それと、自分の本棚に人外ものが増えてきた昨今です。
ということで、一夏の苦悩と箒の変質回
3/27 最後の部分を大幅修正
「はぁ・・・・・・」
ガツン
「はぁぁぁ」
ガツンガツン
「はぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁああああぁぁああああぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガツンガンツガンツガンツガツン
「うっさいわぁああ!!? どんだけ頭打ち付けてんのよ、溜め息も長くてウザすぎるわーー!!!」
一組と二組合同の実習はつつがなく終了し、時は昼休みまで進む。
学園のほとんどが利用する食堂では、今日も普段通りの賑わいを見せていたが、とある一角、普段でこそどこのグループよりも騒がしいはずの一団が、ボタンをかけ違えたような気まずさで静まり返っていた。
「・・・・・・はぁ」
「こっちチラ見して溜め息吐くな! いい加減見てるこっちがイライラするわよ!!」
「うるせぇ、フラットチェスト。70も無いヤツが話しかけるな」
「そ、それくらいあるわよ!!」
「・・・・・・鈴さん」
「なによ!? って、あう・・・・・・」
頭を等間隔でテーブルに打ち付ける一夏に業を煮やした鈴音が噛みつくが、一夏の誘導によって見事な墓穴を掘らされる。そして隣りのセシリアに窘められ一気に赤面、テーブルに撃沈する。
そんな鈴音も見ずに、一夏は深刻な面持ちでドラミングを再開、また規則的な打撃音と震動がテーブルに鳴り始める。
本来ならここでセシリアか本音のツッコミが入りそうなものなのだが、セシリアは視線を逸らして三杯目の紅茶を飲み干し、何故か居合わせたシャルルはどうすればいいか分からず右往左往するのみ。こんな状況に必要不可欠な存在である本音さえ居ないため、全てが救われない。シャルル目当てで集まったであろう女子たちも、ただならぬ気まずさの混沌に一歩も近づけずにいる。
ならば何故、こんな悲惨な事態になったか。
「・・・・・・ゴホン。えー、一夏さん。過去とは岩のごとく動かないものです。それに生物的にも、その、それは・・・・・・、いたって正常です。だから大丈夫ですわよ?」
「バレてる時点で既に大丈夫じゃないことに気づけよセッシー」
つまりはそういうことであった。
細かい描写は彼自身の名誉のために控えるが、実習中に突如として駆け出した一夏の全力な戦略的撤退を見ていた者の中で、察しがいいものが極少数であったがいた。そんな少数派の中で、極々少数であったが―――
「で、見たのか?」
「な、なにをでしょうか?」
「俺のデザートイーグル」
「~~~~~っ」
普段のセシリアからは想像もつかない初な反応、ついでに横の鈴音も爆発しているのを確認して一夏はかなり真面目に引き籠ることを考え始める。
とどのつまり"見た者"もいたのだ。学校の水泳の授業などで極稀に発生する悲劇が、こんな所でも猛威を奮っていた。
「いや、別に? ナニもしてないよ俺。そもそも未遂だし。個室に入りはしたけど、入っただけだし。紳士の生き見本で第二のブッタと自称してる俺が、よりにもよってのほほん様でなんて、ねぇ? やるわけないじゃん。致すわけねぇよ。全然まったく少したりとも致してねぇし。あれだよ、三十分くらいクールダウンつーか、M78星雲あたりの友人たちとLINEしてただけだし。ゾフィーの奴とはマブダチだし俺。ていうか、この学園自体が男に優しくねぇんだよ。360度どこ見ようと女しか居らんやないですか。空気は甘ったるいフェロモン的な香りが尋常じゃなくて脳ミソがスポンジになりそうだしよ。しかも皆さん俺のこと本当に男だって分かってんのか問い質したくなるくらいノーガード戦法だし。どこのボクサーだよ俺は力石か。寮に戻れば戻ったで皆誘ってんのかって言いたくなる薄着じゃん。せめてブラ着けろよ。上下横乳までは許せるけど、ポッチがポッチしてんだよ。巫山戯るなよ殺す気かよ揉みし抱いて押し倒すぞコラちくしょうが。それなのにようやく視線の安置が来たと思ったら、明らか受け専のヤツだしよ。ん? あぁ、そうか! いいことを思いついだぞ!!」
延々と続いた現実逃避と愚痴に聞いていた周りの女子たちが爆撃されていく途中、一夏は嬉々とした顔で勢いよく立ち上がりシャルルに視線をロックする。
えっ、僕? といった感じに周りを見回すシャルルに、冬木の外道神父ばりに光彩が殲滅された瞳の一夏が言い放つ。
「おい、シャガルマガラ!!」
「は、はい!」
「お前のケツをk」
「「オォラアーーーー!!!」」
度重なるストレスと自己完結の果て、ついにトチ狂った一夏にセシリアと鈴音の合体技が顔面と水月に炸裂する。
「危なかったですわね」
「うぅ、何であたしがこんなことまで・・・・・・」
「えっと、ど、どういうことなのかな?」
「いえ、気になさらなくて大丈夫ですわ。まさか彼がこんな狂行に出るとは、思ってもいませんでした」
「もしかして、弾もコイツみたくなっちゃうの? そ、そうなったら、あたしが何とかシてあげなくちゃ・・・・・・!」
「なんでお尻? あれ、もしかして・・・・・・あっ」
「鈴さーん? 鈴さん戻ってきてくださいまし。貴女までそちらに行かれたら、場の収拾ができません。というかシャルルさん? 何で貴方まで顔が赤いんですか? それと皆さんも写真を撮るのを止めてください! えっ、一×シャル? そんな不毛な話題を持ち込まないでくださいませんか!?」
セシリアは元来の苦労性もあってか、にわかに騒ぎが大きくなっていく周囲に落ち着くように声をかけて回る。
何故に自分ばかりが、と心では思いながら、トリップから帰ってこないシャルルと鈴音に舌打ちを打ちたくなるのを握り締める拳に込め、ここまでの騒ぎになった大元の原因である人間に文句の一つでも言ってやろうと一夏に視線を向けると、
「生まれ変わるなら、植物のような心で生活したい・・・・・・」
床に突っ伏しながらそんなことをブツブツと垂れ流している。
よくよく誰かしらに殴られ、地面との熱い抱擁している姿を見掛ける男に、膨らんだ苛立ちも空気の抜けていく風船のように萎み、余った分が苦笑となって口から溢れ出た。
「ほら、貴方も起きてください。いつまでも寝ていると、制服が汚れてしまいますわよ?」
「思っくそ殴っておいて、随分と優しい言葉をくれるんだな」
「あら、随分な物言いですわね? もしかして、わたくしたちが止めてしまった発言は本気でいらっしゃったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・すんません」
「ええ、よろしいですわよ。それと、恥なんていうものは生きてる内に幾らでも晒すものです。さっさと笑い話にしてしまうのが吉ですわ」
「・・・・・・・・・・・・うっす」
そんなわけで、今日の昼食騒動は一応の収束を見せたのだった。
◇ ◇ ◇
ある目覚めた人は言った。形あるものは一瞬たりとも同形であることはなく、余すことなく全てが滅び去る
一人の人間はそれでも良いかもしれない。
ならば、残された人間はどうすればいいのだろうか?
置いていかれた人間が、置いていった人間と出逢ったとき、変わっていく全てに置いていかれた人間は、どうすればいいのか。
「・・・・・・我ながら、面倒なことを考えているな」
「どうしたの、しののん?」
「いや、気にするな布仏。独り言だ」
脳内の思考に区切りを付け、私は隣を歩く本音に視線を落とした。
現在、昼休みの時間を利用し本音に"とある人物"との仲介人になってもらうため、本人がいるであろう場所へと向かっているところだ。
私の目的のためにも、彼女の協力は必要不可欠なものである。
「すまないな、せっかくの昼休みに付き合わせてしまって」
「うぅん、別にいいよ。でも・・・・・・」
最後まで言い切らず、布仏は前を歩く私の袖口を軽く掴むだけに留まった。
・・・・・・振り向かなくても容易に解る。
誰よりも優しい彼女のことだ、今の自分たちを見て考えることなど一つくらい。それでいて"誰か"ではなく、"皆を"心から思っているのが、布仏 本音という少女だ。
振りほどこうとすれば簡単にできてしまうであろう、そんな小さな手から伝わる体温が優しくて、思わず笑いそうになってしまう。
「なぁ、"本音"。一つ、訊かせて欲しいことがある」
どうして、笑ったのか。
意識とは関係なく吊り上がる頬は、自分自身を嘲るためのものなのだろうか。
それとも、今さら彼女に嫉妬でもしているとでも言うのだろうか。
「お前は、一夏のことをどう思っているんだ?」
何気なく出てきた言葉は、そんなものだった。
そんなもの・・・・・・、あぁ、一昔前の自分だったら思いもしなかっただろう。
答えの分かりきっている問いをするときほど、自分に余裕がないんだと思い知るものだ。
「大好きだよ?」
「・・・・・・そうだろうな」
即答だった。
考える素振りさえ見せず、布仏は極当たり前のように言ってのける。
私にもそれくらい、素直に自分のことを口に出せたなら、少しでも自分を好きでいることができただろうか?
いや、これも今さらか。
「私は、"好きだった"よ。今はむしろ、嫌いだがな」
強くなる袖を握る力から、彼女の中の痛みが判るような錯覚に陥る。
分かっているさ。
他人の苦痛なんて幻覚だ。
そうだとしても、布仏の心象で錯綜する感情と思索は見なくても判る。きっと彼女のことだ、どうにかして私たちが笑顔で終わる、そんな
だが、あえて私はそれを、余計なお世話だと断じさせてもらおう。
今の私には必要なのだ。
正義や義務だとか耳障りの良い綺麗事で着飾らない、私自身が私だけのために
「・・・・・・笑ってるの?」
まるで一夏みたいに、とでも続きそうな言葉尻に、私の頬は確かに自覚したうえで笑みを引き上げていく。
あぁ、そうだ。
そうだとも。
私は嗤っている。
仄暗い背徳的な歓喜が、沸き上がる源泉のごとく私を奥から焼いていくのだ。
誰かの為、何かの為と、他者に理由を求め続けていた限り見つけることの出来なかっただろう感情が、ギシリと軋みをあげながら歪に私の心に根を下ろし花を咲かせようとしている。
「怖いか、私が?」
「・・・・・・少しだけ」
その質問をしたのは何故だったろうか。
未だに私の頬はアイツのような笑みで裂けている。
彼女たちに対する罪悪感だろうか。私は布仏の善意と、彼女の友人の劣等感を利用しようとしている。
・・・・・・赦されたいのだろうか?
それこそ、唾棄すべき最低な願いだというのに。
「―――でもね!」
不意に強く引かれた腕に、倒れ込むように後ろを向かされる中、前にもこんなことをされたな、と場違いなことが頭を過る。
そうやって振り向いた先には、僅かな涙と怒気を孕んだ、何処までも真っ直ぐな瞳が待ち構えていた。
その視線と私の目が重なったとき、彼女は確かにこう言った。
「信じてるから!!」
それだけだった。
たったそれだけの、直情的な思いに私は気圧され、不思議と声をあげて笑っていた。
「な、何で笑うのー!?」
そう言って慌てたように私の服にしがみつく、可愛らしい友人の姿にくすぐったくなるような感覚が身の内を占領されていく。
どう足掻いても勝てやしない。
同時に、これで安心できた。
もう織斑 一夏の隣には、布仏 本音が居てくれる。
私は安心して、
「・・・・・・ありがとう、本音」
笑ってしまった私にむくれた本音に非難の拳を当てられながら、残り少なくりつつある昼休みに背を押されるように、廊下を歩いていく。
。
私が一夏に勝ち、克つための、
そしてあの転校生、ラウラ・ボーデヴィヒをどうやって"引き入れる"か。
・・・・・・・・・・・・時間はある。
やることをやるだけだ。
「あぁ、そうだ。やってみせるさ」
―――勝つのは私だ
作者「・・・・・・」
ヒロインなし「・・・・・・」
作者「お前要らなくなるかも」
ヒロインなし「!!」
皆さまの感想を拝見する度にヒロインなしを主張してきましたが、なんか意味がなくなって来てるような気がしてなりません。
予定表を見る限り、やはりヒロインの確立は最後まで無いのですが、それでもどうなるやら。
とりあえず、また次回に