IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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最近になって非常に忙しくなり、更新が遅れ気味。

今回が難産だったというのもありますが。

というわけで、中国激闘回

そして、敵


第二十幕 接敵会敵

▼ ▼ ▼

 

チクタクチクタク、この学園内では不釣り合いな程に丸く安っぽい時計が、規則的な音と一緒に針を回してる。

 

円盤の上に在るのは三本の針。大きさも違えば、動く速さも違うそれは、全部が同じ場所を回っているのに重なるのは一瞬。ほんの一秒過ぎたら離れてしまう。

 

それをしばらく、時間を忘れて眺めてた。時間を知るための時計で時間を忘れるっていうのも、何か変な話だけど。

 

「お茶が入りましたよ、お嬢様」

 

「・・・・・・もう、お嬢様はやめてよ虚」

 

そう言って私の目の前にティーカップを置いたのは、生徒会で会計をしてくれている布仏 虚。歳は一つ上だけれど、家柄とかそういうのは関係なしに昔から私たち"姉妹"によくしてくれている。

 

「まだ、痛みますか?」

 

「ううん、ちょっと考え事」

 

花の香りを漂わせるカップから紅茶を口に含みながら、空いた右手は自然とお腹を押さえている。

 

あの日、少し御灸を据えるつもりで彼を呼び出しただけで。あそこまでやるつもりはなかった。なんて、ただの言い訳でしかないけど、まさか私がヤリ返されるなんて想像もしていなかった。

 

今でこそ痛みもないが、上着を捲ればうっすらと青い痣が残っている。

 

「まぁ、あの時のことは会長の自業自得でしたけどね」

 

「あなたは彼の肩を持つの?」

 

「あの整備室の始末をしたのは私ですよ? あの床一面の惨状を見れば、会長が一体なにをしたのか、それが報復されても仕方がないことだということも判ります」

 

「うっ・・・・・・」

 

そう言われてしまうと反論の余地がない。

 

でも、そうあの時の彼が私に向けていたのは、暴力への怒りだけであっただろうか。あの全身の肌が粟立つような、圧倒的でハッキリとした怒りの理由がそれだけのものなのか。

 

「ねぇ、虚。人にとって一番にツライことって、何だと思う?」

 

脳の奥に刻まれているのは、意識が途切れる間際の彼の声。

 

人にとって一番ツライのは、大切な人が隣に居てくれないこと。私の中の彼が言いそうにない言葉。

 

だからこそ、疑った。彼のような存在が、何故そんな人みたいなことを言うのか、と。

 

「・・・・・・私にとってツライことは、お嬢様や簪様に本音、クラスの級友たち、そして家族と離ればなれになることです」

 

彼女から返ってきた答えも、彼と同じものだった。

 

「お嬢様。あなたが彼に何を言われたかは分かりません」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ですが、人と人の繋がりを大切にする人間に、人としての道理を外れるような者がいるでしょうか?」

 

正論だ。

 

普段の彼は気さくな好青年。演技であるという可能性もあるが、いつも彼の傍にいる彼女たちといる姿は、年相応の少年にしか見えない。

 

「・・・・・・分けが分からないわね」

 

結局、あなたは何が言いたかったの?

 

人の痛みなんて理解できないと言っておいて、誰よりも痛みを知っているであろう君は、何を思って私にあの事を言ったの?

 

ねぇ、織斑 一夏。

 

あなたは、一体なんなの?

 

◇ ◇ ◇

 

第二アリーナ。

 

そこには二つの『赤銅』と『白』が、鎬を削りきる闘いを繰り広げていた。

 

「ぎゃはははははははは!! いいねいいねぇ! やっぱり喧嘩はガチで殴りあってなんぼだよなぁ!!?」

 

『白式』に乗る一夏は、右肩に担ぐように長刀の形をした物理ブレード、《雪片弐型》を携え相手へと突貫していく。

 

その構えは、剣の道を進む者なら『示現流』の基本形を想像するかもしれないが、この男にはそんな知識も経験も無い。相手を叩き斬る、それを突き詰めて自然にとったものであろう。

 

「だぁー、もう! 高笑いしながらじゃなきゃ戦えないの!? ハッキリ言うけど恐い通り越して不気味よあんた!!」

 

「楽しいから笑ってんだよ! 今からテメェをバラせると思うだけで、背筋が震えちまうよ!!」

 

「ただの変態じゃない!?」

 

対する鈴音の『甲龍(シェンロン)』は二刀で一本の青龍刀を模した大型ブレード、《双天牙月》を連結させて一夏を迎え撃つ。

 

現在、行われているクラス対抗戦第一試合である一組代表の一夏と二組代表である鈴音の試合は、話題性のある二人ということもあり、観客席は満席、通路に座る者さえいる程だ。

 

そんな彼女たちの視線を総取りする二人は、同じパワータイプの機体ということもあり、その戦いは熾烈を極めている。

 

「おぉうりゃあああああ!!」

 

「はぁああああああ!!」

 

白銀の刃と黒鉄の大剣が激突し、はじかれ、それでも相手より早く切り裂くために振るわれる剣閃は、火花を散らせながらに二人を彩る花弁となって瞬きを繰り返す。

 

視線を隠しながらも、その口は耳まで引き裂く程に引き上げる一夏に、多少の強張りは有りながらも確かに笑う鈴音たちの戦いは、次の段階へと踏み込んでいく。

 

「ねぇ、一夏。あんたのISって射撃武器は無いの?」

 

「あぁ? あるわけねぇだろ! ブレード一本で特攻するのに浪漫があるんだろぉがよ!」

 

「そう。じゃあ、これからは必死に逃げてね?」

 

どういうことだ、と一夏が聞き返す前に、鈴音の『甲龍』の両肩の横に浮かぶ棘の付いた装甲が稼働し、その内部を晒していく。

 

その光景は、一夏に龍が口を開いていくような印象を持たせた。

 

「言っておくけど、ISには絶対防御なんていうのが在るけど、あれって完璧じゃないのよ。だから・・・・・・」

 

そこで鈴音の表情が変わる。

 

極微細な変化ではあったが、さっきまでのスポーティな笑みでなく、嗜虐心を含んだ笑い。

 

そして、八重歯の光る小さな口から宣告されるのは、小悪魔のような悪戯心と残酷さが溢れていた。

 

「いきなり全力全開よ。耐えてよね?」

 

瞬間、一夏の腹部に衝撃が破裂した。

 

「ごっああああああ!!?」

 

一点から弾けた鈍痛が全身へと隈無く回る中で、一夏は頭を巡らせながらに原因を探っていく。

 

自分がこうなる前にあった予兆。

 

思い当たるのは一つだけであった。

 

「あの、龍頭か・・・・・・!?」

 

肩部大型衝撃砲《龍砲》。それが鈴音の肩に浮かぶ二つの、正式名である。

 

名前の通り、相手に衝撃を弾としてぶつけるものである。言えば簡単なものだが、これの最もなアドバンテージは、"砲身も砲弾も視認できない"ということにある。

 

第三世代の兵器であり、空間そのものに圧力をかけて砲身を作り上げ、その過程で生まれた衝撃を弾として飛ばしているのが《龍砲》だ。もちろん圧力の加減は可能であり、威力を考えないのであれば機銃のような連射もできる。

 

実弾のような弾切れを起こすこともなく、砲身斜角も無制限であるため如何なる角度にも対応できる。兵器としてはかなりの完成度を誇っている。

 

「ちくしょう、でん〇ろう先生みたいな武器を使いやがって!」

 

「誰よそれ?」

 

「はぁ!? でんじ〇う先生知らねぇとか、お前は今までどうやって生きてきたんだよ! 前世からやり直してこい絶壁まな板貧乳娘が!!」

 

「何でそこまで言われなきゃいけないのよ!? ていうか、今あたしの胸のこと言ったわよね? 挽き肉するけど良いわよね? 良いよねぇ!!?」

 

一見、バカみたいな会話をしているが、一夏は既に《龍砲》の一撃一撃を躱し始めている。

 

一夏が細かに身を翻すたびに、後方へと突き抜けていく大気の唸り声が鼓膜を振り動かす毎に、彼の笑みも深くなっていく。

 

「なぁー、鈴音さん。聞く話によれば、お宅って一年で代表候補の座をもぎ取った偉業があるらしいじゃないですか」

 

「あ゛あぁん? それがどうしたのよ!?」

 

「やっぱり、愛しの弾くんに会いたくって頑張ったの?」

 

「そんなの当たり前でしょうが! ・・・・・・にっ、にゃーーーーー!!!?」

 

「へぇぇえええええぇえぇぇ」

 

「な、なんてこと言わせんのよ!?」

 

「実に愉悦なり」

 

「絶対、絶対にぶっ殺す!!」

 

これが一夏であった。

 

どれだけ不慮の事態に陥ろうと、そのマイペースさが崩れることはない。

 

どんな実力者であろうと、どれだけ高位な人間でも、虚言戯言罵詈雑言を並べ立て、自分の間合いへと持ち込んでは喰い殺す。

 

それが一夏のヤリ方である。

 

「ほぉら、弾が当たらなくなってきてるぜ? 頭ん中の弾くんと少しの間だけバイバイしようねぇ~」

 

「なんで、あんたは、そうも的確に人を苛つかせっ!?」

 

「腹がガラ空きなんだよ、お嬢様ぁ!!」

 

空気の弾幕を突破し、一夏は《雪片弐型》の間合い、ひいては彼の絶対距離へと飛び込み、逆袈裟に刃をかち上げる。だが、鈴音とてただヤラれはしない。持ち前の反射神経によって、瞬時に《双天牙月》を分離し片方の一本で袈裟斬りを防ぎ、もう片方でカウンターを狙うがそれを起点の部分で一夏が掴み上げることで止める。

 

お互いの技量が拮抗し、完全な膠着状態に一夏も鈴音も、ひたすらに押し負けんと力を込め続ける。

 

「くっ、ひひひひ。あぁ、楽しいなぁ。そうは思わねぇか?」

 

「・・・・・・あいにく、楽しんでる余裕なんて、ないわよ」

 

「あら、そうかい。そいつぁ―――

 

◆ ◆ ◆

 

やぁ、久しぶり

 

元気にしてた?

 

◆ ◆ ◆

 

―――――――――ぎゃは」

 

唐突に一夏が力を抜いたことで、鈴音がつんのめるようにバランスを崩す。

 

いきなりのことに鈴音が一夏を問い質そうとする寸前に、"アリーナ全体に衝撃が走った"。

 

『織斑くん、鈴音さん試合は中止です! すぐにピットに戻ってきて下さい!!』

 

耳元に響く慌てた女性の声と、一夏の視線を辿り見つけた先にいたのは、明らかな異形の存在。

 

無骨なフルアーマーに、自身の胴体よりも巨大な両の腕。全身のいたる所に取り付けられた銃口は、その異形が兵器として運用されているものだということを理解させる。

 

そして、それが『IS』であるということも。

 

そして、唐突なことに。

 

「きひ」

 

一夏が嗤いだした。

 

「ぎひひひははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!! へゃひぎひゃははははははははははははははっははははははははははははははははははははは!! あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

『狂人』は喉を反らせて嗤う。

 

嬉しそうに、愉しそうに、イカれたように嗤う。

 

「―――よう、地獄が寂しくて迎えにきたのかよ、"兄弟"?」

 

◆ ◆ ◆

 

嗤う。

 

嗤う。

 

嗤う。

 

さぁ、嗤って、狂って、壊れた舞台の幕上げといこう。

 

嗤え。

 

嗤え。

 

嗤え。

 

役者は三人。吊るされた人形に、嗤う人形と、可哀想な女の子。

 

これより正道な展開なんて有り得ない、破綻した物語は『ご都合主義』を交えて回りだす。

 

さぁ、今宵の人形劇を始めましょうか。

 

◆ ◆ ◆




さてはて急展開。

加えて次の更新はいつになるのでしょうか。

なるべく早く出せるようにしたいです。

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