今回の話は本編からしばらく経過した時系列であり、三段編成を予定しています。
そして、これはまともに女の子と出歩いたこともないような野郎の妄想搾り百%でできています。
加えて、セカン党の方に不快な思いをさせてしまうかもしれませんので、そこを御容赦のうえで見てください。
六月に入り始めた今日この日、俺はコンクリートを蹴りながら体を前に跳ばしていた。
「うわっ、時間やべぇな・・・」
携帯の時計を見ながら、俺は足を早める。目的地は遠い場所ではないんだが、男の待ち合わせは三十分は前に到着して相手を待っているもんだ。特に相手が女の子なら、なおさらだ。
俺こと、五反田 弾は現在、一年ぶりになる友人と待ち合わせしている公園へと向かっていた。
中学の時に会ってから、あいつが国の方に帰るまでの約二年間は、ずっと一緒にいた気がする。そんなこともあって別れるときはツラかったし、あいつが帰ってきたと聞いたときは心が踊ったものだ。
そりゃもう、無意識であったが、妹の蘭がスゲーニヤニヤしていたのが印象に残っている。・・・・・・顔に出てたらしい、気を付けよう。
「よし、ここだ」
決意も新に軽く乱れた息を整え、車止めを横目に砂地の地面に足を踏み入れた。
~AM 10:30 【二人の公園】
青々とした葉に包まれた木々が、さざ波のような音を鳴らしながら風に枝を揺らしている。
思えば、あいつとの出逢いもここだった。
始まりはここで、再会もここで、俺たちには少しロマンチックがすぎるが、たまにはこういうのも悪くないんじゃないかな? ・・・・・・中二病、抜けねぇなぁ。
「あん時はたしか、一番奥のベンチに・・・・・・・・・?」
昔を思い出しながら視線をあのベンチに向けると、女の子が一人座っていた。
腰まである黒髪に白いワンピース、何故かその上には薄い青のデニムジャケットを羽織った女の子。一瞬そのアンバランスな組み合わせに首をひねりそうになるが、何とも言えない親和性があった。
それを何よりも引き立てている、あの女の子。軽く俯いた顔は若干の不安さが見えるが、笑えば相当の美人であるのが容易に想像できる。
そんなことを"つらつら"と考えていると、不意に彼女と目があった。
「「あ」」
そんな声を先にあげたのはどっちだったか。
ガッチリと目があったまま、二人とも止まってしまう。海外だとこういう状況を天使が通った後だとか言うらしいが、その天使様もさぞ苦笑いを浮かべていることだろう。
「ちょっと、弾!!」
数秒か数分か、停滞した空気を押し退けてワンピースの彼女が俺の名前を呼びながらズカズカと力強い足取りで俺に向けて歩いてくる。何故だか怒ったように、嬉しそうに。
そんな表情には見覚えがあった。
「女の子を三十分も待たせるとか、どうなのそれ!?」
「えっ、あれ・・・・・・?」
「ほんとに変わってないわね、あんたって。もうちょっと何とかならないわけ? せっかく、一年ぶり会えたのに・・・・・・」
そう言って、徐々に落ち込んでいく彼女の言葉を聞きながら、目の前の女の子の言ったことを反芻するように考えた。
「ちょっと、失礼」
もしも人違いだったら訴訟待ったなしだが、俺は自分の仮定に確たる答えを導くための行動にうって出た。
やったことは単純。
両手で彼女の頭にツインテールを作ったのだ。
「あっ、やっぱり鈴だ」
わざわざやっておいてなんだが、結果はアッサリしたものだ。ツインテールになって、ようやく見慣れた姿が見れた。
さて、ここまで来てなんだが、このキョトンとした顔を赤に染め始めているコイツをどうするか―――
「ふっ、ざけるなぁーーーーー!!!」
「あっぶねぇーーーーーー!!?」
寸でのところで髪から手を離し頭を下げてみれば、惚れ惚れするくらいの華麗なハイキックが俺の首を狩りにきた。
一度もろに食らったことがあるが、二度目は今生の内は御免被りたいものだ。
「何すんだよ!?」
「やっかましいわ! なに、あんたの中じゃあたしは髪型でしか判別できてなかったっていうの!?」
「違ぇよ!! いっつもツインテールだった友人が久し振りに会ってみたらストレートにクラスチェンジしてんだから一瞬判らなかったんだよ!」
「だとしても女の子の髪掴んで、『あっ、やっぱり鈴だ』はないでしょうが!? もっと別な確かめ方はないわけ!?」
般若の形相で今にも「フシャー!」とか威嚇してきそうな雰囲気で俺を牽制してくる我が旧友。
猫かお前は。
「・・・・・・まぁ、それは申し訳ないけどよ。なんつーか、髪型も服もなんか変わっててよ、誰か判んなかったていうか・・・・・・」
我ながらもっとハッキリ喋れないものかと思うが、どうにもむず痒い。中学生か俺は。
ここで言っておくが、中学時代、つまりは俺の知る彼女の普段の姿というのはツインテールにスポーティーな格好が主だった。ボーイッシュとでも言えば良いのか、とにかく動き易そうな丈の短い服装がほとんどだった。
そんな俺の頭の中のアイツと、目の前の彼女とはあまりにも違いが大きすぎる。
「・・・・・・変、だった?」
こういうところもだ。
ワンピースの裾を摘まんで、自信なさげに上目遣いで俺を見上げてくる。
調子が狂う。初めて会ったときみたいだ。
「変じゃねぇよ。むしろ似合いすぎ。・・・・・・ああ、可愛いよ、ぶっちゃけ」
「ふぇ?」
そう言ってやると、コイツは俺を呆けたように見ながら頬を赤く染めていく。たぶん、俺もそんな感じになっていることだろう。
「・・・・・・そ、そっか」
「そうだよ」
「・・・・・・そっかぁ、えへへ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・♪」
「あああぁぁぁぁぁぁ、なんだよこの空気ぃぃいいい!!?」
「っ!?」
堪えられなくなった俺は遂に叫んだ。
甘い。ひたすらに甘い。ここからさらに何かしらアタックしかけりゃ、別のドラマが始まりそうな予感を感じさせる、だいぶアレな空気だったよ。
判っているなら何故しなかったって?
彼女いない歴=年齢の俺には荷が重すぎで全身複雑骨折です。
「ていうか、何でお前は待ち合わせ時間の一時間も前に来てんだよ!?」
あろうことか女に八つ当たり気味に叫ぶ俺が最低なのは重々自覚できている。
確認はしていないが、俺の顔は未だに赤いままで不様極まりない暴言を吐いているんだろうが、俺もテンパってるいるんだ。
「い、いいじゃない、別にそんなこと!」
「だったら何でさっき俺に向かってキレたんだよ!? お得意の照れ隠しとかだったら食飽なんだよ!」
「て、照れてるわけないでしょ!! 弾のくせに生意気言うな!」
「っだと、このまな板娘!?」
「なにぃ!?」
「なんだよ!?」
「ぐぬぬぬぬぬ!」「にぎぎぎぎぎ!」
端から見ればどう見えるのだろう。ただの学生同士の喧嘩だろうか?
何であれ、ようやく俺たちらしくなってきた。
「・・・・・・・・・・・・ぷっ」
「・・・・・・・・・・・・ははっ」
言い合いもそこそこに、俺たちは思わず吹き出した。それから、懐かしむように笑い会う。
一年を長いと思うか短いと思うかは人によって違うだろう。俺にとって、コイツがいないこの一年というのは長かった。
だが、会ってみればこんなもんだ。
距離だの時間だのは、俺たちには関係ないらしい。
「―――お帰り、鈴」
「―――うん。ただいま、弾」
俺と久し振りに会った友人、凰 鈴音の再会はこうして始まった。
~AM 10:45【移動中】
「ここら辺って全然変わってないわね」
「たかが一年で、何が変わるっつーんだよ・・・・・・」
左を歩く鈴の呟きに、呆れを混ぜてツッコミをいれる。
ここら辺は、まだ俺と鈴が一緒の中学に通っている時によく放課後とかに遊びで寄り道していた場所だったりする。
あの頃は何かあってもなくても、鈴と一緒にいた気がする。それにしても、随分あっという間に過ぎてしまった二年間だったな。
「そう言えばよ、お前って今IS学園にいるんだっけか?」
ふと思い出したことを、俺は鈴に問い掛けた。
「うん、そうだよ? まっ、あたしは今じゃ中国の代表候補なんだからね!」
そう言って鈴は無い胸を張って 痛った!?「失礼なこと考えなかった?」 ・・・・・・なんで分かんだよ。
その代表候補というのがどれくらいスゴいのか、俺にはよく判らないが仮にも国の代表の候補であるというのは並大抵のことではないことは判ってるつもりだ。
それを一年という短期間の内でなってみせた鈴だが、一体そうさせた理由はなんなのだろうか。
「そっちはどんな感じ?」
「公立の高校で変わらぬ華の無い日常を謳歌してるよ」
「・・・・・・彼女いないの?」
「居たらお前と歩いてねぇよ」
「・・・・・・そう」
「なんだよ?」
「べっつにー!」
そのニヤニヤ顔はなんだよ。こっちの気も知らないで、男子高校生にとって彼女の有無がどれだけシビアな問題か理解してやがるのかこのチャイナ娘は。
「お前は友達できたのかよ?」
「あったり前じゃなーい! この私をなんだと思っているのよ?」
言ってやろうかとも考えたが、どうせ返ってくるのは中国三千年キックだろうからやめておく。
変に掘り返すべき話題でもないのも確かだし。
とりあえず話を聞いている限り、良好な友好関係を築けているようだ。
色々と気を利かせてくれるルームメイトのことや、クラスの級友。妙に黒い苦労人なイギリスの代表候補生とか、母性溢れる天然気質の小学生?などなど。
「あっ、あと一夏」
「一夏って、あのISを動かせる男っていう、アイツか?」
「そう、アイツ」
ニュースで見たことあったが、あのイケメン、まさか女子校同然のIS学園で男一人に女多数という夢のような生活を送ってやがるのか?
そりゃあ、なんとも羨まけしからんヤツだ。
「学園の中でもトップクラスの問題児なのよ。基本思考回路が誰かに対するイヤガラセとイタズラで埋まってるようなヤツね」
「へぇ~」
「て言っても、ほとんど構ってな悪ガキみたいなヤツなんだけどね。見ていて放っておけなくなるタイプ、っていうのかな?」
「・・・・・・ふーん」
「色々と溜め込んでるみたいなヤツだけど、不思議と離れる気にはなれないのよねぇ。母性本能っていうやつ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「なによ、反応悪いわね・・・。人がせっかく説明してあげてるのに」
「別に頼んでねぇだろう?」
「・・・・・・はっはーん」
奇妙な声をあげながら、鈴は俺の前に回り込んで嗜虐心に富んだ笑みで俺を見上げてくる。
非常に嫌味で楽しげな顔で、鈴はこう言った。
「嫉妬してるんだ?」
その一言に一瞬、いやホントに一瞬だが思考の波が途絶えた気がした。
「はっ、はぁああああ!?」
途絶えた思考というのは、俺の常識的思考感覚だったらしく、天下の往来だというのも忘れて叫んでしまった。
「なんでそうなるんだよ!」
「えぇー、だって露骨に態度悪くなったしぃ~。まず顔が赤いわよ?」
「知るかよ! ていうか、それ言うならお前も顔赤いんだけど!?」
「も、元からそういう顔よ」
「言い訳にしても苦しすぎるぞ鈴さん!?」
叫びだけ叫んでしまって、ある程度スッキリしてしまった俺に新たに到来したのは、身を焼くほどの羞恥心と背筋が凍りつくような後悔でした。
そして余裕のできた思考で見えたのは、こちらに向かって走ってくる自転車の影だった。
「危ねぇ!!」
言うが早いか、俺の腕は目の前の鈴を捕まえると同時に、道路に面した生け垣の方に背中を倒した。
後ろからバキバキと枝が折れるような音が聞こえ、俺の前を他人を考慮しないスピードで自転車が疾走していった。
「ちっ、なんつー傍迷惑な。いや、俺も俺で邪魔だったよなぁ・・・・・・。おい鈴、大丈、ぶ、すか?」
前もって言い訳から始まる自分を恥ずかしく思うが、これは不可抗力だ。
俺は鈴を庇うためにやったんだ。その結果として、華奢で細身ないたいけ極まりない少女である鈴を力の限り抱き締めてしまっているのは人命救助のうえでしょうがなかったことなんだ。
「はう、だ、弾・・・・・・?」
俺の勇気ある行動が残したのは、涙で塗れ熱に浮かされたように見上げてくる鈴と、周りの通行人からの突き刺さるような視線だった。
あぁ、俺は今日死ぬのかもしれない・・・・・・。
(  ̄□ ̄)〈中編に続くよ