IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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8巻買ったら千冬さんが雷電になってたり、リンリンがセーラー服だったりセーラー服だったんです。久しぶりに空を飛びました。

あと、弟がマブラヴオルタを買ってきた。おい、未成年。

ということで、転校生(被害者)登場、再臨ののほほん様回


第三十幕 教師の苦悩と友情(覇)と

「皆さーん! 今日は転校生を紹介します。しかも二人です!」

 

そう言って真耶副担任はいつもの倍増しの笑顔、というより蕩けたような締まりのない顔で教室の扉をくぐった。

 

転校生が来る。しかも、二人。

 

もとより入試倍率が天元突破しているIS学園において、外部から転校してこれる人間というのは国家運営に関わるような位置付けの人間くらい。一組の大体が国家代表か、その候補生だろうと考えていた。

 

そんな中で真耶の呼び掛けと同時に、開いた扉から最初に入って来たのは背中まで伸びた銀髪に眼帯、白い制服を軍服のように着こなした小柄な少女だった。静かに目を伏せ"休めの姿勢"で制止した姿から、彼女がどのような場所に身を置いていたかを物語っていた。

 

そして次に入って来た人物に、彼女たちの想像した現実は容易に破壊されるのだった。

 

「フランスから来ました。日本は初めてで、不馴れなことばかりですが、皆さんとは仲良くなれたらいいなと、思っています」

 

"彼"が教室に入った瞬間、空気が鳴動した。

 

誰もが見惚れてしまいそうになる柔らかな笑み。立ち姿と言葉の端々から感じられる気品と、うなじの部分で束ねられた黄金に輝く濃い金髪。線の細い、華奢と言っても過言ではない肢体も合わせて、まさに貴公子(プリンス)と称すべき者がいた。

 

「シャルル・デュノアです。これからよろしくお願いします」

 

そう、そこには"男"が立っていた。

 

「きっ―――」

 

一夏はすかさず、用意していた耳栓を両耳に押し込み目を閉じる。それから溜め息混じりに呟いた。

 

「AMSから光が逆流するー」

 

「「「「「「「ギャァァァァァァァァァァ!!!」」」」」」

 

悲鳴、もしくは奇声、正しくは喜声。もしかしたらフラジール。

 

女性特有の高い音域の絶叫がアンサンブルを起こし、幾重にも重なった不特定多数の人間の声が音響兵器のごとき質量ある音波を教室に充満させた。

 

あまりの事態に真耶は目を回し、シャルルは驚き身を縮こませ、千冬は腕を組ながら渋面を作っている。銀髪の少女も変わらず仏頂面である。

 

「イケメン! 金髪のイケメンよ!」「織斑くんみたいな俺様系じゃなく、王子様系守ってあげねばならないタイプのウサギちゃん!?」「なんだ、二次元から私を迎えにきてくれたのね」「我が世の春が来たーーー!!」「ん? このクラスにイケメンが二人いない?」「ドSヤンキーと華奢な美少年!?」「アレ? 薔薇な予感?!」

 

「「「「「「これは薄い本が厚くなる!!」」」」」」

 

わーキャー好き勝手に騒ぎ始める貴腐人たちは次に、どちらが受けか攻めか、さらにはシチュエーションまで構築し始め、白昼夢堂々と退廃的な話題でヒートアップさせ、生産性皆無の腐海を広げていく。

 

 

 

―――瞬間、全員の頭に出席簿が突き刺さった

 

 

 

「「「「「「!!!!!???」」」」」」

 

生きている。

 

必死に刺さったと思われる部位を確認するが、どれだけ探しても出席簿はなく、出血もない。あまりにもハッキリと見えた幻覚、明確すぎる死の光景、そして見慣れた出席簿。

 

気づけば、織斑 千冬が出席簿片手にこちらを見ていた。目は口ほどに物を言うと言われているが、そこから見えるものは一切ない。

 

ゆえに、貴腐人たちは直感した。

 

―――次はない

 

理由だ、理論だ、なぜそう思ったかなんてどうでもいい。もし、次に騒げばさっきの幻が現実のものになる。

 

選択肢なんてない。

 

尊敬し、崇拝すらしている教師の本気の一端に触れ、ある者は恐怖し、ある者は羨望し、そして極一部は新たな扉が解放されたことを感じたようだった。

 

「え、えっと・・・・・・。そ、それじゃあ、次はボーデヴィヒさんに自己紹介してもらいましょう!?」

 

そんな一瞬の攻防についていけず、それでも必死に冷えきった空気を何とかしようと話題を先に進めようと、もう一人の転校生に視線を向ける真耶だったが、当人は彫像のように動かないでいる。

 

「あのー、ボーデヴィヒさん! 皆に自己紹介をお願いします!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ボーデヴィヒさーん?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はい、教官」

 

と、千冬の声がかかって初めて口を開いた転校生、ラウラのあんまりと言えばあんまり過ぎる態度の変わりように、「どうせ私なんて・・・・・・」と静かに真耶が崩れ落ちた。そんな真耶に一組の誰もが(一夏は笑いを堪えていた)心の内で涙を流したのだった。

 

「ラウラ・ボーデヴィヒだ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上ですか?」

 

「以上だ」

 

憮然とあっけらかんに言ってのけるラウラに、真耶の涙腺が決壊寸前まで追い詰められる。いったい彼女が何をしたというのだろうか。

 

「! 貴様が・・・・・・!」

 

教室中に冷え冷えとした空気が席巻していく中で、唯一人、声を死にもの狂いで抑えながら腹を抱えて爆笑している一夏(外道)を見つけると、ツカツカと、軍人のような足取りで歩を進めていく。

 

「貴様がぁ・・・・・・!!」

 

そして、何の躊躇いもなく、その顔に平手打ちを放った―――が。

 

「・・・・・・いきなり何?」

 

転校生の突然の蛮行に、誰もが呆気に取られている中で、白人特有の染み一つない白い細腕を左手で捕らえた一夏が、半笑いに目尻の涙を拭いながら言った。

 

「くそっ、離せ!」

 

「おいおいおいおい、離したら殴るくせに。そもそも? 確かに私様は素行も態度も悪い問題児であることに自覚はありますし、殴られてもしゃーないようなことも結構有るしヤッてやがりますよ? ですがね、身に覚えどころか見ず知らずな"初めましてさん"に殴られるなんつーのは流石にないでしょ」

 

ギリギリと腕に加圧をかけながら、睨むを越えて憎悪さえ滲ませるラウラの視線に実に愉しげに一夏は笑う。

 

一触即発な均衡の中であったが、一組全員からしてみればある意味いつも通りの光景でもあった。ラウラ自身の暴行に驚きはしたものの、相手が一夏となればこうなるのは目に見えていたことだった。

 

「つーか、俺ここに来て何回ボコられたんだろ。なぁ、俺の周りが危なすぎるんだけど、これが世に言うパワハラ?」

 

「知るか!!」

 

「んな冷てーこと言わねーでよー。同じクラスメイトになるんやから、拳を使った世紀末な肉体言語に頼らない文化的な会話を―――」

 

「くっ、誰が貴様らのような連中に がっ!?」

 

唐突と言えば唐突だった。一夏という人間を知る者なら彼の行動に、前振りなんてものがないのを理解していることだろう。

 

色の抜けた顔で、光り輝くことを知らぬ純白の鋼に包まれた右手が、突如としてラウラの口を塞ぐように掴み上げた。

 

「なぁ、ラウラ・ボーデヴィヒって言ったっけ? ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

鼻先がぶつかり合う程の距離で、一夏の瞳にラウラの姿が納まる。さっきまでの勢いも疾うに失せ、彼女に沸き上がる不快感と背筋を毒虫が這い上がるような悪寒が喉の奥に滑り込んでいく。

 

そして一夏は嗤う。

 

ゲラゲラニヤニヤと。

 

楽しげに、酷く歪に、ガパリと牙を開き、二人にだけ聞こえる小声で囁いた。

 

「その眼帯の下って、どうなってんの?」

 

いつかのように、一夏は三日月のように嗤いながら言った。

 

◇ ◇ ◇

 

「ねぇねぇ、おりむー。私とおりむーは友達だよー? うん、ずっと友達! 友達なんだよ? だからねー、友達が悪いことをしたら怒ってあげるのも友達にとって大切なことだと思うんだー。おりむーもそう思うよねー? 思ってるよね? 思ってるでしょ? 思うでしょ? 思え。それでねー、何であんなことしたのかなー? ねぇ? 女の子はね、男の子と違って頑丈じゃないんだよ? 知らないなら教えてあげるから覚えていてね? 覚えてね。きっと知らなかったんでしょ? だから、お嬢様のときみたいにお腹を平気で殴っちゃうようなことしたんでしょ。したんでしょ? しちゃったんだよねー? さっきだってあの子が先に手を出して来たのは見てたよ? だけど、女の子の顔を物みたいに掴むのはどうなの? ねぇ、聞いてる? おりむーはいい子だから、ちゃんと私の話も聞いているよね? なら、ちゃんと答えてよ。ゴメンなさい? うん、いいよ。ちゃんと話を聞いてくれてたみたいで、私は嬉しいよー。でもね、私が聞きたいのはそんなことじゃあないんだ。何で、あんなことしたのかなーってことを聞いてるんだよ? 答えてよ。こっち向いてよ。謝ってないで顔上げて? 私を見て。ちゃんと私の目を見て話してよ。ほら早く。早くして。ねぇ」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

それはあまりにも異様な光景だった。

 

さっきまで自分と一緒に転校生してきた女の子を鷲掴みにし、狂犬じみた笑みを浮かべていた男が、その子と同じくらいの背の子に正座させられ説教を受けているのだから。

 

この数分間に色々有りすぎた所為か、脳の処理機能が鈍り始めている転校生、シャルル・デュノアは軽く頭痛すら覚え始めていた。

 

「あれなら、別に放っておいても大丈夫ですわよ?」

 

背後からそんな声が聞こえ、振り向いてみるとそこには呆れを見せながらも、優しげな微笑みを浮かべる少女がいた。

 

「えっと、オルコットさん、でしたっけ?」

 

「えぇ。以後、お見知りおきをシャルルさん」

 

シャルルの質問に答えると、セシリアはスカートの端を摘まみ上げながら恭しく頭を下げた。

 

「彼はあんな感じに粗暴で乱暴で最低な人間ですが、彼女がいる限りは大丈夫ですわ。それに彼自身も分別はある程度持っていますから」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい。基本、友好的な方には無害ですので。同じ男性ということもあって何かとご一緒なさることも多くあると思いますし、彼に振り回されないようにご注意ください? それでは」

 

それだけ言うと、セシリアは次の実習のために教室を後にした。

 

「あっ、しゃるるん! トゥットゥルー!」

 

「えっ、僕?」

 

「うん! 私は布仏 本音だよー。よろしくねー!」

 

「あっ、えっと、よろしくね」

 

ニコニコと、さっきまで一夏との一件を見ていたら想像すら出来ない程の、人懐っこい可愛らしい笑顔で本音に少々気圧(けお)されながらも、シャルルも苦笑を浮かべながら本音に挨拶を返した。

 

おそらく、これがこのクラスのカラーなのだろうと若干の諦めも合わせて、そう考えるようにしたのだった。

 

「HEY、色男!!」

 

「うぇい!? な、なに!?」

 

「何とは無粋なヤツだなブラザー! この場この時から俺とお前は一蓮托生の運命共同体だろ? 分からないことがあったら俺に聞け。ということで更衣室の場所分かんねぇだろ? 俺が案内してやるからさっさと行こうぜ。ほら、早く! Hurry Hurry Hurry!」

 

いつの間に移動したのか、ガッシリとシャルルの肩に腕を回して捲し立てるように早口で彼を連れ出そうと急がせる一夏。

 

その追い詰められるような表情からは、必死さと現状打開への執念が見えた。

 

「・・・・・・おりむー」

 

「おぉ、のほほんさん! さっきはすまなかった。だが、お陰で目が覚めた気分だよ! 実に晴れやかだ! ということで、俺はこのシャゴホッドを案内してやらねばならないのだ!」

 

「・・・・・・うん、それじゃあしょうがないねー!」

 

「だろ!? だから―――」

 

「続きはあとで、ね?」

 

「・・・・・・・・・・・・うす」

 

全ての希望に見放されかのように一気に脱力していく一夏を尻目に、本音はシャルルに袖を振ると教室から出ていった。

 

「はぁ、とりあえずさっさと行こうぜ、シャントット・・・・・・」

 

「えっ、あっ、うん」

 

「あと、廊下は学園非公認の同人サークル連中が出待ちしてるだろうから、強行突破するぞ・・・・・・」

 

「どういうこと?」

 

「お前が転校してきたのを嗅ぎ付けたんだろ。男同士の絡みに全命を賭けてる連中だからよぉ・・・・・・。マジで憂鬱」

 

「が、頑張ろ!」

 

「何をだよ・・・・・・」

 

すっかり意気消沈した一夏に連れられ、不安しか残らないシャルルのIS学園一日目が始まったのだった。




さて、どうなるやら。

基本的にヒロインが酷い目に会うスタンスは変わりませんが。

んでは、また。

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