IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

19 / 49
閲覧注意
過去最長の文字数に、女性に対して非常に暴力的な描写があります。
楯無ファンの皆様は特にご注意ください。
会長敵エンカウント回


第十六幕 狂痛裁判

一夏は虚に連れられて歩いていた。

 

これから会う人間、更識 楯無はIS学園で生徒会長だ。それだけのことに思うだろうが、生徒会長という肩書きは『IS学園最強』を意味する。さらに彼女自身、国籍は日本でなくロシア。そしてロシアの"国家代表操縦者"でもある。

 

あくまでも外聞にして聞いたものだが、実力、人の上に立ち人を率いる才能とカリスマ性。どこを取ろうと非の打ち所がない、学生にしてすでに肩には国一つの責任を担ぐ人間、それが更識 楯無である。

 

そんな相手が何故一夏を呼び出すのか。世界初の男性IS操縦者だからか、『白式』のことでか、思い当たることは幾つか有るが、どれもいい内容ではない。ただでさえ学園内で特異な位置にいる一夏が、この呼び出しを警戒するなと言う方に無理がある。

 

「生徒会室はこの階段を登ってすぐです。会長がそこで待っています」

 

「一緒に来てくれないんですか?」

 

「私は別件での用事がありますので」

 

「・・・・・・そうですか」

 

そのまま真っ直ぐに廊下を歩いていく虚の背中をしばらく眺めながら、一夏はこれから起きうることを思う。小さく息を吐いて階段の一段に足をかけ上を目指していく。

 

そして、辿り着いた。

 

扉こそよく見るものだが、その先に彼女がいるだけで古城の正門のような物々しさを感じさせる。

 

「行くしかねぇか」

 

そんな諦めにも似た覚悟で一夏は扉を横に滑らせる。

 

そこには、

 

「いらっしゃい! 待っていたわよ、い・ち・か・くん?」

 

まず一夏の目に入ったのは外に向かって跳ねる青い髪と、ワインレッドの瞳に妖艶な笑み。

 

視線を下にずらしていけば、綺麗な首筋に鎖骨が見え、肝心の胸部は白地で周りをレースであしらった巨大なハートによって隠されていたが、それでも溢れんばかりの胸は下方部分がよく見えた。

 

さらに下にいけば、形のいいヘソとキュッと絞まったくびれ。腰にいたってはただ布を巻いただけのようなデザインで、しかも分け目が正面に来るようになっており、長さが足りないのか艶かしい太ももの内股がさり気無く自己主張している。

 

それをざっと見てから、再び顔を上げればさっきと同じ笑みが出迎えてくれた。

 

そんな笑顔に一夏は、反射的に感嘆の言葉が出てしまう。

 

「ひっでぇ・・・」

 

その一言を言い切ると同時に、目の前の彼女が床に崩れ落ちた。

 

◇ ◇ ◇

 

時間は少し進み、二人の男女が夕闇の明かりの中を歩いていた。

 

「つまり、俺の専用機を渡すために呼び出したんですか?」

 

「そうそう。引き渡す上で生徒会の承認と確認が必要なの」

 

「成る程、そういうことですか」

 

「・・・・・・ねぇ」

 

「何でしょう」

 

「何でそんなに離れてるの?」

 

現在、一夏と生徒会室で待ち構えていた女性、更識 楯無は修理された『白式』が格納されている場所へ向かっていた。

 

すでに楯無は先程の格好から着替え制服姿である。

 

「ねぇ」

 

「寄らないでください、露出が感染(うつ)ります」

 

「露出が感染るってなに!? 私が露出狂みたいに言わないでよ!」

 

「変態って深刻なほど自覚が薄いもんですよね」

 

「そんな達観した目で見ないで!?」

 

「それで痴じ、更識先輩、場所はここでいいんですか?」

 

「今痴女って言いかけたよね。おねーさん怒らないから正直に言ってみようよ、ね?」

 

「失礼しま~す」

 

「話を聞きなさい!!」

 

更識 楯無という人間性を理解したのか最初の調子は何処へやら、いつもの感じに戻ってしまった一夏は、騒いでいる楯無を放置し扉をくぐる。

 

入った先には地下駐車場のような、薄暗い空間が広がっていた。

 

壁に沿うように金網で仕切られた区画があり、そこには巨大なアームがぶら下がっている。その中で唯一明かりがある場所には、見覚えのある白があった。

 

「随分綺麗になったこと」

 

数週間前に乗り、見るも無残に破壊された一夏の専用機が新品同様な状態でそこにはあった。

 

「へぇ、これが一夏くんのISか」

 

見上げるように見ていた一夏の斜め後ろに、楯無が静かに現れる。

 

「とりあえず待機形態にしてみてくれる?」

 

「どうやるんで?」

 

「ISが小さくなるのをイメージして」

 

そんな簡単な説明だったが、一夏は白式に右手で触れるとそこから淡く光だし、光は白式を全て飲み込むと一夏の腕に纏わりつくように動き出す。

 

そして、鈍色の白が表れた。

 

「・・・ガチの手甲だなこりゃ」

 

光が落ち着き、形作られたのは指貫グローブのような、装飾の類いの一切ないガントレット。袖を捲れば肘の辺りまであることが確認できる。

 

手を開いて閉じ、手首を回してみるが特に私生活を送るに問題なさそうだ。

 

それを間近で見ていた楯無の静かな言葉が、伽藍堂の空間に木霊する。

 

「一夏くん。質問していい?」

 

「・・・・・・構いませんが」

 

楯無に向かい合うように一夏が振り向く先には、さっきまでのような和気あいあいとした空気は一切なかった。

 

ただ正面にいるだけなのに、鋭い刃を首に突きつけられているような圧迫感。

 

これが更識 楯無なのだろう。

 

ロシア代表操縦者にして、学園最強がそこにはいた。

 

「あなたの試合を見てたけど、ハッキリ言ってゾッとした」

 

「そうっすか・・・・・・」

 

「加えて、あなたの白式の損傷。資料で見たけど、あそこまで一試合で壊されたのは初めて見た」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「逆に言えば、あんな状態でどうして試合が続けられたの?」

 

言葉がまるでナイフだ。

 

一言紡がれる度に、徐々に身の内に刺し込まれていく様さえ幻視してしまう。

 

「まぁ、あれっすよ。火事場の馬鹿力ですよ。内心じゃ、戦々恐々で下半身が決壊寸前でしたし」

 

「嘘ね。そんな人間があんな嗤い方はしないわ」

 

「・・・・・・よく見ていらっしゃるようで。もしかして、俺のこと好きだったりします?」

 

「すぐに話を逸らそうとするようなひねくれ者は嫌いかな?」

 

楯無は笑わず、一夏は嗤う。

 

その表情は相反するものだが、互いに突きつけているものは同種のもの。

 

言葉の端々に見える敵意が、擦れあい火花を散らす。

 

「正直、ISなんて壊れようがパッと直せるもんなんですから、別にいいじゃないすか」

 

「・・・・・・代表候補生になるために、専用機を手に入れるために努力をしている人たちもいるのよ?」

 

「だから喜べと? っんな恩着せがましい好意なんざ願い下げです。てか、やっぱり、"そうなんですね"」

 

一夏の頬がさらにつり上がる。

 

ゲラゲラとニヤニヤと、陰湿で嫌味な人でなしの笑みが、楯無へと向けられる。

 

「・・・・・・何が?」

 

「いや、呼び出されような理由は幾つかあったんですが、そんな中で一番に予想していたヤツが当たっていたみたいで、ちょっと嬉しくて」

 

そう言って、一夏は楯無に一歩近づき、前屈みになるようにして顔を至近距離にまで行き、囁くように言った。

 

「アンタ、妹のことで俺に因縁つけにきたんだろ?」

 

一瞬だが、楯無の表情が強張る。

 

それを見て、顔を離しながらに一夏は嗤う。

 

「ハッキリ言って迷惑ですよ。彼女は運が悪かっただけで、俺は悪くない。姉妹揃って傍迷惑なんだよ。たかだか、専用機の開発ポイされただけでギャーギャー泣いてんじゃ―――」

 

「黙れ」

 

一夏の右頬に衝撃が走る。

 

あの時と同じ感覚、ただ威力は比じゃない。殴られた痛みと共に、背中からコンクリートの床に叩きつけられる。

 

「あなたには心が無いの? 人の痛みが解らないの? あの子の涙を見て思ったことはそんなこと!?」

 

楯無の怒号が一夏に飛ぶ。

 

生徒会長としてではなく、ましてやロシア代表としてでもない、一人の妹を思う剥き出しの彼女がそこにいた。

 

「けひ、きひひひひひ・・・・・・。思うこと? あるわけねぇだろ、馬鹿馬鹿しい」

 

対して一夏は嗤いながら立ち上がる。

 

彼は嗤う、それがどうした、だからなんだ、俺には関係ない。俺は悪くない。

 

「まさかとは思うけどよぉ、他人の痛みなんて、本気で理解できると思ってんの? かははははははは! 傑作だ! ロシアの代表様は実力だけじゃなく、頭の方もよく出来上がっていらっしゃるようだ!」

 

「えぇ、だからあなたにも教えてあげるわよ!!」

 

楯無は身を屈め走りだし、自身を守る様子もない立っているだけの一夏の鳩尾に肘鉄を叩き込み、流れるままに右の掌底が顎をかちあげる。そして、数瞬の間に両腕を引き、ガラ空きの腹に双掌を叩き込んだ。

 

この光景を見れば、誰もが自分の目を疑う。大の男が、自分より背の低い女に殴り飛ばされているのだから。

 

事実、一夏は床に転がり、それを見るは楯無だ。

 

「ふふっ、しぃいひひひひひ、げほっ、がほっ」

 

だとしても、今まさに地べたに這いずり、それでも嗤い続けている人間が、果たして敗者と言えるだろうか。

 

「何を笑っているの? まさか、美人に殴られて感じちゃうような人なの?」

 

気色が悪かった。潰れた虫が蠢くような醜悪さ。

 

何より、加減はしているが予定よりやり過ぎている現状で、なぜ"意識があって動いている"のか。

 

「だってよぉ、妹が泣いてた理由、何でか知ってる?」

 

「そんなの、倉持の連中が―――!?」

 

彼女が言うより早く、うつ伏せの姿勢から一夏が走り出す。不意を突かれた楯無は考えるよりも体が動いた。

 

加減なしの膝が一夏の顔面に突き刺さった。

 

「!!」

 

肉の潰れる感触、奥の骨が軋みをあげる耳障りな音と血に濡れていく感覚に寒気が走る。

 

そして、楯無は初めて焦りを見せた。血を撒き散らしながら転がる一夏に、やり過ぎていることを自覚する。

 

楯無は万が一のことに駆け出す、が、

 

「ひっ、ぎひゅくフフフフはははは・・・・!」

 

踏み出された足が下がる。

 

動いている。

 

嗤っている。

 

白い制服を朱に染めながら、立ち上がる様は、B級ホラーの動く屍のよう。

 

周りの闇さえ吸い込むほどの黒々しい黒い眼が、楯無の赤い瞳を捉えていた。

 

「なぁ、先輩」

 

血で掠れた声。

 

それだけに、楯無の体が跳ねる。呼吸が乱れ、心臓は早鐘のように動きを速くする。

 

「ざっきの質問だけどよ、"動ぐから動ぐ"んだよ。今の、俺みだいに。動がないなら、動かせばいいだけ」

 

ぬちゃりと、血を踏みつける不快な音が鳴るたび、二人の距離が狭まる。

 

「先輩。どうして、泣いてる家族を、助けない?」

 

ぬちゃり。

 

一歩。

 

「それは、あの子が一人で、やるっていうから・・・・・・」

 

「それは、言い訳、だ」

 

ぬちゃり。

 

また一歩。

 

「アンタは怖いだけだ。嫌われるのが、避けられるのが」

 

ぬちゃり。

 

さらに一歩。

 

「大切なら、自分のことなんか、考えねぇよ。本当に大切なら、な」

 

ぬちゃり。

 

あと一歩。

 

「先輩」

 

ぬぢゃり。

 

「本当は、妹のことなんか、どうでもいいんだろ?」

 

「っ!!!」

 

ナニかが切れた。

 

相手が半死人だろうと関係ない、正真正銘の全力の拳が、一夏に向けて振るわれる。

 

「アンタも更識なら、ヤられる覚悟くらいはあるよな?」

 

だが、それは一夏の左手によって捕まえられる。

 

そして、右手の『白』が前に出る。鋼で纏われた、右拳が。

 

「お返しだよ」

 

一夏は楯無の腹を、何の躊躇も手加減もなくぶち抜いた。

 

「ーーーーーッ!!?」

 

声にならない悲鳴があがる。

 

男にとって股間が急所であるように、女にとって腹部の衝撃は致命的と言える。

 

「もう一発」

 

今度こそ耐えられない苦痛が突き刺さり、あまりの痛みに楯無の目から涙が零れだす。

 

「あっ、がああぁ!!?」

 

一夏が立ち、楯無が倒れる。

 

さっきとは、真逆の光景だった。

 

「・・・人にとって一番ツライことって分かりますか?」

 

胎児のように身を丸め、痛みに耐える楯無に静かに問い掛けた。

 

「一番苦しいときに、一番助けて欲しいときに、一番傍にいて欲しい人が、一番に自分の所に来てくれないことなんですよ」

 

一夏は楯無を置いて入ってきた扉へと歩いていく。

 

 

「アンタがそんなんだから、俺が殴られた。意味は、解りますよね?」

 

意識が遠のく中、その言葉だけが楯無の内に響いた。

 




はい、楯無ファンの皆様、申し訳ありませんでした。
唐突で急展開な内容でしたが、簪さんとのあれこれがありましたので、実は前々からこういう展開は考えていました。
ここで一応書きますが、こういう描写はもう一回あります。重ね重ね申し訳ありませんでした。
白式の待機形態ですが、この一夏にはガチの武器の方が合う気がしてこうしました。デザインは村正の一条が装甲する「山の守り石」をスマートにした感じです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。