IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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学業で色々していたら遅れました。

ということで、またヒロインエンカウント回なのですが、今回は説明にもある黒サマー君が全面に出ています。

閲覧の際はご注意ください。


第三幕 Hira

一夏が布仏と戯れている内に時間は過ぎていき、入学初日の全カリキュラムが終了、現在は放課後である。その間に起きたことと言えば、一夏がクラス全員から質問責めにあったことくらいなものだ。

 

HRの際に爆睡、織斑教師の参考書すり替え事件に、セシリアとの軋轢の発生など、彼の半日という間に起こしたことは善くも悪くもそれを見ていた全員に強烈な印象を残した。それ故に、当初こそ警戒心から距離を詰められずにいた彼女たちだったが、一夏が布仏を肩車して遊び始めた辺りからどうでもよくなり、一人、また一人と、最終的には一組ほぼ全員が一夏の元にいた。

 

女性というのは偏見を抜きにしても噂話を好む傾向にある。特に色恋などにおいては尾ひれが付くほどに。一夏にされた質問でもその手のものが多く、「彼女はいるの?」に始まり、好みのタイプ、苦手な性格、趣味に好物、果てはネコかタチか同性に興味があるかと、幅広く問いただされた。それらにヘラヘラと笑いながら受け答えしていた彼だったが、最後にいたっては真顔で否定していた。当たり前と言えば当たり前だが。

 

さて、そんな一夏は自分がこれからの生活拠点となる、学生寮へと向かっていた。事前に千冬から『1025』と書かれた鍵を渡されていたのだ。授業も終わり、部活動の見学に向かっていく少女たちとは逆の道を一人行く。ここで一つ言わせてもらうが、この織斑 一夏という人間は非常に子供じみた性格をしている。子供ということは、わざわざ真っ直ぐに寮に向かうわけもなく・・・・・・

 

「そうだ、探検に行こう」

 

そんな一言と共に、寮への道を90度曲げて駆け出した。

 

幼い頃に初めて行き着いた場所、建築物などに行くと妙な高揚感を感じたことはないだろうか。そこがどうなっているのか見て見たくなる、そんな未知への探求のような好奇心を。ただの風景が、知らない場所というだけで輝いて見える経験があるはずだ。今まさに一夏はそんな心理状態であった。まんま子供である。

 

「おぉっ!? この自販機、栄養ドリンク系全コンプしてやがる!!」

 

このようなことでも興奮してしまっている辺り、彼自身のテンションは最高潮に達しているのだろう。この後に無駄に買いすぎて後悔する辺りまでがオチである。修学旅行ハイでご当地グッズを買い漁る中学生によく似てる。

 

そんなこんなで、ようやく彼のテンションも沈静化され、幽鬼のような足取りで二桁にもなる茶色のビンをどうするか考えながらいると、ある教室の前で足を止めた。

 

「誰かいるのか?」

 

日も傾き、夕闇に染まり始めた校舎の中で、【整備室】と書かれたその教室の中から気づかなければ空耳で済ましてしまうような小さな声が聞こえてきた。

 

一夏は少しの好奇心に逆らうことなく教室の扉をくぐると、教室の奥手にあるその存在、人の形を模した鎧のような"ソレ"を視界に捉えた。

 

「・・・・IS、か」

 

正式名称 インフィニット・ストラトス。

 

十年前、一人の天才科学者が人類の宇宙進出を念頭に置いて作り出したマルチフォームスーツ。発表当時は誰もがその世紀の発明を否定していた。現存するどの航空機よりも速く飛び、外部からの如何なる衝撃からも搭乗者を守るエネルギーフィールド、物質を量子化し格納するシステム、稼働を続けることによって最適化され自己進化を行う『形態移行』。そして、"女性にしか扱えない"という欠陥。あまりにも荒唐無稽、作製者以外理解し得ないブラックボックスの塊と言える代物に誰もが批難と雑言を投げた。

 

それも後に起きた『白騎士事件』によって覆される。

 

この事件を機に、ISは一気に世界に浸透していった。宇宙開拓にでなく、核をも越える最強の兵器として。それに連なり、ISを扱える女性は増長し『女尊男卑』の風潮が社会に根付いていった。

 

そして、世界でも一ヶ所。ISの教導を行われている場所、それこそがここ【IS学園】である。

 

「これって"打鉄"だよな。にしては形が―――」

 

「その子に、触らないで・・・・・・!!」

 

"打鉄"と呼ばれた量産型ISに一夏が近づいていくと、悲鳴のような怒号が響いた。唐突な大音量の声に当てられながら、驚いた風もなく一夏が振り向くと一人の青い少女と目があった。

 

青いセミロングに内に向くように跳ねた髪。芳醇なワインを彷彿させるような紅い瞳、少し幼さの残るその顔には涙の痕が残っている。

 

「・・・・・・織斑、一夏」

 

「あぁ、俺のこと知ってんだ? ていうか、アンタってたしか日本の代表候補―――」

 

一夏の言葉が途中で止まる。抱えていた瓶が床に落ちる音が鳴り、空いた右手で痛みの走る頬を押さえる。殴られた。その答えは簡単に出てきた。

 

「あなたが、悪い訳じゃないのは、解ってる・・・・・・。けど、けど!!」

 

堅く固めた右拳を振り抜いた形で、肩で息をしながら静かに痕をなぞるように涙を流す少女は、その紅い目で一夏を睨みつける。

 

「やっと、ここまで来た。ここまでやって来た! なのに、いきなり出てきたあなたに、何の努力もしていない! 苦しんでもいない! ただ乗れるってだけの、あなたなんかに奪われた!! やっと、認めらたと思ったのに、あの人に近づけたと思っていたのに・・・・・・!!!」

 

鬼気迫る勢いで、一息で彼女は言い切った。言葉が途絶え、荒く吐き出される息と共に鳴る喉の音が、軽い過呼吸を起こしているのが判る。それでも視線を合わせたままに眼前の男を睨む。涙は溢れて止まらない。

 

「・・・・・・気は済んだ?」

 

そんな青髪の少女とは逆に、一夏はひどく冷めた調子で口を開く。詰まらなそうで、退屈しのぎついでのように語り出す。

 

「さっきから俺に敵意マックスだけどさ、さっきお前が言ったとおり俺は悪くねぇよ。悪いのは明らか仕事を途中で投げて俺なんかのIS作り始めた倉持の連中だし、強いて言うならアンタの運が悪かっただけだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「しかも、認める認めないとか言ってだけどさ、結局それはアンタの事情じゃねぇか、八つ当たりするにもお門違いもいいとこだ」

 

どうせなら、と区切りをつけて、ゲラゲラと笑いながら一夏は言う。

 

「お前の『姉』にぶちかましてやればよかったのによ」

 

「――――っ!」

 

一瞬にして、少女の体が硬直する。目を見開き、呼吸すら止まる。それを見た一夏は頬を引き上げながら、床に散らばったビンを全て拾い上げ、用は済んだとばかりに出口ヘと歩いていく。

 

「あっ、そうだ。なんなら、アンタがこれ完成させれば良いんじゃねぇか? ガワは出来てるみたいだし、あとは中身を何とかすれば形になんだろ。ほら、お前の姉みたいにさ?」

 

「・・・・・・あなたはどうなの?」

 

「あん?」

 

「あなたの姉だって、『最強』でしょ・・・・・・?」

 

力なく立ち尽くす少女を通り過ぎようとしたところで、互いが背中合わせになり互いの顔が見えなくなったところで、さっきまでの気迫が嘘のような声音で、少女は一夏に言った。

 

もしかしたら、彼女なりの反撃だったのかもしれない。散々に言われたあとでの、ささやかな意趣返しだったのだろう。

 

「くはっ、かははははははははははははははははははははははは!!」

 

それを聞いた一夏はまた嗤う。

 

「なんだよ、殴った相手に今度は同情してもらおうってのか? 俺と傷の舐め合いなんていうプレイがお好みで? 朝までフルコースってか!?」

 

背中を合わせたまま、彼はまた笑う。その声を聞きながら、少女は奥歯を噛み締め、強く拳を握り彼が発する屈辱に耐える。ここでまた感情のまま殴れば、自分が本当に惨めな存在になってしまう。それだけは駄目だ。絶対にやってはいけないことだ。

 

「なぁ、更識 簪ちゃん。ハッキリ言うが、俺とアレは名字が同じで似たような血が流れてる、ってだけの他人だよ。判るか? あの人は俺の姉ではあるさ、だが、結局はただそれだけの他人だ。姉妹兄弟なんて言っても、結局はそんなもんなんだよ。俺も姉貴も、本心じゃ互いを兄弟なんて思っちゃいねぇんだろうからよ」

 

一夏はそれだけ言うと、青髪の少女、更識 簪が振り替える前に整備室から出ていった。




簪ファンの皆様、大変申し訳ありませんでした。

今後も続いていくであろうこの作品は、基本的に初対面のヒロインは主人公にこんなことを言われます。

文面での謝罪になりますが、どうかご容赦ください

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