この作品、女の子泣かせてばっかだな。
のほほん無双 第二編
笑顔、笑っている顔。顔面の筋肉を動かし、主に喜楽や愉快な場面において自分の気分が高揚してる時などに、人が浮かべる表情のこと。
ただ、元を辿って見れば笑顔とは、相手に対する威嚇を用途として使われたらしい。
「・・・・・・・・そういえば、そうだったわね」
「・・・・・・・・こういうのって、唐突に思い出すもんなんだなぁ」
そんなことを同時に呟く、二人の男女の姿があった。
一人は青い髪に鮮やかな赤の瞳を曇らせた女性。言わずと知れたIS学園会長、更識 楯無。もう一人は黒い髪に彼らしくない影の差す表情で俯く男。IS学園に悪名轟かす無頼漢、織斑 一夏。
この二人、以前に血を血で染め上げるほどの殴り合いを演じ、ある意味で仇敵とも言える間柄にあるのだが、そんな二人がどうして一緒にいるのか。
どうして、寮の一室で"一緒に正座をしている"のか。
(何でこうなってんすかね、会長さん)
(私にも判らないわよ・・・・・・)
しかし、同じ問題を共有している現段階において、そんな確執は一度流すことにしたのだ。昨日の敵は今日の味方、使えるヤツは親でも使え。
一夏も楯無も互いに専用機持ちということもあり、待機状態のISを介した《思考通信》によって、ニコニコと笑う"目の前の彼女"に気づかれないように会話をしている。
「「・・・・・・・・・・・・」」
そう、ニコニコと笑う"布仏 本音"にバレないように、二人は密かに会話を続けるのだった。
◇ ◇ ◇
時を遡れば三十分ほど前のこと。
二人は特に説明もないまま部屋に来るように、と本音に言伝てされていた。呼んだ相手が相手なだけに特に疑問も懐かずに指定通りの時間、場所に集合し鉢合わせした。
その時の会話は以下のようなものである。
「いらっしゃ~い! 早く入って入って!」
「おい、何で会長がいるんだよ?」「何で彼がいるの本音?」
「いいからいいから! ほら、早く入ってよ~」
「だけどよ」「でもねぇ・・・」
「黙って入りなさい」
「「――――――!!?」」
そして、今に到るわけである。
その時の本音の表情を言葉として言い表すのは困難を極めるが、この二人の背中に氷を落とさせるような感覚を味あわせる程のもの、とだけ表記しておこう。
世の中、踏み込まなくてもよい領域というのは、確かに存在するものだ。
そんなわけで、つつがなく部屋へと通された二人は流れるように正座の姿勢をとっていた。三人とも制服姿ということもあり、かなりシュールな光景である。
正座組からすれば普段より輝く本音の可愛らしい笑顔も、突きつけられた8.8 cm高射砲の砲口にでも見えてることだろう。本音の趣味なのであろうキツネのヌイグルミたちも、愛くるしい見た目をしているわりには唾液を垂らす肉食動物の目をしている、ような気さえもする。
それでもベッドの上でパタパタと足を揺らしている彼女の姿は、万人の心を鷲掴むには十分なものではあったが。
(会長、のほほんさんが可愛すぎて正座がツライです)
(本音が可愛いのは解るし、正座がキツくなってきてるのも同感だわ。だけど、その二つに関連性は無いわよね?)
(あと、のほほんさんの背中に浅黒い肌で巨人なバーサーカーが見えるんですけど、これってスタンド?)
(それは間違いなく幻覚、のはずなんだけど不思議ね、私も見えてきたわ・・・・・・)
本音のプレッシャーは確実に二人の精神を削っていた。頭ごなしに怒鳴るわけでもなく、拳振り上げて向かってくるわけでもない。そもそも何かする素振りがない。だけども、向けられ続ける「私は怒ってますよ?」オーラが非常にしんどいのである。
とにもかくにも息苦しい。無言の圧力が精神的に、正座によって肉体的な責め苦も合わさり、理想的な拷問状態が完成していた。
(これはもう、のほほんさんの太ももで英気を回復させるしかないんじゃないすかね)
(なに言ってんの・・・・・・?)
(いや、のほほんさんて意外にあるじゃないすか。毎回遊んでるときとか、結構当たるんですよね、グレネードが。今なんて少し視線を上げりゃ、秘境の奥地が・・・・・・)
(あなた、そういう目で本音のこと見ていたの!?)
(しゃーないじゃないすか! 俺だって機能的に言えば真っ当な男なんですよ? ラノベとかのホモじみたハーレム系鈍感主人公とは違って健全なんすよ)
(だ、だからってそんなの・・・・・・! この変態色情下半身無節操男!!)
(ハァ!? 何でそこまで言われにゃならねぇんすか! 胸ハートパレオで出迎えた勘違い痴女がナマ言ってんじゃねーぞ!)
(うっ、五月蝿いわよロリコン!! 今まで甘い目で見てきたけど、もし本音に何かしたら去勢するわよ!?)
(鏡に向かって言えやアバズレが! 地味に初な反応してくれてますけど、これっぽっちも可愛いないんじゃい!!)
(・・・・・・その言葉、宣戦布告と判断するわ)
(ハッ、こっちはとっくに迎撃の用意はできてんだよ。白黒つけましょう―――)
「相談は終わった~?」
「「!!?!?」」
「終わった?」
「「・・・・・・はい」」
いつからバレていないと思っていた? そう言わんばかりに本音の眼光が二人を照らし出す。
さながら蛇に睨まれた蛙、通信内で一触即発まで行っていたのが一瞬で霧散させる冷気のような感覚に、二人の体が凝結する。
「ねぇ、おりむー。何で呼ばれたか分かる?」
「えっと、思い当たる節が有りすぎるのですが・・・・・・」
「そっか~。じゃあ、お嬢様はぁ?」
「私もそんな感じ、かな?」
ふーん、と小さく唸る本音の雰囲気がどんどん鋭くなっていく。
その姿は真剣そのものであり、いつもの彼女からは到底想像できないような、本気さが窺えた。
「なんで、喧嘩したの?」
ベッドから降り、二人の正面に座り目線を確りと合わせながら、本音は二人に問い掛けた。
「・・・・・・本音、まずは話を聞いて。今回のことだけど―――」
「そういうのは要らない。理由だけ話して」
楯無が何かしら言おうとするが、それを最後まで言い切る前に本音が遮った。
「お嬢様はいつもそうだよ? 周りを巻き込まないようにって、全部自分で抱え込んで皆を遠ざけようとしてる。それなのに生徒会とか学校でのことは全部お姉ちゃん任せ。矛盾してない? 何がしたいの? 馬鹿なの? 阿呆なの? それとも、ただの構ってちゃんなの?」
「・・・・・・ゴメンなさい」
「うん、いいよ。だけど、謝るのはあとでよかったんだよ? 今はなんで喧嘩したのか訊いてるんだよ? それぐらいは分かってるよね? ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐず」
「あぁっと、あれだ! 理由だろ? 俺が説明すっから、な?」
本音の猛攻に俯き気味に成り始めた楯無に助け船を出したのは、意外にも一夏だった。
彼からしてみれば、先程から続く本音の本音らしからぬ物言いに重くなっていく空気に耐えられず、つい口を出してしまったようなものなのだが、結果として見れば楯無をフォローしたように見えることだろう。
「まぁ、なんだ? つまりはだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「こう、なんて言えばいいのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「その、だね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すいませんでしたぁ!!!」
綺麗な土下座であった。
一夏の心算では、いつものような口先三寸の語り口で場を温め、徐々に話題を逸らしながら誤魔化しきるというものだったが、本音の無言の前に無残な完全敗北を喫した。
一夏自身も次に来るであろう追撃に内心で脂汗を垂らしながら、懲りもせずに言い訳を考える。
たが、そんな一夏の耳に聞こえてきたのは本音の怒号ではなく、批難の言葉でもなかった。
「・・・・・・なんで、なにも話してくれないの?」
頭が真っ白になる感覚と共に下げていた頭を上げると、さっきまでの剣呑な雰囲気が嘘であるかのようにグシャグシャに顔を歪めた、本音の姿があった。
一夏にとって、二度目となる本音の"泣き声"だった。
「二人が、人に話せない秘密があるのは、知ってる。お嬢様が、皆の為に頑張ってるのは知ってるよ? だから、これが私のワガママだってことも、わかってる・・・・・・」
「本音・・・・・・」
「だけど、やっぱりツライよ。ずっと待ってるだけなのは、寂しくて、ツライよ・・・・・・。でも、待ってた。いつか、ずっと前みたいに一緒にいられると思ってたから」
それなのに、と本音は俯きながらに続けて言った。
「お嬢様とおりむーが、喧嘩したって、お姉ちゃんから聞いた」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・怖かった。お嬢様もだけど、おりむーがそんなことするなんて信じられなかった。けど、今日のおりむーで分かった・・・・・・」
―――おりむーは、そういうことができない人じゃなくて、『しないだけ』なんだって
「・・・・・・じゃあ、どうする?」
足を崩し、本音の肩が僅かに跳ねるのを見据えながら、一夏は言う。
彼の顔には、感情として分類するものはない。いつもの人を喰ったような笑みすらない、全くの無貌。
それはどこか、あの《無人機》によく似ていた。
「お察しの通り、俺は"そういう人種"だ。幻滅したろ? 裏切られた気分だろ。いつも一緒にいた人間は、その本人とは対極にいるような人格破綻者で、意外や意外にも噂以上の人間だったのさ。驚いたか?」
一夏は嗤わない。されど、口調はいつものようにヘラヘラと軽薄なものになっている。
そのまま、チグハグなままに一夏は続ける。
「お前の感情は大正解だ。誰だって自分と違う異常者に嫌悪感を抱くのは当たり前のことだ。お前が俺を怖いって思うのは至極正常なことだぜ? むしろ、近づいてくる奴の方が変なんだからよ」
「・・・・・・おりむー、聞いて」
「聞いて? 話すことなんてないだろ。結論は出てる。お前は俺から離れて、そっちのお嬢様と普通の生活に戻るんだ。そいで、俺はこっちで悠々自適にスクールライフとなる。全くの自然な―――」
一夏の言葉を途絶える代わりに、渇いた音が響いた。彼にとってはもはや、慣れてしまった頬への衝撃。
だけども、記憶の中にあるどれよりも、重くて痛い感覚。
目の前の本音は泣きながら、振り抜いた右腕を震わせていた。
「私の気持ちを、勝手に決めないでっ!!!」
思わず身がすくむ程の叫び声に、一夏どころか楯無さえも目を見開いていた。
その声を出した本音は、小さな手で一夏の胸ぐらを乱暴に掴み自分に引き寄せながら、なおも叫ぶ。
「おりむーに話すことがなくても、私にはある! 普通ってなに? 自然ってなに!? 巫山戯たことを言わないで!! 勝手に、逃げないでよ・・・・・・!」
視界全てに映る本音の声が一夏の鼓膜を震わせ、心を震わせる。
滴る涙は制服に染み込み、その思いの跡を作っていく。
「おりむーが、どこかに行っちゃいそうで怖かった・・・・・・。ずっと友達って言ったよね? だったら、どこにも行かないでよ!」
本音の腕が首に回され、二人の距離が零になるまで密着する。
鼻腔をくすぐる甘い匂いも、胸から伝わる体温も、しがみつく柔らかい感触も慣れ親しんだものだったが、今この時だけはひどく現実味のない空虚なもの。
聞こえてくる言葉も、耳を抜けていくだけだった。
「私の普通には、おりむーが必用なんだよ? 大切な友達がいない毎日なんて、絶対に嫌だよ・・・・・・」
一夏は嗤わない、笑わない、わらえない。
口は開くも音が出ない。腕に力が入らない。脳と体を切り離されたような虚脱感。
胸に抱く少女を突き放すことも、受け入れることもできないまま、何も言えないまま、一夏は纏まらない思考で疑問符を浮かべる。
一夏には、どうしても理解できなかった。
布仏 本音という少女が、どうして涙を流しているのか。
Fateのアニメが始まりましたね。UFO頑張りすぎでしょ。
エミヤさんと原作一夏では、目指してるものは同じなのにこうも不快指数に差が出るのか。単純に実行力と覚悟の差ですかね。
感想に批評待ってやす。