IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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ちゃくちゃくと原作の原型が消えていくイギリスさん。貴女はどこへ行く。

ということで、インタビュー回


第十九幕 自己理想

▼ ▼ ▼

 

放課後になって、専用機持ち同士でちょっとした模擬戦をやろうと切り出してみた。思いの外、セシリアは簡単に承諾してくれたけど、メインの一夏は気付けば行方不明。

 

男のIS乗りが、どんな風にやるのかを実際に見てみたかったんだけど、居ないならしょうがない。セシリアだけでもいっか、みたいな軽い気持ちだった。

 

でも正直、嘗めてた。

 

イギリスの代表候補なんて言っても、まだ一回しか動かしたことのないようなぺーぺーのド素人に負けたなんて聞いた時は、笑うこともできなかった。

 

だけど、あれが本当にその相手なの?

 

「どうしました鈴さん? 一旦、休憩にしますか?」

 

こうやって、相手を気遣うようなセリフ言っておきながら、あたしに向いてる五つの銃口が外れるようなことはない。

 

こちらが何をしようと、どんな策を巡らそうとも、それを始める前に蜂の巣にされてしまうかも。そんな、確信めいた危機感が、頭で赤いランプを鳴らして止まらない。

 

「ねぇ、セシリア。これって、ちょっとした練習試合みたいなのよ、ね?」

 

「えぇ、そのつもりですが」

 

「・・・・・・にしては、ガチすぎない?」

 

練習試合なんていっても、内容なんて単純なもので、セシリアが出力を最低にまで下げたレーザーライフルであたしを撃つ。対するあたしはそれを避けつつセシリアへ接近、攻撃という単調作業。適当にガールズトークに花咲かせながらやるもんだと思ってた。

 

でも、始まってみたらこれだ。

 

周りを飛び回る小さいのがあたしの進路を拒み、逃げ回るように旋回しながら意識の裏を舐めるように光が飛んでくる。

 

だけど、それ自体は問題ない。その程度なら避けきれる自信がある。

 

問題は本人が、あたしが"避けることを前提"に、狙撃してくるということ。

 

「よく言いますでしょう? 練習は本番であるように全力で、本番は練習のように落ち着いて殺れ、と」

 

「それが本当だったら、練習の時点でどんだけ犠牲者が出るのよ・・・・・・」

 

見た目から、プライドが高くて少し煽ればすぐに冷静さを無くすようなタイプだと思ってたけど、まるで真逆。

 

獲物を狙う鷹のように苛烈でありながら、その在り方は機械のように眈々と冷たいもの。

 

本当にあたしと同い年?

 

「ウサギを狩るのも獅子のごとし、って感じ?」

 

「あいにくと、わたくしは自分を獅子だなんて思い上がりはしていませんわ。ただ・・・・・・、まぁ、一昔前のわたくしはそうも思っていたかもしれません」

 

「今は違うの?」

 

ここに来て、ようやくセシリアがライフルを下げて、臨戦態勢を解き、ゆるゆるとあたしの方に近づいてくる。

 

「わたくしが素人に負けたのは聞き及んでいますね?」

 

「・・・・・・あぁ、分かった。つまり、ウサギに負けたから、どんな相手にも油断しないようにしてるわけだ?」

 

「ちょっと違いますわね」

 

あたしが自信満々に言ったことを、セシリアはあっさりと否定した。

 

さらに近づいてきて、一メートルもないような距離でセシリアは笑いながらにこう言ったの。

 

「ウサギだと思っていた相手が、単に化物だっただけですわ」

 

加えて、と静かに、不気味なほど静かにセシリアは続けてくる。そして、周りで駆動音が響いて、あたしが異常に気づいた時には全てが遅かった。

 

「いくら練習とはいえ、こんな距離まで相手の接近を許すなんて、危機管理が足りないのではないですか?」

 

あたしを取り囲むように並ぶセシリアのビットと、目の前の笑顔と一緒に向けられるライフルの銃口。

 

暑くもないのに汗が吹き出して、別に楽しくもないのに笑っちゃいそうになる。

 

この状況を簡単に言うとしたら、

 

「その"素人"さんとの出逢いで決めたことが有るんです。たとえ相手が生まれたての赤子であろうと、死にかけの老人であろうと、わたくしの敵として立つなら全霊を持って撃ち倒す。そこに例外はありません♪」

 

あー、これ詰んだわ。

 

◇ ◇ ◇

 

「へっくしょい!!」

 

IS学園の中、とある一年一組教室にて一夏と銀縁でアンダーリムの眼鏡に髪を左側で結んだ二年の女子、新聞部副部長の黛 薫子が一つの席を挟んで座っていた。

 

「風邪か?」

 

「きっと噂されてるんじゃない? 来週にはクラス対抗戦も始まるわけだし、日程表も出されて学園は大騒ぎよ! ということで、改めて取材に来たわけですよ~織斑君!」

 

そう言って薫子は、一夏の顔に押し付けるように紙を見せる。

 

表題には『クラス対抗戦日程表』とプリントされており、一回戦目には、

 

「一組対、二組か」

 

間違いようがなく、そう書かれていた。

 

「そう! 突如、世界の常識という名のガラスを突き破って現れた唯一の男性操縦者、織斑 一夏と前触れもなくお隣中国から遣わされた超新星、鳳 鈴音との決戦がまさかまさかの一回戦目から!! 少しは空気読んで、決勝でやって欲しいくらいのメインマッチなのよ!」

 

元よりテンションの高い彼女ではあるが、今回の一大イベントを前に様々な意味で学園を賑わす一夏に、独占インタビューをできるということで非常に喜んでいる。

 

仕事人というか、その類い稀なる好奇心からくる行動力は、文屋の鏡とも言えるだろう。

 

「ていうか、放課後の貴重な時間貰っちゃってゴメンね? 迷惑だったでしょ?」

 

「そんな、まさか。むしろ、俺としては都合がいいですし」

 

「ほう、何でかな?」

 

「黛先輩みたいな眼鏡美人と二人っきりなんて厚待遇は、願ったり叶ったりってことですよ」

 

「ぷっ、あっはははは! 残念でした、私の好みはクールなお兄さんであって、Sっ気な後輩は圏外なのよ?」

 

一夏の軽口に一瞬間が空いたが、そこは軽く流してみせる薫子に、ニヤニヤと笑いながらに一夏は肩を竦めた。

 

それから薫子は、自分の鞄中からボイスレコーダーにペンと手帳を取り出すと、席に座り直して一夏にを向き直る。

 

「それじゃあ、インタビュー始めてもいいかなーー!?」

 

「いいともーー!!」

 

「「year!!!」」

 

何やら二人の中で通じあうものがあったのか、笑顔でハイタッチしながら、薫子からの質問が始まった。

 

内容はいたって普通のものであり、世界初の男性IS操縦者になっての感想、これからの目標。少し変わって学園での日常に、昨今の世界情勢などなど、幅広く聞き出された。

 

「じゃあ、次は好みの女性について!」

 

「それって公開処刑じゃないすか」

 

「いいじゃんいいじゃん! 一度しかない学生生活、消えない傷の一つくらい残しとこーぜ!!」

 

ビシッ、と親指を立てて満面の笑顔を一夏に向ける。

 

そんな薫子に呆れ半分、愉快半分の笑みを溢しながら、一夏は答えた。

 

「気が強くって、自分を通そうとするタイプですかね」

 

「ほぉほぉ、それはまたなぜ? 苛めがいがあるとか?」

 

歯を見せながら、悪戯っぽく笑う薫子に対して一夏は笑わなかった。

 

「いや、そういうヤツが一番、人間らしい気がするんですよ」

 

どこか遠くを見つめるように、空虚で光のない眼が、薫子の一夏への印象を変える。

 

こんな顔もするんだ、と胸の内だけでそう呟いた。

 

「人間らしい、ってどういうこと?」

 

「・・・・・・自分らしく生きてるって言うんすかね。世界の常識を踏み倒して、自分の道理で突き進むような感じです。善人、悪人関係なく、俺はそういう人間が好きです」

 

「善悪関係なく?」

 

「はい。善か悪かなんて、結局は後のヤツが決めることですし、そんなことで折れるような半端な人間は逆に嫌いですね」

 

薫子は目の前の一夏を見定めるように、目を細めた。

 

彼の言うことは理解できる。だが、善悪関係なしというなには少なからず引っ掛かりを覚えるものがある。

 

人間というのは理性の生き物だ。もちろん、そこには善悪の概念が存在している。善となる行いは社会というコミュニティで生きる人間には必須となるものだ。

 

ならば、わざわざ逆の反社会的な悪行を進んで行う者はなんというのか。

 

『狂人』

 

そういった類いの人間は、ことごとくがそう呼ばれ、社会から抹消されていく。

 

「織斑君も、そういう人が目標?」

 

「まぁ、そんなところです」

 

「犯罪であっても?」

 

「古臭いモラル気にして自分を曲げるのは嫌ですからね。そもそも自分のやることを善だ悪だとか言うのって、かなり痛いじゃないっすか」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ただ半端な生き方はしたくないってだけです。中二拗らせた男子の戯言ってことで聞き流してください。思春期になると王道の英雄より、ダークヒーローに憧れるもんなんですよ」

 

「・・・ふーん」

 

メモも取らず、レコーダーの電源までも切り、薫子は一夏の話を神妙な面持ちで聞いていた。

 

端から聞けば彼の言うとおり、ただの妄想話かもしれない。だが、彼女の目に映るのは疲れきった笑顔と、何も無い真っ暗な瞳だった。

 

「他には?」

 

「じゃあ、もう一つだけいい?」

 

「もう最後ですか。なんか寂しいっすね」

 

感慨深げに頷き、一夏は薫子の言葉を待つ。

 

そして、薫子が口を開くより先に、教室に誰かが文字通り飛び込んできた。

 

「おりむーみっけー!」

 

「おう!? のほほんさん!?」

 

椅子の上では受け止められないと判断した一夏は、反射的に立ち上がり小柄な本音の体を抱き止める。

 

唐突な登場に二人が目を丸くしている中、本音だけが通常運転だった。

 

「あっ、まゆしぃ先輩だ!」

 

「のほほんさん、流石にそのアダ名は危ない。えーと、最後の質問ってなんすか?」

 

「えっ、あー・・・・・・、いいや。いい話が聞けたし。それよりも、アナタたち二人をモチーフにした四コマを、私たちの新聞に載っけたいんだけど、いいかな?」

 

「えっ!? マジっすか!!」

 

「おぉ、ついに私たちも漫画デビューだー!」

 

薫子の話に、一夏が本音を抱き上げながら、嬉しそうで楽しげに笑いあっている。

 

そんな二人を置いて、薫子は教室を後にしていく。

 

「結局、"たっちゃん"のことは聞けなかったな。色々聞けたからいいけど。とりあえず、百舌鳥に四コマのことを話通しておかなきゃ」

 

そんな一人言を言って、彼女は歩き出した。

 

◇ ◇ ◇

 

薫子が廊下を歩き出した頃。

 

「ねぇねぇ、おりむー。一つ訊いていいー?」

 

本音を背中に背負いながら寮への道を歩いていた一夏に、背中の本音が話しかけた。

 

「なんだよ改まって、一つと言わず幾らでも聞いてくれよ」

 

「さすがおりむー、太っ腹ー! でも、一つでいいかな?」

 

「オッケー。それじゃあ、なにが聞きたい?」

 

一夏は本音を背中から降ろし、視線が合うように自分も姿勢を低くする。

 

そんな面と向かった状態で、ニコニコと笑いながら本音の言葉を待つ一夏だったが、彼女の一言に入学してから一番の驚愕を覚えることになる。

 

「私に隠してること、ない?」

 

「――――――えっ」

 

普段から眠そうに伏せられた瞼は完全に開き、彼女のブラウンの瞳が一夏を捕らえる。そして、いつもの間延びしたような声でなく、何処までも透き通るような氷の刃のような響きに、一夏の全身から冷や汗が吹き出した。

 

―――あれ、誰だっけこの娘?

 

「えっと」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「特に、思い付かないんです、が・・・・・・」

 

「そっか、隠してるつもりはなかったんだね」

 

「えっ、どういう―――」

 

「あと、少しの間だけ、しののんが私の部屋に泊まるから。先生は了承済みだよ」

 

「いや、だから―――」

 

「じゃあ、また明日ねー!」

 

パタパタと走っていく本音の背中を見ながら、何とも形容しがたい顔で固まる一夏がそこにいた。

 

「やっべ。これ死ぬかもしんねぇ・・・・・・」

 

近い内に、自分の一番の友人により何かされることを確信した、一夏であった。




意識してはいないのですが、ちゃくちゃくと雪車町に近づくサマー。ていうか、言ってることまんまアイツ。

そして、覚醒しつつある本音様。誰だっけこの娘。

あと、名前だけ番外のあの方登場。出番はあるのか。

次あたりは中国戦かな?

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