安が同時に現れる。
僕が"女"であるという事実を確認出来た、僕が僕だという安心。
僕は男でいなければいけないという脅迫、有り得るバレた後の末路。
「・・・・・・ッ」
暖かい筈のシャワーなのに、どういう訳だか震えが止まらない。
あの眼。
あの眼だ。
あの眼の中に僕が納まっているのを自覚した時から、時おり発作のように僕を縛り挙げる恐怖。
正直、僕は一夏が怖い。
嫌だ。
あんなのと少しだって一緒に居たくはない。
だけど、僕は逃げるわけにはいかない。逃げることができないから、ここにいる。
「・・・・・・・・・・・・ここに、居なきゃいけないんだッ」
―――すまない、■■■■―――
「・・・・・・・・・・・・謝る、くらいならっ・・・・・・!」
不意に思い出した"あの人"の声。
荒げそうになる声を抑え、同時に過る虚しさに瞼の下が小さく震えた。
謝るくらいなら何で、いや、いくら想おうが叶う筈のない願いでしかない。なら、無為に無駄な希望は捨てるべきなのかもしれない。
そうすれば、きっと今より楽になれるから。
そうすれば、きっといつか―――
「あれ?」
ポディーソープのラベルが貼られた容器の頭を押すが、出てきたのは気の抜けた空気の音。
そう言えば昨日で使いきったんだった。
流石にシャワーだけで済ませるのは我慢できない。適当に水気を払い、バスタオルで体を隠して僕は脱衣場の扉を開ける。
たしか、クローゼットの中に予備があるって―――
「ん?」
不意に足が止まった。
そこにはベッドに寝転び、だらしない姿で漫画を読む黒髪の人影。
腕を枕にしながら視線だけを向けて、動けずにいる僕に向かって彼はこう言った。
「どうした、デュナシャンドラ。"男装はもういいのか"?」
彼、織斑 一夏はそう言って、また僕の名前を呼ばなかった。
次回予告!
シャルルくんの男装がバレていた!? まぁ、しゃあない。
そして、最近作者が親戚からベルセルクかっぱらってきたから悪い影響を受けまくってるようだ!!
次回 閲覧要注意
胸糞とか暴力あり。シャルロットさんが好きな方に全力で土下座したくなるお話しになりそうです