IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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ようやく作業が落ち着きを見せてきました。

だからといって、更新ペース上がるのかと言うと・・・・・・うん。

ということで、リンさん流石リンさん回


第二十二幕 涙染感渉

▽ ▽ ▽

 

今でも思い出すのは、あの井戸の底のような毎日

 

暗く、固い石に囲われて、冷たい水は容赦なく体から熱を吸い上げてく

 

でも、底から見上げる空の青さは、言葉にできないくらい綺麗だった

 

―――だれか・・・・・・

 

そう、気絶しそうなくらい綺麗なくせに、底無しの青い空は、まるで牢獄のように重苦しかった

 

手を伸ばせば掬えそうなのに、手を伸ばせば届きそうなのに、爪の先さえ掠らない

 

当たり前だよね

 

手なんて、一度だって伸ばしたことなんてなかったんだから

 

―――だれでもいいよ・・・・・・

 

このまま自分がどうなるかを、ひたすらに考えてた

 

それ以外に、やることがなかったのが、正直なところだけど

 

日に日に増していく水かさに、自分の限界を感じながら、結局は何もしないでいる

 

―――・・・・・・・・・ッ!

 

水が体を呑み込んでいく

 

喉が塞がれる

 

苦しくても、死にたくなくても、これでいい、もういっかなんて諦めてる自分がいる

 

でも

 

それ、でも

 

―――だれか、助けてっ!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

きっと、一生忘れないと思う

 

溺れかけていた"あたし"を、空に引き上げてくれた、あの手を

 

冷えきった手を握ってくれた、温かかった"あいつ"の手を

 

▼ ▼ ▼

 

「・・・・・・ん。うーん?」

 

何だか、頭がボンヤリする。

 

まだ視界がハッキリしないけど、消毒液の臭いと白い布団の感じからして、たぶん保健室だろうか。

 

でも、どうして保健室なんかで・・・・・・。

 

「起きたか、鈴音」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ようやく霧の晴れてきた視界の先にいたのは、彼(か)の世界最強である織斑 千冬先生だった。

 

えっ、なんで?

 

状況がまったく読めないんですけど。

 

「あまりに幸せそうに寝ているのでな、お前が起きるのを待っていたんだ」

 

「そう、ですか・・・・・・」

 

「それにしても、夢の中まで愛されるなど、相手もさぞ幸福だろうな」

 

「はぁ、そうで・・・・・・ん?」

 

一気に思考が回復していく。

 

今なにか不穏な発言があった気がする。そう、今後のあたしの学校生活において致命的とも言える情報が先生に露呈している可能性がある。

 

いや、きっと聞き間違いだよね。寝起きだから、「アイス食べる?」と「愛される」を間違えたんだ。

 

なぁんだ、先生も気が利くじゃない。最近暑くなってきたし嬉しいなー、アッハッハ・・・・・・。

 

「で? その弾少年とは、どこまでいったんだ?」

 

「・・・・・・なんでぇ」

 

バレている。しかも、名前まで知ってるし。

 

もしかして寝言でバレたのかな?

 

内容が思い出せない。もし"そうゆうの"だったら・・・・・・。うー、ちょっと勿体ないなぁ。

 

「とりあえず、録音したのがあるが?」

 

「なんで録音してんですか!?」

 

「なかなかな内容だったのでな、、面白半分に悪戯心が疼いたんだ。なんなら使うか?」

 

「何にですか! 何に使えって言うんですか!?」

 

「そりゃ、ナニに・・・・・・」

 

「なに言ってんのーー!!?」

 

あぁもう、何で起き抜けに叫ばなきゃならないのよ!

 

ていうか、織斑先生ってこういう人なんだ・・・・・・。イメージではこう、もっと厳格な人だと思ってたんだけど。

 

なんだか頭も痛いし、逆に一夏のお姉さんってことが納得できたというか。

 

あれ、一夏・・・・・・・・・っ!

 

「先生! あの馬鹿は、一夏はどうなったんですか!?」

 

◇ ◇ ◇

 

鈴音の悲鳴にも似た叫びが保健室に響き、それまでの空気を吹き飛ばした。

 

「あのテロリストは!? あいつはあの後に ぐッ!」

 

千冬に掴みかからんばかりに体を起こした鈴音だが、頭部に走る痛みにブレーキをかけられ、頭を抱えるように再びベッドに倒れこんだ。

 

そんな鈴音に小さく溜め息を吐きながら、捲れた布団かけ直しながら、千冬は静かに語りだした。

 

「まず、今回の事件についてだが、学園でもここ一ヶ所、つまり第二アリーナにハッキングが仕掛けられた。通信以外の全システムをフリーズさせるという巫山戯た内容のな。馬鹿にしているにも程がある」

 

あくまでも冷静に言う千冬に対し、鈴音は語られる言葉に驚きを隠せずにいる。

 

そもそもIS学園とはISを保持し運営していくうえで、絶対の防衛機構と兵器を備えた要塞だ。それは物理的であり、電子的なものであってもだ。

 

そんな場所に喧嘩を売り付けることもさることながら、あくまで今回の事件が相手側の"本気ではない"ことに鈴音は戦慄するのだった。

 

「お前がテロリストと言ったアレだがな、仮称《ゴーレム》というアレは、"無人機"だった」

 

「!! そ、そんな、だってISは人が乗らないと絶対に動かない筈ですよ!? それなのに、無人機だなんて・・・・・・」

 

ズキズキと苛む痛みに奥歯を噛むように、鈴音が千冬に言う。

 

事実、彼女の言うことは正しい。

 

ISの運用は有人が大前提だ。それはリモートで起動をしようにも、一機一機に命令を受け付けるようなアンテナとなる機関が一切ないからである。人間が発する電気信号を広い、それのみに反応するのがISだ。

 

よっぽど、人間に代わるような何かを組み込むならば話は変わるのだろうが。

 

「固定観念で物事を決めつけるな。既に、女性のみがISを動かせるという常識が崩れているのだ。今さら人の必要としないISが出てきて何の不思議がある?」

 

「それは、そうですが・・・・・・」

 

千冬のハッキリとした物言いに、鈴音は納得できないながらも素直に下がる。

 

たった数時間の内に信じていた常識が次々に否定されているのだ、受け入れ難いものがあるのだろう。

 

千冬も承知しているのか、追及はせずに続ける。

 

「そして、侵入してきた《ゴーレム》はお前たちに接触し戦闘状態に入り、帰還してきたお前は途中で限界に達し昏倒、ここに運び込まれている間にヤツが《ゴーレム》を破壊した。これが、この事件の顛末だ」

 

話が終わると、少しの静寂が二人を包みこんだ。

 

その間に鈴音は、自分の中の情報を整理していく。

 

自分たちに降りかかった未知なる敵。それの実体は闇の帳の向こう側であり、現段階ではまったく判らない。だが、相手がどうしようもなく強大なものであることは、容易に想像できてしまう。

 

学園の電子の壁を越えて荒らし回ることのできるハッカー。無人のISを造り上げる技術力と、それに搭載されたイキ過ぎた兵装を造り上げる技術力に財力。

 

本当に相手はテロを目的とした集団なのか。もはやどこかの国が送り込んできた斥候と考える方が理解できるような事件に、頭の痛みが輪をかけて増していく気さえしてくる。

 

そこまで考え、鈴音はこの議題を追い出すように頭を振る。

 

これは一個人が判断するような問題じゃない。ならば、簡潔に片がつくものから確認していけばいい。

 

「あの、織斑先生・・・・・・」

 

控え目な声に呼ばれ、普段よりも鋭さの増す瞳が鈴音に向けられる。

 

それに生唾を飲み込みながら、身を起こして鈴音は口を開いた。

 

「なんで、あたしに逃げるように言ったんですか?」

 

ハッ、と鈴音の言葉を鼻で笑い飛ばし、千冬は険しさと苛立ちの混じり始めた目で鈴音を見据えながら、吐き捨てるように言い放つ。

 

「決まっている。あの場に乗り込んでいれば、お前は死んでいたかもしれないからだ・・・・・・!」

 

千冬の表情と言葉に、心臓を握られるような圧迫感が、鈴音の全身に駆ける。

 

座っていた椅子から立ち上がり、伸ばした右腕で鈴音を引き寄せて、犬歯を剥きながら濁流のような言葉が向けられる。

 

「・・・・・・いいか、お前が生きているのは運が良かっただけだ。人を壊すことに抵抗のない人格破綻者であり、他者を人と認識しない猟奇的娯楽主義者を相手にして、未だに呼吸できていることが奇跡なんだよ小娘!!」

 

「・・・・・・・・・・・・先生」

 

「教師陣を送らなかったのだってそうだ。アイツは殺す。邪魔をする者なら泣く子さえ轢き潰す! 死体を積み上げ、血の雨を浴びながら嗤うのがヤツだ。それがお前の友と呼ぶ人間だ!! それが―――」

 

「織斑先生」

 

不意に握られた右手の感覚に、声が跳ねるように止まる。

 

「先生の言わんとすることは、たぶん判りました。でも・・・・・・」

 

その声はあまりにも対称的な色をしていた。

 

真っ直ぐな瞳は溢れ出る涙を止めようともせずに、立ち竦んで揺れる千冬の目を見詰める。

 

そして、花の花弁のような唇から言葉が紡がれた。

 

「・・・・・・そんな泣きそうな顔で言われても全然、説得力ないですよ?」

 

さながら化物をも屠る銀の弾丸のように、鈴音の言葉は千冬を貫いた。

 

椅子に倒れるように座る彼女の顔は、世界最強とは程遠い、迷子の子供のように追い詰められたものだった。

 

鈴音は思い出す。彼女にとって一夏という人間は、唯一無二の家族であるということを。何にも代えがたい、そんな存在であることを。

 

故に彼女の心は切り刻まれるような苦痛を感じ、無言の慟哭をあげているのだ。

 

姉として愛する者を守りたい、守らなければならように、彼女は組織の人間として全てを守らなくてはならない。

 

「織斑先生・・・・・・」

 

鈴音の頬に涙が伝って落ちていく。

 

強くあり続ける為に、弱さを晒さぬ為に、己を殺し続ける女の為に、その心から滴る血を押し流すように涙を流す。

 

「あいつと、あなたに何があったかなんて知りませんし、聞こうとも思いません。どんなことが起きて、どれだけ二人を苦しめて歪めたかなんて想像もできないです。でも、それでも・・・・・・」

 

ひた向きな心からの言葉。

 

少しでも伝わって欲しい。

 

背負い過ぎた、たった一人の不器用な傷だらけの英雄に届くように願って。

 

その表情は儚くも、輝く太陽のような、そんな笑顔。

 

「あいつって、笑うと意外に可愛いんですよ?」

 

鈴音は語る。

 

本音と遊ぶ、少年のような彼を。

 

セシリアをからかう、無邪気な彼を。

 

自分の料理を美味しいと言っては、幸せそうに笑う彼を。

 

ベッドの子供に話す寝物語のように、ゆっくりと、一言一言を噛みしめるように話してやる。

 

「あいつとあたしは、友達です。それを言い改めるつもりは、絶対にありません。だから、あいつのことはあたし達に任せてください」

 

繋がれた手をさらに強く、思いのありったけを込めて、包み込むように握る。

 

理想は、あの時の温かな手。

 

孤独の底から救い上げてくれた、優しくも力強い感触。

 

「姉だからって弟の世話を全部する必要なんてないですよ。だから、少しは周りに頼ってください。今度また暴れるようなことがあったら、"ドタマ"に一発キツイのくれてやりますよ!」

 

そう言って、鈴音はいつものように快活に笑ってみせる。

 

そんな彼女の言葉を聞く千冬にも、いつの間にか笑みがあった。瞳には確かな光を灯し、小さく微笑んでいる。

 

「・・・・・・・・・・・・ありがとう」

 

その言葉が何を差して言ったことなのかは、判らない。だが、そこから感じられたのは間違いなく"安心"であった。

 

そんな千冬により一層笑みを深くすると、鈴音はここ一週間の内にあった一夏に関することを話し出した。

 

内容こそ、半分は愚痴のようなものだったが、千冬は少しの頷きを交えながら最後まで彼女の話を聞いていた。

 

故に、鈴音は気づけなかった。

 

千冬の言葉の奥底、一瞬だけ見せた感情の片鱗、憐憫と苦渋に満ちた悲壮の塊に。




入れてて良かったキャラ崩壊タグ。あと、タグ少し弄りました。

リンさんの男気に全俺が泣いた。これ誰だよ、みたいな。

リンさんの過去については、キャラ紹介か幕外でやらせていただきます。

それではまた。

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