IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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何でこうなった

本来ならリンリンをイジリ倒す予定だったのに

そんなわけで、のほほん無双回


第十七幕 友情愛情

人は善くも悪くも、変わりながらな生きる生物だ。

 

変わるというのは身体的な発育のことを差すわけではない。その内、人格、精神、思考といった内面のことだ。

 

これを物に例えるならば、生まれたての子供を何も書かれていない白い画用紙、生きていく時間の中で得られる経験、出逢い、苦難、成功、失敗などを絵具としよう。

 

赤ん坊は白い画用紙に向かい、座らせられるように生まれてくる。最初はそれが何なのか検討もつかないだろう。

 

そして、手元に転がり出てくる絵具たち。

 

それを赤ん坊は紙に向けてぶちまける。もしくは手に着けてベタベタと跡をつけるだろうか。どちらにせよ、それを絵と称するにはあまりに稚拙なものだ。

 

時が流れ赤ん坊はいつしか筆を使い、自身の絵を書き始める。自分の理想を描こうとする。だが、それは困難を極めることだろう。どれだけ絵具を上塗りしようと、本当の理想像を書き上げることは不可能に近い。

 

だからこそ、人は変わり続ける。

 

かつて、真っ白だった赤ん坊はいつしか世界を救う英雄となるかもしれない。

 

逆に英雄を目指す者が、いつの間にか世界を滅ぼす壊人と成り果てるかもしれない。

 

ただ一つ、変わらないことが在るとするならば、色とりどりな絵が描かれているその画用紙は、間違いなくその元赤ん坊本人であるということだ。

 

「・・・・・・・・・・・・一夏」

 

そして少女、篠ノ之 箒は考えていた。

 

ベッドに転がり、枕をその豊満な胸に押し付けるように強く抱きながら、自身の思い人であり変わってしまった少年、織斑 一夏のことを。

 

付き合いは言うほど長くはなかった。それでも、彼の正義を志す信念に憧れた。自分が振る刃の目指すべき到達点だと思っていた。

 

―――でも、再会した一夏は変わってしまっていた

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

裏切られた気がした。箒は静かに、それでいて焼けつくほどの深い哀しみを覚えた。自分が心の柱にしてきた少年が、もう居ないとのだと思うと急速に心が渇いていく。

 

「それでも・・・・・・」

 

そう、それでも彼は"織斑 一夏"だ。

 

どれだけ変わろうと、それが変わることはない。

 

そして箒が昔の一夏を思い、今の一夏から逃げるように目を背けるのは、今の彼を否定することに繋がるのではないだろうか?

 

なんて、傲慢なのだろうか。

 

箒自身、そんなことにはとうに気づいている。だからと言って、そう簡単に切り替えが効くわけでもない。

 

だが、そんな同室の人間に気を使い帰りを遅くしている者に、一方的に拒否している人間に誠意を持って接する相手にはあまりにも失礼がすぎる。

 

「帰ってきたら、もう一度話してみよう・・・・・・」

 

それが今の箒の精一杯であり、大きな一歩でもあった。

 

未だに本心は納得できないでいる。なら、納得できるように話し合えばいい。

 

そう考えれば、少しは前向きになれる気がした。

 

「・・・・・・一夏か?」

 

不意に、扉を叩く音がした。

 

時間を見れば、いつもの時間よりかなり早い。だが、それも好都合だと思い扉に向かうが、指がドアノブに触れるより早く、ある臭いが鼻についた。

 

「血の臭い?」

 

部屋にある木刀へと手が伸びる。

 

相手が誰か判らない以上、用心に越したことはない。

 

そして、扉をゆっくり開けていくと・・・・・・。

 

「よっす」

 

腫れ上がり顔面判別不可で血塗れなナニカが立っていた。

 

「いやぁー、そこの階段で後方爆転三回転半捻りダイナミック土下座の練習してたらこんな―――」

 

「キャーーーーーーー!!?」

 

「あべし!?」

 

乙女な悲鳴と共に木刀が脳天にめり込んだ。

 

「来るな化物っ!! わ、私なんかを襲ったって何の得も、とく、も?」

 

「・・・・・・こんなの、人の死に方じゃ、ありません、よ」

 

「い、一夏? 一夏なのか!?」

 

顔は見るも痛々しいものだが、その声、髪型は紛れもなく一夏その人であった。

 

服も血みどろであるが、それを気にする余裕もなく、箒は一夏を抱き起こす。

 

「すまない! てっきり、化物が出たのかと思って、つい・・・・・・」

 

「箒、教えてけれ・・・・・・」

 

「な、何だ一夏!? 何でも聞いてくれ!!」

 

「俺は後何回、あの子とあの仔犬を殺せばいいんでがす・・・か ガク」

 

「一夏!? 一夏ーーーー!!!」

 

余談だが、それから騒ぎを聞きつけた他の女子が一夏の姿に悲鳴を上げ、それを聞いた他の女子、そしてまた女子と、負の連鎖が完成したとかなんとか。

 

◇ ◇ ◇

 

翌日、昼休み。

 

普段なら食堂にいる時間、一夏たちは屋上にいた。

 

今の一夏の姿は散々なものであり、顔のいたるところにガーゼが張られていたり、右目は腫れた瞼で塞がっている。

 

見るからに痛々しいそれを心配してくれる者は多くいたが、少なからず逆もいる。

 

「なぁ、せっしー」

 

「な、なんですの」

 

「そんなに俺の顔は面白いか?」

 

実に白けた目で一夏が尋ねると、露骨に顔を背けるセシリアだが、肩が小刻みに震えてるのがよくわかる。

 

「ねぇねぇ、おりむー保健室に行かなくていいのー?」

 

「一回は行ってきたから大丈夫だろ。強いて言うなら、まだ脳天の腫れが引かなくて痛い」

 

「・・・・・・それは、本当にすまなかった」

 

一夏の頬のガーゼを小さな手のひらで撫でる本音の表情は、普段の彼女しか見たことのない人間であるならば意外に思うほど慈愛に満ちている。元来、どこか抜けたような雰囲気がある彼女だが、その実は誰よりも母性溢れる性格をしている。

 

対して、申し訳なさそうに頭を下げた箒は昨日のことを深く後悔しているようだ。確かに、話し合おうとしていた相手の頭を、木刀で出会い頭にスイカ割りしたのだから気も引けるだろう。

 

「あぁ、いや、別にそう意味で言ったんじゃねぇよ。昨日のことは気にしてないし、そうペコペコ頭下げられたら俺まで申し訳なくなっちまうよ」

 

「だが・・・・・・」

 

「いいっていいっって、っんなことより人の面見て笑い堪えてる方が万倍ひでぇし。ていうか、あそこの腐れ金髪みたいに人の不幸見て笑うとか最低だぜ」

 

「そ、そうだな・・・」

 

お前が言うか、と反射的に言ってしまいそうになったが、寸での所で口を閉じる。

 

それからセシリアに向けて飛びかかっていく一夏を眺めながら、一人小さく溜め息を吐いた。

 

「しーののーん!」

 

「うぉっ、の、布仏か?」

 

そんな彼女の背中にぶつかるような重さが掛かる。

 

後ろから響く声にはよく知っている者のであり、振り向いてみれば本音がしがみついていた。

 

「うふふ~、良かったねしののん?」

 

「なにがだ?」

 

「仲直りできたんでしょー?」

 

「・・・・・・まだ、かな。そもそも、これは喧嘩ですらないんだ。私が、意地になっていただけなんだよ」

 

箒は首に回された本音の手を触れるように握る。

 

「単に、私が子供だっただけに話が拗れたんだ。私は・・・・・・」

 

「子供でいいと思うよ?」

 

えっ、と予想外な返答と共に背中の重りが消える。

 

慌てて後ろに体を向けると、優しい微笑みを浮かべる本音が自身を抱き締める瞬間だった。

 

「"箒ちゃん"は、もっと自分にワガママになった方がいいよ」

 

「ワガママ、に? だが、それは・・・・・・」

 

「ワガママって言葉が嫌なら、自分に正直に。あなたがそうやって悩む理由はよく解るよ。だけど、そればっかりになっちゃったら、いつか壊れちゃう」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「だから、ちゃんと言葉にして伝えてあげないと、ね?」

 

腕の力がより一層強く箒を抱き締める。

 

優しく、包み込んでいくように。

 

その感覚は箒にとって久しく感じていなかった、人の暖かさと、古い記憶を思い出させていた。

 

物心がつくような小さい頃、家に帰ればこうやって迎えてくれていた大切な家族のこと。

 

「・・・・・・姉さん」

 

無意識に呟いた言葉は、消え入りそうなほどにか細い。

 

箒の姉、現在行方不明の篠ノ之 束はISを開発したということで、世界的に最も名を知られた女性である。

 

それと同時に、箒の今までの半生を狂わせた張本人と言ってもいい。

 

性格は自由奔放かつ唯我独尊。天は自分の上に人を作らずを地で行く人間だった。数少ない、箒と織斑兄弟以外は人として認識しないという徹底ぶり。

 

そんな姉でも、自分たち家族をメチャクチャにした人間だと判っていても、箒は束への家族の情を捨てきれないでいる。

 

「うぅ・・・・・っぐ」

 

箒は必死に耐えていた。

 

泣くまいと、他人に弱さを見せまいと。今までのように、強く在るために必死に涙を堪える。

 

だが、

 

「大丈夫だよ。私以外は見てないから」

 

何も言わずにそんな二人を見ていたセシリアと一夏、そしていつの間にか増えていた鈴音に本音がアイコンタクトを送ると、状況が読みきれていない鈴音を引き連れて屋上を後にする。

 

それを見送ってから、本音は優しく箒の頭を撫でる。

 

箒は背中に腕を回して、しがみつくように力を入れる。彼女なりの抵抗だったのかもしれない。誰にも聞こえないようにと、本音の胸に顔を埋めながらに泣きじゃくる。

 

「大丈夫。ずっと友達だよ、しののん」

 

それから、昼休み一杯になるまで、箒の涙が止まることはなかった。

 

今までの分を、全て吐き出すように泣き続けたのだった。




日常が書けない。非常に深刻なほどにシリアスしか書けない。

そして原作の面影が消滅し、もはやオリキャラの位置にいるのほほん様。誰だよこれ。

のほほん様の所為で、他のキャラが霞む霞む。もうこの子が主人公じゃね?

感想おなしゃす。

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