それと、新しい文体にも挑戦。
ということで、天使に■■■■■と呼ばせたい作者の欲望爆発回
そして、黒化箒編
「ああああもう!! やっりづらいぃぃいいいいいいい!!」
「喚かないでください鈴さん! 感情的になれば先生の思う壷ですわ!」
「わかってるけ、どぉおおおお!?」
「鈴さん!?」
三つの鋼が空を飛び回る。
【青】の『ブルーティアーズ』にはセシリアが、【赤】の『甲龍』に鈴音が。
時間は進み、IS起動実習。この時間では生徒たちが実際にISに搭乗することで、その身、肌を通して見地を広げることを目的とした、IS学園唯一の教目である。
そんな場で行われた代表候補二人と教員一名による二対一の模擬戦。
相手が相手なだけに誰もが無謀な試合だと断じたが、実状は違った。いや、皆の予想は的中していた。
ただ、逆の意味でである。
「今のはよく避けましたね。では、次にこういうのはどうですか?」
それだけ言うと【緑】のもう一機、山田 真耶の操る『ラファール・リヴァイブ』が構えた二丁の51口径アサルトライフル、レッドバレットが毎分九百発にもなる鉛弾を二人の若き代表候補へと叩きつける。
「「!?」」
顔を歪めるセシリアと鈴音を嘲笑うかのように迫る弾の群集は、その一つ一つがまるで意思を持つ蛇のごとく二人に食らい付いていく。
蝋燭の炎に炙られるようなエネルギーの減少であったが、逃げ場を潰すように放たれる弾道に二人は踊らされる。そして二人のが一点に集まったとき、真耶はその間にグレネードを投げ込んだ。
「―――っ、! セシリアぁああ!!」
鈴音は目の前に飛び込んだ爆弾に一気に心身が凝結するが、彼女とて代表候補、怯む戦意に活を入れ、一瞬のアイコンタクトをセシリアに光らせながら、グレネードを真耶に向けて"蹴り返す"。
そんな鈴音にセシリアも己の役目を全うするため、自身の最も信頼する相棒、《スターライトmk-Ⅲ》を返却されるグレネードをスコープに捉え、引き金を引く。
「お任せを、鈴さん!!」
真耶の眼前で、一迅の閃光に貫かれた爆薬が炸裂する。
その光陵、爆発音から二人が嵐のように過ぎ去った激戦にほんの少しであったが、集中の糸を弛めるように息を吐いた。
そう、それさえも"奏者"の指揮による采配であったことにも気づかずに。
―――唐突の轟音が響いた
「きゃあっ!?」
「なっ、セシりっ!!」
唸りをあげながら大気を切り裂き、三発の弾丸が飛来する。
一発はセシリアのライフルを弾き飛ばし、残りの二発は鈴音の構えた両手の青龍刀の柄のみを撃ち抜き、衝撃に耐えられなかった二人は自身の得物を取り落とす。
「駄目ですよ? コールさえ鳴ってないのに安心なんかしたら。相手の動きを止めても、最初にしなくてはいけないのは完全な無力化です。覚えておいてくださいね」
爆煙の中から聞こえてきたのは、硝煙を噴く一丁のライフルを抱えた真耶の優しげな声。
だが、煙の中から最初に姿を現したのは、おそらく真耶のような人畜無害と言っていい人間にあまりにも不釣り合い、それでいてその場に居合わせた人間全員をドン引かせるには充分すぎる圧倒的で異質な銃器。
対IS用72mm機甲化ライフル 《
トーチカや戦車といった装甲を粉砕するための鉄鋼弾を撃ち出す無骨極まりない砲頭に、亜音速で迫る一撃にセミオートによる連射はたとえISであろうと、という触れ込みの日本謹製の武装である。
ただでさえ高火力の逸品を背部から伸びるハードポイントに展開、しかも同時に二つという正気さえ疑いかねない容赦のない布陣。これも《ラファール・リヴァイブ》の大容量バススロットの恩恵あってか、真耶自身の天然から為せる御技か。
それとも、彼女の策略であったのか。
織斑 千冬という驚天動地の天才が現れなければ、日本で最も名を馳せていたであろう心優しき破壊屋。ひた向きで愚直なまでの努力の果て、傲りも慢心もなく純粋なままに強さを手にした人間の、確かな実力の片鱗が姿を見せた。
「さて、続きをしますか?」
そんな可愛らしい笑顔と問い掛けに、セシリアも鈴音も半泣きのまま全力で首を横に振るしかできなかったのだった。
◇ ◇ ◇
「それにしても、山田先生って実は凄かったんだねー」
「あの人、もともとは日本の代表候補だった人だし。しかも国内外全ての戦績は、自滅以外での負けはほとんどなかったって聞くぜ? はい右足前に」
「そうっ、なんだ。って、自滅?」
「授業開始五分」
「あー・・・・・・」
代表候補二人の降参から時は経ち、各専用機持ちを班長にし、五つのグループに分けられ実習が始まった。ちなみにこの班割りの際、シャルルの元に大半の生徒が集中する事態が発生し、千冬によって出席番号順に班編成がなされた。
余談だが、それでも本音は当たり前のように一夏の班に居るのだが、もはや誰もツッコミを入れないようである。
閑話休題。
現在一夏は、練習用である『打鉄』に乗る相川 清香の歩行練習に付き添いながら、さっきまで繰り広げられていた模擬戦のことを話していた。本来なら一夏も『白式』を展開しておくべきなのだが、本人が面倒臭がっているため、未着用である。
彼の言う"授業開始五分"というのは、ISを纏った真耶が一夏目掛けて墜落してきたことである。それも持ち前のドジっ娘スキルからなのだが、それだけにその後の戦闘にギャップを感じてしまうのだった。
「はいキョンシー、次に左足」
「ねぇ、そのキョンシーってアダ名さぁ・・・・・・」
「じゃあ、キョン」
「たぶんそれ一番駄目! 詳しくは判んないけど、私の前世でそんな人がいた気がする!!」
「じゃぁ芳香とか? 邪仙の下僕みたいな。いいじゃん、キョンシー。きっと似合うよ? あのダボっとしたチャイナ服に帽子なんか被って、額に御札貼ったりして。スッゲー可愛いと思う」
「か、かわっ!?」
不意を突かれ転倒しかける清香を見ながら、一夏は一夏で愉しそうに笑う。
彼は自分の顔がイケメンの部類に入ることを自覚しており、時折こういったことをして女子をからかう光景が目撃される。ワリとマジに最低であるこの男。
そんなことばかりしてるわけで、今回はその分のツケが返ってくるわけである。
「・・・・・・本音、ちょっと来て」
一通りの練習工程が終了し、清香は熱の抜けない顔で、対一夏用の
端の方に本音を呼び寄せながら、作戦を伝える。その内容と自分の役割に疑問符を浮かべる本音であったが、面白そう、という単純な理由で承諾した。
目的はいたって単純。
一夏の慌てる顔を見る、ただそれだけだった。
「ねぇねぇー!」
二人目の練習を見ている一夏の背後から本音が声をかける。彼からは見えていないが、今も本音は林檎のように頬を朱に染めている。
「んー? どうした、のほほんさん」
「えっとー・・・・・・ね」
「ちょっと待ってくれや。リコリンがはしご三件目のリーマンレベルの千鳥足でよ―――」
「いちかお兄ちゃん!」
一夏の口から鮮血が迸った。
一瞬の内に自分のうずまき菅の中を駆け巡った甘美で官能的な旋律に、体の全機能が停止しかける。
何があった? これは新手のスタンド攻撃か? あぁ、そういえばバーサーカーが居たなぁ、とかそんなことを考えているときに、さらに衝撃が走る。
―――本音が一夏の背中に抱きついたのである
「ごふっ」
昨日の一件もあったというのに、未だ自分の身体の凶悪さに気づいていない本音は今ほぼ水着と言っていいISスーツのみであり、制服ごし以上に立体感を加速させる柔らかさと温もりが背中に密着したとき、一夏はあまりの突然かつ第一級緊急事態に全意識を爪先に集中させる。
というのも、それによって交感神経より副交感神経が優位になり、血の流れをある程度抑えることができるからだ。
つまりいくら本音の豊かな双丘を押し付けられようと、自身の"業物"が仁王立ちするような最悪を回避することができるのである。
そのはずだった。
「お兄ちゃん、だーい好き!」
「真山屋ティーチャー! 授業抜けていいっすかー!!?
「はい!? な、何でですか!」
「俺の社会的信用とこの場全員の精神衛生の保護のためです!! いいですね?! いいっすよね!? 手遅れになる前にぃ!!!」
「は、はい! どうぞ!?」
判断は一瞬だった。
人間の脊髄反射すら超えるような速さで本音を優しく振り払い、一夏はアリーナの出口へとF1カーのようなスピードで駆け込んでいく。
あまりの急展開に一番の被害者であろう本音は呆けた顔で、砂埃を上げて若干前のめりに走り去る友の姿を見送ったのだった。
◇ ◇ ◇
「貴様、なんのつもりだ?」
別所。
そこでは小さな小競り合いが起きていた。
涙目で膝を着く『打鉄』を装着した女子生徒に、班長であるラウラが自身のIS、『シュヴァルツァ・レーゲン』の両腕に装着されたプラズマ手刀を向けている。
ラウラの教導は苛烈を極めていた。もとが軍隊上がりであるためか、その言動、挙動につけられるナイフのような雰囲気は一般人である少女に陸で呼吸の仕方を忘れさせるほどのものだった。
「やり過ぎだと言っているんだ、ボーデヴィッヒ」
そしてもう一人、少女に代わりブラズマの間合いに身を滑り込ませたのは、切れ長の眼光を光らせる箒だった。
「どけ、指導の邪魔だ」
「指導? 私には一方的な
「はっ、それはコイツが貧弱な軟弱者だからだ。ISを扱う者としての自覚も覚悟もない」
「自覚?」
「ISは"兵器"だ。それだというのに、ここのヤツ等はファッションか何かと勘違いしている。それを軟弱者と言って何の違いがある?」
ラウラの瞳には嘲笑と侮蔑の色が浮かんでいた。
ラウラの言い放った言葉に、箒は明確な反論をすることができなかった。それどころか、脳の奥を探られるような共感さえ感じていた。
目を伏せながら思うのはかつての理想を捨て去った思い人と、家族を守るために人知れず戦う先輩の背中。新たな出会いと何もかもが変わり果てた環境の中で、箒自身もこの世界の当たり前に疑問と、"違和感"を覚えていた。
「なら、お前はどうなんだ?」
少しの間を開けて出された箒の問いに、意図が読めないラウラは見えている右目を僅かに細めた。
「お前の言うことは尤もだ。だが、そのISを使ってやることが、ただの憂さ晴らしとはな・・・・・・」
どれだけ聖人君子を気取ろうと、どんなに悪逆無道に振る舞おうと、それが心ある人間であるならば喜怒哀楽を持ち合わせるもの。喜怒哀楽、感情を持つなら言葉に"意味"を与えることができる。
―――言葉は癒す
―――言葉は動かす
―――言葉は統治する
―――言葉は、心を喰らう
きっと彼女にこの事を伝えたところで、最初から認めようとはしないだろう。逆を言えば認めない、否定するというのは本人自身が、一番その事を自覚しているということに違いない。
箒は笑っていた。
歪に
引き裂き
三日月のように、嗤っていた。
「"たかが"ISを使える程度で、もう選ばれた人間気取りか? いい御身分だな、軟弱者?」
「―――そこまでだ」
箒の首にプラズマの刃が降り下ろされる寸前で、凛とした千冬の声が響いた。
「状況が今一掴めないが、何をしている? いや、何をしていようと、それは授業よりも優先しなくてはならないことか?」
「・・・・・・いえ、少々行き違いがあっただけです織斑先生。すぐに再開します」
「そうか。なら"怪我の無いように"、な」
「わかりました」
「・・・・・・了解しました、教官」
ここでは先生と呼べ、とだけ告げると千冬は別の班へと去っていく。
千冬が背を向けた瞬間にラウラが箒を殺さんばかりの視線で睨んできたが、箒はそちらに目を向けず、忘れていた呼吸を繰り返すのに必死だった。
静かに、生まれた予感と、築いた手順を握りしめるように箒は息を吸い込んだ。
黒い一夏に影響受けて色々容赦がなくなる現象、略してイチ化。
そんなこんなで箒さんがアカン。彼女なら大丈夫だと信じていたい。
ついでになんですが、別の長編作品を書き始めました。勿論こちらがメインですんで、リアルで何かない限り完結まで邁進致します。
そんなわけで、もしよろしければもう一方もよろしくお願いします!
では、また