やっと原作の一巻が終わりだ長かった様見ろ弓弦ーーーー!!!
ということで、千冬さんのフラグ回
IS学園の地下五十メートル。そこには世間一般っでは公表されていない、さらには学園関係者でも限られた人間のみが知る場所がある。
そこを彼女たちは、【処理室】と呼んでいる。
「山田くん、生徒たちは落ち着いたか?」
「はい、オルコットさんが気を配ってくれたお陰で、私たち教師が出る幕もなく・・・・・・」
「ふっ、それは重畳」
そんな空間の中に、千冬と真耶はいた。大量の電子機器に囲まれ、無機質で人の温もりなんてものを失った隔絶された場所で、千冬は皮肉げに笑う。
「それで、オルコットは今も?」
「いえ、織斑くんを探すと言って、どこかに・・・・・・」
「そうか」
真耶の答えに簡単に答えると、千冬は視線を強化ガラス向こうに横たわる異形に目を向けた。
所属不明機《ゴーレム》
大木を連想する二本の腕。その間に吊り下げられたように存在する、細身の女性を思わせる黒身がかかった肢体。アンバランスかつ、人のリビドーを抽象的に描き出したような異様なIS。単機にして学園のシールドを破壊し得る威力を有するビーム砲を複数持った、兵器。
安全なマルチフォームスーツという定説を根底から否定した、破壊工作を主眼に戦略兵器として造られたISなのは議を論ずるまでもない。
ただ、それも今ではこの様だ。
両腕は半ばから断ち斬られ、上半身と下半身も見事に切断され、頭部は刃で一突きされ風穴が開いている。
それらの異様な非常識を現実のものと受け入れる、追従するように真耶が思考を巡らす先にいるのは、一人の少年。
彼女はその存在を、無視できずにいた。
「・・・・・・織斑先生、一つ訊いていいですか?」
千冬の視線が、僅かにズレるのが気配から判る。
息を腹に飲み込みながら、意を決し真耶は問い掛けた。
「織斑くんは、何者なんですか?」
ほう、と感嘆に似たような息を吐きながら、千冬が顔だけを真耶に向ける。
彼女は何も言いはしなかった。
ただ振り向いただけ。答えもしなければ、やたらに誤魔化すわけでもない。静かに、視線だけが真耶に次を促していた。
「・・・・・・起動二回目で、代表候補生のオルコットさんを相手に善戦、というより弄んでいました。少なくとも、二回目の素人にできることじゃありません」
「火事場の、なんとやらというのは?」
「追い詰められた人間が、"あんな嗤い方"をするとは思えません」
とてもじゃないが、ここ一月程を現実逃避気味に少年と普段通りに接してきた人間の言葉じゃない。だが、踏ん切りがついた。今日の事件で、彼女の中に在る二つの疑問と仮定が、イコールで繋がった。
疑問は確信に変わり、仮定は答えへと変質する。
織斑 一夏は何者か?―――織斑 一夏は既知外の人間である。
織斑 一夏は異常者か?―――織斑 一夏は異常者である。
「それに、あの《白式》だって異常です」
「・・・・・・倉持の連中は異常なし、と通知してきたが?」
「それが、異常なんです! 今回の超連続の《瞬時加速》もですが、オルコットさんの時の状態から異常なしなんて有り得ません!」
非常に珍しいことに真耶は千冬に詰め寄るように言葉を飛ばす。
「あれだけ装甲を破壊されていながら、飛行を続けられるほど《白式》のエネルギーの絶対量は多くありません。例えあったとしても、ISの安全機能が機体そのものを強制停止させているはずです」
「なのに、それがなかった、か。なら、このことをお前はどう考えている?」
激昂したように叫ぶ真耶に対し、千冬の表情は変わらない。普段から変化の乏しい彼女ではあったが、今は感情そのものを無くしたかのような無表情である。
それとも、そう見えるほどに抑えなければならない、そんな感情があるのか。
そして真耶は数瞬の迷いを見せながら、彼女は己の最悪の推論を語った。
「―――《絶対防御》の無効化、だと思います」
ISの最強にして最硬の防衛エネルギーフィールド、《絶対防御》。
戦闘機よりも速く飛ぶ際に発声する慣性や風圧、如何なる衝撃や銃火器の弾丸の衝撃からも搭乗者を護る絶対の防衛機構。それは解除もできなければ、する必要性など一切ない搭乗者の命綱。
「装甲が破壊されてエネルギーが減退するのは、謂わばその箇所にも《絶対防御》が発動しているからです。なのにエネルギーの減少自体は少なかった。なら、装甲は"ただ破壊された"だけ、ある意味トカゲの自切のように使ったのではないでしょうか」
真耶の話した内容は聞く者ならば、イカレた妄想だと一蹴するようなものだった。
《絶対防御》の無効化など彼(か)の天災でもなければ不可能であるし、したところで利点など発生するわけがない。
ISが安全と言われているのは《絶対防御》の一転のみに集約されている。もし、それが無かったとするなら、ISが最初に殺すのは敵でもなく有象無象な生身の人間でもない、搭乗者である。
ISの高加速から産み出される慣性は容易に人の首をへし折り、撃ち出される大口径の弾丸は人を肉片に仕上げるだろう。
「それが正解だとして、君はどうする?」
「《白式》を取り上げます。そんな危険なもの、生徒に持たせるわけにいきません。織斑くんにも話を訊きます。もちろん、あなたにもです」
真耶はそう言って、千冬を強い意思を乗せて見据える。誰よりも優しい彼女だからこそ譲れぬ、勇ましい覚悟を持って言い放った。
「理想論だな。アイツが応じると思うか?」
「理想が無い教師が、子供たちに何を教えると言うんですか。応じないというなら、わかってくれるまで話し合います」
「無駄なことだとは思わないのか?」
「諦めるのは挑戦してからでも遅くはありません。それに無駄と決めるのは織斑先生ではなく、私です」
真耶の言葉に背を向けながら、千冬は目を伏せた。
何を言おうと退きはしないだろう。そう思わせる、無垢な願いを心から称える友人に少なからずの諦めと、羨望の息を吐く。
そんな千冬を見てか、真耶はさっきまでの勢いを潜め、労るように言葉をかけた。
「織斑先生は心配じゃないんですか? 織斑くんはあなたにとって、たった一人の弟さんじゃないですか・・・・・・」
「―――真耶、一つだけ言っておく」
ここで初めて真耶は千冬の顔を正面から見た。
同時に後悔もする。
いつもの冷然とした姿はなく、悲壮に顔を歪めた満ちた、千冬がいた。
「私はアイツを、弟と思えていない。きっとアイツも、私を姉とは思っていないだろう。私たちは同じ様な血が流れていて、名字が同じの薄い繋がりしかない、そんな薄い関係だ。私たちは互いに、本心では兄弟だなんて思っていない、ただの他人でしかないのさ」
▼ ▼ ▼
真耶は去っていった。特に何かを言うわけでもなく、ただ慰めのようなことを言っていた気がするが、私には聞き取ることもできなかった。
それも、どうでもいい。
「なにが、無人機だ・・・・・・」
再度、私の視界に入ってきたのは、死体のように転がる《ゴーレム》の姿。バラバラに斬られ、今も様々な機材に繋がれながら、その情報を搾り取られている。
機械のように。
本当に、ただの機械のように。
「やめろ、やめてくれ・・・・・・」
ガラスに赤い線が引かれていく。
それが押し付けた指が、私の力との摩擦で引き裂かれたことによる出血であることに気づけぬまま、掻き毟ように指を這わせる。
「何が『世界の恒久の平和と安寧』だ。これが、こんなことが、こんなものが何になるというんだ!!?」
不快な液体が、私の視界を曇らせていく。
全てを隠すように、逃げ出すように、都合の悪い全てが幻想だったかのようにボヤけて虚ろにしていく。霞に包まれ、私の思考さえも暗い穴へと貶める。
それも指の痛みが私の埋もれていく意識を、無理矢理に現実へと向かせる。
「殺すなら、殺せばいいじゃないか。どうして私を死なせてくれない。私が『人形』だからか? "お前たち"の御都合主義にまみれた人形劇に必要な、引き立て役だからか? ・・・・・・巫山戯るな、巫山戯るなぁ!!!」
力の抑制が効かず、打ち付けた拳はガラスに大きな亀裂を作る。
感情が暴走する。
惨めったらしく、私は泣き叫んだ。
幾度となく殴り付けるうちにガラスも砕け散り、止まらぬ慟哭だけが私の喉を引き裂いて溢れだしていた。
「"一夏"、私は、どうすればいい・・・・・・?」
答えは、返ってくるわけがなかった。
◇ ◇ ◇
死に果てた成り損ないがあった。
物を語らず。
動きもしない。
完全な死体に成ったそれの胸には、掠れながらも確かにこう書いてあった
『project_N 0893
Junk Collection 』
やっと一巻が終了しました。長かったです。
これを書いていて文章で飯を食っている人がいかに大変かが、よくわかりました。
今後ともよろしくお願いいたします。
あと、色々と気づいてしまってもネタバレはNGで。