IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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皆様お久しぶりです。

かなり遅れてしまいましたが、8つくらいの没案の屍を越えて書き上げました。プラスして『君と彼女と彼女の恋』なんつーのにson値を核爆破された結果の話です。

ということで、会長と菷ちゃんの悪巧み回です


第二十九幕 建前と理想と

▽ ▽ ▽

 

 

 

―――後悔しない、悔いのないように生きろ

 

 

 

誰もが一度は聞いたことのある激励ではないだろうか

 

この言葉に対する感想は、十人十色といったところだと思が、きっと誰もが有意義な解答を示してくれるのではないかな?

 

けど彼は、『織斑 一夏』ならこう言うかもしれない

 

 

 

―――それは自分に向けて言ってんのか?

 

 

 

・・・・・・うん、まず間違いなくそう言うわね

 

でも、あくまでも私自身の意見ではあるけれど、こうやって上から目線に斜め客席視点で野次を飛ばしてくる人っていうのは、これまでに一杯後悔してきた愚者(おろかもの)か、後悔したことにも気付けない大虚けのどっちか

 

右を選んでも左を進んでも、勝負に勝とうが負けようが、最善を尽くそうと諦めようとも、人を救おうとして殺そうとも、今ここで生き着こうと自殺しようが変わらない

 

人は必ず後悔する

 

愚者は経験に学び賢者は歴史で学ぶらしいが、なら賢者は自分が戦うとなった時に武器を取らず死を選ぶのだろうか? 傷付き痛みを受けるのを知っているから、逃げるのだろうか? どちらにしろ本末転倒。本当の賢者なら、この世界に生まれることさえ望みはしないだろう

 

なら、後悔とはなんだと思う?

 

いつまでもどこまでも、執着して横着して追随して、どう足掻こうと抵抗しようと逃走しようとも、影のように離れない彼らのことを、人は何と形容するのか

 

後悔したくなくても、人は必ず後悔する

 

ならば「後悔」とは、"人が生きてきた証"そのものではないのだろうか?

 

少なくとも私は、そう思っている

 

そう思っていれば、少しは救われる気がするから

 

◇ ◇ ◇

 

荒れる呼吸が熱気に満ちた空気を押しやり、新たな流れと共に空間がかき混ざる。

 

「・・・・・・っ!!」

 

迷いの類いを、吹き飛ばす。

 

己の黒い後ろ髪を靡かせ疾走する。

 

手繰るように握り込む黒檀の木太刀(きたち)との境は既に消失し、1mの木片は腕の延長となり、文字通りの腕が剣の形に伸びたかのような感覚を支配する。

 

床を蹴り抜く筋繊維の伸収縮に合わさり猛り狂う心臓の脈拍は、五体全てへと激流のごとき血潮を流しこみ、通り道となる血管を破裂させんばかりに膨張させるが、それさえも爆発力に変換させて五体を前へと突貫させる。

 

見据える先。青い頭髪を揺らす女。

 

正眼に構えられた同長の木刀は寸分の揺れもないままに、燃える朱の瞳と共に年若き戦人(いくさびと)の闘気を受け止める。

 

「っあああ!!」

 

思考は黒々しい暗闇に傾き始め、それでも輝く確かな直感に食らいつきながらに、瞬速の一太刀が闘志を糧に振り抜かれる。

 

一合。

 

「!?」

 

「まだまだ・・・・・・!」

 

硬質同士のぶつかり合う高音が空間を震わせ、全力と全速を併せた一撃が正面から防がれたことが告げられる。

 

木刀伝いに流れてくる衝撃に神経が鈍る中での唾是りもままならぬ間に、打ち合わされた刀身を滑らされ後ろに流される感覚に少しの焦りを乗せながら二打目を放つ。

 

二合。

 

響く高音。

 

不発の号唱。

 

三合、四合、五、六、七合。

 

止まらぬ留まらぬ、黒刀の鳴らす甲高い旋律が耳を貫く針のような鋭さを持って轟き、世界を塗り替えていく戦慄がこの場この時この二人、殺陣の間合いにて迎合する剣劇を彩る諧調となって勇まく荒れ狂う。

 

八合。

 

九合。

 

十合――――――

 

「!?」

 

一刀の間合いにて波瀾する怒濤の剣閃の中で、上段からの一撃が振り下ろされる。これも当然の如く受けられるが、還る反動をそのままに体が一歩引かれ、一瞬の間もなく、下段からの一閃が相手の首目掛けて打ち上がった。

 

―――柳生新陰流が奥義【村雲】

 

活人剣を至上に掲げ、敵の不殺に"剣禅一致"を謳った流派。なれば、そこから生まれるは相手の意をの裏を突き破断する、二ノ太刀必中の一撃であった。

 

だが―――

 

「残念っ!」

 

―――剣は空を斬った。

 

あろうことか放たれた一撃は、半身を反らされたのみで回避された。出を気取られたか彼女自身の身体能力の賜物か。なんにしろ、こちらに向ける不敵な笑みは確固たる余裕と実力者ゆえの自信に満ちている。

 

あぁ、"だからこそ"であった。

 

これこそが、本領の内から出でる技の打ち所だ。

 

―――篠ノ之流兵法【影日】

 

「ッッッ!?」

 

強者の笑みが一転、その表情を驚嘆の色に染め上げる。

 

全身を捻り、死角から跳ね上がる黒地の袴より伸びる白磁の脚が高速の踵蹴りとなって、硬直した彼女へと唸りをあげながら迫る。

 

好機は十分。

 

威力は最大。

 

それでもこの一撃は、届かない。

 

「ちぃっ!?」

 

渾身の蹴りが穿ったのは、身代わりに据えられた木刀。舌打ちにありったけの悪態を込めながら、有る限りの力でその木刀を蹴り飛ばす。

 

ここに至って、彼女は勝つことに固執してしまった。

 

得物を奪い、千載一遇に生まれた好機が無意識に焦りと油断を先行させる。振り上げた足を板張りの床に戻し、勢いのままに矢継ぎ早な剣を上段より振り下ろしていく。

 

「はい、一ッ!」

 

伸ばされた腕に、細い指が絡み付く。剣先にあるはずの人間は居らず、右目に回り込まれ覇気を纏った掛け声と共に自身の身体(からだ)を意志とは関係なく前に誘導される。

 

「二の、三!!」

 

足が床から離れ、全身が緩慢な浮遊感に包まれ自分が投げられていることに頭が理解するも遅く、受け身も取れぬままに、ズガン!と、おおよそ人間から出るべきでない音で背中から叩きつけられた。

 

「~~~~~!!?」

 

肺から余すことなく酸素を排出させられ、急な絶息状態に喘ぐように身を捩ると、その腹の上に容赦なく馬乗りしてくる影があった。

 

「どう? お腹に乗られたら勝ち目ないでしょ?」

 

「・・・・・・・・・・・・今のは」

 

軍隊格闘技(マーシャルアーツ)。ロシア軍仕込みのね」

 

「・・・・・・流石です、"更識"会長。やはり、私では手も足もでない」

 

「そんなことはないわよ、"菷ちゃん"。純粋な剣技じゃあ、私はあなたに勝てないもの」

 

徐々に落ち着き始める呼吸に深呼吸を繰り返しながら、床に身を横たわる菷に跨がりながら、楯無は流れる汗を拭いながら力なく微笑んだ。

 

▼ ▼ ▼

 

「どう? 少しは気分転換になった?」

 

そう言って更識会長は、座り込む私にタオルを渡しながら朗らかに笑った。

 

私は未だに動くのも億劫だというのに、どうにも規格外な人だ。

 

「暗い部屋にいるよりは、ずっといいでしょ?」

 

「・・・・・・えぇ、まぁ」

 

彼女なりの気遣いではあるのだろうが、だとしても唐突にドアを粉砕して当人を簀巻き状態で連れ出す(拉致?)のは如何なものだろうか。

 

・・・・・・言ったところで、この人は「生徒会長権限!」の一言で済ませてしまうのだろうが。

 

そもそも更識会長との出逢いは、三週間前くらいか、布仏の部屋に寝泊まりしていた頃、彼女きっての紹介から色々と世話を焼いてもらっている。

 

知識、武術においても更識会長は私なんかとは一回りも二回りも違った。学ぶことは多く、それだけ自分の未熟さを痛感させられたのは、自然の理であった。

 

自惚れていたわけではない。

 

ただ、彼女の強さが、今の私には酷く眩しかった。

 

「ねぇ、菷ちゃん。一つ質問してもいい?」

 

・・・・・・声が聞こえる。

 

更識会長とはまた違う、脳を掻き回すような不快な音が内側から私を食らっていくような、首筋が焼けるような焦燥感と(はらわた)が裏返るような衝動が、眼球の奥で暴れだす。

 

「・・・・・・答えられることであるなら」

 

奥歯を噛み潰す。

 

理解しろ。

 

間違うな。

 

判りきっていることをわざわざ思考する必要なんて皆無だ。

 

だが、所詮は疑心暗鬼の被害妄想だと解っていても、その優しい声音の奥に潜む絶対強者の目が、私の理性を磨り潰していく。

 

伸ばされた手さえ、見ているだけで苛立ってしまう。

 

「後悔してる?」

 

提示された議題は単純なものだった。

 

後悔?

 

後悔ができたら、私だってこんな様にはならない。後悔ができたなら、自分を慰めることができるじゃないか。

 

私にそんなことは赦されない。

 

「あなたは、どうなんですか?」

 

人は自分の生き方を決められる。それ故に、自身の生き様に誇りを持てる。だというのに、私はなんだ? 他者に理由を求め、自身の理想に誰かを据えることでしか意味を見出だせなかった。

 

 

 

―――借り物の理想に依存して、お前はどこにあるんだよ!?―――

 

 

 

・・・・・・ならば私には、一夏(りそう)に否定された篠ノ之 菷(できそこない)の存在に、あとどれ程の"私"が残るというのだろうか。

 

だから、訊き返した。

 

「あなたには、後悔するようなことがありますか?」

 

私の"姉"は後悔と無縁の人種だった。自身の成すことに絶対の自身と確信を持って、唯我独尊に世界を切り開いた。

 

そんな姉と同種であろう彼女に、彼女自身の価値を私は問うた。

 

彼女の解答は―――

 

「・・・・・・私はね、後悔しかない自分に、悔いを遺さないように生きようと思ってる」

 

―――小さく悲哀な声だった。

 

それから更識会長は、有名な話だけどね、と言って静かに話し出した。

 

「『三つ与えます。一つは右手のテレビを壊すこと。二つ、左手の人を殺すこと。三つ、あなたが死ぬこと。一つ目を選べば、出口に近付き、あなたと左手の人は開放され、その代わりテレビの彼らは死にます。二つ目を選べば、出口に近付き、その代わり左手の人の道は終わりです。三つ目を選べば、左手の人は開放され、おめでとう、あなたの道は終わりです』」

 

突然な語り口に、それがどうかしたのか、と私が言い返すと彼女はやはり、辛そうに、それでも確かな決意を持って語る。

 

「私はね、ずっと『左』を選び続けてきた」

 

「・・・・・・・・・・・・!」

 

「だから、私は後悔しかしたことない。でも悔いることはしない。泣いてたら、置いてきた人に申し訳ないしね」

 

痛々しい笑みを浮かべながら、彼女はそう言い切った。

 

どこか困ったように、杜撰な自分の粗を誤魔化すような仕種であったが、それが強がりであったのは私でも容易に解った。

 

その話にどう返すべきか、私が答えられずにいると、どこから取りだしたのか更識会長はコピー用紙の束を渡してきた。それは所謂、履歴書のようなもので、添付された写真には長い銀髪に険のある瞳で左目を眼帯を隠した少女が写っており、書かれた文字群には、この少女がドイツ軍所属のIS部隊で少佐の地位にある軍人であることが記載されていた。

 

備考欄には、彼女が明日このIS学園に転校してくることも書かれていたが、何故これを私に見せたのか、その意図を量れずにいると更識会長が言った。

 

「一夏くんは、ドイツに居たの」

 

『一夏』、その単語一つで私の思考が凍結する。

 

「名目は語学留学らしいけど、その二年後に彼は軍属の病院に入院していたわ。病状は重度の心的外傷による心神の喪失。退院できたのは去年。これが公式の彼の経歴だけど、おかしな点が幾つかあったわ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「まず、彼には向こうでの通学歴があっても、彼自身を知る者が誰もいなかった。次に彼が入院していた病院は彼の退院と共に取り壊され、理由も明確じゃない。そして何より、彼の姉である織斑先生が日本に残っていたこと。そして、今の織斑 一夏という人間。この七年の間に何かがあったのは確か。加えて、それを隠滅しようとする何かがある。最後に、ドイツは世界で唯一ISを兵器として運用している国であること」

 

次々に明かされていく私の知らない一夏の過去。

 

話半分に聞いても漫画じみた突飛な内容はあまりにも眉唾物だったが、それは妙にストンと私の中に落ちていった。

 

「・・・・・・先に言っておくけど、私はあなたを利用しようとしてる。彼女、ラウラ・ボーデヴィヒという不確定要素に対する、斥候にしようとしてるの。だから、選んで。ここでの話を忘れるか、それとも―――」

 

答えは、すぐに決まった。

 

こんな私がもう一度、今度こそ自分の為に立ち上がれるのなら、やってみせよう。

 

次こそは、理想(あいつ)に勝つ為に。




Q、いつの間に師弟関係

A,十七幕くらいからです。二十六幕の無拍子も、会長が仕込みました。

Q,菷さん強くね

A,私たち兄弟での菷さんは化物です。剣道をやったことのある方なら、彼女の戦績がいかに化物染みているか分かってくれると思います

Q,篠ノ之流兵法 影日って?

A,吉野御流合戦礼法 逆髪みです。柳生新陰も六波羅式だったり。

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